薄墨の月

作者:五月町

●霧中の惨劇
 それは、仕事を終えた人々が舞い戻るベッドタウンで起こった。電車が到着してほどなく、駅からは多くの人が吐き出されてくる。郊外とはいえ、朝晩の人の動きは大きい。この駅前もいつもなら、それなりに明るく彩られた場所だった。
 しかしその夜、辺りの光は深い深い霧にのまれていた。危うい視界にある人は驚き、ある人はその非日常を面白がり、ある人は不安げに、またある人はげんなりと。様々な反応が靄の中に消えていく。
 数メートル先すら見通せないのだから、不意に響き渡った轟音の正体など知れる筈もない。
 路上に突き立った巨大な牙が、忽ちのうちに生ける骸骨に変わる。虚ろな姿に鎧を纏い、三体の竜牙兵はけたたましく嗤った。
「オマエたちの、グラビティ・チェインをヨコセ」
「ワレらへのゾウオとキョゼツは、ドラゴンサマのカテとナル……!」
 敵の姿も事態も知れず逃げ惑う人々を、竜牙兵たちは正確無比に貫いていく。
 誰にも仰がれることのない、墨絵のような朧な月が、その惨状を密やかに見下ろしていた。
●白闇の攻防
「あんた方なら、霧の中でも影響を受けずに動ける筈だ。奴さんらも同じじゃあるが」
 予知に見得た顛末を語り、グアン・エケベリア(霜鱗のヘリオライダー・en0181)はケルベロスたちを見渡した。
 彼らにとっては耳新しくもない、竜牙兵による蹂躙だ。しかしその脅威は絶えることなく続いている。より多くの人の憎悪と拒絶、そしてグラビティ・チェインを得るために。
 避難勧告の暇はない。へリオンの到着と襲撃はほぼ同刻と言っていいだろう。もっともそれができたところで、竜牙兵は予知とは異なる場所を選び襲撃を行うだけ。ケルベロスが向かえない分、被害は拡大することとなる。
「つまり、奴さんらが刃を剥く前に掃討するのが最良だ。行ってくれるかい」
 竜牙兵たちの注意を戦意も顕わに惹きつける。そうすれば、その隙に駅前交番の警察官らが、霧中を右往左往する人々を上手く誘導してくれる筈だ。ケルベロスが戦いに注力することが、被害を最小のものにする。
「奴さんらの戦力だが、全部で4体。得物は簒奪者の鎌とゾディアックソードが半々。それぞれに1体ずつ、霧に溶けるオーラのようなもんを帯びている奴がいる。おそらくバトルオーラに近いもんだろう」
 連携は薄く、互いの為に行動するような気配は目立たない。しかし、個々では心ない凶賊の戦いぶりを見せ、ケルベロスを前に退くことはないだろう。より深い憎悪を引き出して殺すことこそが、彼らの目的の一つであり、全てなのだから。
「奴さんらも容易く折られはしないだろう。だが、あんた方の信念にはそれに勝る強度がある筈だ。あの霧じゃあ、あんた方の活躍は人の目には留まらんだろうが……なぁに、お月さんは霧の先から見てなさるさ」
 小さな瞳を小さな笑みに歪ませて、グアンは同志たちをヘリオンへと促した。


参加者
メイア・ヤレアッハ(空色・e00218)
吉柳・泰明(青嵐・e01433)
空波羅・満願(墨月龍・e01769)
フィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)
シド・ノート(墓掘・e11166)
アラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
比良坂・冥(カタリ匣・e27529)

■リプレイ


「おい、そこの竜牙兵たち!」
 高笑いが止んだ。
 多くの足が轟音に止まる中、何の恐れも惑いもなく突き進んでくる戦意、霧を貫く声。
「お前達の相手は、アラタ達ケルベロスだぞ!」
「もう大丈夫、こわがらないで。みんな、落ち着いて避難を」
 あやふやな視界の中、アラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)とメイア・ヤレアッハ(空色・e00218)の輪郭の確かな声が人々の背を押す。動揺の気配が過れば、はぁいと注意を惹く明るい声。
「こっちにもケルベロス参上だよ! 僕らがいる限り大丈夫。落ち着いて警官さんに従ってね!」
「はいはい、市民の皆さんは戦闘音がする方向へは近づかないようにしてくださいねー。それからはいそちらのポリスメンたち、お仕事お仕事!」
 朗らかなフィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)に呑気なシド・ノート(墓掘・e11166)。事態の重みを知ればこそ、明るい声音が人々のもつれる思考を引き戻す。
「此処は我ら番犬が預かる。焦らず退避を――我らが必ずや」
 街も命も、人々の日常も護り通す。擦れ違い遠退く人々の気配を背に庇い、吉柳・泰明(青嵐・e01433)は抜き放つ二刀で敵を誘い、離れながらに斬り裂いた。
 第一目標である剣と気の使い手。朧な世界に姿は映らずとも、
「ノイズを感知。その歪な刃の音までハ殺せないようダ」
 身を巡る回路が、耳へ飛び込む刺激に敏く反応する。誤差を許さぬ竜の鎚の砲撃で、アスファルトごと敵を撃ち砕く君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)の五感には、敵の一挙一動が視得ていた。
 そして、友の砕いた礫を雨霰と躍らせるキリノも、共にこの地へ降りた仲間も同じこと。
「霧の夜だってすてきなの。みんなのこれからを奪う、かなしい夜にはさせないのよ。ね、コハブ」
 鋭いひと声で霧中に消える小さな弟分。突撃が阻まれることなく第二の目標、剣の竜牙兵を捉えた気配に、メイアは淡く微笑んだ。
 空色の装いの上を、命ある鋼の彩が滑る。奔る光が共に並び立つ仲間の狙いを清ませれば、馴染みの声がさすがだなと讃えた。
「うん、アラタも負けないぞ!」
 美味しく幸せなものを手掛ける指先が、今はバールに心を注ぐ。少女の手には余る重みは魔法のように霧を貫き、竜牙兵に突き刺さった。背面を駆け抜ける先生の癒しの風が拍手みたいだと一瞬、笑う。
「ふふ、オオカミみたいな大きな口。でもね、誰ひとり食べさせてあげない」
 見通せない狭霧を照らす、とびきりのメルヘンを。躍る赤ずきんの裾から零れ落ちる幻想は、愛くるしい動物たちの楽隊だ。音の輪の中、物語の主役はいつも幸せに辿り着く。だからきっと、
「想い描く結末は――もうその掌の中に!」
 フィーの指揮をなぞって跳ねる音の色は、陰鬱の気配を未来まで塗り替える。
 異常への抵抗を得た後衛を、剣持ちの放つ暗く冷たい星座のオーラが試しにかかる。すかさず庇う護り手たちににたりと歯を見せ、剣に邪気宿す一体が練った気を放った。
「空波羅――」
「ああ、この程度痒くもねぇ。……ち、天辺にゃ朧月が綺麗だってのに風情のねぇ真似しやがって」
 連撃の重みに傾いだ空波羅・満願(墨月龍・e01769)の身体が霧に消えた、と見えたのは一瞬。傷も不快も漆黒の義骸の内へ押し遣り、
「骨どころか、塵一つ残らねぇように火葬してやる!」
 業火の蜷局に、吼える満願を取り巻く霧が蒸散した。鎌持つ第四の目標は、自分が最後まで抑え込む。焔は熱孕む意気を映し、骨の向こうの空虚まで焼き焦がそうと絡みつく。
「冥さんも平気?」
「はぁい、お陰様で楽しんでますよー」
 ゆるり笑う声に反し、比良坂・冥(カタリ匣・e27529)の眼は暗く鮮やかに燃えている。対するは第三目標、邪悪な気と鎌の担い手。回復手へ飛ぶ一閃を身と血を贄に阻む。
「いーい一撃。だけど、ねぇ……どこ見てんのかなぁ?」
 守りを容易く喰い破る感覚に、敵が巧みな妨害者と知るや、冥は至近へ飛び込んだ。眼窩の底を覗き込み、虚ろな闇に冥府の淵を見てひとり満ち足りる。
「オジサンさーあ、殺し合いしてくれんのとっても嬉しいんだけどなぁ――」
 甘い囁きを裏切る痛烈な刀の一撃は、抜かずのまま。ありもしない臓腑を抉り、背骨に衝撃を届ける連打で『遊ぶ』同年代の男に口笛一つ送って、シドはやんちゃだねぇと笑う。
「お医者さんとしてはほどほどにーなんて叱るとこだろうけど、この襲撃にはちょっと俺もおこだよね。もうね、みんなお勤め帰りで疲れてるってのに」
 溜め息を被った指に光が灯った。緩くなぞった『だいじょーぶ』の文字がきらきら霧に馴染んで溶ける。まるで何もしなかったかのような密やかな護り。
「まあ、みんな無事で済んだからよしとしましょ。社会人の皆さんの後は俺らのお仕事ってことで」
「ああ。悪夢の予見を、現にはすまい」
 瞼を下ろした泰明に、霧に紛れた剣と悪意が躍りかかるけれど。
 異国の色煙る灰青の眼が次に現れた時、映ったのは深々と喉骨を抉られた対手――竜牙兵の姿だった。
「心血を、此処に」
 読み得る前触れすら泰明の一閃にはない。実直の一太刀は次々と肋を斬り砕き、まず一体を地に還した。


 右腕に銀の翼が咲いた。戦闘音に紛れて返る微かな機械音の反響が、眸の耳に敵味方の位置情報を正確に届ける。想定の通り、
「近接範囲ニ三体を捕捉。――ならバ」
 全身の回路を巡る力の全てをデバイスへ。肩に触れたキリノの熱なき温もりに頷いた瞬間、放たれたミサイル群の軌跡が霧の中に大きな翼を描く。一体、二体、三体、命中の手応えに目を細める。
「視界は悪イが、こういっタ攻撃の前でハ無意味だな」
 頷きの代わりに、拡げたキリノの左腕が瓦礫を浮かべ、降らせる軌跡でもう一翼を描く。
「――来るぞ、備えを」
 霧の向こうに冷たい星の気配。泰明の冴えた声に、冷たく迫り来る反撃の星の光の前へ身を滑り込ませるのは満願、そしてコハブ。
「この程度で地獄の焔が消えるかよ」
 ぐっと懐に握り込んだのは冷めない熱、そして自らの守るべきもの。どの戦いにも自分の背にはそれがあると知っている。第四目標のもとへ駆け戻る鋼の背に、シドの治癒の雨が沁み通る。
「その意気に追い風ならぬ追い雨、ってところかなぁ。任してくださいな、――最後まで絶対に倒れさせないよ。皆さんもね」
 風のような言葉にひとひら、力にも滲んだ決意が相棒にも届く気配。メイアはひとつ頷いて、小さく勇敢な子を讃えた。
「皆を守る強い子。コハブはわたくしの最高のパートナーよ」
 その誇らしいひと鳴きは、まだ力強い。弟分の余力を身一つのように感じ取り、メイアは敵へ手を伸ばす。癒しの力はまだ紡がない、
「わたくしはわたくしの役割を。ビビッと縛っちゃって、ライちゃん!」
 いつか古い絵本に絆を結んだ紫電の獣。お誂え向きの霧の夜を、雷獣はただその軌道に光を紡ぎ、駆け抜けた。――敵が縛られたことに気づくよりもなお疾く。
「ああ、志は同じく」
 見えざる月に誓った刃に冴えた雷撃を降ろし、神気を纏う切っ先を敵前へ届ける泰明。自身の静かな猛りこそ、命を守るための力であるのだと。
「見守る月の下に、平穏なる夜を」
「そうだね。季節柄、こんな天気も珍しくないけど……」
 疑雲猜霧に五里霧中、見えなくてあやふやで、不安な言葉にヒトの心も十色に揺れる。けれど、
「ねえ、知ってる? 夜霧の後って、よく晴れるんだ」
 見下ろす月にはきっと、戦意飛び交うこの場所は一面の雲海。それが晴れ、人の営みが星と映えるとき、
「立ってるのは僕らの方。憎悪も拒絶もあげないよ?」
 御霊宿る腕を突き出せば、霧に広がる大きな影は牙を剥くわるい狼。赤頭巾の下でくすり、フィーの浮かべた人の悪い笑みを、霧を白く灼き染める光弾の雨が眩く照らす。
 きらきら輝く蛍光の瞳に、ざらりと朽ち落ちる敵の影が映る。
「さあ、次はあなたの番かな、ジャマーさん? 僕らは負ける気ないけどね」
 赤ずきんの挑発になおも嗤ってみせる、第三目標。一撃即死を狙い来る死の大鎌を、防ぎ止めるは冥の笑み。
「あらまぁ、俺じゃあ不足? 案外飽きっぽくていらっしゃるのかなぁ」
「待たせてごめんな、比良坂!」
 秋の静かな月の光。古来より人々に愛され望まれた、人の営みを見守るものへ、惨劇の跡など見せはしない。
 くるり取り廻す鎚のさき、勇猛な竜の尾が気の流れを生む。烈風を足掛かりにアラタは跳んだ。居慣れない立ち位置に惑う心なら、とうに振り切っている。高みから繰り出す破壊の一撃は、仲間の攻撃に縫い留められた敵の上にぶつかっていく。
「アラタ達は譲らない。この戦いだけじゃない、いつだってそうだ!」
 負けるもんか。好きにはさせない。心の昂りをぶつける少女の背に、柔らかな羽音が届く。
「そうだよな、先生?」
 傍らをすり抜ける瞬間、にゃあん、と一声――いつもなら聞き流すその名に気のない返事を残して、先生は駆けた。敵へ繰り出す鋭い爪のひと掻きに、相棒の心を映して。


「はい、ザンネンでしたー。誰も殺させたりしないよ」
 軽口の挑発にがたがたと歯を鳴らす敵の前で、シドはロッドをくるくると弄ぶ。彼らが望むのはより深い憎悪、より強い拒絶。ならば笑ってみせようじゃないか。
「もう少しの辛抱ですよー。だいじょーぶだいじょーぶ!」
 紡いだやわらかな力は、満願の重厚な黒鎧の内まで響いた。鈍い痛みも視界に滲む血もたちまち拭われ、明瞭になる意識には押し留めるべき敵の輪郭が確かになる。
「ああ。膝をつくのはてめぇの方だ、糞骨!」
 オウガの外殻を帯びる拳が、胴に噛みついた。衝撃で零れ落ちるのは降魔の気だけではない。反撃を受け止める満願の気力の猛りを察し、仲間の戦意は第三目標の上に集約する。
「コハブ、満願ちゃんを」
 メイアの髪からひとしずく零れ落ちたような揃いの角を振り上げ、コハブが帯びる力の一端を満願へ注ぐ。見送ったメイアの陽色のまなざしは、揺れ落ちる光で描く護りの陣へ――仲間のもう一歩を支えるために。
「アラタちゃん、お願い」
「うん! 行くぞっ、先生!」
 返事に代わり尻尾の輪が躍る。靄を切り開くその輝きを追って、待ち構える大鎌のもとへアラタは飛び込んだ。蛍火にも似る緑の燐光が、骨の内側まで手を伸ばす。
「其々の自負で此処に立ってることは同じだ。だけど、アラタ達とお前達は違う。――自分達より強い敵を、協力で乗り越えてきた!」
 経験の紡ぐ結末を見せてやろう。胸を張り、色鮮やかな心で紡ぐ魔法が、敵を酸い妬心でがんじがらめにする。
「ほらほら、ちゃんとこっち向いて殴ってよ。じゃないと――瞬きしてる間に終わっちゃうよ?」
「グ……ァアアアアアア! タオれるものカ、グラビティ・チェインを……!」
 翻る少女の裾に入れ替わり、身軽く身を滑り込ませた冥が敵を見上げる。突き上げる鞘が顎を砕けば、続く脚も拳も武器と化し、骨片を降らす。
 他者の意志という皮を被った、破壊衝動でしか戦えない虚ろの兵士。どこか似た誰かはもう過去のこと。窄んでいた心はもう咲いたから。
「可哀想にね。ああ、死を感じさせてくれないからさぁ――刀、抜けないや」
 浮かぶ笑みの色は霧の中、その理由は冥の中だけに。煙る彼岸花の色を最期の記憶として、敵の命が奈落に沈む。
「っ、これで……てめぇで最後だ。逃れられると思うなよ……!」
 敵の一閃に気力を吸い上げられるままではおかない。奪われるままになどするものか。臓腑から突き出す腕へ、苛烈な熱を伝わせて満願は喚ぶ。
「――来い、黒炎墨龍!」
 満願の内から出でし墨色の龍が、再び自身を煉獄となす。逆立つ炎の鱗はぎちぎちと骨を咬み、言葉通り逃さない。
「よく持ち堪えテくれた。あれも随分消耗しテいるよウだ」
「援護あってのことだろうよ。ありがとな」
「それハ何より。では、一気ニ片をつけよウ」
 背中で告げられる感謝に、応える眸の声が傍らを駆け抜ける。足許には目覚めた星の光、地を蹴る度に生まれる煌めきが質量を持った時、空を切る瞳の蹴撃は碧い流れ星。
「ドラゴンサマに、タテツくカ……!」
「文句は主が出てきたその時こそ聞こう。今は唯、眼前のお前達を倒すのみ」
 惑いなく斬り下ろす夜叉の如き一閃に、泰明は静かな言葉を乗せた。盟主だろうと駒であろうと自分は変わらない。地を踏みしめ、手に力を籠め、その身を振るうだけ。
「ねえ、霧が晴れてきたと思わない? 君たちの悪さ、お月さまに知れる前に終わらせようよ」
 含み笑いは少女めいて、進み出る足もお使いのように軽くて、籠から取り出すワインの瓶も、霧に迷い込んだ物語の娘そのもので。
 けれど白い闇の中、燐と光るフィーの眼差しにだけ、強く確たる意志がある。
「残酷な物語はおしまい、おしまい。さあ、召し上がれ」
 硝子の瓶のコルクを外せば、酒気の代わりに溢れ出す鮮烈な光。振り上げられた武器を押し留める相殺の一手。
「今だ!」
「ああ。霧が晴れルと云うのなら、その前に、貴様らの姿ヲ消してしまおウ」
 この星に在るものの優しさに自分は触れた。故に今、眸はこの星に立つ。
 眸の大切なものをただ壊し、奪うために駒を嗾けるというのなら、
「その力の一端、此処に奪っテやル。これで最後ダ」
 大鎌が戒めを逃れる前に。眼前の敵のがらんどう、その向こうにある捉えきれぬ存在を、視覚回路に見出そうとするかのように見据えて。
 取り回す竜の鎚に伝えた力を、眸は解き放った。骨の身体と悲鳴とが、竜気の奔流に掻き消える。
 訪れた静けさの中、邪悪な気配が潰えたことを確かめてようやく、微笑むような吐息が幾つも重なった。

 ふわ、と頭上の暗さが緩んだようで、見上げたアラタは目を細めた。
「ああ、やっぱりな。思った通りだ」
 ぼんやりと笑う月の下、取り戻した日常の中、崩れずに立ち続けるのは自分達の方だ。
「晴れてきましたねぇ。それじゃのんびり、お月見がてら帰るとしましょか」
 たとえば最終回詐欺だった漫画のこと。帰ってから楽しむお茶のこと。夏の終わりの、誰かと過ごした一日のこと。他愛ない話が帰り道に音を増やす。
 それはこの星の煌めきの一端。自分たちが戦い続ける限り、輝きは続いていく。

作者:五月町 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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