●予知
深夜、アパートの屋上に裸足に寝間着という身なりの女の子がいた。
「やっぱりいやだよう。あんなの絶対に無理だよう……」
寝間着のボタンに指先を掛けた女の子の両眸から大粒の涙が溢れ出す。
助教に言われるがままに、数えるのが嫌になるほどの恥ずかしいことをして来た。
内容は日に日にエスカレートして行く。次は何をさせられるのかと想像するだけで恐ろしかった。
そうだこのまま飛び降りれば、もう何もかも忘れられて、苦しいことなんて無くなるんじゃないかな。
一条の光にも似た思いがスルッと心に差し込んで来た瞬間。
「誰?!」
周囲の気配に敏感になっていた女の子は後ろを振り向く。やけに大きな人影が見えた。
「驚かせてしまったこと、お詫びいたします。実は王女レリの命により、あなたをお救いに参りました」
肩に担いでいた男を床に投げ落とすのは白い鎧を纏ったエインヘリアル。
落下の衝撃にも男は意識を失ったまま。
「救う……って? む、村上助教、 どうして此処に、なんで裸なんですか?」
「あなたはいいように利用されているだけです。取り返しがつかなくなる前に、この男を殺し、自ら救われなければなりません」
恥ずかしい画像だけではなく、学群生の頃から頑張って来た研究もこの男はパクっていた。
「このままではずっと他人のいいようにされる人生ですよ。しかしこの男を殺せば、あなたも私たちと同じ強く美しいエインヘリアルとして生まれ変われます」
白い鎧を纏ったエインヘリアルは穏やかに、しかし確りとした声で告げた。
「こんな私でも、あなた方のように立派になれるのですか? 自分が好きなように生きて良いのですか?」
答えを確認するとシャイターン――小麦色の肌の女は斧刃を水平に構えて、はるかの背後に回り込んだ。
「勿論よ――それでは行きますよ」
「ありがとう」
首の高さで横に引かれた斧刃は呆気なくはるかの首を切り落とした。
「これで生まれ変わったの? 思ったよりも簡単なものなんだね」
エインヘリアルとなったはるかは矢を投げ飛ばす。
矢は倒れたままの男の頭を貫いて粉砕した。
●ヘリポートにて
「と言うわけで、シャイターンの選定によって新たなエインヘリアルが生み出される」
新たな予知を語ると、ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は事件の背景についての説明に入る。
「シャイターンは不幸に喘ぐ女に、苦しい人生を捨てエインヘリアルになろうと誘っている。……実際魅力的な提案だと思うよ。そしてエインヘリアルになるに当たって求められるのが不幸の元凶である男の殺害だ。君らケルベロスと違う普通の大学院生だ。当然悩むと思うけれど、されてきたことを思い出せば受け入れると思うよ。で、このハードルを乗り越えて、男の殺害に同意すると女性はめでたくエインヘリアルの仲間入りだ」
なお、今回の依頼の目的は選定を担当するシャイターンと護衛のエインヘリアルの撃破である。
女性については、エインヘリアルとなるのを阻止出来るならより良いという扱いになる。
「現場は6階建てのアパートの屋上、広さはテニスコート3面分くらい。ここにはシャイターンと被害者の男性、導かれようとしている女性のはるか、護衛として、白鎧のエインヘリアル、合計4人が居る」
白鎧のエインヘリアルは女性で戦闘力は高くない方だが、志気は高く護衛の役割を必ず果たすだろう。
はるかが同意する前に到着は出来るが、気持ちに整理をつけて、エインへリアルとなることを受け入れるまでの猶予は僅か。この間ならば説得を試みることができる。
白鎧のエインヘリアルやシャイターンの選定者がはるかを攻撃する意志はない。はるかがエインヘリアルにならなかったとしてもこの状況は変わらない。
はるかがエインヘリアルとなると、まず最初に気絶したままの男を殺害する。
殺害後は戦いには参加せずに撤退する。
エインヘリアルとなったはるかの撃破を目指すには、心意気だけではなくて実行可能な作戦が必要となる。
「悪い男を討ち勇者となれ――か。敵ながら上手く出来た筋書きだね。これを覆すほどの未来はそうそう描けるものじゃないと思うよ。それでもやるか?」
生半可な気持ちでは、問答無用で拒絶される。それ程に女の苦しみは深い。
直感によって与えられるものは対象となる現実を成立させる素材に過ぎない。
未だ見ぬ未来を描き、それを妥当性のある現実に導くには多くの困難が立ちはだかる。
参加者 | |
---|---|
貴石・連(砂礫降る・e01343) |
レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392) |
ゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499) |
イリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555) |
マティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301) |
齋藤・光闇(リリティア様の仮執事・e28622) |
ジゴク・ムラマサ(心ある復讐者・e44287) |
黒澤・薊(地球人の刀剣士・e64049) |
●星空の下で
「はるか、そこまで! そんな奴のために人間やめていいの? あなたの生命はそんなクズと同じ?」
暗闇を破る一条の光と共に着地した、貴石・連(砂礫降る・e01343)の声が響いた。
即座に守りの構えを取るシャイターンと白鎧のエインヘリアルはあなた方ケルベロスに鋭い視線を向ける。
「気持ちはわかりますよ、嫌と言うほど」
はるかが応じるよりも早く、レベッカ・ハイドン(鎧装竜騎兵・e03392)は辛い気持ちへの共感を示した。
慎重に間合いを計りながらゆっくりと降り立つレベッカが翼を閉じる刹那、黒澤・薊(地球人の刀剣士・e64049)は、村上の行為に対して、感じたままの嫌悪と怒りを告げ、説得へのバトンを繋ぐ。
「それでもわたしは、あなたに人間として生きて、こんな男に負けない、研究者になって欲しい……!」
「そうよ。あなたの研究ならきっと引く手あまた。まずは同じ研究をしている仲間を見つけて、ちゃんとしたプロジェクトに入って、そこで成功してそいつを見返してやればいいのよ」
――尊厳を、取り戻さなきゃ。
薊と連、レベッカが呼びかけたところで、シャイターンとエインへリアルは、村上に近づこうとする、齋藤・光闇(リリティア様の仮執事・e28622)の動きに気がついた。
その意図が無邪気な気遣いからであったとしても捕らえた男を奪われるリスクは許容されない。当然シャイターンは火焔を放ち、大きな布を村上に掛けようと思っていた光闇は橙色の輝きに包まれて燃え上がる。
「ここは私たちが食い止めます。はるか様は勇者に相応しい選択を」
はるかに告げると同時、白鎧のエインヘリアルの放った光線が光闇の身体を貫き通した。
燃えさかる火柱の中で灰を散らしながら崩れ落ちた影は立ち上がらない。その一部始終を目の当たりにしたゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)は村上への接近を断念せざるを得なかった。
そして、戦いはなし崩しに始まってしまった。
そもそもはるかが決断を下していないのは、人が人を殺すという行為への躊躇いと気弱な性格から。
気弱さや良識は、村上にされたこと、させられたことを赦す免罪符にはならない。
死にたいほどに辛い時に手を差し伸べてくれたシャイターンとエインヘリアルへの信頼は厚い。予知の通りに勇者の道を選ぶのは時間の問題だった。
説得を成功させるのは短時間ではるかの信頼を得なければならない。
そんな折、はるかが何かを決意したような表情をして、大きく息を吸い込んだ。
決断しかたも知れない。
これが最後のチャンスなる予感と共に、イリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555)はレベッカの横に進み出て先に口を開いた。
「私は別に正義の味方じゃないわ。あなたがその男を許せないと言うならそれも一つの選択でしょう。でもね、それをやるなら人としてやりなさい!」
僅かな沈黙の間に、はるかは気持ちを整理する。
「人が人を殺すのは罪です。人を裁くのは法以外にあり得ません。そこを履き違えてはいけません。ですから私は人間であってはいけないのです」
吹っ切れた様に表情が明るくなるのが見えた。
「いけない。エインヘリアルになるということは地球に住む全ての人の敵になるということ。親や友人、平和に暮らしている沢山の人たちを苦しめ、殺す立場になってしまうのよ」
「それにエインヘリアルになってしまうと、今まで頑張ってやってきたことは全て無駄になってしまうのです。これからやりたかったことも二度とできなくなってしまうのです。この男にはるかさんに二度と手出しできなくさせることも出来ます」
ケルベロスの力をもってすれば、村上を破滅させ社会的に抹殺することも出来ると。
私刑であるのか、法執行による処罰と制裁かは曖昧にしたまま、真心と直向きさだけで語り続けた。
「あなたの未来のために何でも協力しますから、やりたかったことをあきらめないでください!」
イリスの言葉も、レベッカの言葉も、自分を心配して言ってくれたことだとは、分かった。
しかし説得の最中に憎い村上を助け出そうとしたことは、はるかの目には重大な裏切りに映っていた。
「私は強くなりたい。弱いのはもういやだ。言われたことしかできなかった私だけど、胸を張って生きて行けるなら、人間じゃなくてもいい。だから、私、勇者になりたい!」
村上を罰し社会的に抹殺する為には、はるか自身が『されたこと』を証言しなければならない。
詳らかにされたなった事実は記録にも記憶にも留まってしまう。
そして人命を何よりも尊重するケルベロスがこの場で村上を殺すことはあり得ないことだろう。
「承知しました」
「はるかさん!」
次の瞬間、シャイターンは刃を薙ぎ、歓喜と緊張に目を見開いたまま、人間のはるかは死んだ。
夜空を貫くが如き閃光が爆ぜ、光が消えた後には、女性型のエインヘリアルが立っていた。
「ありがとう――今からは私、勇者なんだ」
そうするのが当然であるかのように新たに生まれたエインヘリアルは指先に挟んだ矢を投げ飛ばす。直後、裸のままの村上の頭部が水風船のように爆ぜ散った。
「もう後戻りはできませんよ」
「選んでしまった以上、はるかさん、あなたはもう人類の敵なの――そしてあなた方、ご満足かしら? 人の弱みにつけ込んで、人殺しをさせて、手駒を増やせて良かったわね」
説得が難しいことは最初から分かっていた。
悪人を何とかすることで根本解決になるなら全力で。
どうせ殺されるなら村上を殺して仕舞えば良い。
誰もが思いつき思いついても口にしない安直な解決策。
そういう仕事だから仕方ないと、割り切って手を下すことは出来たが、誰もそれを実行しなかったのはケルベロスとしての矜持だろう。
「承知しています。それに皆さんの真心には感謝します。でも村上を裁くにはこうするしか無かったのです」
どうしようもない悪人であっても、安直な動機や打算で、故意に殺害するのは禁忌。
目的を達するために、手段を選ばなければ、もはやデウスエクスと変わらない。
人間としても、ケルベロスとしても、意識を失ったままの素っ裸の男、非武装で無抵抗な民間人を殺すなど、出来るはずがない。
はるかはエインヘリアルになってしまったが、人の世の法を守り、衷心から困難に立ち向かったあなたがたの行動は人間として正しい。
●終わりの始まり
ジゴク・ムラマサ(心ある復讐者・e44287)は隼の如くに疾走し、エインヘリアルになった、はるかを目掛けて突っ込んで行く。
「ハァーッ……イヤァーッ!!」
叫びと共に右拳を突き出す刹那、はるかを護る様に小麦色の肌のシャイターンが立ち塞がる。
「イヤーッ!」
シャイターンが腕につけた得物とジゴクの拳が激しくぶつかり合い火花が散った。
「はるか様は撤退して下さい。私たちも後から行きますから」
「私も――」
「はるか様をレリ様の元に届けるが我らの役目、わかりやすく言えば残られては迷惑なのです」
「させまセンゾ。ケルベロスのジゴク・ムラマサが! 人を己が道具としか考えぬ魔物、滅ぶべし!」
エインヘリアルとなって姿は変わり果てたのに、髪型と縁の太いめがねが、生前のはるかの姿をそっくり映しているような気がして、ジゴクの胸は締め付けられる。
「それじゃあ行くよ。必ず後で、絶対だよ」
そう言い置いて、はるかは跳び上がる。二度と後ろを振り向くことなく、アパートの屋上から屋上へ跳ぶようにして、そして夜闇に消えた。
(「お主にとって……これはさらなる悲劇の始まりなのだ、はるか=サン。すまぬ……救ってやれずに、すまない……」)
(「さようなら。今度会うときは敵だね」)
はるかを逃がそうと思う者はひとりもいなかったが、積極的に阻止しようという者もいない。
決死の覚悟で追撃を阻まんとする、シャイターンとエインヘリアルの存在がそれをさせない理由だろう。
それと、同じ様なエインヘリアルを再び生み出さない為にも、この2人を斃さなければならない決意。
それを疎かにしてまで、はるかを追う理由は無い。
「待たせたわね、デウスエクス。どんな綺麗事並べようとも、私はあなたたちを許さない!」
「許さない? あんな男を救おうとしていたあなたたちが仰ることかしら?」
シャイターンが言葉を返すと同時、連は床を踏み締め、続けて腕を結晶化させた。
「我が前に塞がりしもの、地の呪いをその身に受けよ!」
ひと跳び間合いを詰めて、拳を突き出せば、シャイターンは軽く後ろに跳んで躱す。
「ベッカ、お願いね!」
直後、閃光と共に砲撃音が轟き、その動きを予測していたかの如きレベッカの主砲弾の爆発がシャイターンを捉えた。機を逃すまいと、マティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301)は肉薄する。
「攻撃フェーズ移行……ファイア」
炎を吹き上げる機械の塊が如き鉄塊剣がシャイターンの肌を深々と抉り取る。噴き上がる血潮が炎に熱せられて蒸気と変わった。
エインヘリアルに生まれ変われるという甘言で唆し、利用しようとする手口に腹が立った。
こんな切羽詰まった状況でなければ、村上をタコ殴りにしたかった。
友だちとして、はるかの傷ついた心に寄り添うことだって出来ただろう。
言われたことを真面目にこなすだけが、美徳ではないと、伝えたかった。
イリスは叶わない思いと共にエネルギーの矢を放つ。
次の瞬間、横に跳んだシャイターンは白鎧のエインリアルの前に出る。エネルギーの矢は突き出された斧刃をすり抜ける様にして、シャイターンの胸を貫いた。
ゼフトは赤い双眸で目の前の現実を見つめた。
個々の戦闘力だけみれば敵に分があるが、人数では此方が勝る。自身に喝を入れなおし、ゼフトは身体を覆うオウガメタルを鋼の鬼と変えると、揺らぐシャイターンを目がけて輝く拳を突き出した。
拳に込めた闘気が空を突き抜ける。拳の先には夜の風景が見えるだけだ。
腰の高さに構えたガトリングガンで薊は狙い定める。
「逃がさない」
環状に束ねた銃身回転の唸りを上げながら火を噴く、赤熱した無数の弾丸が回避するシャイターンの足元をなぞるように爆ぜて、破砕音と共に無数のコンクリート片を散らす。
防水シートの焼ける煙と硝煙の混じった異臭が立ち込める中、渦巻く清涼な風の持つ 癒力が傷ついたシャイターンを癒す。
戦いは泥沼に踏み込んだような長期戦の様相を呈していた。
手数では勝っていても、能力差からくる回避率の高さは歴然、それを埋める手を打てなければ、当然戦いは厳しいものとなる。しかもディフェンダーの片翼を担ってくれるはずの光闇が早々に脱落したことも災いしている。
逆巻く風に囚われ、受け身も取れないままに叩きつけられたレベッカの口から塊の血が溢れ出る。
「っ、なかなか厄介ですね」
はるかを救うことが出来なかったことを引きずっていた。
全力は尽くしたからこそ、良識のある普通の人間が、自分たちケルベロスよりもデウスエクスを信頼し、その言葉に運命を委ねたことは衝撃だった。
「でも負けるわけには行かない!」
レベッカの声色に孕む微かな不安や弱気を察した連は強く言うとシャイターンを目がけて駆ける。
そして空の霊力を帯びた斬撃を放った。
「薊。無茶はするなよ」
「大丈夫だ。わたしは今できる最善を尽くす」
薊が最も得意とする命中力は敏捷、次いで頑健、苦手とするのは理力である。たとえスナイパーのポジションをとっても、苦手とする理力を多用すれば命中の見込みは著しく低いまま。威力の上積みをしたいなら、グラビティのダメージ属性と武装のダメージ属性の偏りを合わせなければ実際の効果には繋がらない。勿論特注など必要ない、武装品の仕様を観察し正しく選択すれば出来ることだ。
それでもマティアスの叩き付けた地獄の炎はシャイターンを燃え上がらせ、莫大なダメージを刻み、機を逃さずに放たれたガトリングガンの弾丸が次々と爆ぜる。
「私たちはね、人の弱みにつけこむ様な真似はしないの!」
イリスの言葉にシャイターンが顔を向けた瞬間、その足下から漆黒の攻性植物が湧き上がるように繁茂する。
「どういう意味だ?」
ディフェンダーとメディックのペア、脆いと分かっているメディックを先に潰せばもっと楽に戦えただろう。
しかし敢えてそれをせず、ディフェンダーを先に倒すと決めたのは、庇いを警戒したからでは無い、最も強い部分を打ち破り、確固たる勝利を得んがため。
二度とはるかと再会できない2人への手向けに悔いの無い戦いとするためでもあったのかも知れない。
「黒き獣の住まう庭園(にわ)へようこそ」
呪文のようにイリスが呟いた瞬間、漆黒の攻性植物は花開き、癒やしを阻む毒の花粉を散らす。
序盤であれば見過ごせるダメージであったが、長びく戦いで耐久力の上限を削り取られたシャイターンには致命的だった。
「クリスチーヌ!」
シャイターンの名を叫ぶエインヘリアルが繰り出す癒やしの風が、積み重ねられたアンチヒールに阻まれて癒力の多くを失う。
「しまっ――」
機を逃さずに前に出たゼフトはシャイターンに銃口を押し当てると引き金を引く。
パン、と高い破裂音が響いて、シャイターンの頭部は割れた。次の瞬間、真っ赤な血が噴き上げながら身体は膝から崩れ落ちる様にして倒れ伏した。
「おのれ!!」
「心配するな、魔物よ、すぐに地獄で再会できる」
駆け寄ろうとする白鎧のエインヘリアルに狙い定め、ジゴクは技量の全てを懸けた一撃を放つ。
「イヤーッ!」
響き渡るジゴクの叫び、一拍の間の後、斬撃に刻まれた一条の傷から湧き水の様に血が溢れ出る。
ここから後は一方的だった。
流れるようなレベッカと連の攻撃、マティアスから薊に続く連続攻撃を前に白鎧のエインヘリアルも力尽きる。
果たして、戦いはケルベロスたちの勝利に終わる。
空を見上げたジゴクは、戦う前と変わらない星空を見上げて、無言で拳を握りしめた。
意識を取り戻した光闇も俯いたまま。
村上もまた護るべき民間人であったことは正しい。ただその常識が裏目に出てしまった。
ヒールを掛けて修復したアパートの屋上はすっかり元通りになっている。
しかしこのアパートの一室に住んでいた、人間のはるかはもういない。
薊は仲間に労いの言葉を掛けようとして思い留まる。自身もまたどのような言葉を掛けられれば慰めになるのかが、分からなかったから。
「これで済むはず無いわね、落ち込んでいる暇はないわ」
秋の星座の物語と、シャイターンとエインヘリアルの最期を思い重ねたイリスは自ら進んで生け贄になったアンドロメダ王女のようにエインヘリアルとなったはるかが人類に仇をなさずに、救われる道がありますようにと、流れる星の煌めきに思いを乗せた。
作者:ほむらもやし |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年9月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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