湿気万歳!!

作者:あかつき


 台風が来たり、秋雨前線が猛威を振るっていたり、とにもかくにもむしむしとした秋の夕方。それは山奥の廃棄家電置き場でも同じだった。そんな中、握りこぶし程の大きさの、コギトエルゴスムに機械で出来た蜘蛛の足のようなものがついた、小型ダモクレスがいたのは、廃棄されている電化製品の山の上。もごもごとしばらく物色するように蠢いた後、もそりと身体を捩じ込んだ先は。
「もやもやもやもやっ……」
 スチーム式の加湿器だった。機械的なヒールを施された加湿器は全長二メートルくらい、蜘蛛のような手足を生やし、頭部から蒸気を吐き出す。
「か、し、つ……キィイイイイイ!!!」
 金切り声で叫ぶや否や、加湿器のダモクレスは、山の麓にある町の方へと走り出したのだった。


「心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)の依頼で調べていたら……、山奥にある廃棄家電置き場の加湿器がダモクレスになってしまう事件が発生することがわかった」
 雪村・葵は、集まったケルベロス達に、説明を始める。
「ダモクレスは山の麓の町へと向かっている。放置しておけばダモクレスは町を襲い、多くの人々を虐殺し、グラビティ・チェインを奪うだろう。その前に現場へ向かい、ダモクレスを撃破して欲しい」
 このダモクレスは加湿器が変形し、ロボットのような姿をしている。その上蜘蛛のような手足がついている。この細長い手足をしゃかしゃかと動かして移動するらしい。
「スチーム式加湿器のダモクレスなだけあって、蒸気を辺りに撒き散らしたり、熱を帯びた身体で体当たりしてきたりするらしい。気を付けてくれ」
 なお、民間からは離れたところにある廃棄家電置き場の為、住民の避難などは考慮しなくて良さそうだ。
「この湿気の多い時に加湿器とはな……。人々を虐殺してくるのは勿論許せないが、湿気を辺りに撒き散らしてくるのも迷惑な話だ。早めに撃破してくれると助かる」
 そう言って、葵はケルベロス達を送り出したのだった。


参加者
リュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)
ミステリス・クロッサリア(文明開華のサッキュバス・e02728)
ミルカ・アトリー(タイニーフォートレス・e04000)
ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)
心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)
エレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)
モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)
天高・紅葉(鬼橙の眼・e50422)

■リプレイ


 秋の夕方。橙に染まった夕陽は秋らしさを感じさせるが、まだまだ気温は高い。そんな中、集まったケルベロス達は山奥の廃棄家電置き場へと向かっていく。なんとなく、湿度が上がっていくような、そうでもないような……いや、やはり湿度が上がっている。さっきまで乾いていた地面も、しっとりと湿っているし。なんとなく、靄までかかっているような気がする。
「あらー? 加湿器にお世話になる時期はまだ早いんじゃないかしらー?」
 おっとりとした口調でそう言うのは、心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)。頬に手を当て、小首を傾げる。
「まあ、適した時期だったとしてもダモクレス化しちゃったら、安全面に問題があるから使ってあげる事は出来ないのだけどー……」
 安全面に問題が無ければ使っていたのだろうか。何はともあれ、ダモクレス化した加湿器が危険である事に間違いはない。
「蒸し暑い時期に蒸し暑い敵とは勘弁願いたいですね」
 括の発言に頷きつつ、エレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)は手で自身を扇いだ。しかし、扇いだからと言って湿度が下がる訳では無かった。
「それでも、多少は気温も下がって、マシと言えばマシな方デショウ……、夏の真っ盛りに遭ったらと思うとゾっと致しマス。少しでも涼しい季節に会敵できることを幸運に思いマショウ」
 モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)はそう言うが、猛暑の真っ只中よりは涼しいものの、暑いものは暑い。しかし、とモヱは考える。今年の夏は暑かった上に、湿度も凄かった。ただでさえ不快指数が高い中、このダモクレスに会っていたら…………悪夢だ。真夏の某展示場で行われる大型イベントよりも、きっと酷い湿度と熱気をもたらしてくれた事だろう。
「コレクションの数々を置いてきて正解デス」
 有難い感じの本が湿気って、しわしわになってしまうところだった。彼女のコレクションの数々の安全は確保された。
「こういったダモクレスはなかなかなくならないから、出てきたら倒すしかないのかな。頑張ろうね、クゥ」
 そう呟くのは、リュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)。彼が抱き締めたサーヴァントのクゥも、首を縦に降って同意を示す。その時聞こえてきたのは、がさがさごそごそという大きな音と、音と共に近付いてくる地響き。
「多脚型のロボットも、それはそれでロマンがあるけれど。無駄に熱いのは勘弁してほしいな」」
 急激に上がる湿度と温度に、ミルカ・アトリー(タイニーフォートレス・e04000)がぽつりと溢す。
「キィィィィィイイイ!!!!!」
 がさっ、と木々をへし折り、葉を散らしながら出てきた加湿器型ダモクレスに、ミルカは肩を竦めた。
「あと、やかましい金切り声もね」
 呟きつつアームドフォートを展開していくミルカ、その横では敵の姿を認めたファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)が、レッドスライムメタルΩを纏う。
「フレイヤは回復を」
 サーヴァントのフレイヤはファルゼンの指示に頷いた。それを視界の隅で確認しつつ、ファルゼンはオウガメタルからオウガ粒子を放出する。前衛へと施されたメタリックバーストは、彼らの感覚を研ぎ澄ませ、攻撃の精度を上げていく。
「じゃあ行くわよー。ソウも、よろしくねー」
 サーヴァントのソウに声をかけつつ、括は氣縛早治を起動した。ドゴオオオオオン!! と工事現場顔負けの爆音と、色とりどりの爆煙。それを背に、ソウはぱたぱたと翼を羽ばたかせ、後衛から順番に清浄の翼を施していく。
「クゥ、僕達も行こう」
 リュートニアの合図に、クゥはリュートニアの腕の中から飛び出して、仲間を援護するために行動を開始する。
「……よし」
 呟き、リュートニアは一人静かに気合いを入れ、そして、地面を蹴り跳ぶ。
「か、し、つ…………ぎっっっ!!!!!」
 金切り声を上げる直前に顔部分に見事に入ったのは、重力を宿した飛び蹴り。き、に濁点がついただけなのは流石と言うべきだろう。
「中身をアロマにすれば部屋のインテリアに、私のサキュバスミストを詰めればイケナイ夜の部屋になるのね! 見た目はちょーっと古臭いけど、外装いじれば問題なさそうなの!」
 加湿器の見た目を確認しつつ、ミステリス・クロッサリア(文明開華のサッキュバス・e02728)は小型治療無人機を前衛へと向かわせて、彼らの警護に当たらせる。その間に、ミステリスのサーヴァント、乗馬マスィーン一九は加湿器ダモクレスへとデットヒートドライブで攻撃を仕掛けていく。
「ダモクレスとはいえ湿気のせいで戦ってる途中壊れたりしないよね? 元の加湿器でもその辺対策してるし大丈夫だよね?」
 べこ、と僅かにへこんだ加湿器ダモクレスの側面を見て、天高・紅葉(鬼橙の眼・e50422)がぽつりと呟く。せっかく戦いに来たのだ、途中で壊れてしまったら困る。
「き……き、キィィィィィイイイ!!!」
 え、本当に壊れた? と慌てる紅葉の見つめる先で、加湿器ダモクレスは金切り声を上げながら、蒸気を辺り構わず撒き散らし始めたからだ。急激に上がっていく湿度は、加湿器ダモクレスの周りを靄のように広がり、その姿形を朧気にする。壊れた訳では無さそうだ、とほっと胸を撫で下ろす紅葉は、辺りに満ちる靄を見て、ぽつりと呟く。
「あれで防御が堅くなるんだからグラビティって不思議だ……」
 恐らくはこの靄に含まれるグラビティが、あの加湿器ダモクレスを守るのだろう。視界の悪い中、眉間に皺を寄せ、その姿になんとか焦点を合わせる。
「それなら……こうだ!!」
 靄の中、ミルカはパイルをドリル回転させながら、加湿器ダモクレスへと突っ込んでいく。靄を切り裂き突き刺されるパイルは、加湿器ダモクレスの内部構造を破壊する。
「き、きぃぃぃ……」
 威勢の良い金切り声ではなく、何かが軋むような寂しげな声。加湿器ダモクレスの情けない声と共に、吐き出される蒸気が止まった。
「私達も行きマショウ」
 モヱは収納に声をかけ、自身は杖を振るい、仲間達を守る雷の壁を構築する。そして、収納は遠距離から宝物の幻影をばらまき、加湿器ダモクレスを惑わせる。首辺りを傾ける加湿器ダモクレスに、紅葉は砲撃形態に変形させたドラゴニックハンマーの照準を合わせる。
「さっきはもやもやが邪魔でよく見えなかったけど……!!」
 そして、紅葉は竜砲弾を発射した。
「かっ……きぃっ!!」
 協力な一撃に、かさかさと動いていた脚の動きが遅くなった。


「かし、かしつ、きぃっ」
 度重なるダメージに、じたばたと脚をばたつかせる加湿器ダモクレスに向かい、リュートニアは駆ける。
「き、きぃっ!!」
 直線的なその動きに、回避の為に動き出した加湿器ダモクレス。そこへ、がら空きとなった側方からクゥが風と星の力を纏ったブレスで攻撃を仕掛ける。
「き、ぎっ……!!!」
 ブレスを振り払おうとボディを震わせる加湿器ダモクレスへ向かい、リュートニアは加速する。
「クゥ!!」
 リュートニアの声に、クゥは小さく鳴いて、退避した。
「かし、つっ?!」
 急にいなくなったクゥに、何かを感じ取ったらしい加湿器ダモクレスだが、時既に遅く。
「はぁっ!!」
 気合いと共に放たれた炎を纏った蹴りは、加湿器ダモクレスの顔面付近を直撃した。
「ぶ、ぷすぷす……!!」
 何かが詰まっているような声を発しながら、加湿器ダモクレスは吹き飛ばされ、仰向けに倒れた。
「べたべたして、気持ちが悪いですね……。早めに倒してしまいましょう」
 不快感を露にしつつ、エレスは幻影棍を構え、倒れたままの加湿器ダモクレスを一瞬鋭く見据える。
「それはもう、使い物になりませんね」
 加湿器ダモクレスの吹き出し口へと向けられたエレスの幻影欺壊。吹き出し口に与えられたのはダメージと、その部位を破壊したという幻影。
「か、かしつっ……!!!」
 加湿器の命ともいえる吹き出し口を壊されたと認識した加湿器ダモクレスは、慌てながら起き上がる。そこへ、ミステリスの乗馬マッスィーン一九が突っ込んでいき、加湿器ダモクレスの脚を轢いた。
「キィィィィィ!!!!」
 悲鳴のような金切り声を上げ、加湿器ダモクレスはぶぶぶぶぶ、と小刻みに震える。
「やっぱり壊れ……あれ?」
 呟いた紅葉の目の前で、加湿器ダモクレスはその振動を更に速くして、周囲の温度が徐々に上がってきているのを感じる。そして、加湿器ダモクレスの周りに陽炎のようなものが立ち始めたのを見て、紅葉は反射的に身構えた。そんな紅葉へ向けて、加湿器ダモクレスはかさかさと多脚を凄い速さで動かして、突進していく。
「っこっちか!!」
 咄嗟に飛び退く紅葉であるが、それよりも加湿器ダモクレスの方が速かった。故障した時のように熱々の耐熱プラスチックボディが、紅葉に当たる、その直前に。
「ここは私が引き受ける」
 割って入ったファルゼンは、加湿器ダモクレスの突進を受け止めた。
「っ……!!」
 ぐっ、とそのボディを掴むと、ファルゼンは熱気から発した炎を耐えながら、横へと突進の力を逃した。ぐらりと揺れるファルゼンの身体と、側方へと逸れた加湿器ダモクレスの突進。
「任せてなの!!」
 そう言うや否や、ミステリスは桃色の霧を発生させ、ファルゼンのダメージを癒していく。僅かに残ったダメージは、フレイヤによって回復を施された。
「助かった!!」
 ファルゼンの活躍によってダメージを回避できた紅葉は、そう声をかけつつ地面を蹴って駆ける。ファルゼンへの礼を口にしつつ、明後日の方向へ走る加湿器ダモクレスの背中へと掌を向ける。
「背中が、がら空きだっ……!!」
 放たれた氷結の螺旋は、加湿器ダモクレスの背中に直撃。
「あらー、もう少しかしらー?」
 呟きつつ、括はその視線をダモクレスの背中へと向ける。そして、包帯を手に、微笑む。
「予防のお時間ですよー。全力でいってらっしゃい!」
 『相手を揮わせたい』という想いを込めた包帯は、ミルカへと。その横では、ソウがせっせと回復に勤しんでいる。
「湿気は嫌デスネ……。収納、さっさと倒してしまいマショウ」
 機械の右手を僅かに気づかいつつ、モヱは収納と共にバランスを崩した加湿器ダモクレスへと詰め寄る。収納の仕掛ける攻撃の僅かな間隙に、モヱは腕を構え、駆けていく。
「覚悟……デス」
 回転させた前腕は、加湿器ダモクレスの背中を穿つ。
「か、かつしっ、か、し、かつ……!!」
 壊れたラジオのように何やら喚きながら顔面あたりから地面に倒れた加湿器ダモクレスに、ミルカはアームドフォートの主砲を向け、そして。
「耐熱仕様のボディっぽいけど、急速冷凍はどうかな?」
 ミルカの放った物質の時間を凍結する弾丸は、括の援護で威力の増し、加湿器ダモクレスのボディに直撃。加湿器ダモクレスのボディに、ぴしっ、とヒビが入り、そして。
「キィィィィィ!!!!」
 加湿器ダモクレスは、断末魔の金切り声を上げ、粉々に砕けたのだった。


「凹んだり抉れたり結構してたけど、だいぶ綺麗になったよね」
 小さく息を吐き、ミルカは補修した跡を確認する。
「これくらい片付けば、問題は無いデスネ」
 次の被害が出にくくなるよう、廃棄家電置き場の整理をしたモヱは、一緒に整理をしていた収納に声をかける。収納も、自分の仕事にある程度満足がいったらしい。ぱくぱくと口を開閉し、同意を示した。
「そうですね。これくらい直れば大丈夫でしょう」
 頷くファルゼンと、その横で休憩しているフレイヤ。
 その後ろでは、ミステリスが加湿器ダモクレスが砕けた付近でがさごそと地面を漁っている。曰く。
「回収して私の素敵なインテリアに改造してあげるのぉぉぉ!!!」
 とのこと。素敵なインテリアになればいいが、いかんせん壊れかたが派手なので、きちんと直るかどうかは難しい所だろう。
「こんな感じで……大丈夫、ですかね」
 リュートニアはヒールで埋めた孔を眺め、呟く。そこへ、とてとてと駆けてくるクゥ。首を傾げ、リュートニアを見上げるクゥを抱き上げる。
「おつかれさま、ありがとう」
 そう声をかけながら、クゥの身体を撫でる。クゥは気持ち良さそうに目を細め、リュートニアにすり寄った。
「んー、途中で壊れたかと思って心配したけど、良かった良かった!!」
 からりと笑う紅葉も、ヒール作業はちゃんと手伝っている。
「じゃあー、そろそろ解散で大丈夫かしらー?」
 首を傾げる括に、ソウは身体を揺すった。そんな括に、エレスは声をかける。
「不適切な湿気で何だか気持ちが悪いですね。括さん、帰りにサウナにでも寄っていきますか?」
 エレスの提案に、括はにっこりと笑う。
「サウナのお誘いー? あらあら、素敵な提案ね! お仕事も終わった事だし、ご褒美にリフレッシュしてから帰るのも良さそうかしらー?」
 近くに良いところ、あるかしら? 無ければ、家の近くでも。そんな事を話ながら、括とエレスは歩き出す。
 夕陽はいつの間にか沈み、加湿器ダモクレスのいなくなった山奥は、秋らしい涼しさと爽やかさに包まれていたのだった。

作者:あかつき 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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