商店街ぶらぶら祭り

作者:林雪

●商店街ぶらぶらまつり開催のために
「岐阜県飛騨高山って町でね、毎年秋に商店街をあげてお祭りやってるんだけど」
 笑顔でケルベロスたちに説明を始めたのは、ヘリオライダーの安齋・光弦である。
「ほら、あのへん食べるものも美味しいでしょ。飛騨牛串焼きとか、川魚の塩焼きとか、出来たてみたらしだんごとかおせんべとか他にもグルメ屋台がずらっと並んで、地元の人たちとワイワイできる楽しいお祭りだよ。ちょっと山の方にいくと温泉街なんかも有名な土地だから、そこの人たちがPRのチラシ配ったりとかもあるみたい。でもね」
 肝心のその商店街が、デウスエクスの襲撃により破壊されてしまい、祭りが開催できずにいるという。道路沿いの商店街の各店舗も被弾しているのと、道路そのものも破壊されていて車は勿論、人が歩くのも危険な状態だ。瓦礫などは人々の手で撤去されているが、大規模な工事には至れていないらしい。
「お祭りのときはここいら一帯を全部歩行者天国にするらしいからね。安全に楽しく歩けるよう、みんなの力で治してあげて欲しい。頼んだよ、ケルベロス!」


■リプレイ

「ん、これならきっと……」
 ミリムのゴーストヒールが飛騨高山の商店街を彩った。平和であるべき街の忌まわしき記憶が、塗り替えられていく。集ったケルベロスたちはそれぞれに工夫し、ヒールの暴走で街の景観を壊さないようにと努める。
「まずは傷付いた人々と商店街優先、だな」
 稜を始め、ケルベロスたちの気持ちそのものが、物理だけでなく街を癒していく。
「きれいな道を、イメージイメージ……」
 黄色はそう言って頑張りつつ、気持ちは既にお祭りである。
 一方。
「まずはかるーく、集中力をアップのために、ね。ほら、気が散るじゃない? 酒造の人たちもそうしろって」
 さくらのはしゃぎっぷりがばれるのか、酒造経営の酒屋の前では既に簡易試飲コーナーが展開されており、酒スキーを待ち構える。
「……あれ? 帳くん?」
「げっ、お二人ともどうして此処にっ!」
「……二人とも気が早すぎないカ?」
 千夜が冷静にツッコむが、否応なしに酒宴への期待が高まってしまう!

「えい……、あっ?」
 ウォーレンのヒールで、壊れた街灯がほわんと提灯型に変わる。
「うん、良いと思うぞ風情があって」
 千梨がそうフォローすれば、トロノイも穏やかに笑う。
「ご愛嬌さ」
「後で遊びに来ますね!」
 直した店の人にそう声をかける恭志郎。仲間との屋台散策を楽しみに、隅々念入りなヒールを行なっていく。

 服を汚さずヒール作業を負え、あすかが一息吐いた。実は少しだけおしゃれをしてきた。パーカーの下はボートネックのカットソー、ボトムはキュロットといつものボーイッシュさとは印象を変えてみた。花園は気づくかな?
 夕方近くにヒール作業が終わり、そちこちの店に灯が点った。お楽しみの散策タイムである。
「よし。ふたりにこれ、渡しとく……っと?」
 今日の分のお小遣いを渡そうとした砂太郎の手を、待ちきれずにエリザベスが引っぱり始める。
「わぁあ~、あっちもこっちも美味しそう! ふたりとも、はやくはやく!」
「え、エリィ、ちょっ、」
 目指すは勿論、飛騨牛の屋台。湯気を立てる蒸篭には真っ白なフカフカ飛騨牛肉まんが覗き、並びではすし職人が肉寿司を握って笹の葉の上に並べていく。エリザベスが目を輝かせる様子を、ふふと笑って見つめる雪乃は、桔梗に有明月の浴衣姿。砂太郎をエリザベスと挟む形で反対側の手を繋いで。
「お祭りは、やはりこうでなくては、ですね♪ じゃあ肉まんをひとつ、頂けますか?」
 はいよ、と、紙袋に包んだ熱々の肉まんを店のおじさんから受け取った雪乃が、小首を傾げて尋ねた。
「天谷さん。半分こ、しますか?」
「え? あー、うん。じゃあ、頂こうかな」
 少し照れつつ、申し出は有難く受ける。雪乃が潰さないようにそっと肉まんを割れば、中から溢れる肉汁ジュワッな具材がふかふかの生地に吸い込まれ……。
「お、おいしそー過ぎだよユッキーノ! 私も! おじさん私にもひとつくださいっ!」
 たまらずエリザベスがそう叫ぶ。三人ではふはふ言いながら食べる肉まんは最高。だが。
「……ちょっと兄ちゃん用があるから、ふたりは待っててな」
「……?」
 遠目に見えたナンパ野郎から妹たちを守るべく、スッと路地裏に消えていく砂太郎であった。

「ナル君、稜さん! さっき治したお店の焼き団子って、自分でみたらしのタレつけさせて貰えるってー! 行ってみようよー!」
 いきなりテンションマックスの黄色を囲むようにして歩く。合流した稜が微笑ましくて仕方ない、という風に財布を出して人数分を買い求める。
「本当に色々な店が出ておるのぉ。流石に腹がくちくなってきたが」
 そう呟いたナルハールがちらりと隣を見ると。
「ま、まほうのバームクーヘン……! えごまみそのカラメルとふわふわのもちもち……行くしかないよ! これはもう全部食べるしかない!」
 黄色はまだまだ止まらない。三人で一緒に食べ歩きが出来るのが嬉しくて仕方ないのだ。
「……じゃが、こうして友と遊びに行けるなぞ夢にも思わなかったの」
 ぽつりとナルハールが独り言のように呟いた。身に纏うのは仕立てたばかりの浴衣。祭り気分が楽しいのは勿論、一緒にいるふたりのおかげだと素直に思う。
「黄色、向こうに釣りゲームがあるぞ」
「やりたーい!」
 稜の誘いに元気よく応じる黄色。護衛役も頑張らねばの、と、余所の男子の視線にナルハールが目を光らせつつ、楽しい時間は続くのだった。

「ミュゲはみたらしが食べたいんだったよな?」
 つかさがレイヴンのテレビウム・ミュゲにそう声をかける。気の置けない者同士、のんびりと屋台を巡る優しい一時。
「つかさ、何か気になるものあったか?」
「んー? 俺は川魚の塩焼きが食べたい。今の時期だと落ちアユか、ニジマスか……」
 丁度炭火を囲んだ鮎の塩焼きを売る屋台を発見し、一尾求める。程よく焼けた背中の皮から、つかさが一気に魚を食べ尽くす。
「つかさ、美味しいか……って、小骨も……? の、喉に刺さらないか?大丈夫か……!?」
 レイヴンとミュゲ、ふたりがよく似た顔でポカーンとするので、つかさがつい噴き出して笑う。
「美味いから喰ってみなって」
 レイヴンの飛騨牛串焼きと、ミュゲのみたらし団子もアーンと一口おすそ分け。皆で食べ歩くと楽しくて美味しくて。
「あぁ、後で地酒見に行ってもいいか?」
「勿論。他にも色々見て行くか」
 酒に合うニジマスの甘露煮、他にも色々。思い出と一緒にお土産を。

「さあ、美味しそうなモノを片っ端から食べますわよ!」
 カグヤの宣言に、藍沙もパッと華のような笑顔になる。
「今日は思いっきり食べ歩くわよ!」
 体重を気にせず、と小声で付け足す。
「飛騨牛、そのまま焼くだけでなく色々ありますのね? 肉まんに、牛カツ? それから……あら? 藍沙さんもたくさん買いましたわね」
「お肉と、口直しのカブ漬けと、まだまだ気になるものがいっぱいあって困っちゃう」
 夢中で屋台を見るうちに、ふたりの両手は埋まっていく。
「わ! そのみたらし団子、とっても美味しそう……ねえ、串焼き一口あげるから、みたらし団子ちょうだい?」
 藍沙のおねだりに、カグヤが嬉しそうに微笑む。
「もちろん。はい、あーん、して」
「……うん、美味しい。じゃあこっちの串焼きも、はい、あーん」
 お互いに食べさせっこする屋台の名物は格別の美味しさ。
「これからも色んな思い出作ろうね!」
「そうですわね、楽しいことを沢山しましょ」

「ふーん、やっぱり飛騨牛メニューがお薦めなんだ。黒カレーって珍しいね。じゃそれひとつ」
 白陽が屋台のおじさんの説明を聞きオーダーしていると、横から雪が肩をつつく。
「ねー、飛騨紅茶のミルクティだって!」
 地元名産の紅茶を片手に歩くと、選びきれずに買い込んだものを雪が次々取り出してくれる。
「白陽君、はい、飛騨牛コロッケ半分こ! それとねえみそ風味の揚げパンでしょ、みたらしラスクでしょ」
「よーし。じゃあはんぶんこ」
 ああ学生さんがやってるイメージの、半分こだ。楽しそうだと思ってたけど本当に楽しい、と白陽がほくそ笑んで揚げたてのコロッケを頬張る。お祭り大好き! という言葉の通り、雪が隣で全身全霊はしゃいでいるから余計に楽しいのかも知れない。
「雪さんあっちにさ、栗きんとんラングドシャっていうの見つけたからお土産にしよっか」
「何それめっちゃ気になるー! しよしよ」
 仲良し同士での食べ歩きはまだまだ続く。

「良し終わったカ、思い切り呑むゾ!」
 千夜の宣言に、さくらと帳が思い切り応じた。
「かんぱーい!」
 肴に香ばしく炙った飛騨牛串焼きと、ヤマメの塩焼き。日本酒に合わないわけがない。すっきり味の純米酒から、甘めのにごり酒。三人で仲良く回し飲みする升酒の美味さに、徐々に酒量は増していく。
「少しずつ呑み比べられるというのは非常に良いナ!」
「どうです、お二人とも? 飲み比べして、より多く飲んだ方の勝ちというのは」
 そう言い出した頃には、帳も結構なご機嫌さんである。応じるさくらも目が据わっている。
「げふ……ろうれす? そろそろ降参してくれへも良いのれすよ?
「ふ、ふふ、とばりくんったら、わらしがこの程度で降参しゅると思ってんの?」
 とは言え、陽気な三人のお酒。
「楽しイ!」
「せんにゃちゃん、もっけんいくわお! ほらみてっ、三千桜らってきゃー!」
 すっかり楽しく肩を組んで千鳥足の三人。真っ直ぐ歩けるかは問題では無いのダ!

「あすか、これすげえうまいぞ! この串焼き、塩が燻製になってんだって。食べてみ」
「本当だ、風味が独特」
 一緒に屋台を巡り、分け合っての食べ歩き。頑張って誘ってみてよかった、と思いつつあすかは少しじれったい。
「なんかこれ、デート……っぽくね?」
 ぽい、というかこれは。
 デートそのものではなかろうか? と、双方ほぼ同時に思う。
「あ、せんべい焼いてる! 焼きたてなんて、ほら、滅多に食べれないから!」
 照れ隠しにぎゅっと一度強く引いた手を、花園はもう一度柔らかく繋ぎ直す。器用ではないその手の温度が優しい。
「あと、新しい服、すごい似合ってる」
 ちゃんと気づいてた、とあすかの表情が緩む。次はみたらし、このまま目指せ全店制覇!

「おっ千梨くんは握り寿司かい? 旨そうだな。コロッケと半分交換しようぜ」
 トロノイの提案を千梨が快諾する。
「贅沢な肉には合う酒も欲しくなる。オススメがあるならご教授願いたい」
「任しといてくれ」
 食欲とお酒の誘惑に逆らう気のない大人組。一方、恭志郎とウォーレンは名物の『さるぼぼ人形』に夢中の様子である。災いが『さる』という縁起物だ。
「ウォーレンさん、この黒い子どうですか? 厄除けだって」
「猿の赤ちゃん、なんだ、可愛いね。黒い子、買っていくよ」
 恭志郎に選んでもらった小さな人形を、ニコニコと店員さんに差し出すウォーレン。後ろから覗いていた千梨も腕を伸ばす。
「では、俺は緑で。エルフに緑は似合うだろう?」
「すごく似合いますね! じゃあトロノイさんは……あれ?」
 彼の分も選ぼうと恭志郎が見回すと、飛騨牛肉まんを片手に酒造店に向かう姿。置き去りのベルを撫でてやる。
「僕も試したいー。一口ならきっと失敗しないはず」
 ウォーレンが賛同し、皆でお猪口に一口ずつ地酒を味見することに。
「ビギナーの恭志郎くんには御代櫻あたりがお勧めだ。旨いだろ? 千梨くんはもうちょっとどっしりした味でもいけるかな?」
 と、トロノイのお薦め地酒を聞く端から試した結果。
「お猪口にほんの少しだし前みたいな失敗は……ってウォーレンさーん!?」
 早くもフラつくウォーレンに恭志郎が声をあげる。
「ではこの緑のさるぼぼを。ご利益は健康運だぞ」
「千梨さん、ありがとう。マーブルに見えるー」
 大丈夫、お医者さんもさるぼぼもついている。菜園の酒宴は賑やかに続く。

 屋台手伝いを申し出たヒノトは法被を着こなし、手焼きせんべいの店の中に入る。アカはポケットの中で待機中。
「いらっしゃい! そこのお客さん、焼きたてせんべい一枚どうだ?……ですか?」
「敬語苦手すぎでしょヒノトくん。でもめっちゃ美味しそう」
 ヘラヘラ笑うその顔に、思わずトングで持っていたせんべいをヒノトが向ける。
「あー光弦! 来てたんならこっち入れよ、一緒にせんべい屋やろうぜ」
「えー食べる役だけじゃダメ?」
 その隣の屋台の設営を手伝ったミリムは、やはり屋台の内側に入り、キャベツを刻み材料を混ぜ、飛騨牛に串打ちをし、とくるくる忙しそうに立ち働いていた。
「へいらっしゃい! こっちも美味しいよー!」
 元気な掛け声に光弦が振り向けば、お好み焼きの香りの向こうにミリムの笑顔。お土産決定だ。

 香ばしい匂いが漂う屋台の前で、グレッグがふと足を止める。燕を染め抜いた浴衣はノルと揃いで誂えたものだ。
「グレッグ、ほら飛騨牛! 塩とタレで迷った」
 向かいの店の飛騨牛串を手に、笑顔で近付いてくるノルの髪には大輪の白菊の簪。そこから下がる藤が楽しげに跳ねた。
「美味し……!」
 口の中に広がる肉汁と歯応えの柔らかさに、驚きと喜びの表情を同時に浮かべるノル。その様子に心底癒されながら、ノルの口が空くのを待って、一口齧った川魚の身の部分をグレッグがノルの口に運ぶ。鮎の身はさっぱりと、肉とまた違う味わいだ。
「魚も好き?」
「好き、大好き」
 美味しいものを分け合い、互いの笑顔を見る何気ない幸せ。一緒に過ごす二度目の秋を迎えた二人には、それが何より大切。
「……」
 地酒で程よく温まった体でグレッグに寄り添うノルが囁くのは、この時間が終わらなければいい、という願い事。その体を優しく支えるグレッグも同じ想いを重ねて歩く。

「こっちは『醴泉』で、こっちが『玉柏』だって」
 地酒をあれこれ飲み比べながら賑やかな人混みを歩くアガサと陣内。共通の地元とはかなり違った風情も冴え冴えとした気候ももの珍しい。
「うん、なかなか美味しいね、このお酒も」
 幸か不幸かケルベロスになったおかげで、こうして地酒の飲み比べも出来るようになったのだと表情を僅かに緩める、何もかもを失くして南の島で独り朽ちていくだけだったかもしれない娘を顔を陣内が横目で見遣る。
「……『幸』に決まってるさ」
 喧騒の中、ふたりだけが奇妙なほど静かな空間にいる気分になる。これが平穏というものだろうか。
「――お前、紅葉って見たことあるか?」
「まともに見たことないな。テレビの画面でだけ」
 時期が来ればこの一帯は紅葉が見事に色付き、冬には一面真っ白い雪に覆われる。陣内が語る情景をアガサは思い描いてみる。寒さと雪は勘弁だが、真っ赤に色づく紅葉の中で。
「また一杯やれるなら最高だね」

「UCさんほら見て、お魚焼きたてだったの」
 コマキに渡された岩魚を受け取り、遅めのランチを楽しむ。
 アマゾンのがっつり肉も美味かったが、この魚もなかなか。でもこれはもしやコマキが楽しげにしているからこその味わいなのでは……などと気づいてしまうウルトレスの隣で、コマキは地ビール『飛騨高山麦酒』の500ml瓶を片手にご機嫌そうだ。
「すっかり涼しい秋の空ねえ……」
 言われてウルトレスも空を見上げる。戦争したり運動会したりの忙しい夏の疲れを癒すような、穏やかな暮れ方の空である。徐々に下がる気温にそろそろ帰りを促そうかと考え、思い直して着ていたコートを脱ぐとコマキの肩にかける。
「あら……いいの? UCさんこそ寒くなったりしない?」
 無論と答える代わりに彼は表所を僅かに和らげる。
「もう少しだけ、のんびりしていきましょうか」
 コマキも頷いて微笑みを返した。
「そうね。一緒にゆっくりしましょ」

 夏の気配をすっかり隠し、徐々に冷えていく空の下。それぞれの手にほっこり温まる美味と、傍らに大切な人。提灯の仄かな明かりが、平和な一時を照らす夜はもう少し続く。

作者:林雪 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月23日
難度:易しい
参加:29人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 8
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