秋の夜長に死神の光

作者:雨音瑛

●祭りの後に
 少し前まで夏の祭りが行われていた神社は、静かなものであった。涼をもたらしていた風鈴はもちろん、今や出店の姿もない。
 丑三つ時ともなれば、なおさらだ。
 虫の声だけが聞こえる神社の境内では、深海魚のような怪魚が浮遊していた。体長は2メートルほど、その数は3、体は青白く発光している。
 風にたゆたうように泳ぎ回る怪魚たちの泳ぐ軌跡が、やがて魔法陣となって浮かび上がった。
 魔法陣の中心から、巨躯が1体召喚される。
 かつてこの神社の境内で、ケルベロスによって撃破された『ダヴィ』だ。
 しかしダヴィの目に光は無く、ぼんやりと口を開いた様子からは、まるで知性が感じられない。それでも鈍く光る銅の斧を手にしたダヴィからは、やけに戦闘的な気配が漂っている。
 直後、空から降ってきたものが着地した。
 それは、ダヴィに負けず劣らず大きな体をした男。金色をした剣を手に、男は舌なめずりをした。これからの戦いの予感を、楽しむかのように。

●再来
 とある神社の境内で、死神の活動が確認された。とはいえ、かなり下級の死神だ。この死神は浮遊する怪魚のような姿をしており、知性を持たない。
 けれど、と雅楽方・しずく(夢見のウンディーネ・e37840)はヘリオライダーから聞いた予知の内容を話し始める。
「怪魚型死神は、わたしたちが撃破した罪人エインヘリアルを変異強化してサルベージしてデスバレスへ持ち帰ろうとしているみたいなんです。ここまでは、死神が引き起こす事件としては珍しくない、ですよね?」
 表情を引き締め、しずくは続ける。
「今回は、罪人エインヘリアルがサルベージされるのと同時に、新たな罪人エインヘリアルが現れるんです」
 これは、エリン・ウェントゥス(クローザーズフェイト・e38033)が危惧していたことでもある。つまり、罪人エインヘリアルのサルベージを援護するエインヘリアルの妨害行動だ。
「サルベージされた罪人エインヘリアルは、出現してから7分後に死神によって回収されてしまいます。できることなら、その前に撃破したいんですが……今回は、いろいろと大変なんです。純を追って説明しますね」
 異変強化してサルベージされた罪人エインヘリアルは『ダヴィ』という。かつてしずくが仲間と協力して倒したエインヘリアルで、今回はルーンアックスを装備している。
「ダヴィは、知性を失った状態です。しかし、新たに出現するエインヘリアル……こちらは名を『ハーゲン』というそうなのですが、とても攻撃的なんです。ケルベロスが現れれば問答無用で攻撃を仕掛けてくる――戦闘狂、というやつですね。ハーゲンはゾディアックソードを2本装備しているようです。二人とも攻撃力が高いそうなので、要注意ですね」
 そして、今回の敵はエインヘリアルだけではない。
「さらに、怪魚型死神3体。盾役として立ち回る彼らは、噛みつく攻撃をしてくるんだそうです。あまり強くはないみたいですけれど」
 また、ケルベロスが駆けつけた時点で周囲の避難は行われている。だが、広範囲の避難を行った場合はデウスエクス側がグラビティ・チェインを獲得できなくなると判断し、サルベージする場所や対象が変化してしまう。そうなると事件の阻止は不可能ということから、戦闘区域以外の避難は行われていない。
「サルベージされたダヴィの方は、グラビティ・チェインの補給を行わない状態でも7分後に回収されてしまいます。そういうわけで、ダヴィによる一般人への被害は考えなくてよさそうですね」
 だが、問題はハーゲンの方。彼は回収されないため、ケルベロスが撃破に失敗した場合はかなりの被害が予想される。
「エインヘリアル2体と深海魚型の死神3体が相手なので、かなり苦戦するかと思います。……でも、わたしたちはケルベロス。きっと、勝機はあるはずです!」
 いっそう静けさを増す秋の夜。この静寂と平和を乱すわけにはいかない。


参加者
ルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)
トライリゥト・リヴィンズ(炎武帝の末裔・e20989)
アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)
雅楽方・しずく(夢見のウンディーネ・e37840)
那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)

■リプレイ

●思惑
 虫の鳴き声だけが聞こえる深夜の神社で、不気味な深海魚たちが泳いでいた。
 駆けつけたケルベロスたちを出迎えたのは、深海魚型死神3体とエインヘリアル2体。
「んだァ……? ああ、ケルベロスか。とっととやっちまおうぜ、相棒――つうのも、何か違うか、まあいい。俺は、暴れられればいいんだ」
 下卑た笑みを浮かべるエインヘリアルは「ハーゲン」という名の個体。ハーゲンは手にした二本の剣、その片方で地面に星座を描いた。石畳の削れる音に続き、加護の星辰が浮かび上がる。
 それが合図であったかのようにエインヘリアル「ダヴィ」が動き出した。瞳の光を失ってなお、その動きは戦士のもの。斧のルーンを発動し、俊敏に的確にアビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)へと振り下ろす。さらに襲い来る深海魚たちの噛みつきから仲間を庇うアビスの表情は、冷静そのもの。
「生きてようが死んでようがどっちでもいいけど、ここを通す気も回収させる気もないから。覚悟してよね」
 瞬きひとつ、アビスの手刀から冥府深層の冷気が解き放たれた。凍てつく敵軍を前に、ボクスドラゴン「コキュートス」は甲斐甲斐しく主を癒す。
 次いで動いたのは、ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)。
「Weigern…」
 囁くような言葉は、太古の魔術の詠唱。召喚された精霊は約束のもと、ハーゲンの治癒を阻害する術をかける。
 その効果に気付いたハーゲンの舌打ちが、境内に響く。気付けば、虫の声が聞こえなくなっていた。
 夜討ちか朝駆けか、どちらにせよ嫌な時間だ。
 だが、時間よりも気に掛かるのは死神とエインへリアルが共闘していること。
「異なる種族同士が手を取り合う……まるでケルベロスみたいね。最近こんなのばかり、裏で動きを纏めている奴でもいるのかしら?」
 視界の端には、到着直後に置いた記録用のカメラ。リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)はゲシュタルトグレイブ「星輝槍」にて回転斬撃を繰り出た。
 乱れた戦列を前に、イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)が黒き鎖を展開して防備を固める。先ほどのリリーの発言も気になり、首を傾げた。
「死神とエインヘリアルって仲良さそうじゃなかったのに……サルベージをエインヘリアルが手伝ってるの? いつの間に手を結んだのかなぁ」
「そうだねえ、リリーちゃんやイズナちゃんの言うとおり、気になることは多いよね。それにしたって、一度倒した敵を起こしたり持って行こうとするなんてはた迷惑だってーの」
 攻性植物の形状を変化させながら、ルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)が進み出る。
「まぁいいよ、抵抗したって問答無用で倒すから♪」
 頭につけたライトがつくる、光の道。それをガイドにして、ルアはダヴィを締め上げた。
「それぞれが勝手に暴れるだけのてめぇらに、ケルベロスは負けねぇ! セイ! 俺たちの連携、見せようぜ!」
 トライリゥト・リヴィンズ(炎武帝の末裔・e20989)による竜の砲弾が撃ち出された後、ボクスドラゴン「セイ」が信頼に応えるようにアビスへと属性を注入する。
 頭上から襲い来る弾丸を受け止めたダヴィへ、すかさず雅楽方・しずく(夢見のウンディーネ・e37840)が音速の拳を叩き込む。
「またお会いしましたね、ダヴィ。今の姿と力をあなたが望んでいたのかは分かりませんが……今度こそ、終わらせてあげましょう」
 しずくが見上げた先の顔は見知ったもの。対してダヴィは返答も反応もない。
「つい最近倒されたのまで蘇らせてるんだね。よっぽど急いでるのかな?」
 オウガの粒子で前衛を照らしながら、那磁霧・摩琴(医女神の万能箱・e42383)が首を傾げる。
 そうして持ち込んだ広域ライトで周囲を照らしつつ、文字盤が発行する腕時計に視線を落とした。
「あと6分!」

●作戦
 タイムキーパーを務める摩琴の声を気に掛けながら、ケルベロスたちはダヴィに攻撃を重ねてゆく。
「……かなり不利、だね……」
 癒しの花びらを振りまきながら、イズナがつぶやいた。
 当初の作戦として、優先撃破は、ダヴィ。次いでハーゲン、または深海魚型死神。
 最初にダヴィを撃破するためには、7分間集中攻撃をする必要がある。
「ダヴィを7分以内に倒せたとしても、その後は絶対に長期戦必至になるよね……その長期戦でわたしたちが負けるようなことがあれば……」
 イズナが、息を呑む。
「人々が虐殺されてしまう……」
 その言葉を聞いて、ケルベロスたちの動きが止まった。
 今回の敵を相手に完全勝利を目指すのは「一般人が多数犠牲になっても問題ない」と判断しているのと同等だ。
 この場に駆けつけたケルベロスたち全員が、そのような判断を肯定できるだろうか。
「完全勝利は……ボクたちのワガママ、だったかもしれないね」
 俯いた摩琴であったが、すぐに顔を上げて元気に宣言する。
「優先順位を変更しよう! まずはハーゲンの撃破を!」
 この場を切り抜ける決意をより強く抱き、
「みんなの情熱に一陣の風を! アンスリウムの団扇風!」
 摩琴はガンベルトの薬瓶を投げて割った。広がった薬品による赤・白・緑のアンスリウムの幻影が、高揚感を与える。
「摩琴の意見に、従います。人々を守れないで、何がケルベロスでしょう!」
 親友に強気の笑みを向け、しずくは石畳を蹴った。次の瞬間には、空中。エアシューズに重力と星屑を纏って、ハーゲンを蹴りつける。
「なんだなんだ、今さら作戦変更かァ?」
 しずくの跳び蹴りを腕で受け止め、ハーゲンが笑う。
「臨機応変は悪いことじゃないだろ? まあまあピンチだけど、気付けただけでも上々、ってね」
 踏み出し、ルアは正義の草刈鎌を投げつけた。
 残り、3分。そう告げる摩琴の声が境内に響く。
 無反応を貫くダヴィは、斧を掲げてルーンの加護をハーゲンへと与える。
「いいねえ、相棒」
 加護を受けるや否やハーゲンは飛び出す。加護を破壊する斬撃が、ヴォルフに振り下ろされた――が、コキュートスがヴォルフの前に出る方が早かった。身を挺したコキュートスが、重い斬撃で消滅する。
「……コキュートス――」
 アビスがハーゲンを睨むが、当のハーゲンはどこ吹く風。口笛を鳴らし、深海魚型死神をけしかける。
「まずは1体、か。文句があるなら力で示すんだな」
「ならば示してやろう」
 ダヴィに狙いをつけていたゲシュタルトグレイブ「Unterwelt」の穂先をハーゲンに向け、ヴォルフは間合いを計る。
 穂先からハーゲンまでの距離、必要な歩数は正確に把握しているヴォルフだ。あとは雷を纏わせて突きを繰り出すだけでいい。
 稲光が貫いたのはハーゲン、ではなく深海魚型死神。ハーゲンを庇い立てた個体は、瞬く間に消滅する。
「力を、示す? たかがお前相手に……」
 目の前でコキュートスが消滅してなお、アビスは冷静さを失わない。自身と味方の消耗を確認し、ヴォルフへとバトルオーラ「abs-frost」の癒しを放った。
「……そうね。さすがに一般人を犠牲にしてまで完全勝利を狙うことはできないわ」
 思案顔で、リリーが口にする。ダヴィの回収は悔しいが、ハーゲンを撃破すれば人々への被害を防げるのは確かなことだ。
「あらゆる悪意を風に乗せ 地獄の咢は開かれん されど放たれし矢は 巻き上がる炎は 大地の壁に阻まれる 全ては星の御心のままに」
 だから過たず勝てるように。リリーは星とリンクして古の戦歌を歌い上げた。大地の加護による絶対防御障壁は、薄緑の光の角柱となって前衛を護る。
「そうだな、俺たち人々を守るために戦ってるんだからな!」
 まだまだ戦況は、ケルベロスたちが不利。それでも、力を合わせれば困難を切り抜けられる。そう信じて、トライリゥトは躊躇なくハーゲンの懐の飛び込み、凍てつく一撃を叩き込む。そんな彼を応援するように、セイも属性を注入した。

●回収
 優先撃破する相手を変更してなお、ケルベロスは今だ苦境に立たされていた。
 とはいえ、ケルベロスたちの決意は微塵も揺らがない。
 ダヴィが回収されれば、あとはハーゲンと深海魚型死神を相手取るだけ。
「そこまで持ちこたえれば……きっと、勝てる! 残りゼロ、7分が経過したよ!」
 摩琴が叫ぶが早いか、ダヴィが回収されてゆく。
 残るは、ハーゲンと深海魚型死神2体の計3体だ。
「さーて、脇役は退場だ。主役の俺がめいっぱい相手をしてやるぜ!」
 ハーゲンが、二本のゾディアックソードに重力を宿し始める。駆け出したハーゲンは、二本分の剣の軌跡が、交差した。
 間に合わず、ヴォルフが膝を突く。
「……厳しいな。すまないが、少し離れている」
 戦列から離れたヴォルフは、境内の大樹に背を預けて意識を手放した。
「ヴォルフさんはそこで休んでて! ……これ以上、みんなを傷つけさせないんだからね!」
 深海魚型死神と仲間の間に割り込んだイズナが、威嚇するように槍を構える。武器でダメージを軽減することはできないが、それでも構えずにはいられない。もちろん、アビスも共に仲間を庇い立てる。
 イズナとアビス、二人の傷は深い。でも、とアビスは六角形をした氷の盾――氷盾結界・多重障壁を展開した。
 六角形の大きな氷の盾が宙に現れると同時に、イズナの傷が癒えてゆく。
「ありがと。でも、アビスも無理しないでね?」
 イズナは手のひらにきらめく金色の火と灯し、アビスへと宿らせた。アビスの傷は、まだ完全には癒えていない。それを見て取った摩琴が、自身とアビスを霊的に接続し、大きな癒しを与える。
「……ありがとう」
 礼を述べるアビスの視線は、ハーゲンに固定されている。猶予のない戦闘だからか、それとも――。
「どうした、悪あがきは終わりか?」
 二本の剣を振り回しながら、ハーゲンがにたりと笑う。
「まっさかー。ところで、力を見せて欲しいんだっけ? それなら存分に見せてやるよ♪」
 どこか冗談めかした物言いで、ルアが全身にグラビティ・チェインを纏い始めた。身構えるハーゲンに向かって、
「ひゃっほー!」
 と、楽しげな叫びを上げながら決めたのは、体当たり。しかしエインヘリアルに当たったにしては随分と軽い手応え。よく見れば、ルアの目の前で深海魚型死神が消滅したところであった。
「ありゃ、庇われたか。でもま、邪魔者がいなくなるのは良いコトだしね」
 ポジティブに捉えるルア。対して、しずくの表情は真剣そのもの。そのうえ、死神が庇い立てる間にハーゲンの背後へと回り込んでいた。
 接続した如意棒を百節棍へと変え、勢いのままに打撃を重ねる。
 癒し手を務めるセイも、一生懸命だ。イズナへと属性を注入し、気遣わしげにトライリゥトを見る。
「俺は大丈夫だぞ、セイ。……にしても、部位狙いで集中力を乱せるとかできれば良かったんだけどな。部位狙いが有効なのは、非戦闘時だからな」
 それに、今の状況で部位狙いをする余裕は無いと判断するトライリゥト。
「死神はあと一体か。俺は先に死神を仕留めるぜ!」
 泳ぐ相手を的確に追尾し、トライリゥトはドラゴニックハンマーに全魔力を込め始める。
「この一撃!受けてみやがれ――!」
 気合と共に打ち下ろす動作は、豪快そのもの。トライリゥトがベルトにつけた天光のランプが大きく揺れると、最後の深海魚型死神が弾け飛んだ。
「あとはハーゲンだけね――あらゆる悪意を風に乗せ 地獄の咢は開かれん……しかして天は、悪しき歩みを裁かれん!」
 リリーの歌い上げた「星唱・招雷」で、ハーゲンに付与された戒めが増えた。
 残り1体、だからこそ集中しなければならない。無数の傷を体に負ったハーゲンを見たリリーは、
「今はまだ、勝てる、と断言しない方がよさそうね」
 至極冷静に告げた。

●勝機
 余裕の笑みを見せていたハーゲンの表情が疑問を帯びたものに変わったかと思えば、今や不機嫌そのものになっている。
「おいおいおい、なんでこの俺が押されてるんだァ!? さっきまで俺の方が優勢だったじゃねぇか、どうしてくれるんだ、あァ!?」
 怒りにまかせた、ハーゲンの斬撃。繰り出された強靱な一撃を正視するリリーの前に、アビスが割り込んだ。
「流石にきつい、か……」
 ダヴィからも、死神からも、幾度となく仲間を庇い立てたアビス。回復可能ダメージが蓄積したアビスはハーゲンの斬撃に耐えきれず、落ちる。
「アビスさんっ!」
「……大丈夫。きっと、勝てる。だから、あとは任せたよ」
 そう告げて、アビスはゆっくりと目を閉じる。
「ありがとう……アビスさん」
 これで戦闘不能は2人と1体。彼ら彼女らのためにも、ここで退くわけにはいかない。
 だからリリーは、凛とした声で歌う。
「あらゆる悪意を風に乗せ 地獄の咢は開かれん……厄災は広がる、蝕む、その矢尽き斃れるまで!」
 その歌は「星唱・妨瘡」。与えた状態異常を増やす歌だ。ヴォルフの与えたアンチヒール、アビスの与えた氷は未だ残り、いまリリーの歌でいくつも増えてゆく。
 イズナの体力もまた、尽きようとしていた。
「でも……まだ、耐えてみせるよ!」
 イズナの黒き鎖のよる癒しと加護が前衛に届くと、魔法の木の葉がしずくを包み込んだ。しずくの隣に立つ、摩琴によるものだ。
「さあ、行って、しずく!」
「はい、行きます!」
 親友の援護を受けたしずくは、駆けながら空気中の水分を凝縮させて一振りの剣を生み出した。途中の灯籠を蹴り、ハーゲンの頭上に踊り出る。
「この一撃で、あなたを」
 迷いの無い太刀筋は、上段からの振り下ろし。
「は、その程度」
 ハーゲンが油断したのは身軽なしずくの動きゆえか、透明な刃が脆弱に見えたからか。ハーゲンの予想とは裏腹に、刃は彼の胸元に垂直の傷を刻み込む。
 しかしまだ、ハーゲンは存命だ。
「やるねえ。でも、これで終わりにしてやるよ。覚悟しな」
 正義の草刈鎌、その刃に「死」の力を纏わせるルア。首筋目がけて振り下ろす軌跡は一直線、躊躇の遠慮もなし。
「な――」
 目を見開くハーゲンが最後に聞いたのは、木々のざわめき。
 木の葉舞う中でハーゲンの首は落ち、あたりには静寂が満ちた。倒れ伏したハーゲンは、黒い霧のようになって消滅する。
「これで神社の平和も戻りました……だな。いずれ、大元をぶっ潰してやるぜ」
 武器を収めたトライリゥトの表情は晴れなず、闇夜を見上げるばかり。
 記録用のカメラを起動したリリーは、映像が撮れていることを確認する。何かが映っていたとしても、確認するのはこの場を離脱してからになるだろう。
 ヒールと片付けでその場を修復すると、ヘリオンの音が近付いてくる。あとは負傷した仲間とともに帰路に就くだけだ。
「……お騒がせ、しました」
 鳥居をくぐったしずくは、神社に向けてゆっくりと頭を下げた。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月16日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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