松茸以外のキノコの台頭絶許!

作者:質種剰

●松茸至上主義
 秋のデパート。
『主婦と財布の味方! エリンギ特売日!』
 食料品売り場の入り口には、暖色のポップがデカデカと掲げてあった。
 その下では、軸の太いエリンギがまるで薪のように山と積まれて売られている。
 どうやら詰め放題方式らしく、コーナーの周囲では目の色を変えた主婦が、袋がはち切れんばかりにエリンギを詰め込んでいる。
「主人が、テレビで見たエリンギのステーキ食べたいって言うから」
「うちはインスタントのお吸い物で炊き込みご飯にするの、松茸って誤魔化して」
「エリンギは良いわよね、お財布にも優しいし」
 と、誰もがエリンギ贔屓の中。
「松茸以外のキノコを尊ぶ輩は許さーん!!」
 実に空気の読めないビルシャナが、配下と共に乱入してきた。
「松茸こそがキノコの中で最高に旨いのであるッ!」
「そうだそうだー!」
 勝手な理屈で買い物客を襲い始めるビルシャナと配下達。
「キャー!」
「助けてー!」
「松茸以外のキノコにうつつを抜かすなど断じて許すまじ!」
 エリンギの山は床へ無惨に散らばり、ホールには逃げ惑う客の悲鳴が木霊した。


「京都市のデパートが、近々ビルシャナの襲撃を受けるようなのであります」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)が、困った様子で語り始める。
「首謀者は、個人的な主義主張によってビルシャナ化してしまった人間でありまして、個人的に許せない対象として『松茸以外のキノコ全般』を選んだのであります」
 ウィリアム・ライムリージス(赤き薔薇の参謀士官・e45305)の調査によって存在が確認されたそのビルシャナは、名を『松茸以外のキノコ絶許明王』と言う。
 奴はデパートの営業時間内に配下を引き連れ、正面入り口から押し込むようだ。
「秋の味覚と言えばやはり松茸ですもんね。かけらくんは松茸好きですか?」
「あいっ、大好きでありますよ♪」
 思わず瞳を輝かせたのを自覚するや、こほんと咳払いするかけら。
「しゅ、修学旅行で松茸の土瓶蒸しが出てきたのでありますよ……! ともあれ、皆さんにはそのデパートへと先回りなさって明王を迎え撃ち、しかと討伐して頂きたいのであります。宜しくお願いいたします」
 松茸以外のキノコ絶許明王は、何より異端者を敵視しているため、ケルベロス達が何々最高だとキノコ名などを声高に叫べば、襲撃の手を止めてその主張に聞き入る筈だ。
「明王は、彼の主張に賛同する一般人を15人配下として従えているであります。しかし当人が教義の浸透よりも異端者狩りへ力を入れているせいか、未だ完全には開眼してません」
 それ故、ビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、戦わずして配下を無力化、人間へ戻す事ができるかもしれない。
「配下達は、明王が撃破されるまでは戦闘に参加して皆さんへ襲いかかるでありましょう。ですが、一番先に明王を倒せば助けられるであります」
 戦闘時に配下が多くなれば、それだけ戦いで不利になる為注意。
 さらに、明王より早く配下を倒してしまうと往々にして命を落としてしまう事も、決して忘れないで欲しい。
「松茸以外のキノコ絶許明王は、ビルシャナ経文とビルシャナ閃光を用いて攻撃してくるであります」
 理力に満ちた破魔の光である閃光は、複数の相手にプレッシャーをもたらすかもしれない遠距離攻撃。
 また、敏捷性が活きた謎の経文は、遠くの相手を催眠状態にする事もある単体攻撃だ。
「15人の配下は、大きな背負い籠を武器代わりに殴りかかってくるであります」
 もっとも、説得にさえ成功すれば配下は正気に戻るため、明王1体と戦うだけで済む。
「配下となっている一般人の方々は、明王の影響を受けていますので、理屈だけでは説得できないでありましょう。重要なのはインパクトでありますから、そんな演出をお考えになるのもオススメであります」
 ——今回ならば、やはり『松茸以外のキノコの旨さ』を推すべきでしょう。
「エリンギに椎茸にしめじになめ茸、マッシュルーム、トリュフ……松茸以外にもキノコは沢山ありますから、どうぞ、美味しいキノコ料理を振る舞って差し上げてくださいませ♪」
 かけらはにっこり微笑んでから、
「明王当人はもうお救いできませんが、デパートの買い物客や配下達をどうかお助けくださいませ。皆さんのご武運をお祈りします」
 ケルベロス達を彼女なりに激励した。


参加者
アイン・オルキス(矜持と共に・e00841)
ズミネ・ヴィヴィ(ケルベロスブレイド・e02294)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)
フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)
ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)
ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)

■リプレイ


 食料品売り場の入り口。
「松茸以外のキノコを尊ぶ輩は許さーん!」
 明王が配下を多数引き連れ襲撃をかけてきた時、既にケルベロス達は買い物客や店員を避難させた状態で奴らを待ち構えていた。
「お買い物をお楽しみの皆様、慌てず落ち着いての移動をお願いします」
 割り込みヴォイスを使って避難誘導を一手に引き受けてくれたのは、ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)。
 避難を終えたら終えたで、『キノコ料理フェア』ののぼりを設置、キノコ料理試食のブースを作っていた。
 配下15人へじっくりキノコ料理を楽しんで貰う為の、細やかな心配りか。
「皆様、どうぞこちらへ。只今キノコ料理フェアを開催中ですわ!」
「キノコ料理フェアだと?」
 エリンギの山へ体当たりしそうな勢いの明王達を呼び止めて、試食ブースへ案内するルーシィド。
 ブースでは、ウィリアム・ライムリージス(赤き薔薇の参謀士官・e45305)とガイバーン・テンペスト(洒脱・en0014)が席に着いていた。
「さぁ始まりましたキノコ料理フェア! 実況はわたくしウィリアムと、解説はガイバーンくんでお届けします!」
「宜しく頼むのじゃ」
 スピーカーに繋がったマイクを前に、仲間のキノコ料理を解説するつもりらしい。
「貴様らが松茸を讃えているのは旨さの一点張りか。だがそれだけで民衆は納得すまい」
 まずは、アイン・オルキス(矜持と共に・e00841)が、配下達へ向かって先制パンチを喰らわすべく、舌戦を仕掛ける。
(「さて、どう言いくるめたものか……」)
 クールな佇まいの裏で密かに頭を悩ませているアインだが、配下を教義から解放したいという意志の強さは、そのはっきりした物言いからもよく伝わってくる。
「松茸そのものが悪い訳ではない、贅沢品ではあるがな。民衆は、限りある予算の中で良き生活を送ろうとしている」
 とは言え、せっかく骨子のしっかりした演説なのに前後の繋がりが切れていて、
「だが貴様らの行いは共存を捨て、一を讃え他を排除する悪の行いだ」
 共存が指す意味を一度聞いただけの配下達では理解しかねるのが、実に残念である。
「貴様らがこのような暴挙を行うのは勝手だが、その場合何が犠牲になると思う?」
「どうせ、松茸以外のキノコってんだろ」
「否、松茸だ」
「えっ?」
 予想外の答えに驚く配下達へ構わず、アインは続ける。
「そもそも松茸というものが存在するから貴様らは暴挙を働くのだ。となれば、民衆は松茸そのものを責める。『こんなものが無ければ』と」
 この辺りは、アインの滑らかな弁舌が特に冴え渡っている。
「いずれは市場に松茸が出回ることも無くなるだろう」
 そんな予測をして、配下達を絶望の淵から突き落とすのも素晴らしい手並みだ。
「好きが過剰になって起こしたことで松茸が消えたとなれば、貴様らの行為は無駄でしか無いのだ」
 しかし、アインの主張で惜しむらくはその方向性。
「そうか……俺達の突撃は松茸布教に逆効果だったのか」
「松茸が一番だって世間に浸透させる為にはもっと慎重に動かなきゃいけないんだな……」
 配下達が悔しがるのは良いのだが、アインは暴力沙汰について警鐘を鳴らしただけで、松茸教から脱却するようには仕向けていない。
 それ故、配下達は暴力行為こそ反省したものの、松茸教へ囚われた心には何のダメージも受けなかった。
「確かに、松茸は美味しいですね。しょっちゅう食べてます」
「お、マジで? 松茸教の同志じゃん」
「教祖様、新たな入信者が!」
 次いで、ズミネ・ヴィヴィ(ケルベロスブレイド・e02294)は野菜売り場から迷いなく商品を取って、配下へ見せつけた。
「って、それしめじじゃん!?」
「松茸食ってるて嘘だな」
 呆気に取られた配下がツッコむ。
「嘘じゃないもん!? 実家じゃ昔から松茸と言えばこれだもん!」
 それでも懸命に抗弁するズミネ。
「可哀想に……本物の松茸を食べさせてあげられない親御さんが、娘さんを喜ばせる為に哀しい嘘を……」
 思慮の浅い配下が彼女を憐れむのも無理はなかった。
「私、精神的ダメージを受けました。これは許せそうにありません……!」
 とは言え、赤の他人に勝手な同情をされてズミネが激怒するのも当然の話。
「本来なら精神的慰謝料を要求するところですが、友人の山で採れたしめじのバター焼きの素晴らしさを味わってください」
 肉厚で味もかなり濃いしめじを用いた、温かなバターの香りが食欲唆るバター焼きを、彼らへご馳走した。
「ん、バターは香ばしいし、焼けたしめじの軸に味もよく染みていて」
「これは旨い!!」
 配下達は箸をつけるなりしめじの美味しさに感動し、ズミネの自信通りに心を躍らせた。
「いやー何とも美味しそうなバター焼きですねガイバーンくん」
「うむ、見てるだけで腹が鳴るのう」
 実況と解説もし易そうだ。
 だが。
「これだけ旨けりゃ、松茸と思い込むのも当然だな!」
「松茸の旨さを再現する為に旨いしめじ料理を作ってくれた、良いお母さんじゃないか!」
「やっぱ松茸のネームバリューは凄いな! こんなに旨いバター焼きのしめじを松茸と信じる人がいるんだから!」
「ご実家の親御さんを大事にしろよ!」
 ズミネがしめじを松茸と勘違いしたせいで、折角のバター焼きの感動が松茸より上だとは誰にも捉えて貰えず、却って配下達の松茸神話を補強してしまった。
「すぐ出来ますのでお待ちくださいね」
 彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)は、早速携帯用コンロの前へと立って、何やらステーキを焼く準備を始めた。
「おや、彼方くんが取り出した牛肉は、ビニール袋に入っていますね」
「下拵えしてあるんじゃな」
 ウィリアムが具に実況する。
 細かく刻んで繊維も叩いた舞茸を少量の水で溶いたものへ肉をしっかり漬け込んで、冷蔵庫にて半日寝かせておいたのだ。
 その肉を袋から取り出し、舞茸の欠片と水気を拭って、塩胡椒を振り振り焼く。
「マイタケ仕立てのステーキです」
 これぞ、悠乃が配下説得の為に用意した切り札、牛肉のステーキの完成だ。
「マイタケは肉の主成分であるタンパク質を分解する酵素を多く含むため、硬いお肉も柔らかくしてくれます」
 笑顔で配下達へ解説する悠乃。
「また、タンパク質が分解されるとアミノ酸になりますが、これは旨味成分となり、味わいを増してくれます」
 悠乃の言う通り、舞茸の酵素を頼みにステーキを焼く自体は何も間違っていない。
「これはマツタケではできない味わい方なんです」
 しかし、悠乃はステーキそのものをご馳走しただけで、舞茸の味わい方を何ひとつ示していない。
 ステーキならソテーした舞茸を添えるとか、刻んだ舞茸のソースを肉にかけるとか、幾らでも工夫できるのにも拘らずだ。
「うん、箸でも切れる柔らかさだし、旨いステーキだけどさ」
「いや、肉じゃん。舞茸どこにも無いじゃん」
 なのである。
「肉の柔らかさと増えたアミノ酸が舞茸のお陰なら、舞茸使わず焼いた同じ肉も比較に食わせてよ」
「そうそう。普通にランク高くて超柔らかい高級肉焼いたんじゃねーの?」
 あくまで悠乃が示したのは『舞茸を使うメリット』であり、食べるメリットでは無い。『松茸以外のキノコの旨さ』という主張からもズレている。
「松茸なら日頃食ってるし、他のキノコ料理出されても脳内で比較できるけど」
「安い肉の硬さは知らないよ……」
 その上、タンパク質分解酵素の働きを証明する為の手間も怠っていた為、配下の疑いは晴れない。


「元々あたしは言葉は得意じゃないからね。食べてくれればそれでいいわ」
 そう言い切ったフレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)は、独りで手際よく複数の鍋やフライパンの面倒を見ていた。
「松茸が最高というのであれば、食べてもその心は揺るがないのでしょう?」
 にっと笑ってフレックが最初に振る舞ったのは、舞茸の白和え。
「まずは前菜ですかね」
「じゃろうな。何品出てくるか楽しみじゃのう」
 実況が始まる傍ら、くつくつと湯気の立ち昇る土鍋からはしめじの良い匂いが。
「舞茸ってどんな風に調理しても旨いんだな」
「土鍋の良い匂いも気になる……」
 次は、舞茸としめじのソテーに、舞茸単独の醤油バター炒め、更にエリンギのバターソテー。
「これはどう見ますかガイバーンくん」
「食べ比べをして違いを楽しんで貰おうという趣向じゃな」
 2人に説明を任せて、フレックは鍋でオリーブ油を熱している。
「ヤバい、この醤油バター炒めお代わりしたい!」
「エリンギのバターソテー食べ応えあるし味も最高」
 配下達は三種の焼き物の旨さへ素直に感嘆した。
「おっと、ここでキノコのアヒージョにエリンギとベーコンのパスタが登場です」
「どちらもオリーブ油が決め手じゃな」
 エリンギやしめじ、舞茸はどれも油と相性が良く、特にエリンギは刻みニンニクの風味をしっかり受け止めてくれる。
 パスタのベーコンにも負けない、それでいて主張し過ぎない程々の存在感は、到底松茸には真似できまい。
「アヒージョ癖になる味だわ」
「パスタも旨ぇ」
 続いては、しめじと舞茸、ごぼうを合わせた炊き込みご飯、舞茸の天ぷらに具沢山きのこ汁。
「ああ、これがさっきの土鍋か。想像以上の旨さだな!」
 見事な和食攻めも配下達の舌を楽しませた。
「いよいよキノコフルコースのイチ押しか、ロッシーニのお出ましです!」
「贅沢の極みじゃな」
 フォアグラと極上牛フィレ肉を焼いて重ねた上に、黒トリュフを乗せてトリュフソースをかけた逸品。
「これは……負けた」
「これが黒トリュフの香りか……!」
 元より松茸という高級志向に毒されている配下達が、黒トリュフに心動かされない筈もなく、とうとう敗北宣言まで飛び出した。
「そして! キノコオムライス! 卵の中にたっぷりのチキン茸ライス入りよ!」
 最後は、フレック自身がご自慢の手料理を声高らかに述べる。
「うわ、このライスの味……!」
「キノコとトロトロ卵の馴染み具合半端ねぇ!!」
 配下達は悔しそうな表情ながら、スプーンを持つ手は止まる事なく、キノコオムライスをみるみるうちに完食した。
「松茸以外にも美味しいキノコはある。それを否定する必要なんてないの」
 フレックは仲間へも手料理を薦めつつ、爽やかに締め括った。
「せっかくの秋の味覚なんだから何でもおいしくいただけばいいのに……」
 氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)は、控えめに正論な私見を呟く。
 黒髪を隠した若草色の三角巾と秋らしい濃いブラウンのエプロンが、清楚な雰囲気の彼女によく似合っていた。
「松茸の良さで一番に言われるのは香りよね?」
「勿論だ」
「でも、香りが重要って事は、合わせる食材が限られるとは思わない?」
 コンロに乗せて使うレンジトップオーブンから、熱々のグラタン皿を取り出して微笑むかぐら。
「これは氷霄くん、早速鋭い指摘ですねー」
 ウィリアムが言う通り、配下達はぐうの音も出ない。
 何故ならついさっきまで食べていたキノコ尽くしこそが、かぐらの説を殆ど証明していたからだ。
 バターソテー、アヒージョ、ベーコンパスタ、ロッシーニ、オムライス……。
 これらに使われているキノコを松茸に変えたとして、果たして元の料理とどちらが美味しいか。
「くっ、確かに……どれも松茸では香りが強過ぎて他の食材と喧嘩してしまう!」
 配下が文字通り頭を抱えるのも尤もである。
「わたしが作った『たっぷりキノコのチーズグラタン』も、松茸には合わないレシピのひとつよ。ほら、こんがり焼けたチーズの香りがおいしそうでしょ?」
 かぐらはにっこりと笑って、出来立てのチーズグラタンを薦めた。
「そんなチーズに負けない味を持った、たくさんのキノコが入ってて言うことなしよ」
 実際、焦げたチーズが泡立つ表面だけでも、大ぶりの椎茸、マッシュルーム、エリンギ、しめじがこんがり良い色に焼けた顔を覗かせている。
「それに、香りだけじゃお腹いっぱいにならないでしょ」
「ぐっ……」
「『香り松茸味シメジ』、やっぱり最後は美味しく味わってこそよね」
 かぐらのシンプルながら説得力ある論理と、香ばしいチーズの匂いに配下達は打ちのめされて、グラタンを食べ始めた。
「……あー、旨い! 溶けたチーズがキノコに絡んで」
「なんでグラタンのホワイトソースってこんな旨いんだろな」
「マッシュルームやしめじにもよく合うし!」


「松茸の天麩羅をどうぞ」
 ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)はにこやかな微笑を浮かべて、配下達へ揚げたての天ぷらを薦めた。
 ルーシィド持参のカセットコンロでつい今し方揚げていたので、周囲に松茸の良い香りが漂っている。
「あー、松茸は何度食べても美味しいな」
「衣のサクサク感と松茸の香ばしさがマッチして……」
 配下達は我先にと天ぷらへ箸を伸ばして、その慣れ親しんだ味に大絶賛。
 彼らが松茸の味に酔い痴れたのを見計らって、ぱんと手を合わせるジュスティシア。
「ごめんなさい、実はエリンギなんです!」
 同時に、松茸風味のお吸い物の空き袋とエリンギのパックも掲げた。
「嘘ぉぉぉ!!?」
 配下達の驚愕具合たるや尋常ではない。
「お吸い物程度に騙されるんじゃ、松茸に固執するなど無意味ですね。大体、本当に松茸食べた事あるんですか?」
「やだなぁ本物な訳ないじゃないですか。本物の国産松茸なら幾らかかる事やら、解らない貴方達じゃないですよね?」
 ジュスティシアとウィリアムは、松茸とエリンギの区別がつかずに打ち拉がれる配下達を見て、より多くの精神的ダメージを負うように考え抜いた挑発で、存分に煽り立てた。
「クソぅ騙された!」
「俺は小遣い全部はたいて松茸をより多く食ってるのに!」
 地団駄踏む配下達。松茸と騙してエリンギを食べさせてショックを与える——実に上手い作戦だ。
「続いてジュスティシアくんが作ったのは、旬のキノコがたっぷり入った豚肉のみぞれ鍋です!」
「椎茸、しめじ、エノキや舞茸が沢山……まさにキノコ尽くしじゃ」
 ウィリアムとガイバーンの声にも熱が入る。
「主役は豚肉、準主役は大根おろしです。キノコはただの添え物ですからどうぞ」
 ジュスティシアが熱く煮えた椎茸等をよそって配膳する。
「ん、旨い! 椎茸が豚肉や大根の旨味を吸ってて」
「しめじも良い味出してるな……主役の豚肉にも引けを取らない」
 夢中でみぞれ鍋を食べる配下達。
「さて、ジュスティシアくんの3品名は、なめたけと生卵をかけた熱々ごはんです!」
「なるほど、シンプルイズベストじゃ。これは日本人なら抗えまい」
 実況音声が響く中、あくまで裏方に徹して配膳を手伝うルーシィド。
「なめ茸の粘りや濃い旨味が卵の黄身の濃厚さと相俟って」
「これは止まらない旨さだな! 鍋の締めにもぴったりだ」
 配下達は、みぞれ鍋となめ茸ご飯をすっかり平らげてから、我に返った様子で。
「松茸より鍋の椎茸の方が好きかもしれん」
「こんな卵かけごはんなら毎日でも食いたい」
 松茸以外のキノコへ心惹かれるのをはっきりと自覚していた。
「やれやれ、お吸い物で味つけした天ぷらに騙されていたようだが、マツタケ味のお吸い物は調味料でマツタケ風味なだけだ」
 そんな配下達へ追撃をかけるのは、ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)。
「中に入っているキノコもマツタケでなくシイタケだぞ?」
「マジかよ……」
 のっけから配下達へ隙のない口撃を浴びせた。
(「マツタケか……日本人なら食欲を唆られる匂いなんだろうが、私にはどうも革靴を履き続けてむれた足のような臭いがして苦手なんだがな……」)
 内心、松茸を忌避する気持ちがあるものの、真面目なジークリットはおくびにも出さず、丁寧に調理を進める。
(「ま、郷に入れば郷に従えだ。食わず嫌いは以ての外だしな」)
 完成した料理からは、ふんわりと松茸らしき香りが漂っていた。
「おっとジークリットくんの手料理は、姿焼きに、こちらはバターホイル焼き、そして茶碗蒸しですね!」
「ふむ、豪勢じゃのう」
 例によってウィリアム達が説明する。
「それに……この料理もマツタケでなくシイタケを使っている」
 ニヤリと口角を吊り上げて種明かしをするジークリット。親しい仲のルーシィドの給仕を手伝って自分もメイド服を着ていたりと、なかなかノリの良い性格のようだ。
「ええっ!?」
「確かに松茸の匂いしたのに!」
 またもや驚く配下達。
 そう。彼が持参したのは、松きのこ——松茸に似た香りと椎茸の旨味を持つ、紛れもない椎茸の品種なのだった。
「……今の旨い姿焼きが、松茸でなく松きのこ……」
 配下達は一様に呆然としていたが、
「俺、自由にエリンギの天ぷらやソテー食いたい」
「俺は松きのこのホイル焼き!」
「俺はオムライス!」
「舞茸の為なら松茸教なんか辞める!」
 と、15人中10人が正気に戻った。
 本当ならしめじバター焼きで調子に乗った配下達は舞茸仕立てステーキで苛立ちを爆発させ、全員配下のまま襲い掛かってきてもおかしくなかった。
 彼らが戦うのを今まで思い留まっていたのは、偶然にもアインの暴挙を諭す説得のお陰である。
 ともあれ、ケルベロス達は配下を巻きこまぬよう慎重に明王だけを攻撃したが、それでも、明王を庇った2人の犠牲は防げなかった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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