お菓子の迷い家は危険なお味?

作者:雷紋寺音弥

●甘い誘惑
 岩手県遠野市。
 市街地より少しばかり離れた山の中。月明かりに照らされた山道を歩きながら、シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)は溜息を吐いた。
「参ったな……。どうやら、道に迷ってしまったか」
 ここ最近、街にて気になる行方不明事件の話を聞いて山に入ってみたが、さしたる収穫も得られないまま夜になってしまった。
 まあ、それでもオラトリオである自分には翼がある。最悪、飛んで帰ればいいだろうと。そう、彼女が思った時だった。
「ん……? なんだ、あの家は?」
 突然、森が開けたかと思うと、目の前に現れたのは小さな家。それも、ただの家ではない。壁はクッキー、屋根はチョコ。まるで、メルヘンの世界から飛び出して来たような、お菓子の家そのものだったのだ。
「……怪しい。怪し過ぎる」
 訝しげな表情のまま、シヴィルは周囲の様子を窺いつつ、家の扉に手を掛ける。虎穴に入らずんば、虎児を得ず。どう考えても怪しさ全開な家だが、それだけに調べる価値もあると思ったのだが。
「……ッ!?」
 突然、扉が開いたかと思うと、その中から多数の金属製触手が飛び出して来た。
「こいつ……この家自体が、デウスエクスか!!」
 済んでのところで罠に掛からず回避できたが、しかしこの状況は決して喜ばしいものではない。果たして、自分独りでどこまで戦えるか。一瞬、不安が頭を過るも、シヴィルは直ぐにそれらをかき消して。
「貴様が何者であれ、ここで負けるわけにはいかん! 太陽の騎士シヴィル・カジャス、推して参る!」
 愛用の黒き大剣を掲げ、お菓子の家へと飛び込んで行った。

●とても危険なお菓子の家
「召集に応じてくれ、感謝する。岩手県遠野市の山中にて、シヴィル・カジャスが宿敵であるデウスエクスの襲撃を受けることが予知された。なんとか連絡を付けたかったんだが、生憎、携帯電話の電波が届き難い場所だったようでな」
 このままでは、遠からずシヴィルは敗北する。そうなる前に、なんとか現場に急行し、彼女を助けてはくれないか。そう言って、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は集まったケルベロス達に、自らの垣間見た予知について語り始めた。
「シヴィルを襲撃するのは、ヘンゼルとグレンデルと呼ばれるダモクレスだ。その外観は、そうだな……おとぎ話に出て来る、お菓子の家そのものだ」
 もっとも、そんなメルヘンチックな姿に反し、敵はなかなか狡猾で残酷な存在である。甘い香りと可愛い姿で油断させ、中に入った獲物を捕えて殺したり、ダモクレスに改造したりするというのだから危険極まりない。
「今から向かえば、シヴィルが敵に遭遇した辺りで合流することが可能だぜ。敵は菓子の形をした爆弾やミサイルと、内部に仕込まれた金属製の触手を武器にして襲って来る。どれも、お前達の行動を阻害する類の技ばかりだから、それを念頭に入れて戦ってくれ」
 加えて、敵は防御にも優れ、耐久性も極めて高い。純粋な殴り合いでも勝てなくは無い相手だが、効率良くダメージを追加したり、防御を削いだりすることができれば、より安全に戦えるかもしれない。
「遠野地方には昔から、『迷い家』という伝説があるらしいな。だが、この家は、そんな優しいものじゃない。シヴィルの安全も考えると、このまま放っておくわけにも行かないだろうな」
 万が一、シヴィルが敗北したまま連れ去られでもしたら、それこそ何をされるか分かったものではない。危険な誘惑で人々を惑わそうとするお菓子の家は、徹底的に破壊してしまって欲しい。
 そう言って、クロートは改めて、ケルベロス達に依頼した。


参加者
ペトラ・クライシュテルス(血染めのバーベナ・e00334)
シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)
フランツ・サッハートルテ(剛拳のショコラーデ・e00975)
ピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106)
クーゼ・ヴァリアス(竜狩り・e08881)
チェリー・ブロッサム(桜花爛漫・e17323)
レイス・アリディラ(プリン好きの幽霊少女・e40180)
ベルガモット・モナルダ(茨の騎士・e44218)

■リプレイ

●偽りの迷い家
 誰もいない森の中、突如として現れた菓子の家。その類い稀なる芳香は子どもだけでなく、ともすれば大人でさえも誘惑し兼ねない甘美なる匂い。
 だが、それは全て偽りの姿だ。扉から溢れ出る金属製の触手を前にして、シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)は確信した。
「貴様が行方不明事件の犯人のようだな。行方不明の現場が山中を転々としていたのは、その足で移動を繰り返していたからか……」
 住宅に紛れ、夜毎に移動を繰り返す神出鬼没のダモクレス製造工場。そんな危険な相手を逃すわけにはいかないと、シヴィルは躊躇うことなく刀を抜き放ち飛び出した。
「邪悪な侵略者め。貴様に殺された者たちの無念、いまここで晴らさせてもらう!」
 事件の犯人がデウスエクスであった以上、行方不明者の生存は絶望的。ならば、せめてその無念だけでも晴らさんと、金属触手を斬り捨てながら、敵の内部へと斬り込んだのだが。
「この甘い匂いは……そうか。この匂いで人々を惑わしたのだな」
 瞬間、内部に充満していた恐ろしく甘い空気が、彼女の鼻腔を刺激した。
 ケルベロスである自分でさえ、脳の芯から溶かされそうになる程の甘い香り。ましてや、これが何の耐性も持たない一般人であれば、ひとたまりもない。
 見れば、家の天井からは随所に不気味な手術器具を思わせるドリルやアームが伸びており、犠牲者達の末路を否応なしに思い起こさせた。亡骸の残滓さえ見つからない以上、ここに捕らわれた者達がどうなったのかは、できればあまり考えたくはない。
(「くっ……。それにしても、この匂いは……」)
 さすがに、これ以上は限界だ。一度、家の外に出て体勢を立て直すか。そう思い、翼を広げたシヴィルだったが、甘かった。
「……っ! しまった!?」
 突然、死角から伸びて来た金属製の触手が、瞬く間に彼女の四肢と胴体、それに首までをも捕縛したのだ。
「こいつ……まさか、私を改造するつもりか……!!」
 拘束を解かんと抗うシヴィルだったが、その間にも天井のドリルやメスが、彼女目掛けて降りて来る。回転するドリルの切っ先が頬を掠め、思わず目を背けた時だった。
「お菓子の姿で人を襲うとか、不愉快極まりないわ。二度とそんなことができないよう、跡形もなく吹っ飛ばしてやるわよ」
 突然、衝撃と共に家の扉が開け放たれたかと思うと、奇妙な家のダモクレスは、金属触手諸共に、シヴィルの身体を吐き出した。それだけでなく、今度は彼女の身体に絡みついていた触手さえも、一閃の下に斬り捨てられ。
「やぁやぁ。助けに来たよ? 我らが団長!」
 未だ手足に触手が絡み付いた状態のシヴィルへ、歩み寄ったのはクーゼ・ヴァリアス(竜狩り・e08881)。その隣には、口元からブレスの残滓を零している漆黒のボクスドラゴン、シュバルツの姿もある。
「どうやら、無事見たいね」
 ハンマーを片手に見降ろすレイス・アリディラ(プリン好きの幽霊少女・e40180)。先程、家を揺らした衝撃は、彼女の放った竜砲弾によるものか。
「はわわっ! 夢にまで見た、本物のお菓子の家ですっ!!」
「でも、実際目の前にあったら不審だよ! 怖いよ!」
 そんな中、歓喜するピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106)に突っ込みを入れつつ、チェリー・ブロッサム(桜花爛漫・e17323)は光の球を生成してベルガモット・モナルダ(茨の騎士・e44218)へと放り投げた。それを受け取るや否や、ベルガモットは嫌悪感を露わにすると、問答無用で強烈な飛び蹴りを食らわせて。
「なんと禍々しい……。糖尿待ったなしだな」
 頬に飛散したクリームの残骸を拭いつつ、ベルガモットは皮肉を込めて苦笑する。飛び散るクリームに砕け散るクッキー。しかし、その手応えは菓子を砕いたというよりも、粘性の高い機械油や、硬化したセラミックを砕いた時のそれに近い。
「帰りのために、パンくずを捨てながら歩いたほうがいいかしらねぇ。……さぁて、冗談は置いといてこんな危険な家、破壊しちゃいましょ」
「菓子の魅力を悪用し、人を拐かすなど許しがたい! フランツ・サッハートルテが、我流にて地獄へ案内しよう」
 ペトラ・クライシュテルス(血染めのバーベナ・e00334)がにやりと笑って星型のオーラを蹴り込めば、続け様にフランツ・サッハートルテ(剛拳のショコラーデ・e00975)が鋭い指先で敵を突く。クリームに覆われた、その内側に位置する中枢回路。そこに繋がる電子部品を狂わされ、菓子の家が火花を散らして痙攣する。
「大丈夫ですっ!? 今、助けますねーっ!」
 ボクスドラゴンのプリム共々、シヴィルに力を分け与えるピリカ。凝縮された気と桜色のオーラの力が、シヴィルの身体に絡み付いた金属触手を溶かして行く。
「……すまない、皆。だが、もう大丈夫だ」
 身体の感覚が戻ったのを確認しつつ、シヴィルは改めて剣を握った。
 立て続けに奇襲を食らったにも関わらず、敵は未だ健在だ。見た目に反して、なかなかの強敵。油断は禁物と心に刻み、再び菓子の家へと翼を広げて斬り掛かった。

●スイーツ・パニック!?
 菓子の家に擬態した、実に珍妙なダモクレス。だが、その極めて危険な行動原理に加え、装甲の堅牢さは見た目以上。
 シュバルツやプリムといったボクスドラゴン達のブレス攻撃を食らっても、それにより溶け落ちた個所は、周囲のクリームが広がることで瞬く間に修復されてしまう。内部にダメージは通っているのだろうが、擬態には限界がないとでも言うのだろうか。
 ならば、クリームの更に内側を断ってやろうとクーゼが稲妻を纏った刃を突き立てたが、激しい火花が散った瞬間、刃を通して彼の腕にも鈍い振動が伝わった。
「おいおい、お菓子でできてるんじゃあなかったか? 硬すぎるだろうよ」
「見た目に惑わされるな。菓子の部分は、やつの武器と擬態外装に過ぎない。本体の壁は、並の鋼よりも堅牢な装甲版だぞ」
 苛立ちを隠し切れずに皮肉を零したクーゼを、ベルガモットが淡々と制した。
 先程、蹴りを食らわせた際に、敵の堅牢さは知っている。見た目こそ甘そうな菓子の家だが、その内部は戦車の砲撃にも余裕で耐え得るであろう、未知の金属の塊だ。
 単純な打撃だけでは、致命傷は与えられない。だが、どれだけ強固な外装で覆われていようと、必ず脆い個所は存在する。
 住宅の姿を模している以上、狙うべきは扉や窓か。高速回転する左腕を抉るようにして叩きつければ、飴細工のような色をした窓ガラスが、窓枠諸共に砕け散った。
「そうそう何度も不覚は取らん!」
「木っ端微塵にしてあげるわ!」
 シヴィルの太刀が家の壁面に付いていたクッキーを削ぎ落とせば、高々と跳躍したレイスが真上から槍を振り下ろす。瓦の代わりに敷き詰められていたチョコレート状の何かが凍結しながら飛散するが、しかし敵のダモクレスはそれにも怯まず、全身の菓子類をミサイルのように飛ばして来た。
「うわわ! こっち来……むきゅっ!?」
「任せろ。ミサイルだろうが爆弾だろうが、全て斬り払ってや……っ!?」
 すかさず、身を挺して仲間達を庇おうとしたチェリーの顔面に、パイ投げ用のパイの如く直撃する生クリームの塊。ならば、と太刀を抜き放って斬り払おうとしたクーゼだったが、飛んで来た赤い物体に刃が触れた瞬間、それは真っ二つに裂けると同時に、周囲に赤く粘性の高い何かを撒き散らした。
「ふざけた真似を……。でも、これは少々厄介だねぇ」
「前が見えないよ~!! それに、なんだかベタベタして動けない~!!」
 纏わり付くクリームや飴のような物体が、チェリーとクーゼの自由を奪う。冗談のような見た目に反し、なかなかどうして攻撃手段としてはえげつない。
「はわわっ! は、早く、クリームを洗い流さないとですっ!!」
 慌ててピリカが薬液の雨を降らせたことで、辛うじて拘束から解放される二人。なんというか、今回の相手は色々な意味で強敵だ。
 気を引き締めて行かねば、こちらが食われる。気を引き締め直し、チェリーは桜花の紋が刻まれた妖刀を抜き放ち。
「さあさあ、ドーーーンといくよ!」
「見せてあげるわぁ、魔女の力!」
 追従するのは、同じく妖刀を手にしたペトラ。互いにタイミングを合わせて敵の壁へと刃を突き立てれば、そこから注がれるは魂さえも汚染する強力な呪詛。
「……ッ!?」
「ふむ……家の姿をしていながら、心にトラウマを抱えているのか? ……実に面妖な存在だな」
 地獄の業火で包んだ戦籠手で敵を殴りつつ、フランツが呟いた。敵は心を持たぬダモクレスだが、それでも恐れる者がいるというのか。もしくは、単純にシステムのエラーとして処理されているだけかもしれないが、今、この場においては些細なことだ。
「明らかに弱って来てるみたいね。……もう少しで潰せるかしら?」
 敵の外壁を覆うクリームの補給が鈍ってきたことで、レイスがそこに勝機を見る。疲弊の色を隠し切れなくなったことを知り、ケルベロス達は一斉に、目の前の家に向かって攻撃を再開した。

●剥がれた幻想
 クリームの壁にチョコレートの屋根。クッキーの装飾と飴細工の窓を持つお菓子の家も、一皮剥ければ中身は機械。
 ケルベロス達の度重なる猛攻により、今や歩く菓子の家には、攻撃に用いるだけのクリームや菓子しか残されていなかった。
 外装は溶け落ち、その内側にあった無機質な金属の外装が剥き出しになっている。窓は割られ、扉も破られ、さながら幽霊屋敷の如き様相だ。
「ガ……ガガ……」
 ノイズの混ざった金属音を立てながらフルーツ型の爆弾を飛ばして来るダモクレスだったが、その爆煙に顔を顰めながらも、レイスは大きく溜息を吐く。
「ほんと、夢も希望もないお菓子の家だわ」
 もう、これ以上は無駄な命の削り合いをするのも馬鹿馬鹿しい。そろそろ、おしまいにしてやろうと、混沌の光を自らの槍に纏わせて。
「この漆黒の闇で塗り潰してあげるわ!」
 穂先を叩き付ける瞬間、刃を覆っていた光が大きく伸びた。
 それが形作るは、三日月の形状をした新たなる刃。突き刺すものから、刈り取るものへ。姿を変えた刃を横薙ぎに振るえば、それは敵の装甲に、いびつな亀裂を走らせる。
「よし……今だ! 全員、あの亀裂を攻撃してくれ!」
 レイスの一撃によって生み出された、鉄壁防御の装甲に生じた最大の弱点。そこを目敏く指差して、シヴィルが他の仲間達に向けて叫ぶ。その言葉に頷き、駆け出したのはフランツとベルガモット。
「ただそこに居れば良い。我が地獄が君を迎えに行こう」
 まずは一撃。フランツの貫手が壁の亀裂に炸裂し、内蔵の如き形状のパーツを引き摺り出す。それと入れ替わるようにして、ベルガモットが繰り出すは魔剣の片割れ。黒き霧を纏い、漆黒の怪物の如き姿となった彼女の一撃は、情け容赦なく亀裂の奥まで食い込んだ。
「よーし、さっきのお返しだよっ! 一切合切……」
「ふふ……アタシの分も、残しておいてね。……我、全てに破滅を与える者なり」
 続けて仕掛けるは、チェリーとペトラ。桜色の闘気に破壊の魔力。それらを自らの手に宿して肉薄した瞬間、二人の声が重なって。
「「全部……」」
 亀裂に吸い込まれて行く二つの手。片方は奪って壊し、もう片方は与えて壊す。
「ボクにちょうだいっ!」
「持って行きなさぁいッ!」
 内と外。抜かれる力と注がれる力。相反するエネルギーの奔流が内部を駆け廻り、その衝撃で敵の窓ガラスという窓ガラスが、今度こそ一斉に砕け散った。
「さてさて、敵さんも満身創痍のようだし、花道を作らせてもらうとしようかね」
「は、はい! 私とプリムも、お手伝いします!」
 慌てて気を練り弾を作るピリカが、クーゼに頷いた。その掌から凝縮された気が光弾として発射されれば、二匹のボクスドラゴン達もまた、一斉にブレスで攻撃し。
「うちの狼は鼻がいい。逃げられると思わないことだ」
 クーゼの振るった双刀より生じた、狼型の斬撃が後を追う。それらの全てが亀裂の中に炸裂したことで、とうとう家の壁に巨大な穴が開いた。
「行ってきなよ、団長。思うようにやっちまえ!」
「ああ、任せろ! 甘い姿と香りで、人々を惑わす魔性の家よ……太陽の騎士シヴィル・カジャスが、貴様に引導を渡してくれる!」
 ここで無様は晒せない。クーゼの言葉を背に受けて、シヴィルは大穴目掛けて飛び込んで行く。一度は、捕らわれかけた家の中。だが、今は恐れる必要もない。
 壁面の触手や天井の機械類。それらを次々に薙ぎ払い、最後は翼を広げて天へと刃を突き立てる。
「カジャス流奥義、サン・ブラスト!」
 全ての守りを貫く一撃。一陣の弾丸と化したシヴィルの身体は、そのまま敵の煙突を砕き、豪快に天井を突き破った。

●本物を食べに
 戦いの終わった山の中。完膚なきまでに破壊され、全ての機能を停止した菓子の家は、改めて見ると随分と武骨なものだった。
「こんな味気ない鉄の家が、クリームを盛って擬態していたのだな」
「とんだ厚化粧よねぇ。お肌に悪そうだわぁ……」
 辟易した様子で家の残骸を見上げるベルガモットの横で、ペトラが冗談を飛ばしていたが、それはそれ。
「手強い敵だった。みんながいなければ、私も殺されるか、ダモクレスに改造されてしまっていたかもしれないな」
 見た目に反し、強敵だった。改めて敵の恐ろしさを思い出しつつ、シヴィルは足元に広がっている生クリームに、何気なく目をやったのだが。
「え、団長それ食べるの? 絶対お腹壊すと思うんだけど……」
「シヴィルさん、それ絶対危ないって! 食べるならスイーツ食べ放題のお店行こうよ!」
 何を誤解したのか、猛烈な勢いで止めに入るクーゼとチェリー。まあ、さすがに戦場の土埃にまみれた残骸は遠慮したいと、軽く笑って流すシヴィルだったが。
「倒しはしたけど、なんだか口直しが必要だわ。コンビニでプリンでも買っていこうかしら?」
「プリンですか? わ、私も買いに行きたいですっ! 待ってくださ……っ!?」
 一足先に山を降りようとするレイスの後を追い掛けたピリカが、盛大に生クリームで滑って転んだ。
「うぅ……これ、不味いですっ! やっぱり、私は本物が食べたいですっ!」
 口の中に入ったクリームの残骸の味に、思わず顔を顰めるピリカ。皆が笑って見守る中、その裏ではフランツが密かにクリームを掬って舐め、なんとも渋い顔をしていたのは秘密である。
(「ふむ……所詮は紛い物。とても食えたものではないな」)
 やはりここは口直しとして、帰りにフルーツとスイーツの店にでも寄って帰りたいところだ。甘い物が苦手ならば、せめて熱いお茶を頼みたい。
 誰が口にすることもなかったが、帰路に着くケルベロス達の想いは同じだった。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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