竜牙兵が秋のお祭り会場を急襲!?

作者:東公彦

 福岡町といえば川魚や蕎麦の名があがる。次いで広大な自然公園や一級河川が有名だろう。そのなかで秋に行なわれる花祭りは県内はまだしも県外において知名度はそうなかった。しかし近頃は徐々に客足が増えはじめ、町おこしにもひと役買っている。
 注目となるのは公園、これは先の有名な自然公園ではないのだが、その敷地内から続き300mほどの街道に沿って出される出店の数々、ひき回る大きな輿、そして文字通り祭りの花であるシダレエンジュの木だ。シダレエンジュは小さいもので2m、巨大なもので7、8mにもなる小さな花を咲かせる樹木である。体をねじらせながら天へ伸びていく幹、下へ向かって垂れさがる枝すらも曲がってゆるく螺旋をえがく。
 緑色の葉が青々とよく茂ると樹の形も分からないほどに枝葉が密集し、地面に大きな木陰を作る。花は白く、蝶の羽に膨らんだめしべが突起したような変わった形で、一枝に相当な数をつくる。夏の終わりから秋口までなら花は咲いているので、いつからか祭りは暑さも久しい秋の入り口で開催されるようになった。気候が安定していると着物を着る人も多く、それが祭りの雰囲気を更に盛り上げていた。
 毎年おなじみではあるが、今回も同町内で行われる別の祭り、オータムフェストは同日に開催している。
 そんな陽の暮れる前の空から四つの巨大な牙が降る。牙は菱形をとって地面に突き刺さると、徐々に姿を変えた。4つの牙から4体の竜牙兵が形作られる。その全てが大きな顎を持った犬のような頭蓋をし、臀部から骨の尾が出ていた。それでいて四肢造りは人の形をとっている。
「ぬかるなよぉ……ケンの力を示す好機だ!」
「アォォォォン!」
 竜牙兵は咆哮し手当たり次第に人間を殺しはじめた。


 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)が居合わせるケルベロス達へ深く腰を折った。歌劇役者のような派手な洋服も相まって芝居がかった印象がある。
「竜牙兵が秋祭りの会場を襲うようです。ドラゴンの力を快復させ、巨大なゲートを作るつもりなのでしょうか。だとすれば竜牙兵の狙いは膨大なグラビティチェインのはずです……会場にいる人々を避難させるわけにはいきませんね。ケルベロスの皆さんには会場で潜伏して頂き、竜牙兵を視認したならばすぐさま戦闘へ移ってもらいます。避難行動は警察や行政に手を貸して頂きますので、皆さんの手を煩わせることはありません」
 オレンジ色の瞳は、まばたきをせずにケルベロス達へ注がれている。それでいてその瞳からは如実に感情が読み取れた。
「竜牙兵は4体、目的から推察するに撤退することはないでしょう。出店などで賑わう街道に現れるので物的損害について考慮すれば非常に戦いにくくなってしまいます。後にヒールを施すとして、戦いの際には被害を考えなくてよいと思われます。竜牙兵は牙から造られた刀を持っています、扱いには精通していると思いますので注意をしてください」
「竜牙兵の作戦が成功してしまえば、ドラゴン召喚へ大きく近づいてしまう可能性があります。これからの戦いのためにも、人々の命のためにも、皆さんの奮闘を願います!」
 もう一度深く腰を折り、イマジネイターは言葉を結んだ。


参加者
多留戸・タタン(知恵の実食べた・e14518)
フェルディス・プローレット(すっとこどっこいシスター・e39720)
ブレイズ・オブジェクト(レプリカントのブレイズキャリバー・e39915)
椚・暁人(吃驚仰天・e41542)
エリザベス・ナイツ(目指せ一番星・e45135)
ウィリアム・ライムリージス(赤き薔薇の参謀士官・e45305)
天霧・裏鶴(戦の鬼姫・e56637)
形無・無残(インスタントボム・e64593)

■リプレイ

 竜牙兵の咆哮を聞きつけ、すぐさま多留戸・タタン(知恵の実食べた・e14518)は身をひるがえし走り出した。そして逃げる人々の背に刀を振り下ろさんとしていた竜牙兵へと理力の矢を放つ。玩具にしか見えない短弓『QP』の矢は見事に竜牙兵サナイの腕に突き刺さり刀の軌道を変えた。
「ひんみょうにふるでふよー」
 自分では神妙にしろと言ったつもりだったのだが、慌てて詰め込んだリンゴ飴がそれを邪魔する。ミミック『ジョナ』は他の竜牙兵に噛みつきながら周囲を飛び回る。そこへエリザベス・ナイツ(目指せ一番星・e45135)も到着し、竜牙兵モンドへとファミリアシュートを放った。理力に包まれ弾丸のように飛来したイタチがモンドへ衝突した。
「みなさーん、すぐに避難して! この辺りに近づいちゃだめよ」
「邪魔をしおって!」
 モンドが刀を構えエリザベスの口を塞ごうと疾駆した。突きだされた剣先をかわすエリザベス、流れるような上段が続くと両者の間にジョナが入りエクトプラズムでそれを庇った。素早く距離をとるエリザベス、続々と他のケルベロス達も集まり戦列に加わった。
 戦いを有利に進めるべくフェルディス・プローレット(すっとこどっこいシスター・e39720)はオウガメタルの粒子を放つ。銀粉が辺りに舞い、ケルベロス達の感覚を研ぎ澄ます。天霧・裏鶴(戦の鬼姫・e56637)は刀を抜かず、竜牙兵クランドへ走り寄る。間合いを計って振り下ろされた一刀をステップし避けると、深いスリットのはいったひざ丈の着物から高く足を振るいクランドを蹴り飛ばした。
「その刀は飾り物かぁ!」
 受け身をとり体勢を戻してクランドが斬りこむ。『裏桜』で打ち合う裏鶴、幾度か干戈を交わすが一瞬の間に振り下ろされた刀が浅く裏鶴の胸元を斬った。一対一を危惧して椚・暁人(吃驚仰天・e41542)が如意棒を手に二人の攻防に飛び込む。裏鶴が刃をそらした隙に暁人は如意棒をしならせ数度打ち込んだ。
 会場ではまた別の攻防も繰り広げられていた。ミミック『はたろう』は宝箱の口を開け、巨大な斧を具現化し振り下ろす。サナイは上手く斧をやり過ごし、間隙をぬってクランドの許へ足を運ぼうとするが、そこへウィリアム・ライムリージス(赤き薔薇の参謀士官・e45305)の鋭い声が飛んだ。
「合流させてはいけないっ!」
 叫び、ウィリアムは歌う。勇壮な軍歌、中世騎士の突撃歌を。ウィリアムの言葉が有利な戦況を生み出すと判断しブレイズ・オブジェクト(レプリカントのブレイズキャリバー・e39915)はサナイの前に立ちはだかった。戦闘に際し機械仕掛けの騎士となった彼は大剣のギミックを稼働させる。刀身に並ぶ幾多もの牙が回転をはじめ、空気を引き裂き轟音が鳴った。ブレイズがサナイに斬りこむ。下手に刀を合わせてはならん、とサナイは合流を諦め一旦身を引いた。
 一方、形無・無残(インスタントボム・e64593)は眼前の竜牙兵タノモを見て声をあげた。
「あちゃぁ、ヤバそうですねぇ」
 避難の手伝いを少しばかりしていた結果、無残はタノモと一対一で対峙していた。仲間は手一杯である、自分がどうにかするしかない。最初の仕事としては困難極まる展開だが、無残はどこか他人事のように現状を認識していた。
 タノモが踏み出す、一足で距離を詰める素早い動き。とにかく無残は敵を近づけまいと爆破スイッチを押した。見えない地雷により地面が火を噴くのを見てタノモは行き先を変えた。
 タノモは敵に囲まれるクランドへ合流するべく駆け、そのままの勢いで暁人を斬りつける。無防備な状態の暁人に迫る刃は、しかし飛び込んできた影によって阻まれた。
「痛いですぅ」
 オウガメタルを纏っていたものの浅くない傷に目を潤ませるタタン。彼女は勢いよく跳ね起きタノモを蹴り飛ばした。フリルのついたかぼちゃパンツがスカートから覗く。更にジョナがエクトプラズムで出来た林檎飴の棍棒をばらまきタノモに追撃をかける。
 よぉしと意気込み走り抜ける勢いそのまま、エリザベスが杖で思い切りタノモを打った。『ハードロックスター』の先端に仕込んだ神殺しの毒にタノモの体が風化してゆき、ついに崩れ落ちた。
「貴様らっ!」
 杖を振り下ろした虚をつきモンドはエリザベスの腕を斬った。刃は深く肉を切り進み、骨にまで達する。苦痛に顔を歪めるエリザベス。そこへ歌声が響く。フェルディスは歌う、見果てぬ夢や希望に向かい懸命に走る者達への讃美歌を。歌声は傷ついた仲間達の肉体を活性化させ、戦う気力を奮い起こさせる。
「飾り物ではないことをわからせてあげましょう!」
 歌声に背を押され裏鶴は再びクランドに刀を振るった。オウガの象徴たる角が額から生え、その膂力をいかんなく発揮する。剣圧におされるクランド、ひときわ力を籠めた一太刀でクランドが大きく後退すると、押し込まれた位置にいくつもの礫が飛来した。
 投擲される礫は自壊するほどの力と精確さでクランドの体を打つ。ウィリアムがしなやかに腕を振るうたび礫が打ち出される。うっとおしい牽制攻撃に腹が煮えたものの、クランドは九印を切って自らの傷を快復させた。しかしそれは徒労に終わる。既にクランドの体にはグラビティの鎖が入り込んでいた。
 暁人の体から伸びるグラビティチェインの鎖は、いつからかクランドの体の内外に巻き付いていた。
「もう、終わりだ」
 意識の死角に潜ませていた鎖、暁人が掌をぐっと握りしめると鎖も連動しクランドの体を締め潰す。断末魔の叫び声をあげクランドの体は音を立てて瓦解した。
 はたろうの執拗な攻撃とブレイズとの近接戦闘に手を焼かされていたサナイは、小技を駆使しながら形勢を立て直し、素早く剛健に抜刀してみせた。ブレイズの表面装甲が斬り裂かれる、しかしクランドの叫び声が届き、意識が一瞬だけ逸れる。それをブレイズは見逃さない。
「竜牙兵、貴様らを狩り尽くす者の顔を覚えておけ」
 回転する刃をサナイの体に突き入れ、力任せに引き裂く。刃が強引にサナイの体をえぐった。傷口をおさえるサナイ、さらに無残が投げた槍に追いやられモンドと背を合わせる形になる。
「衆寡敵せず、逃げ場はないですよ」
「逃げる? そんな気は毛頭ない」
 ウィリアムの言葉にモンドが答えた。サナイも意を決したように刀を構える。
「名誉のために」
 サナイの言葉に声なくモンドは頷いた。サナイは駆けだす、しかし命を懸けた一刀が届かない場合もある。武具の急加速を利用してタタンが不規則に動き回り、地面を這うように進む。急上昇しサナイの反応を上回る速度で打ち出された拳は見事に側頭部に命中した。吹き飛ぶサナイをジョナがエクトプラズムで打ち返すとサナイはぴくりとも動かず静かに消滅してゆく。
 モンドはサナイの動きを無駄にせんと駆け抜ける。エリザベスのファミリアシュートが体を撃ち貫いても歩みを止めることはなかった。
「気持ちよく壊してあげますからねぇ」
 遠距離から無残が爆破を引き起こす。それでもモンドは衝撃に負けじと足を動かした。そしてウィリアムへ渾身の一太刀を振り下ろす。受けたウィリアムの刀が圧され、刃が肩口にずぶりと喰いこんだ。
「私が引き剥がします!」
 言葉と共にフェルディスが瓶を投げた。グラビィティを混ぜた、いわゆるデウスエクス用の火炎瓶である。それは放物線を描いて見事に命中した。ウィリアムの後頭に。
「あー、なんか手が滑りまして……」
 液体を頭から被ったウィリアムだったが、むしろ体の奥から力が沸きだすようであった。敵にのみ攻撃性を持つ液体は、どうも味方にとっては無害、どころか有益ですらあるらしい。
「フェル公、感謝しますっ!」
 ウィリアムは刀を押し返し、そのまま渾身の一太刀を振るった。袈裟懸けに振り下ろした刃、モンドの体を斬り抜けると、続けて裏鶴が裏桜を携え逆袈裟に斬り抜ける。息のあった二刀一閃の斬撃。二人が刀を血振るいさせると、斬り裂かれたモンドはよろめき数歩もゆかない所で倒れ伏した。奇しくもそこは竜爪槐とも呼ばれるシダレエンジュの根元であった。
「またもエンに……」
「関係ないな。仮にお前と因縁ある連中が現れても、俺達ケルベロスは負けない」
 ウィリアムがそっとつぶやいた。


「屋台の数はざっと数十……熟考を要するか」
 ブレイズは考える。初動が重要である、何を買い、何をするかで祭りの定義は大きく変わる。最初から食事は妥当ではないか、しかし遊戯となると数が多く、更にその中から選別せねばならない。と、鋭い視線を屋台に向けるブレイズの腕が掴まれ、なにかが握らされた。
「はいっ、じゃがバタあげる。これ美味しいのっ」
 熱々のじゃがバタを渡したのはエリザベスである。彼女はフォークでバターのからんだじゃがいもをすくい口に運ぶと、ん~~っと声にならない声をあげた。
「これは栄養価の高いじゃがいもに脂質が主であるバターを加えた軽食だな」
「屋台の食べ物に栄養価は関係ないんじゃないかなぁ」
 ブレイズの口調にフェルディスが笑いながら返す。熱さもなんのその、フェルディスはじゃがバタをひょいひょいと口の中に運んだ。その様子に誘われてブレイズも一口、じゃがいもの触感にほんのりとした甘さ、塩味のきいたバターによく合っている。
「なるほど、栄養価だけではないようだ」
 これは色々とじゃがバタの認識を訂正しなければならないか。ブレイズがまたも考えて込んでいると、エリザベスとフェルディスはその両手を掴み、ずんずんと賑わいの中へ連れて行ってしまった。
「あら、両手に華ですね」
 串カツを手に後ろからついて行く裏鶴が微笑むと、並ぶウィリアムもふっと笑ってみせた。
「出来れば私もご相伴あやかりたいものだよ。ひまわりにアサガオ、桜もあるとなお良いね」
「もぉ、ウィルくんは冗談ばかり!」
 桜という言葉に反応して、裏鶴が背中を叩く。と、予想外の力にウィリアムはせき込む。年頃の女性らしく身をもじもじさせる裏鶴は全く気付いていない。口は禍の元か、ウィリアムは心中で苦笑した。
「ウィルさん、裏鶴さん、はやくはやくー。二人ともすごいよ~!」
 エリザベスが屋台の軒先で手を振っている。二人が歩み寄るとフェルディスは恐ろしいほどの精度で型抜きを自在にこなしていた。正直、話しかけるのもためらわれるほどである。更に機械のように正確に手を動かすブレイズが隣にいると何かの工場すら連想させた。
「輿も通るみたいですから、そろそろ行きませんか」
 ギャラリーが集まってきたのを見計らって裏鶴が言うと、一仕事終えた職人といった風情でブレイズとフェルディスが立ち上がり、一同は提灯の灯を辿って歩いた。

 暁人は両手にビニール袋をさげて、所在なくシダレエンジュの近くのベンチに座っていた。
「なんでだ、はたろう」
 呟くと、はたろうは身をすくめた。軽食の数々は自分で買ったものではなく、おしつけられるように渡されたものばかりである。本人こそ気づいていないが理由は単純明快、長身細身のサキュバスの色気に満ちた横顔に庇護欲をそそられない女性は少ないということだ。そういったことに鈍い本人だけが首をひねっていた。しかし嬉しそうに軽食を頬張るタタンを見ると、暁人も自然と顔がほころんだ。タタンの友達であるジョナもパカパカと口を開いて、そこへ軽食を放り投げている。この分なら貰い物はすぐに終わるだろう。
 暁人もたこ焼きの乗った紙の船を手に持ち、つまみながらシダレエンジュを見物する。シダレエンジュの枝は木の根元に覆いかぶさるように下がり、幽霊の立つ絵などにしばしば登場するしだれ柳のように不気味にそこにあった。
「美味しそうですねぇ」
 シダレエンジュの木が急に喋りだす、タタンはきゃっと声をあげて暁人の背中へ隠れた。暁人が食べるかい? と見当違いな言葉を返すと、では、とシダレエンジュから白い腕が伸びた。
 流石に驚いて目を丸くする暁人。タタンは眼をつぶり悲鳴をあげて飛び跳ねた。しかしてシダレエンジュの枝を払いながら無残が現れた。
「あれ、驚かせすぎちゃいましたかねぇ。すいません」
 ひきつったような笑みを浮かべたこ焼きを一口。学生服に似たブレザーワンピースを着ている彼女は祭り会場では地元の学生のように映っただろう、暗い所に潜んでいなければ。
「ああいうとこ、落ち着くんですよねぇ」
 頭を抱えてうずくまるタタンをそっと抱き上げ、一緒にベンチにかける無残。口の中ではごめんなさいねぇと呟きながらも笑みは絶えない。口を開け放しにして放心するジョナを撫でながら彼女は涙目を無残に向けていた。
「ほんと驚きです、タタン、心臓が止まるかと思ったですよ~!」
「ああ、幽霊かと思ったよ」
「いっそ本物の幽霊だったら、もっと面白かったですかねぇ」
 思案顔の無残にタタンはぶんぶんと懸命に首を振った。ジョナもエクトプラズムも×の字をつくった。でも、と暁人がつぶやく。
「お花見するにしては、ちょっと寂しい花だね」
「そうですねぇ、地味ですかねぇ」
「でも花がちょうちょみたいで綺麗です。ちょうちょがいっぱい止まってるみたいです!」
 タタンの言葉に暁人と無残はもう一度シダレエンジュを見た。なるほど、そんな見方をしてみるとシダレエンジュはどこか儚ささえもっているように映った。
「ボクたちもお花見に混ぜてくれるかな?」
 身を乗り出してフェルディスが顔を出した。暁人が振り返ると、ケルベロス達がそれぞれ出店の品物を持ってそこにいた。
「もちろんでござます!」
 タタンが両手をあげた。ケルベロス達がベンチに座り各々の土産物を置くと、その一角は小さな祭り会場のようになった。暁人がタタンの言葉を告げると皆がシダレエンジュを見やった。
「なるほど、詩人ですね」
 ウィリアムが言うと、えへへと両手を頬に恥ずかしがるタタン。フェルディスは地面に落ちても綺麗な花弁をそっと手に集め花輪を組む、細長くやわらかな茎のエンジュはすぐさま輪の形になる。
「まぁ、器用ですね」
「ほんと、フェルちゃん器用だね」
「好きなんだ、こういうの。子供にも好かれるしね」
 手元を覗きこむ裏鶴ににっこりと笑い、出来た花輪をタタンの頭にのせた。わぁーっと声をあげるタタン。いいなぁ、と子供のようにエリザベスが声をあげると、タタンは綺麗な花を拾い上げ、彼女の金髪にさした。
「ありがと~!」
 エリザベスがタタンを抱きしめる。誰もが微笑ましく二人を眺めていると、不意にブレイズが声をあげた。
「花も赤くなったな」
「まさか」
 と言いかけてウィリアムは口をとざした。山間に沈もうとしている夕焼けの一際強い光が、シダレエンジュの花を煌々と赤く照らしていたのである。夕映えに染まる花は感謝の証だろうか。ケルベロスたちの眼に焼き付いてしばらく消えることはなかった。

作者:東公彦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 1
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