我に捧げよ、力と命

作者:七尾マサムネ

 夜。
 任務を1つ終えた源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)は、とある森を訪れていた。
 現場に向かう途中のヘリオンから見た時から、気になっていた場所だ。
(「僕と母が行き倒れた場所も、森だった」)
 とある事情で故郷を追われた瑠璃と母親は、その森で、源の一族に拾われたのだ。
 無論、その時の森とは無関係だろうが、それでも瑠璃は感傷めいたものをかきたてられずにはいられなかった。
 木々を抜けると、開けた場所が瑠璃を迎える。視線を上にあげれば、月が綺麗に見える。
 すると不意に、黒の羽が落ちて来た。
「これは……」
「見つけたぞ、瑠璃」
 突然の声に瑠璃が振り返る。そこには、月光を浴び、中空に浮かぶ1人の男がいた。
 杖を携えた、黒翼の男。神父か修道士か、といった出で立ちだが、まとう気配は地球人のものではない。エインヘリアルだ。
「さっそくで済まないが、我が糧となってもらおう」
「!!」
 驚きの表情を浮かべる瑠璃へと、男の杖が振り下ろされた。

 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)の緊急招集に応え、ケルベロスが顔をそろえていた。
「源・瑠璃さんが、デウスエクスの襲撃を受ける事を予知しました。敵の正体は、エインヘリアル、スバルです」
 残念ながら、敵の動きは早く、瑠璃へこの件を知らせる事はできなかったという。
「そこで、皆さんの力をお借りしたいのです。予知現場に急行していただき、源さんの救援をお願いします」
 瑠璃が敵と遭遇するのは、とある森の中だ。襲撃者によって人払いが済んでいるようで、周囲に人気はない。
 エインヘリアル・スバルは、宝玉を抱く竜の飾りの杖を用いる。それを振るう事で魔力を含む黒い霧を散布し、それに触れた者を炎でさいなむ。
 杖の竜も、ただの飾りではない。スバルの命に忠実に従い、対象に絡みつき、きつく締めあげる。
「収束させた魔力を光線として放つ術も、シンプルですが脅威といえます」
 また、背にした黒翼からは、黒の破壊光を雨のごとく降り注がせる。
 ポジションはスナイパーだ。
「急ぎ現場に向かう事ができれば、源・瑠璃さんを救う事は十分可能です。皆さんが力を合わせれば、このエインヘリアルも強敵ではないでしょう」
 イマジネイターが、瑠璃救出の成功と、戦闘の勝利を祈った。


参加者
マクスウェル・ナカイ(ホテルガーディアン・e00444)
天導・十六夜(逆時の紅妖月・e00609)
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
朔望・月(桜月・e03199)
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
ソシア・ルーンフォリエ(戦舞奏唱・e44565)
レナ・ネイリヴォーム(イニチウムフェザー・e44567)
桜衣・巴依(紅召鬼・e61643)

■リプレイ

●その宿縁に慈悲はなく
 月光が照らす、森の一角。
 奇妙な静寂の中で、源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)とスバルが、相対していた。
「昴父さん、まさかこんな所で会うなんて。まだ力を求めているんだね。あの事件の後、母さんは死んだ。父さんの欲望の為に死んだ故郷の皆。母さんの無念。貴方は既に多くの血を流している」
「はて、何のことか。私は、力以外に興味はないものでな」
 冷笑を浮かべるスバル。
「さあ、その力を差し出せ。さもなくば……」
「ここで殺されるつもりはない。これ以上の血を流す前に、この手で止めるよ」
 瑠璃の回答に、スバルは口の端を、くいっ、と持ち上げる。
 闘いの火ぶたが切られようとしたその時……二者の聴覚が、足音を捉えた。
「エインヘリアルの殺気を感じたので。大丈夫?」
 駆け付けたレナ・ネイリヴォーム(イニチウムフェザー・e44567)が、日本刀をスバルに向けながら、瑠璃に問うた。
 次々と、ケルベロスたちが姿を見せる。救援だ。
「我ながらお人好しとは思うよ……でも放っておけない」
 レナは、誰にも聞こえぬ声量でつぶやくと、苦笑を顔ににじませた。
 ライドキャリバー・緋椿にて駆け付けた桜衣・巴依(紅召鬼・e61643)は、レナが何か呟いた事はわかったが、あえて気にはしない。代わりに、スバルに向き直り、
「ケルベロスを、実の息子さんを糧とするのならば。この星に定命した力持つ者として容赦無く倒させて戴きます」
 巴依が言い切ったのに続き、天導・十六夜(逆時の紅妖月・e00609)もまた、スバルに食って掛かった。
「何、人の義弟にちょっかいかけてくれてるかな? 大事な義弟を勝手に殺らせる訳無いだろうが!」
「失礼ながら、この子は私の大事な義弟です。貴方の邪魔をさせて頂きます」
 瑠璃を背にかばう源・那岐(疾風の舞姫・e01215)。
「親として子を家族ではなく道具として見ていないのならば、一切の遠慮は要りませんよね?」
 ソシア・ルーンフォリエ(戦舞奏唱・e44565)の言葉には、静かな怒りがこもる。レナから連絡を受け、この場にはせ参じた1人だ。
「僕にとっては、家族は縁遠いところにあるものですけれど。けれど、家族……特に親が子を殺すということは……やっぱりないことだと思います」
 朔望・月(桜月・e03199)が、悲し気に告げた。
「特に、スバルさん。貴方のような理由で家族の命を奪うことなんて」
「私に家族など、ない」
 断ち切るように言うと、スバルは、杖に魔力を宿した。
「お前たちはずいぶんと血縁にこだわるようだが、そのような事にとらわれているようでは、力を究める事はできない。それを、我が力をもって証明しよう」
「ならこっちも、瑠璃くん家が力いっぱい殴る為のお膳立てぐらいはさせてもらう。何しろ瑠璃くんも那岐さんも、うちの上客なんでね!」
 マクスウェル・ナカイ(ホテルガーディアン・e00444)が、皆と共に迎撃の構えを取った。
 開戦だ。

●力に溺れし者
 ケルベロスによる包囲網を見ても、スバルはむしろ笑みを深くするばかりだった。
「1人ずつ我が糧としてくれよう」
 翼で浮遊するスバルに、にぃ、と笑って、マクスウェルが叫びを放った。それを浴びた 前衛の仲間たちは、負の影響に対する抵抗力が高まっていくのを感じた。
 構わず、狙いを定めようとするスバルの視線を、横切るものがあった。
「……花びら」
 月の歌に招かれた桜吹雪が、一面を覆い尽くすように生じていた。それは、盾。力を奪わんと襲い来る者に抗う力だ。
 桜吹雪の中、シャーマンズゴーストの夏雪が、スバルへと爪を閃かせた。
 爪から逃れ、黒翼で羽ばたくスバルの先には、やはり瑠璃がいる。しかし、それをかばうように、ケルベロスたちが立つ。
「瑠璃のお父様だというのですか……なら私にとってもお父様同然。ですが、例えお父様相手でも、瑠璃の命は奪わせません。絶対護ります」
 那岐が、中空に浮かぶスバルへ跳び上がった。膂力に重力を加え、ルーンアックスを振り下ろす。スバルの杖とぶつかり合い、火花を散らす。
「……っ!」
 勝ったのは、那岐の方だ。スバルが、地上へと追いやられた。
 阿吽の呼吸、というものか。間を開けずして、瑠璃がルーンアックスを振るった。今度は防御も間に合わず、腕に裂傷を浴びた。
「いいぞ、私の糧になるにふさわしいところを見せろ」
 翼を畳み着地したスバルの挑戦的な物言いに、ケルベロスたちが応えぬはずもなし。
「煉獄の焔で焼かれろ、蹴煉焔氣」
 竜氣を帯びた炎が散り、十六夜の蹴りが決まる。相手が誰であろうが、自分の大事な義弟だ。手は出させない。
「こんなものか? ならば次はこちらからいくぞ」
 スバルが杖を掲げた。天より光が降り注ぐ。それは真っ直ぐに瑠璃を狙うが、ソシアの反応は、極めて迅速だった。瑠璃の前に滑り込むと、まとったオウガメタルで光を受けた。
 攻撃力はもちろん、強い威圧感が、ソシアの体にのしかかる。だが、それを耐えきると、
「星の闇へと魂を捧げた者に天罰を。私も瑠璃さん達を支えましょう」
 ソシアは、自らを幻影で覆い、同時に傷を治癒した。
 その間に敵の死角に回り込んだレナが、樹木を足場に、スバルの上方から斬りかかった。
 スバルが想定するよりも速く、間合いを詰めると、斬撃の威力を余すところなく叩き込んでやる。
 息つく暇もなく、スバルの身体は、光の奔流によって吹き飛ばされた。
 元をたどれば、巴依のドラゴニックハンマーが、竜砲の射出を終えた直後であった。
「人としての理を外し、周りを弄び、彼を狙うというのならば、止めなければなりません」
 瑠璃と那岐、そして十六夜。3人が紡ぐ絆が別たれぬように、と。
 巴依が思う中、緋椿が、駆動音を上げて疾走すると、落下して来るスバルを弾き飛ばす。
 しかしそれでも、スバルの余裕は崩れる事はなかった。

●相討つ力と絆
「理ごと斬り刻む! 総餓流・彼岸花」
 十六夜が、今度は竜氣を刀に纏わせた。これまで皆でスバルに与えた傷が斬り広げられ、鮮血が滲む。
 次に、那岐が、御業の力を顕現させた。大気を揺るがす炎の轟砲が、スバルへと着弾。夜の闇の中、赤い華となって咲き誇った。
 連携した瑠璃が、エクトプラズムを手元に収束させると、味方の陰から投じた。大きく弧を描いたそれは、スバルを追尾、被弾させる。
「本気を出さねばな。来たれ黒霧よ」
 スバルが態勢を立て直しつつ、手のひらから黒霧を散布した。
 霧に触れた途端、黒の炎が燃え上がった。ケルベロスたちの肉体を焼き、呪いのようにつきまとう。
 しかし、月の歌声が、スバルの闇を打ち払う。癒された体が、倒すべき敵へと再び立ち向かう事を可能にしてくれる。
 ウイングキャットのミラが、翼から放つ浄化の光で、負傷者を癒している。
 回復の手が足りているのなら、と、ソシアがチェーンソー剣を握りしめた。ここまで、回復のタイミングを計っていた事で、皆の攻撃のリズムは理解している。
 駆動刃でスバルをしかととらえると、肉を削ぎ落すように切り裂くソシア。
 その時には既に、巴依はハンマーを振り上げていた。
「人としての理を外し、周りを弄ぶというのなら」
「ケルベロスに許しを請うつもりはない」
 身構えるスバル。しかし、オウガの力にハンマーのブーストが加算された打撃が、その身を打つ。
 敵の新たな攻撃動作を察知したレナが、手近な石を拾い上げた。グラビティをこめ、つぶてとして放つ。杖を振るう手へと、吸い込まれるようにして命中した。
 スバルが、得物を取り落としそうになる間に、レナは仲間へ攻撃を促した。
 マクスウェルが、二振りの杖のうち、1つを灰色兎に戻す。
「あの三人の家族の絆を、俺は既に二度見てる。てめぇみたいな外道が、入る隙間なんざねぇ!」
 マクスウェルの意志を乗せ、ファミリアが翔けた。

●因縁を越えた先
 やがて、スバルの魔力が二重螺旋を編み、瑠璃を束縛した。
「これをとどめとしよう」
 が、スバルの裁きを遮ったのは、銀色の弧だった。
「僕の母は、決して良い家族とはいえませんでした。今振り返っても、どうしようもない人だったとは、思います。でも、スバルさん、母には貴方のような勝手さはなかった」
 弧……月が投じた鎌だ。
「誰かの親や家族のカタチにどうこう言える資格なんて、僕にはありません。けれど……ご縁のあった方が危険に晒されるのを黙ってみてるなんてできません、から」
 スバルを切り裂いた鎌は、光を反射しつつ、月の手元に戻る。
 敵が疲弊しているように、ケルベロスたちも傷を蓄積していた。だが、ソシアがステップを踏むたび、新たな花が咲く。戦場に舞う無数の彩りが、皆の傷を癒す。攻撃へと専念できるようにと、祈りを込めて。
 そして花は咲き続ける。巴依の足元に描かれた陣が、風を起こす。蒼桜の花びらはそれに乗って舞い踊り、スバルへと無数の傷を刻みつけていく。
「外道以下に堕ちたお前に、瑠璃さん達の絆を裂く事は許さない。ヴァンエイルの妖剣よ、私に力を!」
 花弁舞う中、紅の呪詛を身体に纏い、レナが行く。
 かわすスバル。しかし、呪を帯びた刃は、磁力に引かれるように軌道を強引に変えると、勢いそのままに刺突を決めた。
 那岐の戦の舞いが、朱色の風を呼ぶ。風は刃へと転じ、数多の斬撃と化してスバルを切り刻む。
 反対側からは、瑠璃の呼んだ霊獣グリフォンが来る。月を背に羽ばたいた幻獣は、咆哮によってスバルを威圧する。
「血など、力を運ぶ装置に過ぎない。縁や情に、何の意味がある」
「確かに俺は『血縁』なんざねぇ神造だ。だがな、『親』の温もりって奴は知ってる。必死で愛してくれた地球人(ひと)が居たからな」
 スバルの杖と言葉を振り払うマクスウェル。
「てめぇの言うことにも一理だけはある。家族を決めるのは『血』じゃねぇ。護り、つながる『覚悟』だ。そいつを捨てた時点で……てめぇは瑠璃くんの一族である資格すら失ってんだ!」
 マクスウェル渾身の打撃が、スバルに炸裂したのを見て、十六夜が、決着を促す。
「瑠璃、那岐、行くぞ。お前達の楔の一端、此処で斬り砕く!」
「了解です!! 天導流秘術!!」
「総刃蓮華!!」
 応えて駆ける、那岐と瑠璃。
 十六夜が、それに続く。共に手を携える仲間が……家族がいれば、その分、技は鋭さを増していく。
 抜刀術による居合が重なり、スバルの血しぶきによって、蓮華の花弁が描きだされ……満開となる。
「終わりだよ、父さん。貴方はこれ以上罪を犯すべきでは無い」
 鮮血の花が霧散していく中、スバルの体が、ゆっくりと倒れゆく。
「力が、力があれば、私がこんなところで潰える事も……ッ!」
 虚空に伸ばしたスバルの腕は、しかし、何ものもつかむことはできず。
「僕をこの世に生み出してくれてありがとう。さようなら。忘れない」
 消えゆくスバルに、瑠璃が語り掛けた。因縁そのものへの別離をも、言葉にこめて。
「力に溺れ、家族と暮らした故郷を滅ぼし、それでもなお力を求めた堕落者……ただ一つ、瑠璃をこの世に生まれさせてくれたこと、感謝します」
 那岐もまた、つぶやいた。義弟との出会い、そして過ごした日々がどれだけ大切かは、語り尽くせぬものだから。
 そんな瑠璃たちの姿を見て、月もまた、己の家族を思った。
 それから、ソシアはミラを連れ、レナや巴依とともに、負傷者の手当てにとりかかった。
「瑠璃、お疲れ様。皆も力を貸してくれて助かった」
 微笑みをたたえた十六夜が、瑠璃の肩をぽん、と叩き、駆け付けてくれたケルベロスへと感謝を述べた。
 誰にも、当然自分にも、因縁はある。十六夜はそれを思いつつ、皆とともに帰路に就く。
「また、気が向いた時にカフェに遊びに来なよ」
 そして別れ際、帽子を軽く上げて、マクスウェルが瑠璃たちに告げた。
 悪しき因縁は断たれ、しかし、仲間との縁は、続く。

作者:七尾マサムネ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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