あなたへ~アンジェリカの誕生日

作者:ふじもりみきや

 誕生日は、静かに過ごすものだと思っていた。
 穏やかに歌い祈りごくごくささやかに。それで幸せであったし、なんと思ったこともなかった。……だから、
「……難しいですね、日本のバースデイ……」
 アンジェリカ・アンセム(オラトリオのパラディオン・en0268)は自室でため息をひとつつき、ぱたりと本を閉じた。深刻な顔をしているが本のタイトルはどこから見ても恋愛少女小説だ。
「でも、日本に来たからには、色々なことをすると決めたから……。誕生日は、ここではなんだか特別なことをするみたいだし……」
 悩む顔で軽く指先本をはじく。どこかに出かけてもいい。家で遊んでもいい。とはいえ何事もなくすごすのは、ちょっとどうやら、違うらしい。だから彼女も、何かしようかと考えた。
 歌も、パイプオルガンも好きだけれどもそういう意味での特別とは、少しだけ違う気がする。 とはいえ他に得意なことなんて……、と改めて彼女は精一杯難しい顔で考え込んだ結果……、
「そう。そう……ですよね。すごく得意ってわけじゃないけれど、これなら……」
 決意をこめた顔でひとつ頷く。早速彼女は立ち上がり本棚へと向かった。確か料理の本があの辺にあったはずだ。
「少しでも、皆さんに私の感謝を伝えることができるはずです……!」
 ぎゅむっと気合をひとつ。さあみんな、どんなものが好きだろう。先ほどの憂い顔はもはやない。希望に満ちた表情で、アンジェリカは料理本を本棚から引っ張り出すのであった。


「あ、あの、宜しければ……皆さんでお料理を食べませんか!?」
 若干緊張気味に切り出したアンジェリカに、萩原・雪継(まなつのゆき・en0037)が首を傾げた。
「料理……と言うと、お食事会ですか?」
「あ、いえ。場所は、喫茶店を借りるのですが。料理は喫茶店の料理ではなく……」
 ちなみに喫茶店は一日借りたのだが、これを探す作業もなかなか楽しかった。古びた、落ち着いた雰囲気のアンティークカフェは彼女のお気に入りになるだろう。それに……、
「その、作るのは主に私、なのですが……」
 厨房までまるっとかしてくれるので、本当にありがたい。
「簡単な料理と、それとケーキを焼こうと思ってます。こうしてご縁があり、共に戦うこととなった皆様に、何かできることがないだろうかと思いまして」
「……」
 雪継はちょっと考えるような間をおく。
「それは……きっと、手伝いたいという思う人も、いるんじゃないかな」
「え!? それは……とても、ありがたいかもしれません。その、そもそも皆さんが、どんなものを好きかも解らなくて……」
「そう。材料は、どうするんだろう?」
「ある程度は用意しておくつもりです。特殊なものはちょっと……」
 指折り、数えつつ確認する。うん、と小さく頷いた。
「そうはいっても、私もすごく料理が得意というわけではないので、もし得意な人がいれば、教えていただいても……いいのでしょうか?」
 少しだけ控えめに彼女は問うので、雪継は軽く吹き出した。
「勿論、頼ったほうが喜ぶと思う。……あ、俺には聞かないでくださいね。料理できないから」
「は、はい、勿論、料理ができなくても、食べていただけるだけでも嬉しいです! それに、折角素敵な喫茶店を借りているので、お誕生日関係なくみんなでお料理をしてご飯を食べたいという方もいらっしゃっていただけたらと」
 力説するアンジェリカ。そして一度落ち着くように一呼吸。彼女の話をたまたまか、それともいつものようにか。聞いていた人々にも、深々と頭を下げた。
「……そういうわけで、ございまして。宜しければいらしてくださいね」
 顔を上げたとき、彼女は少しだけ、照れたように微笑んでいた。


■リプレイ

「アンジェリカさん、お誕生日おめでとうございます♪ ……これは、プレゼントです……♪」
「まあ! ご丁寧に、ありがとうございます」
 アリスがくれたストールに、アンジェリカも嬉しそう。アリスとおそろいである。ミルフィも声を上げた。
「アンジェリカ様、ストール、とてもよくお似合いですわ……♪」
「ありがとうございます。けれど、どうしましょう。お返しできるものがありません」
「そんな、気にしないでください。一緒にお料理作りましょう♪」
 私も勉強中の身ですがと、アリスがレシピ本を出すとアンジェリカも少し真剣な面持ちとなる。
「わかりました。アリスさんのためにも、美味しいお料理を作ります」
 一緒に本を覗き込む。鮭やきのこを使ったグラタン、モンブランにチャレンジだ。
「えっと…アンジェリカさん……こんな感じで……いかがでしょうか?」
「そうですね。ここは……」
 和気藹々とする二人。それなりに手際もよい。では私も……とミルフィが徐に、
「では参りましょう。『ジャバウォックを昏倒させ、バンダースナッチも裸足で逃げ出す』との称賛を受けた、至高の料理の腕前をご披露する時が――」
 やる気満々だが、それはいわゆる壊滅的料理の腕前といわないか。
「――って!? ミ、ミルフィは、食器とかのご用意と『試食』の方をお願いしますっ!」
 珍しくアリスがあわてている。
「? 皆さんで作れば宜しいのでは?」
 アンジェリカはわかっていないようで、首を傾げるが、アリスは首をふる。ここで、許すわけにはいかない。大惨事確定である。でもはっきり言うわけにも行かないとぐるぐる悩みながら、
「だめー。そう、そう。ミルフィは美味しいものいっぱい食べてほしいのー!」
「ま、まあ……確かに、味見も「大事」ですけども……☆」
 アリスの優しさで台所の平和は守られた。そんな風にパタパタしながらも、美味しいお料理が出来るだろう。

「俺の好みが入ってしまうとなぁ。どうしても味が濃くなりすぎて」
「でも、僕がやると三回に一回は焦がすから」
 エリオットとロストークは互いに顔を見合わせる。
「……たまには作ってもいいんじゃないか? 手料理。三回に二回は成功するなら」
「うん。でも俺がリョーシャの料理食べたいから」
 勝敗は決した。
 若干理不尽な気分になりつつも、料理を手伝いながらエリオットがアンジェリカの手元を覗き込む。
「美味しそうだねぇ、出来上がりが楽しみだ」
「うん。一切れいただくのが楽しみだなぁ」
「ローシャはいいから洗い物続けろよ」
「どれにしようかな。ふふ、迷うなあ」
「……エリオットさん、ま、負けてはいけませんよ」
 二人のやり取りにアンジェリカが思わず声をかけ、心外なという顔をしたのはロストークのほうであった。
 きっと一日中そんな感じだろう。とはいえエリオットもまんざらではなくて、
「自分達へのご褒美って具合かね。何にしようか。目移りしちまうな」
「おいしいものはなによりのごほうびだね」
 落ち着けば色とりどりのケーキを前に真剣な目をしている二人である。
「どうぞ、たくさん食べてくださいね」
「そうだなぁ。でも一個を選ぶっていうのもロマンがあって……」
「そうだねえ。……あ、アンジェリカさん」
「はい?」
「お誕生日おめでとう。僕らに手伝えることがあれば、いくらでも力を貸すよ。今も、これからも」
「……はい、ありがとうございます」
「……く、ローシャに先越された。勿論俺も俺も、何でも言ってくれよな」
「ふふ……、ええ。頼りにしています、先輩」
 仲のいい様子にアンジェリカが笑い、顔を見合わせて二人も笑ったさあ。料理の完成まであと少しだ。

「俺はどちらかと言うと和食の方が得意なのだが……ま、やれるだけやってみるか」
 【奇跡の村】の真也がとペンギンの絵が入ったエプロンをつけてきりりとした表情でいうと、
「うんうん、料理はアンマリしたことないけど、ま、なんとかなるっしょ! 的精神で頑張る!!」
 トリュームもまた拳を握り締めてガッツポーズ。そして料理に取り掛かった。
 取り掛かったのは……いいのだが……。
「ふふー。これはいい出来だね、渾身の一品だね」
 焦げ方・割れ方が若干ドクロに見えなくもない巨大チョコカップケーキにトリュームは満足げである。
「……ところでそこの、線のようなものは」
「え? うーん、導火線……?」
 導火線はケーキに刺さっているものだろうか。しかもその先にスパーク花火さした。
「ハッピーバースデー、アンジェリカ! すっごいお料理おいしそうね! ワタシのも頑張って作ったんだー。ね、食べよ食べよ?」
 すっごく頑張ったんだからアピールに、思わずアンジェリカも笑う。
「はい。嬉しい。ところでこの線は……?」
「後でのお楽しみかなー!」
「お疲れ様。こっちも完成したぞ」
 真也が顔を出す。周囲の手伝いや片づけをしている間にフレンチトーストを作っていたのだ。仕上げをおえてテーブルに並べる。
「自分なり上手くできたつもりだ。いかがかな?」
 トッピングに生クリームとメープルシロップを用意して。綺麗に並べられたそれに、アンジェリカは微笑んだ。
「ふふ、本当。美味しそうですね」
「うん、みんなで食べよーなの」
「そうだな。みんなで一緒に食べるのが何よりだ」
 テーブルに並ぶ美味しそうな料理たち。お楽しみは。三人の食事はこれからだ!

 さくらはすでに夢見心地で、
「どんな顔で食べてくれるのかしら。食べ終わったらどんな顔をするかしら。美味しい、って笑ってくれたら嬉しい……」
「さくらさん、さくらさん、お鍋が」
「ってわぁああん! 焦げちゃうぅっ!」
 最初は面白そうに聞いていたアンジェリカは思わず口を挟む。なんだかものすごいにおいが発生していて、さくらの悲鳴が響いた。
「……」
 席に座しさくらの料理を待っていたヴァルカンは、そっと聞かないふりをする。何が出来るのか楽しみだ。……本当に楽しみだ。
「……」
「……」
「……あの、見に行かれます?」
「いや、ここは信じて待つ。……うむ、エプロン姿が気になるわけでは決してない」
「まあ……。とっても綺麗でしたよ。それに料理なさる姿がとても素敵でした。本当に、ヴァルカンさんのことがお好きなんだなって」
「……む」
 そわっとしたのは秘密である。
 その後。
「……宣言通り、心も腹も満たされたよ」
「……美味しい? 良かったぁ」
 ヴァルカンの言葉にさくらはほっとしたように笑った。
 その言葉だけで充分で、なんだかおなかがいっぱいになった気がする。なんだかとても、不思議にあったかい気がした。
「これはね。ここをわたしが作ったの。ちょっと焦げちゃったのだけれど……」
 嬉しげに解説するさくらに、
「帰ったら、頑張ってくれた妻を労わなくてはな。何かリクエストはあるか?」
「え? リクエスト?」
 だから、不意の言葉にさくらは一つ瞬きをした。そうして少し、幸せそうに微笑んで、
「それじゃあ……」
 相手の耳元に唇を寄せてささやく。ひそやかな会話はそれだけで特別なような気がして。
 目が合うと思わず二人で笑みがこぼれた……。

「アンジェリカちゃん、お誕生日おめでと! お久しぶりねえ。一緒にケーキ作りましょうか!」
 コマキが持ってきたのは、ルバーブであった。
 かくて太い茎のような何かである。なかなかなじみのないハーブであるが……、
「まあ。コマキさんが育ててらっしゃいますの?」
「そうなのー。これねー、このままだと渋酸っぱいんだけど、砂糖と合わさって熱を加えると甘酸っぱくなるのよこれが!」
「ではコマキさん、これは?」
「これもね、そのまま食べると駄目だけれど……」
 さすがに森のこと、薬草のことは詳しい。コマキの説明を時々メモしながら真剣に聞くアンジェリカ。
「アンジェちゃんアンジェちゃん、こっちのほうはどう~? アボガド平気?」
 そこに天音の声が聞こえて、アンジェリカはふりかえる。
「アボガドですか? どんな……ああ、可愛い! ひとつ頂いてもよろしいでしょうか」
「もっちろんよー。はい、あーん」
「あーん」
 ぱくりと一口サイズ。うずらの卵が美味しいです。
「んー。味も美味しい。もう少し頂いてもよろしいですか?」
「もっちろん。いろんな種類があっていいでしょ?」
「はい、とても! ……コマキさん」
 ひょい、とアンジェリカはコマキの口元にも。
「はい、あーんです」
「あらあら~」
 ありがとう。なんてコマキはぱくり。
「イリスさんもいかがですか?」
「私? ええ。貰うわよ。ちょっと待って……」
 エプロン姿に軽く髪を縛って顔を出したイリス、すると、
「はい、あーん」
「え!? あ、まあ。頂いてあげるわ……」
 なんだか照れるけれども、とイリスもぱくり。
「ふふ、美味しいです?」
「……美味しいわよ。……ほら、遊んでないで。ケーキ……でしょう?」
「! はい、そうですね。ケーキもたくさん作りたいと思います」
 イリスの言葉に居住まいを正すアンジェリカ。それにイリスも少し笑って、持ってきていたケーキの本を広げた。
「私のオススメのケーキは……そうね。皆で食べるならシフォンケーキなんてどうかしら?」
「わあ。私に出来るでしょうか……」
「出来るわよ。きっと。……さ、はじめましょう」
「はい……!」
 ぎゅっと気合を入れるアンジェリカ。それにイリスも決意に満ちたようにひとつ頷いた。絶対二人でいい物を作ろうと気合が満々である。
 それを天音が少しはなれたところでピンチョスを作りながら見守っている。何かあったらすぐにでも駆けつけられるように。けれども何かあるまでは、好きに出来るようにという配慮からであったりするのだが、
「イリスさん。これだとお砂糖って少なくないでしょうか?」
「……そうかしら。アンジェリカは甘い方が好き?」
「はい。お料理はともかくケーキは甘い方がいい、と、思うのですが……」
「……やってしまおうかしら」
「やってしまいます?」
「冒険は……嫌いじゃないわ」
「まあ。それでは……」
「だーめ。やってしまわないようにしてください」
 思わず天音は割って入った。二人とも見ていると、危なっかしいが下手ではない。きちんと、教科書どおりつくりさえすれば、いいものが出来るはずなのである。きちんと。
「最初の頃は冒険なんてしちゃだめよ。ほら、終わったらこっちのケーキも手伝ってね」
 なので口は出す。二人は同時にはーい、と、先生に言うみたいに言って、顔を見合わせて笑った。

「僕、卵焼きが食べたいのです」
「卵焼き……スクランブルエッグとは違いますか?」
「あ、厳しそうならご無理は……」
「だし巻き卵ですか、いいですねえ。ふわふわで金色……」
 月の言葉に千笑は夢の世界へと旅立っていた。アンジェリカの視線に、月は首を横にふる。
「僕はあの、先日カレーがようやっとそれらしくなったってレベルなのでとてもとても」
「ああぁぁ、すみませんご期待に添えず私料理は修行中と言う名の食べる専門です」
「わ、解りました。では……ご期待に添えられるかどうかは、解りませんが」
 日本のお料理難しいな。なんて本を広げるアンジェリカ。月と千笑はそれを見守る。
「千笑さんはお料理上手そうなのです、今回も何か作るのかと思っていましたが……」
 自分以外の人はみんな上手に見えるらしい。きらきらした目の月に千笑は申し訳なさそうに、
「簡単な野菜炒めくらいなら大丈夫なんですけど……」
「わ、それでもすごいです」
「そうですよ。野菜炒めは案外難しいでしょう? すごいです」
 いつの間にかアンジェリカも加わってじっと千笑のほうを見ていた。
「あ、私チキンの照り焼き食べたいです! 皮がパリパリのやつ」
 厨房には強力な助っ人が何人もいるからと千笑は少々焦り気味だ。
「……」
「……」
 月とアンジェリカはニコニコして期待している。
「……う、うん。アンセムさんと月さんだけなら……。そ、その代わり。チキンの照り焼きも何卒……」
「了解しました!」
 数分後。綺麗な和食のお昼ごはんは、月の嬉しそうな声で始まる。
「……ん、美味しい。僕も、頑張らないといけませんね……」
「あはは、今度は月さんがご馳走してくださいね」
 そんな風に楽しく会話しながら……。

「貰うだけでなく、私のとっておきにレシピを一緒につくりましょう!」
 紫睡は張り切っていた。ものすごく真面目な顔で、
「丼ものの料理はレパートリーが広く、かつ後の洗い物が大変楽で、私が一番好きなのカツ丼ですが……」
 やる気に満ち満ちている。ユストと一緒に、
「自分で作るなら牛丼が一番ですよ! ささ、ここに良い感の……ん、何ですかユストさん? ……しまった。不覚、ここはおしゃれなカフェでした……!」
「赤身肉? いいねえ最高じゃねーか! おしゃれなカフェってんならローストビーフ丼だろローストビーフ丼。ローストビーフはおしゃれだよな!」
「……丼、がダメか? そっかー」
「どうしましょう、今からでもビーフサンドイッチにでも路線変更しますか!? 」
「そうだな、じゃあサンドイッチで頼むぜ! 肉を切るぐらいはやるからよ!」
「……」
 こらえきれずアンジェリカは吹き出した。
「おお? なんだなんだアンジェリカ」
「ほら、こっちですよー」
「はい、今参ります。……いえ、お二人の仲があまりによろしくて」
「そっか? ふつーだって。そういやこれを機にアンジェリカの話しも聞きてぇんだが……」
 ぺたぺた、手を動かしながらのおしゃべりである。んーってアンジェリカは首を傾げる。
「俺はほら。剣や拳を使った戦いで、好きな食い物は肉だ! アンジェリカは?」
「私ですか? やっぱり歌うことは好きですよ。パイプオルガンもシスター達の中では、一番上手だったんですから。後日本の漫画には来る前から憧れていました」
「んー。でしたら、食べ物とかは? お肉とかです! はっ。もしかして宗教上食べられないものとかは……」
 なんと言うことでしょう。自分で言っててくらい顔になっているので、アンジェリカは笑った。
「特に食べられないものはありませんよ。けれど、教会は平たく言うと、質素倹約ですから。日本の食事は本当に、いろいろあって驚きます。折角の日本ですから、色々食べてみたいので、いつも嬉しいなって思ってます」
 なんて話をしながら、ぺたぺたしていたら、
「あ!」
「え」
「は、はい?」
「やっぱり丼になっちゃいました~」
「お前、どこをどう間違えたら丼になるんだよ」
 燦然と輝くローストビーフ丼。お洒落かもしれない。思わず顔を見合わせて笑う。そういうことも、あるのだろう。

 テーブル席には清士朗から贈られた白いダリアの花が飾られている。
 席に座って頬杖ついて。リリィはそれを視界に納めながらもその向こう側の景色を見つめていた。
「パウンドケーキはね、簡単でしょう? ここでふわっと……」
 みつあみエプロンのエルスが示すと、アンジェリカもなるほど、なんて相槌を打つ。
「では。中に入れるのは……」
「後でレシピを教えよう。ところでなんだかこげたにおいが……」
「! きゃあ……! 卵が。清士朗さんのオムライスが……!」
「……」
 リリィと座ってとりとめのない話をしていた清士朗が徐に立ち上がった。
「血が騒ぐな……いってくる」
「はい。いってらっしゃいませ」
 思わずくすりとリリィは笑う。もう絶対、ほっとけないだろうなって思ってたのだ。
「ふわっとさせたかったのに……」
「大丈夫、これくらいなら問題ない。後あわせるものを一品、作ってもいいか?」
「は、はいー」
 エプロン装着。アンジェリカとエルスと並んで三人エプロン姿でどこかほのぼの……しなくもない。
「清士朗様は……スープ?」
「ああ。あまり量が食べられないそうだが、これなら重くないかな、と」
「うん、とっても美味しいと思うのー。ほらほらアンジェリカ様も味見ー」
「ええ!? よ、よろしいのですか?」
「ああ。好きなだけ味見もするといい。……でも手元には気をつけて」
「わ、解りました……!」
「まあ、多少のことがあってもエルスや俺がいる。何とかなるだろうが」
「はい。そのときは、甘えさせていただきます……!」
 賑やかになるキッチン。リリィはそんな声を聞きながらそっと目を伏せる。お料理作ってくれる人がいるってとても素敵な事だもの。この幸せで楽しい時間を、もっともっと堪能したくて。
「出来ました……! お熱いうちにどうぞ」
 そんな幸せな沈黙は幸せな声で破られる。
「お好み焼きは洋食かしら? 和食かしら?」
「え……と、多分和食でしょうか……? リリィさんが味の濃いオコノミヤキをお好きなのは、少し意外でした」
「まあ。私はこれで、意外と何でも食べるのよ?」
「それにたくさん食べるから、共にいて楽しいぞ」
「あら。清士朗さんの意地悪」
「たくさん食べてくれるほうが、嬉しいに決まってる。リリィ様、お待たせしたの」
「意地悪とは心外な。もちろん、エルスとリリィの分もあるからな? お食べ?」
 次々と並んでいく料理にリリィは目を輝かせる。片づけを終えた清士朗とエルスも席に戻ってくる。アンジェリカもちょこん、とご一緒させてもらうことに。
「幸せな空間で生まれたお料理と料理人さん達に感謝しつつ――いただきます!」
 リリィの言葉にいただきます、と皆の声が乗る。楽しい食事は、まだまだこれからだ。

作者:ふじもりみきや 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月19日
難度:易しい
参加:19人
結果:成功!
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