灰色館と青薔薇の庭

作者:柚烏

 街を見下ろす丘の上――其処には、翠に埋もれる様にしてひっそりと、歳経た館が聳え立っていた。
 既に館の住人は去り、廃れて彩を失くした灰の洋館。しかし、館を囲む庭園には未だ、確かな翠の息吹が宿っていた。ひとの手が入らずとも、木々や草花は芽吹き――ただ懸命に咲き誇る。それは、朽ちて時を止めた灰色の館と、鮮やかなまでの対比を成していた。
 ――ふわり。静寂に満ちた館の庭園に、謎の花粉が漂ってきたのは突然のこと。謎の花粉は小さな蕾をつけた薔薇にとりつき、瞬く間にその可憐な姿を異形へと変える。
 妖しくも艶やかに花開く薔薇は、深いまでの青い色。それは嘗てこの世に存在しえないと言われた、不可能と奇跡を象徴する色彩だった。
 そうして攻性植物と化した薔薇たちは、その花弁を更に彩ろうとするかのように――ひとびとの生命を求めて動き出す。

 爆殖核爆砕戦の結果、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出したようだ、とエリオット・ワーズワース(白翠のヘリオライダー・en0051)は、伏し目がちな様子で現在の状況を語る。
「この攻性植物たちは、大阪市内への攻撃を重点的に行おうとしているようなんだ」
 ――恐らくは、大阪市内で事件を多数発生させて一般人を避難させ、拠点を拡大させようという計画なのだろう。故に、このまま放置する訳にはいかなかった。
「成程……今回の事件も、そのひとつと言う訳ですね」
 緩く波打つ髪をふわりと靡かせ、穏やかな物腰で確認するのは卯京・若雪(花雪・e01967)。薔薇の攻性植物が出現する可能性に、注意を払っていた彼だったが――今回それが、エリオットの予知に引っかかったらしい。
「うん。謎の胞子によって、青薔薇の攻性植物が一度に複数誕生して、そのまま市街地で暴れ出そうとしているみたいなんだ」
 この攻性植物たちは、一般人を見つければ殺そうとする為、非常に危険な状態だ。しかし数は多いが、別行動は行わずに固まって動き、また戦い始めれば逃走などは行わない為、対処は難しくないだろうとエリオットは言う。
「それでも数の多さは脅威だし、互いの連携もしっかりしているから、油断は禁物……だね」
 倒すべき青薔薇の攻性植物は、全部で5体。場所は小高い丘の上に立つ洋館――その廃庭園だ。周辺の一般人は事前に避難させておけるので、皆は青薔薇との戦闘に集中出来るだろう。
「攻性植物には特にリーダーのような個体は無くて、全て同じくらいの強さみたい。形態を変えての攻撃の他、棘を絡ませて血を啜ったりもするようだから気をつけてね」
 洋館は大分前から無人になっているようだが、庭園は今でも四季折々の花を咲かせ、散歩がてら見物に来るひとも多いらしい。ひとの手で形作られた庭園を、ゆっくりと自然が呑み込んでいく様子――その調和のうつくしさに、魅せられる者も多いのだとか。
「無事に片付けば、そちらを散策してみるのも良いかも知れませんね。それにしても、青い薔薇……ですか」
 と、其処で若雪の相貌が柔和な笑みを形作る。嘗ては不可能の象徴として描かれた薔薇であるが、今はひとの手の届くものとなった。愛しいものの為、世界を彷徨い続ける苦難を乗り越えて、手を伸ばせば掴み取れるかもしれないもの――澄んだ若草色の瞳は、真っ直ぐに空の果てを見据えていた。
「夢、かなう――穏やかな日常を、取り戻しに行きましょうか」


参加者
ロゼ・アウランジェ(七彩アウラアオイデー・e00275)
ハンナ・リヒテンベルク(聖寵のカタリナ・e00447)
古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)
卯京・若雪(花雪・e01967)
周防・碧生(ハーミット・e02227)
翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)
風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)

■リプレイ

●色無き館と色彩の庭
 廃れ、彩を失った灰色館。時を止めたようなそれとは対照的に、周囲の廃庭園には今なお翠の息吹が溢れていた。ひとの手が創り出した庭と、自然より新たに生まれ出でたもの――それらが絶妙に混じり合った景色の中を、セリア・ディヴィニティ(蒼誓・e24288)らケルベロスが往く。
「主無き庭となってしまって尚、こうも力強く咲いているのね」
 荒れるがままに任されていると思った庭だったが、自然な範囲で維持に努めているのだろうか――成れの果てと呼ぶには些か忍びない、とセリアは思う。嘗ての庭に植えられた草花に混じって、可憐な花を咲かせる野草などは、この星に息づく生命の逞しさを感じさせた。
「……薔薇は、好きよ。品が良く、気高くて」
 庭園の薔薇たちは未だ、ちいさな蕾のものが多かったけれど――花開く瞬間を祈るハンナ・リヒテンベルク(聖寵のカタリナ・e00447)は、慈しむように翠緑の瞳を細めて囁く。
「それに、美しいだけじゃなく、自分さえも、その棘で守っている」
 疎んじられることも多い薔薇の棘だが、歌うように響くハンナの声は何処までも優しい。そんな友人の姿を見守るロゼ・アウランジェ(七彩アウラアオイデー・e00275)もまた、薔薇に特別な想いを抱いていた。
(「青薔薇は私の薔薇……不可能から希望へ、神の祝福へと変わった花」)
 ――ロゼの金蜜色の髪を飾る薔薇は、陽光によって微妙に色合いを変える。さながら七彩の薔薇と言ったところだが、彼女が色彩を識り世界に触れることが出来たのも、全ては歌があったからこそだ。
「頑張ろうね、ハンナさんっ」
 庭園のアーチをくぐり抜けていくオラトリオの乙女たちは、薔薇の化身の如く可憐で愛らしい。一方の翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)はと言えば、中性的で涼しげな美貌も相まって、翠の守護者と言った風情だった。その唇から紡がれる言葉は、木々を揺らす風を思わせて――多くの命が奪われる惨状を止めたいと、風音は誓いを新たにする。
「攻性植物と化した青薔薇……これが神の祝福などとは思えませんが」
「植物が動くのは不可能。そして青薔薇が動いたのは奇跡……とは呼びたくないわね」
 不可能と奇跡を体現する青い薔薇――それが攻性植物化したことに、風音は少し悲しみを覚えていて。皮肉なものね、と溜息を吐く古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)は、複雑な表情で歩みを進める風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)の様子に気づき、深い智慧を宿した瞳をゆっくり瞬きさせた。
(「青薔薇かぁ。なんだか、複雑な気分だよ」)
 本来ならばあり得ない色彩を宿す薔薇は、どうにも好きになれない――と言うのが錆次郎の本心だ。それは薔薇自身が望んだ色では無く、ひとの手で無理矢理生み出した色、いわば不自然な色だから。
(「希望なんかよりも、僕はどうしても人の罪深い欲望が生み出した……そんな風にしか感じられないんだよね」)
 ――きっとそれは、清濁併せ呑んだ世界の現実を知ってしまった所為もあるのだろう。或いは錆次郎自身が、有機と無機とが融合したレプリカントであることも影響しているのかもしれない。
(「それでも、キレイだって喜んでる皆に、水は差したくないからね」)
 仲間たちに配慮し、少し離れて歩く錆次郎の真意に思い至ったのか、るりは微かに足取りを緩めて空を仰いだ。色々な考えを持つ人間がいるのは当然のこと。己を偽り、心にも無い嘘を吐く方が罪深いのだと、彼女は考えている。
 ――しかし、青い薔薇に違和感を抱くのも仕方ないのかも知れない。茂みを掻き分けて姿を現した攻性植物たち――その青い花弁は不自然な程に鮮やかで、異形と化した際に変質したものだと推測出来たからだ。
「薔薇は本数でも花言葉が違うのよね。5本は『あなたに出会えてよかった』……皮肉かしら」
 5体の攻性植物を指折り数えたるりは、表情を変える事無く淡々と呟く。花粉との出会いなど、不幸なものだったでしょうに、と――続く言葉に風音もそっと頷き、凛とした態度で青薔薇と向き合った。
「例え作られた種類でも、今ある姿で生きるのならばそれで良かったのですが……」
 それは、どのような運命があれど今を生きる人々の姿に重なり、好ましいものに思えただろう。しかし寄生され侵略の道具にされた薔薇はきっと、こんな未来など望んでいなかった筈だ。
「青薔薇にとっても我々にとっても、望まぬ未来は阻止しなくては」
「ええ、夢が悪夢へと転じぬように……。心苦しさはあれど、災いの芽となってしまったものは、摘み取らせて頂きましょう」
 ふわりと陽に透ける薄茶の髪に、慎ましやかな白藤の花を咲かせた卯京・若雪(花雪・e01967)が、優美な仕草で刀を抜く。そんな心強い先輩の姿に、己も強く在ろうと決意する周防・碧生(ハーミット・e02227)もまた、黒鎖を鳴らして一歩を踏み出した。
「奇跡の花が、絶望を生む前に……必ず、止めましょう」
 ――そう、血の花なんて、咲かせはしない。碧生が伏せた銀色の瞳には、励ますように此方を見上げるボクスドラゴン――リアンの姿が映っていて。俯く顔を上げたその時、茨を蠢かせた攻性植物が碧生たちに襲い掛かって来た。
「夢は叶う……まじないとしては、大きく出たものね。だけれど、残念」
 瞳に灯る蒼炎を揺らめかせて、セリアの振るった槍が青い花弁を散らす。しかしそれも、一瞬遅れて吹いた風によって見る間に攫われていった。
「貴方達がこの庭を出ること、それだけは叶わない」

●青薔薇の檻
「あなたたちを、散らせるのは、本懐ではないけれど……このままにしておけば、被害が出てしまうもの、ね」
 その相貌が憂いを帯びたのは一瞬――直ぐに騎士令嬢の顔つきに戻ったハンナは、止めましょうと告げて攻性植物の侵攻を防ぐ盾となった。
「思い入れ深い、大切な花……散らすことは悲しいけれど、大切だからこそ人の命は奪わせません!」
 ――嘘ごと私を愛してと、軽快なジャズの調べに乗せてロゼが歌うのは、青薔薇に送る鎮魂歌。絢爛の歌声が敵群の足取りを鈍らせる中で、虚空より生まれしるりの神槍が薔薇の一体を無慈悲に貫いた。
「……奇跡だろうと、殺してみせる」
 命中と回避は戦いの基本と言う彼女の言葉通り、どんな強力な一撃も当たらなければ意味がない。碧生が呼び出した黒の王が軽やかに敵を翻弄した所で、若雪は無数の刀剣を戦場に解き放ち――鋭利な棘の力を削いでいく。
「愛される光景が傷付かぬように、阻んで見せましょう」
 仲間たちに声を掛け、壁のように布陣して攻性植物を押しとどめたのは、周囲に被害が及ばぬようにとの配慮もあった。綻びを生まぬように、と優しく告げる若雪に頷いて、碧生は流れ弾に注意するようリアンへ言い聞かせる。
「……ここまで惨く変わり果てた姿は、見ていられない。でも――」
 臆病で繊細な心が、戦いに身を投じる碧生の足を竦ませるが――逃げたりしない。決して目を逸らすことだけはすまい。
(「どうか、前へ……。例え全てを失ったとしても、新たに芽吹く命もありますから」)
 そして風音も、追憶に囚われず前に進む者の歌をうたい、青薔薇の勢いを抑え込んでいった。後方から狙い澄ました一撃を加え敵の動きを鈍らせた所で、今度は火力を削いでいく――畳み掛けるような連携を決めていった風音たちだが、攻性植物たちも只やられるままでは居なかった。傷が深いものは棘を操って生命を啜ろうと動き、他の個体は厄介な後衛を纏めて片付けようと、大地を侵食して襲い掛かる。
「シャティレ、皆さんを頼みます!」
 愛おしい緑の小竜――ボクスドラゴンのシャティレと視線を交わし、風音は青薔薇の棘から仲間を庇った。溢れる朱が緑を濡らしていくが、それも癒し手である錆次郎によって、瞬く間に治療を施される。
「おっと……! そうこうしている内に、今度はこっちが危ないね」
 何処かのんびりとした雰囲気の錆次郎だが、戦況を見据え的確に動く様子にぶれは無い。同じく回復役のリアンと協力し、それでも対応しきれない時は仲間たちが助けに入った。更に攻性植物の波状攻撃によって、厄介な催眠が齎された際は、最優先で浄化を行う。
「花が束になってかかってきたくらいでッ!」
 激昂するるりだったが、魔力を帯びた呪符は青薔薇の侵食を軽減してくれたようだ。元気そう? とセリアはぽつり呟いて、鋼の鬼と化した拳を攻性植物に見舞った。
「確実に仕留めるわ――」
 ――最も消耗している個体を狙い、皆で攻撃を集中させて攻め続ける。シンプルであるが故に、実力が求められるその作戦は、其々が役割を確りとこなしていたお陰で上手く機能していた。セリアが攻撃の要として存分に力を振るえているのも、牽制や援護を行う仲間たちが居てこそだ。
「きっと、この庭には血生臭い闘争なんかよりも、静寂の方が似合うわ」
 一撃、二撃と加える度に、セリアの槍技は冴えわたる。溢れる光の粒子が集束し生み出されたのは、眩いばかりの光の槍――それは希望の一矢となって、不滅の青薔薇を塵へと変えていった。
「……だから、おやすみ」
 ――かくして蒼炎の戦乙女は、仲間たちに勝利をもたらす先ぶれとなる。

●不可能と奇跡の象徴
 ひとつ花を摘み取れば、あとは同じように繰り返せばいい――最初の一体を仕留めたことで、一行は対処の術を掴めたようだった。能力が同じ個体な分、応用も効き易い。
(「いざと言う時は、手を下す事も厭わなかったけど」)
 万が一の際は、自身も攻撃に加わろうと決めていた錆次郎だったが、無事に戦線は保たれているようだ。ならば己の為すべきことを、と彼の表情がふにゃりと緩む。
「さぁ、傷を見せてねぇ? 大丈夫、痛くしないからねぇ?」
 デュフフフフ――と不穏な笑い声を響かせる錆次郎だったが、機械腕の処置は完璧だ。一方で、若雪が舞うように刃を閃かせれば、其処からは忽ち幻の花が咲き誇り、目眩を覚えるような優しい芳香を辺りに振りまいた。
「花眩――どうか安らかに、お休みなさい」
「はい。夢を叶えた色が、血や悲哀で塗り替えられぬように……」
 その幻想的な光景に見惚れる間も無く、動きを封じられた攻性植物へ、魔力を込めた碧生のファミリアが撃ち出される。粉々に砕けた青薔薇の花弁が、雨のように降り注ぐ中――今一度灰の洋館にかつての色彩を灯そうと、ロゼは奇蹟を請う禁歌を響かせた。
(「貴女が私を守ってくれるならば、私も貴女を守るから」)
 お怪我は、ない――? そう言ってロゼを庇ってくれたハンナは儚げに見えつつも、確固たる意志で戦場に立ち続けている。白き薔薇を戴く彼女もまた、己を守る棘を宿していて――流水の加護を纏うハンナは一息で間合いを詰めた後、その盾を刺し貫く細剣へと変えた。
「さあ、こちらよ……お水を、あげる」
 舞うように繰り出された一撃は、きらきらと眩い飛沫を散らし、またひとつ薔薇が散っていく。鼓動なきもの達の声を刃に変えた風音も、光の翼を暴走させて駆けるセリアも、皆其々にこの悪夢を終わらせようと力を振るっていた。
「かつてデウスエクスを殺すのは不可能だった」
 それが不可能の象徴――青き薔薇の攻性植物とは、何という皮肉かと、るりは口の端を上げて告げる。けれど彼女が召喚するのは神すら殺す必中の槍、そのレプリカ――フルカネルリの魔女裁判だ。
「それを可能にしたのがケルベロス。奇跡の力よ」
 ――指し示した指の先、最後の青薔薇が貫かれて花弁を散らす。そして翠の庭園にゆっくりと、いつもと変わらぬ平穏が戻って来た。

●生命の彩
 自然の景色が変じぬよう、極力手作業で修復を終えた後。若雪と碧生は薔薇たちを供養し、共に廃庭園の散策へと向かっていた。
「本当に……いつまでも眺めていたい気分ですね」
 陽光溢れる秋の庭は、淡い色合いに包まれて――枯れた噴水に葉を広げ、うつくしく咲き誇る花たちの強さを見習いたいものだ、と碧生は思う。
「はい、お疲れ様。無理はしないで、きちんと疲れを取って下さいね」
 其処で若雪が差し出したのは、いつも持ち歩いているお菓子の包みで。好奇心旺盛に前を往くリアンの様子を見守る碧生の口の中に、その時ほろりと上品な甘さが広がった。
(「自然に帰り行く草花にも、其処に寄り添う人々にも、どうか等しく心穏やかな日々があるように――」)
 一方、少し離れた場所で庭を見て回る錆次郎は、この庭園を造った人がどんな人だったのか想像していた。かつての名残をとどめる庭を見れば、草花を慈しんでいたのだろうと分かるが、それでも。
「元々の花言葉通り、青い薔薇は不可能で有って欲しかった気がするよ」
 ――あ、とシャティレと共に散策をしていた風音は、其処で綻んだ蕾を見つけて表情を和らげた。ふと気づけば、つぶらな瞳を瞬きさせたシャティレが、風音の服の袖ボタンと見比べて首を傾げている。
「ふふ、似ていますか? 薔薇には色々な思い出がありますからね」
 人の作った場所と、そこに息づく自然とが織り成す今と言う時間。これもまた、一つの『奇跡』なのかもしれないと呟いて、風音は秋の空を見上げた。そしてセリアはと言えば、屋敷の屋根から庭園を見下ろして、咲き誇る花々を何処か愛おしげに眺めている。
「人の手が離れ、置き去りにされて……そうして出来上がった光景が美しい、というのも中々に皮肉に思うけれど」
 それでも、存外に悪いものではない――滅びと再生が入り混じる、哀しくも美しい光景に心奪われ、セリアの光翼もまた、美しい燐光を地上に投げかけていた。
「わたしの邸にも、薔薇はたくさん咲いているけれど。佇まいも変われば、まるで違った花のように、新鮮に見える、わ」
 一方、庭園に建てられた東屋では、ハンナとるり、そしてロゼがお茶会を楽しんでいて。ふわりと香るローズティーを口にするるりは、ハンナの話を興味深く聞いている。
「私の家も薔薇園のある洋館なの。受け継いだものだけど……そういえば、青薔薇は無かったわね」
 庭に植えるのも良いかも知れない、と青の瞳を細めるるりが辺りを見遣れば、ロゼが優しい薔薇の詩を口ずさんでいた。朽ちて尚生きている、命の煌めきを感じる庭園――そして、灰色館がかつて抱いた笑顔を想像しながら。
(「どうか、この一時だけでも笑顔の花咲く、彩り溢れる場所になりますように」)
 ――そうして一息吐いた後、ハンナは庭の花たちを次々に写真へと収めていった。本当は花の一輪でも持って帰れたらと思ったけれど、手折るのは何だか可哀想だったから。
(「ずっと待っていた、あの子に。よろこんでくれる、かしら……」)
 朽ちてゆく人の住処も、懸命に伸び続ける命も、たくさんたくさん画面に収めて。自然と頬が緩むのを感じながら、ハンナは足取り軽く廃庭園を後にした。

作者:柚烏 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
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