「だから、この恋は絶対に本物だと思うの!」
目を輝かせてそういった少女に、親友は深いため息をつく。
「あのさぁ、何度も言いたくないけど先輩には、もう彼女いるじゃん? そんなの皆知ってるって」
「それはなにかの間違いだって。 だって、私の方が先輩の全てを理解してるんだから、選ばれるのは当然だわ。 学校からの帰り道、好きなお店、好きな飲物、猫が好きでよく駅前の猫カフェに通ってることも。 髪型や化粧だって先輩が好きなものに変えたんだから、だからきっと……」
「ヤバ、もうこんな時間! 悪い、ごめんね! 私、塾の時間だわ」
親友は、突然そう言って席を立ち、
「いい? 何度も言うけど先輩にはちゃんと彼女がいるんだから。 邪魔しないで諦めなよ?」
教室に、一人残された少女。
「……私のほうが、先輩をよく理解してるのに……大好きなのに」
「あなたからは、初恋の強い思いを感じるわ。私の力で、あなたの初恋実らせてあげよっか」
声のした方に振り向くと、見たことのない少女が……彼女は近づくと、なんのためらいもなく少女に口づける。
恍惚とした表情を浮かべる少女、彼女の胸に鍵を刺しこむ。
「さぁ、あなたの初恋の邪魔者、消しちゃいなさい」
現れたドリームイーターは、迷うことなく歩きはじめる。
彼女にとって邪魔な相手を消すために。
●ヘリオンにて
ヘリオライダーの皇・基(en0229)は、集まったケルベロスの仲間たちを前に今回の状況を説明する。
「日本各地の高校にドリームイーターが出現し始めたようです。 ドリームイーター達は、高校生が持つ強い夢を奪って強力なドリームイーターを生み出そうとしているらしく、今回狙われたのは『花田 みゆき』という学生で、初恋を拗らせた強い夢を利用されたようです。 被害者から生み出されたドリームイーターは、強力な力を持ちますが、この夢の源泉である『初恋』を弱めるような説得ができれば、弱体化させる事が可能です。 対象への恋心を弱めても良いし、初恋という言葉への幻想をぶち壊すのでも構いません。 うまく弱体化させる事ができれば、戦闘を有利に進められるでしょう」
敵は、自分の初恋相手である先輩『斉木 ミキヤ』の彼女『塚田 桜』が、学校帰り一人になるところを狙って攻撃を仕掛けてくるようで、 回復の手段を持ち、モザイクを飛ばす攻撃を仕掛けてくるらしい。
ケルベロスが現れると、ドリームイーターはケルベロスを優先して狙ってくるので、襲撃されている一般人の救出は難しくないという。
「ドリームイーターを野放しにすることは出来ません。それに、今回の被害者の『初恋』は、かなり拗らせたもののようですね。 ドリームイーターを弱体化させる事で、できれば彼女の歪んだ想いが行き過ぎたものでない、誰もが持っている初恋の記憶になればと思うのですが、その辺りは皆さんにお任せします。どうぞよろしくおねがいします」
参加者 | |
---|---|
上月・紫緒(シングマイラブ・e01167) |
リナリア・リーヴィス(クラウンウィッチ・e01958) |
錠前・エルマ(閉錠心・e19271) |
寺井・聖星樹(爛漫カーネリアン・e34840) |
空野・灯(キュアリンカーネイト・e38457) |
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807) |
ナナツミ・グリード(貪欲なデウスエクス喰らい・e46587) |
風柳・煉(風柳堂・e56725) |
●貴方がいるから……
「それじゃ、またねー」
いつもどうりの通学路。
自分とは逆方向に帰る友人たちに手を振って、彼女『桜』は再び歩き出す。
すると、
「塚田先輩。やっと来た、私、待ってたんだから」
俯いたまま、脇道から出てきた人影がそう声を掛けてきた。
「ずっと見ていて、知ってるのよ……貴方が先輩に付きまとってる迷惑女だって」
そう言って向き直った相手の顔はもちろん胸元はモザイクで崩れ、何も見えない。
「ひっ?!」
「今日は、私が、先輩に代わって……貴方を始末してあげる」
そう言って、ドリームイーターは、すぐにも攻撃を仕掛けようと手を前に突き出した。
「やれやれ、仕方のない人だ」
風柳・煉(風柳堂・e56725)は、そう言って姿を現した。
尻もちをつきそうになった桜の身体を支えた寺井・聖星樹(爛漫カーネリアン・e34840)。
ドリームイーターと彼女の間に割って入るとその背に庇う。
驚き戸惑う彼女に、
「大丈夫ですよ、私達はケルベロスです」
と、声をかけた空野・灯(キュアリンカーネイト・e38457)。
眼鏡を取り出し、かけたリナリア・リーヴィス(クラウンウィッチ・e01958)。
「この場は私たちに任せてさっさと逃げなさい」
敵の出現を前に、殺界を張り気合を入れる死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)。
ピリピリとした空気に弾かれるように、その場を逃げ出す桜。
「ケルベロス……」
ドリームイーターは、そう呟く。
「キミが産み出されたドリームイーターだね」
ナナツミ・グリード(貪欲なデウスエクス喰らい・e46587)が問いかけるようにそう言った。
「邪魔者が、邪魔者を呼んだようね……いいわ、貴方達から先に始末してあげる」
「きっと知らないだけ……本当の意味での素敵な想いを。 あなたを倒して、気づいてもらいます」
そう言って、上月・紫緒(シングマイラブ・e01167)は真っ直ぐにドリームイーターを見つめる。
身構えながら、錠前・エルマ(閉錠心・e19271)が続けて語りかける。
「みゆきさんの心の鍵を勝手に開いて産み出されたドリームイーター……歪んでしまった想いごと閉じさせてもらいますよ」
●その想いは純粋な一方通行
斬撃が、美しい軌跡を描き敵を捉える。
しかし、ドリームイーターは微動だにしない。
(「彼女もまた、恋に殺され狂わされようとしている」)
自分の過去を重ねるように、利用されてしまった彼女の想いに、寄り添おうとする紫緒。
(「もう悲劇は、これ以上増やしたくない」)
「えっと、みゆきちゃんだっけ? キミはきっと私たちが止めてもキミの想い人が幸せになると思ってこの凶行を押し通そうとするんだろうね。で、キミはこれが正しいとミキヤくんだっけ? 彼に確認したのかな? 彼から言葉を貰ったのかな? それ以前にキミは彼とちゃんと話をしたことはあるのかな?」
立て続けに、そう訊ねるリナリア。
「えぇ、私達に言葉は要らない。だって私達は通じ合ってるんだもの。 毎日、視線を重ねて、言いたいことが伝わってくる。邪魔な女が付きまとってくる、早く消えてしまえばいいのに。 ってね。 えぇ、今日こそ貴方の為に、目障りな先輩には消えてもらうわ♪」
嬉々とした声で、そう答えたドリームイーター。
「恋煩いなんて言葉もありますが……夢というより病気ですね……」
喰霊刀が吸い上げた魂を仲間に受け渡しながら、思わず、ため息とともにそうもらした刃蓙理。
「これを機に、治ると良いのですが」
その動きを止めるように、強烈な重い蹴りを放つ煉。
「うーん、一目惚れと言うか君の場合たかが落ちた荷物を拾って貰っただけの話だろう? そもそも、先輩に相手がいると言うことは、それなりに先輩は常識人で荷物を拾う位の事は誰にだってすると思うんだ。 ……形式や程度はどうあれ、恩を仇で返すような真似はよしな」
「誰にでも?」
その言葉が琴線に触れたのか、ドリームイーターが叫ぶように言った。
「解かってないっ、全然解かってないっ!! 先輩が、あの場所に居た事が運命! そもそも私達は運命で引き寄せられた……言葉なんて要らない仲なのよ!」
食らいつくように大きく開いたモザイク部分。
その攻撃を受け止めた聖星樹。
「私は、誰よりも先輩を理解して、解ってるの。 だから、先輩も私のことが好き」
線の細いシルエットからは考えられない重い攻撃に顔を歪ませたものの、すぐに明るい調子を取り戻し話しかける。
「初恋ってキラキラしてステキなもの、ってマンガやドラマで言うよね。 だから『初恋をすること』に執着しちゃう人もいるって聞いたな。 初恋に憧れて相手のことをいくら調べても、相手の方があなたを見てなきゃ両思いにはならないよ」
ギュッと目を閉じ、意を決したように見開く灯、
「イマジネーション・リンカーネイト!」
可愛いピンクの衣装に身を包み、金色に輝くツインテールをなびかせ変身する。
「命導く篝火……キュアリンカーネイト! 先輩が大好きなんだね。私にも憧れている年上の人がいるの。だから、あなたの愛の強さも、現実を受け止めて不安になる心の弱さもわかってあげたい」
そう真っ直ぐな想いを伝える。
仲間たちの支援をしつつ、穏やかに語りかけるエルマ。
「知らない事、知る喜びって、ありますよね? 多分、みゆきさんの初恋には、そんな喜びがたくさんあったと思います。それが楽しくて、先輩さんの事をたくさん知って……今のみゆきさんが恋してるのは、先輩さんの事なんでしょうか。 恋に恋して、自分に酔って。勝手に見返りを求めてるのでは?」
灰の瞳で、心の奥までも覗き込むように、改めて問うように気持ちを伝えようとするエルマ。
それとは逆に、心を揺さぶるように逆なでるように、ナナツミは追い込むような口調で告げた。
「不憫だねぇ……孵ることのない想いというものは、ただ空虚で虚しい。 キミの努力は徒労を産むだけで何も満たされはしない。 彼女を排除したところでキミが新しいカノジョになれるなんて限らないのにねぇ」
「……『彼女』を消しても、『彼女』に成れない……」
ドリームイーターが、動きを止めた。
●消しても成れない、消せない想い
邪魔な相手を消せば、必ず『自分がそう成れる』に違いない。
だって、先輩は、私の事が好きだから。
私の方が解かっているから……。
「きっと、私が、先輩の隣に!」
「きっと だなんて言葉は保障にもならない。 先輩自身に望ませなきゃはっきりと口に出して言わせなきゃ。 その為に必要なこと、分かるよね?」
ナナツミの言葉を受けて、ドリームイーターのもがくような攻撃が続いた。
しかし、それは最初の頃より、威力が落ちている。
ケルベロスの仲間たちは、攻撃しつつ説得を続ける。
(「そういえば……こう狂った感じに恋を煩わせちゃった子、めっちゃ身近にいたのよねぇ」)
ふと、思い出したリナリア。
(「この子はもっと広範囲にやばいの振りまいてたけど」)
視線の先、リナリアの椅子がちょうど紫緒庇っていた。
「初恋が甘酸っぱい思い出か、もしくは真っ当な未来への可能性に向かえるように。 手助けしますか。 進め、この風と共に」
巨大な追い風が、仲間たちを包み込み、勝利へと向かう加護を与える。
「……爆発……!」
漆黒の炎が、敵を包みこみ炸裂する。
「誰かを好きになる事が出来て……相手の理想に近付こうと自分を磨く、そこまでは素晴らしい事だと思います」
淡々と、言い聞かせるように刃蓙理は話しかけた。
「普通に告白してみたらどうでしょう……。本当は自信が無い……断られる事が怖いのでは? もし、駄目でも次がありますよ……なんたって若いんですから……。 一人で告げる勇気がないなら、一緒にいきましょう」
煉が、その御業で敵を捕縛する。
「自分の身勝手で相手の人生を壊して……もし、仮にキミが付き合うことが出来たとしよう。でもそんな中身のない、単に寂しさを紛らわせるような関係で、本当に恋が実ったといえるのかい?」
聖星樹が稲妻の速さで突きを繰り出さすと、ドリームイーターは膝をつく。
「はじめての恋だから、相手の気持ちの事まで考えられないのかもしれないけれど、キミが相手を想う事と相手のキミへの想いは、違うんだ。 それがわからなくなるから、『初恋は実らない』なんて言われるのかもしれないね」
かならず叶う恋はないと、ハッキリ告げた聖星樹。
「愛は相手を思いやる心。愛してもらうことばかり考えてるあなたの恋には愛がない! 恋はみんなが幸せになるすごい事なんだから……大好きの使い方を間違えちゃだめえ! リンカーネイト! スパークル! トランジション!」
灯は、殴るではなく愛の篭った拳で相手の胸に優しくタッチする。
「嫌われたくない、認められたい、でも、解かって、いる……この恋は……」
ドリームイーターがふらつきながらそう口にした。
「自分の気持を素直に言えるところ、恋を叶えようと積極的なところとか、それは素敵なことだと思います。正直、羨ましく思いますよ」
エルマが言った。
(「今でこそ、僕にも隣にいてくれる人はいますけど、初恋はというと、多分、何も言えないまま、終わってしまったので……」)
「みゆきさんには、ちゃんと相手が一緒に歩いてくれるのか、ちゃんと受け止めてほしいと思います」
ケルベロスの仲間たちの説得に、ドリームイーターの力は完全に削がれた。
「初恋って素敵、それは知っています」
紫緒は言った。
「アナタは自分の方が相応しいって確信してるようですけど、先輩さんとちゃんと話し合ったことありますか? 恋って、一方通行じゃないんです。 ちゃんと話し合い分かり合えなければ悲劇に繋がる……!」
振り上げた八咫烏を一気に振り下ろした紫緒。
ドリームイーターが、悲鳴とともに2つに分かれて霧散する。
●変化
「終わったね」
特に感慨深いということもなく、こともなげにそう事実を告げる煉。
「ドリームイーターを倒すのが仕事。彼女が欲しいものを手に入れたかは、別問題だねぇ」
ナナツミがそう言うと、
「ドリームイーターを倒したことで、本当の意味での恋ができるといいのですが」
と、エルマが言った。
「実らない確率のほうが高そうだけどね」
聖星樹は、その顔からは想像できないほど、ズバリと遠慮なくそう答える。
「ちゃんと思い合う恋、始められると思います」
紫緒はそう言って空を見上げた。
(「恋は人を狂わせるけれど、恋は人を救うんです」)
茶色くやわらかな髪に咲くネモフィラの花と、その穏やかな微笑みを思い出し、微笑んだ紫緒。
そんな紫緒の横顔を見ながら、リナリアは言った。
「追いかけるだけじゃ見えないものに、ちゃんと向き合ってくれると思うよ。みゆきちゃんも」
ケルベロスの仲間たちが、戦闘後の片付けや損傷箇所の処理にあたっている頃……。
「……起きたーー!!!! アンタ、ちょっと大丈夫?! 呼んでも呼んでも起きないんだもんっ。アンタが家に帰ってないって連絡あるんだもん。塾の途中で飛んできたわよ、大丈夫?!」
「うん……ちょっと、ホラ、ここ最近悩んでたから、サ。 疲れちゃってたのかも」
ドリームイーターを倒したことで、無事みゆきは目を覚ますことが出来たようだ。
「あのさ! ……明日、私先輩に告白するわ。 玉砕覚悟、言うだけ言ってみる。……ちゃんと、慰めてよね~」
「みゆき……分かった! 砕けたら、受け止めてあげるわよ。当たり前じゃん! 一緒に悲しみのヤケ食いよ!! 牛丼でも、食べに行く?」
教室から漏れ聞こえる声と、思っていた以上に前向きで、そして元気な様子を前に、様子を見に学校へ戻っていた灯は胸をなでおろす。
「それにしても、いい友達じゃないですか。 彼女、もう大丈夫そうですね」
傍らの刃蓙理も、そう言って帰っていく二人の少女を見送ったのだった。
作者:stera |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年9月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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