集団行動は強い

作者:文月水無

●予知
「俺もいつかは自分の知り合いだけで遊んでやるぜ」
 夏休みも明けた平日、北多摩にあるとある団地の青年が自室でオンラインゲームをプレイしながら独り言ちた。
 4:4で対戦するゲームであることから、意思疎通のできる人間同士の方が有利で、何より楽しい。だが、友達と呼べるような者は各地方に散り散りであり、ゲームはおろか完全な知り合いだけで遊ぶこともままならない。かと言って新しいコミュニティを作るのも面倒だ……。
 そのような状況の虚しさから自然とこぼれた言葉であったが、これが彼の最後の言葉となった。
「お前の夢はわかった。その夢、俺が奪ってきてやろう」
 顔以外の全身を覆うロングコートを纏ったドリームイーターは、青年の死体を置き部屋を出る。
 団地内を徘徊したドリームイーターはやがて、公園で遊ぶ児童の集団を見つけ「心を抉る鍵」を取り出し突き刺した。
 児童たちが無残に投げ出された公園を背に、ドリームイーターは新たなる地へ出立した。

●ミッション説明
「以上が私が予知した未来となります」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はヘリポートに集まったケルベロスに対して状況を説明した。
 ドリームイーターが夢を語るだけで何もしていなかった人を殺してその人になり代わり、夢を叶えようとする事件が起きている。
 今回の場合「知り合い4人以上で遊んでやる」というのが夢のようだ。
 ドリームイーターはなり代わられた人が持っていた夢を実際に叶えている人を近場で見つけて襲い、その人からドリームエナジーを奪った後、夢に該当する部位を奪って去っていく。
 このままだと遊びに来た児童が公園で被害にあってしまう。
「これ以上の被害を出さないよう、皆さんには動いていただきたいのです」

●周辺状況
「周辺の状況と敵戦力についてですが……」
 ドリームイーターが徘徊しているのは北多摩の団地である。
 過疎により人は少ないものの、放課後になると校庭ほどの広さの公園で児童たちがよく遊ぶ。
 今すぐ公園に向かってケルベロスを降下させることで、二件目の悲劇には先回りできるのでそうする。
 ケルベロスは一般人に比べて夢の力が大きいようで、少しでも気を引くような行動を行えばドリームイーターを引き寄せられる。逆に全く関係のない状況になってしまうと引き寄せることができなくなるかもしれない。
 ドリームイーターは、「心を抉る鍵」「平静喰らい」「モザイクヒーリング」のグラビティを使用する。攻撃力は高いものの、数で劣勢の上でダメージを受けると「モザイクヒーリング」の使用率が極端に上がる傾向にある。回復力も同乗しているケルベロス全員で叩けば凌駕できる程度のものである。
「皆さんの力があれば必ず打倒できると信じています」
 セリカは状況を説明し、ケルベロスへ向き直った。
「皆さんの力があれば、今からなら被害を最小限に抑えられます。友人たちと遊ぶ子供たちの未来までは奪わせないよう、頑張りましょう」


参加者
御籠・菊狸(水鏡・e00402)
松・雪子(スノードロップ・e00862)
篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)
アミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)
モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)
ロスティ・セヴァー(身体を探して三千里・e61677)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)

■リプレイ

●戦闘前
 とある平日の日中、晴天のもと北多摩のとある公園のに降り立ったケルベロスは砂場に集まっていた。
「おっきー城作るとかがやっぱり楽しいんじゃないかなっ!」
 御籠・菊狸(水鏡・e00402)が明るく提案する。純粋に楽しむことが必要であるという指示に対し、依頼であることを把握しながらも本当に純粋に楽しみたいという気持ちを前面に出すことで、みなの緊張もほどよくゆるんでいく。
「やっぱ西洋風っすかね。日本のお城も良いっす」
 篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)がバケツやシャベル、霧吹きにじょうろなどを並べ準備を進めながら同意した。
「あっ、あの! せっかくですから、こちらとこちらに、対になるように作ってはどうでしょうか?」
 ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)がスコップを手に持ち眼鏡を通して周囲を見渡す。
「おっきなお城作って、ドリームイーターを悔しがらせてやるもん」
 リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)がルーシィドの視線を受けて冷静に受け答える。
「私も砂遊びは初めてですけど楽しみです! 二つ頑張って作ってみましょう!」
 袖が汚れないように松・雪子(スノードロップ・e00862)もたすき掛けクリップを用いて腕の自由度を上げやる気を見せて同意した。
「周辺には人も敵もまだいないみたい。それくらいの余裕はありそうね」
 念のために、と周辺状況を確認していたアミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)も合流し、持参したスコップと霧吹きを持って準備をはじめる。
「まずは土台を作ると良いみたいデス。底の空いたバケツに砂を入れ、水を入れ、砂を入れ、水を入れ、と繰り返した後踏み固めるみたいデスネ」
 モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)はアイズフォンを使用し砂の城の作り方を検索して伝える。作業服に軍手姿で準備も万端のようだった。
「ではそれは僕が。土台を4つ作り、2つずつを繋げる形でいかがでしょうか。皆さんはぜひその間に付属品などのイメージやご用意を」
 ロスティ・セヴァー(身体を探して三千里・e61677)は補助係にやりがいを見出しているらしく率先して砂を掘り出し始める。
 最初の工程を理解した雪子、モヱ、アミルはそれぞれのサーヴァントに指示を出す。シャーマンズゴーストのシロちゃん、ミミックの収納ケース、ウイングキャットのチャロはそれぞれの体躯を器用に用いながら砂を掘り出していく。
「あ、あの、アミルさんは以前、ものすごいのを作っていましたよね。何かコツとかあるんですか?」
 土台作りを進めている中、やや手持無沙汰だったルーシィドは大きな砂の城作成経験者であるアミルへアドバイスを求めた。
「あら、知っていたの? こういうのは水で土台をしっかり固めておくといいのよ。今作ってるものの上にさらに砂を重ねていくの。でも私は細かいところは苦手だから、そっちはお願いね」
「固めて積み上げてから削って整えるイメージっすね。適宜霧吹きで湿らせていくんすよ」
 アミルと佐久弥はそれぞれの経験値からルーシィドへアドバイスし、ルーシィドからの尊敬の眼差しを受けた。
「おおーっ! 丸い! 高い! すごい!」
 菊狸は一つ目のバケツに土を入れ終えたのを見て、それを取り外して歓喜の声を上げる。
「これを、踏み固めるんですよね!」
 えい、えい、と雪子とシロちゃんが土の塊を優しく踏み固めていく。
「まずは土台っと」
 リリエッタも菊狸にならってバケツを取り上げる。
「これを、踏むんデスネ」
 その土台を見て、先ほど検索した情報をもとにモヱが足を振り下ろす。
「あ、モヱさん勢いには気をつけ……」
 不穏な気配を感じたロスティが声をかけるが間に合わず、固まりきっていない土の塊はボロボロに粉砕される。
「農作業のようデスネ……」
 勢い余り作業着に泥を付着させたモヱは思わずつぶやく。理論でわかっていることと実際に行動するものは違うものだ。
「ドンマイっす。また作りなおせばオッケーっす」
 佐久弥は手早くモヱが崩した塊をならし、再びバケツを置き砂をかけていく。
 このような調子で多少の失敗を重ねつつも、2つの大きな土台は着々と完成していき、いよいよ削る作業に入っていく。
「菊狸ちゃん、ここに天守閣を作りましょう!」
「あ、でも僕あんまり詳しくないから! ロスティやって!」
「いやいや、僕もサポートのほうが……」
「みんなでやるっす! 瓦だから細かい出来より数が大事っすよ」
 菊狸、ロスティが譲り合うのを雪子と佐久弥が巻き込む形で日本風の城の作成は進んでいく。
「塔を二つ作るのはどうでしょうか?」
 ルーシィドの提案に静かに頷くと、リリエッタは円筒型に土の塊を削り出していく。もう片方の塔はモヱが削る。順調に進んでいたかに見えたが、一瞬の油断により手が滑ってしまう。
「あ」
「ア」
 塔を崩してしまった。リリエッタは表情を一瞬崩し周囲をうかがう。造形の提案をしてもらったのに壊してしまった。怒られるのではないかという恐怖が襲う。モヱも表情の変化は薄いものの責任を感じているようだった。
「大丈夫。作りなおしましょう」
 ルーシィドは二人に微笑み、アミルは霧吹きを手に修正を実践しながら答えた。
 ややドジ気味ながら積極的に作るリリエッタとモヱを、ルーシィドとアミルが引っ張る形で西洋風の城も出来上がっていく。
 わいわいと泥まみれになりながら全員で二つで一つの作品を作っていった。
「できたー!」
 そうして完成した二つの城は、公園の砂場というリソースからは想像できない力作となっていた。
「記念撮影しましょう!」
 まずは思い思いの組み合わせで撮影を繰り返す。
 それぞれの思いが詰まった作品と自分自身を撮っていった。
「じゃあ今度はみんなで撮るっすよ」
 佐久弥はまとめてカメラを取り出し、みなを作品の後ろへ集めていく。
「佐久弥さんも入ってください。今こそこの自撮り棒を使うときです!」
 目を輝かせながら長い棒を差し出してくる雪子を目にし、みながそれを了承する。
 8人と3体と二つの城は自撮り棒で撮るにはやや手狭だったが、それぞれ可能な限り寄り添いシャッターを切ろうとする。その瞬間、全員の表情が緊張に包まれる。
「気配を感じます……ドリームイーターのそれの気配を! せめて写真っ! 写真撮影を待ってください!」
 ロスティのその叫びを待ってはくれず、戦闘レンジにドリームイーターは現れた。
 作戦通りにいった。タイミングについては残念であったがそれ自体は喜ばしいことであった。
 念のために一般人を遠ざけておこうと殺界形成を発動したリリエッタは呟いた。
「これで安心してデウスエクスを殺せるよ」
 その場にいた全員が配置につき、それぞれの得物を構え、ドリームイーターへ対峙する。

●戦闘
「楽しそうだなお前らぁ!」
 ドリームイーターは心を抉る鍵を取り出し、佐久弥へ切りかかる。
「危ないっ!」
 そこに咄嗟にロスティが前に出てかばう。
 佐久弥はロスティのほうを心配そうに見つつ、前列へメタリックバーストを放つ。
「データサポートを行いマス」
 虚空を見て震えるロスティに向かってモヱはRoll back sync Ver1(ロールバックシンクバージョンワン)を使用し戦闘開始時の状態へ引き戻す。
 続いて収納ケースが武装を具現化してドリームイーターへ攻撃する。
「助かった!」
 トラウマから引き戻されたロスティは前列にサークリットチェインを打ち次の同様の攻撃に備えた。
「そのまま、眠って頂戴な」
 ヒールの効果軽減を狙ったアミルの白雪ノ夢(スノウホワイトキス)はドリームイーターに直撃した。
 続いてチャロも猫ひっかきで切りかかる。
 ロスティが虚空を見ていた時間を見て、精神攻撃への恐怖を実感したルーシィドは後列にボディヒーリングを行い万全を期す。
「くらえーっ!」
「…………っ!」
 絶対に外さないという確信をもった菊狸の蹴り、足止めを狙ったリリエッタの蹴りはそれぞれドリームイーターに完全に当たりふらつかせる。
 雪子とシロちゃんもそれぞれの力の範囲で攻撃を続けた。
「いいぞ……お前ら仲よく一緒に行動してさ。とても楽しそうじゃないか!」
 ドリームイーターは自身のモザイクを巨大な口の形に変え、リリエッタに襲いかかった。
「大丈夫だよ、ルー」
 だがその攻撃は当たりこそしたが致命傷とはならず、心配そうに見つめるルーシィドに対しリリエッタは微笑み返す。
「同胞よ――いまひとたび現世に出で、愛憎抱くトモを守ろう。ヒトに愛され、捨てられ、憎み、それでもなおヒトを愛する我が同胞達よ――!」
 佐久弥の詠唱が終わるや、付喪神百鬼夜行・先導(チリヅカカイオウ)が発動し、鎧武者、看護婦、SL型の思念体がドリームイーターへ襲い掛かる。
「ぶっ潰すっすよ、俺たちの敵っす。ねぇ、みんな」
 佐久弥はドリームイーターが今叶えようとしている夢に思いをはせ、リリエッタへ行った攻撃を痛々しげに振り返り、襲い掛かる思念体へ向け声をかけた。
「左に地獄! 右に混沌! 同時に行きますよ、地獄混沌波紋疾走(ヘルカオス・オーバードライブ)ッ!」
 ロスティも左手に炎、右手に水を纏わせた一撃を放ち、ドリームイーターをふらつかせる。
「本当、楽しそうだな」
 ドリームイーターは心なしか震えた動きでケルベロスたちを挑発する。
 アミルは捕食モードにしたブラックスライムでドリームイーターを飲み込む。
 続いて飛んできた尻尾の輪、漆黒の矢を受けたドリームイーターの動きは一段、また一段と鈍くなっていた。
 菊狸が敵に星型のオーラを蹴り込むと、ドリームイーターのダメージが見た目にもあらわれ始めた。
「いくよ、シロちゃん!」
 雪子とシロちゃんも追い打ちをかけるべく攻撃を加える。
「お前らがいくらダメージを与えようと、回復すればいいだけのこと」
 戦況が傾いていることをドリームイーターは認め、自身の回復を行い立て直しをはかる。が、想定したように回復が行われない。
「ん……?」
 度重なる不利なエフェクト付与により完全な形で動けなくなったドリームイーターと、度重なる有利なエフェクトが付与されたケルベロスの趨勢はもはや決まっているようなものであった。
 数回のドリームイーターの行動で状況が覆るようなこともなく、終始ケルベロスたちが圧倒する。
「ルー、力を貸して!  ――――これで決めるよ、スパイク・バレット!」
 リリエッタとルーシィドが放つ協力技、死ヲ運ブ荊棘ノ弾丸(スパイク・バレット)をドリームイーターは避けることができず受けとめる。
「ほんとうに、仲がいいもんだな。お前らを抉れば夢が叶いそうだ……」
 8人と3体の連携による優勢、心を通わせた協力技、それは奇しくも犠牲者が憧れていた光景そのものであった。もはや風前の灯であったドリームイーターが呟いたその言葉は強がりから出たものであることは明白であったが、同時に偽らざる本音でもあった。
「おいで、僕の遊び相手!」
 そんな状態のドリームイーターに、菊狸が放つたぬたぬまじっく(タヌタヌマジック)が襲いかかる。
「くそ……!」
 たくさんの人と遊びたい、そんな夢が最後の最後でタヌキの遊び相手になるという見た目上だけは叶っている格好で、ドリームイーターは息絶えた。

●戦闘後
 ドリームイーターとの戦闘を無事終えたケルベロスたちは周囲を確認する。誰かや何かを巻き込んだということはなく、無事任務を完了できたようだ。
 モヱもどこかと通信を行い何かしらの確信を得たようだった。
「ヒールの必要はなさそうですね!」
 雪子は状況を確認していた皆を代弁する。
 そこには、二つの城もきちんと残っていた。
「さっき撮り損ねちゃったし、みんなでもう一回写真撮ろう! ね! パシャって! 写真!」
 菊狸の提案を断るものはいなかった。
 もとよりそうであったが、任務のためではなく、心の底から楽しんで、シャッターを切る。
 その後もまた、満足いくまで、色々な組み合わせで撮影を続ける。
 楽しげな空気に誘われて、子供たちの声が近づいてくる。
 それは無理やり夢を奪って叶えようとするような悲しい敵ではない。
 ケルベロスたちによって勝ち取った、小さな楽しさの連鎖だった。

作者:文月水無 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。