すね毛を剥がすのはガムテープが一番!

作者:ゆうきつかさ

●某教会
「俺は常々思うんだ。すね毛を剥がすのはガムテープが一番だ、と! 実際に俺の脚を見てみろ! ガムテープのおかげでツルツルだ! どうだ、この脚……エロイだろぉ? セクシーだろぉ? グッと来るだろ? だからこそ、俺は言いたい! すね毛を剥がすのはガムテープが一番である、と!」
 羽毛の生えた異形の姿のビルシャナが、10名程度の信者を前に、自分の教義を力説した。
 ビルシャナ大菩薩の影響なのか、まわりにいた信者達は、ビルシャナの異形をまったく気にしていない。
 それどころか、信者達はガムテープを手に持ち、見落としが無いか確認をするのであった。

●都内某所
「マリー・ビクトワール(ちみっこ・e36162)さんが危惧していた通り、ビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で、悟りを開きビルシャナになってしまう人間が出ているようです。悟りを開いてビルシャナ化した人間とその配下と戦って、ビルシャナ化した人間を撃破する事が今回の目的です。このビルシャナ化した人間が、周囲の人間に自分の考えを布教して、信者を増やそうとしている所に乗り込む事になります。ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力がある為、放っておくと一般人は信者になってしまいます。ここで、ビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、周囲の人間が信者になる事を防ぐことができるかもしれません。ビルシャナの信者となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナのサーヴァントのような扱いとなり、戦闘に参加します。ビルシャナさえ倒せば、元に戻るので、救出は可能ですが、信者が多くなれば、それだけ戦闘で不利になるでしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
「ビルシャナは破壊の光を放ったり、孔雀の形の炎を放ったりして攻撃してくる以外にも、鐘の音を鳴り響かせ、敵のトラウマを具現化させたりするようです。信者達を説得する事さえ出来れば、ビルシャナの戦力を大幅に削る事が出来るでしょう。ただし、ビルシャナの脚は無駄に綺麗なので、精神的にダメージを受けるかも知れません。またすね毛を見ると、剥がしたくなるようです」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
「また、信者達はビルシャナの影響を受けているため、理屈だけでは説得することは出来ないでしょう。重要なのは、インパクトになるので、そのための演出を考えてみるのが良いかもしれない。また、ビルシャナとなってしまった人間は救うことは出来ませんが、これ以上被害が大きくならないように、撃破してください。それでは、よろしくお願いします」
 そして、セリカはケルベロス達に対して、深々と頭を下げるのであった。


参加者
細咲・つらら(煌剣の氷柱・e24964)
アルト・ヒートヘイズ(写し陽炎の戒焔機人・e29330)
霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882)
マリー・ビクトワール(ちみっこ・e36162)
ソシア・ルーンフォリエ(戦舞奏唱・e44565)
レナ・ネイリヴォーム(イニチウムフェザー・e44567)
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)
不動峰・くくる(零の極地・e58420)

■リプレイ

●教会前
「突っ込んだら負けかと思ったが突っ込むぜ。いや、おかしいだろ! なんでガムテープに拘るんだ。普通にやれよ、剃れよ!」
 柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)はビルシャナが拠点にしている教会の前で、我慢の限界に達して思わずツッコミを入れた。
 それが負けを意味している事は分かっている。
 分かっているが……我慢の限界。
 ここでツッコまず、いつツッコむ!?
 そう思えてしまう程、アレな教義であった。
 もちろん、ガムテープを使って、すね毛を剥がす事は出来る。
 出来るが……ハッキリ言って、非効率!
 きちんとした道具がある中、わざわざガムテープを使う意味は、Why?
「いや、普通に考えて可笑しいでしょう、ガムテープはそういう事に使う物じゃないから」
 レナ・ネイリヴォーム(イニチウムフェザー・e44567)も、納得した様子で答えを返す。
 だが、ビルシャナにとって、ガムテープは必須アイテム。
 一家に一個、無ければイケないアレのようである。
「これは……普通に良くないでござる。……と言うか、あからさまに間違ってるでござろう? いつもいつも正気でないとは思ってござったが……まさか此処までとは……」
 不動峰・くくる(零の極地・e58420)が、呆れた様子で溜息をつく。
 おそらく、そう言った考え方をしているせいで、ビルシャナになってしまったのだろう。
「やれやれ……、ガムテープでやっても一時的なもので、ちゃんとした処理をしたほうが美容のためにはよいじゃろうにのぅ」
 マリー・ビクトワール(ちみっこ・e36162)が、何処か遠くを見つめる。
 しかし、ビルシャナにとって、ガムテープは心の友。
 どんな時でも一緒にいなければイケないため、他の道具を使う事など考えられないようだ。
「……もう、すねを見せるような時期終わるんだけど、夏が忘れられない類の馬鹿なんかな、この鳥も……。まあ、正直どうでもいーんだけどさァ……」
 霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882)が、ゲンナリとした表情を浮かべる。
 何故、こんな依頼を引き受けてしまったのか。
 自問自答しそうになりそうになったが、おそらく運命……もしくは宿命的な何かだろう。
 そう思っておかねば、テンションがグングン下がっていくような錯覚を覚えた。
「まあ、肌の手入れをしたいのは分かるのですが、強引に手入れをするのは良くないですよね」
 ソシア・ルーンフォリエ(戦舞奏唱・e44565)が、困惑した様子たで口を開く。
 おそらく、ガムテープのデメリットを知らず……もしくは知りながら、それを『なかった』事にしているのだろう。
「そういや……、ブラジリアンワックスも、実はすね毛脱毛には良くねぇんだよなァ。よく似てるやつだけどさ」
 そんな中、アルト・ヒートヘイズ(写し陽炎の戒焔機人・e29330)が、ボソリと呟いた。
 もしかすると、ビルシャナはガムテープで、すね毛を外した時の痛みに……悦びを感じているのかも知れない。
「なんというか、なんというかっ、『お好きになさればよいのではっ?』という案件なので、説得しようにも難しいですけれどっ! そこをばしーんとキメちゃうのが、つららちゃんですっ!」
 そう言って細咲・つらら(煌剣の氷柱・e24964)が、仲間達を連れて教会の中に入っていった。

●教会内
「鳥頭! おぬしは、美容とはわかっておらぬ!」
 教会の中に足を踏み入れたマリーは、躊躇う事なくビルシャナをズビシィッと指差した。
 だが、ビルシャナ達はガムテープで、すね毛を剥がしている最中。
 『何事!?』と言わんばかりに、揃いも揃ってキョトン顔。
「つーか、もっとそれ専用に開発された文明の利器使えよ。ガムテープはそういう用途じゃないからな! ちょっと考えただけで、すげえベタつくだろ? しかも、ガムテープで抜くと毛穴が開いたままだ。そこから雑菌が侵入して健康にも被害があるんだぜ。更に言えば毛が濃くなるとも言われてるな。これって逆効果じゃねえか?」
 鬼太郎がビルシャナ達のすねを見つめ、ガムテープのデメリットを語る。
「毛穴が開く……だと!?」
 しかし、ビルシャナは納得がいかない様子。
 信者達もビルシャナの顔色を窺いながら、何やら難癖をつけていた。
「毛抜き系の脱毛全般に言えることなんだけどさ、毛抜きをすると毛穴が開くんだよね。無理矢理毛穴広げて抜くから。そこにゴミが貯まるんだ。んで出来るのが黒ずみ。いくら毛が無くなっても毛穴が汚れてちゃきたねぇって寸法だ。ガムテープはいっきに剥けて気持ちいいかもしれねぇが、『痛い』だろ? つまり毛以外の余計なものもついでに剥がしてる可能性があんだ。……ガムテープだけですねが綺麗になるならとっくに女子で流行ってるわ。アフターケアも込でよーやっと綺麗になるもんを、ガムテープ一枚で片付けんじゃねぇよ。いらねぇ毛もガムテでむしり取んぞ?」
 アルトがムッとした様子で、ビルシャナ達をジロリと睨む。
「それは、穏やかじゃないな。俺達は別に強制している訳ではない。自分達の意志でガムテープを使っているのだ」
 ビルシャナが何の迷いもなく、キッパリと言い放つ。
 実際には、洗脳によってそう思わせているだけだが、あえてその事には触れないようだ。
「そもそも、なんでガムテープなんですかっ? 知ってますっ? 最近はレディだけでなくっ、紳士な皆様も永久脱毛の時代だそうなんですよっ! 特殊なライトをばちばちっと当ててツルンツルンのお肌にっ! すべっすべのお肌にっ! そちらの方がお肌も痛まず美しいお肌でいられるのですとかっ! ガムテープでべりべりーってしちゃうと、お肌もヒリヒリしちゃいますからねっ!」
 つららがビルシャナ達に語り掛けながら、信者達のすねに視線を送る。
 よく見れば、信者達のすねは真っ赤になっており、ところどころ黒ずんでいた。
「肌がヒリヒリするだと!? そんな訳がないだろ! これが一番イイんだ、最高なんだ。そうだよなぁ、お前等!」
 ビルシャナも逆ギレ気味に、信者達に問いかけた。
 信者達も、その圧で本音が言えなくなり、『も、もちろん』と答えて力強く頷いた。
「その割には、すね毛が気になりませんか? おそらく、ガムテープですね毛を一気に剥がした事が原因で、皮膚に過負荷が掛かって、毛穴が上手く閉まらなくなるどころか、より太く多くの毛を生やしている事が原因だと思うのですが……。本当にすね毛や体毛が気になるのなら脱毛のプロに頼むかちゃんとシェービング用のクリームやローションを使って剃らないと自身の身体を傷付ける事になりますよ? それでも良いのですか?」
 レナが消毒液を左掌に塗り、ゆっくりとビルシャナに近づいていく。
「……ああ、構わん!」
 ビルシャナが力強くコクンと頷いた。
 信者達も、その流れでコクン。
 洗脳されているせいか、それが当たり前のような反応であった。
「……ではガムテープで、すね毛を剥がすデメリットの1つを教えしましょうか。先程も聞いたと思いますが、すね毛をガムテープで剥がすとガムテープの粘着力で肌表面の角質も一緒に剥がれてしまいます。これが何を意味するかというと、単的に言うと肌が荒れ炎症や肌荒れを起こす事があります。当然、一度では全部の毛は抜けませんから何度も貼って剥がすを繰り返すので痛みますよね。人によってはそれで病院送りも有りますし、それでも良いの?」
 ソシアがハンカチに消毒用アルコールを染み込ませ、レナと息を合わせてビルシャナの肌に押し当てた。
「おお、これはなかなか……」
 だが、ビルシャナは、ドM。
 故に、御褒美以外のナニモノでもない。
「各々がた、ちょっと冷静になるでござる。そもそも、ビルシャナにすね毛とか無いでござるよ。抜けやすい羽毛引っこ抜いてるだけでござる。騙されてはいけないでござる!」
 くくるがビルシャナのすねを指差し、衝撃的な事実を口にした。
 それが事実であるか、どうかは別として、信者達も戸惑いムード。
「お前等、騙されるな! そんな訳がないだろ! お前達なら分かるだろ!」
 ビルシャナが脂汗を流しながら、信者達に対して訴えた。
 信者達も『言われてみれば、あれは……羽毛?』と言う気持ちになっているが、それをあえて口にはしなかった。
「まー、その、別にさ、百歩譲ってお前の主張が正しいとしてもだな。お前のすね毛の定義がだんだん怪しくなってきたから、この際全部引っこ抜いていいか?」
 そう言ってトウマがビルシャナの逃げ道を塞ぐようにして、ジリジリと距離を縮めていくのであった。

●ビルシャナ
「ちょっと待て! なんで、そうなる! 俺はただすねを綺麗にしたいだけなのに……」
 ビルシャナが信じられない様子で、ダラダラと汗を流す。
 まわりにいた信者達は、未だにソワソワ。
 ビルシャナのすねを見つつ、『羽毛……それとも、すね毛?』と言わんばかりに視線を泳がせた。
「肌の手入れをしたいのは分かるのですが、強引に手入れをするのは良くないです」
 ソシアがビルシャナに語り掛けながら、イガルカストライクを放つ。
「強引ではない。 自らの……意志だ!」
 ビルシャナが吠えた。
 まるでケモノのように……!
「なるほど、自らの意志……か。そう言えば、足以外にも剥ぎ所が沢山あるようじゃ!」
 マリーがガムテープを使って、ビルシャナの羽毛を剥ぎ取っていく。
「こ、こら! 痛いじゃないか! でも……嫌いじゃない!」
 ビシルャナが新たな感覚に目覚めつつ、ビクンビクンと身体を震わせた。
「……って、悦んでいるじゃねぇか! まったく、何から何まで気持ち悪ぃな!」
 鬼太郎が嫌悪感をあらわにしながら、ビルシャナにツッコミを入れる。
 既にビルシャナの表情からして、ヤバイ。
「ええいっ! 俺を愚弄するとはイイ度胸をしているじゃねえか! おい、お前等! やっちまえ!」
 ビルシャナがこめかみを激しくピクつかせ、まわりにいた信者達を嗾けた。
 その指示に従って、信者達がガムテープを構え、一斉に襲い掛かってきた。
「こーんなに言ってもわかってもらえない信者さんにはお仕置きですっ! 手加減攻撃で眠っててもらいましょうねっ!」
 すぐさま、つららが手加減攻撃で、ポンポンドスボコッと言った感じで、信者達の意識を奪っていく。
 それでも、信者達はガムテープを離さなかったが、既に立ち上がるだけの気力もない。
「うぐぐ……、こんなところで負けて……たまるかァ!」
 ビルシャナが最後の力を振り絞り、レナのすねを狙う。
 そこに、すね毛がなくとも、ビルシャナに迷いはない。
「その命を貫き絶つ、失せろっ!!」
 次の瞬間、リナが拳に朱色の呪詛を纏わせ、ビルシャナの身体を貫いた。
「お、俺は何も間違っちゃ……いない……」
 ビルシャナが、げふっと血反吐を吐き、白目を剥いて血溜まりの中に沈んでいった。
「お、俺達はい……イッテェェェェェェェェェェェエ!」
 その途端、信者達が我に返って、すねを狂ったように擦り始めた。
 どうやら、ガムテープを使って、すねの処理をしていたため、そのダメージが纏めてドカンと来たようだ。
「気休めになるかわからんが、これでも使うか」
 アルトが心配した様子で、肌荒れ対策のクリームを渡す。
 信者達はそれを奪うようにして受け取ると、狂ったようにゴシゴシとすねに塗りたくった。
 かなり肌を痛めつけていたせいで、何やら悲鳴を上げているものの、それでも塗らずにはいられないようである。
「……毛抜き全般に言えるけど、肌の手入れぐらいはしろよォ? 本当に……」
 トウマが呆れた様子で、信者達に視線を送る。
 だが、信者達はビルシャナによって、洗脳されていたため、ガムテープですね毛を剥がしていたため、ある意味で被害者。
 本人にはまったく罪がないと言っても、大袈裟ではないだろう。
「……うーむ。手羽先などを肴に、一杯やって帰るでござるかなー?」
 くくるが何処からか取り出した煙管で紫煙をくゆらせ、ビルシャナの事などすっかり忘れた様子で呟いた。
 その間も、信者達はすねの痛みに苦しみ、何やら悲鳴を上げていた。
 それはまるで呪いの言葉のようにも聞こえたが、その怒りをぶつける相手は、既にお陀仏。
 ……地獄に真っ逆さまな最中だろう。
 そして、くくるは歩き出す。
 美味い手羽先を求めて、ぶらりゆらりと身体を揺らし……。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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