力を求めた二刀の剣士と狂気に飲まれた剣士

作者:沙羅衝

 ここは京都市にある二条城。その中心部、本丸御殿の前にある庭園である。由緒正しき場所は夜の静けさの中、秋の虫の声がコロコロコロと聞こえている。時刻は深夜。京都駅から北に向かうこと数キロにあるここは、昼間の賑わいからは一変し、時折吹く風が季節の移り変わりを感じさせていた。
 ふと、その本丸庭園に3体ほどの怪魚が浮き上がり、ゆらゆらと空中を泳ぎまわり、青白い光を発しながら魔方陣のような軌跡を描いた。すると、その中心部から長さの異なる二本のゾディアックソードを持った女性が出現し始めた。
 その女性は3メートル程の巨体であり、エインヘリアルであることがわかる。だが、その肩や背中からは異形な角が複数本生えており、ケルベロスであれば、唯のエインヘリアルでは無いこともわかるだろう。
「アァ……。チカラ……チカラハ……」
 ブツブツと声を発し、その二つの剣にチカラを入れ、何かを求めるように振り回し始めた。目は落ち窪み、爛々と鈍く光る。既に知性という物の欠片もないようだ。
 ザッ!!
 その時、上空から彼女の隣へと、何者かが着地する。
「ふはははあ! いやあ、スゲエ姿だな。だが、コイツがいれば俺も暴れる事に専念できるかもなァ……」
 薄気味悪い笑みを浮かべたエインヘリアルだった。そして、そのエインヘリアルは、大きな斧を両方の手に出現させた。

「皆、よう聞いてな。京都に二条城があるんは知ってるかな? 実はそこで死神の活動が確認できたんよ」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が、集まってくれたケルベロスに説明を始めていた。手に持ったタブレット端末に二条城の動画を映し出し、ケルベロスに見せる。
「死神っちゅうても、下級で……魚のヤツな。で、そいつがや、以前ケルベロスが撃破したエインヘリアルを変異強化した上でサルベージして、デスバレスへ持ち帰ろうとしているようやねん」
 ここまでの話は、以前からある死神の依頼と同じである。だが、絹の話はそれだけでは終わらなかった。
「んでや、今回は更に、新しい罪人エインヘリアルが現れるみたいや」
 罪人エインヘリアルとは、アスガルドで凶悪犯罪を起こすなどをした危険なエインヘリアルの事だ。
「エリン・ウェントゥス(クローザーズフェイト・e38033)ちゃんが危惧してた事が当たったわけやけど、どうやら罪人エインヘリアルのサルベージを援護するエインヘリアルの妨害行動ちゃうかって思われてる。
 想像したら分かるとは思うけど、結構大変な状況になるな。ただ、サルベージされた罪人エインヘリアルは出現してからの7分後には、死神によって回収されてまう。回収されてしもたら、また何処かで暴れる事になる可能性がある。せやから、出来たらでええけど、回収される前に撃破をお願いしたい」
 絹の言葉に、聡いケルベロスは頭の中で整理をしつつ、唸る。そして、絹に詳細を求めた。
「まず状況や。うちらが駆けつけた時点で、避難は成功してる。ちゅうても、大規模な避難はこの予知が外れてまう。せやから戦闘区域以外は行ってない。ちゅうことはや、取り逃してしもたら、それだけ被害が出てまうってこと、頭に入れといてな。
 敵の戦闘能力の説明いくで。まず怪魚型の死神は噛み付くことしかしよらんし、あんま強ない。
 サルベージされたエインヘリアルは、両手のゾディアックソードで武装しとる。名前は『エーティス』。以前平安神宮で倒されたエインヘリアルや。変異強化されとるから、たぶん前より強い。それに、以前の知性はもう欠片も残ってない。ただ、基本的に7分後に回収されるから、万が一そこで取り逃がしてしもても、直ぐに被害に直結するわけやない。でもさっきも言うたけど、出来れば倒して欲しい。
 んで、罪人エインヘリアル。名前は『ガルディス』。罪人やったらしくて、残忍極まりない性格をしとる。攻撃的で戦闘狂。問答無用で攻撃をしかけてくるやろ。ルーンアックスで攻撃してくる。しかも両手持ちやから、気をつけるんやで」
 絹はそう言って説明を締めくくった。すると、その場にいたリコス・レマルゴス(ヴァルキュリアの降魔拳士・en0175)が口を開いた。
「絹、説明は分かった。エインヘリアル2体と魚とはいえ死神3体は、かなりきつくないのか……。しかも、1体は時間も7分……」
 リコスはそう言いながら、頑張って頭の中を整理しているようだ。珍しく眉間には皺がよっている。
「せや、正直辛いのは分かってる。でも、戦闘に対する知識と経験。皆にはそれがあるんも忘れんとってな。
 敵を相手にする順番、取捨選択。その集中……。しっかりとした作戦を取れば、行けると思ってる」
 絹の真直ぐな信頼の眼差しに、リコスを始めケルベロス達は頷いた。
「よし、任せろ。絹、当然帰ったら私はたらふく食うぞ」
 そう言うリコスに、今度は笑顔で頷き返す絹。
 こうしてケルベロス達は、一路京都まで飛んだのだった。


参加者
クリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189)
大神・凛(ちねり剣客・e01645)
ティオ・ウエインシュート(静かに暮らしたい村娘・e03129)
ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)
黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)
西村・正夫(週刊中年凡夫・e05577)
交久瀬・麗威(影に紛れて闇を食らう・e61592)
クロエ・ルフィール(けもみみ少女・e62957)

■リプレイ

●二条城にて
「あそこです!」
 西村・正夫(週刊中年凡夫・e05577)がそう指し示した先には、ふらふらと空中を泳ぎまわる怪魚型の3体の死神。そして、2体の大きな人影だった。
 ザザザザッ……!!
 その現場に一斉に飛び込んでいくケルベロス達。
 ヘリポートで聞いた絹の話から、ケルベロス達は真直ぐに二条城に突入したのだ。辺りは暗闇に包まれ、曇天の為か星ひとつ見えない。
「なんだあ、お前たちは!? 折角気分が良くなって来た所だったんだがなあ……」
 一つの大きな影がそう呟く。しかし、その表情は暗く、よく分からない。
「わわっ! まっくらです!」
 クロエ・ルフィール(けもみみ少女・e62957)がその暗闇の中で、目的のものを取り出そうと何やらガサゴソと準備をする。
「嗤ってます……。なんて、凶悪な表情でしょう」
 すると、ティオ・ウエインシュート(静かに暮らしたい村娘・e03129)が言った。ドワーフである彼女は少しの光でも表情を読むことができた。そして、その思考をすぐに振り払い、辺りを見回す。
「周囲警戒! 周辺一般人無し! 敵発見! 想定外無し! 戦闘いけます!」
 カッ!
 すると、ティオの言葉と共に、現場が灯りで照らしだされた。
「ライトを点灯♪ 持ってない方にもお渡しするよー!」
 クロエが準備をしていたものとは、深夜という情報を元に持参した、特製ハンズフリーライトだった。それを次々に点けていく。他のケルベロスもその動きに習い、全体を照らし出す。すると、その全容が明らかになっていった。
 頭に残っている絹の情報と照らし合わせ、彼等の敵を確認する。
(「死神どもは、戦力の増強を図っているのだろうか?」)
 そう思考するのは大神・凛(ちねり剣客・e01645)。黒と白の刀、『黒楼丸』と『白妖楼』を抜刀する。そして、息をすぅっと吸い込んだ。
『止まれ!』
 その声は、フラフラとした足取りで、こちらを見ているようなそぶりの、もう一体のエインヘリアル、エーティスに向けられた。
 声の振動が、エーティスに向かい突き進む。
 ブン!
 だがそれは、両の手に持った無骨な剣によって叩き落とされた。それが、戦闘開始の合図となった。
「まあ良いぜ! まずはお前達を叩き潰せば良いって話だよなあ!!」
 先に動いたのは両手に斧を持ったエインヘリアル、ガルディスだった。標的は、目の前にいるクリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189)。
「しまった……!」
 その攻撃をスローモーションのように眺めながら、彼は苦い表情をする。
(「行動を一つ間違えればその瞬間、こちらが厳しい状況になる……分かっていた筈なのに!!」)
 彼は全体の回復、支援を行うつもりであった。だが、予定していたより前に出すぎていた。
「マズは一人!!」
 残忍な笑みを浮かべながら、渾身の一撃をガルディスはクリムに向かって飛びあがり、空中から斧を振り下ろした。
 ガィン!!!
 激しい火花と共に、甲高い金属音が当たりに響き渡る。
「ぐぅっ!!」
 その一撃を受けたのは、交久瀬・麗威(影に紛れて闇を食らう・e61592)だった。彼のチェーンソー剣の刃と激しく交錯し、更に激しい火花が散る。しかし、ガルディスの力が麗威の剣を弾き飛ばし、彼を叩き伏せた。
「麗威!!」
 目の前で入れ替わり、代わりに盾になった一人のケルベロスを案じ、クリムは叫んだ。
「1発が随分重いですね。でも、大丈夫……、いけます」
 押し殺した声でそう言った麗威は、地を踏みしめて立ち上がった。
『起動! クロノスハート! 粉砕レベル金剛石! 砕け散ってください!』
 ティオがその様子を確認しながら、両手に装着した魔改造した粉砕機をエーティスに打ち込む。
 だが、その両手は空を斬る。ケルベロス達はその様子を見て、エインヘリアル二体を倒すには、相当な準備が必要である事を実感する。しかし、彼らは百戦錬磨のケルベロス達だ。怯む事は無かった。
 この依頼の一番大事なポイントは、サルベージされたエーティスを、出来れば倒しつつ、京都市民へ直接被害の出る恐れがあるガルディスを絶対に逃がさないことだ。
 そんな理想を叶える事ができるのか? 敵はそれほどの強さだ。頭の中で、あくまでも冷静に対処法を巡らせるケルベロス達。
 するとその時、後方から声が聞こえてきた。
「待たせた!」
「リコス、有難う。それに、皆も!」
 援軍に駆けつけたリコス・レマルゴス(ヴァルキュリアの降魔拳士・en0175)と、サポートに参じてくれたケルベロス達を見て、黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)は、少し嬉しくなった。
 リコスは期待に応えれたかという想いを込めて、『寂寞の調べ』を歌う。実は音程がかなり外れているのだが、聞いたケルベロスは何故か懐かしい気持ちが芽生えた。
「エリアス。ちょっとの間、前、頼んでいいかな?」
「ん。状況は把握した。じっくり遊んでやろうぜ?」
 麗威が自らが認めたケルベロス、エリアス・アンカーにそう言うと、彼はクリムの前に立った。
「すまない……! もう、大丈夫。ここから先、皆の命は私が預かる!」
 クリムは一つ頭を下げ、後方へと下がる。
 それを見た朱牟田・惠子がオウガ粒子を展開し、流・朱里が舞彩に祝福の矢を与える。そして、正夫がクリムへと破壊のルーンを与えた。
「助かるわ!」
 舞彩はそう言って、鉄塊剣『竜殺しの大剣』を振り上げ、ガルディスに力任せに切りかかり、そして後方へと距離を取る。
「じゃあ、あなたの相手は私。なんてね。暴れたいなら、まずは私相手に専念してもらえるかしら?」
 そう言って嗤う。
「捕食! 捕食! 捕まえたぁ!」
 そしてエーティスへクロエが突っ込み、ブラックスライムを捕食モードに変形させて、浴びせかかった。
 そのドロリとした液体のような生き物に噛み付かれ、身体から血が滴り落ちる。だが、エーティスは表情を変えなかった。
「唯力を求めた末が、これか……。報われないな君も」
 その姿を見たライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)は、思わずそう呟いた。同情と共に吐き出した言葉だ。そして、ルーンアックス『鎖蛇嘆女』を軽く振るう。すると、エーティスの身体に、一つの氷が咲いた。
「葬ってあげよう。……妹の代わりに、この兄がね」

●唯チカラを求めた者
「ガァァァァ!!!!」
 エーティスが両腕のゾディアックソードを、渾身の力をこめて正夫に一本を振り下ろし、そしてもう一本を十字に叩き付ける。
「ぬっ……流石に、少し厳しいですか?」
 正夫は上段に振り下ろされた剣を弾くことは出来たが、真横に薙ぐ一撃は防ぐことが出来ず、そのまま吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。するとクリムがすかさず、ショックを伴う打撃を正夫に施す。
「乱暴な治療ですねぇ」
 正夫はそう言いつつも、会釈をする。そして、右の掌を下に構え、腰を落とした。
『行きます』
 その抜き手が空間を切り裂き、エーティスの傷を抉っていく。少し後ろにバランスを崩したエーティスに対し、ティオが高速で体を回転させて、背中から生えている異形な角を打ち砕いた。
 そこへ死神3体が一斉に動き、麗威へと歯をガチガチと鳴らしながら突っ込んでくる。
「あなた達はまた後で、まずは……」
 麗威は最小限の動きで三匹の怪魚の攻撃見切る。そして、チェーンソー剣でエーティスの少し原型の留めている鎧を砕いた。
「すたーげいざぁー!」
 するとクロエが飛びあがり、エーティスの脚へと、重力を載せた蹴りを叩き込む。
「と~~ぅ!」
 着地と同時に、また距離を取る。更に立て続けに、マリアン・バディオーリとマリー・ビクトワールが同じように蹴りつけ、エミー・ボブスが呪いを放ち、ライゼルがその剣の動きを制限していった。そしてライガ・アムールと七種・酸塊が死神の相手を受け持ったのだった。
 ケルベロス達はサポートも含め、意志の疎通が完璧だった。己の役割を全うする為に、それぞれが最善の動きを実行したのだ。
『止まれ!』
 今度は凛が、ガルディスへと声を発生する。
「てめぇ!!」
 その声を食らい、凛を睨みつけるガルディス。だが、そこに舞彩の声が飛ぶ。
「あら? その程度??」
 そう嗤いながら、如意棒を伸ばし、斧を弾き飛ばす。明らかなる挑発行為だ。
「キサマぁ!!」
 するとガルディスは舞彩を睨みつけ、落としそうになった斧に力を入れて振り回そうとする。だが、彼女との距離はその斧の攻撃が届く範囲ではなく、睨みつけるのみとなった。

 ケルベロス達の攻撃は、ものの見事にはまっていった。勿論、サポートの力も大きかったのだが、特にガルディスの攻撃を半分封じた事が大きかった。
 エーティスに対してはダメージをドローン等の盾の力で防ぎ、動きを制限し、切っ先を鈍らせていく。焦る事はなく、氷を確実に付与し、此方が攻撃をするごとに襲うダメージを加えていったのだ。一撃の重さはあったが、こちらには数という力がある。それを最大限に発揮させたのだ。
「……!」
 思い通りに体が動かなくなっている事が分かったのか、自らの握る剣を少し見つめるエーティス。明らかに力を失っていっている事が分かった。
 こうしてケルベロス達は、ガルディスを抑えつつも、確実にエーティスにダメージを蓄積させていくことに成功したのだった。

 もう、終わりである事は、誰の目にも明らかだった。すると、クロエの腕時計が鳴った。
「7分だよーっ! よーし! みんな次で決めるよ――っ!!」
 頷くケルベロス達。いっそ一思いに、という気持ちがあるのかもしれなかった。
 正夫がルーンアックス『那羅延金剛』を光り輝く呪力と共に斧を振り下ろし、凛が空の霊力を帯びた二つの刃をピンク色に輝かせて、その傷を倍増させるように切り付けていく。
「今度は、当てて見せます!」
 ティオが両手に装着した粉砕機をエーティスに打ち込み、そして爆発を起こさせる。
 しかし、エーティスはまだ倒れない。爛々とした目を目の前のケルベロスに向けて、二つの剣を振り上げようとする。
「もう、倒れろ!」
 だが、その動作を舞彩が『屍竜絶血』で縛る。
『ブリッツベイル!!』
 そこにクロエが、即座に雷撃呪文を付加した戦斧を叩き付け、続けざまに麗威が高速の零式鉄爪で切り裂いた。
『穿て。穿て。穿て。咲いた花が散るように。満ちた月が欠けるように。――私の槍からは逃げられない。』
 クリムが神速の突き放った時、エーティスはゆらゆらと空を見た。何かを悟ったのか、何かを感じ取ったのか。それは分からない。その姿を見たライゼルは、ゆっくりと地獄化した鎖を展開しながら、口を開いた。
「その命、二度と利用されないよう……」
 右脚にその鎖を絡ませて、爆発させる。
「天に、還しなさい」
 加速した身体と共に打ち込まれた蹴りは、エーティスを砕き、そして散らせていったのだった。

 力を求めたエインヘリアル。
 そして、その死をも利用されてしまったエインヘリアル。
 ケルベロス達は、その最期を不憫に感じてならなかった。

●罪人の末路と死神と
「あーあ。死んじまったか……。まあ、どうでも良いか」
 エーティスの最期を見ていたケルベロス達の思考に、そんな言葉が聞こえてきた。
「エーティスさんとお知り合いですか? こんな人を人とも思わない事に加担するのですか?」
 ティオはふよふよと漂う死神を指差しながら、ガルディスに問う。
 だが、その問いには答えず、鼻で嗤っただけだった。
 ティオはその反応を見て、ヒールドローンを展開し、まだ戦闘は継続している事をアピールする。
「……次は、お前だ!」
 そして麗威が、明らかな敵意をガルディスに向ける。
「まあまあ、そんな顔すんなって。でもまあ、俺も暴れたい所だが、流石に多勢に無勢ってのは分かるぜ。ここは、とんずらさせて貰うのが、一番だな……」
 ガルディスはそう言って、背中をむけて怪魚型の死神に言う。
「オラ、お魚さんたちよ、ここは頼んだぜぇ……。あばよ」
 そして、ガルディスは体を縮めて跳躍しようとする。
 ズガッ!!
 しかし、ガルディスの脚に凛の刀の一撃が加えられる。
「逃げれ切れるとでも、思っているのか?」
 そしてライゼルの鎖が爆発と共に弾け、その斧を握った腕に突き刺さる。
「罪人よ。自我の無い者を囮に暴れるつもりか? 浅はかだね。逃す気は無いよ!」
 ライゼルの声と同時に、正夫の抜き手がガルディスの腹を抉り、クリムの槍が肩を貫通させる。
「ぐ……ぉ……」
 すると舞彩が無言で二つの『竜殺しの大剣』を召喚する。
『竜殺しの大剣。地獄の炎を、闘気の雷を纏い二刀で放つ!』
 超スピードでガルディスを切り裂き、最期に大剣を十字に構えると、今まで蓄積してきた傷を爆発させた。
 そしてエリアスがガルディスの足元を穿つと、麗威がガルディスの背後に姿を現した。
「ぜってぇ逃がさねぇ……!」
 右拳に赤い雷が集中していく。
『嗚呼、もう…止められない。』
 ドゴッ!!
 鈍い音が上がり、その拳がガルディスの腹を打ち抜く。
「……ち。ツイてねえ……」
 ガルディスはそれだけ最期に言うと、そのまま消滅していった。

 ケルベロス達は、ガルディスを倒した後、怪魚型の死神を一撃の元に消滅させていった。
「ふう。何とか終わったな」
 リコスは辺りに敵がいない事を確認しつつ、武装を解いていった。
 少し冷たい空気が、熱くなった身体を冷やしていく。
「ああ、よかった……皆のおかげだ」
 クリムはそう言って、安堵の息を吐いた。
「そうだな。助かった」
 凛もそう言って、サポートに駆けつけてくれたメンバーに礼を言う。戦闘時は分からなかったが、多くのケルベロス達が駆けつけてくれていたのだ。
「逃げられたら、たまらないですからねぇ……」
「みんなぁー! 御疲れ様なのダ! いやぁー! あやつらは強敵だったね!」
 正夫とクロエの言葉が、全てを物語っていた。流石にこの数を全て抑える事が出来たのは、ケルベロス達の作戦だけでは危なかったかも知れなかったといった印象を受けていた。それ程に敵はタフで、力強かった。
 サポートのメンバーがいなければ、ひょっとすると大きな傷を負っていた可能性も捨て切れなかった。それほどにエインヘリアル2体という敵は、一筋縄では行かない相手だったと感じたのだ。
「そういえばリコス。あなたあの音程、どうにかならないの?」
「ん? 何のことだ?」
 舞彩は、リコスの『寂寞の調べ』の事を言っているのだが、リコスには心当たりが無かった。
「……まあ良いわ。皆お疲れ。そして有難う。帰ったら気分よく食べられそうね」
「ご馳走!」
「ああ! そうだな!」
 その言葉に心底頷くエミーとリコス。
「そうです、ここは京都ですよ! 観光とお土産は外せません!」
 するとティオが思い出したように言う。
「土産か! それも良いな!」
 その言葉に、リコスはまた食べ物の想像をする。どうやら、一晩ここで過ごしてから、お土産を買うつもりのようだ。
「……しかし罪人とは言え」
「あまり、いい気はしない物だね」
 麗威が目の前の本丸御殿を見ながらポツリと呟き、ライゼルが付け加えると、マリアンもまた同意する。
 この庭園を護ることができた。そして、京都市民も。それは事実だが、どこか少し心に引っかかった。
 同じような闘いは、恐らく日本全国で繰り広げられているのだろう。
 死神によるサルベージには、感情などと言うものは存在しないのだろう、とも思った。そう思うと、やや複雑でもあった。

 静かな庭園には、秋の声がまた響き始めた。
 その声に、ご馳走を期待するケルベロスの声が混ざっていく。
 楽しそうな声と、自然の調べ。それが渾然一体となって、自分達とこの場を彩る。
 ふと、雲の切れ間から差し込んだ月の光が、ケルベロス達を映し出し始めた。
 その景色を見ながら、ケルベロス達はそれぞれに、この事件を考え、そして帰路に着いていった。
 そんな初秋の出来事だった。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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