くノ一達の宿命

作者:ハル


 それは、南條・夢姫(朱雀炎舞・e11831)がコスプレという共通の趣味を持つ仲間と、新作の衣装を披露しあった帰りの出来事。
「……貴女……は……」
 偶然通りがかった公園で見た顔に、楽しかった今日の空気が霧散していく。
 蒼の特徴的な髪型。大きなリボン、細身の肢体、極めつけは禍禍しい形状をした螺旋手裏剣。
 予兆はあったように夢姫は思う。普段通らない道を、今日に限って通っていた。人気の無い場所に、この公園に誘導されていたのだと知る。
「どうして私の修行した隠れ里を壊滅させたんですか!」
 放心が、激昂に変わるのに時間はいらなかった。喉が張り裂けんばかりに夢姫が叫ぶ。
「ふーん、あんたなんて私は知らないけど?」
 だが、眼前の少女――蒼雪・貴音は、流麗と淀みない動きで螺旋手裏剣を構えながら、果たして嘘か誠か、捉え所のない笑みを浮かべていた。
「そんな嘘をっ!? っ……もし仮に、貴女が本当に私の……私達の事を忘れてしまったのだとしたら、余計に許せ――」
 そこまで言って、夢姫はハッとする。
(「彼女は人を動かす術に長けています。言葉巧みに私を動揺させようとしているのかもしれません」)
 夢姫は、深呼吸して心を落ち着ける。
 そうして貴音を見つめると、ある事を思い出す。
「蒼雪・貴音さん……どうやら、胸は成長していないみたいですね。私はほら、この通りです」
 握られたペースを取り戻そうと、夢姫はあえて豊満な肢体を誇示する。
 そしてその効果は、劇的であった。
「どうやら、死にたいみたいだねっ!」
「初めから殺す気だったんじゃありませんか?」
「……楽に死ねるとは思わないでよね」
 瞬間――挑発に乗った貴音の姿が、隠していた殺意を剥き出しに、視界から掻き消える。しかし、殺意に任せた直線的な攻撃だったため、襲い来る手裏剣をスレスレの所で夢姫は応戦するのであった。


「皆さん、緊急です! 南條・夢姫(朱雀炎舞・e11831)さんが、蒼雪・貴音と名乗る螺旋忍軍に襲撃を受けました」
 息を切らせて姿を現した山栄・桔梗(シャドウエルフのヘリオライダー・en0233)が、隠しきれない焦りと心配を覗かせながら、集まったケルベロス一同に告げた。
「南條さんの現在地は、とある公園である事は判明しています。ですが、何度も連絡を取ろうと試みていますが、依然として連絡はつかない状況です。すでに戦闘に発展しているか、間近である事は間違いなく、南條さんをお救いするには皆さんの助力が必要です」
 桔梗が、懇願するように頭を下げる。
 だが、すぐにその必要は無いと、ケルベロスは頼もしい笑みを浮かべて準備に取りかかった。
 桔梗も自分の仕事を熟すために、知り得た情報の伝達に努める。
「蒼雪・貴音は、軍師タイプではありますが、エリートくノ一だけあり、戦闘能力を見ても卓越したものを有しています。唯一の弱点と呼べるのは、蒼雪・貴音本人が、胸が小さい事を非常に気にしている点です。特に自分と同じ螺旋忍者で、かつ南條さんのように豊満な肢体を持っている方を敵視する傾向にあると推察されています」
 その弱点を突けば、攻撃の的を絞らせることも可能だろう。ただし、強敵であるため、注意も必要だ。
「そして、一つ皆さんに朗報があります。このままスムーズに皆さんを輸送できれば、予知の内容から照らし合わせて、南條さんと蒼雪・貴音が接触してすぐの辺りで到着できそうだと分かりました」
 状況は良いとは言えないが、少なくとも最悪ではない。
「公園やその周辺に関しては、蒼雪・貴音の介入によって人影は見当たりません。皆さんには、蒼雪・貴音の戦闘に集中してもらう事ができそうです」
 最後に現場の公園だが、戦闘の邪魔になるような大きな遊具は存在しない。
「軍師タイプとはいえ、油断は禁物です。強敵だという認識を持って慎重に挑み、そして南條さんを救い出してください。相手は螺旋忍軍ですから、勝つためには手段を選びません。演技などにも騙されないようご注意を!」


参加者
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)
ミツキ・キサラギ(剣客殺し・e02213)
祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)
南條・夢姫(朱雀炎舞・e11831)
鏡・胡蝶(夢幻泡影・e17699)
リュリュ・リュリュ(仮初の騎士・e24445)
植田・碧(紅き髪の戦女神・e27093)
篠村・鈴音(焔剣・e28705)

■リプレイ


「忍者かー、うーむ、急に不安になってきたぞ」
 出発前は意気込んでいたミツキ・キサラギ(剣客殺し・e02213)だったが、戦場が近づくにつれ、その表情に陰りが。
「相手が忍者だろうが軍師だろうが、ぶっ殺せばいいだけだろうが。頭のおよろしい連中ってのはよ。ぶん殴ってやりゃだいたい黙るんだよ」
「まぁ、そうなんだけどな」
 不安は伝染するもの。相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)が不機嫌そうに眉を顰める。
「ふふっ、いろいろと事情があるみたいね」
 鏡・胡蝶(夢幻泡影・e17699)は、艶のある黒髪を靡かせながら。
「でも、相馬さんの言う通りよ。蒼雪・貴音さんといったかしら。彼女は、私の親友の可愛い妹を狙ったの。その時点で……ええ」
 明言はしないが、殺意が溢れる。底冷えするような冷気を感じる程に。
「そうね。同じお店で働く者として、仲の良い親友として、助けに行くのが道理よねっ」
 胡蝶のそれと違い、植田・碧(紅き髪の戦女神・e27093)の激情は、燃えるように熱い。まるで、碧の髪色が、彼女の心を暗示しているかのようだ。
「私は似た案件で直接お世話になったからね。その借りを返さないと」
 なにしろ夢姫には、生まれ変わったリュリュ・リュリュ(仮初の騎士・e24445)をもっと知ってもらわなければならない。ただ印象が変わっただけじゃないという事を。
(「皆さん、それぞれあるんですね……」)
 篠村・鈴音(焔剣・e28705)には、因縁だとか、宿命だとか、よく分からない。ただ、誰かが困っている、友達が心配している、それだけで鈴音にとっての戦う理由は十分だった。
「微力ながら加勢しましょう、私達で!」
 だから鈴音は、日常代表として声を張り上げた。
 ――と、その時。

「蒼雪・貴音さん……どうやら、胸は成長していないみたいですね。私はほら、この通りです」
「どうやら、死にたいみたいだねっ!」

 すぐ近くから、南條・夢姫(朱雀炎舞・e11831)の煽りと、貴音の剣呑な声が届く。
「基本不老にして不変のデウスエクスは成長の希望を持てないというのも悲しいものだな」
 それを耳にした祟・イミナ(祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟・e10083)が呟いた。
 デウスエクスであろうとも、心を宿す限り、心に支配されるのだろう。

「必ずこの手で倒して、里の皆の仇をとらせてもらいますっ……!」
 告げた瞬間、視界から貴音が消失する。だが、貴音は冷静ではない。よって、攻撃は読みやすい。
「ああ、そう?」
 格上の相手だ、先手を取られるのは必定。背後から聞こえてきた声と剣打に、夢姫は必至に食らいつこうとして――血が散った。だが、夢姫のものではない。彼女を庇いに入った胡蝶のもの。
「よく粘ったな。後はアイツぶん殴って帰るだけだ、もうちょい気合入れな」
 次いで、風が凪ぐ。そう感じた時には、貴音に流星の煌めきを帯びた竜人の飛び蹴りが叩き込まれた後の事。髑髏の仮面を被る彼が、ゆっくりと振り返った。
「ちゃっちゃとケリをつけて、皆で帰るとしましょう。動くなッ!」
 さらに、鈴音の声が。鈴音がケリと蹴りを合わせて一閃させると、グラビティチェインを注がれ、無数の弾丸と化したキューブ状のラギッド・タスクが拡散する。挑発が成功していた事もあった上、竜人の蹴りを受けた貴音は避けられない。
「夢姫さんの因縁への決着の手助けに来させてもらったわ!」
 碧が、ドローンの群れを前衛の前に並べる。スノーが翼を羽ばたかせた。
「……鏡さん、碧さん、それに皆さんも!」
 夢姫が瞠目する。
 胡蝶は傷を抑えつつ、威力は大幅に減衰できている……そう伝えるように頬笑むと。
「南條さんに何か用かしら。スレンダーで動きやすそうな螺旋忍軍さん?」
「……く、あんたっ……」
 頰を釣り上げ、貴音に言った。薄青いブラウスを、豊満な胸が押し上げているのが誰から見ても確認できるだろう。「こんなにあると、動くと揺れて痛いのよねぇ」胡蝶は態とらしく呟く。だが、やはり螺旋忍者である夢姫程の効果はなく、貴音は奥歯を噛みしめるだけに反応を止めた。
 夢姫も彼女、彼等の助力に背を押されるように、蒼き不死鳥で、素早く動く貴音に確実にダメージを与える。
「螺旋忍者の力がまだあれば、夢姫に助力できたのだが。こう見えて、スタイルには自身があるからな」
 イミナが残念だと、髪を掻き上げる。螺旋忍者であれば、もっと深く貴音の怨念を感じられただろうにと。
「……侘しい胸元持ちよ、豊かな胸に対する怨念だけは評価する。……呪いはいいぞ」
 だがそれでも、祟り甲斐のある相手であることには変わりなく、イミナは馬鹿にされたと屈辱に呻きながらも、平静を保とうとする貴音に、「呪い」をかけようとして――。
(「チィッ! だから忍者の相手は嫌なんだよっ!」)
 死角からの不意打ちを狙ったミツキの、呪詛を纏わせた太刀筋諸共躱される。両者の攻撃は、双方とも命中しても不思議ではなかっただけに、なおさらミツキは呻いた。不安を早々に払拭しておきたかった場面の、この不運に。
 すかさず、貴音が前に出ようとする。
「忍びの流儀は知らないけれど、復讐の立ち合いに助太刀はできるわよね?」
 だが、黄金の柄と宝玉で飾られたハンマー――Buzdygan zlotyを変形させ、竜砲弾を放ってリュリュが押し止める。
 蝕影鬼が遊具に念を籠めて飛ばして援護する。
「間に合ったようだな。無事でなによりだぜ」
 リュリュに「サンキュー」そう視線を向け、ミツキが夢姫に告げる。
 だが、リュリュはミツキの視線への対応もそこそこに、ススッと夢姫に身を寄せると……。
「あなた……いえ、あなた『達』ね。そういうところよ」
 夢姫に、そして胡蝶とイミナにも白い目を向けた。
「……リュ、リュリュさん……何かお気に障ったでしょうか?」
 夢姫はポカンとしている。だが、白い目が胸に向けられている事に、敏感にも気付く。
「無駄話するよりも、今は気合い入れろってんだ!」
 と、竜人の檄が飛んだ。見れば、貴音が身の幻影を纏い、さらに再行動を。
「私に相対して、自分の心が自分の思い通りになるとは思わない事ね!」
 貴音が印を組む。すると、胡蝶、スノー、蝕影鬼には、一瞬前まであったドローンの群れが知覚できなくなる。
 リュリュは、「この話はまた後でゆっくりと!」そう言って、フランベルジュに凄まじい唸りを上げさせながら動く。
 夢姫達は困惑し、しかし半ばどういう話なのかを察して苦笑を浮かべながら、散開。
「スノー、夢姫さんを守ってあげて! 私も私なりの方法で、力を尽くすから!」
 碧が失われた面影を悼む歌を後衛に向けて奏でる。スノーはそんな碧に応えようと、夕暮れの空に轟けと鳴いた。


 後衛に付与された【破剣】を嫌う貴音が、再度精神操作の術を行使する。しかし竜人に躱され、DF陣の妨害にも合って思うようにいかない。
「狐月三刀流奥義、待宵! ――この"二撃"、見切れるか!」
 逆に、ミツキの縮地に、貴音は瞠目させられる。右に構えた、二振りで一振りとされる特殊な喰霊刀……零れ桜・徒桜で立て続けに二段突きを放つと、さしもの貴音も受けに回るしかない。
 その際、揺れも支障もなさそうな貴音の薄い胸をさして、胡蝶が言う。
「まぁ、コンパクトでもいいじゃない。動きやすいでしょ?」
「っ……何度も何度も、しつこいっ!」
 『雪さえも退く凍気』が、胡蝶のパイルバンカーを覆う。貴音の肩付近を掠ると、瞬く間に凍結していく。
 リュリュのジトッとした視線はともかくとして。
 だが、度重なる挑発にも、貴音は我を忘れるまでは至らない。夢姫がこの場にいなければ、また違ったのだろうが。とはいえ、本格的な戦闘が始まって以降は、夢姫は挑発の言葉を口にしていないため、矛先は多少分散している。
「軍師タイプって聞いたが、その沸点の低さじゃ軍師には向いてねぇよ。精々が小狡い小物――っと、別に俺のは胸の話した訳じゃねぇぜ?」
 抜天が炎を噴きあげ、激しい蹴りが貴音の肌を焼く。
 さすがに、最序盤の連続行動の際に、【足止め】と【捕縛】を含めて一気に3つものBSを無効化された際には、竜人も臍を噛む思いだった。それでも、準備してきたものは無駄にはならない。
 最優先で耐性を破壊。後衛を一網打尽にようと迫る精神操作の回避に神経を注ぎ、最も高火力の縮地のダメージを抑える装備を、狙われやすい夢姫が身につけている。
「疾いッ!?」
 鈴音が、雷を帯びた緋焔を振り抜くが、空を切る。
「身のこなしと素早さだけは一級品ね。だけど……!」
 だが同時に、リュリュ達はある事象に気付く。それは、足止めの影響も無論あるのだろうが、それを置いても特定の攻撃に対しては、貴音の反応が鈍く感じる事。
 鈴音、リュリュ、イミナは視線を交錯させ、小さく頷く。
「……弔うように祟る。祟る。祟る祟る祟る祟る祟る祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟祟……封ジ、葬レ…!」
 影のように貴音ににじり寄ったイミナが、呪力を込めた杭を打ち込む。グチャグチャと、泥遊びでもしているかのような音と共に、血飛沫が飛んだ。
 さらに、蝕影鬼の金縛りが動きにさらなる制約をかけようとする。
「ぐぅ……!?」
 貴音は、たまらず距離を取った。【BS耐性】には即効性がないため、碧の破剣も含めてこうも優先的に無効化されては、僅かばかりのヒールを得られる程度の利点しかない。
「螺旋雨風車――【邪神】」
 貴音が螺旋手裏剣を上空に向けて投擲する。すると、辺りから夕日が消えた。代わりに訪れたのは、闇。その闇の正体が、夥しい手裏剣の雨だと気付いた時。
「伏せて!」
 碧が再びドローンを展開する。
 広範囲に及ぶ攻撃のため威力の減衰が生じている。しかし、胡蝶は回避に成功するが、蝕影鬼は急所に直撃を受け消失してしまう。
「油断して一人で来たことを後悔させてあげますっ!」
 夢姫の振るう『櫻鏡』が、空の霊力を帯びて貴音を鋭く斬りつける。
 リュリュが、重力を宿した飛び蹴りを喰らわせた。
「――っ! さあ、詰めて行くわ。一気に攻めるわよ!」
 その際の手応えが、今までとは一味違う事に気付いたリュリュが、仲間に合図を発する。
「膾切りにしてやるぜ!」
「いいからさっさと死んどけや、なぁッッ!」
 ミツキが喰霊刀を暴走させ、強力な一閃を放つ。
 竜人が黒龍のそれへと両腕を変化させ、左右から喰らうように叩き付けた。
 以降、ケルベロスは火力で押し切るべく、貴音を苛烈に攻め立てる。
「スノーお疲れ様よ。あとは私と皆に任せて、ゆっくりと休んで」
 しかし、押しながらも、その過程でスノーが撃破されてしまう。
 碧はスッと瞳を細め、負傷の重なるイミナへ祝福と癒やしの矢を放ちつつ、怒りを新たにした。


 鈴音の緋焔が、貴音の傷を広げる。【足止め】、【氷】、【パラライズ】と、厄介なダメージばかりが貴音に蓄積していく。
「次はあんたの番だよッ!」
「捌ききってやるぜ!」
 しかし、貴音も粘る。矛先が、ミツキに向いた。イミナは碧のヒールに加え、血液を操る事で自己回復で図ったからだろう。当たり所次第では、一撃で沈められる可能性がある――そういう意味での狙いだ。
 貴音の姿が掻き消えた。ミツキは目で追うことを諦め、五感を使って追おうとするが。
「こっちです、貧乳忍者さん!」
 やはりそれはリスクが高すぎる。夢姫が挑発すると、「楽に死ねるとは思わないでよね!!」激昂を浮かべた貴音が夢姫に剣打を叩き込む。透刃・氷天雪月花を盾に応戦するが、さすがに劣勢は免れず、身体の至る所に切り傷がはしった。
 その様子をミツキは、助けに来た相手に助けられたという情けなさに呻きながらも、目に焼き付け、霊体を憑依させた今月今夜で援護する。
「しぶといわね!」
 リュリュがフランベルジュで無慈悲な一撃を喰らわせる。すると、増殖され尽くした【氷】が一斉に軋みを上げ、貴音を苛む。
「今回復するわ、少しだけ我慢して!」
 碧が、今度は夢姫へと矢を放つ。威力は抑えられているとはいえ、彼女は後衛に対する主要な攻撃である精神操作の術を真面に受けている。軽傷のはずがない。
「……夢姫、この血を受け取れ」
 イミナが傷口から滴る血を夢姫に浴びせる。
「南條さんによくもやってくれたわね。私が庇ってあげられなかった事も今だけは棚に上げて、お返しさせてもらうわ!」
 ――でも……まだ、終わらせないわよ? 胡蝶の全身を巡るグラビティ・チェインが掌に集約し、貴音を穿つ。
 その時。
「お願い……許して……助けて……! 謝るからぁ!」
 貴音が表情を一片させ、弱々しいどこにでもいる女の気配を纏った。
「悪ぃんだがよ。テメエの目の前にいるのはただのバケモノだ。だからテメエの言葉なんてわかんねえよ」
 だが、竜人は一顧だにせず。
 すると、貴音も「まぁそうよね」そう言いたげに瞬時に真顔に戻った。
「そういえば、テメェも化け物だったな」
 その顔に、竜人は凍気を纏わせた闇薙を叩き込む。
「南條さん、トドメを!」
 鈴音が叫ぶ。
 グラリ、貴音が大きくよろけていた。
「あーあ、一人で来たのは失敗だったかな? どうして――いや、それは今更だね」
 蒼き不死鳥を召喚する夢姫を心底邪魔そうに睨め付けながら、貴音が呟く。
「灼き払いなさい!」
 やがて、貴音は飛翔する不死鳥に蹂躙される。その血肉の、一片も残さず焼き払われながら。
 そして。
「皆さん、どうもありがとうございました!」
 助けに来てくれた仲間達を振り返った夢姫は、泣き笑いのような表情を浮かべ、頭を下げるのであった。

「これは……どうなのかしら?」
「仕方ないんじゃないんでしょうか、ほら、こういう模様だと思えば!」
「とりあえず、ここも何かが化けて出ないようにお祓いしておくか」
 ヒールを終えた碧と鈴音は、イミナが担当していた場所で足を止める。そこの遊具は何故か、所々赤く染まっていた。まるで血のように。
 鈴音はあっけらからんと、問題なし! そう笑うが、貴音のお祓いのために巫女服に着替えていたミツキに、念のため周辺の遊具もお祓いしてもらうことに。
 一方。
「いいかしら? 憧れの人の胸に大小は関係ないの! この世に一つの者であって、他の人に再現なんてできない尊い――」
 リュリュは胡蝶、夢姫、イミナを並べ、持論を展開していた。まるでこの場にいない誰かを擁護するように必死な様子には、文句を挟む余地もない。
「どうでもいいが、小さいよりは大きい方がいいだろ。大は小を兼ねるっていうし」
「そこ、竜人!」
 口を挟んだら最後、列に並ぶことになるようだ。
 そんな……幸福な勝利の余韻に浸りながら。
「皆……仇はとれたよ……」
 夢姫は、夕日の向こうを静かに見つめるのだった。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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