憧れキャラ弁

作者:白鳥美鳥

●憧れキャラ弁
 ある日の放課後、帰り支度をしていた理沙に、見た事も無い女学生が現れた。
「ねえ、あなた、憧れの人っているかしら?」
 いきなり声をかけてきた女学生に、理沙は驚く。しかし、何故か警戒心が働かない。
「あなた、悩みがあるのでしょう? 良かったら聞かせてくれる?」
 彼女の言葉に、何故か理沙は誘導されるかのように悩みを話し始めた。
「うちの学校ってね、お昼ご飯はお弁当なの。友達同士で一緒に食べて、お弁当の見せっこをするんだ。その中に自分でお弁当を作って、ウサギとかクマとか色々なキャラ弁を作ってくる絵里子ちゃんって子がいて……私もあんなになれたらなって」
「そうすると、あなたの理想は彼女みたいに上手で可愛いお弁当を作りたいのね? だったら簡単よ。そんなお弁当をつくれる彼女から、その理想を奪ってしまえば良いのよ」
 女学生は鍵を取り出すと、理沙を刺した。崩れ落ちる理沙。そしてドリームイーターが生れたのだった。

 委員会で遅くなった絵里子は急いで教室に戻っていた。そこへ、ドリームイーターが現れ問答無用で絵里子に襲い掛かったのだった。

●ヘリオライダーより
「みんな、お弁当って作った事あるかな?」
 デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)はそう言ってから、ケルベロス達に話し始めた。
「日本各地の高校にドリームイーターが出現し始めたみたいなんだ。ドリームイーター達は高校生が持つ強い夢を奪って強力なドリームイーターを生み出そうとしているらしいんだよ」
 それで、とデュアルは事件について話し始める。
「今回狙われたのは、理沙っていう学生で、理想の自分と現実のギャップに苦しんでいる所を狙われたみたいなんだ。理沙から産み出されたドリームイーターは強力な力を持っているんだけど、この夢の源泉である『理想の自分への夢』が弱まる様な説得が出来れば弱体させる事が出来るんだ。説得例としては、理想の自分になってどうしたいのかとか、或いは今のままでも大丈夫! とか、そんな説得が有効だと思うんだけど、今回の夢の源泉から考えると、それ以外の方法も考えた方が良いかなって思うよ。それで、上手く弱体化させる事が出来れば、戦闘を有利に進められるよ」
 デュアルは次に産み出されたドリームイーターについて話始める。
「ドリームイーターは、制服にエプロン姿をしているんだ。戦い方は、基本的にキッチン用品みたいだよ。場所は、二人の教室の前。ドリームイーターは1体だけだよ。それから、ドリームイーターはケルベロスが現れると、ケルベロスの方を優先して狙ってくるから、襲撃される女生徒……絵里子って子なんだけど、彼女を救出する事は難しくないよ。狙いがみんなに変わるから。ただ、説得に関してなんだけど……実は、このドリームイーターは本人……理沙に影響を及ぼすんだ。説得は彼女の心に響くものが理想なんだけど、場合によっては彼女が委縮してしまったり、夢を捨ててしまう可能性があるんだよ。だから、説得は慎重に行って欲しいんだ」
 デュアルの話を聞いていたミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)は、難しい顔をする。
「理沙ちゃんも絵里子ちゃんも、お友達なのよね? お友達がお友達を襲うなんて、とっても悲しい事なの。ねえ、みんなで理沙ちゃんを助けて欲しいの。理沙ちゃんの為に、一緒に頑張って欲しいの!」


参加者
イェロ・カナン(赫・e00116)
上月・紫緒(シングマイラブ・e01167)
霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)
ユーカリプタス・グランディス(神宮寺家毒舌戦闘侍女・e06876)
リサ・ギャラッハ(銀月・e18759)
ココ・チロル(箒星・e41772)
アメリー・ノイアルベール(本家からの使い・e45765)
ロスティ・セヴァー(身体を探して三千里・e61677)

■リプレイ

●憧れキャラ弁
「きゃあああっ! ど、どうしちゃったの、理沙ちゃん!」
 教室へと駆けつけたケルベロス達の耳に、女学生の悲鳴が聞こえる。慌てて駆けつけると、対峙している二人の女学生の間に入った。包丁にお玉装備でエプロン姿の女学生が理沙から生まれたドリームイーターで、驚いている方が絵里子で間違いない。
「絵里子さん、こちらに逃げてください。説明は後でしますから」
 ココ・チロル(箒星・e41772)が、絵里子の手を引き、教室の反対側にある廊下に向かって誘導する。
「なあに? 邪魔をするの?」
 ケルベロス達に向かって包丁とお玉を構える理沙のドリームイーター。武器が包丁とお玉という変な組み合わせだが、包丁を構えている辺りが怖い。
「理沙さん、初めまして。私はリサ・ギャラッハと申します。同じ名前ですね?」
 リサ・ギャラッハ(銀月・e18759)は、理沙のドリームイーターに友好的に話しかける。ドリームイーターの方も、同じ名前という事で興味を示したようだ。
「そう、あなたもリサって言うんだ。偶然だね。でも、何だか不思議な感じ……」
 同じ名前というのは名前によるが、よく重なったり、全く重ならなかったりする。しかし、同じ名前というのは不思議な気持ちになるものだ。
「それに……実は、私も料理は得意ではないんですよ」
「……そう、なんだ。同じだね。……凄い、偶然」
 リサは同じ名前の理沙を救いたい気持ちが強い。それは同じ名前と同じ境遇という事もあるから親近感が沸くのだ。それは、どうやら相手の方も同じらしく、何だか感銘を受けている様である。
「理想の自分を追い求めるのは分かります。でも、その方法はだめですよ。何度失敗したっていいじゃないですか」
 優しく諭されて、ドリームイーターは戸惑っている様である。
「で、でも……中々上手くいかないし。そもそも料理自体失敗が多いし……」
「キャラ弁、可愛いですよね。わたしも作ってみたくて、挑戦したことあって。でも、料理の経験が少なくて、全然上手くできなかったんです」
 アメリー・ノイアルベール(本家からの使い・e45765)が、言葉を乗せる。
「そ、そうだよね……。やっぱり、そう簡単に出来るものじゃないよね……」
「キャラ弁……手作りのお弁当ですか、懐かしいですね。いえ、自分で残り物を積めて作ることは今でも時々ありますけれども、……」
 そう語るロスティ・セヴァー(身体を探して三千里・e61677)は、その手作りのお弁当を作ってくれた亡き家族に想いを馳せている。その気持ちはドリームイーターにも伝わっているらしく、少し悲しげな顔をしていた。
 そこに、イェロ・カナン(赫・e00116)と上月・紫緒(シングマイラブ・e01167)、霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)、そしてココがドリームイーターに疑問をぶつけていく。
「女子高生の手作り弁当ってだけでも俺としては大変宜しい感じなわけだが、人のものを奪って作ったものなんてのは、いくら綺麗に整ってても美味くないだろ」
「紫緒はアナタに尋ねたいことがあるんですよね。何で絵里子さんのお弁当に憧れたんですか? 憧れたお弁当を作れるようになったとして、それでアナタは何を得るんですか? 憧れには憧れた理由があるはずなんです。アナタがやろうとしてることってそれと矛盾してないですか?」
「別にさ、料理が上手くなりたいのも、キャラ弁可愛いの作りたいって思うのも悪いコトじゃ無いんだよ。でも、そうして『何をしたかった』のかな」
「憧れを、奪って、手に入れて、それで後に何が残るでしょう。絵里子さんは、あなたのお友達、なんですよね。大切なお友達から奪って、まで、その憧れは、欲しいもの、ですか?」
 四人が聞いている事は同じである。その『憧れ』……理沙の場合は『キャラ弁を作る事が出来る料理の腕』という事になるのだが、それを手に入れてどうしたいのか。そういう問い。
 その言葉に対して、理沙のドリームイーターはしばらく考えていた。色々と思う所があるのだろう。そして、彼女の出した結論は。
「……どうしたいんだろうね?」
 それは自らに対する問いだった。
「……私は、可愛いキャラ弁を作れる絵里子ちゃんに憧れてた。いつか、あんな風に作れる様になりたいって思ってた。……でも、作れる様になった所でどうしたいんだろう。別に褒めて欲しい訳でも無いし、誇らしいなんて思ったりもしない。……だから、今すぐ上手く作れるようになっても……嬉しくも何にも無い」
 憧れは憧れ、現実は現実。目に見えて分かるものだから、実感も強いのだろう。だからこそ、直ぐに上手くなりたいかと聞かれても、そうだとは言えないのだ。
「本当は、その友達がいたから、そういう風に理想を持てたのだし、友達をびっくりさせれるように、なりたかったんじゃ、ないのかな?」
 優しく言うカイトに、ドリームイーターは考え込む。
「そう、かな? ……絵里子ちゃんがキャラ弁を作って無かったら、私も興味を持ったか分からない、かも……」
「料理の上達は1も2にも兎に角数を作ることでございます。ただ、作るのではなくしっかりと考えながら作ることです。玉子焼きが焦げるなら、火を弱めるなり早めに巻くなりする。しょっぱいなら塩を減らす。甘すぎるなら砂糖を減らすそうして塩梅を覚えるのです。瀟洒なメイドへの道も一歩から。そうして私も料理を覚えました」
 メイドをしているユーカリプタス・グランディス(神宮寺家毒舌戦闘侍女・e06876)は、料理とはどんなものなのか、努力が必要なのかを説いていく。
「最初からうまく作れる人なんて一握りです。つまり最初からキャラ弁に挑戦するのではなく、まずは簡単な料理に何度も挑戦するところから、焦がしたりしてしまわないようにするところから、少しずつ努力を積み重ねてみませんか」
 そう、優しく語りかけるロスティ。
「絵里子さんだって、きっと初めから上手くできたわけではないです。何事も地道な努力を積み重ねて上達していくものなのですよ」
「憧れを、追いかけること、悪いことじゃない、と、思い、ます。けれどそれが、お友達なら、一緒にお弁当を作ったり、コツを訊いてみたり、近づくための方法、きっと、他にもっとあるはずです」
 アメリーとココも、優しい口調で話しかけていく。
「料理は慣れだし毎日やってりゃ、案外なんとかなるもんだぜー」
 最後に明るい調子で、そう軽く言うイェロの言葉にドリームイーターは微笑んだ。
「うん。きっとそうだね。皆さんの気持ち、きっと理沙に届いているよ。でも、私はドリームイーターだから……ドリームイーターとして生まれた存在だから……戦わないと、いけない、ね」
 そう、少し寂しそうに笑うと、ドリームイーターは持っていた武器を構えた。

●エプロン姿のドリームイーター
 ドリームイーターは包丁を構える。様々な武器を操るケルベロスだが、普段の生活用品が武器化すると、やはりどこか怖いものだ。
「まずは、あなた!」
 ドリームイーターは、攻撃の要である紫緒に向かって包丁を突き刺す。
「料理は大切な人に美味しいって言って欲しい、喜んで欲しいもの。だから、大切な包丁をこんな風に扱ってはいけません!」
 そう言うと紫緒は呪詛を載せた斬撃をドリームイーターに向かって放った。
 バイザーを下げたカイトは紫緒達に紙兵を放ち護りの力を高め、相棒のボクスドラゴンのたいやきは、餡子っぽい属性インストールをロスティに施していく。
 リサは目が赤く爛々と光っている森の王、白の大鹿であるクランを呼び出し騎乗すると、ドリームイーターに向かって突っ込み、それに合わせる様にテレビウムのフィオナの凶器による攻撃が叩きつけられた。続いてイェロが輝きを放つ重い蹴りを放ち、イェロとは不仲なボクスドラゴンの白縹が硝子のブレスを放った。
「神宮寺家筆頭戦闘侍女。ユーカリプタス、参ります」
 ユーカリプタスは、ドリームイーターに向かって、スカートの裾を摘み折り目正しく一礼する。
「さあ、ここからです」
 そう言うと、ユーカリプタスはカラフルな爆発を起こして紫緒達の攻撃力を上げていく。一方で、ミミックのトラッシュボックスはエクトプラズムを使って武器を生み出すと、ドリームイーターに向かって斬りかかった。
 ココはエクトプラズムを使って理沙達の護りを固め、アメリーも同様にロスティ達の護りを固めていく。ココのライドキャリバー、バレはドリームイーターへと強烈なスピンを加えていった。
「左に地獄! 右に混沌! 同時に行きますよ、地獄混沌波紋疾走ッ!」
 ロスティは左腕に地獄の炎を、右腕に混沌の水を纏わせるとドリームイーターに強烈な一撃を叩き込む。
「紫緒ちゃんに力をあげるの!」
 ミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)が、雷の力を使って紫緒の力を底上げし、ウイングキャットのシフォンは清らかな風を送りこんで行った。
 ドリームイーターは苦しげに立ち上がる。
「こ、ここは……お弁当を……」
 その言葉に対して敏感に反応したのは、食べ物を食べる事が大好きなたいやき。ドリームイーターに向かって素早く飛ぶと、お弁当を奪おうとしている。
「わー、これは私のお弁当なのー!」
 ドリームイーターと、たいやきによるお弁当争いが勃発した。
「ちょ、ちょっと待て、たいやき! それは、本物の弁当じゃなくってだな……!」
 慌てて、たいやきを引き離しに行くカイト。
「こ、これは最後のお楽しみだったけど……仕方ないの! たいやきちゃーん! サンドウィッチなのよー!」
 ミーミアは忍ばせていたサンドウィッチの入ったバスケットを、ドリームイーターとは反対方向に投げる。それを見つけると、たいやきはバスケットを追いかけて飛んで行った。
「ド、ドリームイーターのグラビティを食べる所だった……」
「な、何だか分からないけど……その、別の意味で『お弁当』が大変なのね?」
 大きく肩で息をつくカイトを見て、状況が余り分からないドリームイーターも彼の苦労を感じたらしく、気の毒そうな表情になっている。
「何が起きたのか微妙に分からないんだけど……理沙を返して貰わないとね」
 イェロはバスターライフルを構えると、凍結光線をドリームイーターに叩き込む。
「飛び蹴りはメイドの嗜みです」
 ユーカリプタスの高速の蹴りが更に叩き込まれた。そこにリサの攻性植物による蔓がドリームイーターを縛り、フィオナがフラッシュ攻撃を与える。
「今の私はいつかの『私』。愛と死を紡ぐ『狂気の翼』」
 紫緒の黒き翼と鋭い刃による攻撃がドリームイーターを斬り刻み……そして消えていった。

●戦いの後に
 ユーカリプタスとロスティを中心に、壊れてしまった教室を直していく。そして、教室の片隅に倒れていた本物の理沙に対して、ココを中心にして回復していった。カイトはバイザーを上げた状態でサンドウィッチに齧り付いているたいやきを無事に回収し、イェロが避難して貰っていた絵里子を連れて戻ってくる。
 無事に目を覚ました理沙は、まず絵里子に謝った。
「ごめんなさい、絵里子ちゃん! 絵里子ちゃんを狙うなんて私……」
 それに対して、事情をイェロから聞きながら戻ってきた絵里子は、首を横に振る。
「ううん、理沙ちゃんが悪いんじゃないよ。理沙ちゃんだって怖い思いしたんじゃないの?」
「……大丈夫。ここにいる人達が……皆さんが励ましてくれて……私、凄く嬉しかったの。ケルベロスの皆さん、本当にありがとうございました」
 ぺこりと頭を下げる理沙。こんな事があっても、二人の友情は固いらしい。お互いを心配し、泣きそうになり、笑顔を浮かべる理沙と絵里子を見て、ケルベロス達は心温まる気持ちになった。

 その後、ミーミアが持参してきたサンドウィッチとスコーンを囲んで、ちょっとしたお喋り兼仲直りが始まる。サンドウィッチなのはパンに具を挟むだけの簡単なものだから、そうは失敗しないとのミーミアなりの配慮らしい。
「バスケット投げてくれて助かったけど……まだあったんだな?」
 新しいサンドウィッチを食べているたいやきを見ながら、カイトはミーミアに話しかける。
「たいやきちゃんが居るから余分に持って来てたのよ。……でも、あの時は流石にびっくりしたの」
「……だよなあ」
 次々にサンドウィッチを頬張るたいやきを見つめるカイトとミーミアだった。
 アメリーは理沙と絵里子の近くに座って、写真を見せる。そこにはアメリーの失敗作のお弁当が写っていた。
「わたしのお弁当、本当に酷いのです。絵里子さんにキャラ弁を上手く作るコツを聞いてみたいです。理沙さん、一緒に上手くなりましょう、です」
「うん、そうだね!」
 アメリーの言葉に微笑み返す理沙。
「でも、理沙ちゃんがキャラ弁を作ってみたいっていうのは知らなかったよ」
「だって、いっつも可愛いの作って来るから……。それも食べるのを躊躇うくらいの」
「キャラ弁は想像力と料理の引き出しが大事でしょうか。色々なパーツを組み合わせて1つの絵を作り上げますし。まあ料理はやっていくうちに必ず上達するものです。精進あるのみでございます」
 ユーカリプタスの言葉に頷く理沙とアメリー。
「私も出来る限り教えるね。一緒に可愛いお弁当、作ろう?」
「うん!」
 仲良く話す絵里子と理沙を見て、ココは思う。
(「悲しい結末に結びついて、しまわなくて、よかった」)
 二人の友情が、これからも続きますように。心からそう願うのだった。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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