光が空を昇っていった。さながら龍が滝を昇るように。
多くの瞳に魅入られながら、光は一瞬姿を隠し、そして――、
パァッと真紅の華が咲き誇る。
ドォッ!! ――ン! パラパラパラパラ……。
身体を貫く音波の障壁。音は光の後に来た。
光はキラキラキラキラ無数の煌めきを瞬かせ、闇に呑まれるように溶けていく。
赤が舞い。緑が飛び交い。青が咲く。
ヒュウンヒュウンヒュウンヒュウン。
バラバラバラバラバラバラバラバラ。
琥珀色の光が束となり、うねる様に天を昇る。火の粉を散らし、まき散らし。天蓋へと辿り着いた龍は、世界への置き土産として華を散らす。形容するのも野暮なほど、瞬く虹は美しく。見つめる者は、ただ言葉を失う。
吸い込まれるように、人々は煌めきに魅入られていた。
――その時。一筋の光が天より舞い降りた。
期待の瞳を一身に受け。
地上へと降り立った光は、美しい白銀のローブを纏った人となった。
いや違う。人のように見えて人ならざる者。髑髏の頭は竜牙兵。
「デウスエクス!?」
「うそ!?」
人の群れは、夢の世界から一瞬で現世へと引き戻された。
竜牙は語らず、声もなく。ただ悠然と魂を刈り取り進む。
明滅する、赤の光を背に浴びながら。
●花火大会を護れ!
「花火。それは職人の魂の結晶。花火。それは人生の咆哮。その技術を得るために、人はどれ程の歳月と心血を注いできたのか。ほんの一時、人々の胸に希望を灯すため、彼らは膨大なる研鑽に勤しんだのです。花火会場を荒らすなど、人類への冒涜! 歴史への挑戦と言えるでしょう!」
金のオラトリオ、アモーレ・ラブクラフト(深遠なる愛のヘリオライダー・en0261)は、ブワサァッ! と荘厳に翼をはためかせながら、高々と敵の罪状を語りあげた。
「会場にいる市民の皆さんも、心配ですね」
こちらは穏やかな橙のエルフ、レカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931)。優しげな眉目を曇らせている。
「よーし。ササッと行って倒しちゃおう」
お茶をクピッと飲み乾すと、緑のエルフ、ハニー・ホットミルク(縁の下の食いしん坊・en0253)が2人に視線を送った。コクリ。2人も頷き合う。
「それでは、これより敵の情報を。敵は竜牙兵が3体。美しい銀のローブに身を包んでいます。ポジションは3体ともディフェンダー。使用グラビティは……少々特殊ですね」
アモーレは資料を見つめながら、あごに指を当てた。
「特殊と言いますと……竜牙兵なのに弓を使う。とかでしょうか?」
「ひょっとして、召喚の儀式で緑茶大魔神を降臨させるとか!」
「二人とも非常に惜しい! おまけして正解と言っても宜しいのですが、ひとまず資料を見て頂きましょう」
レカもハニーも驚いた顔で資料を見つめた。が、『え? 正解?』といった表情でアモーレの顔を見つめる。ニコッ。笑顔で返されてしまった。
「この個体は、仰々しい名前の技を使うようですね。しかし、技の名前は立派ですが、その威力は並の竜牙兵を少々強くした程度です。多少留意して頂ければ結構でしょう。
特徴としましては、強者の雰囲気を出すことを良しとする性格の様で、先ずは喋りません。ケルベロスを強者と認めた場合のみ、喋り出すようですね。
そしてその際には、全ての列攻撃を単体攻撃に変更して戦う。という手段を採ってくるようです」
「ある程度戦ってから単体攻撃への切り替えですか……ポジションも皆さんディフェンダーですし。厄介ですね」
「幸い、キュアもブレイクも持っておりませんので、そこを突くという戦法は有効でしょう」
ふむふむ。ケルベロス達は互いに視線を交換すると、頷き合った。
「ところでアモーレ、ひょっとしてなんだけど、この依頼って竜牙兵を倒した後は――」
ハニーがさり気なさを装い、アモーレの瞳を見つめる。
ハッ。とした表情で、レカもその掌をキュッと握った。
「……倒した後は?」
「いや、花火大会に参加してもいいのかなーって」
ゴゴゴゴゴゴ。
「花火大会に……?」
「花火大会に」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
ハニーの瞳がアモーレを見つめ、アモーレの瞳がハニーを見つめ、レカも口に手を当てながら熱い瞳でアモーレを見つめた。
フフッ。
アモーレは優しく2人を見ると、
「もちろん、花火大会を楽しんで頂いて結構です!」
ワァッ!
レカとハニーは思わず両手を重ね合ったのだった。
「人々とふれあい、時を共有することもまた、我々の使命と言えるでしょう。竜牙兵をシッカリ討伐し終えた後は、存分に炎の祭典を謳歌してきてください」
深々とお辞儀をするアモーレの瞳は、ケルベロスへの揺るぎない信頼に彩られていた。
参加者 | |
---|---|
京極・夕雨(時雨れ狼・e00440) |
ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474) |
レカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931) |
マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729) |
穂村・華乃子(お誕生日席の貴腐人・e20475) |
シャルフィン・レヴェルス(花太郎・e27856) |
ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610) |
アメージング・ファンタスティック(測定不能のすごいやつ・e44964) |
眼前には白銀のローブを纏った竜牙兵が3体。
迎え撃つのは、それぞれに思惑を抱えた番犬達。
お調子サキュバス、マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)。お茶目な翼猫『ネコキャット』。眠た気サキュバス、シャルフィン・レヴェルス(花太郎・e27856)。仲良し家族はデートがしたい。
恋に生きる騎士ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)。箱入りお嬢様ヒメノ・リュミエール。若い恋人は花火大会にワックワク。
妙齢の貴腐人、穂村・華乃子(お誕生日席の貴腐人・e20475)。ピュア天使、月詠・雛。愛でたいお姉さんと夜にドキドキの6年生。
ふんわりエルフ、レカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931)。飄々ウェアライダー京極・夕雨(時雨れ狼・e00440)。ウキウキ白柴『えだまめ』。ハニーも交えて、祭りを満喫するつもり。
ともかくなんだか凄い女子。アメージング・ファンタスティック(測定不能のすごいやつ・e44964)。こちらもハニーを交えて屋台制覇の野望を胸に抱く。
弾ける元気。ラルバ・ライフェン(太陽のカケラ・e36610)。回る相手は流れ次第。屋台と花火に胸ワクワク。
あとは、お腹ペコペコ、ハニーとチョコ。
敵は悠然と白刃を構えるアルス、トゥーラ、ウィズ。
番犬達もそれぞれ獲物を構え、いざ戦いの幕が開く。
バチバチッ!!
ギルボークの口角から勢いよく雷光が吹き荒れたのを合図に、敵味方は一斉に動いた。
雷煙に包まれた敵影。向かってくるのはアルス。残り二体は赤と金の魔的なエネルギーを練っている。
味方後方、小さな芸術家アメージングが縦横無尽に奇抜な作品を創り上げていく。カラフルに独創的。だが不思議と見る者の力を湧き上げる造形。
嬉々とした表情で華乃子とラルバが突っ込んでいった。アルスは大剣を鋭く構え――、
二人はニヤリ。頷くと、アルスの間合いに入る寸前、互いに互いを掌底で弾き飛ばした。
左右にターゲットが散り、アルスの動きが一瞬止まる。
その隙を突き、二人はサイドから力任せに大地を砕いた。
裂帛の衝撃波が敵陣を呑み込む。体勢が崩れ、
――好機。
両翼から二つの影。大剣を力強く振り上げる白い影、選ばれし者の槍を旋回させるセピア色の影。
視線を交差させ、夕雨とレカが目一杯に武器をスイングする。ソニックブームが荒れ狂い、その威力に敵は目を見開いた。
僕もー! とばかりにえだまめも剣を咥えて駆け抜ける。が、これはかわされ、あれ? とした表情で首を傾げた。
その上を跳び越える影。いつもはサボろうとする男のキレッキレな流星脚。蹴りはアルスの眼前を通り過ぎ、シャルフィンはそのままブレイクダンスの要領でアルスの脚を砕いてみせた。
ドウと地に倒れたアルス。瞳に朱い光が宿る。後方ではトゥーラとウィズが今まさに術式を完成させた。
戦場の空気が変わる。ヒヤリ本能が警告を発し、
――間に合え!
マサムネの精神力がマイクに乗って。優しい光が前衛を護る盾となった。
同時にスーイっとネコキャットが空を舞い、前衛に清らかな翼を注いでいく。
竜牙から放たれるエネルギー。
閃熱が腕を焼き、雷光が防御態勢を崩し、ガードの下がったところを剛剣が襲う。
一糸乱れぬ白銀の連携。前衛陣は全員が弾き飛ばされ、近くの屋台へと突っ込んでいった。
「夕雨さん!」
「大丈夫です! うまいところ盾が護ってくれました!」
夕雨が焼きもろこしの中から起き上がり、
「えだまめ、平気ですか?」
「ひゃん!」
えだまめは、武器じゃなくて焼きもろこしを咥えて誇らしげ。
「シャルフィン!」
「大丈夫だ! 美味いぞ!」
こちらは九刀流のシャルフィン。フランクフルトを全ての指と口に挟んでいる。
「ラルバさん!」
「オレのところはケバブだったぜ!」
よっしゃー! と嬉しそうに尻尾をパタパタ起き上がる。が、さっきからなんだか流れがおかしい。
「華乃子お姉さん!」
「大丈夫よ! (お姉さんは、雛ちゃんがお姉さんを心配する声だけでご飯3杯はイケるわ!)」
鼻でもぶつけたのか、貴腐人は鼻血を垂らしながらキラキラと親指を立てる。
「アメの所はマカロンでした!」
なぜか攻撃を受けていないはずのアメージングが、屋台の中からサムズアップした。
「ヒメちゃんはクレープでいいかな?」
「今はお肉の気分です」
「お肉だね! 任せて!」
ギルボークは謎の使命感に突き動かされている。
「……ふむ」
――どうやら私の空気が間違っていたようですね。
夕雨はパクリと焼きもろこしを口に咥えた。
「続きは戦いの後にしましょう!」
「まずはこいつらを倒そう!」
レカとマサムネの声が木霊した。
なお、お代はヒールの後にしっかり払ったので安心していただきたい。
●
すっかりボロボロに崩れ落ちた自身のローブを見つめ、アルスは大仰にため息を零した。
「認メネバナルマイ。強敵ダ」
透き通るような美声に、番犬達の動きも止まる。
「遊ビデドウニカナル相手デハナイ」
「アノ方ノ真似ハ終ワリ。トイウコトカ」
竜牙を包む力の流れが、外から内へと変容していく。
「どうやら、ここからが本気のようですね」
ギルボークが相手を見据え、
「スマナカッタナ番犬。見クビッテイタ」
竜牙達は深々と頭を下げた。
「中々カッコいい感じですが、私のほうがカッコいいです」
敵を油断なく見据えながら、夕雨が軽口を叩く。
「ナルホド確カニ秀麗ダ」
「ウム。コヤツラ皆、端整な造形」
「名ノ通ッタケルベロスデアルト見タ」
番犬達は顔を見合わせた。意外な流れ。なんか褒められている?
ソワソワしだしたのは、褒められたい系少女アメージング。
「冥土の土産という言葉があります。しかしアメは出来るならお土産はあげるよりも貰いたい。去り逝く前にもっとアメを褒め称えてもいいんですよ?」
アルスは自身のアゴを撫でると、
「可愛ラシイオ嬢サン、ココハ戦場ダ。言葉ヲ交ワスヨリモ武器ヲ交ワソウデハナイカ」
チャキリ。大剣を構えて見せた。
「アルス。少々言イ方ガキツ過ギルノデハ?」
「我ナラショックデ三日ハ寝込ム」
「戦場トハ残酷ナモノナノダ」
アルスは哀しげに顔を振り、トゥーラとウィズは何故だか心配している様子。当のアメージングは『可愛い』と言われてホクホク顔。
そんなトボけた流れもあったが、悲しいかな敵同士。
「行クゾ」
アルスは腰を落とし――、
「憤ッ!!」
先ほどとは明らかに練度の違う研ぎ澄まされた斬撃を見せた。
番犬達に緊張がはしる。
「千ノ斬撃ヲ束ネシ一撃。是ガ我ノ真打」
爛々と輝く赤い瞳。霊気が身体から白く立ち昇り、
「散漫為ル閃熱ヲ閃光ト為ス」
トゥーラは虚空で炎の息を圧縮。火球が白くコロナの様に輝いている。
ウィズの振りかぶった剣には雷が落ち、
「是ゾ奥義。紫電ノ太刀」
レベルの一段上がった戦いが、幕を上げた。
●
その後の戦いは凄絶だった。さすが竜牙の実力者である。
だが、決着の時は来る。
「させませんよ!」
ギルボークの斬撃が敵の痺れを加速させ、
「ク! 身体ガ……ッ!」
「よっこらしょっと」
シャルフィンのやる気があるのか無いのか分からない気合がトゥーラを消し飛ばした。
「アノ方ノ為ニモ、負ケラレヌノダ!」
「させないぜ!」
必殺の一撃をラルバが受け止め地を滑り、
「こっちはオレが!」
「それではこっちはアメにお任せです!」
間髪入れずに、マサムネとアメージングによる回復が降り注ぐ。
後ろから跳び込んだのはしなやかな影。
『お姉さんの愛(物理)は痛いわよ!』
華乃子はキリキリと身体を限界まで引き絞り、
ドグォッッ!!
えげつない轟音をぶち立てて、ウィズを砕き飛ばした。
そしてラスト――、
虚空から灰色の少女が滑り落ちた。ワイルドグラビティによって召び出された福富ユタカの残霊。
橙の瞳が力強く発光し、夕雨の剣を陽光で染め上げる。
漸ッ!!
夕雨の斬撃。アルスの損傷が苛烈に広がり、
「トドメを!」
「お任せください!」
声と同時に、レカの矢が光となって敵を貫いた。
流れるような射法八節。残心の構えは揺ぎ無く、ただ橙の髪だけが反動にたなびく。
「竜ニ……栄光アレ!!」
アルスの最後の声が響き、
祭りの会場に平和が戻ったのだった。
●光に包まれる会場
花火は序盤の見せ場に入っていた。
火柱がシャワーの様に噴き上がり、その上では大輪が咲き乱れ、長く残るパウダーの様な光がチラチラと夜空に煌めいている。
ヒュドンッ!!
『おおお!』
『すごーい!』
グラビティの爆発を100倍にしたかのような爆撃が空を包み込み、観客も興奮気味だ。
「やっぱり花火は綺麗だねぇ」
「流石、夏の風物詩といったところか」
仲良しペアは手を繋ぎながら空を見上げる。
もう片方の手には今年最後のかき氷。手を繋ぎながら食べれるようにビッグサイズを注文して、シャルフィンが持ってマサムネが2人の口に運ぶ寸法。
ヒュオンヒュオンヒュオンヒュオン。
虹色の光が、まるで意志を持つかのように夜空に飛び交い、
「凄いよシャルフィン! 花火ってこんなに種類があるんだね!」
マサムネは目をキラキラ輝かせて、大はしゃぎ。
音が轟く。光が瞬く。手には温もり。舌には甘味。夜風は涼やか。人は笑顔。
シャルフィンはスーッと息を吸い込むと、
「これだけのものを作るには、どれだけの人の努力があったんだろうな。俺には到底真似出来ん」
いつも通りに怠けてみせた。
自身が救った自負もなく、ただ他者の成果に思いを馳せる。
そんな夫の姿に、マサムネは優しい笑みを浮かべ、
「何があっても君が好きだよ、シャルフィン」
それは沁みるように純粋な言葉だった。
飄々としたサキュバスは頬をかき、照れを隠すように空を見上げ、
ただ優し気に夫を包み込んだのだった。
こちらは二十歳の同い年カップル。
お嬢様然とした彼女と、それをチラチラ見ては、パァァァッと顔を輝かせている騎士の彼氏。
「場所も取れたし、そろそろ食べようか。はい、リクエストの焼き鳥とステーキ串だよ!」
ジャジャーン! 彼女の笑顔を求めて、香ばしいお肉たちが眼前に差し出される。が、
「ありがとうございます」
ヒメノは少し困った顔で、お肉を食べようとしない。
――あれ?
ギルボークの脳内で探偵がパイプを咥えた。おかしいな。確かにヒメちゃんのリクエスト通りなのに――、
ハッ!
ピカーンとなにかが閃いた。
――ヒメちゃんは……串から直接食べるような事はしない……っ!
「ごめんね、ちょっと貸して!」
流れるような手際で、肉を串からゴロゴロとお皿の上にダイブさせていく。
「流石ボクくん」
これにはお嬢様も大満足! 嬉しそうに肉を見つめ、
「はい、ヒメちゃんの分!」
優雅にお皿を受け取ると、長い髪がかからないように整えながら清楚にパクリ。
溢れ出す肉汁が口内に広がって――、
「ん! なかなか美味しいです」
幸せそうな笑みを零した。
その一言でギルボークも幸せ一杯。ハニャーンと心が満たされてしまう。
空に大粒の華が瞬く。
「花火、綺麗ですね……」
「花火は力強く空に咲く花だけど、ヒメちゃんは天にも地にも咲く可憐な花!」
「そんなに褒めても何も出ませんよ……?」
弾ける光に染められて。幸せ夜長が過ぎてゆく。
華乃子と雛の仲良しコンビは、色々な屋台を回っていた。
「今度はこのクレープね」
「あの、あの」
「ん?」
なにかを必死に主張しようとする天使に対し、華乃子は、この世の全ての優しさを詰め込んだ様な瞳を向けた。
「雛もケルベロスのお仕事でお金を貰ったので、いつも優しくしてくれる華乃子お姉さんにご馳走してあげたいな……」
光が駆け抜けた。それは天啓を受けた者の様に。自分の手の先にいる存在が尊すぎて、華乃子は思わず心臓に手を当てた。良かった。止まってない、まだ動いてる。
「おじさん、クレープ2つください」
「お母さんにプレゼントかい!? そいつはクールだぜ! よぉし分かった! みなまで言うなぃ!」
手渡されたクレープは、ちょっと見たこともないくらいにクリームだらけで、惜しげもなくトッピングが散らされていた。
ペコリ丁寧に頭を下げる雛に、おじさんもホワワン。華乃子も歴史上で最も優しい顔をした人の様な表情になっている。
「華乃子お姉さん、いつもありがとうございます!」
こちらこそ! こちらこそ!!
崩れそうになる顔を必死で繕い、華乃子はお姉さんらしく大人の表情で笑顔を返した。
甘ーいクレープを2人食べながら、夜空に上がる花火を見上げる。
柳の様にしだれる紅は綺麗でいて、どこか落ち着く光だった。
「綺麗ですね。それにクレープとっても甘いです」
「ええ、綺麗。クレープもとっても美味し♪ ありがとね、雛ちゃん」
夢のような時間が過ぎていく。
そしてクレープを食べ終え手が空いた瞬間――。
貴腐人は光の速さで何かをメモしまくったのだった。
こちらでは夕雨とレカ、ハニーがもの凄く真剣な表情をしている。
目の前には外国屋台。
「トルコアイスニ、サバサンド! イスタンブールノ香リガスルネ!」
「ザックザクノフリッター! カリッカリノチップス! コレガ英国フィッシュ&チップス!」
「ルック! コレガアメリカンサイズ! コレガステーキ! YES! USA! USA!」
「香ノ爆弾タンドリーチキン。ラッシート、イタダケ」
うううううううん。
3人は考えすぎて首が90度まで曲がってしまっている。
暫し悩み、
ハッと一斉に顔を上げた。
「「「シェアしましょう!」」」
それは唯一絶対のイカした答えだった。
ウキウキと更に仲間を探し求め、
パチッ。ハニーとアメージングの目が合った。
2人はサッと駆けだし――、
ハイタッチ! 互いに食いしん坊万歳。言葉なんか要らない。
「ラルバさん、一緒に回りませんか!」
「うぉぉ! 助かるぜ! オレも丁度どれにするか悩んでたんだ!」
キラッキラに目を輝かせ、ラルバはレカに拿捕された。
「アメは目指しますよ、屋台全制覇をっ」
ふふふ。期待に5人笑い合う。腹ペコレンジャーは屋台の中に解き放たれたのだ。
「フィッシュ&チップス……イギリスの味がしました……」
「サバサンド……とっても香ばしかったです……」
「ステーキ串……食べ応えあったよな……」
「どれもこれも美味しかったねぇ……」
「アメはまだまだ食べられます。むふん」
それぞれに食を満喫し、とろけた表情で空を見やる。
パラパラ、ヒュードン、金、赤、緑。絶え間なく空を賑わす光のシャワー。
風がそれぞれの髪をなびかせ。
レカは憧憬の瞳で輝きを見つめる。
「音も気持ちよいです」
「ええ……」
不意に、後ろから肩をつつかれた。
振り返ると、ハニーがソワソワとした表情で指をさしている。なんでしょう?
見つめた先では、
ドォンッ!!
花火の音が轟くと同時に、チョコがひゃあと上体を起こし。よいしょ。それをえだまめが丁寧に元の姿勢に戻していた。
ひゃあ。
よいしょ。
ひゃあ。
よいしょ。
そして、今までで一番の轟音が鳴り響いた時――、
ひゃあ。と驚いたチョコはそのままコテンと後ろに倒れ、よいしょ。と戻そうとしたえだまめは、空振りしてそのままチョコのお腹にポムと乗っかった。
か、可愛い――ッ!
相棒たちに見入ったご主人たちは、目をキラキラ。
ドォンッ!
ひゃあ。とアメージング、ハニーがふざけて手を上げる。
よいしょ。レカ、夕雨が楽しそうにそれを戻す。
ラルバは混ざろうとしたけれど、照れて途中で手を降ろした。
「混じりたい。そう思っていますね」
アメージングの瞳がキラリ光った。
「いや、オレは!」
ラルバの顔から汗が飛ぶ。
「多感なお年頃。分かります。しかし、アメは提案します。今日しかできないことは今日しましょう。旅の恥はかき揚げと言います。そう、このかき揚げを食せば、今日の恥は溶けてなくなるのです。胃袋の中で」
「な、なるほど。確かにそんなコトワザを聞いたこともあった気がするぜ!」
ピュア。
ラルバはサクサクかき揚げを口に頬り込み、やってやるぜ! と気合を入れた。
次の大玉が遊びの合図。みんなでワクワクと空を見上げるが、
ブワッ!
空に数多の宝石が浮かび上がった。
万華鏡のように滑らかな煌めきが空に踊る。黄金から緑、赤、青へと煌めきを変える幾筋もの光の粒子。
「わぁ……! とっても綺麗! 花火にこんなにも種類があるとは知りませんでした」
「これは見事」
光の渦の中を、巨大な龍が駆け昇る。今日一番大きな焔の線はフッと姿を消すと――、
ド!!! ォッッッン!!!
全ての光を呑み込んで、天上を覆いつくした。
「うぉぉぉ! すげぇ!!!」
ラルバの瞳のキラッキラは留まることを知らず、
「ぴかーん! 閃きました!」
アメージングもなにか着想を得た模様。
「来年も一緒に見に来たいですね」
「ええ、楽しみです」
レカと夕雨が、この世の全ての幸せを手に入れたような表情で笑い合っていた。
見渡せば、アメもラルバもハニーも、マサムネもシャルフィンも、ギルボークもヒメノも、華乃子も雛も、誰もがそれぞれに幸せな顔で笑っている。
花火が空に瞬く。幸せも胸に瞬く。きっと、今この手の先にいる存在が、幸せという名の存在なのだろう。
作者:ハッピーエンド |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年9月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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