ミッション破壊作戦~その教え、誰がために

作者:坂本ピエロギ

「皆さん、お疲れ様っす。ついさっき、グラディウスの充填が完了した連絡が入ったっす。つーわけで、ミッション破壊作戦を発動するっす!」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は出迎えたケルベロスに向かい、さっそく話を切り出した。
 ミッション破壊作戦――。
 それは、デウスエクスの侵略の橋頭保である強襲型魔空回廊を、ヘリオンからの高度降下による強襲で攻撃し、破壊を試みる作戦だ。
 もし回廊そのものを破壊できたのなら、回廊を保有する種族との最終決戦勝率が上昇するため、戦局に与える影響は非常に大きい。
「作戦の達成目標は簡単っす。ヘリオンから飛び降りて、バリアをブチ破って、魔空回廊をブッ叩いて帰る、これだけっす。大事なのはグラディウスをなくさずに皆で帰還すること。回廊の破壊はかなり難しいっすから、上手くいかなくても次に賭ければOKっす!」
 今回攻撃を行うのはビルシャナの魔空回廊だ。ここ最近目立った動きを見せていないが、彼らとて立派なデウスエクス、放置すれば何を仕出かすか分かったものではない。
「いま存在が確認されてる回廊は3つっすね。どこも無傷のところばっかりで、回廊を守護してるボスは、割と楽そうな奴から下手なドラゴンより強い奴まで揃ってるっす」
 ケルベロスに資料を配布しながら、ダンテは作戦の詳細について説明を始める。
「まず、バリアをブチ破るのに必要なのがコレ。最初に話した『グラディウス』っす」
 そう言ってダンテが掲げたのは、刃渡り70cm程度の剣だった。
「回廊をブチやぶるのとブッ叩くのは、このグラディウスじゃないと無理っす。この剣は通常兵器としては使えないっすけど、『魂の叫び』を込めると火の玉やら雷やらをめっちゃ吐き出して、グラディウスの所有者以外を無差別に攻撃するっす」
 魂の叫びによる攻撃が完了すると、回廊周辺はグラディウスの発するスモークで覆われる。このスモークが晴れる前に回廊の支配領域を離脱して、初めて作戦は成功となる。
「魂の叫びは、所有者が心から望む偽りなき言葉。その叫びが純粋で強いほど、回廊に与えるダメージは上がるっす……んで、襲撃後の撤退のことなんすけど」
 回廊にはミッションで遭遇する個体とは別に、頭一つとびぬけて強力な個体――いわゆる『ヌシ』が存在する。グラディウスの攻撃があっても、撤退時にヌシとの戦闘は避けられないだろうとダンテは言う。
「そいつと遭遇したら、とにかく即効で倒して下さいっす。グラディウスのスモークはそんなに長くは続かないんで、スモークが晴れる前に支配領域を離脱できなかったら降伏か暴走する以外に方法はないっす。最悪、グラディウスを奪われる危険もあるんで注意っす」
 ひとたび力を発動したグラディウスは、半月から数か月ほどの期間、グラビティの充填が必要となる。安易に乱発できる兵器ではないので、襲う拠点は慎重に選択せねばならない。
「ビルシャナはわりかし癒し系の面子が多いっすけど、上位の奴はムチャクチャ強いっす。絶対に油断しないで戦いに臨んで下さいっす。それじゃ、出発するっすよ!」
 ダンテはそう言うと、ヘリオンの発信準備にとりかかるのだった。


参加者
光宗・睦(上から読んでも下から読んでも・e02124)
木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・e02879)
筐・恭志郎(白鞘・e19690)
ダリル・チェスロック(傍観者・e28788)
御手塚・秋子(とある眷属・e33779)
オニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)
朱牟田・惠子(墨染乃袖・e62972)
ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)

■リプレイ


 島根半島の北に浮かぶ隠岐諸島。
 その島の奥にひっそりと佇む洞窟寺院にケルベロスの目指す魔空回廊はあった。
『定命の者達よ。苦しみを捨てて旅立ちなさい……』
 回廊の音楽堂からラジオに乗って流れてくるのはデウスエクスの荘厳な旋律。ビルシャナ『ディマンシェ』の奏でる、聞く者を自死へと至らしめる歌だ。
「あれが、強襲型魔空回廊ですか……初めて見ます」
 敵の本陣をヘリオンから見下ろして、ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)が呟く。
 彼女は今回、ミッション破壊作戦に初参加する一人だ。出発時の説明を今いちど反芻し、グラディウスをしっかりと握りしめた。
「さっさとぶっ潰さなきゃね。聞けば聞くほどムカついてくるわ」
 朱牟田・惠子(墨染乃袖・e62972)は、声に怒りを滲ませてラジオのスイッチを切った。死へと誘うディマンシェの歌声がプツリと途切れると同時に、沈黙していた光宗・睦(上から読んでも下から読んでも・e02124)が、ハッと顔をあげる。
 過去に負った心の傷が元で、歌声を失ってしまったオラトリオの少女。そんな彼女がこの戦いに参加するのは、並々ならぬ理由があるに違いなかった。
「では、強襲敢行後はこのルートで退きましょう」
「承知した。頭に叩き込んでおこう」
 筐・恭志郎(白鞘・e19690)とオニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)が行っているのは撤退ルートの確認だ。作戦行動中のケルベロスと連絡を取って船で撤退する案もあったが、これは人数上の理由から却下された。
 とはいえ、隠岐島は島嶼としては大きな部類に入る。島の端まで逃げれば、敵も易々とは追っては来ないだろう。
「さて、そろそろ到着のようですね」
「よしっ。気合入れていくか!」
 ダリル・チェスロック(傍観者・e28788)の言葉に、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・e02879)はバチンと拳を打ち鳴らした。
 島という地形の特性上、最悪の場合は泳いででも逃げるしかない。そうならない事を祈りつつ、ケルベロスは降下に備え始める。
(「グラディウス……手放さないように気をつけなくちゃ」)
 御手塚・秋子(とある眷属・e33779)は、開放されたハッチから魔空回廊を見下ろした。
(「生きる事は苦しみじゃない。死ぬ事は解放じゃない」)
 己の生の歩みを振り返り、魂の叫びを紡ぎ始める秋子。
 降下開始のブザーが鳴ると同時、彼女は仲間達と共に回廊へと降下していった。


 未踏の魔空回廊、その一番槍を果たしたのはジュスティシアだ。
「美しい自然と歴史を汚し、人々を苦しめた報いを受けてもらいます」
 バリアに真っすぐに突き出されたグラディウスが、魂の叫びに共鳴して輝きだす。
 それはすぐに雷光と爆炎に姿を変え、眼下の回廊へと降り注ぎ始めた。
「他人に自殺を勧める前に先ず、自分が死んで見せなさい!」
 下手くそな歌はもうお仕舞いだ――。そう叫ぶジュスティシアの両隣に、オニキスと惠子が降下してきた。いずれもジュスティシアと同じく、ミッション破壊作戦の初参加組だ。
「なるほど、なるほど。これは面白そうではないか!」
「救いを求めて苦しむ人に死ねとかさ……なに? 許せないんだけど」
 輝く刃が、相次いでバリアに撃ち込まれた。
「どのように生き、どのように死ぬか、それは吾ら一人一人が自分で決めること! 汝に死に様を決め付けられる謂れはない!」
「手を汚さずに人殺しだなんて、ただの卑怯もんじゃん。ふざけんなよ!」
 振り被った一撃を叩きつけながら、哄笑を迸らせるオニキス。刀身をずぶずぶとねじ込みながら、怒りに声を震わせる惠子。
 強固な意思は雷光に、苛烈な怒りは爆炎に、回廊を押し包む。
「さあディマンシェよ! その巫山戯た歌、今日ここで止めてやろうぞ!」
「待ってろ! 今すぐそのマイク叩き折ってラジオ止めてやんよ!」
 二人の声に勇気を貰うように、秋子が叫びを込め始めた。
「私がここにいるのは、死ななかったから。死の誘惑から抜け出す力を、貸してくれた人達がいたから」
 かつて死への渇望に囚われた者として、秋子は思う。
 あの、地獄という表現すら生ぬるい苦しみを、誰にも味わう事はさせたくない。
 そして、その苦しみを与え続けるビルシャナを、決して許すわけにはいかないと。
「あなたの歌はもう終わり。その教義、二度と囀らせない!」
 空気を震わす破壊音に、ディマンシェ達の絶叫が混じり始めた。
 寺院が襲われ、仲間を失ってもなお歌をやめないビルシャナ達に、ダリルは肩を竦める。
「生者も死者もいずれ至るならば、『生の道』が選択肢にある筈だ」
 なのに何故死を説くのか。それは破綻した理論ではないのか。
 静かに問いを投げ、ダリルはグラディウスを振り下ろす。
「どれだけ死を説こうとも、私は『生きろ』と人々に叫ぶ!」
「教義は関係ありません。生きてる人達の『今』を否定して無意味と断じる、そんなやり方が救済だなんて認めません」
 恭志郎が、魂の叫びを込める。
 それはディマンシェの信念に対する否定。誰の思いにも寄り添わない、ビルシャナの歪な救済に対する明白な拒否だった。
「悩む人も、悲しむ人も、そしてそれを助けたい人も……そんな救いは望んでないんだ!」
「このクソ歌がっ!」
 恭志郎の横で声を張り上げるのは、ウタだ。彼は歌い手の魂を込めた叫びを、バリアめがけて幾度も幾度もぶつけていた。
「歌は希望を胸に、未来を切り拓く為のものだ。それを真逆に使いやがって!」
 絶対にお前を許さない。そんな激しい怒りが、ウタの地獄炎を激しく燃え上がらせる。
「命と心が紡ぐ未来へのハーモニーを! その鳥耳かっぽじって聞きやがれ!」
 誰の未来も奪わせない。誰の目も、涙で曇らせない。そんな決意を込めてウタは叫ぶ。
 回廊に居座る全てのビルシャナ達へ届けと言わんばかりに。
「ぶっ潰れろ!」
 一際大きな光が濁流となって、魔空回廊を包み込んだ。グラディウスのもたらす轟音が、破壊音が、ディマンシェ達の歌声を覆い隠すように次第に強くなってゆく。
「歌は――」
 最後の一人、睦が口を開く。
 大きくないはずの声が、その場の全員にはっきりと届いた。
「楽しい歌は、気持ちを上げるもの。悲しい歌は、心に寄り添うもの」
 歌声を失ったオラトリオの少女が魂の叫びを掬い上げる。砕け散った器の欠片を、ひとつひとつ繋ぎ合わせるように。
「音楽は、生きる意思の支え! 明日へと向かう活力の源!」
 心の底から湧き上がる魂の言葉を、残らずグラディウスに込めて――。
 いま睦は、最後の一撃を叩きつけた。
「偽りの救いを植えつけて、死へ導く歌なんて間違ってる! そんなもの、二度と歌えないように阻止するよ!」
 バリアが割れ、8本の光が洞窟寺院の周囲を覆いつくした。
 歌声の止んだ隠岐島、その回廊の膝元へケルベロス達は降下してゆく。


 立ちこめる煙を凝視する恭志郎。やがてその中から姿を現した魔空回廊は、崩壊することなくその姿を保っていた。
「破壊失敗、ですか……」
「ま、さすがに1回じゃ無理みたいだね。次に任せよう」
 惠子は仲間の心を代弁するように言うと、グラディウスをベルトに固定して駆けだした。
 破壊に失敗した以上、長居は無用。急いで領域を離脱せねばならない。
 仲間のナビを頼りに撤退ルートをひたすら走るケルベロス。スモークをかき分け、散発的な抵抗を沈黙させて走ることしばし、先頭をゆく睦が注意を呼びかけた。
「正面に敵! 気をつけて!」
 スモークの向こうからうっすらと現れたのは、1体のディマンシェだった。
 黒いドレスを着た、白い羽毛のビルシャナ。その身にまとうオーラは、回廊で群れているディマンシェ達とは明らかに違う。ジュスティシアは一目で、この敵が回廊の『ヌシ』であることを確信する。
『待っていましたよ――ケルベロス』
 ディマンシェは慈愛を感じさせる声で、マイクを手に取る。
『さあ、貴方達も私の歌声を聞いて――全ての苦しみから解き放たれなさい』
「皆さん、陣形を! 来ます!」
 恭志郎の『燿華』とディマンシェの暗い旋律が、ほぼ同時に前衛へと飛んだ。
 睦を庇った惠子、そしてダリルが、地獄炎の欠片を宿した武器をあらぬ方へと向けるのを見て、ウタとジュスティシアが即座に動く。
「さあ、どんどん行こうぜ!」
「朱牟田さん、今回復します!」
 ウタの守護星座が輝き、前衛を星の加護で包み込んだ。次いで発動したジュスティシアの気力溜めが惠子の心の迷いを吹き飛ばす。
「お前の歌なんか認めない! 叩き潰してやるっ!」
 叫びのオーラで手を包み、睦が跳躍。声紋の棘をまとう拳がディマンシェの喉を抉る。
 衝撃で体を折り曲げるディマンシェ。惠子の紙兵を浴びたオニキスのスターゲイザーと、秋子の撲殺釘打法が相次いで襲いかかった。
(「あのビルシャナ……回避率は高くないみたい」)
 ジグザグ効果によって足止め効果が増すのを冷静に観察し、秋子はそう結論づけた。
 いっぽうのダリルも、BS耐性で催眠が解けたのを確かめると、
「ふむ……今ならどの攻撃も全部当たりそうだ」
 そう言うや、すぐさま攻撃を威力優先へと切り替えた。
 敵は全ての攻撃に催眠を付与するという厄介な力を持っている。キュアのBS回復が絶対ではない以上、敵を防戦へ追い込まなければジリ貧になるのは目に見えていた。
「謳え雷、地に響け」
 ダリルの声に応じるように、スモークに覆われた周囲がにわかに陰り始めた。大木をへし折るような雷鳴が轟き、降り注ぐ雷光がディマンシェを打ち据える。
 だがディマンシェは怯むことなく、後衛のウタへと歌声を浴びせた。BS耐性が発動せず視線が虚ろになったウタを、恭志郎はすぐさま気力溜めで正気付かせる。
「木霊さん、気を確かに!」
「う……す、すまん助かった」
 ウタは我に返ると、ディマンシェの間合いへ飛び込んで達人の一撃を叩き込んだ。そこへダリルの如意棒が突き出され、腹に直撃を受けたディマンシェは嘴から血を迸らせる。
『ああ……困ります。私には使命が残っているのに』
「使命……?」
『そう。使命』
 スターサンクチュアリで自身を保護するジュスティシアに、ディマンシェが微笑む。
『とても大事な使命。救いを求める全ての人々に、私の歌を届けなければ』
「させるか、そんなこと!」
 睦の龍砲弾がディマンシェに叩き込まれる。最前列から放たれたその一撃は凄まじい衝撃を伴って、ディマンシェを軽々と吹き飛ばした。
 幸い、ケルベロスの隊列は未だ崩れてはいない。このまま戦闘を続ければ、いずれ軍配は睦達に上がることだろう。
 だが、それでは駄目なのだ。『いずれ』では遅い。スモークが晴れ、増援が到着する前にディマンシェを討てなければ意味がないのだ。
 ケルベロスは更なる猛攻へと打って出た。立ち上がる隙を与えずに、チェーンソー剣を手にした惠子が距離を詰め、ズタズタラッシュで服を切り裂く。
「ヴェルミリオンさん!」
「うむ、一切承知!!」
 秋子とオニキスが、同時に駆けだした。
「汝の歌に素晴らしい伴奏を添えてやろう。この剣でな!」
「いけええええっ!!」
 チェーンソー剣を構えたオニキスがディマンシェに迫る。それを秋子がエクスカリバールを握りしめて追いかけてゆく。
 チェーンソー斬りと撲殺釘打法が直撃。BSの活性化によりディマンシェの服が破られ、その体を覆う氷が容赦なく体力を奪ってゆく。
 だが、ディマンシェはなおも健在。次第に晴れゆくスモークを喜ぶように、再び闇の歌を前衛へと浴びせかける。
『人は、歌で人を救えない。けれど私達ビルシャナならば救えるのです』
「歌は……他人を救うためにあるんじゃない!」
 歌で傷を癒すディマンシェと切り結びながら、睦は真っ向から切り返した。
「傷ついた人に寄り添うため、辛い人を支えるためにあるんだ!」
「そうだぜ! 歌は未来に進む力だ! 人を死なせるためにあるんじゃねえ!」
『……可哀想な子達』
 血だらけになって歌声に抗うウタ。ゾディアックブレイクを叩き込むジュスティシア。
 ケルベロスの猛攻を浴びて次第に追い込まれながら、ディマンシェは口を開く。
『衰えゆく定命を受け入れて死んでいく貴方達は、とても哀れ。最も美しいこの瞬間に命を終えて私達のものとなる、なぜそれを拒絶するのです?』
 その言葉を聞いた恭志郎は、無意識に胸を押さえつけた。逆流する血を必死に押し止め、降り注ぐディマンシェの闇の歌からダリルを庇う。
「朱牟田さん、大丈夫ですか!?」
「へーき、こんなん効かないし。アタシまだ死ねないんだわ、家にケーキあんの」
 睦を庇った惠子が不敵に笑う。どうやら催眠の付与は免れたようだ。
(「奴を……止めないと!」)
 これ以上、ディマンシェを自由にさせるわけにはいかない。恭志郎はフェアリーブーツに星形のオーラを込め、全力の蹴りを叩き込む。
 残された時間は少ない。申し訳程度に残るスモークの彼方からは、ディマンシェ達の歌声が潮風に乗って聞こえて来ていた。
『さあ貴方達……一切の苦しみを捨てなさい……』
 マイクを手に、ディマンシェは再び攻撃態勢に入った。
 ダリルのTonitruaに身を焼かれ、ウタの気咬弾に肩を吹き飛ばされ、秋子の達人の一撃に胴を袈裟に切り裂かれ、その身は既に満身創痍。
 だが、それでもディマンシェは斃れない。
「逃げないの」
「覚悟せい! 隠岐の潮は気が荒いぞ!!」
 惠子の影留めで動きを乱すディマンシェを、ジュスティシアのフロストレーザーが貫く。
 水龍を召喚したオニキスが繰り出すは『龍王沙羯羅大海嘯』。荒れ狂う混沌の水で形成された大波が、大顎を開けてディマンシェを呑み込んだ。
『ぐ……ググッ』
 かすれた声でマイクを握り、闇の歌を奏でようとするディマンシェ。
 だが、その歌声が響くことはなかった。
 永久になかった。
「これで……終わりっ!」
 巨大刀に変形した睦の斬撃が振り下ろされ、体を両断されたディマンシェは息絶えた。


 間一髪のところで支配領域を脱したケルベロスは、命からがら島の浜へと辿り着いた。
「全員無事だな。よかったぜ……」
 ウタは胸をなで下ろすと、背後にそびえ立つ回廊を振り返る。
 じきにあの場所は、新たなディマンシェが統べる魔空回廊へと生まれ変わることだろう。せめてその前に、死んでいった者達の魂に安息あれと、ウタは鎮魂歌を歌い始める。
 潮風に乗って青空へと溶けてゆくウタの歌。それを聞きながら、睦は唇を噛みしめた。
「……必ず」
 いつか必ずこの島を取り戻す。そして、奴らの歌声を止める。
 それがいつ、誰によって為されるのかは誰にも分からない。だが、必ず止めてやる。
 青空の彼方から飛翔してくるヘリオンを背に、魔空回廊を振り返る睦。
 勝利の誓いを胸に、彼女は仲間達と帰還の途につくのだった。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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