自称学者と自称人を殺さないと死んでしまう病の男

■リプレイ

●死神と２体の罪人エインヘリアル
　広島県東広島市西条の地へと降り立つケルベロス達。
　夜中ということもあり、各自用意してきた照明で周囲を照らす。
　すでに、討伐対象である怪魚型死神、そして、２体の罪人エインヘリアルの姿がそこにはあった。
「わわわっ！　何だかお話も通じなさそうな、危険な敵さんがてんこ盛りですねっ！？」
　異様な雰囲気を発する敵に、ピリカ・コルテット（くれいじーおれんじ・e08106）は大仰に驚いて見せた。
　まず、サルベージされたもう１人の罪人、イアコブ。
　かつてこの地においてケルベロスに倒された、「人を殺さないと死んでしまう病」を自称して人々に手をかけようとしていた狂人である。
「あー、ああああぁぁぁー」
　気だるげな呻き声を上げる敵は、目がうつろでとても正気とは思えない。
「罪人に同情の余地は無いが……、死してまた利用されるとはな……」
　そんなエインヘリアルに、螺堂・セイヤ（螺旋竜・e05343）は憐れみにも似た感情すら感じていたようだ。
　そして、つい先ほど送り込まれてきた罪人、シャルル。
「ケルベロス……相手に不足はないな」
　眼鏡着用で学者を気取る男に、しばし唸っていた平・和（平和を愛する脳筋哲学徒・e00547）はハッとして。
「さては、妖怪キャラ被りだなー？」
　小柄な女の子を思わせる容姿をした和はこれでも、れっきとした男子大学院生である。
「哲学徒のこのボクに、キャラを被せてきたんだなー！？」
　なお、両者は第三者が見る分にはまるで似ている要素はないのだが、和はぷんすか怒りながら似ているシャルルの排除をと語気を強める。
「なんなんだ、一体……」
　やや相手は引き気味だったが、しっかりとこちらの力を見定めようとしていたようだ。
「許し難い罪人とはいえ……死してなお蘇らさせるばかりか、新たな手勢も送りこんでくるとはな」
　騎士道を重んじるエメラルド・アルカディア（雷鳴の戦士・e24441）は、敵の動きを注視しながら考察する。
「アスガルドの者達は、彼らを駒としてしか見ていないのだろうか？」
　それ以外にも、不明点はあると四方・千里（妖刀憑きの少女・e11129）は感じていて。
「死神とエインへリアル……」
　昨今、死神は多方面の勢力と繋がっているようではあるが。
（「さて……、奴らはどこまで関わっているのか……」）
　死神勢力には、千里の宿敵が複数存在する。
　彼女がずっと追い続けるその死神達は果たして、この１件に携わっているのかどうか……。
「エインヘリアルと死神が組んだのか、利用しているのか……」
　リストバンド型の懐中電灯で周囲を照らす、クールで大人の女性を思わせるレプリカント、マキナ・アルカディア（蒼銀の鋼乙女・e00701）。
　両者の関係性について彼女は推論を語るが、今はそうも言っていられない。
　この場に現れたエインヘリアルは、ここにいるだけで人々の命を脅かすのだ。
「護ってみせるし、企みも打ち砕いてみせるわ」
「大口を叩くな……ん？」
　シャルルはヴァルキュリアの姿を見つけ、エメラルドを見下してくる。
　かつて、エインヘリアルの戦闘奴隷だった過去を持つ彼女は、わずかに畏怖を感じてか体を硬直させる。
「最優先はイアコブの撃破です！　ヒーラーの仕事っぷりも重要な感じ！」
　ピリカがそこで、「一緒に頑張っていきましょーっ！！」と叫ぶと、同行する雛形・リュエン（流しのオラトリオ・en0041）もやや振り回され気味に「ああ」と頷く。
「リュエンちゃん、メディックとして回復をお願い！」
　和は彼の顔を見て女性と勘違いしたらしく、ちゃん付けしていたらしい。
「いや、私は男で……」
「？？？？」
　首を傾げながらも、和は毎分アラームが鳴るように時計をセットしていく。
　そんな仲間達に、エメラルドは幾分か緊張を和らげていたようだ。
　しかし、怪魚型死神３体がゆらりと近づき、ケルベロスを威嚇してくる。
　罪人のサルベージという愚かしい行為をする死神。
　手持ちのランタンで前方を照らす、人派の水龍、レヴィアタン・レクザット（守護海神龍・e20323）は武装し、構えを取って。
「そんな愚か者には、全滅という最後を土産に送ってやろう」
「二度と蘇れないよう、葬り去ってやる……！」
　レヴィアタンに合わせ、セイヤもまたイアコブへと距離をはかりつつ刀を手にかけ牽制する。
　サルベージされたイアコブは７分の後、死神勢力に回収されるという。
　左腕をガントレットで覆う、ガートルード・コロネーション（コロネじゃないもん・e45615）は竜鎚「ブレイヴハンマー」を構え、相手の出方を窺う。
「……まあいい。どのみち、貴様らはここまでなのだからな」
　調子を崩されかけていたシャルルも我に返り、魔法の詠唱を始める。
　それに応じて、千里の瞳が茶色から緋色へと変化していく。
　ケルベロス達も応戦の為、グラビティを発動させていくのだった。

●罪人の回収阻止を！
　それぞれのケルベロスが所持する照明が周囲を照らす中、戦いは始まる。
「あ、あああぁー」
　イアコブは光るナイフを発して、狂ったように斬りかかってきた。
　前線のマキナが率先してそれを食い止めつつ、大きく口を開けて迫ってくる死神に捉えて全身のミサイルポッドを展開する。
「ターゲットインゲージ、ファイヤ！」
　叫びと共に、マキナは全身から発射した大量のミサイルを死神達へと浴びせかけていく。
　着弾した彼女のミサイルは痺れを与える。攻撃一辺倒の死神をしばらく牽制できるはずだ。
「てややー！」
　さらに和も大声を発し、九尾鞭の羽を鞭のように長くして死神達の体を強かに撃ちつけていく。
　ならばと、セイヤは詠唱するシャルル目掛けて飛び込み、その巨躯目掛けて素早く蹴りを叩き込んでいく。
　セイヤが使うは、古流武術。
　無駄のない動きで繰り出された素早い蹴りに続き、彼は降魔刀「叢雲」に手をかけて流れるように斬りかかろうとする。
　ただ、シャルルも黙ってはいない。
「くくく、私の魔術、見せてあげよう」
　まず古代語を詠唱していたシャルルは、一直線にエメラルドを狙う。
　その手より放たれた石化光線はエメラルドの体を射抜き、僅かに硬直させた。
「そのまま石となり、我らに再び付き従うがいい」
　含み笑いするエインヘリアルの一言にエメラルドは奴隷時代の過去を脳裏に過ぎらせて、折りそうになった膝を気合で止める。
「私は、定命化して変わったのだ。最早貴様らの奴隷ではない！」
　毅然と言い放つエメラルドは腕のオウガメタルより粒子を放ち、まずは冷静に前線メンバーの感覚を研ぎ澄ますよう支援する。
　後方から、その様子を見ていたガートルード。
　シャルルもまた確実に始末せねばならぬ相手だが、死神の戦力となりうるイアコブの討伐が先だ。
「お前らの思うようにはさせない。纏めて地獄に……叩き返す！」
　普段は女性的なガートルードだが、いざ戦いとなれば凛々しく竜鎚より砲弾を発砲していく。
　足元に起こる爆発でイアコブが足を止めると、続けざまにレヴィアタンもそいつの動きを止めようと竜の翼を広げて僅かに飛び上がる。
　とはいえ、飛行が不得意なレヴィアタンのこと。
　自らの尻尾をうまく使って位置調整しつつ、イアコブへと鋭い視線を向けたレヴィアタンはそいつの頭上に流星の一撃を見舞っていく。
　敵は、強靭な肉体を持つエインヘリアルだ。
　これしきでは倒れないとレヴィアタンも距離を取り、轟竜砲を叩き込もうと竜鎚を砲撃形態に素早く変えていた。
　同じ後方には、回復役としてリュエンの姿がある。
「走れ！　振り返らずに　脇目も振らず逃げ続けろ……」
　ギターをかき鳴らして歌う彼の癒しに目を輝かせ、ピリカも負けじと全身から眩い光を発する。
「こんちはーーっ！！」
　元気に挨拶し、ピリカはポジティブに仲間を鼓舞して力を与えていく。
「とにかく。ヒールに専念ですよっ！」
　そんなピリカを含めた今回の回復役はなんとも騒々しいものの、メンバー達も前向きに戦うことが出来そうだ。
　前線ではピリカの相棒である桜色の箱竜プリムが前に出て、死神を抑えようとしていた。
　千里もオウガ粒子を振り撒いた後、仲間の盾となりがてらシャルルへと攻め入る。
　序盤にできるだけ相手の動きを止めようと、機甲靴「雪月花」で電光石火の一蹴を見舞っていく。
「命中率は十分……」
　後は、回収される前にイアコブを。
　機械靴を炎に包み、相手を蹴り込もうとする千里。
　ただ、足止めを食っていたシャルルも多少の足止め、牽制では意に介することなく、更なる魔法を行使すべく詠唱を始めるのだった。

　和がセットしたアラームが１つ、また１つと街に鳴り響く。
　その夜闇に包まれた街の中で、光のナイフを振りかざすイアコブと、氷の精霊に暗黒魔法を使うシャルルが思うがままに暴れていた。
「防御のカバーに入るわ」
　それらによって傷つくメンバーを庇うべく、身構えるマキナ。
　自身の体も刻まれ、傷の深まりを痛みで実感する彼女は、何やら言葉を紡ぐ。
「癒しと共に。眼前の敵の猛攻に耐える力、高めるわ。Code A．I．D．S……、start up」
　そして、マキナは胸部に、蒼く輝く菱形のクリスタルのような物を生成して。
「Crystal generate……Ready、Go ahead」
　それは癒しをもたらすだけでなく、対衝撃シールドを展開して前線メンバーに耐える力を与えていく。
　さて、序盤に死神を牽制していたメンバーも、攻撃を徐々にイアコブへと集中させていくことになる。
　イアコブに肉薄したセイヤは降魔の拳を叩きつけ、連撃を繰り出しながら奪われた体力を補填していく。
「いっくぞー、めらめらキーック！」
　和もエアシューズを勢いよく燃え上がらせ、イアコブの腹を強く蹴り込む。
「あー、あぁー……」
　打撃箇所から燻ぶる炎は、だるそうに呻く敵を焦がしていく。
　さらに、この場に駆けつけたサポーター達が援護に回ってくれている。
　リモーネは刃を抜いて、この場で戦うメンバーがつけた傷を大きく斬り広げていく。
　オウガ粒子とカラフルな爆発を繰り返し、仲間の強化支援に当たってくれる惠子。前線では酸塊が死神に組み付いて、相手の気を引いてくれていた。
「あぁ、ああぁー」
　呻くイアコブは大義そうな素振りをしているが、操る光のナイフは的確にマキナや千里の体を切り裂いてくる。
　死してなお、人を殺そうとするイアコブ。理性あろうがなかろうが、害となる存在には変わりない。
　妖精弓を手にしたエメラルドは追尾する矢で相手の体を穿ち、さらに全身を光の粒子に変えて突撃を繰り出していく。
　相手が怯めば、ガートルードは星型のオーラを蹴り込んでイアコブの星霊甲冑を砕いた。
　そのまま、ガートルードはブレイヴハンマーを振り上げ、殴りかかる。
　前のめりな態度で敵を攻めていたレヴィアタンは、時間経過を気にかけて高威力のグラビティをと自身特有の技で勝負に出た。
「水はすべての源だ」
　水龍であるレヴィアタンは、大気中の水分を一点に集中させて高圧化させていく。
「自然の力、その身で受けるがいい」
　自身の手前に集まる高圧水弾。レヴィアタンはそれを一気にイアコブ目掛けて爆撃していった。
　だが、イアコブは倒れず、シャルルの発する無数の黒鎖での捕縛に合わせ、ナイフ型のオーラで前線メンバーの体を射抜こうとしてくる。
　すかさず、ピリカも仲間を苛む鎖を取り払おうと薬液の雨を降らせて、不浄を洗い流す。
　この場で唯一のサーヴァント、ボクスドラゴンのプリムも多少辛そうだが、頑張って盾と回復に奮戦してくれていた。
　ただ、そこで再度鳴る和のアラーム。
　イアコブの死神勢力による回収まで、あと１分を報せる合図だ。
「ここで逃がせば、多くの命が脅かされる。この一撃で足を止めるわ」
　仲間へと呼びかけるマキナが竜鎚より砲弾を発射して、イアコブの動きを鈍らせようとする。
「あー……」
　相手は呻きすらほとんどなくなってきており、弱ってきているのは間違いない。
「くくく、どうした？」
　だが、そこでシャルルが邪魔をし、石化光線を発射してくる。
　それを千里が食い止め、納刀した妖刀「千鬼」の刀身に重力を纏わせて。
「残念……、これは躱せない……」
　相手を見定めた千里は、体が石となるのを感じながらも居合いの一撃を繰り出す。
　重力を纏う刃は相手を引き付け、逃さずその体を切り裂いていく。
「あ、あぁ、あああぁーー……」
　全身から血を流し、ただでさえ病的な顔が見るに耐えぬほど扱けてしまい、死人にしか見えぬ状態。
　そんな相手の頭上には、回収の為か魔空回廊らしきものが出現し始めている。
「デカイ図体の割に、パワー不足の様だな……。一気に押し切らせて貰う……！」
　ここぞとセイヤは全身に漆黒のオーラを漲らせ、利き腕には黒龍が象っていく。
「魔龍の双牙ッッ！　砕け散れッ……！！」
　セイヤはそれを直接イアコブの長身へと撃ち込み、解放した黒龍のオーラが敵の体を飲み込み、破壊してしまう。
「あぁ、あぁぁぁぁ……」
　呻き声は徐々に薄れ、聞こえなくなる。
　同時にイアコブの体は消え去り、頭上の魔空回廊もまた完全にその姿を消したのだった。

●イキる学者に制裁を
　エインヘリアルが１体沈み、ケルベロス達は一呼吸置く。
　ただ、この場にはまだ怪魚型死神３体と、新たに現れた罪人エインヘリアルが残っている。
　ただ、死神は宙を泳ぐ姿に元気が見られない。
　体力を減らすその死神をエメラルドは追尾する矢で射抜いて１体を霧散させてしまえば、ガートルードが撃ちこんだ砲弾でもう１体が地に落ちて溶けるように姿を消していく。
　鋭い表情で敵を睨みつけたレヴィアタンが捕食形態としたブラックスライムで残る１体の死神を飲み込み、そのまま完全に消化してしまった。
　エインヘリアル、シャルルはそれでも自信ありげな態度を崩さない。
「くくく、学者である私にかなうとでも？」
　そいつはよほど自らの魔法に自信があるらしく、詠唱一つ一つとっても偉ぶる態度で行使している。
　高火力で攻めて来る敵の魔法を見続けていたエメラルドは、詠唱後の不意をついて、心を貫くエネルギーの矢で相手の体を射抜く。
「く……」
　余計な思考が頭に入ってきた為か、シャルルの表情が陰り出す。
「洗脳される気分はどうだ……？」
　エメラルドの問いに舌打ちしたシャルルがは、次なる魔法を発動させようと何やら呟き始める。
「どこまでも追い詰める……地の果て、天までも届け！　ワイルドアーム！」
　そいつ目掛け、ガートルードはワイルド化した自身の左手を伸ばしていく。
「お前の悪事もここまでよ！」
　その左手に握った天蠍星剣で、ガートルードは相手を串刺しにし、近場の壁へと縫い止める。
　間髪入れずにレヴィアタンが竜鎚から砲弾を撃ち込み、躍りかかる千里が相手の胸倉へと刃の如き蹴りでシャルルの動きを制しようとした。
「く……、貴様ら如きには負けん！」
　眉を吊り上げた敵は無数の鎖を放出し、ケルベロス達の動きを止めようとする。
　侮れぬ威力な上、こちらの動きを封じようとするシャルルの魔法。
「抱け！　猛き想いを　生き抜くための強き意志を……」
　ただ、リュエンの歌声響く中、属性注入による回復に動く箱竜プリムが両手を広げて盾となり、ピリカも気力を撃ち出して仲間が万全に戦えるようにと支援に回ってくれる。
　幾分か持ち直したマキナもヒールドローンを展開し、仲間達の回復の手を増やして戦線維持に努める。
　そうした仲間の援護を受け、セイヤは降魔刀「叢雲」に雷の闘気を纏わせて一閃させた。
　シャルルの身に痺れが駆け巡ったのを目にし、和が全力で仕掛けていく。
「知恵を崇めよ。知識を崇めよ。知恵なきは敗れ、知識なきは排される。知を鍛えよ。知に勝るものなど何もない。我が知の全てをここに示す」
　和は自らの知識を一冊の本として錬成し、シャルルの頭上へと出現させる。
「妖怪キャラ被りは、とっといないいないしてやるんだからー！」
　その本の角で、和は質量を生かした強烈な一撃を叩き込む。
　彼曰く、『分厚い事典とは――もはや凶器である』のだとか。
「そんな、バカな……！」
　自らの敗北を認めぬまま、学者を自称していた男は崩れ落ちていったのだった。

　敵の全滅を確認し、千里の瞳が茶色へと戻る。
　１人の戦闘不能や暴走者を出すことなく、皆無事に戦いを終えることが出来ていたようだ。
「えっ？　リュエンちゃん……男の人……？　えっ？　えっ？」
「最初から、私は男だと……」
　メンバー達が事後処理に当たる中、和が深夜の街中で驚きの声を上げていた。
　しばしの間、はてなマークを乱舞させる彼にメンバー達からは笑い声も聞こえてくるが、当のリュエンだけが困った表情を浮かべていたのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年9月8日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 3／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 3
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。