ミッション破壊作戦~深淵に架けられた一筋の縄

作者:ほむらもやし

●21ヶ月目の作戦
「何とか今月も、使えるグラディウスを揃えられたから、ミッション破壊作戦を進めたい」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は、厳しい表情で告げた。
「初めての人もいるかも知れないから、まず確認する、これが諸君に預けるグラディウス。この通り小さな剣だけど、『強襲型魔空回廊』を攻撃できる特別な兵器だ。戦闘には使えないけれど、魔空回廊を守るバリアに刃を接触させるだけで、破壊力を発揮する。敵はこのグラディウスによる魔空回廊への攻撃を防ぐ手立てを持たない」
 グラディウスの行使によってダメージを受けるのだバリアや回廊だけではない。攻撃の余波である爆炎や雷光。爆煙は付近を守る護衛部隊にも襲いかかる。
 バリア及び回廊への攻撃を掛けた後は速やかなに撤退する。
 護衛部隊は敵の中でも選りすぐりの精鋭揃い。
 攻撃の余波によって大混乱に陥っているとは言え、敵に態勢を立て直す猶予を与えれば、戦力にして8人程度のケルベロスなどたちまち包囲殲滅される。
 つまりグラディウスによる回廊攻撃を終えたら、敵が態勢を立て直すより早く、ミッション地域の中枢部からの撤退しなければならない。
 最初に厳しい状況を伝えたが、グラディウス行使後のあなた方は攻撃の余波である爆炎や雷光、同時に発生する爆煙(スモーク)に支援されている。
 これらはグラディウスを所持していない者を無差別に傷つける。対象は主に魔空回廊周囲の防衛部隊になる。
 スモークは敵の視界を遮り、消え去るまでの間、組織的な行動を不可能にする。
 勿論、大声で叫んで攻撃を仕掛けるという、派手な攻撃を仕掛けているのに、防衛部隊の誰とも遭遇せずに逃げおおせるほど世界は甘く無い。
「だけど、たった1回、強敵を撃破するだけ。通行料としては安いはずだ。スモークが視界を遮ってくれている間に撃破して、速やかに逃げ切って欲しい」
 状況が味方をしているのだから、多少大胆な行動も押し通せる。
 それが少人数の奇襲にも関わらず普通程度の難易度で、撤退可能と見込める根拠だ。
「向かった場所やその日の状況で違いはあるけれど、スモークが有効な時間はせいぜい数十分程度。戦いに費やせる時間は少ないと認識して欲しい」
 時間制限がシビアであるが、現時点でミッション破壊作戦におけるケルベロスの死亡事例は無い。
「グラディウスは行使する時に気持ちを高めて叫ぶと威力が増す。これは『魂の叫び』と俗称されているそうだ。個人的な思いが奪われた土地を取り戻す力に変えられるなんて素晴らしいだと思わないか?」
 陸路でのミッション中枢への侵攻には莫大な出血が予想される。
 だからミッション地域の中枢に位置する強襲型魔空回廊への攻撃は、高高度に侵入したヘリオンからの降下攻撃が、最適とされている。
「叫びはグラビティを高める為の手段だよ。気持ちを高められるか否かは諸君の問題だから思う様にを叫ぶ方が良い。あと使ったグラディウスは捨てずに持ち帰って下さい、何度も使うものだから、忘れないで」
 ミッション地域は、日本にあっても、人類の手が及ばない敵の占領地。
 日々ミッション地域へ攻撃を掛ける有志旅団の力を持ってしても、防備の固い中枢近くまでは、手が届かないのが現実。そこに反抗の刃を叩き付けるのがミッション破壊作戦だ。
「今から僕らが向かうのは攻性植物のミッション地域のいずれか。行き先が決まったら知らせて下さい」
 意気込みは大事だが、パーティとしての戦力を判断するのも重要である。
 遭遇する敵については個体差やポジションの違いもあるから過去の戦法を模倣しても同じ結果になるとは限らない。また繰り返した攻撃の回数で難易度が下がると言うことも無い。
 だから自分の気持ちに正直に行こう、徒に戦果を求めても上手く行くとは限らない。
 ミッション破壊作戦は攻撃ダメージを時間を掛けて蓄積することを目指している。
 全滅のリスクを回避するため、過大戦果は要求されない地道な作戦だ。
「デウスエクスに立ち向かえるのは、ケルベロスだけだ。だからお願いする」
 為す術もなく故郷を追われた人たちの顔を見れば、あなた方にも感じる所はあるはず。
 次に同じことが起こるのは君の故郷かも知れない。
 或いは縁の無い土地かも知れない。
 だからと言って、悲惨なニュースを、大変だなあ、可哀想だなあ。と、お菓子を食べながら眺めていて良いのだろうか?
 いつ侵略されてもおかしくない日常は、非常だ。
 あなたが被害者にならずにいるのは、足下の朽ち板が偶々抜けていない程度の幸運かも知れない。


参加者
クロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)
シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する人形娘・e00858)
ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)
スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)
片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)
嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)
コマキ・シュヴァルツデーン(翠嵐の旋律・e09233)
九十九折・かだん(スプリガン・e18614)

■リプレイ

●降下攻撃
 空から見れば、濃縮された海の青が、海面近くに青いもやを漂わせているように錯覚させる。
 そんな青を湛えた海の先に弓のように緩やかなカーブを描く海岸線がある。
 苫小牧漁港とは、苫小牧市から厚真町に跨がる国際港『苫小牧港』の西端、入口に位置する漁港地区である。
「――ここまで、てめえらの呻きが聞こえてきやがる」
 唇を軽く噛みしめ、九十九折・かだん(スプリガン・e18614)は50kmほど先の海岸線に目を凝らした。
 ミッション地域と化した苫小牧漁港での戦いが凄惨を極めていることは耳に入っている。
 今、伝え知られる情報は、『巨人の群れが市街地に侵入する寸前』と言うこと、いくら敵を倒しても強襲型魔空回廊から増援が幾らでもやってきてキリが無いこと。
 この泥沼の戦いを終わらせるにはこの魔空回廊を砕く他には無い。
 ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)と嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)が地図とにらめっこをしている。
 戦線は市街地との境界付近に設定されていると考えるのが妥当だろう。
 これは偶然にも室蘭本線日高本線を結ぶ線とほぼ一致する。
 反攻作戦を主導しているケルベロスが学校や公園、ショッピングモールと言った物資の集積が可能で人数を収容できる場所を選ぶだろうことは想像に難くない。
 従って範囲が広く予測もしにくい苫小牧港東側の工業地域を目指すよりは、北西方向の市街地を目指す方が、距離も短くミッション攻略中のケルベロスとの合流がしやすいと言う算段も立つ。
「見えた」
 今度は呟きでは無く、誰にでも聞こえるはっきりした声で、かだんは言った。
「北西だ。まず北西の埋め立て地の方に向かおう」
 かだんの声に応じるように陽治が言うと、ヘリオンの中の誰もが確りと頷いた。
 防波堤の先の辺りに、空の明るい青と太陽をそのままに映した様な輝点が見えた。ヘリオンは急激に高度を上げながら真っ直ぐに輝点を目指して進む。
 間も無く降下ポイントへの到着を告げるブザーの低い音が鳴り響き、続けてドアのロックが外れる音がして、ドアが開く。
 機内にどっと流れ込んでくる冷たい空気に逆らう様にして、かだんはヘリオンから飛び出た。
 強襲型魔空回廊を護る半球状、お椀を返した様な形のバリアの大きさは、高高度からは、まだ指先ほどにしか見えないが、それが急速に大きくなるのを感じた。
「その苦しみはどこからだ。
 混ぜ合わされた悲しみか。
 利用される怒りか。
 己が病への苦しみか。
 私には知る由も無え。無えがーー」
 高度は約2000メートルか、落下に任せるなら衝突速度は秒速50メートルを優に超えるだろう。
「お前らとて、命の冒涜の被害者なんだろう!
 喚くな。
 殺してやる。
 今楽にしてやる。
 必ず、必ず、終わらせてやる」
 瞬く間に空の青を映すバリアは目の前に巨大な壁の様に立ちはだかり、そこにグラディウスを突き出す自分自身が映っているのが見えた。
 落雷の如き衝撃がグラディウスを手先から身体の反対側に突き抜ける。それと同時グラディウスの刃先から放出される莫大なグラビティの流れと共に閃光が風景を真白に変えた。
 爆ぜる炎、一瞬にして沸点を超えた海面が泡立つ。ジェット噴射の如き水蒸気は急速に冷却により生み出された湯気をまき散らしながら、凄まじい速さの上昇気流となり、瞬く間に高空に達しなおも上昇を続ける。
 湯気を含んだ空気の固まりに押し戻されて落下速度が緩やかになる中、陽治も両手で構えたグラディウスを突き出す。

 同じ頃激しい上昇気流に持ち上げられたヘリオンの姿勢が乱れる。
「なにかしら?」
 降下しようとしていた、コマキ・シュヴァルツデーン(翠嵐の旋律・e09233)が態勢を崩しかける。
 数秒の後ヘリオンは立ち直り、機を逃さずにコマキは降下を開始した。

 この北の大地にも、厳しい自然と長きに渡って共存に至った人々の営みが根付いてる。
 太平洋の荒波に何度も破壊されながらも築港を続けた、嘗ての苫小牧漁港の歴史を知ればこそ、デウスエクスの橋頭堡とされようとしている現状に胸が締め付けられそうになる。
「お前らが無作法に踏み荒らして良い地なんかじゃ無いんだよ、逃げ出した大将の尻尾でも追ってお帰り願おうか!」
 陽治は叫びと共にグラディウスを突き出す。猛烈な衝撃、続けて生み出された火球が蒸気を孕んだ空気をさらに押し上げる。生み出された上昇気流に抗いきれずに、敵が次々と空中に舞い上げられ始める。
 次いで突入するのは、スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)、背中の翼を巧みに操り、白い蒸気と灰色の爆煙に覆われつつあるバリアの頂点に狙いを定める。
「ここは中核国際港湾に指定されるぐらい日本にとって重要な場所なんだよ」
 漁港の方もホッキ貝が好きな人には聖地であると付け加えつつ、被災した人たちの迷惑に思いを巡らせる。
「あなたたちがいると貨物のやり取りも何もできない。ロキに放り込まれたのかもしれないけど北海道の、他国のためにも早く出て行ってほしいかな!」
 問答無用で出て行けという激しい怒りが雷鳴の如くに轟き、同時に広葉樹の巨木が枝を広げるような雷光が広がり、宙に舞い上げられた黒い影を次々と貫いて塵に変えて行く。
「わ、こっち来た!」
 肌を打つ猛烈な上昇気流の抵抗を実感しながら、自由落下を続ける片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)の目の前に迫った雷光が、まるで避ける様に進路を変えて、空中に舞い上げられた敵の方に向かって行く。
「――ッ?!」
 塵と消える黒い影を見遣りながら、芙蓉は思う。
(「察するに造られた存在のようだけれど……同情で救える命でもなし、摘んでやるのも慈悲だわね?」)
 斃されても斃されても、まるで湧き水のように送り込まれてくる敵の運命の哀れ。
 果たして芙蓉はグラディウスを叩き付けた。
 度重なる猛烈な上昇気流に舞い上げられ、どこに居ても荒れ狂う雷光打たれ、あるいは爆炎に焼かれる。ほんの数分で朝の海は阿鼻叫喚の地獄と化していた。
 つい先ほどまで空の青を映していたバリアは、今や炎を孕んだ灰色の炎と荒ぶる稲妻の輝きばかりを映す。
「レプリゼンタ・ロキに道具にされる貴方たち巨人にも……憐情を感じえませんけども……この地も、貴方たちも……このままにしておく訳には参りませんわ……!!」
 しかし、だからといって見過ごすわけには行かない。複雑な感情は胸にしまい込みミルフィもまたこの場所を追われた人々の為、グラディウスを振り下ろした。
「死ね、デウスエクスの巨人ども。ここは我々の星だ、返してもらう」
 短く叫んで、クロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)はグラディウスを叩き付ける。跳ね返るような衝撃に全身の骨が軋むのを感じる刹那、どうしてミッション地域を作られる前に防げないのかという思いが過る。
 そもそもこの苫小牧では、事前にケルベロスたちの所持する『如意棒』が突如光り出して、この一箇所を指し示して居たのだから。結局直感や異変から得たものを現実追認の素材にしか出来ていない。まだ見ぬ未来を想像し妥当性のある現実を予測することが出来ていないのだ。
「少しは陣地を取り返す足しになったでしょうか? 大局を突き崩す蟻の一穴となっていれば一興でしょう」

 上空を厚い雲に覆われ、さらに爆煙(スモーク)に覆われた、苫小牧港の全域は夜の様に暗くなった。
 爆炎が海面を舐める度、大量の水分を空中に持ち去さられてスモークとは別に濃霧を発生させる。
 海面は熱く、海水に含まれる塩分がそこかしこに吹き出て来る。仲間との合流を待つ間、ケルベロスたちはその様な環境に置かれた。
「きつそうだな。大丈夫か?」
「だいじょうぶ。うん、海の水がしょぱいってこういうことなんだよね」
 気遣う陽治に応じつつ、羽根に析出して来た塩をパラパラと落としながら応じるとスノーエルはボクスドラゴン『マシュ』を抱えるようにして、上を見上げた。

 Aversion(なんと忌々しい)。わたしは自身の欲望の為に同族を使い潰すロキが嫌いですの。
 そんな者が個人的な欲望の為に大量殺戮を犯すことは絶対に許せないですの。
 ロキの野望を挫き、巨人たちを止める為にもゲートは壊させて貰いますの。
 降下を続けたシエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する人形娘・e00858)の眼前、煙と湯気を裂け目の先に、壁の様に広がるバリアが広がっていた。
 叫びと共に振り下ろすグラディウスの余波である、雷光や爆炎が、ただ洗脳され、あるいは攻性植物に寄生され操られているだけかも知れない巨人に襲いかかるのは分かっていたが、今はやるしか無い。
「Une plainte(言わせて頂きますの)! 如意棒が怖いなら最初からやるなですの!」
 万感を込めた叫びが、雷鳴の轟く暗い風景の中に響き渡ると同時、弾き飛ばされたシエナの華奢な身体がスモークのクッションの中に沈んで行く。入れ替わるようにして、コマキが突っ込んでくる。
「えっとえっと、苫小牧……高校野球とか、豚肉とか、ホッキ貝とか……」
 台風に続き不意を突かれたような大地震に被災したこの場所にデウスエクスに立ち向かう余裕など幾らも無かった。
「ちがうわよ! 今、この地はね、あんたらに構ってる暇なんか、無いのよーっ!」
 どうしてこんな救いの無いことが立て続けなのか、コマキは理不尽さへの憤りを込めたグラディウスを叩き付けた。
 果たしてこの日8回目の閃光が爆ぜて叫びが轟いた。
 強襲型魔空回廊及びその上部に浮遊する防護バリアにダメージを刻んだものの破壊には至らなかった状況を確認する。
「こういうことかよ」
 かだんが顔を向ける先、強襲型魔空回廊から、続々とこぼれ落ちる様にして新たな敵影がと出て来ていた。
「スモークに遮られているとはいえ、あれに追いつかれたら……終わり。ですわね」
 ミルフィの低い声に導かれて一行は北西に向かって撤退する。

●撤退戦
 程なくして立ちはだかる『謎の獣型巨人』と鉢合わせる一行。
 あと少しで中枢部から抜けられるかも知れないと、淡い期待を抱きかけた矢先のことだったが、造成中の埋め立て地で見通しが良かったことが幸いして不意打ちは受けなかった。
 巨体を見れば耐久力の高さと攻撃力は想像に難くない。
 強敵なりの回避力はあるから、アタッカーにはそれなりの力量が無ければ苦労をするだろう。
 さらに早期撃破を目指すには、耐久力を削り切れるだけの高い攻撃力、敵の高い回復力への対抗手段、破壊属性を持つ強力な単攻撃への防護手段のうちひとつでも掛ければ時間切れは免れない。
「コイツは、私が」
 巨人の爪を受け止めた、かだんが鋭い声を上げる。
 次の瞬間、掠っただけに見えた上腕部の傷口が黄土色の泡を吹き上げながら紫色に膨れ上がる。
「くっ、叩き潰さなきゃならねえ」
 蝋の様に身体が溶け落ちるような激痛に耐えながら繰り出した死を齎し命を巡らせる王の存在の如き一撃が、冬の森の不毛から飢餓から来る予感と共に襲いかかる。
「悪いな。今は助けてやるわけにはゆかない」
「構うな。狩られる者の痛みはこんなものじゃない」
 今や全身皮膚が青紫に変色したかだんに言い置いて陽治は跳び上がると、次の攻撃が自身に向けられることを願って虹の輝きを曳く蹴りで打ち込んだ。
「信じられたのは、そう……あなたがいたから……」
 スノーエルの希望に満ちた癒歌の響きにかだんの肌が急速に元の色に戻って行く。幾ら大丈夫と言われても放って置くことは出来なかった。
 芙蓉は万全の照準から、バスターライフル――地上から開け六花を撃ち放つ。エネルギー光線の輝きに包まれた巨人の体表から灰が舞い上がる様を目にした、芙蓉はローラダッシュの火花を散らしながら加速し一挙に間合いを詰め、火焔を纏う蹴りを叩き込んだ。
「大きいだけあって、耐久力は大したものですね」
 間近で見上げればさらに巨大さに見える巨体を目掛けてクロハはブラックスライムを嗾ける。
 直後、巨人よりも大きく膨れ上がり、捕食形態となったブラックスライムは敵を丸呑みにした。
「終わりですか、意外に大したことありませんでしたね――そんな訳ありませんか」
 膨れ上がったブラックスライムを引き裂いて脱出する巨人は、しゃがみ込むポーズで自らの傷を癒やした。
「C'est regrettable(悔しいです)!」
 無念を噛みしめるように、シエナは零し、ボクスドラゴン『ラジンシーガン』に声を掛ける。
「Emprunts(借用要請)! ラジン、眷属を借りますの! En avant(前進せよ)! 全軍突撃なの!」
 直後、封印箱から飛び出て来る無数の蜂の群れがあらゆる方向から巨人に襲いかかる。
 コマキの繰り出すメタリックバーストの銀色の輝きが、煤と塩分を含んだような黒い雨がパラパラと降り始めて、スノーエルの白い翼に黒い筋を描く。
 それとほぼ同時、機を逃さずに、かだんは前に出ると、地獄の炎でも溶けることが無いと言われる巨大剣をを叩き付ける。
 凄まじい破壊の力の発現と共に、周囲を飛び回っていた蜂の群れが霧散する。
 上手くカバーして負荷を分散させなければ。
 陽治は自ら敵の攻撃に向かっていくように見えるかだんを心配しつつ、遠心力を加えてエクスカリバールを振り抜くとその先端を敵に突き刺した。
 かくして戦いはケルベロスがの優勢が決定的となる。
 敵は早々に劣勢を悟り持久に徹し始めるも、時々起こるアンチヒールの効果により状況は決定的に悪化した。
「私は死、お前の死」
 クロハは瞳の奥に宿す煉獄を見せつけ、巨人の眼底に凄惨な死のイメージを焼き付ける。
「貴方も……何かとても苦しんでいる様に見えますわ……」
 装備を巨大なロボット型の機動鎧形態に変えたミルフィは搭乗するように、それを着装した。
「ナイトオブホワイト、起動……! 巨人とやり合うのも初めてですが……貴方たちは止めなければ……稼働時間限界まで参りますわ!」
 直後、ひと跳びで距離を詰めたミルフィの持つ兵器の連続攻撃に晒され巨人は遂に片膝を着いた。
 動かぬ足に必死に力を入れる巨人、だが倒れない、そしてトラウマに苛まれながらも斜めに振り下ろした爪撃が装備もろともミルフィの小さな身体を引き裂いた。
 バラバラに砕けたパーツの上に倒れ伏すミルフィ。その背後で射線をとった芙蓉が飛び込んでくる。
「さあ女神の祝いよ、受け取りなさい……!」
 陽炎を纏う一撃が着弾と同時、重ねたバッドステータスを一挙に花開かせ、続く斬撃が巨人に終焉を齎した。
「さあ急ごう」
 倒れたまま動かないミルフィを軽く肩に抱えた陽治と共に一行は市街地を目指して走る。
 ミッション攻略中のケルベロスに出会えたのは間もなくのことであった。

作者:ほむらもやし 重傷:ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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