先日、祭りも終わりやぐらや出店で賑わっていた公園も、今は元の静寂を取り戻したそんな夜。
エインヘリアルが打ち倒された場所に、ゆらゆらと浮遊する3体の怪魚が現れた。体長2mくらいのその怪魚は、青白く発光し大きな円を描いていく。光の軌跡は空へと魔方陣を描き出し、その中心には倒されたはずのエインヘリアルが姿を現す。
変異強化を施されたエインヘリアルは、両手両足の筋肉が2倍に膨れ上がり、より戦闘に特化させられている。元の面影はほとんどない。
「ガアアァァァアアアア!」
夜明けと共にあげた雄たけびには、知性の欠片さえ感じられない。
――ドーン!!
エインヘリアルが雄たけびをあげた直後、空からもう一体のエインヘリアルが降り立った。
集まったケルベロス達に、一度頭を下げると、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は今回の事件の説明を始める。
「先日、お祭りが開催された公園で、死神の活動が確認されました」
死神といっても、かなり下級の死神で、浮遊する怪魚のような姿をした知性をもたないタイプだ。
「怪魚型死神は、ケルベロスが撃破した罪人エインヘリアルを、変異強化した上でサルベージし、デスバレスへ持ち帰ろうとしているようです」
ここまでなら死神が引き起こす事件としては珍しくないだろう。
……だが、今回の事件はこれだけでは無い。
罪人エインヘリアルがサルベージされると同時に、新たな罪人エインヘリアルが出現するというのだ。
これは、エリン・ウェントゥス(クローザーズフェイト・e38033)が危惧していた、罪人エインヘリアルのサルベージを援護するエインヘリアルの妨害行動と思われる。
「サルベージされたエインヘリアルは出現の7分後には、死神によって回収されるので、可能ならば、その前に撃破を行ってください」
変異強化されたエインヘリアルは強化の影響で知性を失っている。
「変異強化エインヘリアルは、強化された手足を使った攻撃を行います」
「新たに出現するエインヘリアルの方は、『攻撃的でケルベロスが現れれば問答無用で攻撃をしかけてくる戦闘狂』で2本の斧を振り回します」
戦闘を楽しむような罪人である為、エインヘリアルを無視して、変異強化エインヘリアルを先に倒すのは難しいだろう。
怪魚型死神は、『噛み付く』ことで攻撃し、あまり強くはないようだが、エインヘリアルを守るような行動をとる。
ケルベロスが駆けつけた時点で、周囲の避難は行われているが、広範囲の避難を行った場合、グラビティ・チェインを獲得できなくなる。そうなると、サルベージする場所や対象が変化して、事件を阻止できなくなる為、戦闘区域外の避難は行われていない。
「サルベージされたエインヘリアルは、グラビティ・チェインの補給を行わなくても7分後に回収される為、一般人への被害は考えなくて良いでしょう」
新たに現れたエインヘリアルは、回収などは行われない為、ケルベロスが撃破に失敗した場合は、かなりの被害が予測される。
「エインヘリアル2体と深海魚型死神を相手取る事になるので、十分に注意してください」
参加者 | |
---|---|
朝倉・ほのか(フォーリングレイン・e01107) |
山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918) |
アリシア・マクリントック(奇跡の狼少女・e14688) |
マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659) |
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412) |
豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077) |
クロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937) |
ボニー・バルトル(ワーキングランチ・e61446) |
●
先日祭りが終わり、静寂に包まれた公園へとケルベロス達は到着すると、身を潜め死神が現れるのを待っていた。
「死神を倒して、時間内に変異した奴も倒して、更に被害を出さないために斧の奴も倒す……難しい戦いになりそうだけど、頑張るだけの価値はあるね!」
クロウ・リトルラウンド(ストレイキャリバー・e37937)が皆へと話しかけたその時、ゆらゆらと浮遊する2mほどの怪魚が3体現れると、青白く発光しながら大きな円を描く。
「慎重に、落ち着いて……しくじるな、ボク!」
「まぁまぁ、そんなに緊張しなさんなって」
山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)が呟いていると、落ち着かせようと卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)が話しかける。
「どれ、ちょっとこのコインで、験担ぎでもしてみるかね。表……来い」
小気味いい金属音と共に上空へと放られるコイン。クルクルと数回転した後、泰孝の手元へと戻ってくる。
「裏……か。これは一波乱ありそうだな」
その間に死神たちによって、空中に青白い光を放つ魔法陣が出来上がっていた。その中央には前に倒したはずのエインヘリアルが姿を現していた。武器はなくなっているが、変異強化を施され両腕、両足の筋肉が膨れ上がっている。
「ガアアァァァアアアア!」
雄たけびを上げる変異強化エインヘリアル。
――直後、それに呼応するかのように、もう一体のエインヘリアルが空から降ってきた。
どちらも3mはあろう大男。片方は変異強化を受けムキムキになったエインヘリアル。もう片方は2本の斧を両手に持ち、2つの斧をすり合わせ今にも暴れ出しそうな様子だ。
「てき、たくさん、だけど、まける、ない!」
アリシア・マクリントック(奇跡の狼少女・e14688)が敵の目の前へと飛び出すと、両手両足を地面につけ、動物が威嚇をするかのような姿で立ち塞がる。
「ここから先は通さないよ」
「かなり突っ張ってきたな。それじゃオレたちはチップの全取り、してやろうじゃねぇか」
アラームのセットを終えた、クロウと泰孝も木陰から飛び出す。
「人様の命を奪う奴は、おしりペンペンじゃ済まないね」
少し遅れて出てきたのは豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)。
「戦いを始めます」
朝倉・ほのか(フォーリングレイン・e01107)は戦闘へとスイッチを切り替え、冷静に言い放つ。
「さあ、覚悟しなよ!」
涼子の言葉と共に、ケルベロス達は武器を構えた。
ケルベロスを見ると同時、変異強化エインヘリアルが地面を思い切り踏みつける。地面の揺れと共に、空気をも振るわせプレッシャーとなってケルベロス達に襲い掛かる。
一瞬の怯みに合わせるようにエインヘリアルが、ほのか目掛けて跳びかかり斧を振り下ろす。
「鉄と血が命運を決定する」
震える手に力を込めると、ほのかは日本刀『長門』を構え、超高速で薙ぎ払う。
しかし万全とはいかない一撃に、2体のエインヘリアルは飛び退くと、それを躱す。
「かわせるかな? 地摺り焔鮫!」
涼子の放った炎が鮫の如く地を這い襲い掛かる。
すかさず泰孝が詠唱を終え氷で敵を包み込む。
「いくでござる」
マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659)の拳が、変異強化エインヘリアルを撃つ。
「安寧の泉の守護者にして水神の巫女、アクアヴィーテの名において祈願す。同胞の傷を癒し、再び立ち上がる力を……彼の者に与え賜え」
姶玖亜の舞いに合わせて水飛沫が舞う。
ボニー・バルトル(ワーキングランチ・e61446)の放出したオウガ粒子がケルベロス達を包む中、クロウとアリシアが飛び出す。
「アリシア、ぜんぶ、やっつける!」
2人は一気に加速すると、エインヘリアル達目掛け突撃した。
●
泰孝のセットしたアラームが6分目を告げる。
当初の予定通り、範囲攻撃を中心にした攻めで死神2体を倒すことに成功し、次の狙いは変異強化エインヘリアルへと集中させる。
猛攻を受けつつも放たれた変異強化エインヘリアルの拳が、涼子を吹き飛ばす。
追撃を加えるかのようにエインヘリアルが斧を振り下ろす。
しかし振り下ろされた斧は涼子へと届く前に、割り込んだボニーによって受け止められた。
「その力を奪います」
ほのかの刃が変異強化エインヘリアルの体力を奪っていく。そこへ体勢を立て直した涼子の放つ炎が襲い掛かる。
攻撃の手を緩めずに泰孝とマーシャの斬撃が次々と変異強化エインヘリアルを斬り刻んでいく。さらに援護するようにマーシャのナノナノ、剣豪将軍ナノテル様がハートの光線を放った。
姶玖亜が傷の治療の為、涼子の元へと駆け寄る。
「そういえば、こんな話は知ってる?」
少し遅れてボニーも駆けつけ、治療の手伝いに回る。
アリシアは飛び出すと、口に咥えたナイフで変異強化エインヘリアルを斬り刻む。
攻撃を終えアリシアが離れる瞬間を見計らい、クロウが放った竜砲弾が変異強化エインヘリアルの胴を捉える。続けてクロウのボクスドラゴン、ワカクサの紙吹雪状のブレスが襲い掛かる。
泰孝とクロウのセットしたアラームが同時に辺りへ鳴り響く。それは制限時間を知らせる合図。ケルベロス達に緊張が走る。
アラーム音が鳴り響いたのと同時、変異強化エインヘリアルの身体が光に包まれ始めた。攻撃する素振りは見せずに光の中でじっとしている。
「撤退する気ですぞ!」
暴走してでも撤退を阻止することも考える。
しかし、死の危険に瀕しているならまだしも、ここは住宅街。仮に暴走して変異強化エインヘリアルを倒せたとしても、理性を失った後に辺りに被害を出してしまっては意味がない。
――ならば総攻撃に賭けるしかない。
「あと少しのはずだ……。一気に決めよう!」
『おうっ!』
一斉に変異強化エインヘリアル目掛けて駆ける。
グラビティ・チェインを破壊力に変え、叩きつける涼子。
呪詛を載せた、ほのかとマーシャの斬撃が美しい軌跡を描く。
「飛ぶよワカクサ! 必殺、ワカクサ・ウィンガーッ!」
「アリシアも、ぶき、つかう、できる!」
姶玖亜の鎖が変異強化エインヘリアルを締め上げ、クロウ、ボニー、アリシアの攻撃が次々と襲い掛かる。
「間に合えーっ!」
叫びと共に放たれる泰孝の渾身の一撃。
しかしその一撃は変異強化エインヘリアルへと届かず、ボロボロになりながらも間に割り込んできた死神へと。
攻撃を受け、死神が青白い光と共に消滅する中、変異強化エインヘリアルは光の彼方へと消えていった。
●
あと一歩のところで逃げられた……。
死神を先に全滅させていれば。他を無視してでも変異強化エインヘリアルを集中攻撃していれば。回復の手を減らして攻撃に転じていれば……様々なもしもがケルベロス達の脳裏によぎる。
そうしている間にも、エインヘリアルは斧を構え迫ってくる。
「みんな、来るよ!? 立て直して!」
姶玖亜が後方から声を張り上げると、ケルベロスチェインを展開し守護の魔法陣を描き出す。
エインヘリアルの斧がマーシャに襲い掛かる。吹き飛ばされない様に懸命に堪えるマーシャ。その横からほのかが飛び出す。
「斬れないものは殆どない!」
斧を振り下ろした直後のエインヘリアルの懐へと潜り込み、胴目掛けて斬撃を放つ。
更に炎の鮫がエインヘリアルの脚へと喰らいつき、泰孝の放った光弾が振り下ろされた腕を弾く。
バランスを崩しエインヘリアルが二歩三歩と後退すると、動けるようになったマーシャが鳩尾目掛けて拳を叩き込んだ。
クロウが九尾扇を一振り。すると扇の羽が一瞬で鞭のように伸びる。多節鞭となった扇を振るうと四方八方から鞭がエインヘリアルへと次々に襲い掛かる。
「おおかみぶそう!」
無数の鞭に撃たれ怯むエインヘリアル目掛けてアリシアの一撃が放たれ、3mもある巨体が吹き飛ばされる。
エインヘリアルが吹き飛んだ隙に、魔導金属片を含んだ蒸気を噴出するボニー。蒸気は意志を持っているかのように真っ直ぐとマーシャの元へと飛んでいき身体を包み込む。
「コノォォォオオオオオオ!」
エインヘリアルは起き上がると雄たけびを上げた。吹き飛ばされたことへの怒りと、強者と戦える喜びに。
2本の斧と高く掲げ、突進するエインヘリアル。その歩幅は広く、瞬く間に涼子の目前へと迫る。
「――ッ!?」
2本の斧が涼子の肩から交差するように振り下ろされる。傷口から大量の血がふきでる。凄まじい衝撃に涼子は声をあげることも出来ず、膝から崩れ倒れた。
「嬢ちゃん、しっかりしろ!」
「傷が深い!?」
「私も手伝います」
泰孝、姶玖亜、ボニー、3人が急いで駆け寄り治癒を施す。
「よくも山之内さんを!」
力を溜め、高速で斬撃を浴びせるほのか。
「山之内殿はやらせないでござる」
更にマーシャが斬撃を重ねる。
「こいつも喰らいなよ」
「なかま、いじめる、ゆるさない!」
クロウの砲撃が、アリシアの斬撃が、次々とエインヘリアルに浴びせられる。
エインヘリアルは堪らずに、一度距離を取ろうと後退した。
●
傷だらけになろうとも、ひたすらに斧を振るうエインヘリアル。
負けじとケルベロス達も攻撃を繰り返す。ここで負ければ一般市民に害が及ぶ。それだけは決して許されないと、自らを奮い立たせる。
「くれてやる、拾いな」
「合わせます。一気に畳みかけましょう!」
虚空に放り投げられる偽りの金貨。地面へと落ちるその音が、エインヘリアルを蝕んでいく。泰孝の攻撃に合わせる形で、ほのかが長門を振るう。
「斬り捨て御免!」
マーシャが斬撃を浴びせ、ボニーが武器を振るうと、突如エインヘリアルが炎に包まれる。
「飛ぶよワカクサ! 必殺、ワカクサ・ウィンガーッ!」
「まだまだ、やれる! おおかみぶそう!」
高速でエインヘリアルへと迫るクロウとアリシア。抜きつ抜かれつ、競い合うように加速し合う2人。最高速に達した瞬間、エインヘリアルの両肩へと突撃した。
ケルベロス達が猛攻を浴びせるも、エインヘリアルの斧が振り上げられる。またしてもあと一歩が届かない。
……しかし今回は違った。エインヘリアルの斧が振り下ろされるよりも先、炎のグラビティが地を這い、鮫の如くエインヘリアルへと喰らいつく。
先程まで姶玖亜の治療を受けていた、涼子の一撃。
「ガアアアアアアアアアッ!」
断末魔の叫びをあげ、エインヘリアルは消滅した。
緊張が解けたのか、涼子がその場に座り込む。
「もう大丈夫なのか?」
「おかげさまで」
皆が無事を喜ぶ中、姶玖亜は戦闘の爪痕を直して回る。
「ねえ、アリシア。さっきの攻撃凄かったね、どうやってるんだい?」
「それは、えっと――」
興味津々に尋ねるクロウに、アリシアもたどたどしくも答えていく。
残念ながら変異強化エインヘリアルの回収を阻止することは出来なかった。しかし、エインヘリアルによる虐殺は防ぐことが出来た。今は、一般人への被害がなかった事を喜ぼう。
暫し休むとケルベロス達は本部へと報告をする為に、その場を後にした。
作者:神無月シュン |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年9月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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