●不良のビジョン
「マヌケ面ならべて授業なんか受けてんじゃねーぞ、こらぁ!」
短ラン、ボンタン、赤いメッシュの入った金髪のリーゼント――天然記念物的なスタイルの不良少年が鉄パイプを手にして叫んだ。
「どいつこいつも飼い馴らされた羊みたいになっちまいやがって! 真のアウトローたる俺様がおまえらの目を覚まさせてやるぜ! 秩序という名の牢獄をブチ壊してよぉ!」
中二病が入った台詞を吐きながら、少年は教室で暴れ……なかった。
そもそも、ここは教室ではなく、学校の屋上だ。少年以外に人影はない。
「あー、そんな啖呵を切って暴れまわりてぇ。でも、無理だよな。うちの担任、めっちゃ怖いし……」
少年はがくりと肩を落とし、鉄パイプを放り投げた。しかし、すぐにまた拾い上げ、階段室の壁に立てかけた。『地面に転がしていたら、誰かが蹴躓いてしまうかも』とでも思ったのだろう。
すると、階段室の扉がいきなり開き――、
「ちょっと、そこの貴方!」
――凛とした雰囲気の女生徒が現れ、少年に詰め寄った。
「貴方、とんでもない不良ね。そうでしょう?」
「……え?」
思わず後退りする少年。頬が少し紅潮し、声が上擦っている。どうやら、この謎の女生徒のようなタイプが好みであるらしい。
「手がつけられないほどの不良なんでしょう?」
と、女生徒がなおも問いかけると、少年はようやく我に返って頷いた。
「そ、そうさ。俺ァ、学校で一番の……いや、県内一のアウトローだ!」
「この学校で滅茶苦茶に暴れ回るつもりなのね?」
「その通りだ!」
「校舎の中をバイクで暴走した挙句、火をつけるつもりなんでしょう?」
「え!? そ、そこまでは……いや、やってやるさ! この腐りきった学校を灰と瓦礫に変えてや……りゅあああ!?」
威勢のいい言葉を奇声に変えて、少年は倒れ伏した。女生徒が持つ鍵のような物に胸を刺し貫かれたのである。
そして、女生徒の横に一筋の煙が立ち昇ったかと思うと、人のようなものに変わった。
その『人のようなもの』は少年と同じ姿をしていた。だが、相違点が二つ。リーゼントの先端が重力を無視して反り返っていること。モザイクに覆われたチョッパー仕様のバイクに乗っていること。
バイクのエンジン音を派手に吹かしながら、『人のようなもの』は叫んだ。
「なにもかもブチ壊してやるぜぇー!」
●陣内&音々子かく語りき
「ドリームイーターどもが日本各地の高校で良からぬことをやってんですよー」
ヘリポートの一角に並ぶケルベロスたちの前でヘリオライダーの根占・音々子が語り始めた。
「そのドリームイーターのうちの一体である『イグザクトリィ』という輩の動きを予知しました。イグザクトリィは福岡市の高校に現れて、不良に憧れる青少年の心から新たなドリームイーターを生み出すようです」
「不良に憧れる青少年か……」
と、呟いたのは玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)だ。
「イグザクトリィって奴は獲物には事欠かないだろうな。誰しも若い時分は多かれ少なかれワルに魅力を感じるもんだから」
「そうですねー。かく言う私も中学の頃は札付きのバッドガールでしたよ。校則で禁じられていた買い食いの常習犯でしたし、廊下を走ってばかりいたし、一度だけズル休みしたこともあるんです」
「そいつぁ、たいそうなワルだ。お見それしました」
微笑ましい悪行自慢を苦笑で受け流した後(幼い娘の他愛のない自慢話を聞く父親の心境だった)、陣内は話を本題に戻した。
「で、イグザクトリィの標的になるセーショーネンとやらは何者なんだ?」
「仁礼・法彦(にれ・のりひこ)君という二年生の男の子でして。ルールに縛れないアウトローを気取りたがってるんですけど、はっきり言って向いてませんねー。気が弱い上に根がちょっと真面目っぽいみたいですから」
「根が真面目なアウトロー志願者か。ちょっと笑えるな」
「たぶん、法彦君は『ルールを守ること』がなんとく『良くないこと』のような気がしてるんでしょうね。守るべきルールを自分で選択することとルールに盲従することの違いが判ってないんですよ」
そんな法彦の心から生まれた存在であるため、ドリームイーターも完全なアウトローになりきれていない。力の源泉ともいえる『アウトローへの憧れ』を弱めるような説得ができれば、戦闘能力が大幅に低下するだろう。
「敵は強大な力を有していますから、説得せずに戦うのは得策とは言えません。学園ドラマの熱血先生のごとく真面目に語りかけたりとか、ダサくてセコくてカッコわるい不良の振りをして幻滅させたりとか、アウトロー道とでも呼ぶべきもの厳しさを示して『俺なんかにはとても無理だ』と諦めさせたりとか、自分にあったやり方で説得しつつ、戦ってください」
任務について語り終え、ヘリオンに向かって歩き出す音々子。
その後に続きながら、陣内が尋ねた。
「ところで……さっき、一回だけズル休みしたとか言ってたよな。なんで、そんなことをしたんだ?」
「登校中に捨て猫を見つけたんですよー。で、知り合いの獣医さんのとこに行ったりなんやかんやしているうちに日が暮れて学校が終わっちゃったんです」
「ワルだねぇ」
参加者 | |
---|---|
深月・雨音(小熊猫・e00887) |
琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774) |
新条・あかり(点灯夫・e04291) |
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753) |
玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497) |
ブルローネ・ウィーゼル(モフモフマスコット・e12350) |
月杜・イサギ(蘭奢待・e13792) |
鋳楔・黎鷲(天胤を継ぐ者・e44215) |
●全開バリバリだぜ!
とある高校の屋上にケルベロスたちが並んでいた。
彼らの視線の先にいるのは――、
「来やがったな、ケルベロス! 権力の鎖に繋がれた番犬どもめ!」
――チョッパー仕様のバイクに跨がったデウスエクス。
仁礼・法彦の心から生まれたドリームイーター(以下、NN)である。もっとも、バイクを覆うモザイクがなければ、ただのヤンキーにしか見えないが。
「最近はデウスエクスもなりふりかまっていられないようだな」
階段室の前で倒れている法彦からヤンキー姿のNNへと視線を移しながら、神崎・晟がヒールドローンを展開した。
「まあ、なりふりかまってないのはこちらも同じだが……」
視線が更に巡り、『なりふりかまってない』仲間たちへと向けられる。
そのうちの一人――サキュバスの琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)が紙兵を散布した。空々しい言葉を口にしながら。
「私、とても良い子でしたから、あのドリームイーターのように悪ぶれませんわ」
ちなみに淡雪が身に纏っているのはセーラー服。学校という戦場に相応しい衣装であり、べつに『なりふりかまってない』ようには見えない。
彼女が二十歳をとうに過ぎているという事実を無視すれば。
「かっこよく見られたいんだよね?」
と、淡雪の半分以下の年齢であるシャドウエルフの新条・あかり(点灯夫・e04291)がNNに問いかけた。その小さな体を覆うオウガメタル『エルピス』からオウガ粒子が放出され、前衛陣――深月・雨音(小熊猫・e00887)、玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)、淡雪、テレビウムのアップル、オルトロスのイヌマルを包んでいく。
「そういう気持ちは僕にもよくに判るよ」
「知ったふうな口をきいてんじゃねえ! アウトローの美学がガキに判ってたまるか!」
「君だって『ガキ』と呼ばれる年頃のはずだが――」
オラトリオの月杜・イサギ(蘭奢待・e13792)が日本刀の『ゆくし丸』を抜いた。
「――判っているのかな? この世界は『子供のすることだから赦してやろう』だなんて甘い言葉でできてはいないことを……」
「うるせぇーっ!」
自身の咆哮にエンジンの爆音を重ねて、NNがケルベロスたちを攻撃した。
バイクで突っ込むという形で。
白い紙兵と煌めく粒子が舞い散る中を猛スピードで蛇行し、前衛陣を次々と撥ね飛ばしていく。
だが、最後の標的を撥ね飛ばした直後、NNの太股に鉛の矢が突き刺さった。
黒豹の獣人型ウェアライダーの玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)が『ダプネーの拒絶』で生み出した矢だ。
「ぐあっ!?」
「アウトローのなんたるかが判ってないのはそっちだろう」
痛みに呻くNNに向かって、陣内はニヤリと笑ってみせた。
「いいか、少年。アウトローってのは……」
「そうにゃ! あんたはなにも判ってないにゃ!」
陣内の言葉に割り込んだのは、バイクで跳ね飛ばされながらもすぐに体勢を立て直した雨音。人型ウェアライダーである彼女の両手から獣の爪が伸び、NNに向かって振り下ろされた。『十刃散華斬(クローデストロイスラッシュ)』という名のグラビティだ。
だが、NNは素早くバイクをターンさせ、ホーミング効果を有するその斬撃を躱した。
続いて、雨音と同様にバイクの攻撃を受けたユウマが鉄塊剣『エリミネーター』で達人の一撃を見舞ったが、それもなんとか回避することができた。キャスターのポジション効果の賜物か。
にもかかわらず、NNの顔には動揺が見えた。重力に逆らって反り返っていたリーゼントも心なしか垂れ下がっている。
雨音とユウマの異様なファッションに圧倒されているのだ。
雨音は、鋲付きのレザーベルトを多用した露出度の高い衣装。これでもかとばかりにシルバーのアクセサリーを盛っている。
ユウマは、ケルベロスコートを改造(改悪?)した長ラン。カラーテープで『×』の字が描かれたマスク付き。
「あんたはなにも判ってないにゃ」
NNに爪を突きつけて、雨音が先程と同じ言葉を繰り返した。
「そんな格好でよくアウトローを気取れたもんだにゃ。今時のアウトローはこういうファッションでなきゃダメなのにゃ」
縞模様の尻尾を揺らしてポーズを決める雨音。
「正直、着心地は良くないにゃ。でも、これはルール。アウトローのルールその一にゃ!」
「いやいや。本当のアウトローなら、個性で勝負しなくてはいけませ……いや、いけないんダゼ」
慣れない言葉づかいに悪戦苦闘しつつ、ユウマもポーズを決めた。
「誰にも負けない個性をアピールしたければ、自分みた……いや、オレみたいに衣装を自作するのが一番ダゼ。市販ものと違ってオンリーワンだし、それに安上がりダゼ!」
「おいおい」
と、ヴァオ・ヴァーミスラックス(憎みきれないロック魂・en0123)がユウマの肩をつついて囁きかけた。
「おまえ、任務の趣旨を理解してんのか? 敵に『不良はダサい』って思わせなくちゃいけないんだぞ」
「え? そのつもりでしたけど――」
ユウマは自分の衣装を見下ろした。
「――この格好って、ダサく見えないですか?」
「見えねよ。むしろ、かっこいいし。バッテンマスクとか、超クールじゃん。竜派じゃなければ、俺も付けたいくらいだわー」
「そうだったんですか。自分、こういうのは詳しくないので……」
がくりと肩を落とすユウマ。ヴァオの残念極まりない審美眼を微塵も疑っていないらいしい。
そんな彼を雨音が励ました。
「大丈夫にゃ、ユウマくん! その衣装は間違いなくダサいから、自信を持つにゃ!」
「いや、ダサさに自信を持っちゃダメだろ!」
NNが反射的にツッコミを入れた。
●限界ギリギリだぜ!
「ダサいのはお気に召しませんか?」
と、澄まし顔でNNに尋ねたのはブルローネ・ウィーゼル(モフモフマスコット・e12350)。白イタチの獣人型ウェアライダーだ。
「召すわけねえだろうが! かっこよくなけりゃあ、アウトローとはいえねえ!」
「えーっ!? アウトローがかっこいいものだと思ってるんですかー?」
ブルローネはわざとらしく目を丸くした。可愛い表情ではあるが、それ故に相対する者にとっては苛立たしいことこの上ない。
「もしかして、ご存じないんですか? アウトローの本来の意味は『法外追放を宣告された人』なんですよ。つまり、法を見限った人じゃなくて、法に見捨てられた人なんです。言うなれば、社会的ぼっち!」
「ぼっちはやめろ、ぼっちは!」
NNは慌てて表現の訂正を求めた。
しかし、もう遅い。
「あらあら。ぼっちですかぁ」
ここぞとばかりに淡雪が哀れみの冷笑で追撃した。
「おやおや。ぼっちかよぉ」
陣内がそれに倣った。
「……」
そして、イサギがなにも言わず、物理的に追撃した。黒い翼を広げてNNの前を駆け抜け、『羽風(ハカゼ)』の名を持つ一太刀を浴びせる。
「いや、ぼっちじゃなくて、孤高だから! ……ぐぇ!?」
イサギに斬られたことにも気付かずに抗弁するNNであったが、いきなり苦鳴を発した。自分の影に楔を打ち込まれ、ダメージを被ったのだ。
「孤高だろうがなんだろうが――」
『打楔(ウチクサビ)』を放った鋳楔・黎鷲(天胤を継ぐ者・e44215)が冷然たる眼差しをNNに突き刺した。
「――今のおまえは、駄々をこねてる子供と同じだ」
「なんだとぉ?」
「人が決めた法から外れることと、無法とは似て非なるものなんだよ。法から外れた者たちの間にも、彼らなりの法というものが確かに存在するのだからな。だが、おまえの中にはそれがない」
「やかましい!」
NNは再びバイクを疾走させた。
走り出すと同時に影を刺し貫いていた楔が勢いよく抜けて、宙で弧を描く。それが地に落ちた時、周囲は白煙めいたものに包まれていた。バイクの排気ガスではない。ブルローネが『自己流忍法・霧隠れの術』を用いたのだ。
その白煙を吹き飛ばすようにしてNNのバイクが突き進む。進行方向にいる標的は黎鷲。
だが、行く手にユウマが立ちはだかり――、
「そうはさせないです、ダゼ!」
――己が身を盾にして黎鷲を守りつつ、横蹴りのフォーチュンスターで反撃した。
「黎鷲くんが言ってたようにアウトローにもルールがあるのにゃ!」
蹴りを受けてスピードが落ちたバイクに向かって、雨音が気咬弾を撃ち込んだ。
「アウトローのルール、その二! バイクで走っていいのは深夜だけにゃ!」
「その二って……いくつあるんだよ、アライグマ女!?」
「その三十までにゃ! 守れない奴はアウトロー失格にゃ!」
と、NNに答えた後で雨音は気付いた。
相手が禁句を口にしたことを。
「くぉらぁーっ! 誰がアライグマにゃ!? 雨音はレッサーパンダにゃあー!」
ただでさえボリュームのある雨音の尻尾が更に膨らんだ。怒りに毛が逆立っているのだ。
『モフモフ凶器』とでも呼ぶべきそれを押しのけて――、
「いいか、少年」
――陣内がNNにスターゲイザーを放った。
「アウトローとは、すなわちアーティスト。常識やルールをぶち壊し、アートという挑戦状を世間に叩きつける者のことだ。そうだよな、ヴァオ?」
「そうかなぁ?」
首を捻りながらも『紅瞳覚醒』の演奏を始めるアーティストのヴァオ。
その横ではあかりが再びメタリックバーストを発動させ、後衛陣の命中率を上昇させている。年上の恋人たる陣内に一瞥もくれることなく。
彼女の冷たい反応にもめげず、陣内は熱弁をふるい続けた。
「アートにもルールがあるとか抜かす輩もいるが、そんな妄言は信用するな。美術史の教養もデッサンの繰り返しもクソくらえだ。キャンバスの枠ってのは叩き折るためにあるのさ」
●困憊ヘロヘロだぜ!
「おまえら、いろいろとおかしいぞ!」
NNの怒声は悲鳴に似ていた。カオスなアウトロー像を次々と提示され、パニックの一歩手前まで来ているらしい。
「おかしいと思うなら、あなたも改心してアウトローから足を洗うべきじゃないかしら」
成人女子高生スタイルの淡雪がNNの精神を更に揺さぶり始めた。
「え? 足の洗い方が判らない? そんなの簡単ですわ。良い子たる私の真似をすればいいんです」
「はぁ?」
「たとえばね。わたし、良さげな異性を見つけたら、そのかたの家族構成や趣味嗜好や恋人の有無を前もって調べますの。結果、恋人がいることが判っても諦めたりしませんわ。ラブフェロモンだの催眠魔眼だのでハートを鷲掴みにしちゃいますから。うふふふ……」
「そこ、笑うところか?」
NNは困惑していたが、淡雪は自分のペースで『良い子』の所業を語り続けていく。
その背後ではアップルがユウマにヒールとキュアを施していた。淡雪の話の再現映像(ユルい絵柄のアニメ)を液晶に映し出して。
「でも、良い子とはいえ、お茶目な失敗談もありますわ。巫術の勉強をしてたら、目の前に通りかかった鳥さんめがけて思わず熾炎業炎砲を撃っちゃったりとか……だって、あまりにもお腹が空いていたから、その鳥さんがフライドチキンに見えたんですもの。鳥さんが炎を躱してしまったものだから、校舎があやうく全焼しそうになりましたけどね」
「コケコケェー!?」
鶏型(と呼ぶにはあまりにも太りすぎているが)のファミリアロッドの『彩雪』が淡雪の手から飛び立った。NNにファミリアシュートを食らわせるためである。決して、フラインドチキンの話に恐れをなして逃げ出したわけではない。そう、決して……。
一方、NNは恐れをなしていた。ファミリアシュートを受けたことに気付かないほどに。
「この女、アウトローってレベルじゃねえぞ! ローよりもっと大事なものからアウトしちゃってるぅーっ!」
「そうやってビクついていられるのも今だけだよ」
と、イサギが言った。
「アウトローとして生きていくなら、君はもっと酷いことを平気でおこなうようになるだろう。行動というものは一度でも歯止めを失うと、際限なくエスカレートするものだからねえ」
「……」
「そして、気がついたら、もう引き返せなくなっている。その時に後悔しても、なにもなかったことにはできないんだよ。そうなることが判った上でまだ――」
『ゆくし丸』が一閃し、NNの腱を月光斬で絶つ。
「――道を踏み外す覚悟があると言い切れるのかな?」
「い、い、言い切れるさ!」
震え声で叫ぶNN。顔が苦悶に歪んでいるが、その原因は月光斬による痛みだけではないだろう。
「本当に覚悟があるの?」
と、あかりが問いかけた。
「道から外れた生き方をするために必要なものを取捨選択できる? 犠牲を厭わずに?」
「できるっつってんだろ! いくらでもシュシャセンタクしてやらあ!」
「じゃあ、想像してみて。お母さんとか、お父さんとか、友達とか、好きな人とか……あなたが道を踏み外した時に悲しむ人たちの顔を」
「そ、それがどうした?」
「あなたが取捨選択の際に捨てるのはそういう人たちの想いなんだよ」
「うっ……」
言葉に詰まるNN。
その隙を突くように黎鷲が美貌の呪いで動きを封じ、ブルローネが獣撃拳を打ち込んだ。
いや、ブルローネは獣撃拳だけでなく――、
「本当のかっこよさっていうのはアウトローでなくても体現できますよね? ルールを無視してる人よりも、ルールの中で自分を通してる人のほうがかっこよくありませんか? そもそも、人に迷惑をかけるのはかっこよくないですよね? それとも、本当にかっこいいと思ってるんですか? ねえ、思ってるんですかー?」
――矢継ぎ早に問いを繰り出して、相手の心を抉り抜いた。
瞳をきらきらと輝かせながら。
●惨敗ボロボロだぜ!
その後もケルベロスの説得と奇行は続き、NNはみるみるうちに弱体化した。
「なあ、俺のアトリエに寄ってかないか。クロッキーのモデルになってくれよ」
ダメ押しとして『アウトロー気取りのダメ男』を演じて敵を幻滅させるべく、陣内が煙草をくゆらせながら、雨音をくどき始めた。頭上ではウイングキャットがさも迷惑そうにフレーメン反応を示し、翼をはためかせて紫煙を追いやっている。
それを演技と知りつつ――、
「尻尾に煙草の臭いがついたらどうするにゃー!」
――雨音もまた怒りの演技で応じた。尻尾による往復ビンタ。演技といっても、手加減はしていない。
そこに比嘉・アガサも加わった。凶器は、二十センチはあろうかというヒール。
「どんなにワルぶっても……こうして!」
「ぶほっ!?」
「こうなって!」
「ぐげっ!?」
「惨めな姿をさらす羽目になったり――」
NNに語りかけながら、『こうして』で陣内を蹴り倒し、『こうなって』で踏みつけ、ヴァオと淡雪を指し示す。
「――あのドラゴニアンみたいに妻子に捨てられたり、あのサキュバスみたいにいろいろと取り返しのつかないことになったりするんだよ。まだ未来のあるうちにやめておいたほうが身のためだと思うけどね」
「身のためですわー!」
「……」
淡雪がやけくそ気味に叫び、ヴァオが言葉もなく頽れる。
「ヴァオさんが息をしてませーん!」
ユウマがヴァオに駆け寄り、悲痛な声をあげた。
青ざめた顔を引き攣らせて、そんなコントじみた恐ろしくも悲しい光景を見るNN。
「やはり、イサギが言うところの『道を踏み外す覚悟』というやつが貴様にはないようだな」
黎鷲が喰霊刀『零式』をゆっくりと構えた。その刀身は半ばから折れ、おまけに錆びついているが、武器として充分に通用することは今までの戦いで証明済みだ。
「そんな生半可な気持ちでは何者にもなれないままだぞ」
「本当は何者にもなりたくないのかもね」
あかりが殺神ウイルスをNNに投擲した。あいかわらず、陣内には目も向けていない。彼に対して不機嫌な様子を見せると、逆に『アウトロー気取りのダメな男』を肯定してしまうことになるかもしれない――そんな懸念を抱き、心を鬼にして全力で無視しているのだ。
「とはいえ、おまえが自分なりに『何者か』に変わろうとした気持ちは認めてやらんこともない。やり方は間違えたがな」
黎鷲がNNに斬りかかった。
しかし、彼が語りかけている『おまえ』とはNNではない。
視界の隅で倒れている法彦だ。
「いずれ、おまえも進むべき道を知るだろう。だが、また間違えそうになった時は――」
『零式』の錆びた刃が美しい弧を描き、NNの首を刎ねた。
「――俺たちが止めてやる」
「大丈夫ですか、仁礼君?」
意識を取り戻した法彦にユウマが声をかけた。バッテンマスクに長ランという姿のままで。
暫しの間、命の恩人の一人である彼を法彦は呆然と見つめていた。
そして、ぽつりと呟いた。
「……ダサい」
「うっ!?」
左胸を押さえて頽れるユウマ。
そこにヴァオが駆け寄り、悲痛な声をあげた。
「ユウマが息をしてなぁーい!」
そんな悲劇(?)が繰り広げられている横では、ブルローネが戦闘で乱れた尻尾をブラッシングしていた。
「それにしても、陣内さんのダメ男振りはなかなか堂に入ったものでしたねー」
「うん」
ブルローネの言葉にイサギが頷き、横目で陣内を見た。
「確かにあれは嫌なリアティーがあった。でも、私は知ってるよ。玉さんが本当は良い人だってことを」
「おまえみたいな堕天使に良い人扱いされてもなぁ」
気恥ずかしげに苦笑して、友から目を逸らす陣内。
今度はあかりも無視することなく、笑顔を見せた。
作者:土師三良 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年9月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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