コンフェッティの娘

作者:深水つぐら

●金平糖
 光の様をなんと喩えよう。
 帯というにはあまりに無慈悲な切断を見せた力は、細く美しい指先から放たれていた。その一糸は走る娘――オペレッタ・アルマ(ワルツ・e01617)の足元を削り華奢な四肢を切り離さんと執拗に後を追い続けた。
 頬に触れる風が冷たい。晩秋を超え冬を迎えたあさぼらけの中でオペレッタは体勢を整えると背後に迫る者を振り返った。
『Doll、Dud、Dead loss……されど、マスターはめいじられました』
 失敗作、出来損ない――そんな誹りを謳いながら朝霧に紛れて姿を現した『それ』はオペレッタによく似た少女の姿をしていた。月色の髪に硬質的な肌、節くれた関節――されどその顔には幾筋かの亀裂が走っている。一際目立つのは胸に突き刺さった虹色の結晶で、その様にオペレッタの口元が戦慄いた。
「なんの、ご用、でしょう。アナタは」
『Doll、Doll、めいじられました。グラビティ・チェインをあつめます』
 その言葉の後に『それ』は掌を突き出す。次いでその中央から出現したのはエネルギーを湛えた銃口――瞬間、オペレッタは身構える。
「アナタは、なんなの、ですか」
『Doll、はい、マスター』
 歌う言葉はさながら壊れたレコードの様に。尚も繰り返す漣の声はかつて見た夢の残骸だろうか。耳障りな言葉の雨がオペレッタの耳を打ち、その度に彼女の胸に生まれた想い出という甘い心地を乱していく。
「アナタ、は、なに、ですか――いえ、『これ』は、だれ、ですか」
 ほろりと零す言葉は砂糖菓子の脆さを持ち、月の娘は唇を揺らした。
 かのモノの名はマリオネッタ・シリーズD。その名を知らぬオペレッタは目の前の人形が見せた光に眉根を寄せる。
 『これ』とアナタはいったい何が違うのですか――。
 瞬間、彼女の眉間に輝きが飛んだ。

●コンフェッティの娘
 砂糖菓子に似た夢の様だった。
 光景をそう評した ギュスターヴ・ドイズ(黒願のヘリオライダー・en0112) は小さく首を振ると、それが現実になるかもしれない予知であると告げた。
 彼の声色を硬くさせた理由は見えた予知がオペレッタ・アルマというケルベロスの襲撃というものだからだ。予知した直後に彼女を探したが、行き違いであったらしく連絡はとれず仕舞いだという。ならば、ギュスターヴにできる事はひとつだった。
「すまない。彼女を――オペレッタを助けて欲しい」
 何もできない自分を歯がゆく思う。そう続けたギュスターヴは彼女が無事なうちに駆けつけて欲しいのだと続けた。
 オペレッタが襲撃に遭う場所は都内の雑居ビルが立ち並ぶ裏路地だ。そこは朝終いの店が出入り口を閉じた後の頃合いで、幸いにも周囲に人の気配はないという。
 オペレッタはたまたまこの場所へ情報収集に足を向け『それ』――彼女に酷似したダモクレスと遭遇したのだ。
「君らが到着する時はオペレッタが第一撃を受けた直後だ。第二撃を打たせる前に介入してくれ」
 つまりそれはオペレッタがダモクレスと言葉を交わしている最中という事だ。それは僅かな時間ではあるが、オペレッタとダモクレスの間に何かの因縁があるのだと知るには十分な光景であったという。
「深くはわからんがその縁の糸が彼女の身を縛るのならば解かねばなるまい」
 言葉の後でギュスターヴは手帳を捲ると、敵の攻撃で注意するのは光の帯によるもので、当たればしびれを伴い行動を制限される可能性があると告げた。また、このダモクレスは高い回避能力があるという。
「踊る様に跳躍する姿は美しい。だが、その者が持つ禍々しさが我々とは相容れぬものだとも教えてくる……己の命を省みないのだよ、その人形は」
 それはデウスエクス故――死ぬ事がないからこそ命の尊さを忘れていく。オペレッタによく似た人形は、砂糖菓子の甘さを、涙の意味を、明日の希望を知らないのだ。
 故に、黒龍は願う。
「君らは希望だ。踊り疲れる前に彼女の手を引いてくれ」
 その小さな手を繋ぎとめて欲しい。
 淡い茶の瞳を伏せると、黒龍は静かに手帳を閉じた。


参加者
イェロ・カナン(赫・e00116)
ギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)
月織・宿利(フラグメント・e01366)
エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)
オペレッタ・アルマ(ワルツ・e01617)
フェリチタ・リベルタ(螺子巻き歌人形・e02367)
瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)
ティノ・ベネデッタ(ビコロール・e11985)

■リプレイ

●マ・メール・ロワ/パヴァーヌ
 朝朗けの中で身を翻す。第一撃は何とか躱せたが次も同じ様に上手くいくか。
 算段を付けながら振り返ったオペレッタ・アルマ(ワルツ・e01617)は現れた襲撃者に身を凍らせた。戦慄く唇のままに出た言葉は彼女の身を焦がしていく。
「アナタ、は、なに、ですか――いえ、『これ』は、だれ、ですか」
 『これ』とアナタはいったい何が違うのですか――。
 頬に燃える熱が酷く痛い。
 瞬間、影が飛んだ。
 煌く色彩。水晶の様な輝きがオペレッタの視界に踊り、それが人の足だと気が付いた時には眼前の襲撃者の身が仰け反っていた。
「キックス! 思い通りにはさせない!」
 不協和音は不要とばかりに蹴撃を浴びせたエステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)が高らかに叫ぶ。その衝撃は確実に襲撃者を仰け反らせ、更に影が迫った。
 それは流星の堕ちる如く。
 音も無く近づいた瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)の蹴撃が相手の脳天を捕らえると、灰はニヤリと不敵な笑みを零す。
「オペレッタのそっくりさんでも遠慮はしないぜ」
 そう、目の前で守れずに人形に壊されるなんて二度とゴメンだから。
 次いで自身のボクスドラゴン白縹と飛び出したイェロ・カナン(赫・e00116)は仲間と襲撃者の間合いが広い事に安堵する。
「ご無事でありマスか? お怪我ありマシタら、ワタシ治すマスよ!」
 聞き慣れた声と共に僅かな陽の光を纏うフェリチタ・リベルタ(螺子巻き歌人形・e02367)の顔が見えた。凛々しい表情のフェリチタの隣では彼女を守る様に相棒のボクスドラゴン・カンビオが優雅に翼の鈴を鳴らしている。
 そんな彼らの前に立つダモクレスと思しき者に、月織・宿利(フラグメント・e01366)静かな視線を向けた。
(「オペレッタちゃんによく似ている……けれど、確実に違う」)
 月色の髪に硬質的な肌。似ているけれど確かに違う。その容姿からオペレッタと関りがある事はわかるが、宿利は自分の大切なものを護る為に全力を尽くすまでと心を決めていた。
 目の前にいるのはまぎれもなく、敵。それは彼女の相棒であるオルトロスの成親もわかっているのだろう。威嚇の様に身を低くする様に宿利もまた気を引き締める。
 対峙する者を見止めた以上、ダモクレスが動いたのはすぐの事だった。
 己が得物に力を籠めてケルベロス達が戦場を躍る。その相手は自分によく似た者である事がオペレッタの瞳を揺らしていた。
 ――鏡写しの『これ』がみなさまを害していく。
 その暴挙を砕こうと思う程に息が浅くなっていく。胸を、顔を、手足を縛る何か。それから逃れたいと、ただその全てに耳を塞いでしまえたらと思考が廻った。
 瓜二つの、相反す、相似の、真逆の。
 ――それはすべて、すべて、さだめられておりましたか? 身に憶えはなくとも、既に罪を犯しているかもしれない――。
「覚えが、なくとも……?」
 仄かに色づく唇に自身の指が触れる。その感覚は作り物の人形そのものだ。だったら自分は。
「オペレッタ。僕たちが、来たぞ」
 その言葉は眼前から聞こえた。怪しく蠢く幻影を守りと放ったティノ・ベネデッタ(ビコロール・e11985)はただ、彼女を呼んだ。
「ティ、ノ……」
 僅かに動いた唇の戦慄き。直後に閃光がティノの腕を掠め赤い泡沫が僅かに飛ぶ。
 その美しくも残酷な鮮血にオペレッタの目が見開いたが、その瞳の揺らぎをしかと受け止めるのは未熟でも誇り高き竜騎士の翡翠眼だった。
 辺りを見回した彼女の目に再び見慣れた得物が見えた。見た者を圧倒する無骨な金砕棒――されどその表面に刻まれた聖句の柔らかく温かな意味を知っている。彫り深い顔に宿る灰の相貌を対峙するダモクレスへ向け、振り向かぬままにギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)は口を開いた。
「ご自分を誰かと誰何なさりましたな。それは――」
 続きを発する前に光が飛び、その熱光は庇う様に伸びたギヨチネの腕を焼いた。

●マ・メール・ロワ/レドロネット
 光芒の後に紅が散る。
 その泡沫は緩慢さえ覚える弧を映して息を飲ませた。鮮血の主は顔色を変えず己が得物を振り回すと砲撃形態へ変えた。その砲口から撃音が吼え、思わず身を庇った直後に目の前へ煌めきと共に蒸気が沸き起こる。
「ご無事でありマスか!」
 気遣うフェリチタの声の後にティノがギヨチネの背に、妖しく蠢く幻影の守りを纏わせる。同時にイェロの白縹が硝子の力を帯びた癒しを施せば、ギヨチネの傷をすっかり癒していった。
 その間に事態は目まぐるしく動いていく。
 己が白き獣の主従を従えて宿利が戦場を走りダモクレスへと肉薄する。先に振るわれたのは獣の刃、更に網状の霊力を帯びた腕が触れようとした瞬間、ふわりと相手の体が消えた。
 驚く暇も有らばこそ。
 踊る様に体を捻った相手は鮮やかな側転を見せると改めて猟犬へと向き直る。相手の身軽さを封じようとしたがこれは骨が折れそうだ。攻撃が旨く当たらぬ様相にケルベロス達が困惑する中で動いたのはダモクレスだった。
 それはまるで、ひとつの振り付けであった。緩やか伸びる腕の先には細く美しい――あるいは醜い黒々とした――指から解き放たれたのは無慈悲な輝きだった。
 光が伸びるのは最前列を守るエステルだ。ど、と鈍い音が響き少女の肩を貫いた光は焼ける痛みを伴ってエステルの体に痺れを渡らせていく。
 悲鳴は声にならない。
 得体の知れぬ攻撃の委細を見極めんと撃を良しとして受けたエステルだったが予想以上の激痛に顔が歪んだ。だが、それを得てもなお、紅い太陽のガーネットは闘志を鈍らせる事はない。
「これは……お返しです!」
 体に渡る痺れは身を捕縛する様に痛むが今この一撃の足枷とは成らない。地を蹴ったエステルは螺旋の力を練り上げた己が手を低い姿勢から素早く打ち上げる。
 それは登る弦月の如く。
 『弦月のためのアダージョ』と名を持つ御業にダモクレスが吹き飛んだ瞬間、エステルに向かって夜朱やカンビオらサーヴァント達が癒しと浄化の力を解き放った。その風は灰に掴み取るべき瞬間を告げる。素早く前へ出た灰はイェロと視線を交わすと互いの意を得たと知って己が得物と共に踊り出た。
 先に仕掛けたのはよどみを言の葉にするイェロだった。その手にした得物を振るい大鷲を生むとその身に輝きを纏わせる。
「良いトコ見せて、期待してる」
 嫋やかに告げたイェロの期待に応える様に大鷲が飛来し、その後を追って灰が駆けた。瞬く間に間合いを詰めた獣達はダモクレスの身に鮮やかな打撃と斬撃を与える。
「よっしゃ、オペレッタ! 俺はお膳立てをしてやる、あいつにしてやりたいこと、言いたいこと、全部好きなようにやってこい!」
 そんな灰の咆哮にオペレッタははっとするとようやく立ち上がって前を向いた。周囲の仲間達へ視線を向ければ聊か負傷している者が目立っている。それは僅かな不協和音が猟犬達の作戦に響いていたからだった。
 猟犬達は従者の枷を持つ者を中心に立場を補う位置取りをしていた。だが、回復役への負担が大きすぎる場合、フォローに回る事で攻撃の機会自体が減り負傷が増える。今回の作戦を活かすには他の力に共鳴する支えなどがあればまた違ったかもしれない。
 ――少し時間がかかりそうだ。
「それもようございましょう。受けて立ちまする」
 戦の旗色を読んだたギヨチネはそう呟くと頬に流れる血糊を慈しむ様に拭った。

●マ・メール・ロワ/対話
 空の色は紅を帯びていた。
 新たな一日を祝福する輝きは巨棒を掴む男の腕を染め、浮かび上がった咎人の刺青が赤赤と燃やしている。その輝きが死刑台に彩りを添える華なのだと識るとダモクレスは己が目を数度瞬いた。
 その虹彩に黒々と映るのは幻想だ。それが死の記憶であり未来の形。
「夕映え輝く空に、燦たる不浄の断末魔を識る」
 呟きと共にどう、とダモクレスが膝を付くと、その体が身震いし不意に音を立ててその肌が割れた。まるで果実を簡単に割る様に開いていく肌は綺麗な円の砲塔を出現させる。
 これはBagatelle(バガテル)――手すさびの様なもの。
「だめだ、離れろ!」
 事態を察した灰が吼えた直後に複数の破裂音がした。
 賑やかな、騒がしい、強かな、音。圧倒する火力を持った誘導弾の雨に最前線を守る者達が巻き込まれていく。そのひとつを腹に食らったイェロは込み上げた血の味に整った眉根を寄せた。
 視界が歪み、音が消えた。何が起こったのか理解しながらイェロは視線を走らせて、戦場に揺蕩う自身のボクスドラゴンを見た。
 白縹、その姿は色彩を纏う様に美しい。
「頼む、ぞ……」
 ああ、お前がいるなら大丈夫か――。
 崩れたのは彼だけではなかった。白銀の体毛に咲いた血華に宿利は息を飲みすぐに唇を結んだ。心を折って膝を付いては成親に顔向けができないから。
「これは、キッツいですね……」
 呟いたエステルは頭を振ると眼前のダモクレスを睨み付けていた。もはや前衛が砕けるのもそう時間はかかるまい。
 戦況の不利を悟った猟犬達が再び地を蹴る中で、フェリチタは黄金に輝く果実を生み出すとその背達へと解き放った。額に滲む汗は彼女がひたすらに戦っている証だ。
(「弱いワタシの助力、不要かもしれマセン……けど、助けに来たかったのデス」)
 自身の力不足を嘆いてはいたが、だからこそ彼女の心の強さゆえに補える。誰かを助けたいという気持ちが間違っている訳は無い。想いは何よりも強いものだから。
 再び肉薄した灰は手にした刃を影の如き斬撃と変えダモクレスの体を引き裂いていく。その顔は確かに似ている――だが。
(「お前には、命を理解できる心があるんだから」)
 そう口にする前に動きを見せたのは目の前の人形だった。切り裂きを受けた直後に飛び退ると告げたのだ。
『何故マスターの命令を拒否するのですか、Doll』
 その言葉に違和感を覚えず、オペレッタは目を見開いた。
 ああ、なんて、愚かだったのでしょう。アナタと『これ』は――。
『『我々』はマスターの命令を受諾しました』
 その人形は月色の人形を『我々』と呼んだ。オペレッタの唇が戦慄き僅かに開いた唇から言葉が漏れた。
「Doll、Dud、Deadloss……されど、マスターは――」
「……全然、違うマス。貴女は、暖かいを、知らないのでショウ!」
 ――それでは決して敵わない。叫んだフェリチタは彼女と共に過ごした時間がその証拠だと咆哮する。
「そうだ。その心の『存在』をお前が望むなら、僕たちは、いつでも示す」
「私たちは……私は、大切な友達だと、思っているから。これからも、一緒に過ごしましょう」
 ティノの言葉を継いで宿利もまたオペレッタへと声を掛ける。その隣ではギヨチネが真っ直ぐな視線を向けていた。
「例えご本人がご存知でおられぬとも、私共は存じておりますとも。オペレッタは美しい心をお持ちであることを。故に他のどなたとも異なり、オペレッタはオペレッタたり得るのでございまする」
 その眼差しをかつて受けた様な気がした。
 ――ああ、そうだ。ワタシの命令を伝えよう。可愛いお人形。
 そうしてもたらされた甘言。されどそれを飲み込み続けるにはあまりに悲劇として紡がれすぎた演目だ。そう思えたのは今は彼女が知っているから。
 朝露のきらめきを、ともに囲む食事を、前に立つ背のたのもしさを、いつか教わった旋律を。
 砂糖菓子のように甘く儚い煌き。それがエラーだと何かが叫び不要なココロであるというのならば、この想いの名は愛しみ(いとしみ)であろう。機械では到底持つ事の出来ぬはずの想いをオペレッタは持っている。
 故に。
「いいえ、マスター。それが、ただしい『命令』なら、『これ』は『実行』出来ません。みなさまとここに、いたい、です」
『マスターへの離反意思を確認。完全破壊命令を実行します』
 訣別の言葉は実に簡潔で熱の無い物だった。

●マ・メール・ロワ/妖精の園
 その時に見た役者の仕草をイェロは演目の終わりに舞うプリマの様な柔らかな仕草だと思った。
「きみが、望む……終幕を……」
 唇から漏れた言葉が戦場を舞う者に届いたかはわからない。
 敵と真っ向から戦って。
「『これ』はしっています」
 言葉の後で瞳に光が爆ぜた。色彩の踊る硝子の瞳は確かな意志の力を宿らせている。色を成すオペレッタの顔には溢れる感情の色彩が生まれていた。その色にギヨチネは微笑む。
「自由に舞うが宜しかろう。どうぞ、踊りを――」
 そう告げて己が得物で閉幕への号砲を挙げる。砲弾の衝撃と共に火花が散りダモクレスは悲鳴を上げた。
 けれどもケルベロスは怯まない。
「縫い止めろ、世界を航る黒の舟」
 ティノの言葉を導きに叛逆の時界が振動を呼ぶ。ダモクレスの体を不可解な力が苛む間に再びエステルが間合いを詰める。
「オペレッタさんのあの口調を聞くのも久しぶりでしたし。二度と聞けなくなるのは困ります。因縁の糸を絡めとってひんちぎって終わりにしましょう」
 燃える言葉の後に敵の攻撃を絡め受けると一撃を突いて飛び退る。その後で宿利の刃が三日月を描いた。
「黄泉より還りし月の一振り、我が刃が断つは其方の刻を……!」
 瞬間、光の花弁が露と散る。
「さあ、頃合いだ!」
 活路は開いた。灰が叫んだその刹那を掴み取る為にオペレッタは走る。
「アナタの『舞台』は、これで、おしまい」
 カーテン・コール。
 閉幕を惜しまぬ者はいまい。それは喝采の拍手が鳴りやまずとも、硬質なる白い手が幕が引いたならば終わりなのだと謳われる。幻想が構築したスポットライトの帯の中で、二人のプリマは互いの胸に手を当てて一筋だけの光を撃った。
『いた、い』
 ひび割れた顔が惚けた様に言った。
 呟きではないはっきりとした言葉。その後で胸を飾る水晶が泡沫の様に砕いて散る。それはまるで自分では流せぬ涙を模倣しその海に溺れた様であった。煌めきの海中でボロボロとマリオネッタ・シリーズDと呼ばれた者の体は罅割れ、オペレッタが頬を撫でた瞬間、霧散する。
 終わった。そう思った瞬間フェリチタは駆け出すとオペレッタに抱き着いてその無事を確認する。
「ワタシも、カンビオも、オペレッタ様、おともだち、デスから、お迎え来マシタ! 皆一緒、帰るまショウ!!」
 その言葉に頷くとオペレッタはその美しい顔にこれまで見せた事のない柔らかな微笑みを生んだ。安堵の声が上がる中で彼女はふと思い出す。
 ――お前の瞳は甘い金平糖の様だね。
 そうして感じた頬への愛撫に、その時の自分は涙したのかもしれない。
 漣の如く聞こえたあのパイプオルガンの音色がその温かさに似ていたから。だから、あの人の零した言葉の意味を、今は少しだけ愛おしいと思った。

作者:深水つぐら 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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