明けぬ夜を待ち

作者:幾夜緋琉

●明けぬ夜を待ち
 山間にある、とある村の傍らに立するお寺。
 村に住む人達によって掃除も行き届いており、昼から夕方になれば、村に住むご老人の方々の憩いの場としての一面も見せる。
 しかし、日付変わる頃合いの深夜ともなれば、そこを訪れる人もいない……灯はなく、何処か不気味な雰囲気さえ漂う。
 ……が、そこに。
『……グ、ゥ……アア……』
 苦悶の叫び。
 ……その叫びは悲痛に響き、闇の中に木霊する。
 そして、その叫びを冷たく、冷静に見つめる……黒衣の女。
『……』
 声はなく、ただその口の端を軽く吊り上げる。
 そして、暗闇の中から姿を現わす……竜牙兵。
 そのボロボロの身体を引き摺る様にしながら、古寺に向けて歩を進める。
 が……途中の石畳に脚を掛け、その場に崩れ墜ちる。
「……グ……アア……」
 立ち上がれない竜牙兵……そんな彼の元に、音も無く近づいてきた女、死神が、その肩口に球根の様な死神の因子を……そっと植え付ける。
 そして。
「さあ、お行きなさい。そしてグラビティ・チェインを蓄え、ケルベロスに殺されるのです」
 冷たい口調で指示を与えた死神……そしてその言葉を切っ掛けにするかの如く、ガッ、と立ち上がった竜牙兵は……そのまま、咆哮を上げて、村へと駆け下りていった。
「ケルベロスの皆さん、集まってくれたッスね! ありがとうございますッス!」
 と、元気な黒瀬・ダンテがケルベロス達へ早速挨拶すると共に。
「今回、山梨県の道志村って所に姿を現わした、竜牙兵を倒して来て欲しいッス!」
「この竜牙兵、どうやら一度死にかけた竜牙兵の様ッスけど、その死にかけた竜牙兵を利用し、死神が死神の因子を埋め込んでしまった様なんッス」
「もしも、このデウスエクスが人間を殺せば、大量のグラビティ・チェインを獲得して死んでしまうッス。そうなると、死神の強力な手駒になりかねないッス。そんな事態を防ぐためにも、皆さんにはこの竜牙兵がグラビティ・チェインを得るよりも早く撃破してきて欲しいッス!」
「急ぎ現地へと向かい、デウスエクスの撃破を頼みたいッス!」
 更にダンテが。
「死神の因子を植え付けられたこの竜牙兵は、半ば自我を失っている状態で、人を殺さなければならない、という強迫観念の下に暴れている様ッス」
「つまり、この竜牙兵は人を殺す事だけに意識が向いており、防御する事も無く、ただただ攻撃のみを行う事が予想出来るッス。攻撃こそ最大の防御、ってな事ッスかね?」
「ただ、それが死神によって復活させられたのは、別の点で問題になるッス。この竜牙兵を普通に倒すと、その死体から彼岸花の様な花が咲いてしまうッス。その花は、咲くと共に、直ぐに消えてしまう様ッスね」
「でも、この花が咲くことにより、竜牙兵の回収できたグラビティ・チェインが死神に流れ込む様ッスから、それだけは避けねばならないッス」
「このデウスエクスに対し、過剰なダメージを与えて死亡させる……そうすれば、死体は死神に回収される事も無く、ダモクレスは倒れる様ッスから、出来る限りオーバーキルで花を咲かせずに仕留めて欲しいッスよ!」
 そして、最後にダンテが。
「この様な死神の動きは不気味ッスよね。でも、暴走するデウスエクスが一般人を傷付けるのも止めねばならないッス。ケルベロスの皆さんの力、貸して欲しいッス!!」
 と、強く拳を振り上げるのであった。


参加者
村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)
蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)
ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)
ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)
キャロライン・アイスドール(スティールメイデン・e27717)
浜野・真砂(本の虫・e41105)
鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)
不動峰・くくる(零の極地・e58420)

■リプレイ

●闇影咆哮
 山梨県道志村の傍らにある、山間にひっそりと立つお寺。
 昼から夕方に掛けては、村に住むご老人の方々の一時の憩いの場となる、街の人達にとっては重要な場所。
 ……しかし、そんな場所にも姿を現わしてしまう死神と、死神の因子を受けて苦しみ呻く……竜牙兵。
「毎度の事ながら、面倒くさいことをしてくれるな、この案件の死神は……いい加減、その尻尾を掴みたい所だが……」
 と、肩を竦めて溜息一つ吐く蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)。
 それに鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)とファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)も。
「ああ。寺院の傍で命を弄ぶたぁ、いい度胸じゃねぇか。ふざけたお遊びには付き合ってらんねえぜ、目論見ごとぶっ潰さねぇとな」
「そうだね、まったく厄介な敵を作ってくれたものだね。ただ倒すだけなら簡単だけど、グラビティ・チェインを渡すわけにはいかない。こりゃ一仕事になりそうだ」
 と、そんな二人の言葉を聞きつつも、きょとんとしているのは不動峰・くくる(零の極地・e58420)。
「んー? ……死して尚利用される、というのは因果応報でござろうか?」
 と、小首を傾げたくくるに対し、口元に手を当てながら村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)が。
「そうですねぇ……確かに竜牙兵ですから、過去の罪からすれば因果応報と言うのは確かにそうかもしれませんね。本当に今回もだけれど、次から次へと死神もやるものです。でも死の彼岸花、そう簡単に咲かせたりはしませんよ」
 と微笑み、そしてルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)も。
「そうだね。難しい事は何も考えなくていい。いつも通りに戦って人々を護るだけ。いつも通りに勝って皆を守ろうか」
「そうでござるね。ま、陰でこそこそと死神の好きにさせる訳にもござらんし、さっさと冥府に送り返してやるでござる」
 そんなくくる達の会話を聞きつつ、浜野・真砂(本の虫・e41105)が。
「そうですね……これまでの参加依頼……と言っても数はそんなに多くありませんが、初めての作戦、毎度戸惑いがあります。これも良い勉強の機会ですから、しっかりと学んで行きたいと思います!」
 ぐっと拳を握りしめた真砂、そんな彼女にキャロライン・アイスドール(スティールメイデン・e27717)が。
「そういえば、今回の様な死神の因子に囚われた者は、体力を削る事に注意しなければならないのですよね?」
 小首を傾げたキャロラインに真砂がこくり、と頷き。
「ええ、今回の場合は最後に一気に体力を削る事が必要……だったと思います。別の死神の因子を受け付けられたパターンには、そういった事を考慮しなくてもいい例もある様ですが……」
「そうですか……なるほど、とにかく、すごい攻撃で一気にどっかーんとやればいいわけでございますね」
 無表情だが、言葉はどこかはっちゃけているキャロライン。
 そして。
「ならば、私が出来ることは、この歌で皆様に力を与える事でございましょうか……頑張らせて頂きます」
 との言葉に道弘が。
「ああ、宜しく頼む」
 と軽く頭を下げ……そしてケルベロス達は、お寺へと足を踏み入れていった。

●叫風涙濡
 そして、真っ暗な深夜のお寺の境内を歩く、ケルベロス。
 静けさに包まれたその空間は、一人で居ると恐怖心がふつふつとわき上がってくる。
 ……そんな境内を歩きながら、真砂は。
「すいません……確認なのですが、今回は水や炎など、バッドステータス漬けにする戦法で間違い無いでしょうか?」
 と、小首を傾げるが、それにファルケが。
「そうだね。不意に殺さない様、ダメージセーブはしないといけないけど、最後に一気に仕掛ける事に変わりは無い。オーバーキルで倒すのが重要だからね」
「分かりました。では、トドメですが、クラッシャーさんにお任せしますね。トドメの前に脳髄の賦活でサポートをしますので、一声お願いします」
 ぺこりと頭を下げた真砂、片手を上げて頷くファルケ。
 と……その時。
『……グ、ウァアアア……!!』
 怒号の様な咆哮……そして、地面もその咆哮に応じ、震える。
「っ……現れたか」
「ああ。こっちだ」
 真琴に短く頷き、指を指す道弘。
 それとともに、すぐにベルが殺界形成を周囲に展開……間違ってもご老人達が立ち入らない様に空間を作り上げる。
 そして作り上げた空間へ、大量の懐中電灯をばらまき、灯を確保すると共に……死した竜牙兵を誘引。
 ……程なく、灯を人の気配と勘違いしたのだろうか……お寺の裏手から、幾つもの壁や物を破壊し、突撃してくる竜牙兵。
 最早留まる事無く、特攻を仕掛けてきたダモクレスの一撃……すっ、と立ち塞がったくくる。
「っ……!」
 唇を噛みしめ、一閃をカバー。
 勿論、かなりのダメージではあるが、その被害を即座にベルのシャーマンズゴースト、イージーエイトさんが祈りを捧げる、で体力回復。
 更にベルも同時にサークリットチェインで前衛列に盾アップの効果を付与為、防御を固める。
 メディック二人が動き、被害を最小限に抑え込んだと同時に、スナイパーの真琴、真砂が続く。
「取りあえず……此処を動くな!」
 と真琴のスターゲイザーが、竜牙兵の脇から一閃、更に真砂が時空凍結弾を撃ち、氷効果を付与。
 そして、ジャマーの道弘が。
「これでも食らえっ!」
 とグラインドファイアで炎効果を付与する。
 中衛、後衛陣の行動が一巡し、いざ、前衛。
 先ずはくくる。
「拙者の轟天、震天の力、とくと見るがいいでござる!」
 と『左腕『震天』・凍結手裏剣』を叩きつける。
 その一方、キャロラインは。
「もっちもっちのこの幸せ、好きに食べればいーじゃん、だってそう、オモチ・イズ・フリーダム!」
 ……ちょっと気が抜けそうな『オモチ・イズ・フリーダム』の曲を奏で、前衛に壊アップ効果を付与。
 そして援護を受けたファルケとルージュのクラッシャーが。
「取りあえず、状況確認だね」
「そうだね」
 と相互に頷き合い、ルーンディバイドと憑霊弧月を連携し、叩きつけていく。
 ……その二撃に、かなりの被害を被る。
 骨は砕け、立っているだけでも……悲壮感を覚える程。
 ただ、竜牙兵は……。
『グゥゥ……!!』
 唸り声は変わらず、目前のケルベロス達を倒す事だけに向けられている。
 次の刻……竜牙兵の動きは変わる事なく、ただただ目前のケルベロス……いや、人を倒す事のみを目的として、ゾディアックソードを振りかざし続ける。
 ……しかしその攻撃は、くくるがその身を翻し、縦横無尽に駆け回ることで他者への被害を回さない。
 勿論、食らうダメージは多量だが、イージーエイトとベルの二人が回復に傾注する事で、他の仲間達の手数を減らさない様にする。
 一方スナイパーの真琴はブレイブマインから放つ虹の霧を前衛陣に纏わせ強化、真砂は熾炎業炎砲による炎によって焼き尽くす。
 そして道弘が、怒號雷撃によるパラライズ効果を付与。
 中衛、後衛でバッドステータスを大量に付加し、そしてくくる、ファルケ、ルージュの三人は、敵の状況を注視しながら……ぎりぎりまで削る。
「じれったいけど、待つのも仕事の内だからね」
「うん。まぁ、油断は出来ないね」
 と軽い会話を交わしつつ、削り続ける。
 そして……三刻を超え、四刻目。
『ウウ……グ……』
 と、苦悶に喘ぐ竜牙兵。
 その足取りも、最初に比べて引き摺る様な感じを見せる。
 そして……そんな竜牙兵の状況にくくるが。
「随分と弱ってきているでござる! とどめ、任せるでござるよ!」
 と、くくるが叫び、応じて真砂が。
「分かりました。トドメはどちらが?」
 と問うと、手を上げるファルケ。
「分かりました……宜しくお願いします」
 と脳髄の賦活を付与、同時に真琴も前衛に向けてブレイブマイン。
「頼むぞ! お前達二撃で完全に仕留めるんだ!」
 とスナイパー陣はファルケ、ルージュに発破を掛ける。
 そして……ファルケが。
「最後にこの技を目に焼き付けてもらおう」
 と『地獄犬の咆哮』の三連射。
 その一射が、竜牙兵を蹂躙する様に撃ち抜いていくと……更にルージュが。
「垣間見るは朽ちた未来。ならば、僕はそれに紅引き否定しよう。この手が誰もが望む未来に届くまで!」
 と、渾身の『朽紅の叛逆』を放ち……その連続攻撃の前に、竜牙兵は死の咆哮を上げることも出来ず、その場に崩れ墜ちたのである。

●闇失茫果
 そして、どうにか竜牙兵の花を咲かせる事も無く、討ち倒したケルベロス達。
「ふぅ……どうにか終わりましたね」
 と汗を拭うベル。
 そしてルージュも。
「うん、皆お疲れ様……真砂、サポートしてくれてありがとう。助かったよ」
 にこりと笑みを浮かべながら、手を差し出すルージュ……真砂はえっ、とちょっと戸惑いの表情を浮かべながらも。
「あ、いえ……ルージュさんも、ありがとうございます。最後の一撃、とても素晴らしかったと思います」
 ペコリ、と頭を下げる真砂。
 ……と、そんな二人の言葉の横で、どこからとも無く取り出した煙管で紫煙をくゆらせながら、くくるが。
「無事に終わった事でござるし……帰って一杯やるでござるかな?」
 と、敵のこと等既に眼中に無いかの如く、呟くくくる。
 そんなくくるに苦笑しつつも、残るケルベロス達は……荒れてしまったお寺の内装、外装などを、ヒールグラビティを使って修復開始。
 ……ただ、ヒールグラビティを使っての回復は、完全に元の姿を取り戻すという事は出来ない訳で。
 一通り、少しファンシーに回復した後で。
「うーん。この時間じゃ事情を説明しようにもなぁ。まぁ、せめて一礼だけでもしとくか」
 と、道弘がお寺の前で、作法に従いお参りする。
 その作法を見た真砂が、何処か眼を輝かせて。
「それが、正しい作法なのですか……勉強になります……!」
「ああ。こうやるんだ」
 と、しっかりと見せて、教える道弘。
 そして……お参りも一通り終わり、帰路へとつくケルベロス。
「……それにしても、ケルベロスに殺されるだけが目的とは……死神とはいかに無慈悲なのでしょうか……」
 と、空を見上げながら独り言を紡ぐキャロライン。
 ……勿論、その裏にある目的はまだ分かっていないという所はあるが……少なくとも、今回の様にケルベロスに殺され、花を咲かせて、自分達の糧にしようとしている……というのは間違いない話し。
 そしてケルベロス達が出来る事は、その一つ一つを確実に対処していく、という事……。
「……いつか必ず、決着をつけないとな……」
 と静かに拳を握りしめる真琴の呟きに、ファルケも。
「そうだね。尻尾を出すまで、仕留め続けていこう」
 と頷き合うのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。