大阪城調査~深緑の魔城で待つモノは

作者:河流まお


 会議室の壇上にあがったセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)がゆっくりと語り出す。
「白の純潔との決戦お疲れさまでした。
 皆さんの活躍により、白の純潔との決戦に勝利し、この大阪で発生していた事件の一つを解決する事ができました」
 透き通るような金髪を揺らして一礼するセリカ。
「また、この作戦と並行して、大阪城周辺の情報収集も行われました。
 現在の大阪城内部の地図を見つけ出そうとしたケルベロスの方も多かったのですが、残念ながら発見はできませんでした。
 もし仮に地図があったとしても、誰が何のために地図を作成し、大阪城の外に配置したのかを考えれば、それは罠の可能性が高かったかもしれません」
 セリカの報告にがっくりと肩を落としそうになるケルベロス達。
 だが――。
「しかしながら、全く収穫が無かったという事はありません。
 ノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320)さんの探索により、大阪城に続くと思われる通路が発見されたのです」
 思わぬ報告に会議室がざわめく。
「緩衝地帯にある『三光神社』。その場所に古い伝承で『真田の抜け穴』と呼ばれている地下通路があるのですが……。
 どうやら、そこが大阪城内部への通路となっているようです」
 モニターに古びた神社と、六文銭が刻印された鉄扉が表示されてゆく。
「この通路から大阪城内部の探索して重要な発見をしたり、地図の作成などができれば、今後の戦いに大きな影響を与える事が出来るかもしれません」

●六文銭の道
 ケルベロス達の覚悟を問うように一拍置いて、セリカは説明を再開してゆく。
「真田の抜け穴の通路は狭く、また、攻性植物に気づかれずに潜入する為には、少人数で探索を行う必要があります。
 少人数での探索である為、敵に発見されれば撤退を余儀なくされるでしょう。
 つまり、敵に発見されて撤退するまでの間、どれだけ多くの情報を得る事ができるかが重要になります」
 だが、引き際を誤ってもいけないだろう。
 もしこのような場所で行方不明になれば、恐らく救助は不可能である。
 つまり『仲間を逃がす為に暴走して敵を足止めする』といった行動は、己の命を代償として行うことになるだろう。
「また、新たな情報を得る事ができた場合も『ケルベロスが、その情報を得た事を、敵が把握できているか否か』も、重要となるでしょう。
 もし重要な情報を得たとしても、その事実を敵に知られてしまった場合、すぐに対策を取られてしまえば、効果は半減してしまうからです。
 探索によって情報を得るだけでは無く、相手にそれを悟らせないような工夫があれば、大きな成果を得られるかもしれません」
 口元に手を寄せ、ケルベロス達と共に何かいい手は無いだろうかと考えてゆくセリカ。
「大阪城地下にはユグドラシルのゲートがある事が判明していますが、地上部分、攻性植物に覆われた大阪城内部の情報は全くの不明です。
 その為、実際に現地で得た情報を元に、探索行動を行なう必要があるでしょう。
 まずは、皆さんで探索の初期方針の話し合いを行ってください。
 その探索方針に従って探索を開始。その後は、現地で得られた情報を元に、作戦を考えていく事になるでしょう」

 ミーティングを終え、セリカは改めてケルベロス達一人一人の瞳を真っ直ぐに見つめてゆく。
「攻性植物に支配された大阪城への侵入。それがどれほど危険なことであるかは容易に想像がつきます。
 ですが今回の探索は、攻性植物に対して守勢にまわっているこの現状を打破する、起死回生の一手になる可能性も秘めています。
 ……私は皆さんが探索を終えて、誰一人として欠ける事無く、ここに戻ってきてくださることを、信じています」
 そう説明を結び、深く一礼するセリカにケルベロス達もまた頷きを返すのだった。●真田の抜け穴
「六文銭の鉄扉……。ここが『真田の抜け穴』ですね」
 エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)ぐっと力を込めると、鉄扉が軋んだ音を響かせて開かれてゆく。
「真田家の家紋である『六文銭』とは三途の川の渡し賃。戦場に身を置いた真田家の心意気を表したものだと言われていますが……」
 読みかけの本を閉じながらソールロッド・エギル(々・e45970)が呟く。
 これから赴く大阪城の地下迷宮。ユグドラシルのゲートの近くでは冥府の名を冠する川があると聞く。
 これから命懸けの潜入作戦に挑むケルベロス達にとって、三途の川の渡し賃とはずいぶんと洒落が効いていると言えるだろう。
「よし、じゃあ行こうか!」
 ミライ・トリカラード(夜明けを告げる色・e00193)の言葉に頷き、地下道を進み始めるケルベロス一行。
 さて、まず地下道内で感じられるのは、湿気を帯びた生ぬるい空気と、奥から漂ってくる何かが腐ったような強烈な臭いだ。
「って、あれ? 行き止まり」
 道の先が閉ざされているのを見てミライが驚く。
「いえ、これは――。これまでの様な石作りの壁ではなく『植物の壁』のようですね」
 最小限に抑えた明かりを頼りに、壁を調べてゆく巡命・癒乃(白皙の癒竜・e33829)とレスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)。
「壁の向こう側に敵の気配は感じないな――。それにしても、この臭いは……」
 それは裏社会に長く身を置いてきたレスターにとっては、どこか馴染みのある臭いだったのかもしれない。
「行こう。この先に、敵はいないはずだ」
 この壁の先に『あるもの』に目星をつけて、安全であると判断したレスター。グラビティ攻撃で慎重に壁に亀裂を入れてゆく。
「――!」
 植物の壁が繊維質の悲鳴を上げながら破けると、壁の向こう側から『腐った人間の死体』が4体ほど、なだれ落ちてくる。
「うっ、これは……」
 仲間の誰かが強烈な腐臭に表情を曇らせる。
「この場所は、ヤツらにとっての『ゴミ捨て場』ってところかな……」
 予想通り、とはいえ当たって欲しかったわけでは無い。
 努めて感情を抑えるようにしながらレスターが仲間達に告げる。
「外部から潜入できる場所ですし、この場所はきっとユグドラシル迷宮の上層の隅ね……」
 氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)も、これまで進んできた距離などを考えながら推察をたててゆく。
 激しく腐敗した死体を調べてゆくのは魔術に詳しいウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)。
「これは、大阪府民の方の遺体ですね。屍隷兵化を試みて失敗したと思われる痕跡が見受けられます」
 ほら、この部分です、と指差しつつ詳しく解説してくれるウィッカであったが、ちょっと専門的すぎるか。
「研究室とか資料庫みたいなところにつながっていれば良かったんだけどなぁ」
 死者を弔いながらシル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)。
「抜け穴の先が、敵の真っただ中だった、という状況よりは幸運だったと思いましょう。さて、まだまだここからですよ。先を急ぎましょう」
 エリオットも冥福を祈りながら死体を通路の脇に寄せてゆく。
 ここからが先がついに大阪城の内部となるわけである。

●ゴミ捨て場での発見
 壁の向こう側はレスターの予想通り、腐った死体が積まれたゴミ捨て場だった。
 数百という死体がうず高く無造作に積まれ、部屋を死臭で満たしている。
「これだけ死体があるという事は、死神が関連する何かの痕跡があるかもしれません」
 ウィッカを中心にこの死体置き場を調べてみるものの、残念ながらこの痕跡の発見までには至らなかった。
 だが、この探索中に『不自然な死体』を幾つか見つけることが出来た。
 不自然な死体は2種類。
 1つ目は『人間の体を苗床に植物を育てた後、その植物が引き抜かれた』かのような傷跡がある死体。
「攻性植物に殺されたと方々であるとは思いますが……。ですが、一般人を殺すだけにしては、痕跡が多すぎますね」
 調べながらも、被害者の遺族のために身元が判るようなものがあれば回収してゆく癒乃。
「一般人を養分として攻性植物を成長させた跡……なのかもしれないね」
 内部から攻性植物に喰われてゆく恐怖は、どれほどのものだっただろうか、と想像しながらシル。
「或いは、人間に直接寄生する攻性植物を産み出す実験でしょうか。この死体だけでは確証には至りませんが、嫌な予感がしますね」
 この場で全てを弔うだけの時間は無い。それを口惜しそうにしながらソールロッドも呟く。
 
 2つ目の不自然な死体は『体の一部が竹化した死体』である。
「竹がかぶさってる感じじゃなくて、体の一部が竹に変化しているみたいだね」
 皮膚や筋肉、骨の一部が竹に置き換わっているの死体を確認しながらミライ。
「単純に屍隷兵化の失敗の可能性もありますが、体の一部が植物に変化している以上、攻性植物の新たな戦力を産み出そうとする実験体だった可能性も考えられます」
 思案しながらウィッカも呟く。
 この場で集められそうな情報はこのぐらいだろうか。死体置き場での探索を終えたケルベロス達は更に探索を進める為に出口を探してゆく。

●振動
「あ、ここ少し柔らかいですね」
 発見したのはかぐら。
 部屋全体が植物に覆われており、一見すると出口が無いように見えたが、壁に手を触れながら調べてみると、明らかに質感の違う場所が発見することが出来た。
 どうやら通路に繋がる場所の壁が薄くなっているようで、破壊すれば外に出る事ができそうである。
「えいやっと」
 攻撃してみればあっさりと植物は取り除かれる。
「うん、とりあえず敵はいないわね」
 慎重に先を窺い、安全を確認するかぐら。
 開かれた通路を進んでゆくと、やがて何かの振動のようなものが響いているのが感じられるようになってくる。
「これより先は、先程の部屋のような『完全に見捨てられた場所』では無く、現在も使用されている場所のようですね」
 癒乃の静かな呟きに、ケルベロス達は互いの顔を見合わせる。
「つまり、ここからは敵に発見される可能性があるってわけだね」
 通路は再び薄膜の扉に突き当たる。仲間達に振り返り、準備はいいかな? と問いかけるミライ。
 安全第一で行くのならここで一度退くのも一つの手である。だがケルベロス達が選択したのは、より積極的な情報収集だった。
 もし、ここで臆して退けば、敵の大きな作戦を見逃すことになる可能性がある。
 危険に足を踏み入れることを恐れていては、大きな成果は得られないということだ。
 探索続行を決め、薄膜の壁を破るケルベロス達。

●研究棟
「なんだか雰囲気が変わってきたね」
 ひりつくような緊張感を肌に感じながら周囲を見渡すシル。
 進んだ先に現れたのは、植物に覆われた研究室の通路といった雰囲気の場所である。
「はじまりの萌芽の時に、取り込んだ建造物を利用した通路、といった所でしょうか」
 確かに、外観からは大阪城だけでなく、周囲のビルのいくつかをも飲み込んでいる姿を確認できたが――。
「恐らく中心部ほど、ユグドラシルのみで構成されているです。取り込まれた建造物が少なくなる方に進めば、中心に近づく……と予想できます」
 地図を作成しながらエリオット。
 もはや、道はこれまでのような一本道ではなく、幾重にも枝分かれした複雑なものへと変わっている。
 こうなると、あとは予想と頼りに進むべき道を決定していくしかない。
 とにかく、帰り道だけは間違えないようにと、慎重にマッピングしながら進んでいくエリオット。
「ちょっと待てください。植物に覆い隠されている研究所の廊下――? これは、何かがおかしい」
 不意に立ち止まり、これまでの進んできた距離と、大阪周辺の地図を照らし合わせてゆくエリオット。
「ん、どういうこと?」
「研究室や工場を元にした通路だと思えばありえなくはないと思っていたのですが、僕達が進んできた距離を考えれば……大阪城周辺に、この通路の元になるような大規模な研究所や工場というものは存在していないのです」
 存在しないはずの研究棟。
 先程から響き続ける機械駆動のような振動が、途端に不気味なものに感じられてくる。
「つまり……」
 渇いた唾を飲み込みながらエリオットの答えを促す仲間達。
「この廊下は、大阪城周辺の建造物を利用したのでは無く、新たに作られた可能性が高いです」
「でも、攻性植物がこんな建築物を作ったというの?」
 植物がこびり付いているとはいえ、その壁は無機質な金属そのものである。
 これは、そう攻性植物というよりは――。
「とにかく、先に進むしかないですね。答えはきっとこの先にあるはずです」
 ウィッカの言葉に頷き、探索を続けるケルベロス達。

●大扉
 振動を頼りに進んでゆくと、通路の先に巨大な扉が現れる。
「これは……」
 見上げるようなその扉は、さながら銀行の大金庫扉といった威容である。
 真鍮のように見える質感だが、近づくとほのかに熱を感じるその金属は、実際地球のものであるかどうかも定かではない。
 扉の各部には用途の不明な電子機器が取り付けられ、まるでSF映画から切り取ってきたかのような不気味な光景を作り出していた。
「予測が当たっていたようですね」
「これは、ダモクレス?」
 攻性植物の支配する大阪城の内部にダモクレスの『工場』が存在する。それが意味することは――。
「どうしようか? ここで撤退すれば、危険無く帰還できるそうだけど……」
 と、少し相談するものの、当初の方針に従い、扉の先へ入る事を決意するケルベロス達。
 扉にはダイヤルのような装置が中央にあるのが見て取れたが、暗証番号など解るはずもないので、力任せにブチ破るしかない。
「皆、タイミングを合わせよう。3、2、1――」
 レスターのカウントに合わせて、己が持つ最大威力のグラビティを一斉に叩き込むケルベロス達!
 衝撃で蝶番に当たる部分が弾け飛び、扉がズウンという地響きを立ててゆく。
 ビー! ビー! ビー!
 警報が響き渡る。ここに敵が卒倒してくるのは、もはや時間の問題だろう。
「急ごう! この部屋で最後の情報収集だ!」
 部屋の中は研究施設か科学プラント工場と言った様子だった。
 ベッドの様な台がいくつか並べられており、そこには破壊されたダモクレスが何体か横たわっていた。
 そして、破壊された箇所を補うように、代わりに埋め込まれているのは緑色の脈動する植物。
「これは……まさか破壊されたダモクレスに、攻性植物を融合させる実験室?」
 この実験を行っているダモクレスはいないようだが、警報に反応した実験体の攻性植物が、ギョロリと視線をケルベロス達に向ける。
 花に目玉を付けた付喪草といった風貌の攻性植物は部屋に数十体。
 そのうち数体が動き出し、更に数体が起動しようとしているのが見て取れた。
 中には、破壊されたダモクレスに小さな花が咲いてるだけの、全く動けない個体や、枯れ草がまとわりついているだけの死体もいるようなので、その全てが襲い掛かってくるようではないようだが――。
「! 皆さん、あれを見て下さい。敵の増援です!」
 癒乃が指し示した先を見やれば、壁の隙間から植物と機械を掛け合わせた、箱のような見た目の攻性植物・オーズボーグが次々と這い出してこようとしているではないか!
「オォオオオオ!」
 ダモクレスと融合を果した付喪草が、雄叫びをあげて襲い掛かってくる!
 それぞれの武器を構えて、これと相対するケルベロス達!
 決死の撤退戦が始まろうとしていた!


参加者
ミライ・トリカラード(夜明けを告げる色・e00193)
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)
レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)
巡命・癒乃(白皙の癒竜・e33829)

■リプレイ

●1
 破壊されたダモクレスの身体に付喪草が憑りつき、軋むような音を響かせながら動き出す。
「さてさて……大変な状況になったけど、必ずみんなで戻るわよ!」
 ガトリングガンのチャンバーに弾帯を叩き込みながら氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)。
 高速回転するバレルの先に火花が咲き、壁の隙間から這い出してくるオーズボーグに鉄弾を叩き込む。
「それにしても攻性植物がダモクレスと組んでたとはね」
 敵の関係性を考察しながら銃を構えるレスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)。
「生きて帰らなきゃ折角得た情報が無駄になる。皆で迷宮を抜けるよ」
 研ぎ澄まされたレスターの狙撃が次々とオーズボーグを撃ち抜いてゆく。
「ギギィ!」
 かぐらの掃射とレスターの狙撃を受け、オーズボーグ達が粘質の樹液を散らしながら甲高い悲鳴をあげる。
 だがしかし――。
「……牽制にはなりそうだけど、キリが無いな」
 いかんせん、数が多すぎる。
 うじゃうじゃと新手のオーズボーグが壁の隙間から這い出してくるのを確認し、レスターは肩を竦める。
「しかも、ああ見えて敵にもしっかりと知恵があるようです」
 ケルベロス達の退路を塞ぐように動く3体の付喪草を見て、ソールロッド・エギル(々・e45970)。
 その言葉に頷くのはウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)。
「まずはあの3体を打ち破り、退路をこじ開ける必要がありそうですね」
 絶体絶命の状況でこそ冷静であれ、と状況を見極めてゆくウィッカ。
 その指先を筆先として、中空に描き出すのは五芒星の魔法陣。
「雷よ! 我が前に立ちふさがる者どもを束縛せよ! カラミティスパーク!」
 詠唱と共に魔法陣に魔力が注ぎ込まれ魔術が発動。閃光と共に強力な電撃が放たれ、敵を焼き焦がす。
「ッギギ!」
 その身体を炭化させながらも、付喪草が雄叫びをあげて襲い掛かってくる。

 さて、敵側の攻撃は高周波ナイフや機関銃といったダモクレスとしての機能によるものと、溶解液の噴出といった攻性植物の特性を合わせたものである。
 主に近接戦を得意とする付喪草と、遠距離列攻撃でこれを援護してくるオーズボーグ。
 研究室の内部は瞬く間に弾丸と溶解液の飛び交う戦場へと変わってゆく。
「誰も死なせず、生きて帰る事。これが今の私の……私たちの目的です」
 最前列で防衛を担う巡命・癒乃(白皙の癒竜・e33829)が静かにその瞳を開く。
「わたしの中の人ならざるモノ、古言に伝わりし神代の息吹をここに……」
 祝詞の様に癒乃が言葉を紡ぎ出すと、癒しの風が吹き抜けて傷ついた仲間を回復してゆく。
「護衛の存在は覚悟していましたが、まさかこれほどの数とは……」
 敵地で敵に囲まれて、この危機的状況にエリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)が苦々しく笑う。
 あるいは、この厳重な警備こそ、この情報が貴重なものであることの証明と言えるかもしれない――。
「それでもここで倒れるわけにはいきません。一人でも多く……いえ、全員揃って生還しましょう!」
 幼少の頃、祖父と父から教わった剣術の修行。
 人々を守るために、受け継がれてきた騎士道の精神。
 騎士としての本分。護りの力を行使ししてゆくエリオット。
「ここで得た情報を持って帰らないと、全てが無駄になる……なんとか包囲突破の隙を作らないとね」
 蒼穹棍『シルフィード・アンカー』を構え、通路側に立ち塞がる敵と相対するシル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)。
 重要なのは敵陣を破る突破力。クラッシャーを担うシルとレスターの役割は重い。
 ウィッカの言葉通り、敵前衛の付喪草さえ撃破できれば、この場から撤退を開始できそうなのだが……。こいつが中々にしぶとい。
「ええ、今のくらっても立てるの?」
 ゲイボルグ投擲法で人型ダモクレスの炉心部を貫いたミライ・トリカラード(夜明けを告げる色・e00193)。
 だが、付喪草はすぐさま風穴を穿たれた右胸を埋め合わせて、機体を再起動させてくる。
 さながらゾンビ映画の様な、不気味な光景だ。
「はは、やっぱり簡単にはいかないよね……でも諦めるもんか!」
 ゲシュタルトグレイブを構え直しながら、ミライはその瞳に不屈の炎を灯す。
「ボクの帰りを待ってくれている人達の元へ、待たせてしまっている、あの子の元へ――」
 彼女の脳裏に浮かぶのは、紅玉の様な瞳を持つ、ある少女の姿だ。
 ブレイズキャリバーとしての覚醒と共に、過去の全ての記憶を失ったミライ。
 実のところ、今の『ミライ・トリカラード』という名前だって、そう名乗っているだけで本名というわけではない。
 だがーー。
 自分が何者かも思い出せないミライが、記憶を失ってから手に入れた確かな『絆』。
「必ず、生きて戻ってやる!」
 その心に呼応するように、ミライの首筋から逆巻く『地獄』の炎が溢れ出す。
 ナイフを構えて飛び掛かってきた付喪草の刃を槍の背で受け流し、返す穂先で敵の攻性植物部分を刺し貫く。
「オォオオ……」
 ギョロリとした敵の巨眼が白目を剥き、今度こそ動かなくなる。
「さあ生存開始だ!」
 一体撃破したミライに頷きを返し、ケルベロス達はそれぞれの武器を構え直す。

●2
 戦闘開始から数分。四方八方から降り注ぐ敵の攻撃から、互いの背中を護りあうケルベロス達。
「此処に揃いし皆様は、いずれも高難度の重要任務経験豊富な歴戦の勇者様。
 ならば恐れる事はありますまい。
 普段の実力を発揮し全員での生還を遂げましょう。私達にはそれが可能です」
 ソールロッドが歌い上げるのは現代を生きる英雄たちの歌。
 歌の支援を受けながら、続くのはレスター。
「これで二体目だ」
 構えた銃口の先に、命を奪う死の花が咲く。
 照準の向こうで付喪草が崩れ落ちるのを確認してレスター。
 これで退路を阻む障害はあと一体。
「なら一気に突き崩すのみだよ!」
 剣を振るいながらも、左手の薬指にある大切な指輪の感触を確かめるシル。
(――いつでも、一緒だよね)
 たとえ離れていても、その心は共に在る。
 龍の少女と交わした約束のリング。
「わたし達には、帰る場所があるんだーーっ!」
 その想いを具現化して、放つは必殺『双華乱舞(ソウカランブ)』。
 光の刃が閃き、ダモクレスの頭部に融合していた付喪草を完全に断ち切る。
 頭部を失ったダモクレスの身体が、糸の切れた繰り人形のように倒れてゆく。
「さぁ、突破するよ!」
 けたたましく鳴り響く警報を割り込みヴォイスで打ち消して、仲間達に好機の到来を報せるシル。
 開かれた退路にすかさずケルベロス達は飛び込んでゆく。
「皆さん、あれを!」
 エリオットの言葉に背後を見れば、新たな付喪草がダモクレスの起動に成功し、立ち上がってくる姿が見てとれた。
「奴らが追ってくるのは、時間の問題ですね」
 一難去ってなんとやら。あれを相手にしていたら命が幾つあっても足りはしないだろう。
「生憎逃げ足の速さには自信があってね。意地でも逃げきってやるさ」
 三十六計逃げるに如かず。オーズボーグのひしめく通路を切り開いてゆくレスター。
 そして――。
「よいしょっと」
 撤退ついでに、仰向けに倒れていた大扉を『怪力無双』で持ち上げてゆくソールロッド。
「わわっ、ソールロッドさん何を!?」
 ミライが帽子を押さえながら、扉の下敷きにならないように避難。
「ちょっとした思いつきを試してみようかな、と」
 ソールロッドの意図を察して、仲間達は先に通路へと飛び出してゆく。
「それでは、お邪魔しました」
 一礼と共に、ズゥゥンとした地響き。
 外側から大扉を元の位置に戻すソールロッド。
 その姿に、癒乃がくすりと小さく微笑む。
「そうですね。先程、私たちが壊してしまいましたし、ちゃんと直しておきましょうか」
 ついでとばかりに大扉をヒールしてゆく癒乃。
 機械扉がかつての機能を取り戻し、ガチャリと強固に施錠されてゆく。
「――! ――ッ!」
 扉の向こうから、ガンガンと金属を打ち付けるような音が聞こえた気がする。
「これで少しは……」
「――時間稼ぎになるはずですね」
 うーむ、この二人。優しげな顔をして中々にえげつない……、いやさ素晴らしい機転の持ち主である。
 さて、付喪草の追っ手は一先ず凌いだものの、壁から湧き出すオーズボーグの脅威は相変わらずである。
「さすが、本拠地だけあっていくらでも出てくるわね……」
 走りながらも、壁から這い出てくる敵がいないか注意深く観察してゆくかぐら。
 地面から顔を覗かせたオーズボーグを、モグラ叩きよろしくドラゴニックハンマーでぶっ潰してゆく。
「最近、攻性植物相手では後手に回っての対処ばかりでしたが……。この情報を持ち帰れば、こちらから先手を打って対応できるようになるはず」
 ミライと共に死角をカバーしあいながら、オーズボーグの対処を行うウィッカ。
「何としても生きて帰って、この情報を伝えないといけませんね」
 きっとそれが、亡くなった犠牲者の方々への弔いとなるはず、とウィッカは小さく呟く。
 かつて住んでいた村をデウスエクスの襲撃により滅ぼされたウィッカ。
 あのうず高く積まれた死体置き場の光景には、何か思うところがあったのかもしれない。
 さて、道中で『光輪足』や『アリアドネの糸』を仕込んでいたケルベロス達。
 エリオットのマッピングの正確さもあって、その帰り道に迷うことは無さそうだ。
「もしかしたら、内部構造が変化してたりしてね」
 さらりと怖いことをいうかぐら。
 植物に覆われた迷宮なので十分あり得る話ではある。
「でもまぁ、とりあえず進むしかないわよね」
 祈るような気持ちで出口を目指して進みだすケルベロス達。

●3
 撤退を開始してからどのぐらいの時間がたったのだろうか?
 気ばかりが焦り、どうにも時間の感覚が掴みにくい。
 永遠のように、長く感じる帰り道。
 次第に積み重なってゆく回復不能ダメージ。
 天井、壁、地面……あらゆるところから現れ、鉄弾と溶解液を撒き散らしてくるオーズボーグの群れ。
 ディフェンダーとして仲間を庇い続けてきたせいか、癒乃とソールロッドはとくに負傷が激しい。
 これまでなんとかダメージを二人で分散してきたものの、ついに限界が近づいてきたようだ。
「キキキ!」
 天井から這い出し、溶解液を撒き散らしてくる攻性植物に対し、白い竜牙の御守りを構える癒乃。
「邪魔を、しないでください……!」
 カチリ、という起動音と共に爆華の花が咲き、オーズボーグを吹き飛ばす。
「大丈夫ですか……? ソールロッドさん」
 脚を引きずるようにしているソールロッドの元へ駆け寄る癒乃。その脚を見れば酷い火傷が刻まれているのが見て取れた。
「そう言うあなたこそ、ひどい怪我ですよ。癒乃さん」
 身体のいたる所に銃撃を受けて、その白い姿を自らの血で染めてしまっている癒乃にソールロッドは返す。
「私に合わせていては、追いつかれるかもしれません……。皆さん、どうか気にせず、先に進んでください」
 負傷したソールロッドはそう提案するものの――。
「騎士の矜持に誓って、仲間を置いて行くようなことは出来ませんね」
 よっ、とソールロッドに肩を貸してゆくエリオット。
「皆で迷宮を抜けるって、約束しただろ?」
 エリオットが右肩ならレスターは左肩だ、傷ついた仲間を見捨てる事無く、支えてゆくケルベロス達。
「傷口を見せて下さい。応急にもなりませんが……ペインキラーを使います。
 単なる『誤魔化し』に過ぎませんが……効果は私自身で実証済みです」
 両手をかざして最終手段を使ってゆく癒乃。
 強引な手段だが、再び走る力を得るには十分だった。
「助かります……癒乃さん。これで、また走れます」
 冷たい汗を拭いながら、ソールロッドは仲間達に心配をかけないように精一杯微笑む。
「あとちょっとだよ! 全員一緒に帰らないと意味がないから、頑張ろっ!」
 いつも以上に明るく努めて、シルは拳を握る。
 かぐらも指先に結んだか細い糸を掲げながら頷く。
「アリアドネの糸は切れていないわ。帰り道が塞がれているようなことにはなっていないはずよ」
 道があっていることを信じて進み続けるケルベロス達。
「この死臭……あの場所は――!」
 走る先に『死体置き場』が見えてきた。
 積み重なる数百という死体の山。
 この場所こそケルベロス達の侵入口であり『真田の抜け穴』へと続く部屋。
 つまり、ここを越えれば――。
「出口は、すぐそこだわ」
 帰り道が合っていたことが証明され、安堵の微笑みを浮かべるかぐら。

●4
 死体置き場を走り抜けながらも犠牲者の無残な姿に歯を噛むエリオット。
「これ以上犠牲を出してはいけない。
 奴らの非道を許してはいけない。
 彼らの無念に報いるためにも……いつか必ず、この地を取り戻す!」
 この場で弔えないことを申し訳なく思いながら、騎士はその胸の内に誓いを立ててゆく。
 だがそのとき――。
 ケルベロス達の後方で死体の山が轟音と共に弾けた。
「オォオオオ!」
 背後から聞き覚えのある雄叫びが響き渡る。
 振り返れば、無数の付喪草が死体の山を薙ぎ払いつつこちらに迫ってきている!
 度重なるオーズボーグの攻撃で傷つき、もはや満身創痍のケルベロス達には、もはや絶望的な戦力差である。
「もし追いつかれれば、それでお終いとなりそうですね――」
 敵を少しでも足止めするため、再び雷光の魔法陣を展開させるウィッカ。
「走れ!」
 雷撃と共に牽制射撃を撃ち込みながらレスターが叫ぶ。
「ハア……! ハア……!」
 喉から湧き上がってくる血の味を飲み込んで、必死に走るケルベロス達。
「――あれは!」
 やがて、暗い坑道のような道の先に、光が見えてきた。
 それは、眩しいほどの陽光。外の光だ。
「出口だッ!」
 最後の気力を振り絞り、互いを支え合って光のもとへ飛び出してゆくケルベロス達!

 暗闇の穴の向こうで、敵が追跡を断念し、引き返してゆく姿が見て取れた。

 大阪城の内部で得た情報を持ち帰ることに成功したケルベロス達。
 この戦果により、また大きく状況が動くことになるかもしれないが――。
 それはまた、のちの話。
 今は、誰一人として欠ける事無く。こうして無事帰還できたことを、喜び合うのが先決というものだろう。

作者:河流まお 重傷:巡命・癒乃(白皙の癒竜・e33829) ソールロッド・エギル(々・e45970) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月13日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 23/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。