破壊をもたらす２人の罪人達

■リプレイ

●現れる死神と罪人達の討伐を！
　栃木県宇都宮市。
　日が変わろうかという時間帯に、ケルベロス達はこの地へと降り立つ。
「最近、死神の動きが活発だとは聞きましたけれど」
　そこで、茶色の髪に愛用のリボンをつけた小柄な少女、エレ・ニーレンベルギア（追憶のソール・e01027）がそれとなく呟いて。
「どっから湧いて出たんですかね、別の罪人エインヘリアル……」
　普段は笑顔のエレも肩に乗るもふもふのウイングキャットのラズリも、真剣な表情で索敵を行う。
　程なく、街中に淡い光を感じたメンバー達はそちらへと急行していく。
　移動した先には、すでに３体の怪魚とそいつらがサルベージしたエインヘリアル、別の罪人エインヘリアルの計５体のデウスエクスが現れていた。
「く、くくく、くくくくくく！！」
　サルベージされたマティアスには理性はなく、狂ったように笑うだけ。
「早速、歓迎してくれるようだな。ケルベロス……」
　別の罪人エインヘリアル、オットマーは早速、やってきた一行に対して背にしていた２本の大斧を両手で抜く。
　ゆらりと宙を泳ぐ、怪魚型死神達。
　そいつらに操られるかのように、マティアスも杖を構えて臨戦態勢へと入る。
「やれやれ、犯罪者が死後も労働刑ってわけか」
　ワイルドさをかもし出す海野・元隆（一発屋・e04312）にとっては御免被りたい状況ではあるものの、敵は随分とやる気のようだ。
「念には念を！」
　精悍なオウガの青年、エリアス・アンカー（ひだまりの防人・e50581）は周囲に逃げ遅れがいないかと素早く周囲を確認し、近辺へとキープアウトテープを張り巡らせていく。
　その間に、敵を前に毅然とした表情を見せる工藤・千寛（御旗の下に・e24608）やユリア・フランチェスカ（慈愛の癒し手・en0009）が素早く布陣し、臨戦態勢へと入る。
「んうー。……敵たくさん。やっつける、ぼくのしごと……うん」
　こんな状況でもローテンションな伏見・勇名（鯨鯢の滓・e00099）だが、全ての敵を倒そうと彼女も意気込んでいた。
「２体だろうが３体だろうが、現れる敵はぶっ飛ばすだけだぜ！」
「１匹たりとも逃がしませんよ……。皆殺しです……！」
　童顔な茶髪の青年、トライリゥト・リヴィンズ（炎武帝の末裔・e20989）が八重歯を見せつつ気合を入れると、全身を骨装具足と振るフェイスで覆う少女、シルフィディア・サザンクロス（ピースフルキーパー・e01257）も並々ならぬ敵意をデウスエクス達へと向ける。
　そこに、敵に向けて奇襲してくる１つの影が。
　いつの間にか高く跳んでいた御神・白陽（死ヲ語ル無垢ノ月・e00327）が白いロングコートを舞わせ、腰の後ろに交差させていた２本の刃を抜いて死神へと襲い掛かる。
　ただ、死神も奇襲には敏感に反応したらしく、その場から後退して白陽の一撃を避けてみせた。
　彼も出来ればといった程度の奇襲であった為、回避されてもさほど驚く様子はなく。
「死を撒くモノは冥府にて閻魔が待つ。潔く逝って裁かれろ」
　次の一撃を仕掛けるべく白陽が姿を消すと、エインヘリアル達も笑みを浮かべて。
「生憎、裁きは間に合ってるんでな！」
　オットマーはケルベロス目掛け、２本の大斧を手に向かってきたのだった。

●束になったところで……！
　立ち上がりはデウスエクス達も様子見していたようだったが、ケルベロスとしては１分たりとも無駄には出来ない状況がある。
　灯りで近辺を照らしながら立ち回るシルフィディアは、分刻みで鳴るタイマー付き時計で経過時間を確認しながら戦う。
（「カツカツのタイムスケジュールには違いない」）
　エリアスはその時計のアラームを気にかけがてら、向かい来るエインヘリアルを抑える。
「くくく、くくくくく！！」
　狂った含み笑いを発するマティアスは広範囲のケルベロスへと超高熱の炎を浴びせかけ、さらに２本のルーンアックスを軽々と操るオットマーはルーンを発動させて近場のケルベロスを切り裂いてくる。
　彼らの力は脅威だが、それを相手にするには盾となる死神が邪魔な存在だ。
「そっちもチームプレーか！」
　後方で竜鎚を構えるトライリゥトが叫ぶと、白陽がすかさず仕掛ける。
「真昼の月と夜の月……」
　――どちらを見ていても、人は絡めとられ立ち止まってしまう。
　相手に言葉を投げかける白陽は言葉の間にも、死神と世界の繋がりを断たんと刃を振るう。
　すると、斬られた死神の１体がやや体を硬直させ、いつの間にか白陽はまた姿を忽然と消してしまう。
「何度サルベージしようが、番犬にかかりゃ無駄だって事をみせつけてやるぜ！」
　火力となる仲間の為にとオウガ粒子を飛ばすエリアスは、ゾディアックソードを手に死神目掛けて斬りかかっていく。
「チームワークでケルベロスに勝てるかよ！」
　仲間がうまく死神を抑えてくれている間に、トラウリゥトは箱竜セイにチームの盾役を任せ、自らは最優先討伐対象であるマティアス目掛けて砲弾を撃ち込んでいく。
　一方で、息を潜めて立ち回る白陽はちらりとエレへと視線を向けて。
　頑張りやさんであるエレは、少しばかり自己犠牲気質がある。
　献身的になりすぎるきらいもあり、彼にとって放っては置けぬ存在なのだ。
　そのエレだが、ちびっこなれどしっかりものの翼猫ラズリに前線の盾を任せ、彼女は回復役として後方で詠唱を始めていた。
「煌めく星の加護を、此処に。降り注ぎ、満ちろ！」
　周囲に降り注ぐ星のカケラ。
　優しき星の光は癒しとなり、さらに敵を殲滅する為の力を与えてくれる。
「頑張って、応援しているわ！」
　ユリアもまたトライリゥトやエリアスの希望もあって、回復支援に当たる。
　何せ相手の数が多い上、相手にエインヘリアルが２体といる状況だ。彼女も緊急手術を繰り返して仲間達の手当てに当たっていく。
　また、戦況が戦況だけに、駆けつけたサポーターの姿もある。
「なんて、下品な男なのかしら。まるで知性を感じないわね」
　サルベージされたマティアスの姿に、豪華なドレスを纏うベルベットは眉根を寄せる。
　ベルベットはメインメンバーの回復の為にと血染めの包帯を舞わせ、染み付いた血を桜の嵐に変えて癒していく。
　他にも、リモーネが銀の髪を躍らせつつ、刀を手に死神へと斬りかかっていた。
　そうした仲間の助けを借りつつ、死神を攻める元隆。
　刃に呪詛をのせた惨殺ナイフを握る元隆は相手が大きく口を開いた瞬間、見とれてしまうほどに美しい斬撃でその体を切り裂いてしまう。
　それでも、まだ１体。
　元隆はさらに邪魔な死神の数を減らすべく、刃を振りかざしていく。
　さて、ケルベロス達は７分以内にマティアス撃破を目指す。
　変異強化してサルベージされたそのエインヘリアルを、死神勢力が回収してしまうと予知されていた為だ。
　盾となる死神をかいくぐった千寛は旗を結わえたゲシュタルトグレイブを手に、相手へと攻め込む。
「勝利への道しるべを！」
　お嬢様然とした振る舞いをした千寛だが、自らの種族に誇りを持って戦いに臨んでいる。
　――ヴァルキュリアらしい戦いを。
　高く飛び上がった千寛は流星の一蹴をマティアスへと叩き込み、その動きを制しようとしていく。
　暗い周囲をライトで照らす勇名も、布陣中央から相手を攻め立てる。
　一度オウガ粒子を前線メンバーに振り撒いた彼女は、自らのグラビティの命中率を見てからパイルバンカーを選んで仕掛けていく。
「ちゅどーん、かっきーん」
　凍気を纏わせたパイルを相手にぶつけ、勇名は自身のグラビティの効果音を自身で喋ってみせた。
「くく、くくくくく！！」
　狂ったように笑い続けるマティアスは、ケルベロスの攻撃で多少足を鈍らせながらも杖を振るい、ケルベロスを凍てつく空気で包み込もうとしてくる。
「徒党を組んだゴミほど、鬱陶しい物はありませんね……！」
　自身の時計から鳴るアラームを気にかけるシルフィディアは邪魔する死神に、そして、狂ったようにグラビティを発してくるマティアスに苛立ちを見せる。
　燃え上がる墜龍槌を叩きつけた彼女はさらに潰鎧靴で重力を宿す一撃を叩き込んでいくと、精神を集中させたトライリゥトが続けざまにマティアスの杖に爆発を起こし、グラビティを使う手を止めようとしていた。
　順調に相手を攻めるケルベロス。
　しかし、それを面白く思わぬ男が１人、瞳を鋭く輝かせていた。

●逃がしはしない！
　死神、そして、エインヘリアルのマティウスをメインに攻め立てるケルベロス。
　ただ、明らかに不満げな男がメンバーへと近づいていく。
「こちらも接待してもらおうか！」
　猛然と大斧を叩きつけてくるもう１人のエインヘリアル、オットマー。
　過ぎ行く時間の中、そいつは楽しげに２本の刃を高く掲げ、エリアスへと振り下ろしてきた。
「少し、待ってろ……」
　その傷は決して浅くないが、オットマーに言い放ったエリアスは気合で死神を攻め立てる。
「次の攻撃は簡単には抜けねぇ……、上手く避けろよ？」
　エリアスは無数の角を生やした腕で、地面を穿つ。
　そして、地中から突き出す角は針山の如く死神の体を貫いていく。
　果てた死神が虚空へと消え去ると、５度目のアラームが鳴り響いた。
　ユリアや翼猫ラズリが傷つくエリアスの手当てに当たる中、エレは一旦回復の手を止めて大きな霊弾をマティアスへと撃ち込み、足を止めようとする。
　遊撃に動いていたマティアスは程なく、死神勢力に回収されてしまう。
　回収を阻止すべくケルベロスは全力で攻撃を集中させ、マティアスを叩く。
「そら、そいつを連れて行け」
　元隆も残る死神をひとまず放置し、舟幽霊をこの場に顕現させた。
　この場にないはずの海へと、エインヘリアルを引きずりこもうとする舟幽霊。
　その魂と触れ合うだけで、敵の心身を引き裂いてしまう。
　続く千寛は槍につけた旗をはためかしながら、光の翼を暴走させる。
　全身を光の粒子に変えた千寛はマティアスに突撃し、そいつの体力を削っていく。
　しかし、非情にも時は過ぎ、シルフィディアの時計が６度目のアラームを鳴らす。
「もう時間がないぜ！」
　トライリゥトが仲間達へと叫ぶと、メンバー達はマティアスへと攻撃を畳み掛ける。
「くく、くくく……」
　さらに、グラビティを詠唱するマティアス。
　相手の攻撃直前の隙を見た白陽は戦場を縦横に動き、周囲の建物も足場に使いつつ、機動戦を仕掛けていく。
　彼は左右の手に持つ刃「七ツ月」、「七ツ影」で素早く斬撃を見舞い、マティアスの体に刻む傷から相手に呪詛を与える。
「にがさない。ぜったい、やっつける」
　勇名が飛び込み、ジグザグに変形させたナイフの刃で相手の傷を深く抉り、切り裂いていく。
　敵の頭上に魔空回廊らしき物が出現し出していることに、勇名は気付いて。
「いそいで」
　仲間達へと討伐の手を急ぐよう、勇名は促すのだが……。
「くくく、くくくくく！！」
　マティアスの杖の先から雷が迸り、エリアスの体を灼いていく。
「ほらほら、こっちだ！」
　さらに、タイミングをはかったかのように、オットマーが邪魔をしてくる。
　傷が大きいエリアスが苦しい状態なのを察し、箱竜セイがカバーに回りオットマーの斧をその身に食い込ませてしまう。
「俺の分まで、頼む！」
　エリアスは攻撃できぬ歯痒さを覚えながらも、自らの胸の内を大声で叫んで自らの傷を塞ぐ。
　彼の分まで攻撃をと、翼猫ラズリは尻尾のリングを飛ばして攻撃に当たっていたようだ。
　シルフィディアは高威力のグラビティをと、露出させた自らの地獄の右腕を禍々しく鋭い刃の合わさったドリルへと形を変えて。
「バラバラに、砕け散れ……！」
　その腕を高速回転させ、マティアスへと肉薄したシルフィディアは敵の腹部へと突き刺し、さらに回転を加えて相手の体を体内から破壊する。
「くく、くくく……」
　それでも、エインヘリアルは倒れない。
「まだまだだ！　俺達はこんなもんじゃねぇだろ！！」
　残る１体の死神が悠然と見守る中、仲間を鼓舞するように叫ぶトライリゥトが裂帛の気合を放ちながら迫る。
「逃がすかよ！　こいつで……、どうだ！」
　箱竜セイが主を援護すべくブレスを吐き掛けた直後、トライリゥトは全魔力を込めたドラゴニックハンマーで豪快にマティアスの体を殴りつけた。
「く、くく、く……く……」
　強打を浴びたマティアスは狂った笑いを最後まで絶やすことなく、泥のように崩れ落ちていったのだった。

●お望みとあらば全力で接待を
　マティアスが倒れて開きかけていた魔空回廊が閉じた後は、ケルベロス達は残る死神とエインヘリアルの討伐を続ける。
　まずエレは、マティアス離脱阻止の間止めていた回復を再開させた。
　オットマーを抑え続けていたエリアスやサーヴァント達の治癒にエレは当たり、気力を発してその傷を塞いで行く。
　エリアスは自らにシャウト、そして仲間にオウガ粒子を飛ばして回復に当たる。
　ユリアもまた翼を広げ、これまで敵が付与してきた氷、炎、そして服破りといった状態異常のケアへと動き、サポートのリモーネも分身の幻影を纏わせて回復の手を増やしていた。
　さて、残る死神は、シルフィディアがその身に纏うオーラ「滅芽光」に地獄の炎を燃え上がらせ、殴打を浴びせかけて完全に沈黙させてしまう。
　これで残るは、エインヘリアル、オットマーのみだ。
「なんだ、一方的にやるだけでいいのかと考えていたところだ」
　ここまでほとんど放置されていた敵は、煽りながらもルーンアックスを振るって襲ってくる。
　それを食らった元隆は予め防具で耐性の対策をしており、多少の余裕を抱いて反撃にとオットマーと切り結ぶ。
「お前さんだけだと、随分と単調な攻撃だな」
　俺みたいに、酒でも飲んで動きに意外性でも持たせたほうがと、元隆は煽り返す。
「何だと？」
　眉を吊り上げ、あからさまに不機嫌になるオットマー。
　正直、元隆が言うようにマティアスと同時に相手していたからこそ面倒だったのであって、その実、斧で力攻めしてくるだけの相手であるのは間違いない。
　だからこそ、突如姿を現す白陽もまた皮肉な笑みを浮かべて、両手の刃で達人の一撃を見舞って相手の体を徐々に凍りつかせていく。
　ユーロ、クロエら、サポーターメンバーも頑張ってくれている。
　事前には暴走も想定していた勇名だったが、そうならぬようにと彼女も淡々と相手を観察して状況分析しつつ確実な一撃を、そして相手の行動阻害をしようと仕掛けて。
「うごくなー、ずどーん」
　勇名は相手の足元目掛け、小型ミサイルを発射していく。
　カラフルな火花を散らして爆発するその一撃に、オットマーも足を止めざるを得なかったようだ。
　そこに、態勢を整えたエリアスが相手へと流星の一蹴を見舞い、続いてシルフィディアが再度ドリルと化した地獄の右腕をオットマーへと突き入れる。
　それまで悠然と構えていたエインヘリアルも、自身に攻撃が集中したことでかなり嬉しそうに笑って。
「そうだ。こうでなくてはな……！」
　戦闘狂であるオットマーが再度、勇名目掛けて２本の斧を振り上げる。
　その隙を見た箱竜セイが封印箱に入って体当たりを仕掛け、さらに主のトライリゥトが轟竜砲で相手の頭を狙い撃つ。
「うおおっ……！？」
　砲弾による衝撃と爆風で、体を大きく仰け反らせたオットマー。
　千寛も集中攻撃をと、この場で召喚魔法を行使する。
　現れたのは、呪いの編みこまれた漆黒の槍だ。
「この槍からは、何人たりとも逃げられません！」
　千寛は自らに残された力を振り絞り、漆黒の槍を操ってオットマーの胸部目掛けて鋭い突きを繰り出す。
　的確な狙いで急所を穿たれ、オットマーは口元から血を垂らす。
「ちっ、勝てねぇ、か……」
　舌打ちして、前のめりに崩れ落ちるエインヘリアル。
　戦いにとらわれた男はこうして、その命を終えたのだった。

●全力を出し切って……
　なんとか、全てのデウスエクスの討伐を終えたケルベロス一行。
　しかしながら、サポーターの助けがあったとはいえ、メンバー達がそれぞれ力を尽くしたからこそ得られた勝利だ。
「み、みなさん、無事ですか……？」
　普段の少女の姿へと戻ったシルフィディアが仲間達へと、心配そうに尋ねる。
　とはいえ、皆疲労困憊といった様子もあり、エレが献身的に治療へと当たっていたようだ。
　飄々とした態度で片付けに当たっていた白陽は、動けぬ者へと手を貸そうとする。
　しかしながら、勇名などは疲れていたのか横になってしまい、その場ですやすやと眠ってしまっていた。

　ケルベロス達の休息。
　――せめて、夜が明けるまでは。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年9月5日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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