火華咲く

作者:東間

●災い来たりて
 カレンダーの数字が『9』に変わっても、夏の気配はまだここに。
 そんな街で花火祭りが開催されるという事もあり、日が暮れるにつれ通りを行く人の数は増えていった。
 お洒落をした若者や浴衣姿の家族連れ。学校帰りなのか、学生服姿の男女グループ等々。
 誰もが楽しげな様子で会場を目指すそこにドォン、と響いたのは──花火の音ではなく。
「殺セ殺セ殺セ!」
「貴様等ノ憎悪ト拒絶ヲ、ドラゴン様ノ糧トセヨ!」
「ギァハハハ!!」
 降ってきた牙は竜牙兵になり、踊るような空気が、恐怖と悲鳴に変わっていく。

●火華咲く
 夏の風物詩は多い。太陽、向日葵や朝顔、青空に入道雲、かき氷。
 そして、花火。
 祭りともなれば大勢が訪れるだろう。
「そういった場所で何か起きてしまうんじゃないか、とは思ったが」
 竜牙兵か。
 確認を兼ねたヴェルトゥ・エマイユ(星綴・e21569)の言葉に、ラシード・ファルカ(赫月のヘリオライダー・en0118)が頷き──真っ赤な色と目が合ったか、ヴェルトゥの後ろから少しだけ顔を覗かせた箱竜・モリオンが、サッ! と彼の背に隠れた。
 シャイな箱竜に花房・光(戦花・en0150)がくすり。相棒の様子にヴェルトゥも大丈夫だ、と声をかけて微笑んだ後、頷きで話の続きを促した。
「竜牙兵の出現地点はここ。大きな通りで、会場を目指す人達で賑わってる。現場到着は竜牙兵出現とほぼ同時だね」
 だが、事前避難を行えば敵は余所へ。
 事件そのものの阻止が出来なくなる為、到着後は敵との戦いに集中し、避難誘導は現場にいた警察に任せるのが良い。
「成る程。竜牙兵と戦う事が一番の救助活動か」
「その通り。敵は3体。ゾディアックソードや鎌を装備してる。数は少ないけどしっかり連携してくるから、人々を守る為にも3体全ての撃破を頼むよ」
 竜牙兵達は決して撤退しない為、戦いの最中に逃げられるという心配はない。
 憎悪と拒絶を得る為だけに虐殺を行おうとする、そんな存在全てを倒せば、街は賑わいを取り戻し、花火祭りも無事開催されるだろう。
「花火祭りだから……地図のここ。この大きな川でやるのかしら?」
「そう。戦いが終わったら、君達も楽しんでおいで」
 焼きそば、たこ焼き、フランクフルト。鯛焼き綿飴、焼きトウモロコシ等々。ケルベロスとしての務めを果たした後、屋台で買った物を片手に、夜空彩る花火を愛でるのもいい。
 背後に隠れたままおずおずと自分を見る黒水晶の箱竜を見て、ヴェルトゥは柔らかに笑んだ。それから集まった仲間達を見て静かに──けれど確かな声で、言う。
「行こうか」
 人々の命と、花火祭り。日々彩る全てを、守りにゆこう。


参加者
ルビーク・アライブ(暁の影炎・e00512)
楪・熾月(想柩・e17223)
ヴェルトゥ・エマイユ(星綴・e21569)
エレオス・ヴェレッド(無垢なるカデンツァ・e21925)
宝来・凛(鳳蝶・e23534)
七楽・重(七楽の教え・e44860)

■リプレイ

●開花前の一仕事
 自分達とは逆方向へ向かう人の波、その向こうに現れた者達を視認し楪・熾月(想柩・e17223)は足を速めた。
(「夏の終わりにまで悪い子達だなぁ。ロティ、ぴよ行こっか」)
 傍らを共に駆けるシャーマンズゴーストが、きゅっと拳を作り、肩にしがみつく雛もどこかきりりとした目付きへ。
 悲鳴と混乱の発生源、竜牙兵達が動くより早くアウレリア・ドレヴァンツ(瑞花・e26848)は目映い星座を描き、人々へと微笑みかけた。
「大丈夫。ね、光」
「ええ!」
 笑顔で頷いた花房・光(戦花・en0150)が斬霊刀を揮い、溌剌とした笑顔浮かべた宝来・凛(鳳蝶・e23534)が続く。
「此処はちゃんと番犬が護るで、落ち着いてね! すぐにまた、心置きなく祭を楽しめるようにしてみせるよ」
 此処に咲き誇るのは花火と笑顔だけでいい。血の花など御免だ。影だの水だの差す牙の雨を晴らすべく音速で繰り出した拳は、直前で割り込んだ1体の腹へ。主と同じ標的目がけ翼猫・瑶も数珠の輪を放てば、立て続けの攻撃に竜牙兵は腹を押さえ──ニタリ。
「貴様ラノ血ト命モ、良キ糧ニナルダロウ」
 きらきらと展開した守護星座が敵群を癒す。だが、ルビーク・アライブ(暁の影炎・e00512)の一撃は剣を掴んだ竜牙兵を星屑と共に蹴り飛ばし、ギエエと悲鳴を上げさせた。
 七楽・重(七楽の教え・e44860)は亀裂走った箇所に竜槌の照準を合わせ、むー、と頬を膨らます。竜牙兵に限らずデウスエクスには季節楽しむ心が無いらしい。
(「お祭りに花火って聞いたら、誰でも心踊るものなのにっ。だからこそかさね達が頑張らなくちゃだよね」)
 轟音と共に放たれた竜砲弾は、皆で定めた作戦通り。剣持つ2体のうち、より負傷している方へ。
 だが間に飛び込んだ1体が即、斬撃を繰り出してきた。加護を砕こうとする重い一撃に、ぶんっと投げられた大鎌が追従する。旋回する刃は瑶を切り裂こうとしたが、リティア・エルフィウム(白花・e00971)は恐れず飛び出した。そして。
「花火大会のためにもー! 邪魔な竜牙兵はがっつんがっつん殴り倒してしまいましょう! はっなびーはっなびー! ふぅーーーう!」
 ノンストップこき下ろし口撃をハイテンションで炸裂させ、箱竜・エルレのブレスが重なっていく。
 ヴェルトゥ・エマイユ(星綴・e21569)は思わず笑み、己の箱竜・モリオンと共に続いた。迸った光弾は狙い通り1体を呑み、黒水晶の箱竜が飛び込んだ封印箱は、
「小癪ナァ!」
 割り込んだもう1体が。
 次の攻撃が来る前に。エレオス・ヴェレッド(無垢なるカデンツァ・e21925)は今見えているもの──敵を囲む事で人々を守るという陣形から最良を導き出す。

●終わりゆく夏の為
「熾月さん、前衛の皆さんをお願いします……!」
「ん、任せて」
 熾月は大自然と己を『繋いで』リティアを癒し、ロティの爪が竜牙兵の霊魂を切り裂いて、すぐ。射し込んだ月影が白き鳥に変わった。
 敵群の足元さらう羽ばたきは、アウレリアが紡いだ月の王への道標。
 捧げよ。歌うような声に重なった深紅は──竜牙兵のもの。
「命も魂も穢させはしない」
「ッギ、ガアァ!?」
「その血に名付ける罪があるのなら――それがお前達を縛り、苦しめるだろう」
 ルビークの焔は詠唱と呼応するように激しく踊っていた。
 身体から芽吹く血と傷みで敵が膝をつく。限界まで開かれた口から乾いた音が吐き出され、星辰の剣が音を立てて落ちた。
 攻撃を分散する盾役、その片方を排せたなら──より戦りやすくなる。ケルベロス達の目のほとんどは、皆で定めた基準通り、剣持つ1体に注がれて。
「オノレェ!」
「憎キ番犬メ!」
 2体が怒りの咆吼を響かせた。大鎌は瑶を狙い、癒し描こうとした剣は激情に駆られ、後衛へと星煌めく大犬の一撃を。だが、生命啜る斬撃は凛が許さない。
(「無粋な骨の嗤い声やのうて、明るく弾む人の声が戻るように」)
 音もなく生まれた紅の胡蝶がちりちりと火の粉を散らし、敵の腕に止まって──。
「あんたらは花火の代わりに、地獄の炎で彩ったげる」
「アアァァア!?」
 業火の花に呑まれ、暴れる敵を瑶の爪が引っ掻けば鮮明な傷跡が刻まれて。そこに重が高速回転しながら突っ込めば、悲鳴に混じって防具の砕ける音がした。
 人々も祭りの楽しみも、全部守って。そして自分達ケルベロスも今宵咲く予定だった花火を楽しまなくては。だからと重は明るく笑って言う。
「がんばってこー!」
「花火大会のためにー!」
 リティアは拳振り上げ──熾月をチラッ。熾月がアニミズムアンクを手に頷くと、よいしょとバスターライフルを構えた。
 大きな銃口から奔った光線は敵の持つ剣ごと凍てつかせる。封印箱に飛び込んだエルレの突進に気付いて動こうとすれば、貼り付いた冷気がびしりと表面を裂き、光が雷のような月を見舞った。
 その隙に熾月は凛と大自然を『繋ぎ』、刻まれた傷が劇的に癒れる間にロティの召喚した『原初の炎』が竜牙兵達をごうごうと取り囲む。燃え盛る炎の音に、シャラ、と音が重なった。
「人々も、夏の終わりを彩る祭りも全て守れるように、害する者を排除するのも俺達の仕事だな」
 語るヴェルトゥの目はモリオンの素早い動き──大鎌で炎を裂く敵に激突した封印箱を追い、それから視線だけが後ろに向かう。それを感じ取って、エレオスはふわり笑った。
 竜牙兵という水がさした為、今夜の花火大会を楽しもうと訪れた人々には怖ろしさが刻まれてしまったけれど。
「必ずお祭りの賑わいを取り戻してみせます。夏の終わりに、素敵な思い出を残せるように」
 日常の続き、今日だけの特別な夜はきっと、恐怖を超える笑顔や温かさをくれる筈。
 言葉を交わした間に、ひとつ、終わっていた。
 腕、足、胴。そして星辰の剣にまで絡み付いた鎖が容赦なく締め上げ、無数の桔梗が裂いて──竜牙兵の命をいざないながら散る。
 エレオスは電撃杖をひらり踊らせ、迸った電気でその身を盾としていた翼猫を癒した。
「皆さん、もう少しです……!」
 残り1体。だからこそと全体に気を配り戦況把握に努める隣、熾月も得物を手に最後の1体を見据えた。
「俺達が、みんなを支えるから」
 癒し手2人の声。それを背に宙を翔たのは、アウレリアの意に応えたファミリアロッドだった。

●牙の終わり
 杖が小動物へと変わり、一瞬で迫っていく。
 その一撃は流れるように竜牙兵を撃ち、杖に戻った存在をアウレリアはそっと撫でた。指先からありがとうを伝えれば、間髪入れずに──愛らしい小鳥の声。
「――ほら、ぴよ出番だよ」
 一瞬聞こえた囀りの如き一撃は、敵の揮う大鎌をかいくぐり見事額にヒット。
 耳に届いた声は熾月のもので、素早く後方へと戻っていったのは愛らしい雛。
 信頼する仲間達の戦う姿。始まりから、今まで。見て、聞いたものにルビークの口元がそっと笑む。
(「頼もしいな」)
 それを言葉にし、交わす事はない。仲間達に隣を、背中を預けている事がその証。
 ロティの『爪』が竜牙兵の『内』を薙ぎ、その流れを繋いで放った一撃は、アウレリアや熾月と同じ技。宙を翔た小動物は、ふいに動きを鈍らせた竜牙兵に大きな風穴を開けた。悲鳴と共に弾け飛んだ破片は、敵の体を構築していた物だろう。
 目を凝らさなくてもわかる、ぽかりと出来た穴。
 リティアはふむふむ頷くと、竜槌を勢いよく揮って弾丸を作り、笑った。
「がっつり倒させてもらいますね!」
 だって花火大会が待っている。沢山の屋台も!
 その気持ちは最初から今までずっと、変わらない。
 作り立ての弾丸を竜槌で叩き飛ばした次の瞬間、総てを凍らす弾丸が竜牙兵を貫いていた。くるり宙を舞ったエルレのブレスが後を追えば、その後方からは重が間髪入れず竜砲弾を見舞っていく。
「グ、ウ……オノレ、オノレ! 寄越セ! 貴様等ノ血ヲ! 痛ミヲ!!」
 全てはドラゴン様の為に。
 大鎌を手に響かせているのは、最後の1体となっても揺らがないドラゴンへの忠誠心とケルベロス達への殺意。それらを乗せた大鎌が空を裂いて飛び、凛の頬をざくりと斬る。
 だが、斬られた凛は構わず拳を握った。一瞬で肉薄し、ふ、と短く息を吐いて叩き込む。
「ッガ、ハ……!」
 敵の体は拳が離れるより咲きに吹っ飛び、瑶の放った藤色艶めく数珠の輪が大鎌にひびを入れた。
 ふいに薄れた痛みと視線に振り返れば、こくり頷くエレオスの姿。手法は、端から見ると思わずギョッとしてしまうものではあったが、傷も痛みも失せている。
 ゆるり、と。ヴェルトゥは明るく笑む仲間から最後の1体に視線を移し、銃口というにはあまりにも大きな得物を向けた。
「さあ、そろそろ時間だ」
 銃口の中が数秒と経たずに目映くなり、眩む程の光線が放たれる。
 迸った魔法光線は竜牙兵の悲鳴も体も呑み込んでいき、それが僅かな煌めきを残して消えた後。あちこちに亀裂が走り、ボロボロになった竜牙兵だけが残っていた。
 夜風が吹く。竜牙兵の体がぐらり傾き、倒れ──粉々に砕けた。
 気付けば先に倒した竜牙兵の骸も砕けており、3体全てがさらさらと細かな粒子となって消えていく。凛はそれを目で追って、ふう、と息をついた。
「手向けの花は直に空に上がるよ。お休み」

●空に華
 ケルベロス達の活躍により脅威が失せ、戦いの跡も癒された跡、花火大会の報せが街中やSNSに流れていく。
 赤い浴衣に花火を咲かせ、黄色の帯できゅっと。黒の下駄をからころ鳴らす重の手には、花火のお供イコール屋台ご飯。すると凛に抱かれた瑶が鼻をふすふすさせ始めて。
「瑶の好奇心が刺激されとるんやろか……?」
「ウイングキャットを魅了するなんて、もしかしてかさね、凄いの買っちゃった……?」
 2人は顔を見合わせ──ぷっ、と笑顔。
「光は、じっくり花火見る派?」
「ええ。更に言うと、花火と美味しい物、どちらも楽しみたい派よ」
「花も団子も? うちも同じ」
「そうよね、どちらも外せないわよね宝来さん」
「じゃあよく見える場所に行こ!」
 1人で楽しむより、誰かと一緒に楽しみたい。そう思う重に応えるように、移動した先ではひゅるる、と細い音が上がって──ドォン、と弾けていく。
「瑶や~!」
 なんて、と瑶を高い高いした凛が笑い、凛と花火をバックにキョトン顔な瑶を光が写真に収める。綺麗な瞬間を一緒に共有出来た、その喜びに重も少女らと共に笑った。

 花火に備えて熾月は浴衣に、グレインは甚平に。
 そんな2人のボリュームたっぷりな戦果──たこ焼き、人形焼、天津甘栗、お好み焼き、焼きそば──に、熾月の肩ではぴよが飛び跳ねながら囀り、グレインの隣ではロティが嬉しそうにふわりふわり。買い過ぎの気配も漂うが。
「買いすぎたか? まあ大丈夫だろ」
「みんなでシェアならあっという間だね~」
 これっぽっちも問題は無い。
 花火が夜空を彩ると、熾月はふと足を止めた。空の華は夏の風物詩であり、夏の終わりも漂わす煌めき。だが、隣を見れば尾を揺らしながら見上げるグレインがいるから、しんみりとした空気が入る隙はない。
「へへっ、景気がいいな、祭りはこうでなくっちゃな。お疲れさん」
「ありがと、お疲れさま。グレイン」
 ラムネで乾杯するそれぞれの腕で花火の色を映すのは、銀の星携える天然石のバングル。黒星とガーネットの輝きは、空に咲く華にも負けぬ。

 夏の終わりを近くで観る嬉しさを胸に、特等席を確保──の前に。
「がっつり粉物とか食べたいんですよねー。スイーツ的な甘い物と飲み物はくーちゃんに任せましたよ! 10分後にここで落ち合いましょう。ミッション、スタートです!」
「えっ。一緒に買いに行くんじゃないんですか?」
「お好み焼き調達してきますねー!」
 リティアが風のように消え、見送ったクィルはやれやれと溜息ひとつ。しょうがない。仕方ない。というか。
「甘い物と飲み物ってふたつじゃないですか! 僕の方が大変ですよ!」
 ぶつぶつ不満漏らしながら、クレープとラムネを確保したクィルを天使が出迎えた。
「もー、くーちゃんおーそーいー!」
「そんなことないです。ふたつですもん」
 爽やか笑顔にぷいっと返事。それでも、落ち着ける場所で一緒に花火を見始めれば、尖っていた口は笑みに変わっていく。エルレを抱っこしたリティアも、ぽん、ぽぽぽんと弾けた花火に歓声を上げた。
「ひゃーーめっちゃ綺麗! お好み焼きおいしいしクレープも最高です!」
 すっかり汗をかいたラムネの瓶が、きらり光った。

 その服の汚れは、パパが頑張った証。アタシは気にしないよ。
 そう言って柔く笑んだ義理の娘・エヴァンジェリンと共にルビークは花火を見る。
 幾度目かの花火がこんなにも綺麗だと思うのは、1人ではないからだろう。例え見るものが同じ色でなくとも、エヴァンジェリンと重ねた時間が、かけがえのない彩を映し込んでいる。
 夜空に咲く花火は、エヴァンジェリンの心にも映り込んでいく。
 温かな灯火の人、最愛の家族・ルビークの傍で見るものは、いつだって輝いて見えた。だからだろう。見える花火はとびきり鮮やかで美しくて──。
(「パパは、どんな顔をしてるのかな」)
 ふいに振り向いたルビークの向こうで、パァン、と花火が上がった。
「綺麗ね」
 花火だけじゃなく、花火に染まるアナタの横顔が。
 それを心に秘めた娘の微笑が花火の色に染まっていく。それは。
「あぁ。綺麗だな」
 気付かぬ内に映り込んだ感情。知らぬ間に傍らで暖めてくれた存在。
 2人は白銀、緑と次々に咲く花火を見上げ続ける。
 そうやってまた一緒に──あなたの、隣で。

 エレオスは白地に勿忘草咲く浴衣を纏い、シャイなモリオンが収まった鞄を抱えたヴェルトゥは、黒地に民族調模様の浴衣姿。桃色の浴衣に着替えたアウレリアは、髪に屋台で買った狐面。そんな3人の手には、花火大会のお供が。
「……甘党トリオ?」
「……ふふ、そうかも」
「お二人が選んだ物も美味しそうですね」
 この時間が楽しみだった分、交わす言葉には笑顔もついてくる。
 のんびり花火を眺められる場所に移動した後、真っ白綿飴にご機嫌だったエレオスが夜空を見た。同時に、口笛に似た音ひとつ。
「……あ、始まるみたいですね」
 音と共に昇る光。一瞬で咲き誇る火華に、あちこちから歓声が上がる。
 きらきら輝きながら消えていく花火は綺麗で。でも、儚くて。アウレリアは夜明けに似た目を細めた。
(「まるで、ひと、みたい」)
 手にしたままのいちご飴から、ふわり甘い香りが漂う。2人は今、何を思うのか。静かに視線を動かせば、花火の灯りに照らされる横顔があった。
(「……おにいさまがふたり」)
 漆黒の夜空で火華が咲く度に響く音と、色の鮮やかさ。咲いては消える光の華が、ふとヴェルトゥの胸に夏の終わりという寂しさを過ぎらせる。林檎飴を齧ると、パキッとした食感の後に林檎の香りが広がった。
 花火を夢中見上げていたエレオスも、ゆっくりと綿飴を食む。白くてふわふわした物は、舌の上でしゅわ、と溶けて消えていった。
 花火も、咲いては消えていくけれど。煌めく火華が心に残ったように。今、こうして共に居るように。自分達は終わらず、変わらず続くよう、3人は願った。
 そしてまた──花火が咲く。

作者:東間 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
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