●海底基地攻撃作戦
光が漏れているのはおかしなことなのだろう。
なぜならここは深海――駿河湾の海底なのだ。
光など届かぬ場所であるというのに、海底にある洞窟より光が零れ、何か音が響いていた。
それは心地よいものではなく、機械工場が稼働するような、そんな音の響き。
そしてその洞窟より、数体のディープディープブルーファングを引き連れてでてくるものがあった。
それは潜水艦型ダモクレス。暗い海の底を滑るように泳ぐそれは、ゆったりと過ごしていた深海魚たちを驚かせる。
慌てて散っていく深海魚たちは、一層暗い場所へと身を潜めたのだった。
●予知
最近発生し始めた、鮫型のダモクレスを利用した死神事件『ディープディープブルーファング事件』に関して新たな事実が発見されたのだと夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)は紡いだ。
チーディ・ロックビル(天上天下唯我独走・e01385)が、多くの賛同者と共に調査を行い、海底にて、死神とダモクレスが協力する秘密基地の存在を突き止めてくれたのだと。
その秘密基地の場所はフェルディス・プローレット(すっとこどっこいシスター・e39720)の予測通り、駿河湾海底。
そこではディープディープブルーファングの量産が行われており、ダモクレスの作戦基地の一つだと考えられる。
「作戦基地をそのままにはしておけない。破壊をお願いしたいんだ」
そう言ってイチは作戦について話始めた。
戦闘は駿河湾の海底で。
「深海での戦闘になるけど、ケルベロスの戦闘には支障はないよ。基地の直上までは俺が送っていくし、海底で不自由しないようにアクアラングや照明なんかの装備は準備するよ」
装備がなくても問題はないが、あったほうが動きやすい。特に装備しない理由がなければ、していった方がいいかなとイチは続けた。
「海底基地は深海にある海底洞窟の内部にあるんだ。その至近距離まで近づくと潜水艦型ダモクレスとディープディープブルーファングが迎撃に出てくると思う」
その迎撃に出てきたディープディープブルーファングは死神の因子を植え付けられてはいない。戦闘能力は低いが、数は多いという。
迎撃に出てきた潜水艦ダモクレスの過半数を撃破すれば、基地も自爆するので作戦は成功となる。
「基地自爆後は敵も戦闘意欲を失うから安全に撤退できると思う。そのまましっかり倒しきっても、判断はお任せかな」
このまま基地を放っておけば量産され、また死神に引き渡される事もあるだろう。すぐに事件が収束するわけではないが、それでも解決には一歩近づくはず。
「できることからやっていかないとね。海底での戦いは慣れないと思うけど、よろしくね」
この一件も託すよと、イチはヘリオンへとケルベロス達を誘った。
参加者 | |
---|---|
八柳・蜂(械蜂・e00563) |
ネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662) |
疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998) |
メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026) |
松葉瀬・丈志(紅塵の疾風・e01374) |
タンザナイト・ディープブルー(流れ落ち星・e03342) |
茶野・市松(ワズライ・e12278) |
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828) |
●海の底へ
準備を整え、海底へ。
空中戦の次は水中戦か……と遠くなっていく海面をメイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)は振り仰いだ。
(「まああちらが場所を選ばないのだから仕方がないね」)
さて、遅い海水浴にいくとしようかとメイザースは意識を海底へ。
借りてきた装備は海底への備え。これらが壊れたら、とふとメイザースは思う。
幸い自分は水中でも呼吸できるように備えてきたのだがそれがなくなれば、死にはしないとは知っているのだが、苦しいことには間違いない。
(「うん、ケルベロスなら大丈夫。ファイトだよ」)
と、メイザースは頷き穏やかに微笑んで見せた。
それを受けた松葉瀬・丈志(紅塵の疾風・e01374)は大丈夫という風に頷き返す。
今年初めての海はこの戦いというタンザナイト・ディープブルー(流れ落ち星・e03342)はこんな形で海水浴したくなかったと思う。
段々と感じる水は冷たくなってくる。そして陽の光も届かなくなっていくのだ。
(「暗く、冷たく、静かで、生命の気配が無い。これが、海の底。死神の多くが魚の姿をしているのがどうしてか分かった気がするです」)
その周囲の変化に、タンザナイトは改めて周囲の様子を見つつ、一層深い場所へ。
翼は畳み、深く潜る為抵抗を減らす。
(「折角の海だってのに仕事とはな……」)
面倒くさそうにボヤくものの、疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)の内心はそうではなく。
海底洞窟、自爆する基地という浪漫の塊達にワクワクしないわけがないのだ。
そして視線向けた先には頼もしい友人。
背中を託せる相手がいるのは安心感があるなとヒコは思う。
その友人、茶野・市松(ワズライ・e12278)は頭の上のウイングキャット、つゆに四苦八苦していた。
(「つゆー、大丈夫かい?」)
お前さん海を眺めるのは平気なのによ、水に浸かるってなるととことん駄目だよなあと、市松は頭にぎゅっとくっついているつゆをはがそうとしている。
つゆ用にカスタマイズしてもらい、海中での準備はばっちりなのだが、どうにも駄目らしい。いつもなら女性陣を追いかけていると思える状況だが、今日はそれもお休みの様子。
その様に小さく笑ってヒコが手伝いつつ。
(「今回も背中は任せたぜ。勿論、つゆ『師匠』にも期待してるからよ」)
そう伝えると、つゆは子分にいいとこ見せるべく、ちょっとだけ落ち着き取り戻した様子。
ヒコが終わったら海鮮でも食うかと伝えると市松は良いなと頷いた。
ネロ・ダハーカ(マグメルの柩・e00662)も、敵を引き寄せぬように持った照明は最低限、小さく。
(「水の中の感覚には少し慣れんが――綺麗だな、まるで硝子を通した景色の如くだ」)
こんな状況でなければ愉しめたものを、と少しつまらなさげに深海へ。
八柳・蜂(械蜂・e00563)もまた、向かう先を見詰めていた。
(「海の底に工場、ですか」)
海月とかウミウシいないかなと探してみるものの、それらの姿は今のところない。
だが視界の端、目の前をゆったりと泳いでいく魚の影があった。
それは上からやってきた気配に逃げるように散っているようにも見える。
(「ゆっくり生きてる深海の子に迷惑になるから、はやめに片付けましょうか」)
そして――その場所へとたどり着く。
真っ暗な海底には自分たちが用意した灯りがわずかな頼りだ。
(「無人島に地中に、海底か……。昔ほど堂々と拠点を作ってこないのはそれだけ奴らも苦しいということかのぅ?」)
とはいえ、これはこれで厄介極まりないのじゃがとアデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)は思いながら自らの光る翼をはためかせる。
すると――その輝きにあちらも気づいたのだろう。
敵がその姿を見せたのだった。
●海中での戦い
どこからともなくそれらは現れた。
一体の潜水艦型ダモクレスは配下としてディープディープブルーファングを四体連れていた。
(「あれが潜水艦型ダモ……人型に見えるのですが? ダモクレスのデザインセンスが分からないのです」)
タンザナイトは唸るようにその姿を見止める。が、意識はすぐに戦いに引き戻された。
それは戦うべく、最初にネロが動くのを目にしたからだ。
ネロが手を伸ばした先、その指にあるマインドリングより生み出した盾はアデレードを守るように巡る。
そしてアデレードは加護を受け、すぐに攻撃に入った。
(「邪悪がいかに巧みに隠れようと……たとえお天道様の届かぬところに逃れようと正義の目は常に邪悪のそばにあり! 大人しく我が断罪の大鎌にてそなたの業を悔いるがいい!」)
狙いは、指揮官だ。
それは自身に狙いを付けさせ、配下達と戦いやすくするための作戦。
美しい虹をその脚にまとい急降下の蹴りをその横面に叩き込めば、それで十分だ。
指揮官の視線はアデレードへと向いた。
それを機会とすぐさまタンザナイトも動き、向かってきた配下へとその一撃を向ける。
(「天地を……繋げっ!」)
地獄から星界まで吹き上がる光芒は悪しき神を地球から祓うためのもの。
タンザナイトの呼び出したそれは、敵一体を内に抱え光輝き、この暗い世界で一瞬の灯りとなる。
指揮官たる潜水艦型ダモクレス。その命中精度は高いというのは、あいまみえた時点で察することができた。
そして配下達は守りと攻撃とで半々の様子。
前列にあたる敵――それは配下達。
ヒコは中指にぴたり誂られた真鍮の呪具を撫でる。すると光の戦輪が具現化され、放たれたままに海中を滑るように配下達を斬り裂いていく。
それに負けじと皆の援護。つゆは羽ばたいて、ネロへと加護を与えていた。
そして市松も敵の行動力を落とすべく。
纏う縛霊手より放たれた光弾は前列の、配下達を巻き込んで爆ぜる。
その一瞬の輝きの下、蜂は猟犬の鎖をしならせた。海中での鎖は、いつもの扱いと少し違うような感覚を得る。その鎖は海底を這うように配下の一体へと纏わりつき締め上げる。
そこへメイザースは私からもとツルクサの如く伸ばす。それはメイザースの血と魔力を吸い上げて咲く彼岸花。
地だけでなく海底でも、それは変わらず咲き誇るのだ。
だがただやられているだけではない。
配下達もまた攻撃を仕掛けて来る。
海の中は自分達の領域だというように素早く動き回り体当たりを。
それを攻撃の負荷を半減して受けられる市松が受ける。
その間に、他の個体は魚雷を発射していた。
それは後列を狙ったもの。縦横無尽に海中を進み爆発し衝撃を与える。
だが、その衝撃は軽い物。
丈志達は自身の受けた傷を含め、まだ大丈夫だと示すが気は抜かない。
この近くに、如何にも秘密基地というものがあるのだろう。
それはきっと破壊のし甲斐があるのものだと丈志は思う。
(「悪いが、道を開けてもらうぜ」)
けれどそれはひとりですることではなくて。
丈志は前列の仲間達へと守りを。
海の中を走る雷の壁は仄かな輝きをもって走る。
仲間達の攻撃の合間を縫って、市松はできるだけ庇いに入っていく。
そしてつゆも、ネロへと攻撃届かぬよう動いていた。
今、回復の必要はないとみてネロはゆるりと泳いで指揮官の前へ。
(「静かな水底に似合わぬ無粋よな、基地だ等と――疾く壊れてしまえ」)
ネロの鞘になって貰おうと撚り集めた力を敵へ。
(「丁度良く海の中だ、藻屑となるも容易かろうさ」)
敵の身穿つように放たれた一撃。それにより指揮官の装備の一部はがらりと剥がれて海底に沈んで行く。
その間に配下の一体がまず追い詰められていた。
海の中でもその形崩れぬのは祝詞に呪式、祷を籠めてあるからだ。
海の底には無き白き胡蝶が敵の身を包み上げる。
その胡蝶が飛び去ると同時に、配下の一体は沈み落ちた。
だがそれでもまだ敵は崩れない。
先程落ちたのは攻撃に重き置いた敵の様子。守り手の敵の目途はついている。そこから崩すべくタンザナイトはルーンアックスを掲げ、海中を進む。
高く跳びあがることはできないけれど、勢いをつけてそれを振り下ろせば、堅い外殻にも十分、響いていた。
さらに、その身を縛る鎖がいつの間にか巻き付いている。
市松が走らせた猟犬の鎖だ。それによって締め上げられた配下の動きは格段に落ちている。
その間に仲間達を守るよう動いている市松へと向け丈志は気力を溜めて放つ。
(「海水は沁みるだろ。少し待ってな」)
市松はありがとなとニッと笑って見せまた敵へ向かい合う。
この程度では海中はまるでこちらの領分だというように勢い失わぬままの敵。
だが指揮官は思うままに動けておらず、苛立ちのようなものも見せていた。
目の前にいるアデレードへと向けて放たれた魚雷。
しかしそれをアデレードはライトニングロッドで弾きその方向を変える。さらに続けて、その先よりほとばしる雷撃で指揮官の身を貫いていく。
海中での戦いは慣れないものだが敵に手玉に取られることも無く、少しずつ形勢が動き始める。
●指揮官機の最後
指揮官を残し、先に配下達を狙う。
守りについた配下は前に出て攻撃を庇う。
しかし、癒す術がない配下達のみは削られていくばかり。
一番近い配下へと向け、蜂は理力籠めた星型のオーラを蹴りこんだ。
蹴りこまれた衝撃でくねりながら後退するが、再び接近してくる。
そこへすすいと海流の流れを利用して近づいたメイザースは単眼の巨神が振るう鎚を模したステッキの先端を向けた。
それより放たれた竜砲弾。それは海を分け入るように迷いなく敵の身を砕いた。
確実に一体。配下達は二体倒され、ケルベロス達の方へと戦いの流れが向いていく。
(「動くなよ、これ以上。大人しくしてな」)
この睨み、躱す術無し――と、ネイティブアメリカンに伝わる精霊の力を丈志は混め攻撃をかける。巨大な顔と目を持つこの精霊は、秩序を乱す存在を残さずまとめて捉えていく。
配下達へ対する仲間達へ視線を向けつつ、ネロは気力を溜めアデレードを癒す。
アデレードはその癒しを受けつつ、そして守りに徹しているからこそ致命傷を得ず指揮官と対等に渡り合えていた。
再度、怒りを煽り意識をこちらへ引き込めば、魚雷の切っ先はアデレードへと向いていた。
だが、戦いはすでに動いている。
残る配下は二体。そちらとのケリがつくのもそろそろのようだ。
メイザースは紡ぐ。
深い海の底に招かれた氷河期の精霊はこの場では存在しない吹雪によって敵群を氷の中へと閉ざしていく。
動き止まる一瞬、ヒコが光の剣で斬り裂いた。配下の装甲の一部は砕かれ、あと一撃というところ。
そこへ市松が続く。
その脚に流星の煌めきと重力の力。重力は海底へと潜った分、上乗せされているような気もする。
海流を裂くように放った一撃によって敵は潰えた。
そして最後の配下へと向け、おいたは、いけませんねと。
微かな恨み絡め籠め、蜂が指先から放つは、自らの血液と地獄から生み出す毒針が敵を貫く。
だが一瞬冷静さを取り戻したのか、簡単にはやらせないと指揮官が前列の者達へ向かってミサイルを放った。
それは海流の中を突っ切って襲い掛かる。
前列に降り注いだそれはケルベロス達を追い詰めるほどの威力はなかった。
しかし、それぞれ動きが鈍くなる。
丈志はネロへと任せてくれと示す。
再び振るわれた雷の壁。それは抵抗力を高めるとともに傷を癒し阻害を取り払っていた。
次が最後の一体、とくるりとタンザナイトは器用に海中で回ってみせる。
すると、すぐそこには狙うべき配下の姿だ。
(「天と地と海を、繋げっ!」)
この海中だからこそ、この場でタンザナイトのみが震えるグラビティを呼ぶ声はそうなった。
立ち上がる攻防は、最後の配下を飲み込みその身を滅する。
(「あとは……ダモクレスのみです」)
配下達を倒しきり、残るは指揮官のみ。残る指揮官へと視線は集中する。
それは逃げるそぶりは無く、ボロボロであっても向かってくる。
敵の身を炎が包み込んだ。
(「ネロの炎は水の中でも輝くのさ。海中で焼かれる気分は如何だ、無法者共」)
僅かに笑めば、こぽりと水の泡。それと共にネロの唇より炎が踊る。
暗い海の底でもその炎は明るく眩い強さがある。
もう一つおまけに炎だと、市松は海底を滑り、摩擦熱で炎を纏った脚で指揮官を蹴り上げる。
炎にまみれた指揮官へと向かい、ヒコは水中を蹴った。
ヒコの拳には堅牢なる銀花。振るわれた拳は指揮官の装甲はがし、隙を作る。
そこへ眩い光。
メイザースが魔力を練り上げて作り出した光球に与えたのは『太陽』の名と、夜と闇の幕引きの任。
眩い光に敵は瞳を眇め、動き留めた一瞬に照らし出し焼き払う。
(「我が深淵なる瞳を見よ。其即ち其方の罪を映し出す冥府の鏡なり」)
今まで耐えた分のお返しとばかりにアデレードは地獄の炎を敵へと流し込む。業のあるものは魂を破壊されるというそれは、敵に負荷をかけていた。
その間に精神を極限まで集中させ、丈志はその意志を敵へと向けた。
すると敵の身の上で大きな爆発が起こる。
続けざま、タンザナイトは指揮官の上方からルーンアックスを頭上から振り下ろす。
それに気づいて指揮官はかわそうとしたが、かわし切れず。
その身に大きな亀裂を生じさせていた。
海底でもその炎は消えることなく、燻ることなく揺らめいて燃え上がる。その、蜂の持ちうる紫色の炎は漆黒の刃に宿った。
水中をくるりと泳ぎ、蜂はその刃を指揮官へ向ける。
切り刻み、水中にほどけていくように敵の身は崩れていった。
その様を視界の端に蜂がぼんやりと思うのは――自分がいた工場はどんなだったのか。
苛烈な攻撃の後、ゆうるりと泳いで態勢を立て直す。
指揮官の身体は海の底へと沈んでいった。
周囲に敵の影は無い。まだ戦っているところもある様子に援護に向かおうとしていた。
(「さあ、第2ラウンド行くですよ! ……あれ?」)
救援を、と動き始めたところでタンザナイトは周囲の変化に気付いた。
残っていた配下達がこの場より散っていく姿が見られたのだ。
それを追いかけるのは難しく。けれど敵の逃走は戦いが決した事の証だろう。
この場でできる事はもうなく。
それぞれの役目を終えたケルベロス達は海上へと向かって、泳ぎ始めた。
作者:志羽 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年9月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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