2番目に好きな人

作者:千咲

●2番目に好きな人
「ねぇ、大樹……私のこと、好きって言ってたよね?」
 それは、夏休みも終わろうとしているある日。部活の終わった夕刻の体育用具倉庫でのことだった。
 部活を終えたばかりのTシャツ姿の大樹に馬乗りになって、強い口調で迫る制服の女子、葉月。アスリートである彼を以てしても逃れられない力強さの彼女、その襟もとからは羽毛が見え隠れしている気が……それでも彼は、
「好きだよ――それに葉月も俺のことを好きだと思ってた。なのに、何故こんな事……」
「だからだよ! 私、大樹のことが好きなの。だけど、もう1人、好きな人が出来ちゃったから……」
「それが、この体勢と何の関係が……ゲホッ!」
 いきなり、頬を抑えて口を開けさせると、ライン引きのところにあった消石灰の粉を押し込んで咳き込ませる葉月。
 咳き込んで吐き出してもなお、大樹の口に続けて押し込もうとする――大樹の口内が熱くなり、やがては、ただれ始めるに違いない。
「分からないの? 2人とも好きだなんて、誰も理解ってくれないでしょ? 大樹のことは好きだけど、どっちが好きって言われたら2番目なの。大樹がいなければ、私は1人に集中できるのに、大樹がいけないんだよ。私のこと好きだなんて言うから……」
 言いながら、今度はその目にも粉を掛ける。
「これは罰。あなたには私を苦しめた罰。私には好きな人が苦しむ姿を見るという罰。とは言え、罰は罰でも血なんて見たくないから……」
 罰と言うからには苦しめる。苦しめて、苦しめて……散々苦しめて消す。最後は頭にまとめて消石灰を被せれば、それで終わり。
 ――2人いるのなら、1人を消せば良い。ビルシャナとの契約した葉月の心は、既に常軌を逸していた。

●契約者の事件
「集まってくれて、ありがとう。名雪・玲衣亜(不屈のテンプレギャル・e44394)さんが懸念していた事件が、実際に起こってしまいそうなの……」
 そう告げたのは、赤井・陽乃鳥(オラトリオのヘリオライダー・en0110)。
「事件が起こるのは、石川県珠洲市。2人を同時に好きになってしまった高校生、市谷・葉月(いちや・はづき)さんが、どうすれば良いか悩んだ末にビルシャナと契約……理不尽で歪んだ解決を図ろうとしているの。水瀬・大樹(みなせ・ひろき)さんの存在を消すことができたら言うことを聞く、っていう恐い契約をさせられてね」
 彼女が、解決にならないのに終わった気になって、心身ともにビルシャナになってしまう前に、理不尽な解決方法の犠牲になって彼が死んでしまう前に、なんとか助けてあげて欲しい、と語る陽乃鳥。
「事件が起こるのは、2人が通う高校の体育館裏にある用具倉庫。部活を終えて片付けを始めた大樹さんの後を、葉月さんが追いかけるように入って施錠するの」
 と、それから起こる事件のあらましを語って聞かせる。
 用具倉庫の扉はヒールで何とかなるから、壊してしまって良いと思う……と付け加えると、
「とにかくまずは、事件さえ止めてしまえば、ビルシャナになりかけた葉月さんは、みんなを排除しようと襲い掛かってくるはずなの。そうしないと、大樹さんを苦しめることができないから」
 ただし敗北して死にそうになると、大量に備蓄されている消石灰をばら撒いて、大樹さんを道連れにしようとするかも知れないと言う。ケルベロスはダメージを受けないから気にする必要はないけれど、巻き込まれれば一般人はただでは済まない。
「葉月さんを止めるには、ビルシャナを斃すしかないけど……そうすれば葉月さんも一緒に死んでしまうの。ただし、もしも葉月さんが『罰を与えるなんて真似を諦め、契約を解除する』と宣言すれば、人間として生き残らせる事ができるかも知れないの」
 でも、この契約解除は心から行わなければならないので、相当難しいということだけは承知しておいて欲しいの、と告げ、ビルシャナ葉月の戦闘能力についても付け加えた。
「こんな理不尽な真似をさせるビルシャナの企み、絶対に防いで。お願いね」
 そう言って陽乃鳥は、ゆっくりとお辞儀してみせた。


参加者
光宗・睦(上から読んでも下から読んでも・e02124)
桜庭・萌花(キャンディギャル・e22767)
比良坂・冥(カタリ匣・e27529)
空野・紀美(ソラノキミ・e35685)
天ヶ崎・芽依(オラトリオのパラディオン・e44129)
名雪・玲衣亜(不屈のテンプレギャル・e44394)
峰・譲葉(崖上羚羊・e44916)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)

■リプレイ

●助けるよ、必ず
「恋に迷うか……思春期だものな」
 一連の話を聞き、峰・譲葉(崖上羚羊・e44916)が真っ先にこぼしたのは、こんな台詞。そんな時にはカウンセリングが必要だろうな……と。
「そだね。ぶっちゃけ葉月もワケ分かんなくてこーなってるカンジがするんだよなぁ。なら、強引にでも割り込んで大樹を確保、避難させるよ! 話はそれからでいいんじゃね?」
 譲葉と想いが重なったことで、名雪・玲衣亜(不屈のテンプレギャル・e44394)も自信を持って言う。
「まだ、きっとやり直せるから。だから、ぜったいぜったい、助けちゃうからね!」
 次いで空野・紀美(ソラノキミ・e35685)が告げたことで、目指すところは決まった。

 ――目的の体育用具倉庫。
 中を確かめようとするが、妙な音や息遣いみたいなものは……聞こえない。
「なら、せめて派手に壊してやるか」
 向こうの気を惹くためにと、峰・譲葉(崖上羚羊・e44916)が即決。チェーンソー剣のモーター音を思いっきり響かせ、扉を叩き斬る。
 中では、今まさに葉月が大樹に馬乗りになっていた。
「待って、葉月ちゃん! ね、わたしたち、葉月ちゃんとお話ししに来たんだよ!」
 凶行を止めさせようと紀美が懸命に声を掛ける。
 が、あふれ出していた彼女の気持ちは止まらない。葉月に何故……と尋ねた大樹に、
「……私、大樹のことが好きなの。だけど、もう1人、好きな人が出来ちゃったから」
「ヤバっ!」
 咄嗟にファミリアを投げつける玲衣亜。
 ハリネズミが肩をかすめると、葉月の躯が痺れた。
「今だっ!」
 光宗・睦(上から読んでも下から読んでも・e02124)が一気に間合いを詰め、掌底から放った光弾で大樹の上から彼女を退かして、引っ張り起こす。
 そして「行くよっ!」と、用具倉庫の外を指し示す。
 その間、葉月を止めるのは比良坂・冥(カタリ匣・e27529)。敢えて彼女の傷を癒すことで気を惹きながら、玲衣亜と共に大樹との間を遮るように立つ。
「キミはとても優しい子なんだね」と。
 戸惑いながらも、促されるままに外に向かう大樹。
「退いて! 大樹が……」
 葉月の悲鳴に近い声。閃光が玲衣亜の身を竦ませる。
 すぐに、なゆを含む仲間に守護星座の加護を付与する譲葉。
 次いで天ヶ崎・芽依(オラトリオのパラディオン・e44129)が、念のためにと更なる癒しを唱えつつ、去り際の大樹に一言。
「彼女は自分自身が許せなくて、おかしくなったんだと思います」
 その言葉に大樹は、大きく頷いて睦とともに出て行った。

●順番なんて必要?
「葉月ちゃん、片方を消せばいい……だなんて、本当にキミが望んだこと?」
「そうに決まってるじゃない! だって、2人とも好きだなんて、どっちもイヤに決まってるもん」
 冥の問いに、ビルシャナ葉月が即答。それは感情が自身のものであり、かつ赦されないものだと信じている様子。
「別に、いーじゃん。好きな人が何人いたって」
 そんな葉月の価値観を、真っ向から覆そうとする、桜庭・萌花(キャンディギャル・e22767)。
 順位なんかつけたって、どっちも選べないくらい好きで、どっちも諦めきれないんでしょ、と。
「それなら順位付けする意味なんてないんじゃない?」
「わたしも! わたしもそう思います!」
 ビルシャナ葉月の中に生まれた沈黙を逃さず、芽依が続けて呼び掛けた。
「恋愛……はよく分からないですが、私だってママとパパが好きです。好きだけど順位はつけれないです……どっちも好きですから」
「そ、そんなの違う!」
 葉月が真剣に反論。自分の『好き』を、両親への『好き』と一緒にするな、と。
「でも、多分ママとパパもわたしと同じこと言うと思うのです。好きに順位なんて付けなくてもいいと思うのです」
「うるさい!」
 ビルシャナが小さな鐘の音を鳴らす。心の奥の苦鳴を蘇らせる妖しい鐘の音――前衛の面々の心に、闇が頭をもたげる。
 が、そこでルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)が、後方からよく通る声を響かせた。
「私たちが負けてどうするんですか!? そんなことで葉月さんが救えますか!」と。
 その声に合わせたように芽依が聖王女への賛美を捧げる。
「……いと気高き聖王女様、全てを見通すその瞳を持って我らをお導きください……」
 回復した瞬間、息をつく冥。どんな修羅場を視たか知らないが、囚われずには済んだらしい。が、一息ついている暇などない。ルーシィドと共に、仲間たちの身体の裡に残るダメージを拭い去る。
 そうしたことで我に返った萌花は、今度は玲衣亜の装備を可愛く飾って耐性を強化。
 一連のやりとりに、畳み掛けるのは逆効果と見た紀美が、仲間を抑えて前に出る。
「ねね、ふたりとものすてきなところ、教えてくれない? すきなひとって、どうやってびびびってくるもの? わたしねぇ、まだまだきたことなくって!」
 が、ケルベロスを邪魔者と認識して排除しようとするビルシャナ葉月には、響かない。
「やっぱりダメかぁ……ごめんね、とってもとっても、気になってたから! でも、すきなひとがたくさんってね、その分、世界がキラキラして見えそうだよね!」
 と、仲間の説得に期待をつなぐ。
 その期待に応えるように続いたのは、玲衣亜。
「アタシ別に二人同時に好きになるとか、一番、二番を決めるのとかは別にいーと思うんだよね。アタシだってそーゆートコあるし。一般論から少しずれちゃってんのかもしれないけど、それならそれでしょうがなくね?」
 開き直るにせよ、そうでないにせよ、自分の中での折り合いをつけつつ、生きていくしかないんじゃない、と。
「開き直るとか、適当なこと……」
 一瞬の紀美のやりとりが功を奏したのか、まだイラつきながらも効く耳を持つビルシャナ。
 が、やはり攻撃体勢を取った向こうの機先を制するように、稲妻のような突きを一閃。さらにルーシィドがエクトプラズムの霊弾で足元を止めるべく狙い撃つ。
「いいから、とりあえずうちらの話をもう少し聞きなよ。そりゃあ、すぐには難しーかもしれないけどさ……」
 続く言葉を選ぶのに出来た間を、譲葉が埋める。
「でも、好きなんだろ? 一つに決められないほど好きなら好きでいいんじゃないか。誰に恥じることがある? 誰に許される必要がある?」
 赦されないと思い込んでいる価値観を打ち砕く。理性で抑え込もうとする必要なんてないだろうと。
「決めつけるなよ、葉月!」
 突如荒げた口調に、ビルシャナの動きが止まった。
 そこに、大樹を連れ出していた睦が戻る。
「本当は大樹さんのことを傷付けたくないんだよね? でも、どうしても大樹さんを傷つけちゃうのが許せなくて、自分を責めちゃったんでしょ……」
 そう……他の人も同時に好きになったこと。そして1番じゃなくて2番ってこと。
 だからこの先別れても、もしくは1番好きじゃないまま付き合っても、結局彼を傷付ける。
「正直に告げて彼らを傷つけるのは……辛いよね。でも、二人とも葉月ちゃんの本当の気持ちを知らなかったら……更にはキミがいなくなったらさ、もっともっと傷ついて哀しむと思うよ」
「気持ちを伝えてみたら良いよ。別に他の人のことが好きでも、自分のことも好きでいてくれるなら好き、って言ってくれる人、ホントにいるよ」
 冥に続いて萌花が訴えかける。
「理解ってもらえる筈ないとか、勝手に決め付ける前に……まずはちゃんと話してみたら?」
「でも、理解ってくれなかったら……そうしたら何もかも台無しじゃない!?」
 少しだけ意志をぐらつかせる葉月。でも、皆が理解を示したところで、それは彼女が求める相手ではない――まだ色濃く残る強い思い込みが破壊の閃光となって迸る。
 だが、芽依とルーシィドに向けられたそれを、冥と萌花が身を以て防いだ。

●それは、どちらも失うことだから
 閃光が収まり、ルーシィドは助かりましたと一礼しつつ前に出る。
「葉月様……理解してもらえなかったらという、その苦しみは、葉月様だけが感じたもの。よく考えてください。大樹様が苦しませている訳ではありません。大樹様には決してあなたを傷つける意志はありませんわ」
「何!? 私が勝手に苦しむのが悪いって言うの? そうよ。私の勝手。だから、その原因を自分で取り除くの!!」
 言いたかったことが思うように伝わらない。
「いいえ、誰が悪いということではありません。大樹様が、葉月様を好きであることは罪ではないはずです。もちろん葉月様が大樹様を好きであることも……。人が人を好きだというのは、悪しきことではない――その想いは罪ではありません」
 罪でないなら罰もない。よく思い出してください、と。
「違う! 好きが罪じゃなくたって、私が2人を好きなのは罪。だって2人同時に付き合うなんて裏切りだもん」
 あくまで意志を曲げない葉月を睦がハグ。
「……つらかったんだね、苦しんでたんだね。でも、1人で悩まなくても良いんだよ。もう苦しまなくても良い。ぜんぶ受け止める」
 そして零距離からの拳。それは心を打ち抜く一撃。
「恋愛でも恋愛じゃなくても根っこは同じ。私も路上ライブのファンはみんな大事。みんなに気持ちを届けたいし、一人だけ選んで好待遇しろとか言われたら悩みすぎて病んじゃうと思う。だから……大切な人が複数できちゃうのは、特別で罪深いことではない、と思うよ」
「そう思います。大樹さんももう1人の方も、あなたの事を好きって言ってくれてるんですよね。だったら、2人ともあなたが苦しんだり悩んだりするのを見たくないと思うのです。ですからもう終わりにしましょう。そして、終わったら落ち着いて2人に相談してみてください」
 今なら届くかも知れない、と芽依が言葉を足す。が、『相談』するのは楽なことじゃない。それをよく知っている冥は、穏やかな表情で声を掛けた。
「『同時に別の人を好き』なんて告げて、彼らを傷つけるの辛いよね。でも考えてごらん。二人とも、葉月ちゃんの本当の気持ちも知れず、更にはキミがいなくなったらさ、もっともっと傷ついて哀しむよ」
「居なくなる……私が?」
「そーだよ! 今ここで大樹を殺しちゃったら身も心もビルシャナになっちまうんだ。そしたら1番くんとフツーの恋愛は無理だし……もし後のことなんか何も考えてなかったり、ここで無理心中とか考えてんなら大樹の気持ちガン無視の自分勝手女だけど、それでいーわけ?」
 どうやら分かっていなかったらしい葉月にムカついて、玲衣亜の声が大きくなった。
「私もビルシャナに……? だって好きなひとが1人になったら大丈夫、って」
 やはりそこまでの考えはなかったらしい。そこで萌花が少しだけ落ち着いて話す。
「ビルシャナとの契約で大樹くんの存在を消すってゆーのはさ、その後、葉月ちゃんが葉月ちゃんじゃなくなって消えちゃうのと同じことだよ。そしたら、1番くんとの恋どーなんの? なんのために大樹くん消すのってならない?」
 そう、結局はどっちも手放すのと同じじゃないの、と。
 そんな気持ちは譲葉も同じ。
「お前のしているのはどちらも失うかもしれないことだ。これから先、今とは違う一番目が出来たとしたら、お前はまた同じことを繰り返すつもりか?」
「2人とも失くす……そんな!!」
「やっぱり。ビルシャナに『真面目な彼は二股なんて認めてくれない』って唆されたんだろう?
 ……戻っておいで。ちゃんとキミのままでキミの想いを伝えに行こうよ」
「騙された契約なんて、反故にしちゃえばいいんじゃね」
 葉月を取り戻すべく、冥と玲衣亜が告げた。
「私……私……」
 葉月の唇が小さく震えていた。そして長い長い間を置いて、
「私が間違ってました。契約を解除します!」
 心から発した台詞。紀美が心から安堵した。
「お互いすきなのに付き合えないって、それがもう罰なんじゃないかなーって思うんだー。だからもう、これ以上の罰なんて、いらないんじゃないかなぁ」
「認めん。契約解除なんて、もう認めない!」
 葉月の内から、得体の知れない声が響く。ビルシャナは葉月を返す気など毛頭ない様子。
「認めない? 解除できない? いや、解除はできるし、葉月ちゃんはもう契約を解除した……ブラフ? いいや、違うよ。長かった遊びも、もう終わり……教えてよ、用済みになったお前さんの気持ちを。喋れるうちに、さぁ」
 足掻くビルシャナの精神を壊すべく、冥が本気で揺さぶる。
 が、ビルシャナは自己暗示により回復を図る。
 萌花が古代語魔法を詠み、石化の光を浴びせる。と同時に、抵抗する時間を奪う凍結弾を放つ芽依。さらに皆も一斉に攻撃。
 苦し紛れに再び鐘を鳴らすビルシャナ。
 譲葉が、辛うじて紀美の分を肩代わり。その一方で眼差し鋭くビルシャナを睨み返した。
 迫力に押され、本来ならトラウマを与えるはずの鐘の音がみるみる小さくなってゆく。その隙に間合いを詰め、死角から鐘に拳を叩き付ける睦。その拳に宿るは中和の力。

●罰とは罪に与えられるもの
「ビルシャナ……あなたはここで消えゆくでしょう。罰とは罪に与えられるべきもの。ならば罰とは葉月さんに下されるものではなく、あなたに与えるべきもの……さぁ、数えてください」
 ルーシィドの予言。その声音は澄んでこそいるが、この上なく冷たく聞こえた。
「きみきみ」
 進むカウントに合わせるかの如く、玲衣亜と紀美が息を合わせた。
 放たれた矢がビルシャナに突き刺さると同時に、激しい爆発が辺りを包んだような。が、その爆発が壊したのは葉月ではなく内なるビルシャナ。
 葉月の身体に宿りしデウスエクスは、末期の言葉すら発せず、消えていったのだった……。

 ――それからのこと。
 用具倉庫を治したケルベロスたちは、葉月が再び目を醒ますのを待ってから大樹の元へと連れてゆく。
 はじめは怖じ気付き嫌がった葉月だったが、先ほどまでの皆の言葉がまだ記憶に新しい。
 ……想いをきちんと伝えよう。
 ……恋愛にも色んな形が。
 ……決めるのは1人じゃない。
 ……相手だって悩んでる。
「大丈夫だよ! 大樹さんにはお願いしておいたから。肯定するにしても否定するにしても、葉月さんと真剣に向き合ってあげて、って」
「じゃあ行こっか」
 葉月の手を取った玲衣亜。
 これから先は、彼女たち次第。どちらかを選べなんて言える訳ないし、ましてやそれぞれを騙し演じろだなんてのは……。
 どうなるにせよ、悩むこと、苦しむことはまだいっぱいあるだろう。けれど乗り越えるのは1人じゃない。好き合っていても言葉でなきゃ伝わらないこともある。一緒に悩み、一緒に乗り越えていけば良い。
 ――それは、葉月たちに贈る言葉でもあり、恋愛に限らず自らが心するための言葉でもある。ケルベロスたちはそんな想いを噛み締めながら、静かにその場を後にした。

作者:千咲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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