愛欠けた略奪者

作者:澤見夜行

●その狙いは……
 リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)は雑事を終え帰宅の途についていた。
 少しばかり遅くなってしまったかもしれない。帰りを待つ妻の顔が目に浮かんだ。
「待たせるわけにもいかない、急ぐとしようか」
 慌てて怪我をするわけにもいかないが、ゆっくりと歩くという気分でもない。
 愛する者を待たせないためにも幾許か急ぎ、帰りの道を往く。
 いつもの道を歩き、交差点を曲がったところで、不意に、人の気配が消えたような気がした。否、人の気配がなくなったのだ。
「なんだ……?」
「ハァイ? ご機嫌いかがかな?」
 突然話しかけられ振り向くと、そこには見るからに軽薄そうな男――デウスエクスが一人。
「突然だけど、オレ、アンタの奥さんに超気に入っちゃったわけよ。
 オレの物にしたいけど、やっぱりアンタが邪魔でさ――」
 そこまで言うと、殺意漲る視線を向けて、
「アンタ、死んでくれない?」
「……ふん、デウスエクスにも貴様のような奴がいるとはな。
 妻を狙うといわれてハイそうですかと従えるものか」
 リューディガーは荷物を下ろすと、武器を構える。
「覚悟するのは貴様の方だ!」
「フフフ、さぁてさっさと殺して奥さん頂こうとしようかな♪」
 リューディガーの妻を狙う『愛』を欠損するドリームイーター、ネイト・ローとの戦いが始まった――。


 集まった番犬達にクーリャ・リリルノア(銀曜のヘリオライダー・en0262)が説明を開始する。
「リューディガーさんが、宿敵であるデウスエクスの蹴撃を受けることが予知されたのです。
 急いで連絡を取ろうとしたのですが……残念ながら連絡をつけることが出来なかったのです」
 クーリャの言葉に同席していたセニア・ストランジェ(サキュバスのワイルドブリンガー・en0274)が頷いて、
「一刻の猶予もないな。リューディガーが無事なうちに、なんとか救援へ向かおう」
 と、番犬達に声を掛けた。
 続けて敵の情報をクーリャは伝える。
「敵はドリームイーター一体、配下などはいないのです」
 手にした鎖で捕縛する攻撃に、伸びる尻尾で相手の武器を封じる攻撃、ドリームイーターらしくモザイクによるヒールももっているようだ。
「周辺は敵の能力によって人払いがされているので、避難誘導の心配はないのです。思う存分やっちゃってほしいのですよ!」
 説明を終えたクーリャは資料を置くと向き直る。
「敵はなんだかとてもキザで嫌な感じな奴なのです。女の敵って奴なのですよ!」
「女を食い物にするような輩は許してはおけんな。微力ながら、この力振るわせて貰おう」
「心強いのです! リューディガーさんを救い宿敵の撃破をお願いするのです!
 どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ!」
 ぺこりと頭を下げたクーリャが、番犬達を送り出した。


参加者
アレクセイ・ディルクルム(狂愛エゴイスト・e01772)
木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・e02879)
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)
ラギア・ファルクス(諸刃の盾・e12691)
黒木・市邨(蔓に歯車・e13181)
スヴァリン・ハーミット(隠者は盾となりて・e16394)
アルベルト・ディートリヒ(昼行灯と呼ばれて・e65950)

■リプレイ

●怒りに震える
 ネイト・ローという夢喰いは、『愛』という物を知らない。
 生まれ出でた時より『愛』を欠損し、モザイク化していたからだ。
 故に、モザイクを晴らすため、『愛』を語り、『愛』を受け入れ、『愛』を与える。それが自分勝手な想像の中で生まれた物であってもだ。
「フフフ、アンタの奥さんは可愛いよねぇ。
 金髪のゆるふわでさ、ああいうの森ガールって言うんだっけ?
 ああいう女を痛めつけてさ、オレの『愛』を知って貰うわけ。苦痛に歪んだ顔が、次第に諦観に変わっていってさ、その時思うわけ、ああ、オレ今この女に愛されてるってさ」
 歪んだ価値観を笑って聞かせるネイト・ロー。
 その言葉にリューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)の心は沸点を向かえる。
「黙れ! その淫猥な顔、その悪辣な口で妻を語るな!」
 構えた銃口が火を噴き、ネイト・ローの足を穿つ。だがまるで痛覚など感じないようにネイト・ローは邪悪な笑みを浮かべるように顔を歪める。
「そうやって互いの『愛』を確認したときにさ、こうブスっと鍵を刺すわけよ。
 今までの女どもではオレのモザイクは晴れなかったけれど、アンタの奥さんならきっとオレのモザイクを晴らしてくれると思うんだよね。
 だからさぁ、やっぱりアンタは邪魔な訳よ――!」
 尻尾を振るいリューディガーに反撃をするネイト・ロー。リューディガーは咄嗟に横飛びするとその一撃を躱した。
 怒りに震え心を燃やすリューディガーは、しかし冷静にネイト・ローを睨み付ける。
 今この場に妻が居ないことは幸運と言ってもよかった。その事をリューディガーは天に感謝する。
 こんな薄気味の悪いストーカー野郎に狙われる恐怖など、知らないに越したことはないのだ。
「貴様のようなゲス野郎に、むざむざと殺されてなどやるものか。
 その減らず口が二度と叩けぬよう、今ここで引導を渡してくれる……!」
 放つ銃弾はネイト・ローの構造的弱点を見抜き貫く。噴き出るモザイクの塵は血潮のようで、確かな手応えを感じさせる。
 だが、やはりネイト・ローの表情は変わらない。些細な痛みなど感じぬと笑みを浮かべる。
 どんなに軽薄であろうとも、この相手はデウスエクスなのだ。番犬一人で戦うには荷が重い相手であるのは間違いはない。
 だが、リューディガーは引くわけにはいかなかった。
 ここで引いたところで、必ずこの相手はしつこく自分と妻を狙うに違いなかった。いや、それ以上に、妻を狙うと宣言するような相手から引くことなど、男としてできるはずがないのだ。
 これは男としての意地を通す場面だ。
 自身の誓った愛を貫き通すために、たとえ不利であったとしても、引くことなどできるわけがないのだ。
「はんっ。無理を通そうとするねぇ。オレそういう暑苦しいの嫌いなんだわ」
 つまらなそうに言うネイト・ローの気配が変わる。湧き出る殺気が、いよいよ本気になったのだと知らせる。
 覚悟を決めるリューディガー。しかしそんな彼には心強い仲間が多く居た。
「愛を守る為に戦う。男の背中、すぐに見つけられました。
 ――ご無事ですか、リューディガーさん。さぁ、あの不埒者を倒しましょう」
 アレクセイ・ディルクルム(狂愛エゴイスト・e01772)を先頭に、九人の番犬達が現場に到着する。
「皆、来てくれたのか……感謝する!」
 番犬達が揃った所で、ネイト・ローが軽薄な笑みを浮かべたまま肩を竦める。
「嫌だねぇ、男ばっか揃って。……と、可愛い女の子に気の強そうなお姉さんもいるじゃない。ちんまいのは……もう少し育ってからだねぇ」
 イヤらしい目を向けるネイト・ロー。彼はデウスエクスらしい(?)勘違いを見せていた。
「ちんまいとはわたしのことでしょうか!? わたしこれでも十九歳なんですが!!」
「逆に私は十三だけど……」
 サポートで参加したラリー・グリッターがぷんすこ怒り、親友であるところの四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)が冷たく視線を向け目を細める。
 その身長差はわずか一センチというところだが、デウスエクスの目にはそう見えるようだった。
 気の強そうと評されたセニア・ストランジェは涼しい顔だが、その実リューディガー同様に怒りを燃やしていた。
「迎えに来たぞ、ドリームイーター。地獄に帰って寝んねする時間だ」
「愛欠けた略奪者。
 ――今晩は、そして、さようなら」
 ラギア・ファルクス(諸刃の盾・e12691)と黒木・市邨(蔓に歯車・e13181)も並び立ちリューディガーを守るように前にでた。
「助けに来たぜ、銀狼」
 大きな傷は負っていないが、念のためとリューディガーに治癒のグラビティを施す木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・e02879)がにやりと笑う。
「ドリームイーターと言っても紳士に振る舞って欲しいね。――そう、俺のようにさ」
 ノリとしてはネイト・ローに近しいものがあるのかも知れないが、スヴァリン・ハーミット(隠者は盾となりて・e16394)の態度は好感の持てる暖かいものだ。
 『紳士』であることにこだわりを持つ彼だが、そのイメージは些か斜めに曲がっていそうではあった。それがまた好感を持てる点なのかもしれないが。
 他の番犬達から一歩遅れて現れたのはアルベルト・ディートリヒ(昼行灯と呼ばれて・e65950)だ。
「通りすがりだが、男から見ても目障りな奴だな」
 静かに告げるアルベルトは続けてネイト・ローの欠損を指摘する。
「愛なし、甲斐性なし、ついでに顔悪しじゃ到底無理だな」
 その言葉にネイト・ローは目を細めて、
「あー、うざいわアンタら。オレむかついて来ちゃったなぁ……」
 ヘラヘラと笑いながら怒気孕む声色を見せる。
「皆、来るぞ――」
 リューディガーが銃を構えるのを合図に、番犬達もまた武器を構える。
 瞬間膨れあがる殺気が、びりびりと肌を震わせた。
「オレの『愛』を、アンタらにも見せてやるよ――!」
 『愛』を欠損した略奪者が、その牙を剥いた――。

●愛守り貫くこと
「はっはっは――! どうした!? どうしたァ!!?」
 ネイト・ローの手にした鎖が意思持つように縦横無尽に空間を走り、番犬達の動きを絡め取る。
 少しでもその拘束に抗うのをやめれば、即座に音速を超えて伸びる尻尾を叩き込まれる。
 相手を拘束し、暴力による恐怖を叩き込むネイト・ローの攻撃手段は、まさにその性格、生き方を体現するようだった。
「全く……他人の妻を奪おうとするなんて、いけませんね。
 ――リューディガーさんには悪いですが、私の姫君が狙われなくてよかったです」
 宵空の髪靡かせ洗練された動きと勢いままに、流星をその身に宿して蹴りを放つ。アレクセイの一撃が重力の楔を生み出して、ネイト・ローを釘付けにする。
 足を止める一撃を受けながら、ネイト・ローがニヤリと気色悪い笑みを浮かべた。
「アンタにも女がいるのか。次はそいつにしようかな?」
「……殺します」
 ニコリと笑みを返しながら殺害を予告するアレクセイ。その行動原理は愛する姫への愛だ。
 竜語を高速詠唱すれば掌より『ドラゴンの幻影』を放ち、ネイト・ローを炎に包んだ。
 千里の瞳が茶色から緋色に変わる。戦闘へと意識が切り替わるのを知らせるものだ。
「チェレスタへは手出しはさせない……」
 前衛の後ろから一足飛びに飛び出すと同時、和の意匠が美しい機甲靴”雪月花”に『花』の文字が浮かび上がる。
 勢いを殺す事なく放たれる鋭い蹴りがネイト・ローの腹部を抉った。同時、衝撃が『花』を散らすように火花が咲き乱れる。その様は美しき花吹雪だ。
 吹き飛ぶネイト・ローを見据えれば、極限の集中力が力となって爆発する。連続で叩き込まれた千里の攻撃にネイト・ローが顔を歪めた。
「女が、オレにチョウシくれてんじゃねーぞォ!?」
「女だ男だって、ふざけた奴だよな、アンタ」
 ネイト・ローの攻撃が止まった隙を見て変幻する即興曲を歌い奏で、回復に専念するウタ。
 ウタは思う。他者から無理くり略奪したところで欠損した『愛』が埋まるわけはないのだと。
「は! オレの愛がわからねー奴に言うことはねぇよ!」
「その無理筋も、アンタの中で道理が通ってんだとしたら――哀れだな」
 愛の欠損に踊らされる者。哀れな彷徨い人だ。
 同情するわけではない。だが、その様な無意味な彷徨いから解放してやろうとウタは思った。
 かき鳴らす調べと響く歌声。運命を切り裂く風は仲間達の傷を癒やしていった。
 ネイト・ローの執拗な攻撃から、スヴァリンが身を挺して仲間達を守る。
 元は防御特化型のダモクレスであるスヴァリンにとって、護る為の戦いこそが信条だ。
「他人の恋人さんを狙うなんて、紳士的じゃないよ!
 しかも、物扱いはどうかと思うんだけどな!」
 仲間達を守りながら、スヴァリンの放つヒールドローンが仲間達を癒やす。ウタ一人では補い切れない部分をカバーし、磐石の構えを作り出す。
「イージス! 皆は俺達で守るよ!」
 サーヴァントのイージスに指示をだしながら、仲間達を守る盾としてスヴァリンは立ち回る。新たに展開するドローンがリペアモードとなって治癒光照射した。
 スヴァリンと共に仲間を守る盾として動くのはラギアだ。
「今まで何人食らって来たかは知らないが。狙った相手が悪かったな」
 雪色のオウガメタルがオウガ粒子を放ち仲間達の集中力を高めれば、自らも武器を手に、果敢に攻め込む。その立ち位置は、いつでもリューディガーを庇える位置取りだ。
 鴨頭草と百郡色の剛斧を頭上で輝かせれば、全力でクロスに振り下ろす。叩きつけられた竜の名を冠する武器の一撃がネイト・ローの骨を砕く。
「彼を殺したところで、お前は彼になれない。諦めて眠ってくれ」
「フン、あんな男に必要はないさ。オレの愛を与え、分からせればそれでいいんだよ!」
 振り乱れる尻尾を紙一重で躱すと距離をとったラギアが、地獄を注ぎ込んで武器をクロスボウに変化させる。螺旋状に捻れた黒矢が耳を劈くような叫び声を上げながらネイト・ローに突き刺さると、モザイクによる修復を阻害した。
「――蔓、草、出番だよ。往っておいで」
 市邨の呼びかけに、二体の攻性植物がネイト・ローに襲いかかる。勿忘草の咲く女の子――蔓は棘を持ちネイト・ローの肌を傷つけ、イペーが咲く男の子――草がネイト・ローの動きを絡め取る。動きが止まれば、そこに『ドラゴンの幻影』を叩きつけ、炎で包み込む。
「弱点掌握、――突く」
 冷淡に告げ、疾駆する市邨の鋭い突きがネイト・ローの弱点を穿った。
「――意識、掌握」
 晄る左眼、遷ろう意識。強大な力で畳みかけられる市邨の連続攻撃がネイト・ローを襲う。
「――焦ってるのかァ!? オレの力が怖いのだろぅ!?」
「別に。
 帰りを待つ奥様の元に、早く旦那様を帰してあげないといけないから、ね」
 にべもなく返す市邨。焦っているのネイト・ローの方だと感じさせた。
「他人の恋路を邪魔する奴は番犬に蹴られて死んじまえ」
 女性の敵と言うことは、その女性を好いてる男性(女性)の敵でもある訳だと、アルベルトは言う。
 で、あれば。容赦なくボコボコにするのが道理と言うわけだ。
「人類の敵に死罪を申し渡す! ……なんてな」
 アルベルトの流星の力を込めた一蹴がネイト・ローを釘付けて、足を止めたその隙を狙って一気に肉薄する。
「チャラい面にぶち込んでやるよ」
 『零の境地』を拳に乗せて、言葉通りそのニヤついた顔を殴り飛ばす。ピシりと音がなって端正な顔に石ヒビが入った。
 ネイト・ローが怒りに震えて反撃する。腕に絡まった鎖が力任せに振るわれて地面に叩きつけられる。
 受け身を取って衝撃を逃したアルベルトが、「えげつない手だが、構わんよな」と衝撃波を飛ばした。
 具現化されたトラウマがネイト・ローを襲い、魂引き裂く痛みを与える。
「愛の欠けてる奴に効くのかね、これ」
 ぼやきは空へと流れていって。見た目には効いているようだが、どの程度効果があったのかはネイト・ロー本人に聞く以外ないだろう。
「久々に私の心が怒りに震えているのがわかる。
 女性を食い物にするなど、許せるものか。さぁ、ワイルドの力よ、もっと私の怒りに応えて見せろ!」
 セニアのワイルド化した右目と左腕がゆらりと揺れる。迸る混沌の水を力に変えて仲間達へ浴びせ、ネイト・ローのもたらした阻害を打ち払っていった。
 ――番犬達の猛攻はネイト・ローに焦りを与えていた。
 番犬達の戦闘能力が計算外であった。こと、ここに来て、ネイト・ローは次なる機会を狙うことに、考えをシフトしていた。
 そう、つまり、逃げの一手を打つのである。
 周囲を見渡しながら逃走経路を模索する。
 だが、戦闘でめまぐるしく動く陣形の中に生まれるであろう穴が見当たらない。そうサポートで参加していたラリーが逃亡阻止を主体として動いていたのであった。
(「あんのちんまいのがぁ!」)
 焦りは考えを表面化させる。逃げようとするネイト・ローの動きを番犬達が察知した。
「気をつけろ、逃げようとしてるぞ!」
 ウタの声掛けにアレクセイと千里が即座に動く。
「逃がしはしませんよ」
「逃げようなんて無駄……絶対に殺す」
 アレクセイの罪過の黒棺が漆黒の茨を持って追い詰める。そこに千里の千鬼流壱ノ型による刃状のエネルギーが一閃しネイト・ローの足を切り裂いた。体勢を崩したネイト・ローに市邨が襲いかかる。
「逃がさないよ。
 御前は此処で終わるんだ――」
 大切なこころがわからぬものに、渡せるものなど何も無し。狂え、狂え、最後の宴。
 左眼で無表情に見据える市邨の猛攻がネイト・ローを打ち据える。
 そこに、リューディガーが疾走し肉薄する。
「俺は許さない。甘い虚言と詭弁で心を惑わし、恐怖と暴力で捻じ伏せ支配する貴様の在り方を」
 叩きつけるグラビティは怒りに伴い、苛烈にネイト・ローの身体をモザイクの塵へと変えていく。
「――だが何より許せないのは、それらを口先だけの『愛』という美名で飾り立て正当化し、愛を冒涜することだ。
 人を愛すること。その感情を、心を、舐めるな――!」
 命をかけて守ると誓った、最愛の妻の顔が浮かぶ。その笑顔をこんな奴によって曇らせることなどさせはしない。
 想い込めた全力の一撃がネイト・ローに直撃し、ついにネイト・ローは大の字に倒れた。
 倒れたネイト・ローに銃口を向けるリューディガー。この距離ならば外すことはない。
 虫の息でニヤケ顔を浮かべるネイト・ローが呟いた。
「アンタの奥さんにオレの愛をぶつけたかったぜ……きっと泣いて喜――」
 乾いた銃声が幾度か響いた。
 穿たれた胸部からモザイクが塵のように舞っていき、それはネイト・ローの全身を包み込んで散っていく。
「……二度とそのニヤケ面と戯れ言で愛を語るな。虫唾が走る」
 リューディガーの冷徹な言葉が風に乗ってモザイクと共に空へと昇っていった。
 こうして愛欠けた略奪者は、愛守り貫く男と番犬達によって倒されるのだった――。

●幸せ待つ家へ
「……此度の救援、心より感謝する」
 ヒールを終えた番犬達に、リューディガーが礼をすると、番犬達は笑って返した。
「魅力的な女性は大変ですね」
 アレクセイにも何者にも代え難い妻がいる。此度の戦いにおけるリューディガーの想いは理解できた。
 ウタの奏でるメロディアスな鎮魂曲が風に乗って流れていく。
「今度生まれ変わったら、愛が分かっていることを願ってるぜ」
 蒼き地球で安らかに。デウスエクスを弔うウタは優しい。
「次は優しいこころが解るもので在れたらいい、ね」
 同様に、生まれ変われることを願う市邨は攻性植物に話しかけ、大切な場所への帰路を思い描く。
 そこで待つ笑顔を想像して、思わず微笑んだ。
「千里ちゃーん、いえーい!」
「ん……いぇい」
 ラリーと千里が勝利を祝ってハイタッチ。小柄な二人の少女のやりとりは平均年齢の高い男性陣の中にあって華やかだ。
「チャラくてゲスくて男女に嫌われそうな相手ではあったが――」
 ラギアは似たような友人の顔を思い浮かべ苦笑した。
「チャラいと言われても紳士であれば良いんじゃないかな?」
 スヴァリンの言葉に「そうかもな」とラギアは笑って返した。
「あ、姫にお土産を買って帰りたいので、後でリューディガーさんのお菓子屋さんに寄らせて貰いたいです。大丈夫ですか?」
「ああ。構わないよ」とリューディガーが返す。少しそわそわしていた。
「さて、帰るか。世話になったな。奥さんにも宜しく伝えてくれ」
 そんな様子を見たアルベルトは手早く挨拶を済ませると家路に着いた。早く妻に会いたいであろうリューディガーの邪魔するのは野暮だと気を利かせていたのだ。
「……んじゃ早く嫁さんの所へ帰ってやんなきゃな。
 他のメンツは拉麺でも喰ってこうぜ。セニアも来んだろ?」
「ああ。それもいいな。付き合おう」
 ウタの言葉にセニアが瞳を伏せながら微笑み返した。
 気を利かせてもらったのだと感じたリューディガーが苦笑しながら「すまない」と返すと、簡単な挨拶を残して踵を返す。
 帰るは幸せ待つ家だ。
 今日あったことを知らせるべきか、帰りが遅くなった言い訳をどうしようか。
 妻と――愛するチェレスタと早く話がしたかった。
 妻の顔を思い浮かべながら、夫は帰路を駆けるのだった――。

作者:澤見夜行 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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