海底基地攻撃作戦 ポセイドンのトリアイナ

作者:そうすけ


 駿河湾海底、最深部2500mに穿れた巨大海底洞窟。
 分厚い鉄の扉がゆっくりと開いていく。濃紺の海底に一筋、光が刷かれた。水圧の変化が生じて乱水流が起こり、地底に降り積もった堆積物が巻きあげられる。
 マリンスノウが降りしきる中、潜水艦型ダモクレスが数体のディープディープブルーファングを伴って静々と、光と騒音であふれる海底洞窟の出入り口を出ていく。
 潜水艦型ダモクレスは隊列の最後が巨大海底洞窟を出たことを確認すると、回頭し、ゆっくりと深度を上げていった。
 潜水艦型ダモクレスはディープディープブルーファングを何処へ連れて行こうとしているのか。行きつく先で惨劇が起きるのは間違いない。
 不気味なダモクレスたちの行進に驚いて、クラゲがあたりの海から姿を消した。


 ヘリオライダーのゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)は資料に目を落とし、少し難しそうな顔をしてから口を開いた。
「最近、多発している『ディープディーブブルーファング事件』に関して、新たな事実が発見された。……というよりも、フェルディス・プローレット(すっとこどっこいシスター・e39720)が予測したことの裏付けが取れたとここはいうべきだね」
 『ディープディーブブルーファング事件』とは、死神が鮫型のダモクレスを利用して起こしている一連の破壊活動だ。
 両デウスエクス陣営の動きに注目したチーディ・ロックビル(天上天下唯我独走・e01385)が、多くの賛同者と共に調査を行い、死神とダモクレスが合同で運営する秘密基地を駿河湾海底で発見していた。
「この秘密基地では、ディープディープブルーファングの量産が行われているんだって。たくさんあるダモクレスの作戦基地の一つみたいだね。今日集まってくれたみんなには、この海底基地の破壊をお願いするよ」
 ゼノはさらりと言ってのけたが、今回の戦場はいつもと勝手が違う。出撃先は日本で最も深いと言われている駿河湾の海底なのだ。
 ケルベロスの何人かは胸の前で腕を組み、眉間に深い皺を刻んだ。
「うん、みんなの不安は解るよ。でもケルベロスは海の中でも戦える……息ができないから、ちょっと苦しいかもしれないけど、それでダメージを受けることはないよ」
 窒息することで呼吸器系にダメージを受けるが、それはグラビティによる攻撃ではないために実質ケルベロスには無害だ。だからと言ってなんの慰めにもならない――。
「あ、そうだ。忘れてた。海底で不自由しないように、アクアラングや照明などの装備をこっちで用意しているんだ。なくても動けるけど、とくに理由がないならつけたほうがいいと思うよ」
 それを早く言え、とヤジが飛ぶ。
「あはは、ごめんごめん。でね、研究所直上の海上まではヘリオンで送るから。上から海に直接ダイブしてね」
 高高度からの落下はいつものことなので、とくに不満の声は上がらなかった。いつもとの違いをあげるとすれば、海面を割るときに少々衝撃を受けるぐらいか。
 ゼノは敵勢力の説明に移った。
「海底基地は海底の洞窟内部にあって、至近距離まで近づくと潜水艦型ダモクレスとディープディープブルーファングが迎撃に出てくるよ。ディープディープブルーファングは死神の因子が植えつけられていないため戦闘能力は低いけど、数が多いので注意して。迎撃に出てきた潜水艦型ダモクレスの過半数を撃破すれば、敵基地は自爆するからその時点で作戦は成功……なんだけど」
 ゼノはそこで一旦口を閉ざした。唇に軽く曲げた指をあてて、考え込む。
 ケルベロスたちが沈黙に痺れを切らし始めると、ゼノはようやく顔を上げた。
「基地自爆後、敵は戦闘意欲を失うから安全に撤退できる。そのまま殲滅してもいいんだけど……もしも、自爆前に余裕があれば、内部を調査することで得られるものがあるんじゃないか……って、これはボクの勝手な予測だけど、次の一手につながるものが手に入りるような気がするんだ」
 もちろん、無理強いするつもりはないとゼノは言った。本作戦の目標はあくまで『敵基地の破壊』にある。
「潜水艦型ダモクレスは、ミサイルと魚雷で攻撃してくるよ。各チームで一体ずつ相手をすることになる。ディープディープブルーファングのほうなんだけど、『強そうなチームや、派手な活動をしているチーム、先頭で突っ込んできたチーム』を好んで狙うみたいなんだ」
 ディープディープブルーファングの数は決まっているらしい。つまり、自分達がより多くのディープディープブルーファングを引きつければ、他のチームが相手をする数が減る。
「ディープディープブルーファングをたくさん引きつければ引きつけるほど戦闘が激しく長くなる。そのぶんだけ、工場の探索をする時間が無くなるよ。自分たちがどちらに比重を置くか……他のチームとよく話しあって決めて欲しい」
 ちなみに海中ではチーム間で連絡が行えない。
「いつものことだけどね。そういうことだから、現場にくつまでに決めて」
 最後に、とゼノは話を締めくくりに入った。
「ダモクレスが、何故死神に協力しているのかはわからないけど、この工場を叩けば作戦を阻止する事ができる筈だよ。がんばって!」


参加者
アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)
エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)
ユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)
ルーク・アルカード(白麗・e04248)
淡島・死狼(シニガミヘッズ・e16447)
風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)
キアラ・エスタリン(導く光の胡蝶・e36085)
デュオゼルガ・フェーリル(月下の人狼・e61862)

■リプレイ


「水に落ちたぐらいでは死にませんわよ!」
 扉が開かれると当時に、エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)は空へ飛び出した。
 たてがみをなびかせて、富士山に見守られながら晩夏の海へと落ちていく。
(「しかし、このような形で海水浴に出るとは思ってもみませんでしたわね……」)
 作戦では先行チームが出撃してきた敵の多くを引きつけ、その隙に自分たちの他二チームが基地内部を探査することになっている。ただし、すべての敵が倒されると同時に基地が自爆するので、のんびりと見て回る時間はない。危険と隣り合わせの任務だ。
(「ともあれこれから何かやるであろうダモクレスの計画は叩き潰すに限りますわ」)
 エニーケは腕をまっすぐ顔の前に伸ばすと、体をピンと伸ばし、波打つ水面を割って海に入った。
 飛び込んだとたんに無数の泡に包まれた。一瞬、視力と聴力が奪われる。
 ユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)は僅かに胸が騒ぐのを感じたが、肺に空気が満ち始めると自然に消えしまった。
 何が引っかかったのか。突きとめようとした矢先、顔の横で何かが激しく動いた。見ると、ウイングキャットの『なんか可愛いヤツ』が水中で小さな体をクルクルと回している。
(「ぷっ――」)
 目と目があった一瞬に、『なんか可愛いヤツ』が口を開けて何か言った。笑いごとじゃないニャ、だろう。たぶん。
 ユスティーナは手を伸ばして回転を止めてやった。
 微笑ましい光景を目撃したキアラ・エスタリン(導く光の胡蝶・e36085)は、肉体が受けた入水の衝撃が和らいだような気がした。
 『なんか可愛いヤツ』の尻尾越しに手を振る。
(「チーディーさんが苦しさに耐えながら見つけた駿河湾の秘密基地の情報、絶対に無下にできませんね。有益な情報を見つけて帰りましょう」)
 頷きが返されると、キアラは膝を抱えて体を回して頭を下にした。
 あちらこちらが出っ張った陸上の生き物は、イルカや魚たちと比べて泳ぐのに適しているとは言いがたい。
 そういうワケで、つい最近泳げるようになったルーク・アルカード(白麗・e04248)は水底に潜ることに若干の不安を感じていた。
(「それでも重要な任務なので頑張ります」)
 動物変身は使わず、あえて白狼のまま犬かきで海底を目指す。
 アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)は、穴を通って異世界へ落ちていくような錯覚にとらわれていた。
 美しく深い駿河湾は、絵に見るような高く険しい形の岩に囲まれており、その岩の間をさまざまな形や大きさの魚やクラゲが生き生きと泳いでいる。ほんとうに異世界、いや別の惑星に来てしまったようだ。
 深く潜るにつれて、アリスの周囲からひとつ、ひとつと色が消えていった。
(「……色は光なんなですね」)
 光の届かない世界の入口は様々な青で埋め尽くされていた。やがてその青すら姿を消して、世界はモノクロへ変わった。
 暗闇に白い海雪が静々と降り落ちる。
 風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)は海雪――その正体はプランクトンの死骸なのだが、吹雪かせることなくひっそりと体を沈めていった。
(「ダモクレスと死神の工場、ねぇ?」)
 なるべく頭を動かさず、目で舐めるように海底を広く視野に捕える。時折、頭だけ大きな奇妙な魚や巨大な目をした大きな魚が通り過ぎていく。
 直後、青く大きなものが小さな影を連れて真横を泳ぎ越していった。
(「びっくりした。サメかと思ったよ」)
 隠密気流は深海でもちゃんと利いているようだ。デュオゼルガ・フェーリル(月下の人狼・e61862)は錆次郎に気づかなかったらしい。あっという間にライトの光の外へ消えていった。
 デュオゼルガは海底に降りたった。雪けむりが舞うように泥けむりがたち上る。体が泥に沈んであわてて浮き上がった。海底から少し浮いたところで体を制止させて泥が沈殿するのを待つ。
(「アマゾンで潜ったりはしたけど、まさか駿河湾を潜ることになるとは……。死神はもちろん関係する情報がなにか収集できるといいんだけど」)
 視界が晴れたところで周りを見た。
 深海にもこんなに生き物がいるとは! ただゆらゆらと漂っていたり、海底に横たわっていたりしているだけだが、ちゃんと生きている。
 その時遠くで爆発が起こり、衝撃波が深海の生き物たちを横流しした。断続的にオレンジ色の光が瞬きだす。
 敵と接触した先行チームが、戦闘を始めたようだ。
 淡島・死狼(シニガミヘッズ・e16447)が、九時方向から接近する潜水艦型ダモクレスにいち早く気づいた。
 黄色のケミカルライト振って仲間に襲撃を知らせる。
(「やらせはしない。奴らの想い通りになんて、させてなるもんか」)
 すでに先行チームが複数の敵を引き付けてくれている。いま迫る敵は、あとから海底基地を出て来た増援だろう。
(「僕は戦う。人間として、ケルベロスとして」)
 死狼は腕に巻きつけたケルベロスチェインを解いた。


(『空想と妄想の力、お借りします!!』 )
 潜水艦型ダモクレスへ向けてエニーケが組んだ両腕の先で光が膨らみ、手に神話の武器トリアイナの形をとる。
(「ここで手間取ってはいられません。早々に沈んでいただきます!」)
 ポセイドンの三又が海中を飛び、ダモクレス潜水艦に命中した。すさまじい爆発が起こった。炎を包括した巨大な水泡が、潜水艦型ダモクレスを包み込む。
 一撃で沈むとは思えないが、少なくとも足止めはできたはずだ。
(「みなさん、続いてください」)
 エニーケは赤いケミカルライトを握った手を大きく回し、仲間たちの奮起を促した。
 泡が溶けて小さくなり、炎の明かりか落ちていく。青い影が再び海中を埋めようとしている矢先、残った泡の向こうでオレンジ色の閃光が四つ瞬いた。泡の尾を引きながら四基のミサイルがケルベロスたちをめがけて進んでくる。
 ユスティーナが黄色のケミカルライトを振りながら、『なんか可愛いヤツ』とともに前へ泳ぎ出た。横にオルトロスも並ぶ。それでも――。
(「私たちで四基全てを防ぐのは無理。みんな気をつけて!」)
 ミサイル作裂の衝撃はすさまじく、盾となって味方を守ったユスティーナたちの体は海面に向かってぐっと跳ね上げられた。一拍の間、海中で停止し、砕けた破片とともにおびただしい泡を引きながら海底に落ちる。
 『なんか可愛いヤツ』とオルトロスの意識はしびれてしまっていた。
 間髪入れず、残る一基が自爆した。水中爆発の衝撃波がケルベロスたちに襲いかかる。水は空気よりはるかに強く衝撃を伝え、直撃を受けなかったものたちにも多少のダメージを与えた。
 ダモクレス潜水艦が追撃のため前進してきた。
 ユスティーナたちが海底に落ちて沈殿物が舞い上がれば、ライトの光か遮られ視界が利かなくなる。一時的なことであっても、相手がソナーを持つ敵とあっては絶対的不利な状況となるだろう。
(「ならば攻撃される前に、こちらから撃ちましょう」)
 キアラはお札を取り出した。
(『雪の翼を纏いて、胡蝶は羽ばたきを続ける……。耐えられますか?身も凍る胡蝶の舞に』)
 極度に冷たい光の胡蝶が呼び出されると、周囲の海水かたちまちのうちに凍って結晶化した。胡蝶たちが互いに青の結晶によって結びつき、一羽の巨大な蝶になっていく。
(「さあ、現実と悪夢の狭間に捕らわれなさい!」)
 キアラが指し示す敵に向けて、雪月胡蝶が青く煌めく巨大な羽を振った。海水が渦を巻いて潜水艦型ダモクレスに襲い掛かかる。
 攻撃によって凍てついた鋼の筐体はあたかも冥界へ送り込まれる氷の棺のように見えた。
 敵が接近に時間をかけている間に、アリスは仲間の傷を癒すことにした。
(「……やっぱり。ただ楽しいだけのダイビングとは……いかなかったみたいですね」)
 ワンダー・アリス・クロックを取り出し、黄金色のフタを開く。
(「歌なら、私も負けません……死神さんとダモクレスさん達との協力関係を阻止する為にも……紡ぎます、聖王女さまの歌……!」)
 海中でも音は伝わる。岩が崩れる音、魚の浮袋が鳴る音、ましてや今はダモクレス対ケルベロスの水中戦の真っただ中だ。あまりの騒がしさに音をより分けてちゃんと聞き取るには、特別な「耳」や「能力」が必要となる。世界を愛する者――仲間たちを癒す歌声は波となって広がり、傷ついた体を優しく洗い清めた。
 ルークは仲間が沈んで巻きあがったプランクトンの死骸を煙幕にして、潜水艦型ダモクレスに忍び寄った。
(「視界を奪われて有利になるのはお前だけじゃないぞ。魅せてやるぜ、正義の螺旋忍術を!」)
 敵の真後ろをとると、ルークは印を結んで三体分身した。
 潜水艦ダモクレスがはいきなり増えた敵に怯え、その大きさから想像もできない俊敏さを発揮して急回頭した。
(「かかったな。『ここだ! アサシネイト!!』」)
 深海の闇に紛れて敵の側面に移動すると、すかさず強烈な一撃を放つ。
 べこん、と潜水艦型ダモクレスの体が内側にへこんだ。
(「あまり長引かせたくないんだよね。早く沈めないと、探索の時間がどんどんへっちゃうよ」)
 ぼやきながら錆次郎が鋭く足を蹴り上げる。
 衝撃波が発生し、白い水泡を引く竜の牙となって筐体のへこみに食いつき、ダモクレスの固い外殻構造に複数のヒビを入れた。
 そこへ拳を握ったデュオゼルガが、水の抵抗をものともせず重量のある一撃を鋭く叩き込む。
 身体を包む強靭な殻が、割れた。
 潜水艦型ダモクレスの全身に稲妻のような亀裂が何本も走り、内部から青白い輝きを放っている。それでもなお、水圧に屈して大破せず、浮かび続けているのはさすがデウスエクスと言うべきか。
 ケルベロスたちはピン、という鋭い音を耳ではなく骨で聞いた。衝撃に備えて身構える。が、のこぎりの刃のように硬くて鋭い波は、ケルベロスたちに触れることなく明後日の方向へ進んでいった。
(「不発かよ。驚かせるなって。それにしてもでっけぇ潜水艦型だな……。探索もしないとならねぇし、攻撃はほどほどに、かな?」)
 デュオゼルガは死狼へ目を向けた。次で沈まなければ、放置して敵基地へ向かうべきだろう。すでにこの潜水艦型ダモクレスは脅威ではない。他のチームに掃討を任せてもいいのだ。
(「任せろ。オレが仕留める」)
 死狼は両腕の鎖を長く伸ばすと、巨大な敵の体に巻きつけ、ギリリと締め上げた。亀裂から断末魔の気泡が吹きだす。
(「うおぉぉぉ!!」)
 全速全身で重力の鎖の呪縛から逃げ出そうとするデウスエクスを、死狼は力づくで手繰り寄せると、勢いのまま振り回して海底に叩きつけた。
 海底の軟泥が吹き飛ぶ。まきあげられた泥の粒子は水中に滞留して、厚い雲のように立ち込め、ライトの光をさえぎり、ケルベロスたちをまったき闇の中に閉じ込めた。
 大爆発が起こった。
 隠れていた色が世界に戻ってきた。大量の気泡が無数の破片を取り込んで、泥の雲を払いながら上昇していく。
 泡の柱が消え去ると、ケルベロスたちの前方に光る小さな四角形が現れた。よく見ると、蛍火のよう小さな明かりがひとつ、またひとつと、四角い光の中に溶けていくのがわかった。
(「見つけた。あそこがダモクレスの海底基地だ」)
 再び黒く暮れゆく世界のなかで、錆次郎は発見を知らせる青いケミカルライトを振った。


(「急ぎましょう!」)
 エニーケを先頭にして、ケルベロスたちは海底基地へ向かった。
 遠くの方からシュッ、シュッ、シュッとスクリュー音が近づいてきた。通常、耳では捕えられない超音波を察知したのは、敵基地潜入を前にして全員の意識が鋭く高まっていたからだ。
(「あれは……ディープディープブルーファング!!」)
 キアラが赤色のケミカルライトを振る。
 三体のディープディープブルーファングが、海底基地へ向かうケルベロスたちの泳ぐ音を聞きつけて三方向から集まってきていた。
(「くそ! 無視して……行けるわけがないよな」)
 デュオゼルガの後には海底基地の出入り口が光を放っていた。ディープディープブルー ファングと戦わずに海底基地へ向かえば、むざむざ敵に潜入を知らせるようなものである。先に潜入したチームを危険にさらすわけにはいかない。
 唸り声こそ聞き分けられないが、横で小さな相棒が牙を見せているのが見えた。
 不気味な顔をした深海魚のように怨霊弾が水中を突っ切って向かってくる。
 死狼は素早く水をかいて潜航してかわした。
(「ここで迎え撃つしかない。可能な限り素早く倒すんだ!」)
 体を反転させて通り過ぎた弾を撃って爆発させた。
 たちまち弱肉強食の水中戦がはじまった。
 今度は二方向から同時に発射された。水中を突進する怨霊弾の航跡が、不気味な海魔の触手を連想させる。
 ユスティーナは体内のグラビティチェインを手にした斧に注ぎ込み、ルーンを発動させて光り輝かせた。
(「私たちの邪魔をしないで!」)
 深海に彗星が流れるがごとく、星座の煌めきを発した斧を怨霊の頭に振り下ろす。
 『なんか可愛いヤツ』も懸命に翼をはためかせて怨霊弾を爆破する。
 距離を詰めてきたディープディープブルーファングたちが、ケルベロスたちに噛みつこうとして口を開いた。サメのように鋭くとがった三角形の鉄牙が、海底基地から漏れでる明かりを受けて光る。
 ユスティーナと『なんか可愛いヤツ』、そしてデュオゼルガの相棒が、それぞれ狙われたケルベロスたちとディープディープブルーファングたちとの間に割って入った。
(「えい!」)
 水中でアリスのスカートが翻り、裾からグラビティチェインの星がキラキラと輝きながら飛んで行った。星はサメのような口の中に飛び込んで跳ねまわり、内側から牙を叩き折った。
 星を吐き出した敵をエニーケとキアラが追撃して仕留める。
 残り二体を仲間の援護をもらいながらルークと錆次郎が倒した。
 周りを見れば交戦の光がほとんど見られない。あれだけ騒がしかった海が、徐々に落ち着いてきていた。
(「ほとんど片付いたみたいだね。行こう。基地が自爆しちゃう」)
 今度こそ。海底基地に向かって全力で泳ぐ。
(「――!!?」)
 入り口を通り抜け、ドッグの縁にあがろうとした途端に爆発が起き、ケルベロスたちは海中に押し戻された。
(「撤退っ!」)
 基地はそのまま形が崩れて、火の玉となって連鎖爆発を起こし、海底の泥に沈んでいった。


 夜が明ける。
 東の水平線に左右に薄く光の筋が伸び、空が青みを帯びてくる。空から星が一つ一つ去り、やがて白い太陽の光が上り立った。
「……残念だったね」
 獣毛をぺったりとさせて濡れぼそったルークを、錆次郎がみんなの気持ちを代弁して慰める。
「きっと他のチームが何か見つけてくれているよ。さあ、胸を張って帰ろう」

作者:そうすけ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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