海底基地攻撃作戦~クリアダイビング

作者:天川葉月

●ディープダイバー
 そこは日の光が届かない暗闇の世界。
 ほんの目の前すら視認することもできない黒い水底に、かすかな光がさしている。
 洞窟から光が漏れ、その中では金属がぶつかり軋むような騒音が響く。
 誘蛾灯に群がる虫のように、洞窟から出る光と音につられて深海魚たちが集まってきたが、潜水艦型ダモクレスが僚機としてディープディープブルーファングを引き連れて洞窟から出ると蜘蛛の子を散らしたように逃げ去っていった。

●クリアダイバー
「最近発生し始めた鮫型のダモクレスを利用した死神事件『ディープディーブブルーファング事件』に関して、新たな事実が発見されました」
 集められたケルベロス達を前に、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が説明を始めた。
「チーディ・ロックビル(天上天下唯我独走・e01385)さんが、多くの賛同者と共に調査を行い、海底にて死神とダモクレスが協力する秘密基地の存在を突き止めてくれたのです」
 その場所は、フェルディス・プローレット(すっとこどっこいシスター・e39720)の予測通り、駿河湾海底だという。
 そこではディープディープブルーファングの量産が行われており、ダモクレスの作戦基地の一つであると考えられる。
「皆さんには、この海底基地の破壊をお願いしたいと思います」
 セリカによって状況の説明が始まる。
 戦闘は、駿河湾の海底で行われるが、ケルベロスの戦闘には支障がない。
 海底工場の直上の海上まではヘリオンで輸送され、海底で不自由がないようにアクアラングや照明などの装備は用意できる。
「ケルベロスの皆さんなら装備がなくても問題はないでしょうが、あると便利ですから特に理由がなければ装備していくといいでしょう」
 と付け足した。
 海底基地に近づくと、潜水艦型ダモクレスとディープディープブルーファングが迎撃に出てくる。
 このディープディープブルーファングは死神の因子を植え付けられておらず、戦闘能力は低いが数が多いので注意が必要だ。
「潜水艦型ダモクレスは、ミサイルと魚雷で攻撃してくるようです」
 迎撃に出てきた潜水艦型ダモクレスの過半数を撃破すれば基地が自爆するため、作戦は成功する。
 基地が自爆すれば、敵は戦闘意欲を失うため安全に撤退できるが、そのまま殲滅してもよい。
「ダモクレスが何故死神に協力しているのかはわかりませんが、大本の工場を叩けば作戦を阻止する事ができる筈です」


参加者
八代・社(ヴァンガード・e00037)
内阿・とてぷ(占いは気の向くまま・e00953)
エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)
メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)
志藤・巌(壊し屋・e10136)
レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)
禍芋・野鳩(紛い物ハート・e36800)

■リプレイ

●ディープダイビング
 そこは暗く深い水底。
 ケルベロス達は駿河湾海底のダモクレスの量産工場へ向けて潜っていく。
 日の光が届かない、常闇の水底へと。
(「死神とダモクレスねェ……。どっちも冷血って意味じゃ、似た者同士ではあるか。深海くんだりまで結構な話だが、こんなモンはブチ壊すに限るぜ」)
 海底洞窟から漏れる光を前に志藤・巌(壊し屋・e10136)は水中ライトを最大光量で照らし、輸血パックを乱暴に引きちぎる。
 八代・社(ヴァンガード・e00037)も輸血キットから輸血用の血液を流出させながらLEDライトで眼前を照らした。その血の匂いと光におびき寄せられる深海魚には目もくれない。
「サメさんおいで手の鳴る方へ、メアリと一緒に遊びましょ!」
 メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)は輸血パックから血を流し、ワークライトを照射した。輸血パックから流れ出た血液はすぐに霧散してしまったため、腕をほんの少し傷つけて、再び血を流す。
 サメは血の匂いにつられて獲物を襲うという。
 日の光は届かず視界が最悪な深海では視覚以外の感覚で獲物を捕捉しなければならない。
 これは、サメを模したディープディープブルーファングたちもそれに倣うのではないか、という予想に基づき、より多くのディープディープブルーファングを引き付けるための策だった。
 潜水艦型ダモクレスの索敵方法がソナーであることに目を付けたエステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)は、ダイナミックに紅瞳覚醒をかき鳴らす。より多くの敵を引き付けるために。が、ペグにランプと少し封を切った輸血キットを巻き付けたギターを振り回しながら演奏するという絵面はまるでコミックバンドのそれなので――。
(「はぁ……、私、このままではギャグキャラになってしまう……」)
 と、激しい演奏とは裏腹に心の中で愚痴っていた。
「水中でもグラビティの挙動には問題ないな」
 足にスクリューを装着した水中戦用の装備を、実際に使用することになった禍芋・野鳩(紛い物ハート・e36800)は魚雷のようになったマルチプルミサイルとナパームミサイルを一斉に発射する。備えあれば憂いなし。どんなものでも役に立つときは来る。
 普段の巫女服から泳ぎやすい競泳水着とダイビング用のフィンといういでたちに着替えた内阿・とてぷ(占いは気の向くまま・e00953)は、基地に向かって御霊殲滅砲を放つ。その巨大な光の弾は、ケルベロス達の姿を鮮明に照らしながら海底洞窟へ向けて進んでいった。
「キュッキュリーン☆ たとえ星の海でも深海でも! ヴァルキュリパワーで輝かせちゃいますよー!」
 普段着のジャージの下に水着を着こんでいるレピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)は光の翼をこれでもかと言わんばかりに光らせ、自らの存在をアピールする。
(「今年の泳ぎ納めなのに水着姿を見れないなんて……、ファン辞めます、なんて」)
 スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)はライジングダークの威嚇射撃をおこなう。黒太陽の黒光は光の翼の輝きと重なり、そのコントラストはスポットライトを浴びるアイドルのステージのよう。ファンを辞めても、またすぐにファンに戻る。
 そんなケルベロス達を迎え撃とうと現れたのは潜水艦型ダモクレス一体と、ディープディープブルーファング六体。
 ディープディープブルーファングの数が多めなのは、彼らの作戦が功を奏した結果だろう。
 血の匂いにあてられたように、ディープディープブルーファングたちはまっすぐケルベロス達に向かい、その牙を突き立てようと大きく口を開けていた。

●ディープブルー
 ディープディープブルーファングがまず狙ったのは、最も光が際立っているもの。
 それはアイドルに押し掛けるマスコミやファンのようではあるが、彼らは凶器を向けたりしないだろう。
「どうですか、鮫をも惹きつけるこのカリスマ☆」
 と、レピーダは元気いっぱいにジュデッカの刃で応戦する。握手会なら塩対応だが、相手がデウスエクスなら問題はない。
 ディープディープブルーファングの後ろに控えている潜水艦型ダモクレスがソナーで探知した情報をもとに、ミサイルによる範囲攻撃を行ってきた。
「鳥居よ、彼の者を護る盾を成せ!」
 スズナは稲荷の眷属である狐の妖力を発揮して巨大な千本鳥居の結界を作り出し、潜水艦型ダモクレスの爆撃から味方を守る。
「崩れろ。爆震脚!」
 巌は海底を地面を踏み込んで、小規模の震動を発生させる。そのエネルギーは水中を伝わり、潜水艦型ダモクレスとディープディープブルーファングの動きを乱した。
「さぁさぁお立会い!このヒトガタの紙をこう飛ばせば~……ふふふ~、見分けられるかな?」
「攪乱分子散布……支援する」
 とてぷは人形(ヒトガタ)に切った紙を、ディープディープブルーファングたちと対峙している味方の周囲に飛ばした。この人形の紙は、敵にその紙が相手の分身であるかのように誤認させ、かく乱する。
 野鳩が射出、散布したのは敵の認識能力をかく乱する粒子であり、これによって敵からは味方を認識されにくくなる。
 その結果として、ただの紙をケルベロスと誤認した一体のディープディープブルーファングは、その紙に向かって進行方向を修正する。その位置は、別のディープディープブルーファング一体と重なるような場所だ。
「てめえらからじゃろくなフカヒレも取れなさそうだな。まあ、構わんさ。まとめてロースト・シャークにしてやるよ」
 社は魔力を足元に固め炸裂させることで海中を魚雷のような勢いで駆け抜け、その身を炎そのものへと変える。魔焔『煉獄』によって焔と化し、白熱する腕を一閃すると、水蒸気爆発を伴う灼熱の一打が射線上に重なった二体のディープディープブルーファングを薙ぎ払った。大破した二体は水底に沈んでいく。
 この時起こった水蒸気爆発の余波で一体のディープディープブルーファングが戦列から大きく離れる。
「落ちて行け。夜の中に」
 そのディープディープブルーファングの背ビレを掴んだエステルは、渦を作るような回転を付けて海底に叩き付ける。水の抵抗など、デウスエクスに対する憎しみと、ついでに先ほどの鬱憤の前では関係なかった。海底と激突したディープディープブルーファングが再起する気配はない。
 未だにメアリベルの腕から流れ出て揺蕩う血の匂いに引き寄せられ、一体のディープディープブルーファングが牙を向ける。逃げる少女、追うサメ。食うか食われるかの、深海の鬼ごっこ。
「鬼ごっこはおしまい。海の藻屑と散りなさい!」
 群れから引き離されたディープディープブルーファングは、リトル・ミス・マフェットによって絡めとられ、時空凍結弾でとどめを刺された。
 その時、海底が揺れた。
 海底洞窟の入り口から黒煙が漏れ、爆音が響く。基地が自爆したようだ。
 それを目の当たりにし戦意を喪失した潜水艦型ダモクレスは、残る二体のディープディープブルーファングを引き連れて逃亡を図る。

●クリアブルー
「戦闘続行可能。禍根を断っておくべきと判断するが?」
 と野鳩が提案すると、全員が追撃の構えを見せる。それに応じるように、彼はマルチプルミサイルを潜水艦型ダモクレスとディープディープブルーファングの逃げる先に放った。
 潜水艦型ダモクレスが放つのは苦し紛れの魚雷だ。ミサイルを打ち落とそうとしているのだろうがソナーで狙いを定めていないのがわかるほどに照準がぶれている。
 結果、自分の進路の前のミサイルは処理できたが僚機の進路は確保できず、二体のディープディープブルーファングの内一体が沈むことになった。
 潜水艦型ダモクレスと最後のディープディープブルーファングは向き直り、ケルベロス達に全速力で突っ込んできた。それはさながら、特攻のように。
 スズナは温存しておいた輸血パックの封を開け、ディープディープブルーファングの攻撃を誘導する。
「此処で、夏と共に終わりなさい」
 その先にはレピーダが傘を構えていた。雨を呼ぶ氷の一振りは、全ての哀しみを洗い流す。それが、光ない水底であっても。
 アイドルとそのファンの連携で最後のディープディープブルーファングも水底に沈んだ。
 残りは、必死の形相で特攻を仕掛ける潜水艦型ダモクレスのみ。
「くたばれ、潜水艦!」
 巌はそう叫びながら、猛進してくる勢いを利用し、潜水艦型ダモクレスの鼻頭をエクスカリバールの先端の曲がったところで思い切り殴りつける。
 頭部を完全に破壊された潜水艦型ダモクレスは、物言わぬ鉄くずとなって海底に降りた。
 夏の終わり、駿河湾海底の暗い青の中での戦いは、ケルベロス達が帰還するときに見た澄んだ青で終わりを告げ、深海には再び静寂のしじまが流れている。

作者:天川葉月 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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