海底基地攻撃作戦~深海への挑戦

作者:流堂志良

●深海にて
 そこは深く、暗く、重苦しい場所――駿河湾海底である。
 光も届かぬ海の底だが、ほんの微かに光を発している洞窟があった。
 そのおかげか、周囲が薄明るい。
 深海魚が光の漏れる洞窟の入り口を避けるように周囲を泳いでいた。
 洞窟の奥よりは、金属のぶつかるような音、低く唸るモーター音が振動共に伝わっている。
 そんな洞窟の入り口より、髪をゆらゆら揺らしたシルエットの人影が現れる。
 深海魚に似たダモクレスを連れた、潜水艦型ダモクレスであった。
 悠然と泳いでいた周囲の深海魚は慌てたように、体を翻して逃げて行く。
 ちらりと潜水艦型ダモクレスは動いた深海魚に視線を向けるが、すぐに興味を失ったようだった。

●海底の秘密基地
「皆さんに集まってもらったのは他でもありません。鮫型のダモクレスを利用した死神事件『ディープディーブブルーファング事件』について新たな事実が発見されたのです」
 上代・ミナキ(オラトリオのヘリオライダー・en0282)は手にした資料を確認しながら、ケルベロスたちに説明する。
「チーディ・ロックビル(天上天下唯我独走・e01385)さんが、たくさんの仲間と共に調査を行い、海底にて、死神とダモクレスが協力する秘密基地の存在を突き止めてくれました」
 秘密基地はフェルディス・プローレット(すっとこどっこいシスター・e39720)が予測した通り、駿河湾海底にあった。
「この秘密基地でディープディープブルーファングの量産が行われており、ダモクレスの作戦基地の一つであると思われます」
 この海底基地の破壊が今回の作戦だと、ミナキは集まったケルベロスたちを見渡し、告げた。
「海底基地の真上にあたる海上まではヘリオンで向かいます。海底に潜る際、不自由のないように照明やその他潜水に使う装備はこちらで用意しています」
 それから、今回の作戦においての障害をミナキは語る。
「この海底基地ですが、深海の海底洞窟の中にあってですね。近づくと潜水艦型ダモクレスとディープディープブルーファングが迎撃に現れるようなんです」
 ディープディープブルーファングは死神の因子が植えつけられておらず、戦闘能力は低いが数が多いのだという。
 潜水艦型ダモクレスはミサイルと魚雷で攻撃してくるだろうとミナキは説明した。
 深海での戦闘となるが、ケルベロスにとって戦闘に支障はない。
「基地から出てきた潜水艦型ダモクレスの過半数を倒せば、基地が自爆するでしょう」
 つまりそうなると今回の作戦が成功したことになる。
「その後残った敵は戦闘意欲を失っています。安全に撤退できるでしょう」
 撤退せずにそのまま敵を残らず殲滅することもできる。
「ダモクレスが何故死神に協力しているかはわかりませんが、大元の工場であるこの基地を叩けば作戦を阻止する事ができるはずです。皆さん、どうか無事に基地の破壊を成功させてください」


参加者
春日・いぶき(遊具箱・e00678)
ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)
天月・光太郎(満ちぬ暁月・e04889)
堂道・花火(光彩陸離・e40184)
蔓荊・蒲(サクヤビメの選択者・e44541)
ザベウコ・エルギオート(破壊の猛獣・e54335)
深街・睦月(超テンションキーボーディスト・e62408)

■リプレイ

●深海への挑戦
 一度海に潜ってしまうと、想像していた世界とはまるで違う。
(「海の底に生身で行けるなんて……」)
 感慨深そうに蔓荊・蒲(サクヤビメの選択者・e44541)は思った。
 すいすいと器用に、いたって普通の様子で体を動かして、深く潜っていく。
 だが、珍しいものは珍しいのだ。
(「水中戦も水中ライブも初めて……!」)
 期待と緊張に胸を膨らませ、深街・睦月(超テンションキーボーディスト・e62408)は海の底へと想いを馳せた。
(「泳ぎは最近覚えましたが、いきなり深海とはチャレンジャーなことですね」)
 ある意味チャンスだと春日・いぶき(遊具箱・e00678)は前向きに捉える。
 ケルベロスたちは深く、底まで向かっていく。
 前人未到の2500m潜った海の底は、確認のために点けた明かりだけでは頼りないほど、真っ暗であった。
(「めっちゃ真っ暗だぜ、ここ! 明かり持ってこねェーと何も見えねェーって奴だなァ」)
 ザベウコ・エルギオート(破壊の猛獣・e54335)は用意してきた装備を手探りで確認する。
(「いよいよッスね。緊張もしていられないッス」)
 堂道・花火(光彩陸離・e40184)も、続く。
(「さてさて、釣り上げのお時間だ」)
 天月・光太郎(満ちぬ暁月・e04889)がごくり喉を鳴らした。
 鮫――ディープディープブルーファングをできるだけ多く引きつけるのだ。
 ありったけの照明が灯される。眩いばかりのライトが周囲を明るく照らし出した。
 さらにその眩い光の中、睦月が派手に楽器を鳴らす。
 彼女の気分はまさにノリノリ。即興の音が海底へと響き渡る。
 派手な音、海底を照らす眩い光。それが目立たないはずはなく。
 ケルベロスたちに気づき、凄まじいスピードで迫る潜水艦型ダモクレスは、多数の鮫を引き連れていた。
(「おーおー、いい感じにお客さんが入ってきたねえ」)
 睦月は鳴らす音を中断して、マイクパフォーマンスをするかのように大きく手を掲げた。

●釣り上げた鮫は多い
 凶悪な表情で魚雷をセットするダモクレスが一直線に突っ込んでくるのがはっきりと見えた。
 その周囲を取り巻く鮫の数、なんと八体。
(「作戦は成功だな。引っこ抜いた分、どんどん減らしてやりますかね!」)
 光太郎はクロスチェイン・『ウロボロス』を握りしめて内心意気込んだ。
(「思った通り、大漁っすね」)
(「じゃあ後は打ち合わせ通り、オレたちはあの艦の邪魔してやるッス」)
 鮫の数を確認して、蒲は花火と視線を交わし、潜水艦型ダモクレスへと向かう。
(「さーて、鮫狩りの時間だ!」)
 ザベウコは気合十分。にやりと不敵に笑い、腕を鳴らす。
(「相手が鮫ばかりというのは不満ではありますが……」)
 迫りくる鮫たちを前にしたメルカダンテ・ステンテレッロ(茨の王・e02283)は静かに集中する。
(「さあ、踊りましょう雑魚共」)
 闘志を炎に変えるかのように、メルカダンテはグラビティで鮫を迎え撃つ。まずはグラインドファイアが鮫の一体に鮮やかに突き刺さる。
(「王よ、まずはそいつからか?」)
 それに続くように、ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)の気咬弾が同じ目標へと向かう。
 いぶきは抱擁するように、向かい来る鮫たちに両手を広げた。
(「どうぞ、おいでなさいな」)
 その技の名は思慕抱容。敵に向ける甘い罠。
 先陣を切って飛び込んできた三体の鮫がその動きに反応し、矛先を変えた。
(「さて、こっちはまずは守りを固めるとこからだな」)
 光太郎は自分を含めた前衛の周囲に魔法陣を展開して守りを高める。
 ケルベロスたちはなるべく潜水艦型ダモクレスとは戦わず、鮫を相手取り、時間を稼ぐことを目的にしていた。

●牽制
(「よーし、食らうッス! 御霊殲滅砲!」)
 花火の手が翻り、光弾が潜水艦型へと飛んでいく。
 鮫を相手取るケルベロスたちにミサイルを向けていた艦は、周囲にいた鮫と共にその攻撃に弾き飛ばされる。
(「そこだ!」)
 蒲のドラゴニックハンマーが砲撃形態へ変形し、竜砲弾を放つ。
 立て続けに攻撃を受けた潜水艦型は鬱陶しそうに首を振る。
 ただそれだけで、また標的は元の行動に戻る。
 このダモクレスにとっては鬱陶しいだけで済むダメージなのだろう。
(「甘く見ていられるのも、今のうちッス」)
 ダメージを与える事が目的ではない。できるだけこのダモクレスの動きを鈍らせて、足止めをするのが目的だ。
 潜水艦型ダモクレスがミサイルを撃ち、大きく隙ができたところに今度はサイコフォースを叩き込む。
(「行くぞ、サクヤビメ」)
 蒲のガジェット『サクヤビメ』が桜色の光を纏う球体から銃へと変わる。そうして放たれたグラビティがダモクレスへと突き刺さった。
 潜水艦型ダモクレスの体が花火たちに向く。その体に装備された魚雷やミサイルが二人へと向けられる。
 だが、負ける気はしない。二人は決意の表情で潜水艦と向き合ったのだった。

●鮫狩りの時間
 鮫との戦いは順調だった。
 数は多いが、確実にダメージを与えていく。
 ザベウコやいぶき、光太郎は積極的に鮫の注意を引きつける。
 その隙に付け入るように、メルカダンテとルースが鮫の群れの懐に入り込む。
(「わたくしの前に立ちふさがろうなんて、いい度胸だ」)
 メルカダンテの如意直突きの衝撃に鮫がぐらりと体勢を崩す。
 その隙にルースが躍り出る。鮮やかな連携のようだった。
(「痛みが悪だと、誰が決めた?」)
 一針の慈悲。一点を求めた針は優しく深く刺さり、ついには鮫の息の根を止めた。
 崩れ落ちる鮫を前にルースが呟く。
(「まずは一体」)
 突進してくる鮫の前には、光太郎が積極的に躍り出た。
(「たまにはこういう相手に使うのも悪くねえわな……」)
 その手にはグラビティで生み出された網。鮫を捕えて大きく振りかぶり、心の中で叫ぶ。
(「そぉら、鮫の一本つり上げだァァァ!」)
 この技の名は大網漁。鮫を捕える姿はまさに漁のようだった。
 鮫たちの入ったグラビティの網を振り回し、岩場へと叩きつける。
 解放された鮫たちはお返しとばかりに光太郎へと噛みついた。
(「よーし、矢を放つよ!」)
 受けた傷は睦月の祝福の矢がすぐに癒す。
 ザベウコのサーヴァント『イェラスピニィ』も回復の補助に入る。
 そしてザベウコは寄って来た鮫を舞うように蹴り飛ばした。
 それはもう、豪快に。鮮やかに。
(「かかって来いよォ!」)
 着地して決めたファイティングポーズは鮫たちを挑発するようでもあった。
 何度目かの激突。メルカダンテの轟竜砲が鮫の動きを鈍らせる。
(「隙あり、ですね」)
 いぶきのディスインテグレート。放たれた魔法に触れた鮫はたちまちに消滅した。
(「残り、六体ね。みんな、まだ大丈夫そう」)
 取り決めてあった皆のハンドサインを見て、睦月は頷く。
 それから間もなく、可能な限り潜水艦型への妨害を仕込んだ蒲と花火が鮫退治に参加する。
(「お待たせしたッス!」)
(「これで、一斉攻撃だな」)
 ケルベロスたちの、集中砲火が残された鮫を襲う。
(「わたくしの炎は特別製です」)
 メルカダンテの周囲に炎が展開する。海の底だろうが、燃え盛るグラビティで生み出された炎が。
(「ごきげんよう」)
 その技の名は純潔処場(オト・ダ・フェ)。夜空を纏う踊り人、その攻撃は三体の鮫を巻き込んで、一体が墜落した。
 ふらふらの鮫に、ザベウコが迫る。
(「焼き尽くしてやるぜェ!」)
 手にしたバスターライフル『破壊者の火炎放射器』で、鮫を攻撃する。
 その攻撃とほぼ同じくして蒲が駆ける。
(「神話検索、展開……再構築。冠するは『天叢雲』、汝総てを切り拓く者なり」)
 咲耶姫第三形態『天叢雲』。その剣でもう一体の鮫を切り裂く。
 同時に落ちて行く二体の鮫。
 残る鮫の数――三体。
(「皆さん、攻撃目標変更です」)
 いぶきからのハンドサイン。鮫の半数以上を撃破したことにより、打ち合わせ通り攻撃目標が鮫から潜水艦型へと変わる。
(「時間稼ぎもいよいよ終了、これよりは掃討戦か」)
 ルースは内心思い、気をさらに引き締める。
(「ルース、やりましょうか」)
 以心伝心。メルカダンテのアイコンタクトに肯定のサインを返した。

●潜水艦型ダモクレス戦、そして――
 残った鮫はひとまず放置し、ケルベロスたちは潜水艦型ダモクレスへ攻撃する。
(「オレたちを甘く見たことを今こそ後悔させてやるッスよ!」)
(「もう一発、食らえ!」)
 花火のファミリアシュートに続き、蒲のガジェットガンが潜水艦型ダモクレスへ向かう。
(「俺の歌を聞いていってくれ」)
 光太郎が歌い上げるのは「殲剣の理」。その歌が気に障ったようで、潜水艦型の怒りの表情がより一層深まった。
(「行くがいい」)
 ルースのマインドスラッシャー。光の輪が出現し、潜水艦型と鮫を纏めて切り裂いていく。
 潜水艦型ダモクレスもミサイルを放ち、応戦する。
 残った鮫もがむしゃらにケルベロスたちへと噛みついた。
(「みんな、治ってー!」)
(「手助けしましょう」)
 睦月のヒールドローン、いぶきのゴーストヒールが即座に受けた傷を癒していく。
 そして――。
 急に、ダモクレスたちが動きを止めたかと思うと、くるりと向きを変えた。
 ダモクレスたちが急に撤退を始めたのだった。
(「これは戦意を失った、と見ていいでしょうか……?」)
 いぶきはダモクレスの動きを見て首を傾げた。
(「逃げ出す、ということは基地は自爆したのか」)
 ルースは冷静に考え、追いかける為に飛び出していく。
 放つ気咬弾は潜水艦型へと食らいついた。
(「逃すかァ!」)
 好機と見て、追いすがるザベウコ。放たれるファナティックレインボウは潜水艦型へと突き刺さる。
 逃げるダモクレスへ皆が攻撃を叩き込む。
(「逃げるなんて、許しません」)
 メルカダンテが正確無比な突きを繰り出す。
(「ええい、歌います!」)
 睦月がここぞとばかりに「片翼のアルカディア」を高らかに奏でる。
 楽器を操る指も滑らかに。楽しげに。まるでここがライブ会場であるかのよう。
 力強きこの曲を背景に、光太郎がグラビティの網を広げる。
(「いっせーのーで――――ドーン!」)
 捕らわれたダモクレスたちは海底へと叩きつけられる。
 しかし、ダモクレスたちの撤退は迅速だった。
 ある程度追撃したものの、潜水艦型ダモクレスは残った鮫たちに守られるように泳いで逃げて行った。

●作戦終了
 ダモクレスたちがあっという間に深海の闇に紛れて行く。
(「逃げ足が速いな。――さすが深海なだけなことはある」)
 そう蒲は内心思う。
 改めて落ち着くと、深海にいるという事実が不思議な気分にさせる。
(「戦ってる最中は感じなかったけど、やっぱ水中ッスね」)
 花火はしみじみと水中戦であったことを実感して周囲を見渡す。
 こうして明るい光の中で海底を見るなんてこんな機会がなければないだろう。
 ダモクレスたちは逃したが、皆やり遂げたという気持ちでいっぱいだった。
(「誰一人倒れることなく、作戦は終了しましたね。お疲れ様です」)
 いぶきはしっとりと微笑んで、胸を撫で下ろした。
(「動けねェ奴はいないな?」)
 ザベウコは動けない仲間がいれば、手助けをするつもりだったが、その必要もなさそうだ。
 ケルベロスたちはお互いに顔を見合わせて、健闘を称えるように頷き合う。
 そうして彼らは誰一人脱落することもなく、地上へ帰っていったのだった。

作者:流堂志良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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