海底基地攻撃作戦~海底2500mでの戦い

作者:中尾

 ●深海、2500m
 深い深い海の底。太陽の光すらも届かぬ暗黒世界。
 そこは光を知らぬ、深海魚達の楽園だった。彼ら――ダモクレスが来るまでは。
 海底洞窟からは人工的な光が漏れ、内部では機械工場が稼働しているのか、水中に騒音が響く。
 そんな中、潜水艦型ダモクレスが暗闇を裂き、数体のディープディープブルーファングを引き連れて現れた。
 目の見えない深海魚達が錯乱する。こいつらは危険だと、本能が告げていた。
 深海魚達は彼らに怯え、暗闇へと散っていった。

 ●ヘリポートにて
「皆さん、鮫型のダモクレスを利用した死神事件『ディープディーブブルーファング事件』について、新情報が入りました!」
 雨宮・シズ(オラトリオのヘリオライダー・en0197)は、あわてた様子でケルベロス達に事件の概要を説明した。
 チーディ・ロックビル(天上天下唯我独走・e01385)が、多くの賛同者と共に調査を行い、死神とダモクレスが協力する秘密基地の存在を突き止めたのだ。
 秘密基地の場所は、フェルディス・プローレット(すっとこどっこいシスター・e39720)の予測通り、駿河湾海底!
「この秘密基地では、ディープディープブルーファングの量産が行われており、ダモクレスの作戦基地の一つであると考えられます。皆さんには、この海底基地の破壊をお願いしたいのです」
 シズはケルベロス1人、1人の顔を見回す。
「海底での戦闘となりますが、皆さんはケルベロスですから戦闘には支障はありませんし、水の中で息ができなくて死ぬ、という事はありませんが……とても苦しいのでダイビングの準備などをしておくと良いでしょう。また、海底で不自由しないように、アクアラングや照明はあった方がいいと思います。……研究所直上の海上までは、僕が責任をもってヘリオンでお送りします」
 海底基地は深海の海底洞窟の内部にあり、至近距離まで近づくと――具体的に言えば海底洞窟入り口から3分の距離で、敵の迎撃があるだろう。
 敵は1チームにつき、潜水艦型ダモクレス1体とディープディープブルーファング数体。
 潜水艦型ダモクレスは『ミサイル』と『魚雷』で遠くからでも攻撃を行ってくるので注意が必要だ。
 ディープブルーファングは死神の因子を植え付けられておらず、戦闘能力は低いが、数が多いのが厄介だ。通常5体前後だが、強そうなチームや、派手な活動をしているチーム、先頭で突っ込んできたチームほど数が多くなり、近距離での『体当たり』攻撃を仕掛けてくるだろう。
 迎撃に出てきた潜水艦型ダモクレスの過半数を撃破すれば、基地が自爆するので、作戦は成功である。また、仮に素早く敵を倒せた場合は、他のチームの援護などの行動も行うことができるだろう。
「基地自爆後、敵のダモクレスは戦闘意欲を失うので安全に撤退することができますが、そのままダモクレスの殲滅を続ける事も可能です。そこはケルベロスの皆さんの判断にお任せします」
 シズは説明を終えると、数秒黙り込み、再び口を開く。
「この作戦が成功すればすぐにディープディープブルー事件が無くなる……という事はないでしょうが、大本の工場が無くなれば、助かる命も多い事でしょう。海底での戦闘、大変だとは思いますが、ケルベロスの皆さんの無事の帰りをお待ちしております。どうか……お気をつけて」


参加者
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)
紗神・炯介(白き獣・e09948)
村正・千鳥(剣華鏡乱・e44080)
ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)
ニャルラ・ホテプ(彷徨う魂の宿る煙・e44290)
宇迦野・火群(浮かれ狐の羽化登仙・e44633)
オニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)

■リプレイ

●海底へ
 駿河湾、海上。
「ひゃっほぅ! 海ですよ海海!!」
 村正・千鳥(剣華鏡乱・e44080)は海風に赤い髪をなびかせ、ヘリオンから蒼い海を見下ろしていた。
 後ろからヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)がひょっこりと覗く。肩の上のデグーがきゅっきゅと鳴いた。ファミリアロッドのPiccola fataだ。
「大丈夫だよ」
 ヴィルフレッドがデグーの額をかいてやると、額を押しつけるような仕草をした後に黒色のシンプルな杖へと変化する。
「ふうむ……まさか、かの作家の小説の如く深海に行けるとは思いもしなかったな」
 ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)は海へ潜る準備をしながら、とある名作に思いを馳せる。
「ただ、一つ、確かに違うのは……、かの潜水艦での旅ではなく生身で戦いに向かうことか」
 海に入る前に、全員で装備とハンドサインの最終確認を行う。準備は万全だ。
「さて、海底探索といきましょうか」
 愛用の煙管は置いて来た。ニャルラ・ホテプ(彷徨う魂の宿る煙・e44290)はレギュレーターのマウスピースを噛むと、海へと飛び込む。
 水中では、太陽の光がまるで風に踊るフリルのようにキラキラと揺れていた。その光の中を縫うように、ケルベロス達は海底を目指す。
 水中慣れしていたテレサ・コール(黒白の双輪・e04242)は、ライドキャリバ―・テレーゼを連れ、海の中を進む。三度新調した水中専用メイド服も好調だ。
(「見てください! 大きな魚!」)
 千鳥が指差す先に、丸々と太った魚が通り過ぎる。
(「焼いたらウマそうだな」)
(「いや、ここは刺身で……」)
 ケルベロス達はそんな冗談を言い合う。次々と現れる新顔に、まるで水族館に来たようだと喜ぶ者もいた。
 魚達から見てもケルベロス達の姿は珍しいものだった。ただ、唯一、縦ではなく横向きですいすい泳ぐテレーサの姿に、水中の魚達はカニを連想したに違いない。
 ケルベロス達の視界の先に、キラキラと光る小魚が横断する。
 身を護る為に集団で行動する彼らをヴィルフレッドが興味深そうに眺めると、隣にいた紗神・炯介(白き獣・e09948)がクスリと笑ってヴィルフレッドへと手を差し出す。差し詰め「大丈夫? ヴィル 。迷子にならないよう手を繋ごうか」とでも言っているのだろう。
 そんな冗談を言い合ったりしている間にも、辺りは段々と暗くなっていく。
 見かける魚の数も減ってゆき、自然とケルベロス達の口数も少なくなる。
 一般人であれば一生感じることがないだろう水圧が、じりじりとケルベロス達を包み込んでいた。
(「水中でも死なないなんて、本当に――便利な身体」)
 炯介は己の掌を見た。海に入って既に数分。ケルベロス達はそれぞれ持参した水中ライトをつける。
 周囲がぱっと明るくなると、すぐそばに深海魚の姿があった。
 その姿はとても奇妙なもので、あえて言えば日本の妖怪絵巻に似たような顔のやつがいた気がする。
(「珍妙な顔をしとる」)
 オニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)が腰のライトを向けると、深海魚は暗闇へと潜っていった。
 宇迦野・火群(浮かれ狐の羽化登仙・e44633)は水中に狐火を放ち、身に纏う。その姿はまるで、闇夜に浮かぶ麗艶なる姫狐であった。
 楽しい海中散策はもうすぐ終りだ。これから、激しい戦いが始まろうとしていた。

●陽動
(「さぁ、派手に行動するとしよう!」)
 基地まであと少し。遠目に、他のチーム達の姿も見える。
 ケルベロス達は迅速に基地方面へと接近しながら、ライトや武器、グラビティを使い敵の陽動を行った。
 ヴィルフレッドはPiccola fataを振りあげ、魔法の矢を基地へと向かって放ち、炯介は地獄の炎弾をぶっ放す。それらは派手に水中を切り裂き進む。
 千鳥は水中を元気に泳ぎ回って、存在をアピールしながらサイコフォースで基地周辺を爆破する。
(「どっごーん! っとね!」)
 ヴィクトルはアクアウイング――スクリューを取りつけた機械翼を操作して、水中を大きく旋回する。その華麗なる腕前は彼の血筋を感じさせた。
(「前方に敵を確認!」)
 ヴィクトルの眼光が、敵を捉えた。暗闇から数頭のディープディープブルーファングが浮かび上がり、その後方から長い青髪の女性が現れる。潜水艦型ダモクレスだ。彼女はこちらを認識すると、歪に笑った。
(「今回は質より量というわけだな? では、力を競い合うとしようか!」)
 オニキスも負けじと交戦的な笑みを浮かべ、巨大なチェーンソー剣を起動させる。
 火群は口元に笑みを浮かべアルティメットモードを発動させる。金色に輝く尻尾状のオーラを生やすその姿はまさに九尾の狐。
(「名付けて究極完全態アルティメット火群ちゃんってわけ!」)
 えっへん! とポーズを決める。彼女の輝くオーラは暗闇を照らす。と、更に後方で爆発が起こった。
(「……えいっ」)
 ニャルラが手の中で遊ばせていた爆破スイッチを押したのだ。七色の爆発は衝撃となって水中を揺らす。
(「……おっと」)
 衝撃に灰色の髪がかき乱され、手で抑える。顔をあげれば、爆破スイッチに乗じてこっそりポーズをとってみる者もいたようだった。
 そんな騒ぎを聞きつけ、ディープディープブルーファングはその数を増す。
(「陽動としては成功ってとこだな」)
 ヴィクトルが周辺を見渡す。機械仕掛けの鮫達がぱっと見て7体はいる。
(「サメ狩りだー! ひゃー!!」)
 千鳥が蛇之村正と都牟刈を両手に構える。戦闘の開始である。

●機械鮫をぶっ飛ばせ!
(「花を贈ろう。君の弔いの花さ」)
 ヴィルフレッドが鮫型ダモクレスの群れへと手榴弾を放り投げる。
 手榴弾が爆破した瞬間、その範囲は絶対零度となり氷ついた。
 氷を振り払い、尚も突き進んでくる敵の頭をぬっと現れた白い腕が掴んだ。炯介だ。
 彼の白い肌はひび割れ、炯介の体全体を這うように徐々に大きくなっていくと、その奥に蒼い地獄を覗かせた。
 頭を掴まれた鮫型は暴れ狂うが逃がしはしない。接触した部分から、相手の熱を、魂を奪い取る。
(「貴女のお相手は私でございます」)
 テレサはオリュンポスキャノンを構えると、眼鏡の奥の眼差しは、まっすぐと潜水艦型ダモクレスへと向けられていた。
 次の瞬間、まばゆい光線が放たれる。暗闇を裂き莫大なエネルギーが潜水艦型ダモクレスの一部分を焦がした。金色の瞳がキッとテレサを睨み付ける。
(「よそ見はダーメ! 白面呪法が忌伝の一! 淀み濁りて病み腐れ!」)
 まるで蝋燭の炎のように儚く、火群の周囲に死霊が現れた。彼女はそれらを混ぜ合わせて圧縮し、まるで妖しく輝く満月のような珠として敵に放つ。
 宇迦野家の忌伝・逆禍月である。潜水艦型ダモクレスは怨念囚われ、しばしその呪詛を浴びる事となる。
 一方その頃、テレサのライドキャリバ―であるテレーゼは鮫型へとデットヒートドライブを食らわせていた。まともに攻撃を受けた敵が吹っ飛ぶ。
(「やーやー! 千鳥ちゃん!! 剣・参!!!」)
 千鳥が間合いに入るやいなや、鮫型へと斬りかかった。だが、固い。
(「我流村正――かごめかごめ!」)
 ならば、これでどうだ。
 二刀から放たれる斬撃が、まるで檻のように海中を走る。鮫型は斬撃に囚われた。
 ヴィクトルがオメガメタルからオウガ粒子を放出し、味方の超感覚を覚醒させた頃、オキニスは摘まんでいた紙兵にふっと息を吹きかけた。それは霊力を帯び、仲間達の周囲へと配置される。紙兵散布である。
 敵も攻撃を受けてばかりではない。無数の鮫型が、前衛の人間目掛けて体当たりを仕掛けてくる。
 千鳥とオニキス、そしてライドキャリバ―・テレーゼがディフェンダーとしての役目を果たそうと前へと踊り出た。
(「カカッ、まだまだ足りぬ! あと十匹、いや二十匹は持って来い!」)
 オニキスは、竜から剥いだ爪と鱗で作ったチェーンソー剣の音を派手に鳴り響かせ鮫型ダモクレスを切り捨てた。
(「行け……」)
 ニャルラはケルベロスチェインを展開し、海底に黒い鎖の魔法陣を描き、攻撃を受けた仲間達へと次々とヒールを施す。
(「こちらヴェルマン。支援を要請する!」)
 ヴィクトルの所持していた箱から、ネズミの姿をしたウェアライダーの亡霊達が飛び出した。
「なんだなんだ、オレ達の出番ってか?」
「いええええい! 深海デビュー!」
「いっちょやってやるか!」
 亡霊達はそれぞれ陽気に騒ぎながら、ケルベロス達への支援を開始する。
 ヴィルフレッドはブラックスライム、グーラに噛み付かれながらもその黒い液体を武器として華麗に振い、千鳥は剣速は勿論、自身も消えるような速度で戦場を縦横無尽に駆け回る。
 ケルベロス達は2体、3体と鮫型ダモクレスを屠り、戦闘はとうとう8ターン目を終えようとしていた。

●援軍、そして勝利
(「何か来る……!」)
 戦闘中の相手とは別方向に複数の気配を感じ、ニャルラは振り返った。それは4人組の人影で―――。
(「他のチームが助けに来てくれたんだ!」)
 ヘリポートで見かけた顔ぶれに、疲れの色が滲んでいたヴィルフレッド達の表情が明るくなる。
(「援護に入らせて頂きますぞ!」)
(「おっ! グッドタイミング! グッドタイミングですよ、秋津彦くん!」)
 夕影色の髪が、ふわりと視界に入る。見覚えのある狼耳の少年――尾神・秋津彦の姿に、千鳥がハンドサインで応える。
(「援護、感謝する」)
 敵にバスターライフルを向けながらも、ヴィクトルが短く感謝を伝えると、気にするな、と返事が来た。
 更に彼らの後方に、緑のLEDライトを振る4人組の姿も見えた。
 別チームが合流したこともあり、状況がこちらの優位となる。
(「フィッシュ・オン、ネ!」)
(「多勢に無勢を卑怯だというなよ?  戦いはどんな手を使っても勝ちゃいいんだよ――!」)
 援護に入ったペスカトーレ・カレッティエッラがまるで釣りを楽しむように鮫を凍結させ、グラハ・ラジャシックが豪快に粉砕するのが見えた。
(「これなら――勝てる」)
 炯介の視線に、ヴィルフレッドが大きく頷いた。
 こちらも負けてはいられない。炯介の蒼い炎弾が、鮫へと被弾する。
(「君の弱点なんて、もうお見通しさ」)
 ヴィルフレッドのAssalto attaccoにより、弱点を貫かれた鮫は物言わぬガラクタと化す。
(「残るは、潜水艦型と、鮫型3体……!」)
 目標を変えようとした刹那、衝撃波がケルベロス達を襲った。衝撃は基地の方角からだった。
(「自爆しおったか!」)
 爆風に揺れる長髪を手で払いのけオニキスは言った。火群が長い金髪を肩に流す。
(「敵もだいぶ追い込まれてるってことだね!」)
 基地の自爆を受け潜水艦型が撤退を開始する。
(「逃がしませんよ!」)
 前衛にいた千鳥が、サイコフォースで潜水艦型の行く手を阻む。
 鮫型は他のチームが追う。潜水艦型を仕留めるなら今だ。
(「いっけー!」)
 火群の虚無球体が敵の体の一部を奪う。血走った目が、こちらを捕えた。
(「これで終わりです」)
 テレサが青髪のダモクレスへと狙いを定め、ゼログラビトンを放つ。
 カッと目を見開いたダモクレスは、同時に魚雷を放とうとして――。
(「おやすみなさい…… 」)
 白い白い、エネルギー光弾が、潜水艦型の胸を貫いた。ケルベロス達を睨み付けていた金色の瞳が光を失う。
 辺りを見回しても、周囲の海底に可動しているダモクレスは、もういない。
 勝利に、ケルベロス達が喜び沸き立つ。
 緊張の糸が切れ、無表情ながらも疲労から傾くテレサの肩を火群が支えた。
 そう、火群の支えがあれど、テレサは潜水艦型と1対1で戦ったのだ。
(「よくがんばったね!」)
(「テレサの嬢さん大丈夫か?」)
(「ちょっと見せて……」)
 ヴィクトルが様子を窺い、ニャルラが怪我の手当てを行う。
 そしてケルベロス達は撤退を開始する。一度だけ、自爆した基地の方を見やって。
 貴重な海底を惜しむ者、早く風呂に入りたい者、去来する想いは様々だ。
 ニャルラが今一番欲しいものはもちろん、自分で調合した、あのお香のような良い香りの煙管だった。
 (「しかし何故、潜水艦型を多く倒すと基地が自爆するのだ?」)
 オニキスが首を傾げる。
(「やはり、爆発は敵方にとってもロマンなんじゃないですか?」)
(「自爆はロマン」)
(「いやいや」)
 ケルベロス達がああじゃない、こうじゃないと言い合い、ふふっと笑う。
 そんなこんなで、ケルベロス達は勝利を携え、地上へと帰還したのだった。

作者:中尾 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。