ルーチェの誕生日~燦めく光の水底へ

作者:朱乃天

 暑い夏の陽射しがヘリポートに照りつける。
 猫宮・ルーチェ(にゃんこ魔拳士・en0012)はそんな太陽にも負けないくらいの明るい笑顔を振り撒きながら、仲間達との会話を楽しんでいた。
「ねえねえっ。ところでみんなは、海の中に行ってみたいって思わない?」
 ふと思いついたように質問するルーチェ。今年の夏は特に気温が高く、これだけ炎天下の日が続けば海にも行きたい気分になるだろう。しかも海の『中』ということは――。
「沖縄の海にある洞窟なんだけど、その中に潜っていけば素敵な景色が見られるんだよ♪」
 その洞窟は人気のレジャースポットで、気軽にダイビングを楽しむことができるらしい。
 シュノーケルや水中メガネなどは現地で借りられるので、こちらから用意していかなくても大丈夫なようである。
 もしも泳ぎに自信があるのなら、素潜りで深いところまで潜ってみても構わない。
 また日中だけでなく、夕方や夜の時間帯も潜れるようなので、昼間とは違った世界を体験できるだろう。特に夜になったら、夜光虫が発生し、海一面が青い光できらきら煌めく幻想的な景色が見られるそうだ。
 他にも洞窟のある岬の先端には東屋風の展望台があり、そこからは沖縄の綺麗な海を一望できるので、泳がない場合はそちらを利用するのも良いだろう。
 涼を求めるだけでなく、雄大な自然の美しさに魅せられながら、夏の想いを記憶に残す。
 ルーチェにとってその日は特別な一日で、大切な日をみんなと一緒に過ごそうと、今から待ち遠しそうに心弾ませるのだった。

 ――その場所は、海と太陽の光が織り成す、青い世界。
 空から射し込む陽光が、水面に反射し照り輝いて、海の洞窟内を眩い光で包み込む。
 ゆらゆら揺らめく光のカーテンが、水底までもを明るく照らし。まるで楽園でも見ているような、幻想的なお伽噺の世界に誘われる。
 光に導かれるように海の底へと潜っていくと、目に映るのは色とりどりの魚達の群れ。
 水の中を軽やかに舞い踊るように泳ぎ回る魚達。それは遠き地上の世界から来た客人を、まるで歓迎するかのようでいて。
 ふわりと手を差し出せば、魚達が嬉しそうに尾鰭を揺らして戯れて。そうして過ぎ行く時間と共に、次第に変化していく海の色。
 透き通った青は濃さを増し。纏った光が水平線の果てに沈んで消える頃――訪れるのは、静寂に包まれた夜の世界。
 星々が浮かぶ天蓋の下、星明かりを映すが如く水面に灯る夜光虫。
 空と海とを照らす光の共演に、心惹き込まれてロマンチックな気分に入り浸り、静かに流れるままに物語の一頁が綴られていく。
 時が廻れば、視える景色もまた移ろいで。雄大な海の世界の一大パノラマを、きっと心行くまで堪能できることだろう。

 ――さあ、行こう。一緒に見果てぬ海へ冒険をしに。
 ルーチェがにっこり笑みを浮かべて、手を伸ばす。
 くるりと振り向くその先に、燦めく夏の陽射しが降り注ぐ、南国の海が待っている。


■リプレイ

●光粧う青の世界
「猫宮、誕生日おめでとう。いつも頑張っているからな。たまにはゆっくり楽しんでくれ」
「ありがとう♪ シオンさんも、沖縄の海を満喫していってね」
 この日は猫宮・ルーチェの誕生日。
 シオンは師団でお世話になっているお礼も込めて、労いの言葉を掛けた後、足早に海へ泳ぎに向かっていった。その間際、横目で岩場の方に視線を送り、小さく頷き微笑んだ。

 砂浜の岩場の陰に隠れるように、何やら準備をしているのは【紫揚羽】の面々だ。
 祇音が蓮と一緒に砂を掻き集めて作っているのは、何かの土台のようなモノだった。
 水を染み込ませて塗り固め、楽しそうに和気藹々と作業をしているところに、久遠と優がバケツを手にして二人のところにやってくる。
「色々探してみたけど、こんな感じでいいのかな?」
 バケツの中を覗いてみると、そこには色とりどりの貝殻が集められていた。
「こいつなんかいい感じだぜ。お、これも使えるな」
 拾い集めた貝殻を、優と久遠が選別しながら砂の土台に貼り付けていく。
「沖縄の海は流石に綺麗だな。貝殻も、珍しいのが落ちてたぜ」
 空牙はダイビングを楽しむついでに、海中で目に留まった貝殻を拾って持ってきた。
 そうして皆で協力し、貝殻でデコレーションされた砂の土台が次第に形を成していく。
「すっごく綺麗です! ルーチェお姉さん、喜んでくれるといいなっ♪」
「うむうむっ、上出来じゃよっ。これならきっと喜んでくれるじゃろう」
 その出来栄えに祇音と蓮は満足し、仕上げに花火を土台に仕込み、後は夜が来るのを待つばかり――。

「ルーチェおねーさん、良かったらあちきと一緒に泳ぐっす!」
「うん、いいよ! それじゃ一番深いところまで潜ってみようか!」
 五六七が元気に誘えば、ルーチェも大きく頷いて、二人で一緒に海の中へと飛び込んだ。
 新作の水着姿で『猫耳搭載型水上機動要塞』を名乗って、精力的に張り切った夏。
 その最期の締め括りが水中の洞窟とあって、五六七は並々ならぬ気合を込めてダイビングに挑むのだった。

 早朝の人が少ない時間を見計らい、晟が海にダイビングする。
 彼の蒼い身体の色が海のブルーと混ざり合い、一体となったような感覚で、海の底まで進んで行けば。
 射し込む朝の光が海一面を照らし出す、その幻想的な世界を目の当たりにして息を呑む。
 この綺麗な景色をずっと残しておきたいと。晟は水中カメラに記録を撮りながら、透き通るような海の青さを心の記憶に刻み込む。

 エルスは清士朗を誘うように手を引いて、海に潜って降り注がれる光を纏い、水中を散歩するかのように泳いで回る。
 時には色とりどりの熱帯魚と戯れて、珊瑚の隙間を覗いてみたり。
 清士朗は繋いだその手をふと引き寄せて、エルスの身体を愛おしそうに抱き。陽光照らす水面を見上げ、水の中でも互いの肌の温かさを感じ合う。
 揺らめく水の歌、それと心の鼓動だけが聴こえてくる世界。
 二人は更に底へと潜って行って、深まる青と、時折射し込む光芒に、今生きているこの場所は、地球はこんなにも美しかったのだろうかと。青い静寂に、指を絡ませ視線を交わす。
 言葉は出せずとも、微笑む二人の想いは心の中で通じ合っていた。

 深い青に満ちた洞窟の中は、別世界が待っている。
 きらきら光る水面の向こうには、一体何があるのだろうかと。
 冒険心を掻き立てられながら、吾連は千と一緒に手を繋ぎ、海に潜って青い世界を泳いで進む。
 光射し込む海中は、夜を照らす月みたいな優しい光に満ちていて。まるで空飛ぶ感覚にも似ているが、海には鳥ではなくて魚が泳ぎ、雲ではなくて珊瑚礁が水底に広がっていた。
 陽光が照らし出す彩りに、吾連は目を奪われて見惚れてしまっていたのだが。千に手を引かれ、我に返って彼女が指差す方を見てみると。色鮮やかな熱帯魚の群れがそこにいて。
 二人は笑顔で頷き合い、繋いだ互いの手と手を握り締め、魚の近くへ向かうのだった。

 アイヴォリーは慣れない水中に、少し怖さはあるけれど。
 朝陽の照らす波の狭間で、彼が腕を広げて待っていてくれるから。
 東雲の空は星の目覚めを眺めているようで。そろそろ行こうか、と。夜は少女の手を引きながら、眩い青の世界に潜り込む。
 光の幕を撫で揺らして行けば、そこは何処までも見通せるような透明な澪。
 煌く泡沫を縫って泳ぐ魚の群れは、初めて見る光景なのに何故か懐かしく。
 水底で羽をはためかせ、アイヴォリーはふと気付く――それは青空を往く鳥達に似ているのだと。
 色とりどりの世界に魅入る彼女の姿に、夜は微笑みながらその柔らかな頬を指で突く。
 二人は水面に一旦上がり、少女は溢れる想いを伝えるように精一杯の言葉を口にする。
 何度でも一緒に飛びたい――貴方と、海のなかの空を。

 この夏にいっぱい練習をして、この日あかりは初めてのダイビングに挑戦をする。
 装備も万全に、普段と違う感覚に戸惑う少女を、陣内が優しく手を引き海の中へと彼女を誘う。
 幼い頃に父がそうしてくれた、今度は自分がこの風景を、彼女に見せる日であると。
 あかりにとって海の景色は、初めて見るものばかりで珍しく。珊瑚の上に見える魚は飛び立つ鳥のようであり。
 息を吐いたらエアーの気泡が水面に昇っていく様は、光に捧げる祈りのように美しく。
 ――そう、光はさす。いつか、いつだって。
 透明な青い世界に包まれながら、あかりは陣内の顔を見つめて幸せそうな笑み浮かべ、そっと心の中で囁いた。
『この景色をタマちゃん――陣、あなたと一緒に見られて、本当に良かった』

 光煌めく水面を海の中から見上げれば、仲間達の髪や瞳の色がはっきり見えて。眸が彼等に手を振れば、【映画同好会】の面々も、それに応えて振り返す。
 ジェミが両手を大きく振って、水中カメラを片手に記録を残そうと。しかし慣れない感覚に、上手く泳げずカメラの画像も傾いてしまう。
 その様子を見ていた広喜は無邪気に笑い、光に透けるアイスブルーの瞳でレンズの中を覗き込む。そして輝く波の光はジェミの髪の色だと指差しながら、今度は千梨の色がないかと探しに向かう。
 海の更に底へと潜っていけば、色は次第に変わって深くなり、眸の右目とコアに灯ったようなエメラルドグリーンを映し出す。
 そうして発見したのは赤茶色のヒトデ。広喜がヒトデを拾って千梨に見せると、差し出された当の本人は、笑顔でピースサインを決めるがその表情は少し引き攣っていた。
 透き通るような海の青色は、エトヴァの髪の色みたいだと。最初に誰かが言い出したのが切欠で、皆がそれぞれに、この海中でお互いの色彩探しを楽しんでいた。
 仲間と一緒に海に潜って過ごすひと時は、ただ泳いでいるだけよりも、もっと心に染みる深い感情が込み上げてくる。
 エトヴァは光射し込む水面を見上げ、水を蹴り、光の幕を纏うように浮上して。海から顔を覗かせ仰いで見た光景、鮮やかに澄み渡った蒼穹が、銀色の瞳の中に広がっていた。

●移ろい変わる海の彩
 朝日を浴びて吹き抜ける爽やかな風が心地良く。
 東屋風の展望台から見渡す海は、澄んだ青い色をして、見ているだけで引き込まれそうになってしまう。
 今年の夏は慌ただしかったから、息抜きも必要でしょうと紗更が誘ってくれたから。
 レオナルドはお礼を言いながら、上から眺める景色も素敵だと、どこまでも広がる海と空とに心ときめかせながら感嘆の息を吐く。
「そういえば、イタリアにも青の洞窟という名所があるそうですね」
 紗更が訊ねれば、イタリア生まれのレオナルドは嬉しそうに即返事する。
「あぁ、カプリ島のだね! 閉じ込めたような青の世界が広がっていて、綺麗だよ!」
 故郷を懐かしそうに思い出し、一緒に行く機会があったなら、案内は任せてほしいと異国の土地に想いを巡らせた。

 太陽が水平線の彼方に傾いていく。
 抜けるような青空は、眩しいくらいのオレンジ色に塗り替わり。夕焼け色に染まった光が洞窟の海をより濃く照らす。
 駿河湾に比べたら容易いものだとレッドレークは思っていたが、その美しさに身体が呑み込まれていきそうな心持ちになる。
 しかし隣にクローネがいてくれるなら、そんな不安も消え去って。一喜一憂する彼の表情に、少女は心和んで優しい気持ちで微笑んだ。
 この日の海は、去年遊んだ昼間の海とも、少し前に歩いた夜の海とも違う色。
 命を育み、深く包み込む海はどこか彼に似ていると。そして海の中にはもしかして、財宝が眠っているのかも――。
 その一言にレッドレークは目の色を変え、一緒に探してみないかと、クローネの手を取り未だ見ぬ冒険の海に飛び込んだ。

 黄昏色の光が水面に反射して、海の色は濃さを増し、深みを感じるエメラルドグリーンに染められていく。
「……ところでわし、潜ったこと無いんじゃが」
 シュノーケルもゴーグルもばっちり装備を決めた早苗だが。思った時には既に海の中へと落下して。大きな水飛沫を上げながら、それでも本能でダイビングをこなすのだった。
 片やルルドはゆっくり時間を掛けて海底へと潜る。そこで目にしたウミガメをじっと見ていると、ふと海面から光の幕が射し込むのに気付き、早苗の肩に触れて光の方を指差した。
 ルルドに促されて見た光景に少女は息を呑み、二人は暫しの間、光が包む幻想的な海の世界を堪能していった。

 水平線の涯に陽が沈み、光が消えて夜の帳が下りてくる。
 空には星が浮かんで闇夜を照らし、南国の海は日中とは一変した空気に包まれる。
 東屋風の展望台では【紫揚羽】の面々が、ルーチェの誕生日を祝おうと、バーベキューの準備をしている最中だ。
 そこへ仲間達にエスコートされたルーチェがやってきて、一同は嬉しそうな顔をしながら彼女の前に砂のケーキを用意した。
「お誕生日おめでとう! また一年健やかになんだってばよ!」
 仇兵衛が砂のケーキに刺した筒に火を点けて、打ち上げ花火が晩夏の夜空に舞い上がる。
「ルーチェさんおめでとだー! ハッピバースデートゥーユー♪」
 希季を始めとし、皆で一緒にバースデーソングを高らかに歌って誕生日のお祝いをする。
「さぁどうぞっ。猫宮さん、いっぱい食べて下さいね」
 奏過がお手製パエリアを、お皿に取り分け手渡せば。密が肉や魚野菜を串に刺して焼く。
「灯は皆に配るのを頼んだ」
 そう頼まれた灯音は配膳を手伝う傍らで、爛々と目を輝かせながら鉄板の上に真っ赤な実を放り込む。
「美味しそうなのだ! トマトも入れるのだー!」
 誕生日の宴は賑やかに、時間と共に盛り上がりを見せる頃。ミリムがルーチェの掌の上に『緑の紐』をそっと乗せる。
「これは皆の海の思い出が詰まったプレゼントだ」
「好み、とか、わからなかった、から。簡単な、もの、だが」
 その紐には海で集めた貝殻が繋がれていて、ソーニャはルーチェの顔を見て、どうか受け取ってほしいと言葉を添える。
「みんなありがとう! あたし、すっごく嬉しいよっ♪」
 最後は本物のケーキで、誕生日の祝福を締め括るのだった。

●想いは夜の水底に
 日没後の海は静かで暗く。朝はもっと光に溢れていたはずなのに。
 時間が変われば、全く異なる表情を見せる海の中、一人泳いで潜るエヴァンジェリン。
 夜空に浮かぶ星を映すが如く、水面に灯る夜光虫の青い光。
 暗闇を仄かに照らす温かな光は、自分の心の中の風景にも似ていると。
 海は、憧れ、そして、いつか還る場所――もしもこの身が斃れたら、そのまま海に溶けてゆき、魂は、愛する人の傍にでも。

 友が誘ってくれたダイビング。
 朷夜はこの上ない貴重な体験だと胸躍らせて。彼と漸く果たせる約束に、ルーチェ・ベルカントは男同士で出掛けるのも新鮮だと薄く微笑んだ。
 青の洞窟と聞けば母国を思い出し、懐かしさに浸るルーチェが朷夜と共に素潜りをする。
 海に潜って明かりを消せば、漆黒の中に小さく煌めく光を見つけ、青く瞬くその灯火は、まるで星空みたいだと。
 夜光虫が放つ光に見惚れつつ、もう少し下に行ってみようと朷夜が指で合図する。そうした彼の誘いにルーチェが応じ、二人は海の底へと潜っていった。
 下に岩場が見えるとそこに掴まって、態勢整え今度はルーチェが上を指差すと。海一面に広がる青い輝きに思わず息を呑み、この海の中にある星空を、心行くまで堪能していった。

 静かな夜の海、夜光虫の隙間を縫って潜るラカ。
 墜ちるように沈んで行く蒼い世界。見上げる水面は淡い光に照らされて、光を掴むように知らず伸ばした手の先に、黒い影が見え、追い掛けるように自分の許に墜ちてくる。
 ぱちりと瞳を瞬かせ、隣を見遣れば、アベルが優しげに目を細めながら微笑んで。彼に釣られるように、ラカも口元緩ませる。
 水面の星を眺める蒼の揺り籠の中、瞼伏せれば更に深くまで、溶けてしまうように沈んでいきそうで。
 漠然と遠くを見つめるラカの手を、アベルが不意に掴んで水面に上がり、二人は海面から顔を出して息を吐く。
 空気を吸い込み、空を仰いで見れば、宝石のような満天の星が輝いていて。
 海と空との二つの星が見られるなんて贅沢を、味わい尽くさなければ勿体ないと。青の光に包まれながら、酔い痴れた。

 従軍時代に素潜りの経験はあるが、娯楽で体験するのは初めてだと軽く笑うスプーキー。
 楽しむ余裕があるのはいい変化です、と律は相槌打ちつつ度付きのマスクを掛けて、洞窟の中を覗き込む。
 身体を沈めるように海に潜って、スプーキーは見送る夜光虫に手を振るように翼を翻し、深くて青い水底へ。
 そこは呼吸音だけが聴こえる静寂の世界。律がライトを照らすと海の生命が息衝く様子が目に映り、二人は冒険気分で海の散歩を楽しんだ。
 海棲竜の血が、もっと居たいと騒ぐのを、スプーキーは名残惜しみつつ浮上して。海面から空を見上げれば、月明かりが濡れるこの身を照らし出す。
 後を追い、呼び掛ける律の声には口元緩め。懐かしい気持ちになったと振り返るのは、過去に溺れる苦しみ故か。
 リツがいなければ――そこから先の思いは胸に秘めた儘。

 眩く青い光の波に身を沈め、小さな水飛沫の音を最後に静寂の時が訪れる。
 夜光虫の光を映して煌めく世界は、星に包まれたような感覚で。ラウルは海の色と同じ青い瞳を輝かせ――今なら星も捕まえられるかも、とシズネの傍で囁く言葉は海の泡と消ゆ。
 溶けた泡が昇っていくのを眺めるシズネを、ラウルが手を引き泡の向かう先へと導いて。外の世界に舞い戻り、星に抱かれてるみたいだと、愉しげに笑う声が波打つように揺らめき響く。
 海の中では全てが青色で、自分の瞳も滲んで染まっていないかと。シズネがそう問えば、ラウルは彼と見つめ合い、自身の青い瞳の中に映すは黄昏色の彩。
 大丈夫だよ、と柔らかな笑みで伝える友の言の葉に。苦笑しながら、そうか、と言って、水面の光を掌で掬う。
 それは海に揺蕩う星を捕まえるかのように――。

 暗い海は怖いものだと思ってた。それでも彼と一緒なら――。
 アラドファルと夜の海を見たかったから。春乃が意を決して飛び込み、目を見開けば、海一面を照らす青い光が目の前に広がっていた。
 こんな青い世界は初めて見たと、アラドファルも感嘆の息を吐いて魅入ってしまう。春乃はそんな彼の手を、ぎゅっと握り締めながら寄り添った。
 このまま二人で吸い込まれ、青の世界に溶けていきそうで。大切な人とずっと漂っていられるのなら、死後の世界まで行っても良いとさえ。
 きれいなものを一番、一緒に見たい。おいしいものを一番、一緒に食べたい。
『――だいすきだ、春乃』
 想いを込めて少女の腕を引き寄せて、伝える言葉は声に出せずとも。二人の心はその手を通じて繋がっている。
『あたしも、アルのことだけを――あいしてる』

 普段はお洒落をしない姫貴が、頑張ってビキニ姿で来てみたものの。
 慣れない水着のせいで恥ずかしく、耳まで真っ赤な彼女も緋霈にとってはまた愛おしく。いつも以上に魅力的だと言った彼の一言に、姫貴は少しはにかみながら嬉しそうに笑う。
 二人はボートを漕ぎ出し、洞窟の中に辿り着き。満天の星の下、水面に灯る夜光虫の青い光に目を奪われて。姫貴が緋霈の方をちらりと見れば、光に映える彼の横顔に思わず見惚れ、不意に目が合うと、つい視線を逸らして俯いてしまう。
 そんな彼女に、緋霈が優しい声で語りかけてくる。
「綺麗だな……。こんな綺麗な風景を……また二人で見に来ような」
 彼の言葉に少女は自然と顔を綻ばせ、また一緒に行こうねと、こくりと頷き約束交わす。

 夜の展望台から眺める海の風景は、沢山の星が海に反射して、全てが星の海みたいだと。
 この日誕生日を迎えた恭平は、アリアの顔を見ながら軽く笑み、恋人同士の二人はロマンチックな夜の景色を楽しんでいた。
 彼女の白い服装は、星のお姫様みたいと言いながら、徐にアリアを抱きかかえる恭平に。少女は驚きつつも照れ臭そうに、すぐ傍にある彼の顔をじっと見る。
「共に歩いていこう。貴女を守る盾となる為に」
 彼女の耳元で、恭平は星に捧げるように誓いの言葉を囁いて。思いもよらなかった突然の告白に、アリアは高鳴る胸を抑えつつ、顔を近付けながら。
「……うん。これからも私の傍に居てね」
 そっと唇重ねて、彼に精一杯の想いを伝えるのだった。

作者:朱乃天 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月16日
難度:易しい
参加:49人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 1
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