海底基地攻撃作戦~群青

作者:七凪臣

●深淵
 静かで冥い水底に、有り得ぬ光があった。
 青い海面は遥か頭上。力強い太陽の輝きさえ、及ばぬ地だというのに。
 源は機械駆動音が水を振動させる海底洞窟――そう、機械駆動音。深い深い、水底だというのに。
 漏れ出る光に、深海が育む魚たちが泳ぎ寄り。新たな蠢きと影に、慌てて尾鰭を翻す。
 『それ』が何なのか、魚たちは分かるまい。
 或いは人が見たならば、水の色の髪をした女と、独特な頭部を持つ鮫たちと評したろう。
 だがそれは是に非ず。
 水の色の髪の女はダモクレスーー鮫型ダモクレス『ディープディープブルーファング』を引き連れた潜水艦型ダモクレス。

●青に群れる
「ディープディープブルーファング事件に関して新事実の発見です」
 発端は近ごろ発生し始めていた死神事件だと告げ、リザベッタ・オーバーロード(ヘリオライダー・en0064)は新たな展望をケルベロス達へ語り出す。
 チーディ・ロックビル(天上天下唯我独走・e01385)が多くの賛同者と共に調査を行い、海底に死神とダモクレスが協力する秘密基地の存在を突き止めたのだ。
 場所はフェルディス・プローレット(すっとこどっこいシスター・e39720)の推察した通りの駿河湾海底。
「この秘密基地ではディープディープブルーファングの量産が行われています。ダモクレスの作戦基地の一つであると言っていいでしょう」
 故にリザベッタはケルベロス達に、この海底基地の破壊を求める。
「戦場は駿河湾の海底。つまり皆さんには深海で戦って頂く事になります」
 とはいえ、ケルベロスはグラビティでないとダメージは被りはしない。つまり戦闘に支障はないということだ――装備を整えないと、息苦しさばかりは如何ともし難いが。
 だから、
「海底基地上空まではヘリオンでお送りします。アクアラングや照明機材なども、必要でしたら此方で準備しますよ」
 少しだけ悪戯心を覗かせリザベッタは笑む。だって海底での戦闘なんて、滅多に出来ない経験ではないか。自身は送り出すだけとはいえ、否応なしに少年心が擽られてしまう。
 しかしいつまでも浮ついた気分ではいられない。すぐさま表情を引き締めたリザベッタは、肝心の敵についても詳らかにする。
「海底基地は深海の海底洞窟内部に存在します。至近距離まで接近すると、潜水艦型ダモクレスとディープディープブルーファングが迎撃に出てくる事が予想されます」
 このディープディープブルーファングには死神の因子は植え付けられていないので、戦闘力は低いのだが、数が多いのが問題。
「率いる方の潜水艦型ダモクレスを過半数以上撃破できれば、基地は自爆するようなので、この時点で作戦は成功となります」
 基地が自爆してしまえば、敵は戦意を喪失する。追撃をかけるも、撤退するも、そこはケルベロス達の自由だ。
「ディープディープブルーファングは噛み付いたり、触手で邪魔をするのが主だと思います。魚雷を撃つこともあるかもしれません。そして潜水艦型ダモクレスの方はミサイルと魚雷での攻撃かと」
 数が邪魔なディープディープブルーファング。純然たる戦力の潜水艦型ダモクレス。どう戦うかの詳細はケルベロスに任せ、リザベッタは先ほどとは違う笑みを浮かべて一同を見遣る。
「ダモクレスがどうして死神に協力しているかは謎ですが。大本である工場を破壊できれば、事件発生を根本から阻止する事が出来る――やる価値は、十分ですよね?」


参加者
幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)
ティアン・バ(君とゆけない・e00040)
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
黒江・カルナ(夜想・e04859)
レスター・ヴェルナッザ(凪の狂閃・e11206)
八神・鎮紅(夢幻の色彩・e22875)
ダンドロ・バルバリーゴ(冷厳なる鉄鎚・e44180)
不知火・あさひ(希望の夜明けを告げる朝日・e45350)

■リプレイ

●深海開戦
 白いワンピースに、黒いコート。風に靡けば軽やかなそれも、深海では勝手が違う。けれど馴染む感触に、八神・鎮紅(夢幻の色彩・e22875)は、ふぅと心落ち着かせる息を吐く。
 こぽ、こぽ。
 生まれた無数の気泡は遥か遠い水面を目指し、見る間に漆黒の視界から消えてゆく。
 まるで宇宙のようだ。
 長いフィンで水を掻き、ティアン・バ(君とゆけない・e00040)はダイビング用マスク越しに静寂と闇が支配する空間を見つめる。
 この、海に。デウスエクスが蔓延るのは嫌だと。率直にティアンは思う。
 未だ謎多き場所。同時に、世界と世界を繋ぐもの。時に人を慰め、育む場所。
 奥深き群青の果て、天上の光届かぬ海の底。
 チカチカと、黒江・カルナ(夜想・e04859)が明滅させた白と青の人工の光に、ダンドロ・バルバリーゴ(冷厳なる鉄鎚・e44180)が『問題なし』を告げるハンドサインを返す。
 水中呼吸に頼ると決めた鎮紅以外は、シュノーケルやボンベ等のアクアラング装備一式をヘリオライダーから借り受けている。そこへダンドロが追加したのが、色の切替可能なヘッドライト。
 前衛なら白と赤。中衛ならば白と緑。そして後衛はカルナが動作を試した白と青。いつもより会話に少し手間を要する状況にあってそれは、急ぎの回復要請等に間違いなく役立つだろう。
(「戦闘能力そのものは此方の方が上だろうけど、海中戦だとやっぱりこっちが不利よね」)
 心芽生えるまでダモクレスであった者として橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)は敵戦力を解析し――気付いた。
 水が暴れている。その理由は、無論。
 ――さぁ、どんどんかかって来い!
 声の代わりの気迫を全身で迸らせ、先頭を泳いでいた幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)が文字通りの変身を果たす。
 例え海底でも、敵であるデウスエクスは打ち倒すのみ。
 そう、彼ら彼女の視界には、異変を察し泳ぎ出して来た鋼の影が見えていた。まっしぐらに突っ込んでくる人型は、潜水艦型ダモクレス。そして周囲には多くの鮫型が。
(「……全て打ち倒すッ!」)
 その鮫型が、鳳琴のアマゾネスを彷彿させる輝く軽装鎧に反応する。一つ、二つ、三つと増える影。近づくにつれ異様さが際立つ。
(「あんなの釣り上がるようになったら堪らんからな」)
 ――海のゴミ掃除といくか。
 レスター・ヴェルナッザ(凪の狂閃・e11206)が四肢のあちこちに仕込んだ照明の電源をオンにすると、海の闇が引き裂かれた。
 太陽を知らぬ世界に生まれた強烈な光に、多くの『気配』がざわつく。そしてクリアーになった視界に、ティアンが巻き起こしたカラフルな爆風を背にした不知火・あさひ(希望の夜明けを告げる朝日・e45350)は『それ』をはっきりと見止めた。
 量産型である潜水艦型ダモクレスとディープディープブルーファング。これらはきっと海に災いを齎して来たに違いない。
 海軍軍人に強く憧れる者として、海防を担う者として、ケルベロスとしてあさひの魂が激昂を吠える。
 ――さぁ、鮫退治の時間だ! 悪い鮫共、かかってこい!
『短魚雷1番から6番3秒間隔で連続発射! 目標確認!撃ちー方始め!』
 力ある言葉にあさひの装甲から現れた魚雷発射管から、誘導魚雷が連続射出される。

●群青群舞
『膝をつくのはまだ早い……挫けぬ心よ、その身を鉄の壁と変えん!』
 水を切り裂き、一閃。ダンドロが具現化させた金色の盾が光を放ち、癒しと共に守りの加護を鳳琴らへ与える。
 効果は十分。だが、潜水艦型が撃った長魚雷の威力は強大。体力に劣るあさひを狙った一撃を庇いに入った鳳琴は、すぐさま白のライトを赤へ切り替える。
 逆巻く水流、沸き立つ水泡。その中にあってもはっきり分かる救援要請に、ティアンは手早く海に緑の木の葉を泳がせた。
 おそらく潜水艦型は破壊に特化した陣取りをしているのだろう。そして近くを取り巻く鮫型は六。
 ――それなら、それで構わん。
 ぐっと力を込めて水を蹴り、レスターが鋼の布陣へ切り込む。否、突破を狙う動きだ。即座に反応した鮫型目掛け、レスターは火炎を吹きかける。
 いつも通りの威力は出ない。炎の呪いを纏わせられた相手の数も少ない。一度に巻き込む敵の多さに、減衰が起きているのだ。
 しかしレスターがそれを承知で仕掛けたように、鎮紅も迷わず範囲攻撃を選択する。
(「固まってくれているなら、私的には好都合」)
『少し、荒くいきますよ』
 白銀の鎖刃を波打たせ流し入れた魔力を、紫電の矢に変え、鎮紅は放つ。さながら深海を翔ける流星群が、ダモクレス達を痺れさせた。阻害因子を撒くのに長けた今の鎮紅の、まさに面目躍如。
 ――とはいえ、数が多いのは絶対。油断は禁物。気を引き締めて行くわよ!
 牙を剥いてきた鮫型から九十九に庇われた芍薬は、現状を素早く解析し、刹那の起動処理に没入する。
『プログラムインストール開始! ムゲンドライブシステム起動よ!』
 発動するのは赫奕不滅修復システム。癒しと浄化の作用をもつグラビティに、前衛に残されていた意思を縛る怨嗟が解かれた。ならばと九十九は主と揃いのクラシカルな給仕ドレスをなびかせ、鮫型へ殴りかかる。
 ひと、ふた、みの、よ。後ろに控える個体も含め、八体の鮫型を引き付けるのにケルベロス達は成功していた。他班の負担軽減という意味では、最大効果を発揮したと言って良い。
 数を減らすには、鮫型を落とす方が早い。だが、鳳琴とあさひは潜水艦型にのみに注力する。
 ――はぁぁ……ッ!
 地上に在るのとひけを取らぬ俊敏さで、鳳琴が旋毛風の蹴りを潜水艦型へ叩き込む。
(「お二人が牽制して下さるお陰で、此方は助かります」)
 蹂躙の自由を許さぬ二人の働きに心で感謝を送り、カルナは橙色の眼差しで鮫型を睥睨した。
(「死神といえば冥府の海が過りますが……この海は、彼らのものではない」)
 まして危険な艦や鮫が跋扈していい場所ではない。
 ――平和な海を、引いては人々の安寧を、取り戻しましょう。
『おいで――』
 耳に残らぬ水を震わす喚び声に、黒猫の幻影が現れる。気儘に振る舞いは、されど狩猟者のもの。鋭い爪に微塵に裂かれ、鮫の一体が機能停止し水底へ沈み逝く。
 と、なれば。
(「敵前衛艦隊、数は六。通常攻撃範囲内まで低下確認」)
 ケルベロス側の攻撃力が低下しなくなったのを把握し、あさひは狙撃の構えに移る。
(「お前たちは、逃がさない」)
 威力そのものより、動きを封じる事をあさひは優先した。
 ――対潜特化型護衛艦の力、見せてやろう!
 鋼の魂を持つ者として、狙撃手として。あさひは無数の弾丸を煙幕のようにダモクレスらへ射出する。
 泡立つ視界に、デウスエクスの泳ぎが僅かに怯んだ。
 更に遠くへ視線を遣れば、無数の光が瞬いている。その瞬きで、この海域では多くのケルベロスが戦いを繰り広げているのを実感し、ダンドロは改めて敵を見据えた。
(「それにしても、アレが潜水艦なのか……」)
 形は似れども異なる命の異星種の常識は、時に地球の常識を軽く凌駕する。解しがたい部分は眼に皮肉を滲ませ受け流し、老成した男はふと自分たちが置かれた状況にも片眉を上げる。
 音だの、光だので、派手に敵を誘う手法は、大学のサークルの勧誘活動や、繁華街の客引きにも似ていて。
(「我が学生なら、夏休みの絵日記に記しておったような出来事だが」)
 過ぎ去りし時分に準え、ダンドロは喉を鳴らす。何故なら、ケルベロスにはそもそも夏季休暇が――定められた休息の安寧などないから。
(「いずれにせよ、今日の事は得難い機会」)
 ――佳い冥途の土産くらいには、なるだろう。
 果たして三途の川を渡る予定は当分ないが。戯れの思考を追いやって、ダンドロは水圧をものともせずに戦鎚を振り抜く。
 竜の砲弾が、渦を巻いて跳ぶ。爆散が新たな波紋を生み、食らった鮫型は尾鰭の動きを鈍らせた。

●海鳴鳴動
『後ろは任せた』
『溺れないよう見ててくれ』
(「……だったか」)
 出立前、既知であるレスターにかけられた言葉を胸中で反芻し、ティアンはダモクレスらを冷たく視る。
 愛した故郷のエメラルドブルーとこの深海は、似ても似つかぬ色だけれど。それでも遠く、繋がっているのは間違いなく。
(「お前たちの泳いでいい海は、何処にもないよ」)
 灰色の心に細波がたつ。しかし苛立ちになる前に、預けられた信のこそばゆさと誇らしさが、ティアンの背筋を伸ばす。
 ――ティアン、は。応える。信に足る己で、あるように。
 結局は冥府の『海』へ送らねばならぬのに一抹の腹立たしさは残るものの、結んだ決意を違えぬよう、ティアンは癒しで以て戦線を支え続ける。その心強さに、大きな背中を彼女に見せるレスターは、心置きなく『無茶』に励む。ただしそれは――、
(「……いつか転げ落ちる心配なぞ無いぐらい強いってとこを、見せてやらにゃな」)
 無謀な振る舞いに非ず。一目を置く娘の不安を拭わんとする、剛さだ。
 海に縁はあれど、こんな深みまで至るのは初の事。だのに溺れ死ぬ恐れのないケルベロスの強みを存分に活かし、男は喜々と海に暴れる。
『仕留める』
 発動の一言に、レスターの右腕を補う銀炎が激しさを増す。立ち昇った揺らめきは、見る間に長大な剣先まで至り、水をも灼く火柱となって顕現する。加速は、竜翼の羽ばたきで。鮫を上回る速さを得た男は敵の間合いへ一気に飛び込み、そのまま銀の炎刃でディープディープブルーファング一体の命を喰らい尽くした。
(「どうせなら食える魚でも作ってくれよ、ダモクレス」)
(「いいわ、焼き魚にしてやるわ!」)
 不意のレスターと芍薬の思考のシンクロは偶然。けれど潜水艦型の攪乱攻撃に、身を委ねた芍薬の裡に滾った炎は必然であり、本物。
 いつの間にか潜水艦型を護衛していた四体の鮫型全てが潰えていた。ならばもう、遠慮は不要。
 ――冥土の土産よ、海の底まで叩き込んでやるわ!
 引かれる儘に芍薬はガジェットを火吹かせる。
 狙いは潜水艦型に絞られた。とはいえ、鮫型も四体は残る。
(「大丈夫です。私たちが、勝ちます」)
 一群の体当たりを受け止め、鳳琴は隙間を掻い潜って潜水艦型へ足止めの砲弾を撃つ。受けた傷の一部は、九十九の応援動画が癒してくれた。
 見えた区切りに鎮紅は態勢を整え直し、日ごろはキジトラの仔猫の姿をとる純白の杖に念じる。
 ――アナタの炎はこの程度では消えないでしょう?
 杖が戴く宝玉の耀きが増す。
『行って、イマ!』
 炸裂した炎は敵陣の中心で爆ぜ、潜水艦型らを赤々と燃え上がらせた。と、その時。カルナは大口を開けた鮫型の挙動がおかしいのに気付く。これまでの余波を喰らい続け、弱り切っているのだ。
(「もとは同じ機械の身なれど」)
 識った心が、かつての同族の為に疼く。
(「貴方達が死神の駒として牙を剥くなら。この冥い水底に……その心に、最早光差す事はないのなら」)
 そろりとカルナは黒猫の幻影に呼びかける。おいで、おいで。そして哀れな機械に終焉を。
(「私はこの星の番犬として、その野心を砕く」)
 水中を渡り、戯れる猫の気紛れに、また一体の鮫型が海の藻屑と消える。
(「わたしも負けていられません」)
 同胞の奮戦に鼓舞され、あさひもアームドフォートの主砲の照準を潜水艦型にピタリと合わせ、重い一撃を放つ。
 ――なかなかの仕事ぶりだわい。
 ダンドロは、海中の戦績に悪くない評価を下す。されど未だ道半ば。他人に厳しく、されどそれ以上に自分に厳しい男は、激流を遡り、鈍色に輝くスクラマサクスを潜水艦型ダモクレスに突き立てた。

 暗い水底に、光が躍る。帯びたライト、纏う鎧、グラビティの彩。まるで自身が宇宙の星の一つになったが如き感覚は、稀有な体験。だが深海での戦いは、永遠ではない。
(「頃合いですね」)
 8分に至ろうという頃、カルナは潜水艦型の惨状に結末を算出する。同じ推察に至ったダンドロは銀の煌めきをあさひらへ波に乗せた。
 海防に拘りを持つあさひへ幕引きを任せたい。ティアンもダンドロに倣い華やかな爆風であさひへ支援を重ねる。
 迫る潜水艦型の長魚雷へは、鳳琴が身を呈した。未だ健在の鮫型の攻勢には、九十九とダンドロが壁となる。
 フィンを大きく撓らせ、レスターは手近な鮫型へ、地獄の炎を纏わせた剣を叩きつける。
 優しい気持ちをくれる妖精の靴の蹴りで、芍薬は鮫型の牙を振り切り、魚雷発射管を展開するあさひを見た。
 ――冥途の土産、しっかり渡してやって!
 ――不知火さん。
 後衛に陣取る鮫型めがけ紫電の矢を射かけ乍ら、鎮紅もあさひの武勲を祈る。
『あさひさん、今です! 決着を!』
 仲間たちが作り出した潮流に潜水艦型が孤立したのを見止め、鳳琴は気力を分け与える事で合図を送った。
 設えられた最高の舞台に、あさひは海の膿をねめつける。
 垂直姿勢を維持し、そのまま発射コマンドを脳内にて起動。膨れ上がるあさひの気迫に、カルナは最後の慈愛を祈った。
 ――どうか、どうか。何物にも利用されない、安らかな眠りを。
『これでトドメだ! 魚雷全弾発射! 海の藻屑となれ!』
 幾門もの魚雷が、あさひより撃ち放たれる。潜水艦型ダモクレスに回避する力はなかった。
 直撃。爆発、炎上。
 ――これでこの海の安寧は守られる。
 鋼が木っ端微塵に砕け散る様をあさひは感慨深く眺める。事は、成した。後は残敵を掃討するのみ。既に他の皆は鮫型の対処を始めている。
 そうしてあさひが凍結光線を放った直後――海が、轟いた。

●帰還海路
 鉄塊剣で水を掻き、推進力を得たレスターは、追いついた鮫型に組み付くと、零距離からの火柱でダモクレスを粉砕し。泳ぎ寄って来たティアンの案じる視線に、自由の利く竜翼の羽ばたきで無事を示した。
 安堵に、灰の髪が珊瑚のように揺れる。
 あさひが忌むべきダモクレスを討ち果した余韻を振り払った後の異変が、工場自爆によるものだとケルベロス達は即座に察した。鮫型たちが戦意を失い、逃げ出したからだ。
 当然、追った。しかし――。
(「まぁ、こんなものかしらね」)
 視界から消えゆく尾鰭一つを見送り、芍薬は得物を片付け九十九を抱える。
 鮫型七体と、潜水艦型の撃破成功。この戦果は、ダンドロを以てしても満足ゆくものなはず。全てを仕留めきれなかった事に、鳳琴は口惜しさを滲ませていたけれど。
 鎮紅の唇が、静寂の戻った海へ柔らかな息を吐く。
 ぽこぽこと生まれた無数の気泡は、するすると上へ上へと昇る。
(「帰る場所を教えてくれているみたいですね……」)
 呼気の行方も見上げ、カルナは水を掻く。今度は潜る為ではなく、陽の世界へ浮かび上がる為に。
 そうして彼ら彼女らは、全身に自然光を浴びて知る事になる。
 自分たちの奮戦が齎した、ダモクレスや死神に関する新たな情報を。

作者:七凪臣 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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