復活の製氷機

作者:七尾マサムネ

 まだまだ暑い夏。
 海水浴場も大にぎわいだ。
 しかし、光あれば影がある。
 人のいる海岸の先……岸壁をたどっていくと、海側からしか進入できない洞窟がある。
 中は、ゴミ、ゴミ、ゴミ……ここは家電などの、隠れた不法投棄スポットになっているのだ。
 その1つ、家庭用製氷機に、目を付けたものがいた。リサイクル業者ではない。小さな宝石からクモのような手足が生えたもの……小型ダモクレスだ。
 そいつは製氷機の中に入り込むと、機械的なヒールを開始。ほどなく、巨大なダモクレスへと復活を遂げた。
「セー、ヒョー……」
 製氷機ダモクレスは、新たに獲得した腕と脚を使って洞窟を抜け出ると、一路、海水浴場を目指した。人々、そしてグラビティ・チェインに満ちたその場所を……。

「とある海水浴場が、ダモクレスの襲撃を受ける事が予知されました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、集ってくれたケルベロス達に、今回の作戦の概要説明を始めた。
「こちらにいるソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)さんも危惧していた通り、不法投棄されていた家電製品を元にしたダモクレスが出現するのです」
 今回利用されたのは、家庭用製氷機。炊飯器のように上ぶたが開き、ころころとした氷を取り出すタイプのものである。
 悪い事に、近くには大勢の客でにぎわう海水浴場が存在する。人々が虐殺されれば、大量のグラビティ・チェインが奪われてしまうだろう。
「その前に、製氷機ダモクレスを撃破する事が、今回の任務です」
「ダモクレスに利用された廃棄家電、か」
 レプリカントとして、ソロも思うところがありそうな様子。
 ダモクレスは、箱型の製氷機から短い手足の生えた、ディフォルメキャラクターのような外見をしている。が、サイズは比べ物にならないほど大きい。
 急速に氷を生成する、という製氷機の特徴を生かし、冷気を自在に操り攻撃を行う。
「頭部に当たるフタを展開、内部で急速生成した氷の塊を飛ばしてきます。また、冷凍機能を転用し、胸部から冷凍光線を放つ事も可能です」
 そして、全身を冷気でコーティング、自身を大きな氷塊に見立て、ボディプレスを食らわせてくる。
 氷結機能を活かすためか、ポジションはジャマーである。
「海辺の平和は、皆さんに託します。……戦いの後は、海で遊んで心身のリフレッシュを行うののもいいと思いますよ」
 海の家もありますし、と付け加えるセリカだった。


参加者
三和・悠仁(憎悪の種・e00349)
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)
ピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106)
明空・護朗(二匹狼・e11656)
コレ・アレソレ(自動迎撃機能付き冷蔵庫・e18190)
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)
ライラット・フェオニール(旧破氷竜姫・e26437)
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)

■リプレイ

●鋼の海坊主(箱型)
 海から、巨大な塊がやってくる。
 塊の正体は、海水浴客を蹂躙せんとする製氷機ダモクレスだ。風に乗って流れるその機械音声は、底冷えするように低い。
 ダモクレスは、おもむろに頭部を開け放つと、体内で生成した氷塊を浜辺に向けてぶちまけた。
 着弾の衝撃で、いくつもの砂柱が立ち上る。製氷機本体のサイズが拡大したのに伴って、生成される氷も巨大になっている。人がうっかり潰されようものなら、赤色のシロップになりかねない。
(「氷出しっぱなしっていうのも勿体無い……いっそ、かき氷にして食べたい……」)
 氷塊が客の方に飛んでいかぬよう空中で撃ち返しつつ、明空・護朗(二匹狼・e11656)がそんな風に考えていた事など、ダモクレスは知る由もない。
 一方、避難する客たちの行く手に、ぽつん、と冷蔵庫がたたずんでいた。ドアには「避難路はあちら→」の張り紙。中身は、コレ・アレソレ(自動迎撃機能付き冷蔵庫・e18190)。
(「冷蔵庫製氷室の上位互換、製氷機。特化してるだけあって素晴らしい氷です。冷蔵庫も負けてられないです」)
 こっそりダモクレスと張りあっていた。
 信頼する仲間たちに海辺の一般客の避難は託し。ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)やライラット・フェオニール(旧破氷竜姫・e26437)が、相次いでダモクレスに攻撃を仕掛けた。
「ヒョー……」
 進路を妨害され、ダモクレスがうめいた。人間などやすやすと握りつぶせそうな大きな五指で、迫りくるケルベロスを振り払う。
「氷、それは暑い夏の救世主……捨てられた製氷機には何の罪もないけれど、ダモクレスになった以上放っておくわけにはいきません!」
 敵の注意を片時たりともそらさぬよう、攻撃を続ける朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)。
「こっちにも冷たい氷くださぁーい!! できれば痛くないやつでっ!」
 ピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106)もダモクレスに見えるよう両手を振って、存在をアピールした。
 こんな暑い時分だ。燃え盛る敵だったりしようものなら、ピリカの気分もなえてしまうというものだが、今回は製氷機。サービスがいい。
 そう考えているのは、九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)も同じだった。周辺に人影がなくなったのを確かめると、三和・悠仁(憎悪の種・e00349)と手分けして、キープアウトテープを周辺に貼り巡らせにかかった。
 その間も、ダモクレスはケルベロスたちへの応戦で手いっぱい。とても一般人を追いかける余裕などなかったのである。

●ダモクレスの海は冷たくて
「セー、ヒョー……」
 製氷機ダモクレスが、いよいよ上陸を果たした。
 ライラットが攻撃を外し舌打ちしていると、そこに駆け付けたのは、悠仁だ。『凝呪刀ラスフイア』をかざすと、今までに食らった魂の力があふれ、ライラットへと宿った。途端に、視界がクリアになる。
 そして環が放出したオウガ粒子が、前衛を務めるケルベロスたちの感覚を研ぎ澄ましていく。
「どんどん当てていきますよー!」
 環の助力に感謝しつつ、ソロは、竜虎二振りの喰霊刀を構えた。
「オラ! 氷ごとミンチになれ!」
 力を解放した二刀が、飛来する氷をかき氷に変えつつ、ダモクレス本体をも切り刻む。
 ケルベロスを迎撃しようとする敵の目前に、幻が割って入った。流星蹴りで、態勢を崩してやる。
「どうだ……おっと!」
 必死に体を支えようとした巨大な手に潰されまいと、その場を離脱する幻。
 すると、ダモクレスは腕立て伏せのような姿勢を取り、頭部を開いた。戦闘中に生成していた大粒アイスが放出され、破壊のあられが降る。
 ケルベロスと暑さを駆逐する氷気の中、護朗が雷杖を振るうと、仲間たちに雷の壁が展開した。
「こんちはーっ!」
 元気な声と共に、味方はもちろん、ダモクレスの体までもが明るく照らし出された。
 光源は、ピリカだ。その光を浴びた途端、なんだかわからないけれど、不思議と活力がわいてくる。ダモクレス以外。
 ボクスドラゴンのプリムも、氷塊の当たり所の悪かった仲間に、属性の力を注いでいる。
「セー、ヒョー」
「さぁさぁご唱和くださいです」
 コレが言うと、冷蔵庫の稼働音が響き、ダモクレスの声を掻き消した。『道具による唄』……特殊な波長をもつ音波の効果か。感電するダモクレス。
 冷気が散り、光が弾け、音が響き渡る戦場。
 今ならいける、と両腕のガントレットを打ち鳴らし、ライラットが敵へと殴り掛かった。聖なる左手の力で相手の体を引き寄せると、滅びの力のこもる右手を突きこむ。
「ヒョー!」
 装甲を貫かれ、ダモクレスが奇声を上げた。

●氷雨のち快晴
 製氷機ダモクレスが活動する事で、砂浜は冬のごとき寒々しさに包まれていた。本体の稼働に伴う熱が発生しているはずだが、氷の力はそれを上書きするほどに強い。
 ピリカは、今度は自分ではなく、杖を光らせた。びりりとほとばしる電撃が、半ば氷像と化していた仲間を覆う氷をみるみる砕き、払い落としていく。
 だが、ダモクレスの冷気地獄再び。
 周囲の空気が白く染まり、冷気が充満する。ダモクレスが、その冷凍パワーをフル稼働させたのだ。
 そうして冷気の鎧をまとった巨体は、高く跳び上がったかとおもうと、ケルベロスたち目がけ落下。
 仲間の盾となったのは、護朗の合図を受けたオルトロスのタマだった。小さな体が押し潰され、吹き上がる砂粒の壁の向こうに消えた。
 小さな仲間を救い出そうと、環が勢いよく敵に突っ込んだ。重力に引かれて降り注ぐ砂のシャワーを突っ切り、ハンマーを振るう。
 敵の姿を真正面にとらえると、思い切りのいいスイングで、ダモクレスの四角いボディを大いにへこませた。
「製氷室の底力を知るがいいです」
 不格好にバタつくダモクレスに、コレがドラゴニックハンマーを振り上げた。
「冷蔵庫の時代、来いです」
 ばがん! 破滅的な打撃が、ダモクレスを揺るがした。
 そうして後退したダモクレスの下から、護朗がタマを拾い上げた。その体に手をかざすと、優しく呪文を唱えた。発揮された言霊の力が、すぐさまタマの傷を塞いでいく。
 今度はケルベロスの番だ。
 仲間が何か仕掛けようとしている事を察した悠仁が、呪法を放った。呪詛に導かれ、ダモクレスの足元から、あるいは虚空から、いびつな草木が生える。その枝や蔓は、敵を覆う装甲をはぎとり、金属の体をも切り裂く。
 環もそれに合わせ、敵の目前に身を投げ出した。ぶぅん、と空気を切り裂くレーザーを弾きながら、視線を後方の仲間に送り、攻撃を促す。
 任せろ、と、幻が奥義を繰り出した。激しい雷を伴った斬撃。それを受けたダモクレスの全身を、雷が駆け抜ける。その直後、関節部に、氷が発生。手足を動かさそうにも、それが邪魔でうまくいかない。
 ピリカも、ここぞとばかり、発光。どぉん、と雷撃をダモクレスへと降り注がせた。
 気づけば、何やら盛り上がるBGMと、派手なエフェクトが場に広がっている。コレの小粋な演出だった。
 それを受け、ソロがライラットとうなずきあい、連携攻撃を仕掛けた。
 まずは、ライラットが電光石火の蹴りで、ダモクレスの巨体を天高く浮き上がらせた。
 このまま地面に叩きつけられてはまずい。受け身を取れるよう、態勢を立て直したいダモクレス。
 だが、今の一撃で、電子回路がショート状態。氷もまだ解けていない。
 そして敵と同等の高さまで跳び上がったソロは、ダモクレスを強引にさかさまにすると、
「メガトンソロちゃん落とし!」
 頭部から砂浜に叩きつけた。盛大な破砕の音が響き渡る。
 着地するソロの背後、バラバラになって飛び散ったパーツの下……核となっていた小型ダモクレスが、こそこそとはい出した。
 だが、それを幻が見逃さなかった。逃がすなと鋭い声を飛ばすと、それに応えた悠仁が、刀を躊躇なく突き立てる。
 今度こそ、完全に機能を停止するダモクレス。新たな体を得ることは、二度とあるまい。

●ビーチバレー大会2018
 ヒールも済み、おおむね元通り、平穏の戻った海水浴場。
 そこには、戻ってきた一般客はもちろん、武装を解いたケルベロスたちの姿があった。
 水着に着替えたピリカや環が、颯爽と砂浜に姿を現わした。まぶしさに目を細めたくなるしのは、何も夏の太陽のせいばかりではなさそうだ。
 続いて、ライラットと並んで、白ビキニ姿のソロが、ポーズを決めてみせた。
「悠仁に護朗♪ 私って結構スタイル良くない? ライラもなかなかだけどさー」
「ちょっ、ドレンテさん近い、近い!」
 ぴとっ、とくっつかれた瞬間、顔を真っ赤にして、逃げ腰の護朗。どうやら年頃の男子には、刺激が強すぎたようだ……。
「ねぇ、どう?」
「はい、大変に宜しいかと。なので、こう、あまり距離を詰められますと、恐らく大方の男性には保養というか、毒というか……」
 ソロに答えつつ、そっと一歩後退する悠仁。初心、というほどではないが、このアピールはかなり手強い。
「ピリカも久しぶりだな、また旅団戻ってきても良いんだよー!」
 幻を褒めたり、環をなでなでしたり。皆と雑談に興じていたソロが、冷蔵庫の整備をしていたコレに声をかけた。ブルーグレーの水着に身を包んでいる。
「コレも良かったら一緒にやらない?」
「ビーチバレーです?」
 誘われるまま、とことこ輪に入っていくコレ。
 そう。水着になったのには、もちろん理由がある。夏の海を満喫。戦いで張りつめた心をリフレッシュ。ビーチバレーボール大会開催である!
 というわけで、チーム分けは、護朗&タマ、幻、コレ、ライラット。
 そしてもう一方は、悠仁、ソロ、ピリカ&プリム、環となった。
 バレーボールとはなんぞや、という幻は、せっかくなので、ルールを教えてもらうことにした。
「こういったものを教えてもらうのもまた楽しみの一つだしね」
 そして、試合は始まった。
 スマッシュ! ブロック! 躍動するソロの瑞々しい肉体は、まばゆい日差しを浴びて、より輝きを増している。
 それ以上に、リアルに光る存在がいた。ピリカだ。能天気に見えて、負けず嫌い。その闘志は、体の内から溢れてしまう。
「うわまぶしっ!」
「クセになってるんです……つい力んでぴかっと光っちゃうの」
 プリムを抱きながら、ごめんなさいのピリカ。
 それなら、と一同は、サングラスで対応した。対閃光防御!
 背丈が足りなかったり、足を砂にとられたり、コレもわたわた。これまでどおり無表情のまま。けれど、どことなく楽しそう。
 点数を入れたり入れられたりするたび、無邪気に一喜一憂する環。そこに、仲間の声が飛んで来た。
 返って来たボールの威力が、緩い。チャンスだ。猫らしいしなやかさで、環は鮮やかなダイビングレシーブを決めた。仲間とハイタッチ!
 こちらもバレー未経験の悠仁だったが、次第によいトスが上げられるようになっていく。ケルベロスとしての戦闘勘も役立ったであろうか。味方にとっては頼もしい戦力である一方、相手にとっては難敵である。
 ライラットは、なにぶん、豪快な性分だ。力加減が上手くいっていないようにみえるのもご愛敬。
 相手はもちろん、仲間にも負けじと、幻も奮闘。単純な力では、オウガの中でもなかなかの方だと自負している。そこに技術が加われば、歴戦のケルベロス達にも負けるつもりはない。
 一進一退の攻防が続く。
 どうやら、インドア派の護朗よりも、タマの方が得意そうだ。別に『たま』つながりではないと思うが。
「やっぱり僕に運動は向いてないや……」
 肩を落とす護朗。とはいえ、その表情は明るい。なんといっても、顔見知りばかりの遊びの機会だ。楽しいことに変わりはなかったりする。
 そしてそれは、護朗のみならず。
 この場に集った誰にとっても、夏の思い出の一ページとなったはずである。

作者:七尾マサムネ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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