彼女の権威

作者:夏雨


「あんたさえいなければ、私とミカが引き離されることはなかったのよ!」
 表通りから奥まった場所にあり、裏庭の敷地は廃墟の影になっていて、人目につかない。
 後手に拘束され、裏庭に転がされた女性は、目の前で喚く鳥人間に腰を抜かしながらも毅然とした態度を貫く。
「や、やめて下さい、北村さん! こんなことしても娘さんに会うことはできませんよ!」
 首から下げたストラップの名札を見れば、女性は児童相談所の職員であることがわかる。
 母親らしい鳥人間、北村は女性の声に耳を貸さず、一方的にまくし立てた。
「私はあの子のためにやってるのよ! 名門と言われる中学に入れるかどうかで人生が決まるの。トップクラスの成績を維持させるには、多少厳しく指導する必要があるのよ」
「あなたの教育は行き過ぎています! だから、ご家族が相談に来られたんですよ」
 女性は負けじと反論を続ける。
「子どものためだなんて詭弁です! 自分の子を利用して、あなた自身の人生をやり直そうとしてるだけです。子どもは親の道具じゃありません! 母親なのにそんなこともわからないんですか!?」
 北村は女性の胸倉をつかんで無理矢理立たせると、ドアを突き破る勢いで女性を廃墟内へと突き飛ばした。そのままうずくまる女性を尻目に、自在に炎を発生させる北村は廃墟の周囲を炎で囲み、女性を火あぶりにしようとする。


「ビルシャナ と契約を結んだ北村という女性は、拉致した職員の女性を殺すつもりです」
 『前後の会話から察するに――』と予測の内容を明かしたセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、その内容を分析して自らが考察したことを述べる。
「度を超した教育方法が原因で、北村は娘と引き離された……そのことを逆恨みして、相談所の職員が狙われたと断定できるでしょう。理由はどうあれ、北村が職員を手にかけてしまえば、心身共に完全なビルシャナとなってしまいます。そして、1人の女の子が母親を失うことにもなります……ケルベロスの皆さんの力で、人命が失われるのを防いでいただければ幸いです」
 招集されたケルベロスらの協力を仰いだセリカは、戦闘域となる周囲の状況についても言い添えた。表通りから隔たれた廃墟と、雑草生い茂る裏庭に踏む込むような人間はまれと言える。戦闘を仕掛けるにしても、庭は相応の広さを占めている。
「現場に駆けつけられるのは、女性が炎によって屋内に閉じ込められた直後になります。廃墟に回る炎はヒールグラビティで鎮火することができますが、職員を助けるような行動を取れば、北村は執拗な攻撃を加えると考えられます」
 戦闘になれば、北村は契約によって得たビルシャナの能力、精神を惑わす経文、炎と氷の力を駆使してケルベロスらに対抗してくるという。そして、ただ倒すだけでは北村は人の姿を取り戻すことはできない。ビルシャナとして消滅してしまうかどうかは、ケルベロスらがどのように正しい道に引き戻すかが鍵となる。
「職員の方が言っていたことは正論ではありますが――」
 セリカは契約解除を促すための北村に対する説得について、ケルベロスらに進言した。
「正論を突きつけるだけでは、相手を逆上させることにもなります。彼女の救いになるとは限りませんし、心から契約解除を望むかどうかは別です。相手への理解を示し、正しい道へ誘導することも重要です」


参加者
レヴォルト・ベルウェザー(叛逆先導アジテーター・e00754)
村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)
笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
七宝・瑪璃瑠(ラビットソウルライオンハート・e15685)
ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)
不入斗・葵(微風と黒兎・e41843)
觴・聖(滓・e44428)

■リプレイ


 職員の女性の退路を塞ぐように燃え盛る炎が廃墟に引火し、パチパチと音を立てて勢いが増していく。辺りには焦げ臭い臭いが充満し、憎しみに支配された姿となった北村は、炎の向こうでろくに身動きの取れない女性の様子を無言で見つめていた。
 北村はそこへ駆けつけるケルベロスたちの存在など夢にも思わず、廃墟の向こうから続々とやって来た集団に目を見張る。
 北村との間に立つ8人に向かって、「何の用なの!?」と北村は敵意をむき出した。
「おおまかにだが、事情は把握してるよ。少し落ち着いてもらえないかね、お母さん?」
 8人の中でも一際目を引く真っ白な毛並みの体躯。ボクスドラゴンの明燦を従え、どこかぬいぐるみのように愛嬌のある白熊のウェアライダー、笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)は、落ち着いた口調で北村と向き合う。
 村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)は北村の注意を引きつけようと、
「今の自分を鏡で見るといいですよ。そんな姿で娘さんに会えるとでも思っているのですか?」
 ベルの周囲に音もなく舞い上がる無数の木の葉は、シャドウエルフの能力によって発生したもので、仲間の能力を引き出す糧となる。
 戦闘態勢を整え、各々が北村の出方を窺う中、レヴォルト・ベルウェザー(叛逆先導アジテーター・e00754)と一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)らはグラビティを駆使し、消火作業に専念する。
「お前たちも私の邪魔をする気ね!?」
 憤然として全身の羽毛を逆立てる北村に向けて、不入斗・葵(微風と黒兎・e41843)は真摯に復讐をやめるよう呼びかけた。
「葵たちは、元のミカさんのお母さんに戻ってほしいだけだよ。これじゃ何も解決しないよ」
 葵の言葉に呼応して、ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)は普段からの吃音を伴う口調で北村の説得を試みる。
「……か、彼女を殺め、れば、す、すっきりして、不満がなく、なって、満足? それでは、あ、なたの望みは絶対にかなわない」
 頭に血がのぼっている北村の耳にその声は届いていないようで、「邪魔をしないで!」と北村が言い放った直後、宙へと幾重にも散らばる氷片がきらめく様子がわかった。瞬時に氷片から形成された複数の環状の刃は、冷気を放ちながらケルベロスらを狙って飛び出した。
 ウィルマらへと向かう氷刃を操りながら、北村はぶつぶつと理解不能な経文を唱え始める。その行動を見た觴・聖(滓・e44428)は、氷刃をかわして北村へと接近し、相手の動きを封じようとその腕をひねり上げる。そのわずかな間にも、ウィルマの手から自在に放たれ伸縮する鎖は、魔法陣の形に沿って展開され、反撃の動きに備えて守護の力を授けていく。
「そんな腕で――」
 聖の手を振りほどこうと抵抗を続ける北村に向かって、
「今の姿でミカの事、抱きしめてやれんのか? オイ、てめぇは――」
 語気を強める聖を北村が強引に突き放した瞬間、その周囲には無数の火の粉が飛散した。一瞬にして集束する火の粉は、燃えたぎる炎のかたまりと化す。その炎はクジャクの姿となって宙を飛び交い、ケルベロスらを翻弄する。


 北村が説得の言葉をかける者らの相手に傾注している隙に、迅速に女性職員の安全を確保しようとするレヴォルトは、瑛華と共にヒールグラビティによる消火を続ける。レヴォルトのギターの音色に反応するように、不思議と炎の勢いは衰えていき、瑛華から放たれるオーラの色に包まれ、廃墟内部への侵入を妨げていた炎は消えつつある。
 シャーマンズゴーストのイージーエイトさんは、襲い来る炎のクジャクを退け、祈りを捧げるポーズから保護の力を注いでいく。
 絶えず氷刃を操る北村の攻撃から身をそらし、その手に杖を構えた七宝・瑪璃瑠(ラビットソウルライオンハート・e15685)は、霊媒からなる半透明のエクトプラズムを自在に操り、新たな肉体の一部と化すように外傷を包み込んだ。
 一時防戦に徹する一同に対し、主人と同じふわふわの毛並を持つ明燦は、負傷した者を優しく包み込むように寄り添い、傷を癒す力を注ぎ込んでいく。並外れた肥満体のウイングキャットのヘルキャットも、のそのそしたマイペースな動きではあるが、傷を癒す力を翼のはばたきに乗せて支援役を担う。
 攻撃の切れ間を見計らい、瑪璃瑠は北村に向かって声を張り上げた。
「ボクたちはミカちゃんとやり直せるように、あなたを助けたいだけだよ。ミカちゃんから引き離されたことは悲しかったと思うけど、相談所の人を傷つけるのは間違ってるよ」
 北村は一層全身の羽毛を逆立てて怒鳴り返した。
「どいつもこいつもうるさいわね! うちの子がどれだけ優秀かで、親である私のステータスが決まるのよ。あの子の人生は私の人生そのものよ、親が口出しして何が悪いの!」
 自らの価値観を押し付ける口振りの北村に対し、
「⾃分の⼈⽣の代わりを押し付けても、それがミカちゃんの幸せとは限りません」
 ベルは契約の解除に至るよう、曲がりなりにも娘を思っているはずの北村の心に訴えかけた。
「ミカちゃんが好きな事はなんですか? ⾃分の⾝勝⼿を押し付けてないと⾔い切れますか?」
 ベルの言葉に聞き入ったように、一瞬押し黙る北村。
 くすぶるばかりとなった火の状況を見て、瑛華は職員の女性の避難をレヴォルトに任せ、迷いを振り払うように再度攻撃に臨もうとする北村に銃口を向けた。瑛華のリボルバー銃から高速で放たれた弾丸は、北村を大いに怯ませけん制した。認識すらできなかった瞬時の攻撃に、北村は慌てて距離を取る。瑛華は銃口を向けながらも、北村の心を傾かせようと説得に加わる。
「このまま彼⼥を殺してしまって良いのでしょうか。あなたが⼤切に育て上げた娘さんは、⾃⾝の⺟が殺⼈を犯したと知ったときに、どうなるでしょうね」
「あんたらが何を言おうと、関係ないでしょ!」
 かすかに震える声と共に、北村は複数の氷刃を瑛華に向けて放った。しかし、氷刃はたやすく瑛華の弾丸によって仕留められ、粉々に砕け散る。
 北村の注意を引き付ける瑛華は、言葉をかけ続ける。
「――傷つき、悲しみ……その⼈⽣に、悪い⽅向で多⼤な影響を与えてしまうのではないでしょうか。もう⼀度、考えてみてください」
 北村の注意がそれている間に、廃墟内の女性を助けるために充分な鎮火が完了した。
 北村から突き飛ばされた衝撃で意識を失いかけている女性を、レヴォルトはウィルマと共に助け起こす。
「だ、⼤丈夫、⼤丈夫。……ね︖」
 ウィルマは女性に声をかけると共に、女性から協力的な行動を得られるよう、密かに能力を発揮した。
「ケルベロスだ、ここは俺らに任せな。二度と戻ってこない方があんたの身のためだぞ」
 ウィルマのフォローもあり、レヴォルトは速やかに女性を連れ出し、廃墟の表側へと続く通路をたどっていく。


「私は間違ってない! あの女さえいなければ、私がダメな母親だと誤解されることもなかったのよ!」
 生じた迷いを振り払うように、北村はケルベロスらへ激しい攻撃を繰り返す。
 けん制するためにも迎え撃つケルベロスらの反撃は勢いを増し、押し負けそうになる瞬間に幾度となくおののく北村。だが、攻撃の手は緩めず、炎のクジャクも何度打ち消されても再生を繰り返す。
 飛び回るクジャクは火の粉を散らし続けるが、葵が狙いを定めた矢はクジャクを貫いた勢いで北村へと達した。更にハンマーから砲撃を放つ鐐の追撃が北村を仕留めると、廃墟内を引き返してきたレヴォルトとウィルマは戦線に加わった。さり気なく周囲の者に目配せをするレヴォルトは、女性の退避が完了したことをそれとなく告げた。
 廃墟に引火していたはずの火がすっかり消えていることに、冷静さを失っていた北村はようやく気づいた。
 北村から次々と繰り出される氷刃だが、その軌道上に立ち塞がる明燦とイージーエイトは身を挺して氷刃を弾く。巨大なハンマーを振りさばく鐐も、氷刃を粉々に砕いてみせた。
 廃墟の前に陣取るケルベロスらを退けようと躍起になる北村だが、北村への説得は続く。
 鐐は北村の行動を注視しつつ、根気よく言葉をかける。
「今回はな。貴⼥がすこ〜し厳しすぎただけだよ。貴⼥が周りに気を配る余裕を無くして、⾏きすぎた。今はちょっと休憩しなきゃいけない時間だと思うんだ」
 北村の娘の気持ちを汲み取る葵は、立て続けに言った。
「葵だったら、お⺟さんに嫌われたくないから、期待に応えようと頑張るかも……でも、頑張っても、頑張っても、お⺟さんが褒めてくれなかったら悲しいと思うの」
 娘と同年代の葵を見つめ返す北村の動きは鈍り、隙が生まれるほどにケルベロスらは北村への言葉を重ねた。
 攻撃の勢いが鈍る隙に乗じ、瑪璃瑠は言った。
「北村さんの幸せは、ミカちゃんと一緒にいることじゃないの? 周囲からミカちゃんと引き離されて、自分の愛情を否定されたようなものなのかな」
 自らの能力をダブルネックギターの音色に乗せて発散し続けるレヴォルトは弦を弾く手を止めると、北村の説得を後押しする。
「御前の⼈⽣、此れで終わりで良いのかい? このままじゃ、ダメな母親のレッテルを貼られたままになるんじゃねェか?」
「娘さんを本当に想っているのなら、⼀緒にいたいのなら、⼈を辞める外法に⾝を委ねるのはおやめなさい」
 真摯に訴えかけるベルだが、北村は抵抗を続ける素振りをやめない。途切れ途切れに聞こえていた北村が唱える経文は、遂に精神をむしばみ始める。
 治癒の力を行き渡らせていた瑪璃瑠は、虚ろな目で自身を見つめるベルに気づく。その瞬間、ベルは瑪璃瑠に向けて鎖を放った。瑪璃瑠は経文を唱える北村に操られるベルから逃れようとするが、ベルの鎖は瑪璃瑠を捉えようと追いすがりにいく。
 瑪璃瑠との間に割って入る鐐は、左腕を捉えきしませるベルの鎖と引き合う。はっとした表情で正気を取り戻しかけたベルだが、北村の狙いは鐐へと向けられる。
 耳の奥から響くような読経の声が聞こえたかと思えば、激しい耳鳴りが鐐を襲い、その精神を支配しようとする。しかし、鐐は野性味を帯びた咆哮と共に、精神へ及ぼうとした北村の魔の手を振り払う。


 露骨に舌打ちをし、怯まずに経文を唱え続ける北村だが、裏庭全体の空気を震わすほどの爆音が響き渡る。メタル調の激しい音色をかき鳴らすレヴォルトは、レプリカントである機械の体から複数のミサイルポッド型の増幅器を射出し、北村に向けて展開した。
「自己中なテメェのその心……ぶっ壊れるくらいに、響かせてやるぜェ!!!」
 増幅器を通じて、レヴォルトの超絶ハイトーンシャウトは音波兵器と化し、北村と一帯の雑草を吹き飛ばすほどの威力を見せた。
 否応なくかき消される北村の読経。瑪璃瑠はビリビリと鼓膜を震わせるほどのレヴォルトのシャウトを体感しながらも、完全に北村の影響が去っていないベルに焦点を絞る。空間に眩い亀裂が走るように、瑪璃瑠の意思によってワイルドスペースから現れた義兄の姿の残霊は、瑪璃瑠の力となり結界を発動させた。
 結界の発動と共に幻影のように羽が舞い散る中、ベルの右腕からは黒い液状の物体がうごめき始め、北村を呑み込もうと変形して襲いかかった。ベルの腕を根元にして北村へと伸びた捕食体は、逃れようとする北村の右足を捕えて離さない。
 北村の動きを封じようとするベルに加勢しようと、聖はその拳に巻いた包帯から鋭利な切っ先を成形する。染み込んだ血を硬化させ、円錐状に拳に巻きついた包帯は赤黒い凶尖となる。
 聖の動きを察知した北村は強引にベルの拘束を引き剥がし、接近しようとする聖を迎え撃つ。その視界が無数の火の粉に照らされたかと思うと、聖はウィルマに押し退けられるようにして炎から免れた。
 鎖をムチのように振りかざして炎を振り払い、
「それでいいの、ですか? あなたは夢をかなえるどころか、ミカさんの⺟親ですら、なくなってしまう」
 ウィルマは再度問いかけた。
「あんたらの言うことなんて――!」
 再び周囲に火の粉を発散させながら息巻く北村に対し、能力を集中させた葵は北村の目の前で爆発を引き起こす。煙が立ち込める中、炎の翼の輪郭が見え隠れすると、鐐は砲撃を開始して炎を打ち消しにかかる。
「⼀番⼤事なことを⾔うぞ。『⼈殺しの娘』という咎を⼀⽣負わせるつもりか!?」
 鐐は衝撃に耐え切れず膝をつく北村に向かって忠告を続けた。北村を睨みつける聖も鋭い口調で言葉を連ねる。
「てめえがしようとしていることは巻き戻せねえ、⼆度ととりかえしがつかねえ事なんだよ!」
 そう続けた直後、二度と取り戻すことのできない聖自身の家族の記憶がフラッシュバックし、聖は更に顔をしかめる。
 ――クソ、ふざけやがって。なんで、今更……!
 むせ返る感情を振り払うように、拳を握り直した聖は北村へと迫る。飛び出す氷刃をものともせず、聖は拳から伸びる切っ先を北村へと突き出した。北村は辛うじて聖の手首をつかみ、聖を押し返そうと力を振り絞る。
 氷刃によって負った腕の裂傷に北村のかぎ爪が食い込むが、聖は決して力を緩めず、
「なァ、ミカは何て⾔ってたんだよ、勉強頑張るって笑ったか? ⼿離したくねえってんなら、ちゃんと⾒て、話しきいてやりゃ、いいだろうがよッ……!!!」
 間近で北村に凄んだ聖は、腕をつかむ北村を振り解いた瞬間、その左肩を鋭く深くなぞる一撃を放った。
 飛び退いた直後の北村が攻撃の手をこまねいているのを見て、瑛華は言った。
「憎い気持ちは⼀先ず置いておき、⾃分の⼤切な娘さんの幸せを、⼀番に考えてあげてください」
 ぶつぶつとつぶやきながら羽毛を掻きむしる北村は、
「あの子の幸せなんて……私は――!」
 煩悶する様子を垣間見せる北村は、その場に平伏すようにして言った。
「だめよだめよ! このままあの子を失うなんて……取り戻せるならなんだってするわ! どうか許して!」
 ウィルマは北村のその言葉に身構え、人知れず笑みを浮かべてつぶやいた。
「ああ……。本当に、本当に、どうしようもない、⼈」
 ビルシャナの姿、能力を取り除くべく、ウィルマは瞬時に自らの能力を解放する。歪んだ空間から蒼い炎をまとった剣の柄を引きずり出していくが、その剣身はどこまでも続く。そして、一気に引きずり出された剣は北村以外の対象を幻影のようにすり抜け、北村のみを弾き飛ばした。
 激しくはね飛ばされた体をかばうこともできず、宙へと躍り出る北村。終局の一撃となる瑛華の銃弾が北村を捉え、地面へと投げ出された体からは大量の羽毛が飛散する。その羽毛の下からは人間の女性の姿が現れ、一同は本当の母親の姿を取り戻したことに胸を撫で下ろすのであった。

作者:夏雨 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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