空飛ぶ鮫の脅威

作者:baron

『お行きなさい、ディープディープブルーファング。グラビティ・チェインを蓄え、ケルベロスに殺され……私の研究の糧となるのです』
 赤い翼を持つ女性がナニカを世に放った。
 ソレは鋼のボディを持つ……魚の形状をしたロボットだ。
 空を泳ぎながら周知を探知すると、人々を探して人里の方に向かったのである。


「愛知県田原市に神によって『死神の因子』を埋め込まれたダモクレスが向かっているようです」
 セリカ・リュミエールが地図を手に説明を始めた。
「最近見られ始めた死神が関与するダモクレス事件で、多少今までと違いますが、やることは同じです」
 人々の虐殺を許すわけにはいかない、死神の因子を植え付けられたダモクレスを撃破し、人々を守ってほしい。とセリカは告げる。
「これまで判って居る情報では、このダモクレスは、全長は5mで、『メカ触手』と『サメ魚雷』を利用した攻撃を行います」
 触手と魚雷の機能は微妙に違うそうだが、主に触手が近接戦闘、魚雷が遠距離戦用というのは見た目のままらしい。
「それと、これまでの情報に寄る限りですが、今までの死神事件と違って撃破した時に花が咲いて回収されるということは無いらしいです」
 今回のダモクレスには、そういった特性は持っていないようなので、強いらしいが戦い易い相手と言えるだろう。
「今回の敵であるダモクレス、ディープディープブルーファングが、まるで死神を模したような魚類型であるのにも、何か理由があるのかもしれませんね」
 セリカはそう言いつつも、まずは人々の生活を守ってほしいと頭を下げた。


参加者
狗上・士浪(天狼・e01564)
ヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033)
ガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
遠野・葛葉(鋼狐・e15429)
龍造寺・隆也(邪神の器・e34017)
カーラ・バハル(ガジェットユーザー・e52477)
不動峰・くくる(零の極地・e58420)

■リプレイ


「ここいらかの。それでは先に行くぞっ!」
「ちょっ!? いきなり」
 ヘリオンから見て、絶好の場所。
 遠野・葛葉(鋼狐・e15429)は扉を開けるや、中空に身を躍らせた。
 羽ばたく様に千早が揺れ、バタバタと音を立てる。
「あーもう。こっちも出るっすよ!」
 慌てて扉に解放状態を保つロックを掛けながら、カーラ・バハル(ガジェットユーザー・e52477)が飛び出して行く。
 途中でワイヤーを柱に飛ばし、弧を描いて着地体勢に入った。
「お疲れ~」
「今日は出だしから疲れたっす……」
 ガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925)が翼を広げて滑空して来ると、カーラはワイヤーを外して巻き取って居た。
 ノリと勢いは嫌いではないが、没頭できるほど好きでも無い。
 主に女性陣の脇とか足が目に入ると困ってしまうではないか。命の危険と違ってそっち方面は、即座に割り切れるほど少年は覚悟完了して居る訳では無い。
「魚雷は撃つけど自身での突進攻撃がない辺りが、ある意味合理的でダモクレスらしいというか、サメらしくないというか」
「死神を模した姿……。鹵獲された機体ではなく初めから死神に利用させる事を前提に造られた機体なのかしら」
 一方で竜派のガロンドにとってそんな事はどうでも良いので、話を本題に戻すことにした。
 アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)はその話題に乗りながら、改めて周囲を確認し道を塞ぐコースに向かう。
「いずれにせよ人里に到達させる訳にはいかないわね」
 アウレリアは目線だけで彼方を確認すると、遠目に見え始めたダモクレスに銃を向ける。
 腰に下げたハンマーをそのまま射撃体勢に移行させ、砲口と銃口をリンクさせた。
「残念だけれど、この地の空にも海にも貴方が泳ぐべき『場』はないのよ。地獄の底で、永劫の虚無の中で揺蕩いなさい……」
「来やがったか! こっから先は遊泳禁止の密漁禁止。周りに迷惑をかけることも勿論禁止だ。ルールを守れないんなら仕方ねエ。とっとと帰って貰うぜ、ポンコツ鮫!」
 黒金の銃はグラビティによるリンクで砲門と化し、アウレリアの声と共に轟音を上げて砲撃を開始した。
 カーラは同じ技を選択しいていたが、電信柱の上に移動して居たことでやや遅れた。
 上からの砲撃が正面のソレに重なり、僅か後に轟音は爆音と化してダモクレスを包み込んだ。

 この攻撃に対し鮫型のダモクレスは無言で応戦。
 触手を伸ばして周囲を包み込んだ。
「おっとそうはさせないよ。ディート、このままフル・スロットルだ!」
「すまんの。では反撃じゃ、鮫は殴れ! どこかの黒服がそう言っていたしな!」
 そこへヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033)がキャリバーのディートに乗って現われて、触手を引き千切る様に受け止めて行く。
 強引なドリブル、いやドリフトが駆け抜けて行く中で、葛葉は触手の上に飛び乗りながら走り抜けた。
 鉄拳が炸裂した時、ヴィットリオは思わず『電撃だったらどうするんだろう?』と思うほどの思い切りの良さだったという。
「それは誤植が元なんじゃあ……まあ色々発展してみるみたいだからいいか。アドウィクスはそのままガンバね」
 ガロンドは触手の一部をミミックのアドウィクスに任せながら、海の力を持つオウガメタル(という主張)を解き放った。
 治療も必要だが、長き戦いに備える為に海の神の啓示(自称)によって仲間達に援護を与える為だ。


「死神の因子を持ったサメ型ダモクレス、これ以上は行かせぬでござるよ!」
「……こないだも似た様なのブッ壊してきたけどよ。量産型ほどめんどくせぇモンはねぇや」
 不動峰・くくる(零の極地・e58420)と狗上・士浪(天狼・e01564)は左右に別れて半包囲を始める。
 仲間が距離を詰めるのに合わせて、まずは人々の方へ行かせないように遮断するためだ。
「……まぁ、部品も残らねぇ様に、キッチリ粉砕するしかねぇか」
 士浪は射撃体勢のハンマーで豪砲を放った後、敵の動きを確認するために距離を保った。
 敵が触手を使うか、それとも魚雷を放つか見極める為だ。
「何が狙いかは分からんでござるが、その野望、拙者の轟天と震天で、砕かせてもらうでござる」
 くくるはここでガロンドと同じくひとまず援護に回り、長期戦に備えつつ左手の籠手を展開。
 隙あらば何時でも動けるように身構えた。士浪とは意味が違って、様子を見る為では無くどう叩けば楽しいか考えている。
「少し前に駿河湾で海底基地が発見されたようだが、まあ、倒しておかねばならない事に変わりはないか」
「工場も見つかったみたいだけど、参考にして居る奴がいるならこっちはこっちで対処しないとね」
 龍造寺・隆也(邪神の器・e34017)の周辺でターンを掛けつつ、ヴィットリオは弓を引き絞った。
 その姿は現代の流鏑馬、いや騎馬民族の射手の如く。
「あたれ!」
 キャリバーに乗ったまま矢を放ち、つづいて車輪を刃の様にグラビティで固めて攻勢を掛ける。
 その後ろから後押しするかのように、黄金の闘気が迫って来た。
「自分からやって来たんだ……覚悟はいいな」
 隆也が構えた瞬間から、黄金の闘気が溢れ始める。
 威風堂々と大地に立つだけで、圧倒的なグラビティと共に周辺を覆って行く。
 敵の動きが鈍くなってしまう様に見えるのは、射程範囲に入ったことで敵は身構えたからかもしれない。確かな足取りで踏み出せば、波で打たれる船の如くダモクレスが揺れた。
「行くぞ。まずは抑える」
「おうよ! これでも……くらいなぁ!」
 隆也がショートダッシュから蹴りを放つと、鈍い音を立ててダモクレスが沈む。
 そこへ士浪が片腕だけ獣化させた拳で強烈な鉄拳を放った。

 軋む様に大地に撃ちつけられたダモクレスだが、その身は生物では無い。
 まったくの躊躇なく反撃に動く。
「ちっ! 電撃が来るぞ!」
「読み通りだ! でも、こいつはちょっと痛そうだな。僕ら盾役でローテーションが必要そうだ」
 士浪が飛びのくと同時に、ヴィットリオが白い炎をあげながら突っ込んで来る。
 受け止めたのはキャリバーのディードの方だが、あまりのダメージにプスプスいっていた。
 いや火力自体はそれほどでもない? ということは電撃が中に浸透し、回路の一部がショートしたのかもしれない。
「その心配は不用にござるぞ! 窮地はこの時のみ、今をしのげば耐えられるにござる!」
「まあ、何とかするのは僕ともうひとりの相棒なんだけどね」
 くくるが籠手に仕込んでおいた無数の符を張りつけると、キャリバー型の折り紙が出来上がる。
 その上からガロンドが『やっぱり先に防壁張りたかった』とため息つきながら、黄金色の攻性植物を活性化させた。
 敵は特化型ではないものの、かなり強力であり単発攻撃の火力はともかく、副次効果まで発揮されるとかなり面倒だからだ。
 思考力よりも戦闘力を取ったダモクレスは地味ながら強敵であり、格上ならばそれは当然。理解してはいたが、事実を目の前にすると面倒ではあった。


「鮫が宙を泳ぐなんて面妖な光景だな! まぁ、なんであれ殴るだけだ!」
「……それを言ったら下級死神もだけれどね」
 電撃の触手でケルベロスを排除しながら浮かび上がってくるダモクレスに、葛葉が回り込んで蹴りを放った。
 アウレリアは後方に居たこともあって助走距離を使って、むしろ飛び越えて蹴りを放つ。
 ビハインド……夫であるアルベルトの持つ白銀の銃声がそれに続いた時、息を吸って心を落ち付け銃を構え直した。
 そしてカーラが強襲するのに合わせて、狙いを澄ませたのだ。
「へへっ。燃えたろ? これでも練習したんだぜ」
 カーラはワイヤーで自分を支えながら、宙ぶらりんの体勢からガジェットを操った。
 追加で放ったもう一本のワイヤーは実体攻撃の為ではなく、精製油を垂らして摩擦熱で燃やす為だ。
 そして火炎攻撃を仕掛けて空中が燃え盛った時、狙い澄ませた一撃が通り過ぎる! ただそれだけでダモクレスはグラリと動きを鈍らせた。
「おっ!? 今の凄いっすね。どこかに重要なパーツでもあったんすか?」
「違うわ、用途の差よ。この弾丸は杭。損壊を穿ち、傷痍を留める、杭なのだから」
 カーラは感心するがアウレリアの方はそっけない。
 彼女としては傷口の度合いや相手の動きをみながら事前に予想を付けた上で、味方の攻撃で揺らいだところを後押ししただけだ。
 狙う先が内部構造なのか、それとも武装の付いている場所なのかの差でしかない。
「それは負けてられないっす! 俺も状況や相手によってもうちょっと上手く戦えたらなあ」
「自信が無かったら自分を鍛えればいい」
「その通りでござる! 今回は轟天・震天の守りの力、見せるでござる!」
 カーラがハンマーとナイフのどっちが良いか悩んで居ると、こともなげに隆也たちが答えた。
 くくるなどは籠手は呪符で出来ているのではないかと思うほどに張りつけて、周辺に結界を築きながら胸を張って居る。
 ちょっぴりお調子者なのが偶に傷だが、自身を持って行動することの重要さを後輩から学ぶカーラなのでした。
「戦場に正解など無い。ならば自分だけの闘い方を見付ける他あるまい」
 それはそれとしてまた一歩前に踏み出しながら、隆也はただそれだけでダモクレスを威圧する。
 威風堂々たる佇まいに、敵のみならず気押されるカーラであった(実際には砲撃モードのせいだと思われるが)。
「わお! すげぇパワーだな! 流石サメ! ていうか魚雷だけどね! みなさんヘルプ~」
 おおっとアドウィクスくん、吹っ飛んだ~!
 ガロンドはそんな解説を入れながら、携帯で画像でも取ろうかと思わず思ってしまった。
 何しろ強力な熱量の魚雷を喰らって、ミミックに穴が開いてしまったからだ。
 もし次が範囲攻撃だったら大変なので、そろそろ何とかしようと黄金の加護を周囲に張ったところである。此処に来て強力な単発火力が来るとは思わなったと言っても良い。
「今向かうよ。やっぱり厄介な相手だね」
「チっ。仕方ねえ。喰い千切れ……!」
 ヴィットリオは交代でカバーに入り、士浪は舌打ちを入れると五つの指に気を集束させる。
 貫手がダモクレスが持つサーキットのリレーを断ち、内部から精度を狂わせる為だ。ソレは過剰電流の様に回路を破壊し敵の能力を抑えるだろう。


「そろそろじゃないかしら?」
 時間が過ぎ、ダモクレスの内部機構に負荷が掛れば動きが鈍るのは必然。
 アウレリアが撃ち込んだ何度目かの砲弾は、装甲の内側で弾けて音に還った。
「なら最終段階だね。逃がさないようにしないと」
「ふむう。では終わりの時が来たと、告げてやらねばならんの」
 ヴィットリオの攻撃は外れる事もあったが、もはやそんなことはない。
 彼の拳は守りを容易く砕き、葛葉がラッシュを掛けるのを手助けする。
「剛能断柔……ぶち抜くぞ!」
 葛葉が放つ拳がダモクレスを貫いた。
 その拳は速度に特化し、音速を越え打撃音が直撃の後から響く。
「ようやく終わりか……」
 士浪は自重気味にそう呟くと、指先一つでハンマーをくるりと回した。
 殺人機械に慈悲は無い、ただ苦しみを続けさせる悪徳も持ち合わせて居ないので、速やかにトドメを刺しに行くだけだ。
「囲むぞ」
「了解ッす! 俺達を信じてくれてる人々に迷惑はかけられませんから!」
 士浪が鉄槌を振りあげる中で、カーラは少し離れた位置に移動して砲撃を敢行した。
 この位置ならば逃げても十分に狙いを調整できる。絶対に逃がしはしない!
「バリバリいくでござるよ!」
「……そういえば五味の他に、電撃味とか腐敗味に金属味というものがあるそうね」
「え~。それって単に舌の感知範囲であって、味覚じゃないんじゃないかな」
 くくるが解放した強烈な電撃がダモクレスに襲い掛る。
 それを見てもらしたアウレリアの感想に、ガロンドは思わず手を振って否定したというが、アウレリアは不思議と懐かしさを思えた。

「トドメだ」
 最後に隆也が敵を粉砕した時、どんなに香辛料を掛けても食べられない魚が大地に砕け散った。
「それにしても死神の狙いはなんなんだろう。ダモクレスの工場を手に入れてた、みたい? だけど」
「知らねぇよ。あのサメ型のポンコツをぶち壊したところで、連中の目論見通りに事が進んでやがるのは間違いねぇ。後手に回ってるからな」
 ヴィットリオの言葉に士浪は肩をすくめた。
 ただ逡巡入れること無く、苦笑いを浮かべて答える。
「だが、構わねぇ。目論見なんざ、またぶち壊してやりゃいい」
「そんなものかもしれないっすね」
「まあ難度来てもぶちのめしてやるだけじゃ」
 士浪の言葉に頷きながらカーラや葛葉は残骸の調査に乗り出した。
 何か手掛かりがあるのか、あるいは既に送信されているのか?
「まあ帰るころには少しは事態も進展してるんじゃないかねぇ。とりあえず、修復終わらせちゃおっか」
「それじゃあ向こうは僕らで担当するよ」
 ガロンドが修復を始めると、ヴィットリオはキャリバーに乗ったままヒールを掛けて行く。
 白い炎が霧の様に幕を掛けて戦場であった場所を覆い隠して行く。
「こんなものか」
「手分けすれば速いものよ。逃がすと大変だけれどね」
「無事に終わった事でござるし……帰って一杯やるでござるかな?」
 隆也が周囲を確認するとアウレリアは全て終わって居ると告げた。
 くくるは仕舞っておいた煙管を取り出すと、紫煙をくゆらせ風下に向かって歩いて行く。
 行く先は風任せ、敵の事など忘れた様にその場を後にしたのである。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。