夏の終わりの打ち上げ花火

作者:一条もえる

 ここ、海に面したとある町では、人々が花火を今か今かと待ち構えていた。
 昨今は経費の問題から取りやめになっている花火大会も多いらしいが、この町の花火は今年も夜空を彩る。
 そりゃあ、都会の華々しいものとは比べるべくもないが、この町に住む人々はそれを心待ちにしていた。
 今年は荒天にも影響されて開催が危ぶまれた大会だったが、順延こそしたものの、なんとか開催にこぎ着けられたのである。
 この町の花火大会の舞台は、港である。
 ドーン、ドーンと大きな音を立てて花火が夜空を賑わすと、その星々は海にも映る。空と海と、同時に2つの花が咲く。
 港は見物にやって来た人たちで埋め尽くされていた。今夜は微風である。煙はほどよく風に流され、誰もがみな、星の輝く夜空を彩る花火に見入っていた。
 そのことが、災いした。
 突如、闇を切り裂いて飛来した巨大な牙が、埠頭近くの海面に突き立った。
 水飛沫が上がり、
「な、なんだ?」
 近くにいた見物客が声を上げる。
 水の中から這い出たのは、長剣を手にした竜牙兵であった。
「カカカカ! 獲物ガココニイルト、目印ニナッテオルワ」
「ソレホド、ドラゴン様ニグラビティ・チェインヲ捧ゲタイノデアロウ!」
「ひぃぃッ!」
 それに気づいた埠頭近くの人々は、悲鳴を上げて逃げ出した。
 しかし、多くの人の注意は夜空に向けられていて、花火の音が辺りには轟き渡っている。
「なに? なんなの?」
 事態に気づかない人々のせいで、逃げだそうにもうまくいかない。
 竜牙兵の凶刃は、逃げだそうとした者にも気づくのが遅れた者にも、等しく襲いかかっていった。

「面倒な状況だねぇ」
 事件のあらましを聞かされたピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)が、肩をすくめた。
「そうなのよね。なにしろ、人は多いし……」
 崎須賀・凛(ハラヘリオライダー・en0205)は卓上に山盛りのブドウを置いて、その一粒を手に取った。
 大粒のピオーネに唇を寄せて、舌も使って「チュッ」と果肉を吸う。
「事情が事情だし、町に連絡して中止に……ってわけには、いかないよねぇ。やっぱり」
 期待してないのが明らかにわかる口調で、ピジョンはため息をつく。
「できればそうしたいんだけどね」
 そう言う間にも、ブドウの粒は次々と凛の口に運ばれていく。さながらリピート再生をしているかのように。しかも早送りで。
「もし会場から人が少なくなっちゃったら、予知とは違う場所が襲われると思うの。
 そうなったら、防ぎようがないし」
 どうあろうとも、人々が賑わう花火大会で敵を迎え撃つしかない。
「これが現場の地図ね。見てくれる?」
 新たなデラウェアの粒に手を伸ばしながら、凛は逆の手で地図を示した。
 現場は、漁船や同町に属する離島へ向かうフェリーが停泊する、小さな港である。
 南北に埠頭が伸び、北の端に駐車場がある。その日は見物客の車で満杯だ。駐車場は他に、少し北に行ったところにもあるので、どちらかといえば北側から会場にやってくる客が多い。南側を少し歩くと、近くの高校が保有している野球のグラウンドがある。
 竜牙兵どもは『獲物』が多いことを幸いにと、放射状に散らばって人々に襲いかかるようである。各人が目の前の人々を追い回し、特にどこを目指してということはないようだ。
 とにかく、敵の初動をなんとかしなければならない。
 まさか目の前のケルベロスを放ってまで見物客を狙ったりはしないだろうし、はじめの混乱から脱することさえ出来れば、辺りには警備も多くいるはずなのだ。徐々に避難を進めていくことは可能だろう。
「出現する敵は5体。けっこう多いけど……皆なら何とかしてくれるよね?」
 と、凛は唇に巨峰の粒を押しつけてきた。

「そうだねぇ。僕も戦いに自信を持てるほどじゃあ、ないけどねぇ……。
 でもまぁ、やるしかないよ、やるしかね」
 ピジョンが、口の端を持ち上げる。


参加者
シェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237)
草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)
アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)
ベルベット・フロー(フローリア孤児院永世名誉院長・e29652)

■リプレイ

●飛来する牙
 日が落ちてくると、港には徐々に人が集まってきた。
 それを横目にする警備員たちには、異様な緊張感が満ちあふれていた。
 彼らのもとにやってきたケルベロスたちが告げたのだ。
 デウスエクスが、この花火大会を襲撃する『可能性がある』。
「そんなのもぉ、『絶対来るよ!』って言ってるようなものだよね」
 と、マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)は苦笑する。
「だよねぇ。そこでもし、他の人にまで騒ぎが伝わったら……。
 ……なんとか、今のところは大丈夫みたいだねぇ」
 ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)は辺りを見渡したが、先ほど開催のアナウンスがあっただけで、不審なところはない。
「イささか綱渡りだったかもしれないガ……襲撃を防ぐたメには仕方がなかった、と考えよウ」
 人目を引く存在なのか、ちらちらと君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)を窺う見物客もいる。当の本人はそれを気にもとめないで、
「皆が楽しんデいるところに乱入すルとは、無粋ダな」
 と、奴らが現れるであろう空を見上げた。
 その空に、一筋の光が駆け上がる。
 それは四方八方に散らばって、美しい花を咲かせた。すぐさま、後を追ってドーンと音が響く。
「こりゃ近いな!」
 草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)が歓声を上げたが、その声はすぐとなりの仲間にもうまく届かなかった。
 花火は立て続けに打ち上がり、満天の星空を埋め尽くしていったからである。腹の底を震わせるような轟音が辺りを満たす。
「なるほど、これじゃ騒ぎが伝わらないのも無理はない」
 アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)が頷いたが、その呟きも誰の耳にも届かない。
「きれい……」
 シェミア・アトック(悪夢の刈り手・e00237)はため息をついた。これが任務でなかったなら、どれほどよかったことか!
 皆が見上げる空から、『何か』が飛来してきた。花火の光に照らされて、闇の中でわずかに浮かび上がったその形は……巨大な牙。
 岸壁のすぐそばに着水したそれは、大きな水柱をあげる。
「な、なんだ?」
 近くにいた見物客が、うろたえた声を上げる。
「カカカカ! 獲物ガココニイルト、目印ニナッテオルワ」
 甲冑と骨の隙間から海水を滴らせながら這い上がってきたのはもちろん、竜牙兵である。
「ソレホド、ドラゴン様ニグラビティ・チェインヲ捧ゲタイノデアロウ!」
 竜牙兵どもは長剣を閃かせ、それぞれの方向に散らばって人々に襲いかかる。襲来に気づいた人々はすぐさま逃げようとするが、花火を見上げている人の壁に阻まれ、ぶつかっては迷惑そうに舌打ちされた。
 しかしそこを、ケルベロスは待ちかまえている。
「勝手なこと、言ってくれるじゃん!」
「観客の皆は……私たちが護る!」
 ベルベット・フロー(フローリア孤児院永世名誉院長・e29652)と空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)とが、竜牙兵の前に飛び出した。
 ベルベットの鉄塊剣と敵の長剣とがぶつかり合って火花を散らす。モカは振り下ろされる刃を、ナイフで滑らせて受け流した。
「現れたな……!」
 アジサイが、その爪を超硬化させる。敵が現れたのは、予想していた場所。
「よし、ぬかりはない!」
 鋭い爪を叩きつけられた竜牙兵は、たまらずよろめいて膝をつく。
 そちらに意識を残しながらも、アジサイは飛び出してきた竜牙兵どもの数を数えた。1体、2体、3体、4体……?
「もう1体、くるぞッ!」
 言い終わるかどうかの瞬間、少し遅れたタイミングで1体の竜牙兵が海から飛び出してきた。
「カカカカ!」
「きゃあッ!」
 悲鳴を上げた女性の前に、シェミアが飛び出した。
 飛沫を浴びつつ、振り上げた大鎌で敵の首を狙う。しかし竜牙兵は素早くしゃがみ込んで避け、星座の重力を込めた刃を振り下ろしてきた。
 とっさに大鎌の柄で受け止めたが、勢いは殺しきれず腕を裂かれる。鮮血がパッと飛び散ったが、
「ドラゴンの眷属に、悲劇をまき散らさせたりはしない……殲滅してやる……!」
 と、殺意のこもった鈍い視線を叩きつけた。
 眸もまた、敵の前に立ちはだかった。
「ワタシが相手ダ……!」
 振り下ろされた長剣が肩に食い込むが、眸はかまうことなく弓弦を引き絞り、『祝福の矢』を放つ。
「草火部、頼ム」
「サンキュ! でも、まずはこっちだ!」
 翼を広げて宙を舞うあぽろ。
「陽の奥義を見せてやるよ!」
 その髪が、光り輝く。自らに降ろした太陽神から賜った膨大なエネルギーを、宙に向けて放った。
 その輝きはまさしく、太陽そのもの。花火とはまるで違う輝きに、観客は戸惑い耳目を注いだ。
 あぽろが怒鳴る。
「俺たちはケルベロスだ!」
 眩い光に照らされ、天使の翼を広げたマヒナの姿もくっきりと浮かび上がった。
「竜牙兵の襲撃だよ! みんな、逃げて!」
 折しも、花火が連発して打ち上がった最中ではあったが、その声は人々の声に、不思議と届いた。
「ヌヌヌ?」
「おい、テメーはアタシだけ見てろ!」
 どこにそんな力がと思えるほど軽々と、ベルベットが大剣を振り回す。
 質量と、速度。それだけが生み出す単純明快な一撃が竜牙兵に襲いかかった。しかし、敵は転がるようにしてそれを避け、刃はコンクリートを砕き深々と突き刺さっただけに終わる。
「素早いな……」
 だが、跳躍していたモカの蹴りは、敵の肩口を捉えて吹き飛ばした。敵はすぐさま起きあがったものの、
「オノレ!」
 と、怒りのこもった目でモカを睨む。
「そうだ。それでいい。余所見をしていると後悔するぞ?
 ……さぁ、皆は早くここから離れろ!」
「安心してくレ。皆は決シて、傷つけさせなイ……!」
 モカと眸にも促され、集まっていた人々は襲撃を悟り、慌てて逃げ出していく。
 なにしろこの人出である。押し合いへし合いの混乱が起きそうにはなったが、
「慌てちゃ危ない。こういうときこそ、落ち着こうね」
 威力はさほどでもなかったが、ピジョンが生み出した絶望の黒光に曝された敵群は、怯んでたたらを踏んだ。
「さぁ、これで大丈夫」
 捕らえ所のない笑みを浮かべたピジョンは、近くの警備員にも誘導を促した。
 目指すのは南側のグラウンドと、目算を立ててある。あそこなら、この人数が一時的に避難しても混乱せずに済むであろう。
 人々を送り出しながら、ピジョン背伸びして彼方を望む。
「北側の駐車場も、封鎖されたかな……?」
 それならば、もう人は増えてこない。

●死闘
 やっと運営本部に騒動が伝わったのか、花火が上がらなくなる。
 そのころには見物客もほとんどが会場を後にして、港ではケルベロスと竜牙兵どもが対峙するのみ。
 あぽろが犬歯を剥き出しにして、ニヤリと笑う。
「さぁて……花火は終わっちまったが、こっちはこっちで祭りを楽しもうぜ?
 花火に負けねーくらいの、ドンパチ激しい祭りをなッ!」
「吠エオッテ!」
 あぽろの刀が緩やかな弧を描き、竜牙兵の剣が鋭く振り下ろされる。両者は相打ちとなって肩と胴とをそれぞれ割られたが、
「傷の深さは俺の圧勝だぜ」
 衣服を赤く染めながらも嘯いた。
「残念だったね。憎悪も拒絶もあげないよ……!」
 そう言ったマヒナだったが、竜牙兵どもは、
「貴様ラガ哀レニ、惨タラシク殺サレル様ヲ見レバ、人間ドモハ恐怖スルダロウヨ!」
 と、嘲笑しながら星座のオーラを放ってきた。立て続けに襲い来るオーラに、ケルベロスたちはたまらずたじろぐ。
「そんなのに、負けないからねッ!」
 マヒナは癒しの風を巻き起こし、仲間たちを苛む氷を吹き飛ばした。
「1体ずつ確実にしとめていかないとねぇ……いいかい、アジサイ?」
「わかった、ブラッド。まずは……そいつか!」
「さぁ縫い止めろ、銀の針よ」
 ピジョンの生み出した光輝く針と糸とが、竜牙兵の足下を縫いつけていく。
 ピジョンのテレビウム『マギー』は『応援動画』を流し、励まされたアジサイは大槌を振り上げた。
 放たれた竜砲弾が炸裂し、両者の攻撃で体の自由を奪われた竜牙兵が狼狽する。
 その目の前に、シェミアが迫る。
「竜の雑兵……お祭りを邪魔した覚悟は、出来てるだろうね……!」
「よく、狙ってクれ」
 すかさずそこに、眸がオウガ粒子を放出して、仲間たちの超感覚を目覚めさせた。
 苦し紛れながらも、竜牙兵はシェミアに向かって剣を振り下ろしてくるが、マヒナのシャーマンズゴースト『アロアロ』が立ちはだかった。
「ありがとう、アロアロ」
 役目を、果たす。ひとりでは敵わなくても、今のわたしは、ひとりじゃない……!
「これぞ奥義……見切れるか……!」
 心を空に、鋭き刃に。ただ一振りの刃となれ。
 極限まで研ぎ澄まされた魔力がシェミアの大鎌に乗って、振り下ろされる。刃は深々と竜牙兵を袈裟懸けにした。
「ガァァァァッ!」
 血反吐を吐きながら、竜牙兵がのたうち回る。
「ヌヌッ!」
 同胞の苦悶を見かねた竜牙兵が地面に守護星座を描き出そうとしたが、
「余所見をするな。そう言ったろう?」
 と、モカがこれ見よがしに挑発した。それを視界に捉えた敵は怒りを思い出し、
「死ネィ!」
 モカに向かって刃を振り下ろす。
「そうだ。それでいいぞ」
 流血しながらも、モカはナイフを煌めかせて敵を切り裂いた。吹き出した血を全身に浴びた凄惨な姿で、笑う。
「チャンスじゃん!」
 のたうち回る竜牙兵の方へめがけ、ベルベットは飛びかかった。
「燃え滾る憤怒を破滅の力に!」
 その叫びとともに、全身が灼熱の炎で覆われていく。
「アタシの熱い愛を、受け止めきれるかな!」
 全身全霊を込め、炎の一撃を叩き込む。炎は敵の全身に燃え移り、焼き尽くしていった。
「シマッタ……」
 挑発に乗った竜牙兵が臍をかむ。
「エェイ、情ケナイ奴メ!」
 もう1体の竜牙兵は力つきた仲間に向けて吐き捨て、2体はそろって剣を構え、斬りかかってきた。
 狙いはベルベット。しかし眸が立ちはだかって、一の太刀をオウガメタルで、そして二太刀を『スパイラルアーム』で弾き返す。
「今ダ、キリノ」
 眸のビハインド『キリノ』が、敵に向かって手を伸ばす。砕かれた地面のコンクリート片が、敵に襲いかかった。
「さすが、君乃さん……」
 思わず感嘆の声を漏らしたベルベットはすぐさま、
「行けぇッ!」
 杖をくるりと回してペットの姿に戻した。魔力を込めたペットが、竜牙兵の顔面に飛びかかる。
「行ったぞ」
 その隙をついてモカは間合いを詰め、魂を喰らう拳を叩きつける。竜牙兵の身体は吹き飛ばされて、大槌を振りかぶるアジサイの前に。
「サセルカッ!」
 そちらに向けて斬りかかろうとした竜牙兵がいたが、
「アンタの相手は、俺がしてやるよ!」
 あぽろの御業が敵に向けて伸びる。全身を鷲掴みにされ、動けなくなる竜牙兵。
 シェミアは翼を大きく広げて跳躍し、敵の頭上から大鎌を投げつけた。
「斬り……刻め……!」
 刃は竜牙兵の胸当てを砕き、深々と食い込む。
「え、と……」
 仲間たちを回復させようとしていたマヒナだったが、その様子を見て躊躇した。
「マヒナ」
 目があったピジョンが、頷く。
「うん!」
 笑顔で応じたマヒナは、圧縮したエクトプラズムを霊弾と成して叩きつけた。ピジョンもまた、同じ狙いに向けて杖を突きつける。放たれた魔法の矢は竜牙兵の全身を貫き、敵は地に伏し、動かなくなる。
 これで邪魔する者はいない。
「とどめだッ!」
 ドラゴニック・パワーを噴射して加速したアジサイのハンマーが、敵の胴に食い込む。凄まじい衝撃を受け、敵の身体は四散しながら宙を舞い、海に落下した。

●夏の終わりの打ち上げ花火
「コンナハズハ……!」
「エェイ、1匹デモ、コロセ!」
「く……」
「きゃ……!」
 襲い来る星座のオーラに、ピジョンとマヒナの身体が凍てつく。
「傷は浅い。あなたはまだ戦えるはずだ! 勇敢なる者に、新緑の祝福を!」
 敵の刃をナイフで受け止めつつ、モカが声を張り上げた。大地の気脈、そして近くに茂る植物。その生命力をマヒナにそそぎ込む。
「ありがと!」
 礼を言ったマヒナもまた、自らを大自然と接続して、ピジョンの傷を癒す。
「ヌヌヌ……!」
「貴様の罪を自覚させテやろう……傷が痛むたび、ワタシを想ウがいい」
 眸の弓弦が鳴る。竜牙兵の急所に深々と食い込んだ矢の痛みは、眸への怒りと変わった。
「ダが、こちらバかりを見ている場合か?」
 眸に目を向ける竜牙兵にピジョンが再び放った魔法の矢が食い込み、
「判決……死刑……!」
 たまらず身体を曲げた竜牙兵の首筋に、シェミアの大鎌が振り下ろされた。打ち落とされた首は転がって、縁石で止まる。
「オオオオオッ!」
 雄叫びをあげて突進してくる竜牙兵の刃を、ベルベットは受け止めた。防ぎきれず脇腹には血が滲んだが、
「意地、見せてくれるじゃん。でもね!」
 突き飛ばすと同時に『サイコフォース』を炸裂させ、間合いを作る。
「そこだ」
 敵の動きを極限まで見極めて振り下ろされた、アジサイの大槌。竜牙兵の右肩は完全に砕かれ、腕が飛ぶ。
「オ、オ、オ……!」
「射線上に立つと、危ないぜ?」
 あぽろが嗤う。
「参加していけよ、こっちの花火大会になッ!」
 再び放たれる『超太陽砲』。膨大なエネルギーに包まれた竜牙兵は、塵のひとつさえ残さず、霧散した。
「いつかこの広い宇宙で、アナタたちとも手を取り合って生きていければ……いいね」
 マヒナがそっと、睫毛を伏せた。

 辺りの修復は、周りが開けた場所だったこともあり、さほど時間はかからなかった。
「それでも花火は中止……だろうなぁ……」
 シェミアが残念そうに、ため息をつく。
 ところが。
「えー……町長です。予期せぬ危機に襲われた大会でしたが、ケルベロスの尽力によって無事、死傷者を出さずに済みました。
 少々時間が遅くなってはおりますが、町民が待ちに待った大会であります。これより……」
「まさか」
 と、あぽろとベルベットとが顔を見合わせた。
「花火大会を、再開します!」
 放送が終わるや、再び花火が打ち上がり始めたではないか!
「はは、粋なことヲ」
 眸が笑みを浮かべて頬を撫でた。南のグラウンドの方で歓声が上がっている。本来の海上の封鎖も解かれ、人も戻ってきた。
「あはは、やったね♪
 ねぇ、せっかくの花火、空から見せてあげようか?」
 と、はしゃいだマヒナがピジョンに抱きついた。
「そんなこと、できるのかい?」
 ピジョンは驚きつつも、身を任せる。
「今度は敵の邪魔が入らないところにも、見に行こうな」
「……うん」
 空を舞う友人たちの姿をアジサイとモカとが見上げている。
「……私も、信頼できる恋人と一緒に見に来たいものだ」
 モカの呟きは、花火の音に紛れて誰にも聞こえなかった。
 そしてついに、この夏最後の花火が打ち上がる。
 それは大輪の花となって、見上げた皆の頬を色とりどりに染めた。

作者:一条もえる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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