夜を泳ぐサメ

■リプレイ

●泳ぎ出したサメ
　使命を与えられたサメは、ゆっくりと深夜の空を漕ぎ出した。用意した光源に引き寄せられるように、ケルベロス達に向かってくる。その巨大な敵影を目の当たりにして、アミル・ララバイ（遊蝶花・e27996）が溜息を洩らした。
「あらあら、見事な大きさだこと。あなたに暴れられたら皆が困っちゃうわ」
「フフ、空を飛ぶ鮫など映画だけかと思ったぞ……」
　ペル・ディティオ（破滅へ歩む・e29224）の目が笑ったが、メリノ・シープ（スキタイの羊・e02836）は恐ろしさのあまりガクガク震えている。
「最近のサメって飛ぶの……？　やだなぁ……こわいなぁ。お肉とかあげてお腹いっぱいにさせたら帰ってくれないかな？」
「鮫型ロボットかぁ……空に浮かんでダモクレスでこの色合い、何だろうな……これがデジャブってやつか？」
　と遠い目をするアバン・バナーブ（過去から繋ぐ絆・e04036）、去年の冬、別の依頼で空飛ぶマンボウのようなダモクレスと戦ったことを思い出す。あれは見た目とか可愛かったなぁと思い返しつつ、今回の敵を前に溜息。
「いやまぁ、全く関係ないんだろうけど、これだけ言わせてほしい……見た目全然可愛くねぇ！」
　敵が近づいてくるに従い、ますます怯えるメリノの脇を、遠野・篠葉（ヒトを呪わば穴二つ・e56796）がくすぐった。
「ロボサメが怖いなら、可愛く変身させればいいのよ。そうした後で、ぱぱっと片付けちゃいましょ！」
「あんなの、どうやって可愛くするの～？」
　メリノはすでに泣き声である。サメがこちらを視認、敵と判断した模様、腹部が開き、無数の魚雷を発射。閃光を放ちつつ、夜空を不規則に巡り着弾。いくつもの爆発が生じる砂浜をメリノは涙目で逃げ惑っていた。
　爆発をものともせずに掻い潜り、果敢に敵に飛び掛かっていくのは、サイガ・クロガネ（唯我裁断・e04394）。鋼と化した拳で力任せに敵の顔面を殴りつける。が、さすがに鋼鉄製、物ともせずに宙を旋回。
「お魚にゃ勿体ねえ鎧だこと。でもまあ、死神のツレに相応しい形にバラしたげっからね」
　そのままサメに取り付いて、次の一撃を加えようとしたところに、キソラ・ライゼ（空の破片・e02771）が放った轟竜砲。
「うおっ、危ねえ」
　間一髪身を翻し、サメから飛び降りるサイガ、キソラを振り返り、
「てめえ、狙ってやがったな……」
「敵を狙うのは当たり前だよねえ」
「いや、オレをだよ」
「お前なら躱せると信じていた」
「平然と嘘をつくんじゃねえよ……」
　言い争う二人を、にょろにょろと伸びる機械の触手が襲う。二人は左右に飛んで、「てめえは少し黙ってろ」とばかりに迫りくる触手を切り払う。
　それまで冷静に敵の様子を観察していた颯・ちはる（寸鉄殺人・e18841）、
「あー、知性のないタイプか。だとしたら、今回のお仕事は破壊工作に近いかな。素を隠す必要もないし、そう思うとなかなか良い相手。そんじゃ、ちふゆ、スクラップのお造り、作りにいこっか」
　ライドキャリバーのちふゆに乗り、魚雷の爆発を猛スピードで掻い潜って接近、勢いそのままにちふゆを蹴って大きくジャンプ、敵に取り付くなり素早く敵の背に回る。そこにはアバンの姿もあった。二人の意図は同じ。
「はっ！」
　二人は気合一閃、地をも砕く拳を叩き落とす。あまりにも固いその装甲を砕くには至らなかったが、ずんと腹の底に響くくらいの衝撃はあった。機械鮫はのたうつように体を上下逆さにし、二人を振り落とす。
「さすがに頑丈ね。とはいえ、どれだけ頑丈に作られていても、ダメージを与え続ければいつかは倒れるでしょう。チャロ、行くわよ」
　ウイングキャットのチャロの頭を撫で、飛び出すアミル。同時にペルも反対方向に飛び出した。
「そら、捕食の時間だ。その硬そうなフカヒレを食らってやる」
　二人が解き放ったブラックスライムが、左右から獰猛に襲い掛かり、サメに喰らいつく。
　敵の動きが鈍った隙をつき、篠葉がバスターライフルを構える。銃口からおどろおどろしい陰な気を発射、敵の弱体化を図る。
「装甲は厚くとも、呪いからは逃れられまい！　呪いこそが最強だって教えてあげるわ！　内に秘めた因子ごと、爆発四散なさい！」
　そう得意がる篠葉の後ろで、
「怖いよぉ、怖いよぉ」
　とメリノは半べそかきながら、健気に味方に加護を与え続けていたのだった。

●巨大鮫の猛攻
　相手は巨体、宙を泳いでいるとはいえど、動きはさほど速くもない。ケルベロス達は手を休めず攻撃を重ねつづけるが、問題なのは装甲の厚さ。あの鋼の装甲を破らないかぎり、致命傷を与えるのは難しいだろう。
「死神の因子を切り捨てる方法とかあれば、少しは楽ができそうなのにー。ま、無いものねだりするより、お仕事おしごと！」
　篠葉はボヤきつつも、水晶の炎をぶつける。その攻撃を浴びながらも、サメは急旋回、大口開き牙を立てて突っ込んでくる。
　その巨大な牙を両手でがっちり受け止めたのは、サイガ。それは相手の巨体ごと受け止めるということでもある。何という剛力。
「そんで？　あと何の芸出来んだ？」
「サイガ、そのまま敵サンを押さえてなよ！」
　キソラはゼロ距離で敵にドラゴニックハンマーを突き付け、発射！
　ゴウンッ！
　轟音が鳴り響いたが、それでも敵の装甲には穴一つ空かない。お返しとばかりに、立て続けに発射される魚雷がケルベロス達に襲い掛かる。さらには長く伸びた触手がケルベロス達を絡め取ろうとするが、これはちはるが投げた手裏剣に斬り裂かれた。
「う～ん、ほんの小さな裂け目でもできればいいんだけどな」
「どうすれば、あの装甲を破れるでしょうか？」
　アミルが物思いに誰にというわけでもなく問いを投げる。
「さっき、お前が言った通りだ。ダメージを重ね続けるしかないであろう？　そうだ、テレビで見たあれを試そう。海の生物を銛で狩るが如く、貫く」
　ペルが銛の如く伸ばしたブラックスライムで敵を貫こうとするが、かすり傷こそ生じるものの、装甲を貫くには至らない。
「駄目か。テレビで見たようにはいかないものだな」
「長期戦覚悟で臨むしかないでしょう。チャロ、みんなの手当ては抜かりなくお願いね」
　チャロは賢そうな顔を縦に振り、みゃあと一鳴きして応える。
　神妙な顔つきで敵を見上げていたのは、アバンだった。
「俺が活路を開かなくちゃ、話になんねえぜ。このままダラダラ戦ってるわけにはいかねぇからよ！」
　気を吐き、一直線に敵に飛びかかる！
「鮫の被害とか映画だけで十分だっての！」
　あらんかぎりのオーラを集め、渾身の蹴りを見舞う！　ズシリ……と響く手応えがあった。このまま装甲を砕ききることができれば……というところで、相手が急旋回したせいもあって体勢が崩れ、蹴りに力がなくなる。
　ちくしょうとばかりに歯噛みするアバンは触手に捕まり、激しく砂浜に叩きつけられた。
「わっ、大変！　だけど、怖い～」
　あたふたしつつもアバンに駆け寄り、桃色の霧を放って治癒に努めるメリノは、
「いつまでも怖がっていない！」
　と篠葉に叱られ、「だって～」と涙ぐむ。
「仕方ない！　私が怖くなくして進ぜよう！」
　篠葉は敵を前に仁王立ち、印を結ぶと、宙に文字が浮かぶ。
「さーて、今夜の貴方の運勢は……残念、末吉でした！　じわじわと衰える体力に人生の儚さ？的な何かを感じちゃうでしょう！　ラッキーアイテムは付け髭です！　これで貴方も可愛いサメに変身よ！」
　人差し指で勢いよく印を切ると、呪いが作用し、ぼんっと機械鮫の口周りにお洒落な髭が！
「……可愛くなったか？」
　とアバン。
「微妙……かな」
　メリノは首を傾げたが、すっくと立ち上がり、強い眼差しで敵を見据えた。
「だけど、元気は出たの！　鮫さんなんかに負けてはいられない！」

●小さな突破口
　無数の触手が休む間もなくケルベロス達に襲い掛かる。
　キソラが軽やかに捌き、うまく後方へと受け流したそれらの触手を、サイガはまとめて引っ掴まえ、力任せに引きちぎる。キソラはそのまま敵に接近、エクスカリバールを敵の腹に突き立てるが。生半可では鋼鉄の装甲は剥がせそうもない。
「あの装甲にちょいとばかしでもヒビが入りゃ、何とかなるんだがねえ」
「サメの皮を剥ぐなんざ、他愛もない」
　サイガが浮遊するサメへ飛び掛かっていく。キソラはやれやれとばかりに仲間を振り返り、
「ワリィ、援護頼むわ」
　そう告げて、サイガの後を追う。
　サメは迫りくる二人を迎撃せんとさらに触手を放ちつつ、魚雷を発射する構えも見せた。
「よ～し、私たちが二人の道を作るよ！」
　篠葉がバスターライフルを構えると、メリノは力強くうなずき、ファミリアのタルタリカの頭を撫でる。
「お願い、力を貸して！」
　メリノがファミリアロッドから無数の蔦と根を伸ばし触手を絡め取り、篠葉は連続射撃によって激しい弾幕を張る。
　そうして開かれた道を辿り、鮫の背にとりついたサイガとキソラ。
「冥府の海へおかえりなさい、ってな。ああ。地獄の海へようこそ、のがイケてた？」
「死神にイイトコ取りされてるようで気に食わねぇケド、せめて最後まで華々しく楽しませてぇな？」
　にやりと笑う二人が同時に気を放つ！　一瞬の静寂に身を切るような風が立つ！
「――Ｂlast！！」
　爆ぜる風の中に、閃く牙。二人が同時に、同じ個所に打ち落とした烈しい一撃が、ついにサメの厚い装甲を砕いた！
　生じた裂け目は、５メートルの巨体にとっては小さな風穴に過ぎないかもしれないが、ケルベロス達にとっては起死回生の突破口となりうる。
　翼で宙を打ち、夜を統べる女王のごとくに舞うアミル、
「夜という深海の中で、絶対零度の世界を見せてあげるわ。さぁ、お姫様の愛を受け取って」
　生じた裂け目に、氷の月のように冴え冴えと澄みきった一閃が走る。傷口から凍結が始まり、機能に支障をきたしたのか、苦しむようにサメはもがいた。
「動きが鈍いぞ、電力不足ではないか？　死ぬほど充電してやろう……」
　ペルが己の拳に強力な白雷を宿す。放たれた一撃は強烈な電撃となってサメの体内を駆け巡り、あちこちでショートを引き起こす。
　それでもなおケルベロス達を振り切り、攻撃に転じる機械鮫、全弾撃ち尽くさんばかりの魚雷を発射、夜に光の糸が引き、海岸を埋め尽くすように連続的な爆発が起こった。
「まあ、派手なのは結構だけどさ、相手が見えづらくなるのは悪手だよね」
　隠密行動はちはるの得意とするところ。敵自身が煙幕を張ってくれているようなものだから世話はない。
「さて、問題は蠱毒が機械相手にどこまで効くかってことだよね。悪食だから、相手は選ばないはずだけど。やっ！」
　ちはるは手刀を裂け目に突き立てる。その掌には、禁術とされる術が描き込まれている。
「――忍法・五体剥離の術」
　召喚されるのは、多種多様な毒虫。機械鮫の体を器とし、毒虫は蠢き、いたる所へ侵食、あらゆる機関を溶解し害していくばかりでなく、アミルの放った凍結、ペルの雷によるショートをさらに押し広げていくのだ。
　あちこちに異常をきたし、内部からの爆発が生じたダモクレスは、上下逆さになって宙をのたうちまわった。
「蠱毒か。これもまた凄い呪いだねー」
　篠葉が感嘆する隣で、ペルが笑う。
「見物だな。鮫は止まると死ぬらしいな、クク……」
　ちはるはのたうつサメから飛び降り、迎えに来たちふゆに跨り、砂浜に着地。オーラを練っていたアバンを振り返る。
「アバンくん、今だよ！」
「ああ、今度はぶち抜いてやるぜ……！」
　自分の中に憑り付いている同胞達の霊魂から貰った霊力を、アバンは拳に集約した。青白く発光する拳を腰に溜め、逆さになってもがくサメの傷口を目掛け、ばんっと地を蹴って飛ぶ。
　砂浜から機械鮫へと、一直線に光の柱が昇っていくようだった。
「うおおおおおおおおおおおっ！」
　アバンは背中の裂け目から拳を突き入れ、勢いそのままに全身でサメの腹をぶち破った！
　サメは爆炎を噴き上げながら、よろよろと向こうの海へ落下、幾許かの後に大爆発を起こした。
「一つの裂け目が命取りになったね」
　とちはるが赤く燃え立つ海を眺めた。
「小さな綻びから牙城が崩れていくってコトか。怖いねぇ。ま、こっちは楽しめたけど」
　キソラが武器をおさめると、サイガはふんと鼻を鳴らした。
「次がありゃもっとマシな主でも見つけるこった。何度でも殺すが」
「何はともあれ、怖いサメさんを無事退治できてよかった……」
　ほっとメリノが息をつく横で、アミルがやわらかく微笑んだ。
「そうね。死神の動きについては、色々と考えるべき点はあるでしょうけど、今は何事もなく敵を撃退できたことを喜びましょうか」
　そのとき、アバンが砂浜に落ちてきた。精も根も尽き果てたのか、大の字になって寝息をついている。海の向こうからは日が昇り始めていた。

作者：ＭＩＬＬＡ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年8月28日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 8／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
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