意識高い系女子の過激な新学期

作者:stera

(「本当に、騒々しい! 勉強の邪魔だわ!!」)
 一人、教室に残り、勉強の予習に励む少女。
 窓から校庭を眺めると、吹奏楽部の同級生4人が、演奏の練習をしている。
 その演奏は、特別上手いというわけではないが、彼女たちはとても楽しそうだ。
「新学期も始まるこの大切なときに! 何故、学生の本分は勉強だということがわからないのかしら? 別に賞がとれるほどでもない、プロになりたいわけでもないのに、役にも立たない事に時間を費やすなんて、本当にバカバカしい。 もっと、自分を磨く、知識向上に励むということができないのかしら?」

「あなたの向上心は、とてもいいと思いますよぉ。 自分勝手で、とても良い夢ですぅ!」

 ふいに声をかけられ振り向くと、そこには見慣れない少女が居た。
 自分と同じような年代だろうか?
 彼女は、困惑する少女の顔を覗き込むように言った。
「あなたの向上心で、ダメな人たちなんて、やっつけてやってくださいねぇ」
 笑顔とともに、ドン! と胸に鍵を差し込む。
 勉強をしていた少女が崩れ落ちると、入れ替わるように1体のドリームイーターが生まれる。
 ドリームイーターは、校庭にいる4人に狙いを定め、移動を開始した。

「新学期も始まるこのタイミングで、何か悪いことが起こるんじゃないかと思って警戒してもらっていたんだけど、やっぱりドリームイーターが事件を起こすようなんだ」
 瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)がそう切り出すと、ヘリオライダーの皇・基(en0229)は、詳細を語る。
「今回狙われたのは『田中 恭子』という少女で、勉強に対する歪んだ向上心、意識高い系というやつでしょうか、そこをつけこまれ標的にされたようです。 被害者から産み出されたドリームイーターは、強力な力を持っていますが、この夢の源泉である『意識高い系の向上心』を弱めるような説得ができると弱体化させることが可能なようです。まぁ、色々問題のある主張ですから、弱体化させるのはそう難しくはないと思います」
 産み出されたドリームイーターは、頭部がモザイク化していて、被害者の少女が見下していた4人を襲おうとしています。
 モザイクを使った攻撃や回復、心を抉る鍵を使った攻撃が出来るようです。
 攻撃の目標は、ケルベロスが現れると、ケルベロスを優先して攻撃を仕掛けるようです。
「被害を受けた少女は意識を失い教室に倒れていますが、ドリームイーターを倒せば意識を取り戻すでしょう。ドリームイーターを弱体化させるための説得は、彼女自身の性格にも影響を及ぼすようです。 願うなら、彼女の行き過ぎた向上心が、うまい具合に落ち着いてくれたらと。 そのさじ加減はお任せするので、宜しくお願いします」


参加者
神城・瑞樹(廻る辰星・e01250)
スミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)
シフォル・ネーバス(アンイモータル・e25710)
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)
曽我・小町(大空魔少女・e35148)
犬飼・志保(拳華嬢闘・e61383)
朱牟田・惠子(墨染乃袖・e62972)
アルベルト・ディートリヒ(昼行灯と呼ばれて・e65950)

■リプレイ

●ソレは歪んだ向上心
 いつもと変わらない日常の、ごくありふれた学校生活。
 だれも危険が身に迫っているなどとは思っていない、学生たちは思い思いの活動をいつもどうりこなしている。
 しかし、
「逃げてー!」
 校庭に突然響いた朱牟田・惠子(墨染乃袖・e62972)の声。
 スミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)が、一撃を加えると、ドリームイーターはケルベロス達に向き直る。
(「意識が高いなら根はクズじゃないと思うんだよね。何とか思い直してくれるといいんだけど……」)
 瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)が引き止めるようにドリームイーターを締め上げる。
「今度も、手強そうだね」
 神城・瑞樹(廻る辰星・e01250)が殺界を形成したことで、校庭に居た生徒たちは、詳しい状況はわからずとも、身の危険だけは察知し次々逃げ出していた。
「ええと、たしか貴方達ですわね、急いだかいがありましたわ。ここは危険です、逃げてください」
 狙われていた吹奏楽部の4人にそう声を掛けるシフォル・ネーバス(アンイモータル・e25710)。
 頷き返事を返した彼女たちは、楽器を抱え、慌ててその場を後にする。
 現場に急いだおかげで、彼女たちが襲われる事態は、完全に回避することが出来た。
「他の生徒もだいたい逃げてくれたわね」
 そう言った曽我・小町(大空魔少女・e35148)の傍らで、『グリ』が、いつもと変わらぬ様子で翼を羽ばたかせると仲間たちの邪気を払う。
「おい、そこのガリ勉娘!」
 アルベルト・ディートリヒ(昼行灯と呼ばれて・e65950)がドリームイーターにそう声を掛けると、モザイクで形成された頭部が、グルリと彼らの方へ向けられる。
 敵の太腿の弱い部分を狙い、蹴りを叩き込んだ犬飼・志保(拳華嬢闘・e61383)。
「あなたの考えもなんとなく分かりますけど……」
(「これは考えすぎる馬鹿の典型的な例……」)
「私達の話、聞いてもらいますよ」

●説得
 ドンッ! と、音を立て炸裂した竜砲弾。
 ケルベロスの仲間たちの攻撃を次々受けるドリームイーターだが、未だ弱る気配を全く見せない。
(「価値観の合わない他人とは、自分が距離をとればいいものだけど」)
 小町は、ドリームーターを前に思う。
(「自分の枠にはめようと思っちゃうのは、結局自分が正しい生き方してる自信が無いのよ」)
「間違った生き方なんて、そうそうある物じゃないと、気づけないかしら?」
 アルベルトは言う。
「学生のうちは勉強さえ出来れば何とかなるかもしれんが、社会人になればそれ以外も色々求められるぞ、対人スキルとかな。 あと女の場合は容姿や男の有無までダメ出しされるらしいぜ? 恐ろしい……」
「いつまで勉強だけしてんの? 大学、院とか出んのかもだけど、その後も就職してまた勉強じゃん。 オシャレとかいつすんの。今着れる服は25超えたらまじ着れないよ? 勉強したいなら止めないけどさ、勉強以外でやりたいことあれば、少しでもやっといたら?」
 続けて惠子もそう説得する。
 ドリームイーターがケラケラと高らかに嘲笑った。
「知識向上! 勉学以外の価値に囚われ男や服の話にうつつを抜かす……ケルベロス、あなた達も所詮は無価値なゴミ共と同じというわけね? 私は、そんなモノ全てを否定するっ!!」
 ドリームイーターは、手にした鍵を志保に突き立て、何かを開くように捻る。
 閉ざした心を抉る鍵は、死去した姉の『その瞬間』をまざまざと志保に思い出させる。
「……お姉ちゃんッ!?」
 思わず、動揺から声がでる。
「お前の話を聞いてると何のために勉強してるのかわからんな」
 攻撃の手を緩めることなく、スミコは言った。
「いい仕事に就くのに勉強をがんばるのはいい。だが、問題はそのあとだ。いい仕事についた。そのあと、どう生きるつもりなんだ?」
 仲間たちの説得に耳を傾けながら、傷を癒やす右院。
「知識増やすことは悪い事じゃねーけど、それだけじゃつまんなくね? 学生のうちはいいけど、社会に出たらそれだけじゃやってけねぇと思うな。 勉強ばっかで人間関係の構築とかやらないでいたら、会社入ったら詰むと思うぜ? 仕事ができるだけじゃ周囲に人はいなくなるような気がするし」
 そう説得しながら、瑞樹は思う。
(「まぁ、『こうすべき! こうあるべき!』って気持ちはわかる。 俺だってマナーとかルール守んない奴は大嫌いだし、小言を言いたくもなる。でもさ、それだけじゃつらいのは自分なんだよ」)
 瑞樹自身、確かに口調も軽く楽観主義ではあるものの、責任というものについては自分にも他人にも、厳しい視点で見る部分はある。
 だが、それだけを全面に出さないのは、行き過ぎてしまえば辛いだけだと解かっているからだ。
(「相手にカリカリしてるって事は、自分にも同じだって事だと思うんだよな」)
 彼女が自身に対して感じているイラつきが、どこかにある……。
「あなたのいう将来ってどんなものかしら?」
 シフォルが尋ねるように言った。
「どんな努力をしても、歴史に名を残すようなごく一部以外は、生きてることも無駄ですかしら? 後世に名を残す人物になるようなビジョンに向かって勉強してるなら、今の勉強が具体的にどうつながるか言えますかしら。 未来のために努力するなら応援しますけど、ぼんやりしたイメージに走らされて、その苦しさを紛らわすために他人に敵意を向けるような生き方をするなら、自分の未来を見つめ直したほうがいいですわ」
 ドリームイーターは言う。
「知識を蓄えずして偉人にはなれない、それを理解せず遊び呆けている方たちは、貴方の言うようにまさに生きる価値がないっ!! 未来へのビジョンを持ち、努力を続ける私こそが絶対、崇高な存在になれるのですわ!!! 私のこの苦しみ……癒せるのなら、価値のない子たちには、犠牲になっていただきましょう」

●決着へ
「危ねぇ! クッ……!」
 仲間を庇った瑞樹が、片膝をつく。
 元が堅物とうこともあってか、ドリームイーターはこちらの説得を受けてもなかなか揺らがない。
 強敵相手に苦戦を強いられるケルベロス達。
「悪いけど、もらった!」
 隙をつき背後をとったスミコが、必殺の一撃を放つ。
 直後、ふらつくように少し動きを止めたドリームイーターに向かって、右院が語りかける。
「まずは、落ち着きなよ? きみの言う高学歴な方々だって趣味くらいあるさ。音楽を嗜んだり勉強を極めた先にある世界の片鱗が、本当は君も羨ましかったんじゃない?」
「うら……やましい?」
「もしくは単純に、友達同士で盛り上がれるのが妬ましかった……? それも恥ずかしい事じゃないよ、俺だってぼっちだもん。でもさ、殺しちゃったら、ますます一人っきりだよ?」
 ドリームイーターの猛攻が止まっている隙に、回復するシフォル。
「確かに趣味自体は、役に立たないかも知れないわね」
 小町が話しかける。
「でも、ああやって一緒に時間を過ごした仲間っていうのも、何かあった時に強い支えになってくれるものよ。 そんな仲間とは、いつ出会えるか分からないものだし、巡り合った人と過ごす時間を大切にするのも一つの選択だと思うの。一緒に勉強に励んだり、視野を広げてくれる仲間が欲しいと思わない?」
「社会では、勉学だけが全てじゃない。 自分が困ったとき、苦しいとき、趣味の一つや二つ、友人の一人や二人もいないと心がバキバキに折れるな、間違いなく。他人と関わるのが苦手でも、綺麗とか可愛いと思えるものをみつけてはどうか? 最低限の気遣いもできん、何かを愛でる事もできん。そんな心の狭い奴は、どこの国でも成功しないぞ」
 アルベルトも、勉学から離れたものにも価値があることを説得する。
「だいたい、勉強しないやつらを見下す権利、お前にねーっつーの。つーか、見下してても全然楽しそうじゃないじゃん。 そんなん自分のドロドロ溜めるだけじゃん」
 口こそ悪いが、惠子には、このドリームイーターを生んだ少女が人を見下す事を喜んで楽しんでいたわけではないと解かっていた。
「勉強したいなら止めないけどさ、勉強以外でやりたいことあれば、少しでもやっといたら?」
 ドリームイーターが、急速に力を失っていくのを感じる。
「自己研鑚についてあたしは否定しないよ。 そういう事は他人がとやかく言っても、結局は本人の問題だもの。 でもあんたは考えすぎるせいで、世の中が全然見えてない。 趣味に自己研鑚を見出すのもあり、自己研鑚に鍛練をするのがあたしの流儀」
 畳み掛けるように、そう言葉を続ける志保。
「今のあんたは知識欲と向上心に囚われすぎた、只の馬鹿よ」
 ケルベロスの仲間たちは、一斉に全力で攻撃する。
 あと1撃。
 惠子が、右院を見た。
 促され、右院が繰り出した致命の爪がドリームイーターを引き裂くと、その姿が霧散する。

●変化の兆し
「無事で良かった」
 教室に戻り、目を覚ました恭子に、瑞樹がそう声をかけた。
「勉強ばっかりにこだわりすぎたんだろうな。 これからは、無理しすぎるなよ」
「……はい。 私、楽しんだり遊ぶことは、悪いことだって思っていたけれど、そこから学ぶものがあるかもしれないっていうことに、気づいていなかったみたいです」
「『楽』と『楽しい』は違うものですわ。 今の努力で仮に将来が『楽』になっても、それが充実した『楽しい』ものであるとは限りませんもの。 でも、願わくば、あなたのこれからの人生が、楽しいものであるといいですわね」
 恭子の言葉に、シフォルはそう言って微笑む。
「人生において学生生活なんてほんの一部に過ぎない。 思う通り生きればいいんだよ。 もちろん、がんばるお前の生き方だって間違いじゃない。 夢のためにがんばればいいんだ。そうすれば後悔はない」
 スミコが話す。
「勉強は大事だけど、息抜も適度にね。 その時は連絡くれたら、つき合っても良いわ」
「勉強以外で楽しいことはない? ゲームなんかだと俺も話にのれるんだけど……」
 小町と右院がそう言うと、
「たまには勉強の事を忘れて、パッと遊びましょう! 勉学に励む事は全然悪い事では無いですが、趣味や遊びなどでしか知りえない事も沢山あります。 私とソラマルの出会いも、不良との喧嘩が始まりですからね」
 志保も続けてそう話す。
「もともとそれだけ向上心があるんだ。 趣味を見つけるのも友達作りも、お洒落も難しくないだろうよ。 ……それにしてもこの猫たち、たまらんな~」
 アルベルトはそう言って、ソラマルとグリを眺め頬を緩ませる。
「なんかゲーセンにでも行きたいわ。 楽しいことしてこーよ……アンタはどうする?」
 惠子は、恭子に訊ねた。
「私は……」
 少しの沈黙。
「吹奏楽部の部室に行ってみます! 練習を見学させてもらいますわ」
 恭子はケルベロスの仲間たちに丁寧に礼を言い、頭を下げると笑顔で教室を出ていく。
 その様子を見たケルベロスの仲間たちは、彼女の変化を実感し、その場を後にしたのだった。

作者:stera 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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