ホヤ以外の海産物絶対許さない明王、顕現!

作者:千咲

●ホヤ以外の海産物絶対許さない明王
 ――宮城県石巻市にある、みやげ物店。
 そこそこ大きな店で、まばらではあるが幾人かの客も。
「ココにも色んな海産物が置いてある……許せん!」
 そう呟いたのは、客の中の1人。杖をつきながら品物を物色して歩いていた初老の男。上等な着物を羽織った恰幅の良さは、かなり良い家の住人であることを物語っている。
「うちのは、どれも美味しいよ。フカヒレ、赤貝、ホタテに北寄貝……どれも最高だよ。まぁ牡蠣はまだ少し早いがねー」
「駄目じゃ、ダメ駄目! こんなものは全て失格じゃ!」
 そう言って、杖で払うようにして品々を床に落とす。
「ホヤ以外の海産物など認めん! 我らが宮城の海産物はホヤだけで十分じゃ!!」
 そして、品々に向けて炎を放つ。孔雀の羽のような炎を。
 燃え上がる、みやげ品の数々――男の言葉通り、すべて海産物やその加工品ばかり。
「みな、ホヤを食え、ホヤを。つまみにもなり、飯のおかずにもなる。完璧な食材じゃよ」
 そういう男の元から羽毛が飛んで宙に舞う。すると不可思議な力が広がって――品を勧めていた店主、そして他の客たちが突然、男に追従するようにしゃべり始めた。
「ホヤばんざい!」
「ホヤ最高よね!! ホヤ酢、味噌漬け、アヒージョ、天ぷら、どれも美味しい~!」
「料理だけじゃないぞ、ホヤクラフト。ビールにだってなってるんだぜ!!」
 ホヤこそは最も優秀な食材であると、口々に讃え始める者たち。かれらは最早、ビルシャナの信者。
「「ホヤ以外の海産物絶対許さない明王、万歳!!」」
 平和だった街に、新たな明王が降臨したのだった。

●海産物の危機
「ねぇ、みんな……ホヤ、って知ってる?」
 集まったケルベロスたちにおもむろに尋ねる赤井・陽乃鳥(オラトリオのヘリオライダー・en0110)。
 ほとんどは知っているようっだったが、中には知らないメンバーも。
 きれいなオレンジ色の身や、なんとも表現しづらいその味などを含め、知名度には地域的な偏りがあるようで、陽乃鳥も食べた事どころか存在すらもよくは知らなかった模様。
「ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)さんが心配していたことが実現してしまったみたいなんだけど……そんな色んな食べ方ができる食材なの? なのに知られてないなんて勿体ないのね。お酒に合う? そんなこと言われても私……」
 ――まだ15歳である。
「それはともかく、そのホヤを崇めるビルシャナとその信者たちが、宮城県石巻市でみやげ物屋さんを中心に、海産物を扱うお店を、次々と襲うみたいなの」
 と。そしてビルシャナには、主張に賛同するようになった一般人6~7人ほどが付き従ってるみたいだと言う。
「その人たちは元は一般の人だけど、すでにビルシャナ化し始めてるの。でもビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張ができれば、戦わなくても無力化する事ができるかも!?」
 それまでは戦闘に加わった状態になるけれど、中心のビルシャナさえ倒せば元に戻るので、救出できない事もないの、と告げた。ただ……状況が状況だけに、彼らのことは諦めても致し方ないけれど、とも。
 そして陽乃鳥は、さらにビルシャナたちの戦闘能力について話し始める。
「戦いは、襲撃するみやげ物屋さんを移るタイミングを突くと良いんじゃないかしら」
 そうすれば外で戦えるから、周りに迷惑を掛けづらいもの……と。
「ビルシャナは炎を自在に使う他、催眠で仲間を増やすことや治療回復などもできるみたい。基本は信者たちの奥から手をだしてくるみたいだから、信者たちを先にどうにかした方が良いのかも。でも、信者さん達はホヤを美味しく食べることに関して知識を共有しながら、ビルシャナ以上に博学になってるの」
 だから、彼らにホヤ自体の知識で対抗するのは難しいと告げる陽乃鳥。
「ホヤと対抗するんじゃなくて、意識そのものをホヤ以外の海産物に向けられれば……。もっと美味しいものや珍しいものだって知ってるはずなんだから、興味が移れば信仰心は逆に減るはずだもの」
 そのためにこそ、インパクトのある持っていき方や展開の仕方が重要だと思うの、と。
「それにしても……ホヤって、どんな食べ物なのかな?」
 実は甘いモノが苦手な陽乃鳥としては、少しだけ興味をそそられているようだった。


参加者
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
四方堂・幽梨(義狂剣鬼・e25168)
園城寺・藍励(深淵の闇と約束の光の猫・e39538)
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)
ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)
リン・イストー(わかめの狂戦士・e63980)

■リプレイ

●海鮮BBQ
「ホヤって、美味しいんですの?」
「そうですね……あの味は、言葉ではどうしても表現できませんね」
 食べたことがないというルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)に、ホヤの味を伝えようとしたのだが、ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)は、言葉に窮した。
 件の明王と張り合う訳じゃないが、自身もホヤは大好物ゆえに、なおさら困る。ただ……人によって好き嫌いが明確に分かれる食材であることも承知していた。
「ホヤってのは、5つの味覚全てを感じられるって言われてるらしいね」
 食べたことこそないものの、自炊する身としては尽きることのない興味で調べてみた四方堂・幽梨(義狂剣鬼・e25168)。その『5つの味覚を感じられる』という部分に、思わず、園城寺・藍励(深淵の闇と約束の光の猫・e39538)が振り返った。
「……もしそうだとしたら、確かに凄い食材だね。是非とも味わってみたい」
 などと直感的に口を突いて出たが……そんな場合じゃなかった。一緒に喜んでたりしたら、あるいは信者の中に逆に取り込まれてしまうかも知れないのだから。
(「あぶない、あぶない……」)
 そう言っている間に、ビルシャナが店に入ってから、それなりの時間が経過――いつ出てきてもおかしくない頃合い。
 すかさず《アイテムポケット》に手を突っ込むルーシィド。
「こっちなら大丈夫でしょう」
「では、そこで広げさせて頂きましょう」
 場所を探していたアウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)が、すぐ先の角を曲がったところを指し示すと、ルーシィドはようやくバーベキューセットにクーラーボックス、炊飯器を並べた。
「ホヤに興味は尽きませんが、このビルシャナの行為が許せないので、事件が終わるまでホヤは食べないと決めました」
「そうか……分かった。後できっちり食わせてやるからな。おっし、それじゃあ始めるとすっかよ」
 柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)が手早く火を起こし、持ってきた海鮮の数々を並べては、パタパタと団扇で仰ぎ、香気をたっぷりと含んだ煙を立てる。
 そこへ、1件の襲撃を終えたビルシャナ。
「くくく……また1件、不届きな輩を改心させてやったのじゃ」
 すでに明王として覚醒し、鳥そのものの容姿になった男は、格好だけ汗を拭うような手つきを見せてから、次に向かおうとする。
 そこに、扇がれ漂ってきた香しい香気。アリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846)が持ってきたホヤのホイル焼きから発する味噌バターの香り。
 ――正直言って、卑怯千万。これに誘われない者など居るのだろうか。いや、居ない。
「くんくん……素晴らしい香りじゃの。味噌バターにて引き上げられた最上級のホヤの香り……」
 だがしかし、他にも海老や烏賊、魚などを焼いている香りも入り混じってきた。同じ味噌なら相乗効果を期待できるか?
「うぬぬ……不純物の香りが混ざっておるのぅ。我が信徒よ。成敗じゃ!」
「ホヤ最高! ホヤこそ神より賜りし奇跡。他の海産物などクズでゴミ」
 そう言って近付く信者どもにも、動じるどころか宣伝を宣う。
「よってらっしゃい、見てらっしゃい。今日釣ってきたばかりの新鮮な海産物だぜ!」
「サザエや牡蠣も、焼いたらこんなに良い香り。美味しいんだよ? 食べなきゃ損だよ?」
 鬼太郎に続いて藍励がアピール。
 それでも、なりふり構わず信者が攻撃しようとした、その時。
「待つんだなぁん!」
 リン・イストー(わかめの狂戦士・e63980)が、満を持して、止めに入った。

●ワカメ以外の海産物絶対許さない明王!
「ウチこそは、ワカメ以外の海産物絶対許さない明王! どうやら、あんたらとは決着をつけんといかんようやなぁん!」
 信者たちを扇動したビルシャナに向かい、リンが挑戦状を叩きつけた。ちなみに絶対許さないと言ってはいるが、ワカメをないがしろにさえしなければ、他の海産物だろうと普通に許す、ゆるい(心の広い、と言い直しておこう)明王らしい。
「ギヒヒヒ、ちなみにウチの作ったホイル焼きには、実はワカメも入ってるゾ!」
 ソツのない注釈を入れるアリャリァリャ。
「何がワカメだ。我らがホヤに比べれば、所詮は脇役。食材として独り立ちできないハンパ者ではないか!?」
 勝ち誇ったように言い放つホヤ明王(中略)。
「ナラ食べないのカ? あくまでもメインはホヤだぞ!?」
 ゴクリ……信者たちの喉が鳴った。
「バカ者どもがーっ! 我こそはホヤこそ至高と崇める、ホヤ以外の海産物絶対許さない明王! そしてお前たちはっ!?」
「我々は、ホヤ以外……明王の忠実なる信徒でありまーす!」
「なんだか急に早口におなりで、よく聞き取れませんでした……」
 ビルシャナの詰問調の問いに、信者たちが途端に背筋を伸ばす。が、妙に早口になっていたような気がするのは、
「違うぞ。決して誤魔化そうとか、曖昧にしようとかなんて思ってないからなっ!」
「イイんだゾ。自分に正直になって……ホヤ塩辛のおにぎりもあるゾ! ホラ、大丈夫、普通のおにぎりダ。海苔は巻いてあるけどナ。それに、ホヤの味噌汁も」
 ジュル……垂涎とはまさに。
「コラッ!」
 信者の1人が、ホヤ最高~と叫びながらも、もういいとばかりにホイル焼きに手を伸ばした。それを何がなんでも阻止しようとするビルシャナ。
 邪魔はさせじとばかりにアリャリァリャが入る。その手のチェーンンソー剣が唸りを上げ、無慈悲な斬撃を繰り出した。
 が、喰らったビルシャナは、怯むどころか自分から刃の前に飛びこんで、ホヤを絶賛し続ける――。
「怖いのよ、あなた」
 流星が如き軌跡の飛び蹴りと共に冷たく放つアウレリア。ツッコミだとしたら、容赦ない。それでも止まらず迫りくるビルシャナに、サーヴァントのアルベルトが練炭を操って弾丸のようにぶち当てる。
 そうしてバトルが本格的に始まったところで、ルーシィドの全身から光り輝く粒子が放たれ、皆の感覚が研ぎ澄まされる。さらにジュスティシアが地面に守護星座を描くと、光が皆の身体を優しく包み星の加護を、さらに虎には焼いたお魚を与える……。
「調子に乗るなよ、愚民ども。BBQはこれくらいの火力が必要なのだ!」
 ゴォ……という音を立て、羽の形をした炎がアリャリァリャに飛んだ。しかし……。
「脇役だからって、ないがしろにするその態度。そんな態度のお前こそ許し難い!」
 身体で炎を受け止めるような恰好になったにも関わらず、リンが堂々と宣わった。
 ――これでは、ワカメ以外……明王というより、ホヤ以外……明王を絶対許さない明王なのではないだろうか。

●海産物がホヤだけの世界
 皆が最初の攻撃をしている間に、先の土産物屋に入って無事そうな食材を回収してきた幽梨は、オウガメタルをその拳へと集中させ、鋼のような拳をビルシャナの背後からぶち込む。
「うぉっ!」
「まあ待ちねぇ。アンタ等がホヤ好きなのはよくわかったよ。でもさ……食べ物をこんな風に粗末にするヤツに、好き嫌いを語る資格はない!」
「待ちねぇ……のレベルじゃないだろうが!」
 ――反論するどころか、単純に文句になっている。
「じゃあ、代わりに『待ちねぇ』」
 と、仇なす者を麻痺させる外典の禁歌を謳うリン。確かに麻痺すれば待たざるを得ないが……。
 その間にも団扇を巧みに使い、信者たちの気を惹く鬼太郎。
「海にはなぁ、ホヤだけじゃねぇ、色んな旨いもんがあるんだ。調理法だってな、いまは焼いてるが、刺身に天麩羅……良いもんだろ? 酒にも飯にも、どっちでも合うぜ!?」
 人生損してねぇか? その問いかけに数人の信者が……堕ちた。
 正気を取り戻した信者らに、サーヴァントの虎が清浄の翼を羽ばたかせた。
 痺れる躯に鞭打つようにして迫るビルシャナ。その腕を桜牙で、砕けそうなほど力強く振り払う。そうやって食い止めている間に、さらに信者たちを堕とそうと試みる藍励。
「そうだよ。食べなきゃ損だよ。だってみんなホヤが好きなんだよね。好きだからこそ、また食べたくなる。好きな物を好きと言って食べるのは、個人の自由。他の人の食べ方にまで口出しするのは間違いじゃないかな。ましてや、他の食べ物を粗末にするなんて」
 そ、そうだな……と、さらに1人が堕ちた。
「分かってくれたんだね……なら、もうコイツは要らないね」
 そう言って藍励は、妖刀『天狂瀾』に無数の霊体を憑依、ビルシャナに向かって突き立てた。
「お、おのれ。許さん、ホヤは他の何物にも代え難いと言うのに」
 と、ホヤの素晴らしさを織り込んだ経文を延々と藍励に囁く。
「お待ちください、まずはリンさんに……」
 ルーシィドが霊的な繋がりを以て、リンの火傷をきれいに癒す。その間はリンが自ら敵を食い止めるべく、ふえるワカメで縛り付けた。
「そもそも……海鮮がホヤ一択になってしまったら季節外れの時期はどうするの?」
 そう、ホヤにだって旬はある。旬というか、季節を外れたら、そもそも収穫が難しいのだ。
「皆がホヤだけを食べたら、収穫量と消費が見合わなくなって値段も上がるし、料理のレパートリーも減るわね。そうなったら死活問題よ!」
 愛を知ってからケルベロスとなったアウレリアは、あくまで主婦目線で語り掛ける。その上で、ビルシャナには轟竜砲を、そして信者たちには……網焼き帆立にバターと醤油を垂らしたものや、粗塩をかけて直火で炙った串刺し鮎を、お酒と一緒に勧めるという二刀流。
 さらにジュスティシアも、三陸の海産物は素晴らしいと説き、笹かまのつまみとしての優秀さや、三宝漬けの魅力、そしてはらこ飯の美味しさを、想像力を駆使させるべく具体的に語って聞かせ、キンキンに冷えたビールや宮城の銘酒を勧めてゆく。
 この破壊力には堪らない。酔った信者たちが1人を除き、ホヤ以外も食べたい……と、一気に落ちたのだった。
「ひ、卑怯なり!」
 BBQの炎を乗せた羽を飛ばすビルシャナ。しかしそれを幽梨が引き受けると共に、死角からの斬撃で羽根の付け根を掻き切ってやる。
「ホヤが主役で素晴らしいんじゃない。ホヤは単体で癖が強いから、使えば主役にせざるを得ないんだ。主役しか張れないヤツに、こんなマネができるかな?」
 と、回収してきた海産物に、持ち寄った野菜と中華麺を加え、瞬く間に海鮮焼きそばを仕上げて見せる。
「あたしは敢えて、お前等が投げ捨てたもので振り向かせて見せるぞ」
 素材重視の海鮮焼きそば。鼻腔をくすぐる香気が、最後の信者を振り向かせ……そして、ついに落とした!
「負けたよ。確かにホヤだけじゃない。私たちが、間違っていた……」
「愚か者めが……我が教義を心から理解せぬ者など、もう要らぬわ」
 瓶詰にしたホヤの酢漬け、そこから放たれる美食の光が、敵のダメージ(主に心の?)を癒してゆく。
 ならば……と、鬼太郎も今のうちにとばかりに、桜牙の剣圧で幽梨の精神ダメージをも吹き飛ばした。
 一方で攻撃の手を休めないケルベロス。サーヴァントのアルベルトが金縛りで敵の動きを止めたところで、ジュスティシアのバスタービームがビルシャナの視界を遮る。その間に背後から降魔の一撃を喰らわせるアリャリァリャ。振り返った敵に、呪詛を乗せた斬撃を放つ藍励。
 先ほどまでの偉そうな態度が一変、苦しげな呻きを漏らす明王。どうやら、趨勢はほぼ決したと言えよう。

●海産物の正しい楽しみ方
「いたずらに食材を焼き捨てるアンタの行為、見過ごす訳にはいかない!」
 仕置人ばりにオウガメタルを乗せた拳で正中を貫く幽梨。腹を抑えてうずくまった敵を霊体ごと断ち切るアリャリァリャの流麗なる斬撃。
「ホヤは可能性食材ダ! 他のモンと組み合わせタ方が魅力も生きル。ホヤを愛するなら、もっと活かすコトを考えテおくべきだったナ!」
 ぐぐっ……ぐっ……ぐっ…………。
 泣いているのか何なのか、妙な音が街に響き渡った。
「ホヤこそ、ホヤこそ至高の食材……それを、それを……」
 怪しげな経文を化した愚痴が、最後の反撃か。
 決め手を確実にすべく、鬼太郎とルーシィドが同時にオウガ粒子を散布し、皆の感覚を極限まで磨く。
「他の海産物と味を競ってこそ、真の至高の食材と言えるのに……排除しようとするなど言語道断ですわ」
 その研ぎ澄まされた感覚を頼み、フロストレーザーで足元を凍り付かせるジュスティシア。そして動きが止まったところを、藍励が光の尾を引きながら宙に描いた正八面体の中に明王を取り込んだ。
「時解空封、陸之型『菱零』」
 藍励が干渉せしは、時空。その力を以て、八面体の内側に氷河期を紡ぎ出した。
 ピキピキピキッ……。
「あんたは海に帰さん、土に還るんやよ。あんたの主張がわかめやったら……ウチはなかようなれたかもしれんなぁん……」
 ――遥か遠き悠久の母なる大地。氷漬けになった躯に、常夏の野生の力を感じる大地の鼓動を直接叩き込み、その嘴を地面に叩き付けて叩き折る。
「種々様々な食材があってこそ日々の食卓を彩れるというものでしょうに。それを考えなかった自身を悔いなさい。悔いるべき貴方に、花を捧げましょう……」
 立ち上がる力もなくした明王に銃口を向け、狙いを定めるアウレリア。今さらと言う向きもあるかも知れないが、完全にビルシャナと化した者に救いの道はない。
 追悼の献花代わりの弾丸は、銃声が響くより早く、明王の眉間を貫いたのだった。

「約束通り、きっちり終わったな。さて、つまみも色々あるのだし、正気に戻った者たちもいる。せっかくだから、ホヤの旨い食べ方を教わりながら、ここで飲んでかないか?」
 そう言う鬼太郎は、虎に魚をくれてやりながら、次の肴を焼き始める。
「ようやくホヤをいただけるのですね。楽しみです……あ、私はごはんで」
 せっかくですから地元の皆さんには……と、北海道から直送の鮭ルイベ漬けをどうぞ、と差し出す。ごはんの共としては最強クラスの1つと言って良い。
 今回のメインディッシュたるホヤ。その魅力をふんだんに味わうと共に、三陸の海産物の良さを心行くまで堪能した面々……。
 しかし、いつまでも楽しんでいる訳にもいかず、きれいに片付けた後は、いただいた品々の代金をきっちり精算。
「さようならホヤ好きの同志――出来るなら貴方が人間だった内に会いたかった」
 ジュスティシアは、斃した明王の面影にそう語りながら、買い込んだお土産を手に、石巻の街を後にしたのだった。

作者:千咲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 3
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