ミッション破壊作戦～処暑の空挺大作戦

■リプレイ

●灼熱の空を抜けて
　風を切ってなおうだるような暑さに、据灸庵・赤煙（ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357）は季節の巡りを感じた。
「もう一年ですか……決して長い時間ではないが、この土地を故郷とする人々にとっては辛い忍耐の日々でしょう」
「鞆の浦の常夜燈とか、あの辺結構面白いもの多いんだよな。どうせ鉄にしか興味ないんだろうが」
　赤鱗のドラゴニアンの呟きに、ふと思い出したようにガロンド・エクシャメル（災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925）は呟き、魂の叫びを研ぎ澄ます。
「お前たちはいつもそう。『貴重なもの』程すぐ潰す……」
　特段、ここのダモクレスに大きな借りはない。功名心か、トラウマへの反逆か、あるいは……だがそんな理屈はヘリオンに置いてきたこと。
「邪魔なんだよ！俺の世界を狭めるんじゃねえ！」
「あの時は一手遅かったけど、今回は、そうはいかない……帰しましょう。一分一秒でもはやく、敵を倒して！」
　はばたく翼がガロンドの肉体を黄金の矢に変えて突入。爆発が一度、二度。緩急をつけた黒住・舞彩（鶏竜拳士・e04871）の降下と共に、三度目。
　戦友たちの暴走の苦い記憶を振り払わんとする降下はガロンドと背中合わせに降り立ち、油断なく『竜殺しの大剣』を左腕から展開する。
　グラディウスと魔空回廊の衝突はミッション地域を荒れ狂い、周囲のダモクレスを地形ごと吹き飛ばしているが、それも長くは続かない。
　既にリティ・ニクソン（沈黙の魔女・e29710）の『電子戦・連携支援ユニット』は機動するそれを捕らえ、分析を開始している。
「敵機確認！」
「うおおおおおおおお、巨大ロボかっこいい！」
　突入するノーヴェ・アリキーノ（トリックスター・e32662）は思わず声をあげた。
　突き立てられたグラディウスと魔空回廊が激突した爆風と閃光に浮かぶ巨影、重巡級ダモクレス『フォートレスガーディアン』。
　逆光に立つ黒鋼の巨人は、理屈抜きの神秘性と興奮を人類にもたらす。惜しむらくは、そのダモクレスは人類に襲い掛かる恐るべき敵という事だ。
「……だからボク達はキミを駆逐する！　ボク達が！　ケルベロスだ！」
　三撃、四撃。
　魔空回廊が揺らぎ、衝撃がダモクレスの巨体を配下と共に薙ぎ払う。作り変えられた工業地帯が、焦土と化した福山市が見える。
「好き勝手やらかしてやがンな……蹂躙は楽しいか？　わかんねぇか……気に食わねェんだよ、そういう所が！」
　伏見・万（万獣の檻・e02075）の呟きに答えるものはいない。なぎ倒され、なおもダモクレス達は立ち上がり侵入者を狩らんと向かってくる。
　その姿へ万から三連。立て続けに八撃目までの衝撃が叩きこまれ、吹き飛んだ。
「短ぇよぅで長ぇ時間だよなぁ、一年……その間この地の人々は、ずっと巨大なダモクレスに、災害に苦しめられてる」
「だが瀬戸内海の要衝の地を、いつまでも占拠していられると思うなよ」
　今こそ回廊の破壊を成功させて、勇気を、希望を、人々の常夜燈と灯したい。不知火・梓（酔虎・e00528）の想いを受け、進藤・隆治（獄翼持つ黒機竜・e04573）は宣言する。
「やったか！？」
　お約束的にノーヴェが叫ぶが、まだ結果は如何にかわからない。ただ確かなのは、この場にあまり長くは留まれないという事だ。
「確認はひとまずおいて、グラディウスを！」
「現在地確認。川沿いに北へ、国道二号線方面に抜けましょう」
　投げ渡されるグラディウスを手早くアイテムポケットへと舞彩はほおりこむ。リティの検索した脱出経路を素早く共有し、ケルベロスたちはミッション地域を駆けだした。

●機動兵器攻略戦
　流れる風が砂埃を舞い散らす。振り返り確認された魔空回廊にノーヴェは一つ溜息をついた。
「やっぱり『やったか』はやってないよねー……」
「ほんの一年前の地域だからな、奴さんも攻撃に備えてきてるってことだろよぉ……まぁ、コツコツいくしかないかねぇ」
　咥え楊枝を吐き捨て、梓は諦め半分といった調子で彼女を慰める。
　まだ攻撃は二度目……中には四度五度の攻撃に耐えたミッション地域もあるのだ。今は破壊できれば幸運という時期だろうし、たしかなダメージの手ごたえはあった。
「食い尽くすには一度じゃ足りねぇ、って事かい」
「過ぎたるは毒なのは、まぁ飲み食いも戦も同じですからねｓ」
　狂暴な不機嫌さをのぞかせる万に軽口で返し、赤煙は『濃紺染紬羽織』をはためかせ、ひょいと廃材を跳び越える。
　跳び越えた瞬間、閃光が廃材を焼いた。
「きたか」
　気を吐いた隆治に呼応し、共生するオウガメタルがメタリックバーストの光を放つ。
「まぁそうだろうね。気分よくお見送りなんて、期待もしない！」
　ちらり、ガロンドが後ろをみれば赤い瞳と黒いボディ。
　ただでさえ桁外れなフォートレスガーディアンの影は、どんどんと大きさを増して近づいてくる。
「こうなると、いつも通りね」
「そうだな……まず動きを止めようか、アドウィクス」
　近づいてくる足音は振り切れそうにない。
　既に構えをとった舞彩に頷き、ガロンドはミミック『アドウィクス』に指示一つ、かざした手に攻性植物を絡みつける。
　振ってくる巨大な脚へ、トラハサミのようにアドウィクスが『ガブリング』と食らいつく。体格差ゆえに効果はそう期待できないが、ケルベロスたちの第一撃までには十分。
「巨大ロボには巨大モンスター、なんてね。噛みつけ屍竜絶血！」
「ガ……！？」
　わずかな拘束を舞彩の手から飛んだ『屍竜絶血』が拡大する。死せるドラゴンから流れ落ちた血液を武装化した、竜の首にも似た姿のレゾナンスグリードが太く堅いフォートレスガーディアンの右足を掴み、丸飲みにせんと弾けて包む。
「生きのいいことだが、逃げられると思うなよ！」
　振りほどかんとする左足へ、今度は無数の獣が絡みつく。万の秘めたる獣の影は『百の獣影』となり、巨大なダモクレスもついに膝をつく。
　その動作、曲げ広げられた装甲の空隙が側面後方に開いたのを赤煙は見逃さなかった。
「気脈の流れはグラビティチェインの流れ……このまま封じ切れればいいのですが」
　非装甲部から骨格めがけ、振るった手から飛ぶ『飛鍼・穿』。経絡遮断の秘孔はダモクレスと言えど有効なはずだが……。
「体内に高エネルギー反応、ドローン各機、支援対象指定！」
　果たして効果は半々。
　　リティの警告を追いかけるように、膝立ちのダモクレスは発砲した。全身から放たれる拡散インパクトレーザーが福山の風景、ケルベロスたちをまとめて焼く。
　オーラの針は確かにダモクレスの弱点を打ち、舞彩やアドウィクスの絡みつけた束縛効果を高めているが、それでもまだ完璧とはいえなかった。
「やばっ！」
　ノーヴェの手にしたシャーマンズカードが燃える。追撃に放ちかけた『氷結の槍騎兵』が割り込まれ、雪解けのように融解したのだ。
「下がれ！　ここは我輩が相手だ！」
　庇う隆治の『戦鬼の衣』が煙を上げ、赤熱した鱗に痺れるような感覚が走る。
　ノーヴェのグラビティが減じてくれなければ危なかった……直撃を避けてこれとは、二度三度も受けたくはない威力だ。
「分析を完了。高熱粒子による炎傷、麻痺効果。医療術式及び薬剤投与による支援を開始」
　だが耐え抜いた以上は反撃の手番だ。あらかじめ待機させていたリティの『メディカルドローン』が、攻撃の分析を元に次々と仲間たちを癒していく。
　大怪我とはいえものの数度、癒しの限界はまだまだ先だ。
「いけるか、梓？」
「応、ちょいと潰してくる」
　治療を受ける腰を落とした隆治の肩を借り、梓は大きく跳躍した。黝い『Gelegenheit』による雷刃突が突き刺す先は、見極められたインパクトレーザーの砲口の一つ。
「ゴ……ッ」
　勿論、巨体とはいえフォートレスガーディアンも黙ってはいない。弱点を庇い、矮小な地球人を叩き潰さんと手を振り上げるが、その狙いは宙を切る。
「もっと、疾く……！」
　それは舞彩のスターゲイザーが重なったもの。突き込む斬霊刀の柄を打ち、加速する二人分のグラビティを乗せて刀身が深々と突き刺さる。
「てなわけで、砕けろ」
　梓が無造作に引き抜けば、出血じみた爆発が砲口を砕いた。

●機動兵器攻略戦
「ＷＡＲＮＩＮＧ！　ＷＡＲＮＩＮＧ！」
「っと、こりゃやばそうだな。撤収だ、舞彩！」
　ダモクレスから漏れ出す煙に梓は素早く判断した。
　胸部砲の一門を失ったフォートレスガーディアンだが、その動きはまるで揺るがない。腰部に覗くエネルギーパイプが循環を加速し、出力をあげた拳が拘束ごとケルベロスを凪ぐ。
「あぐっ！」
　飛び退く瞬間、舞彩の身体が吹っ飛ぶ。咄嗟、現出させた『竜殺しの大剣』で受けなければ五体をもっていかれかねない。
　迫る地面に身構える女拳士を更にガロンドが身体で受け、衝撃を流す。
「……ごめん、助かった」
「どうも。けど、こりゃあまり長引かせたくないな」
　目線で合図し、ガロンドは爆破スイッチを叩く。同時、起動された隆治のスチームバリアが拡散。一時の目くらましとなり辺りを覆った。
「とはいえ、どうするかね」
　ドレインスラッシュに切り替え攻める梓だが、休まずせめてもなお戦況はダモクレス優位。火力は必須として、決定打が別に要る。
「潰すは、あの出力だな」
「賛同するわ。狙いは腰部の動力パイプ、複数経路のバックアップがあるから気を付けて」
　隆治に頷き、リティは『強行偵察型アームドフォート』のセンサーを向けて言う……直後、砲撃。逆探知を受けたか？
「腰だね、了解！　切り札、御業を禁縄禁縛でセット！」
　砲門へのダメージとヒールドローンに守られ、ノーヴェは耐えきるや禁縄禁縛呪を展開。先ほどは割り込まれたが、今度はこちらが後の先だ。
　巨大な腕と化した御業がフォートレスガーディアンの足一本をわしりと掴む。
　そう長くは無理だろうが稼ぐべき時間は祈りの一節、わずかでいい。
「空を渡るあなたに祈りを捧げよう。命を見守り続けるために、罪科を穿つ一振りの刃をここに授けたまえ」
　やや足早な、しかし朗々たる祈りが隆治の元へ『月の刃』を顕現させる。
「そいつがお前の牙か。面白れぇ」
　振るわれる敵を穿つための刃に万が興味深そうに口を釣り上げた。
　御業を引き千切らんと腰を落としたダモクレスの隙をつき、動力の循環を穿つ隆治の刃。噴き出し気化するエネルギーをものともせず、突き進む万は惨殺ナイフを突き立てた。
「センセイのぶんも、つけておくぜ！」
　ごりごりと捩じ込まれるナイフに弾けるカプセル。その正体は先に仕込んだ赤煙の殺神ウイルスだ。
「ＤＡＮＧＥＲ……ＤＡＮＧＥ……ＤＡＮ、ＤＡＮ……」
「ありがとう、効果は十分そうです」
　明滅するセンサーアイへ赤煙は満足げに呟き、アイコンタクト。晴れつつある土煙の煙幕から、舞彩の身体が突進した。

●攻撃突破
　身に余る『竜殺しの大剣』を右手で担ぎ、雷を纏う。
　地獄の左手には召喚されし地獄の炎剣。魔人の力を降臨させ、舞彩の心臓が加速する。
「地獄の炎を、闘気の雷を纏い二刀で放つ！」
　膝をつくフォートレスガーディアンの動きも、仲間たちも、まるでストップモーションのように見える。速さの限界を突破した『我竜爆火雷』の連撃には、衝突火花すら追いつかない。
「早く！　もっと！　一手でも多く！」
　左右からの縦斬、袈裟切り、切り払い……剣の軌跡はダモクレスの両脚を切り刻み、股関節へ斜め十字に収束する。
「デ……デ……ガッ」
　両足が同時、その付け根から綺麗に寸断された。滑り落ちるように重巡級の巨大な胴がケルベロスたちへと降ってくる。
「やった……よっ！」
　同じ轍は踏まないと、ノーヴェが更にダメ押し。シャーマンズカードの指令に、大地へと押しつぶすような御業の『禁縄禁縛呪』。
　切り裂かれた動力パイプから、血抜きのようにエネルギーが迸る。
「はい。ダメ押し」
　上半身だけでなおもがくダモクレスだが、その機体性能を凌駕する魂にもガロンドの降らせた釣り天井が今度こそ『終幕』を告げた。
「晴れときどき釣り天井たぁ、たまげるねぇ」
「その理不尽さが必殺なんじゃないかな」
　爆発に再び舞い上がる砂煙。調子を戻した梓に、ガロンドもまたいつもの調子で返した。
「おつかれさま。周辺キロレンジまで敵影無し、けれど……」
「悠長にはしてられんか」
　リティの指し示した無人機のセンサー光に、万は唇端を釣り上げる。まだ交戦距離ではないが、食いきれぬリスクを負うのは得策ではないだろう。
「安堵するのは離脱してからですな。ルートは変わらず？」
「ええ。残り十数キロほど」
　赤煙はリティの答えに頷き、濃紺染紬羽織をひるがえす。
　次の挑戦、次の戦いに向け、ケルベロスたちはミッション地域を駆け抜けていった。

作者：のずみりん	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年8月31日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 7／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。