あなたの血をちょうだい?

作者:白鳥美鳥

●あなたの血をちょうだい?
「何か面白い事無いっすかねー」
 シルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)は、そんな事を言いながら歩いていた。
「あるっすよー、面白い事」
「?」
 いきなりどこかから返事が返って来て、シルフィリアスは声の聞こえてきた方に振り返る。そこには、どこかシルフィリアスに似た少女が笑っていた。
「ふふっ、美味しそうっす。その血を戴くっすよ!」
 その言葉と共にシルフィリアスに襲い掛かってきたのだった。

●ヘリオライダーより
「みんな、大変だよ!」
 デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、大慌てでケルベロス達に話しかけた。
「あのね、シルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)が宿敵であるデウスエクスに襲撃を受ける事を予知して、急いで連絡を取ろうとしたんだ。だけど、全然連絡が取れないんだよ! シルフィリアスが無事なうちに、一刻も早く救援に向かって欲しいんだよ!」
 デュアルは状況の説明をする。
「相手はシルフィリアスに良く似た姿をしている。その正体は攻性植物だ。主に幾重にも分かれた髪を使って攻撃をしかけてくるよ。後、魔法少女っぽい服装をしているからか、それに合せたような手段も取ってくる。どうやらケルベロスの血を狙っているみたいだ」
 デュアルの話を聞いていたミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)は、ぐっと手を握る。
「シルフィリアスちゃんの命が危ないの! みんな、シルフィリアスちゃんを助けるために一緒に来て欲しいの!」


参加者
リオル・アイオンハート(蒼き紫苑の涙・e02015)
ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)
雑賀・真也(不滅の英雄守護者・e36613)
神苑・紫姫(白き剣の吸血姫伝説・e36718)
夢見星・璃音(彼岸のゼノスケーパー・e45228)
パール・ランダム(魔法少女ルミナスパール・e53434)

■リプレイ

●あなたの血をちょうだい?
「ふふっ、美味しそうっす。その血を戴くっすよ!」
「なんであちしと似た姿してるんすか!」
 そう言って微笑むのは、シルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)とそっくりの姿……肌や髪は緑色をしているが……攻性植物のバイオシルフィ。それに対して本物のシルフィリアスは抗議する様に文句を言い返した。
「シルフィさん、危ない!」
 そんなシルフィリアスとバイオシルフィの間に、夢見星・璃音(彼岸のゼノスケーパー・e45228)が蹴り飛ばして両者を離れさせる。……蹴ったのは本物のシルフィリアスの方だが、結果的に両者の間は離れたので大丈夫な筈だ。多分。
「おう、新しい友達でも出来たか?」
「やれやれ……偽者退治とはご苦労なことだな、団長」
 そう言いながら、リオル・アイオンハート(蒼き紫苑の涙・e02015)や雑賀・真也(不滅の英雄守護者・e36613)達も駆けつけてきた。
「~~痛いっす! 何であちしを蹴るんすかー!」
 シルフィリアスは璃音に文句を言いながら、ある事を思い出す。今までも似てもいない偽物が現れた時に間違えて攻撃された事があるのだ。
「みんな来てくれてありがとうっす。とりあえずあちしの5m以内に近づかないで。あ、でも盾役は欲しいっす」
 駆けつけてくれた仲間達にそう要求するシルフィリアス。
「……いやシルフィ様、今回は真面目に戦いますので、そう身構えなくとも」
「今まで見た中では一番似ているとは思いますけど、それでも私たちとシルフィちゃんとの絆を欺く事はできません!」
「シルフィ先輩の偽者を見るのは初めてですが、これだけ見た目が違えば誤射なんてありえません!」
 何やら覚えがあるらしい神苑・紫姫(白き剣の吸血姫伝説・e36718)はなだめる様に、ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)とパール・ランダム(魔法少女ルミナスパール・e53434)は胸を張り、今はバイオシルフィも味方も敵状態なシルフィリアスに対して警戒心を解いて貰えるように訴える。
「あの、あちしの偽物、嫌われてるっすか? もしかして、血も美味しくない……?」
「……いや、あれは好かれている故だ。血が美味しいかどうかは知らないが」
 シルフィリアスと仲間達の状態に、偽物バイオシルフィにそう尋ねられてしまいリオルは頭を押さえつつ、そう溜息をついた。興味本位もあってやって来たリオルだが、目の当たりにすると何というか……。
「どっちが本物のシルフィさん、かな……。そうだ、これを食べて……」
 リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)は、まだシルフィリアスとバイオシルフィの区別がついていないらしく、何故か自作のハンバーグを振る舞おうとする。
 が、しかし。
「今はそれどころじゃないから来年食べるっす」
「そ、それは食べちゃいけないって、あちしの何かが言ってるっす」
 リーナのハンバーグから離れる様にさがっていくシルフィリアスとバイオシルフィ。何故ならリーナは被害を出していたりするくらい料理が下手なのだ。無用なダメージ等、受けたくない。どうやら相手も本能的に感じている様だ。
「い、いや、そんなものに怯えている場合じゃないっす! 血を……ええと、誰ならマシ……と、とにかく一旦動けなくするっすよ!」
 明らかにたじたじとしながら、バイオシルフィは緑の長い髪をなびかせた。

●攻性植物・バイオシルフィ
 バイオシルフィの髪が生き物のように動き、捕らえる様にシルフィリアス達を薙ぐ。
「本物のあちしは頭に触手はえてないっすし、あんな不健康そうな肌の色してないっすしあんな童顔じゃないっす!」
 そう言い放つと、シルフィリアスは杖を振って光の中、魔法少女衣装に変身。
「魔法少女ウィスタリア☆シルフィ参上っす」
 可愛くポーズを決める。その後、直ぐに体勢変えて、マジカルロッドから光と共にエネルギーの塊がバイオシルフィを襲った。
「あの緑色、ニセモノの分際で私と微妙に立ち位置が被っているのが気に入りませんの。吸血鬼シキの名に懸けて、その血肉……あれ、植物だから果肉? それとも樹液? ……とにかく、貰い受けますの!」
 紫姫は自称吸血鬼、『吸血姫シキ』。勿論、血は吸わない。しかし、血を狙うバイオシルフィに対しては、自身が血を吸わなくとも気に入らない相手なのだ。紫姫はバイオシルフィに対して引き裂くようにして生命力を奪っていく。続き、ビハインドの星良も金縛りの攻撃を与えた。
「……顔色の悪い方が敵、だね……」
 リーナはバイオシルフィに目標を定めると、雷の霊気を乗せて強烈な突きを喰らわせる。
「……時々思うが、攻性植物の擬態はよく出来ているものだな。人間そっくりに擬態している。……だが、今回は擬態する相手が悪かったな」
 だって、本物の方が普通に可愛げがあるじゃん……そう思いつつ、真也はバスターライフル『K33 BRS』をバイオシルフィ向かって構え、凍結光線を放つ。ルーチェも続けてルーンを纏う強烈な一撃を繰り出した。
「おおっと、危ないっすよー」
 しかし、バイオシルフィは髪を上手くつかって、その攻撃をひらりひらりと次々かわす。
「……っと、二人続けて外したか。手伝い、頼むぞ」
「了解なの!」
 リオルの言葉に元気よく答えるミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)。
 まず、リオルが『破壊のルーン』を璃音に施す。続いて、ミーミアがオウガ粒子をルーチェ達に放って神経を研ぎ澄ませ、ウイングキャットのシフォンが清らかなる風を送り護りの力を高めた。
「リオルさん、ありがとう」
 力を与えてくれたリオルに礼を伝えると、璃音は虚無の球体をバイオシルフィに放つ。
「魔法少女ルミナスパール、出撃します!」
 パールはケルベロスコートから魔法衣装に変身すると、全身に地獄の炎を纏って戦闘態勢を整えた。
「皆さん、やる気っすねー。あちしも魔法少女に変身っす」
 バイオシルフィは、にこりと笑うとマジカルロッドを可愛らしく振る。すると、ロッドから光が溢れだして、バイオシルフィの全身を覆っていった。緑色のバイオシルフィだが、光に覆われてキラキラして顔色が少し良くなったように見える様な気がする。
「魔法少女ウィスタリア☆シルフィは、あちしっす! 偽物の癖に魔法少女を名乗らないで欲しいっす!」
「そんな事ないっす! あちしも魔法少女っす! マジカルロッドだって持ってるんすよ!」
 本物と偽物との間で『魔法少女』が自分だという主張が繰り広げられていく。
「偽物はもう黙れっす!」
 言い合いに飽きたシルフィリアスは、バイオシルフィに向かって強力な電撃を放った。
「あの緑色、偽物だけあってシルフィ様とのキャラ被りが凄いですわね……」
 魔法少女まで主張し始めたバイオシルフィを別の意味で感心しながら、紫姫は美しく舞い踊り花弁を振り散らせて自身を含めシルフィリアスやルーチェに残る痺れを取り払っていく。一方で星良はバイオシルフィに向かって一撃を与えた。
「誤射はせんが、射線には入るなよ」
 真也はシルフィリアスにそう言うと、先程かわされてしまっているので慎重に慎重を重ねながらバイオシルフィに狙いを定め、エネルギー光弾を撃ち放つ。
「今度は逃がしませんよ!」
 ルーチェは指先にエネルギーを集中させて光を纏わせると、その手刀でバイオシルフィを切り裂き、続いて璃音は凍結の弾丸のバイオシルフィに向かって撃ちこんだ。一方、リオルは真也に向かってオウガ粒子を放ち、リーナは心と刃を一体化させていっていた。
「火力は正義、でも当たる火力こそが最高! 私も学習しましたよ! 煌めけ、私の魂の光!」
 パールは混沌の水と地獄の炎の両性質を拳に籠めて、虹色に輝かせながらバイオシルフィに叩き込む。ミーミアは念を押す様にリーナ達へとオウガ粒子を放ち、シフォンはパール達に清らかなる風の護りを送った。
「痛いっすー……。でも、負けないっす。血を戴くっすよー!」
「させません!」
 手痛い攻撃を受けたバイオシルフィは、シルフィリアスに向かって緑の髪の触手を使い吸血を試みるが、それをルーチェが防ぐ。
「さすがウォール・ルーチェだ! 平たく頑丈で堅いだけあって、ビクともしていないぜ!」
 そう褒め称えるのは真也。それを聞いたルーチェは真也に向かって笑顔を向ける。とても怖い笑顔で。
「ちょっとあとで『お話』しましょうか……?」
 ルーチェは胸の話に関しては静かにキレる。先程の真也の言葉に褒めている以外のものが混ざっている事にしっかり気付いているのだ。
「とどめのルーチェキャノンいくっす!」
「ええーっ、またですかー!?」
 何故かルーチェに向かって魔法を放とうとするシルフィリアス。彼女によると、ルーチェに魔法を当てて彼女を吹き飛ばして敵に攻撃しようとするものらしい。だが、ダメージはルーチェだけにしか行かない。そんな攻撃を受けたくないルーチェはシルフィリアスの魔法をかわす。しかし、シルフィリアスもかわされないように髪で妨害してきていて、その長い髪はバイオシルフィのものだと思い込んだルーチェは髪をとっさに掴み、本物のバイオシルフィに向かってシルフィリアスの身体が物理的にハンマーの如く叩きつけられた。
「うわあぁぁ!? シルフィちゃんごめーん!?」
 想定外の攻撃と想定外の扱いを受けたバイオシルフィとシルフィリアスは目を回している。
「大変ですわ! 姉様、足止めをお願い!」
 聖良に足止めを頼み、急いでシルフィリアスの回復に向かう紫姫。ただし、それは物理的にヒメムラサキの紋章を叩き込んでくるという回復方法で……。
「ち、近寄るなっす! 5m以内に近寄るなっすー!」
「本当にコレはヒールですので逃げないでくださいシルフィ様ー!?」
 慌てて紫姫から逃げ出すシルフィリアス。それを追いかける紫姫。
「……」
 シルフィリアスがルーチェを攻撃しようとしたが、反対に武器にされ、そして今、シルフィリアスは紫姫に物理的に回復されるのを嫌がり、追いかけっこ状態だ。
「……あの」
 そんな様子を見ていたバイオシルフィは、再度問う。
「……あの、あちしの偽物、嫌われてるっすか?」
「……いや、もう、どこからどうツッコミを入れて良いのか……」
「何も見なかった。そういう事にしましょう」
 答えを求められても困る。真也は頭を抱え、パールは何も見なかったという事にしたらしい。
「俺は回復に行ってくるから、後は頼んだぞ」
「はい!」
 リオルは追いかけっこを繰り広げているシルフィリアスと紫姫の方に向かっていく。それに強く答えたパールは皆に声をかけた。
「先輩方、敵が戦意を失っている今がチャンスです!」
「……いや、こっちもちょっと……まあチャンスと言えばチャンスか」
 確かに目の前で繰り広げられている光景を、バイオシルフィはどうしたら良いのか分からない顔で見ている。真也達もついていけなくなりつつあるのだが、確かにチャンスではある。
「……別の意味でも擬態する相手が悪かったな」
「こっちにいる方が、敵……」
 真也とリーナは、ぼんやりしているバイオシルフィに、空の霊気を纏った斬撃を続けざまに叩き込んだ。更に璃音の虚無球体が撃ち込まれ、パールの回転斬撃が加わった。
「……ふ、不意打ちとは……卑怯……っす……」
 無防備な状態で攻撃を叩き込まれたバイオシルフィは、ふらつきながら再度、自身の身体に光を纏わす。しかし、直ぐに真也が加護を打ち破る2本の魔剣を投げつけ十字型に斬った。
「リーナちゃん、宜しくなのよ!」
 ミーミアが雷の力を使ってリーナの力の底上げを施し、それを受けたリーナは召喚術を行う。
「外なる混沌に棲まう異界の魔獣……召喚に応じ、わたしに従え……召喚『混沌魔獣』……」
 巨大な六芒星魔法陣を展開したリーナは異界の生物を召喚するのだが……。
「アレ……? なんで魔獣じゃなくてわたしの料理が……」
 そこに召喚されたのはリーナの料理。類稀な才能により生み出されたその料理はうねうねと触手をくねらせ動き出し、バイオシルフィに襲い掛かる。
「キャー!」
 そう悲鳴が上がったと同時に、料理とバイオシルフィは消滅したのだった。

●戦いの後に
「お、お疲れ様ですの……」
「す、すいません、お任せしてしまって……」
「紫姫さんとルーチェさんが全部悪いんすっよ。二人揃って、あちしに酷い事をしようと……」
 バイオシルフィを倒し終わった後、追いかけっこの末、リオルに治療して貰ったシルフィリアスが彼や紫姫やルーチェと一緒に戻ってきた。
「凄かったわ、リーナさんの料理……動きだし襲い掛かって敵を昇天……。私も料理は上手い方では無いけれど……あの域には達する事はないわね」
 戦いを振り返りつつ、璃音はリーナの料理攻撃に感心する。彼女の料理も大体ダークマターになるのだが、まだあの域には行っていない。行くべきなのか、行くべきではないのか、それが問題だ。
「私もまだまだ勉強しないといけないことが沢山ですね。……見習った方がいいところもあれば、そうじゃないところもあるみたいですけど」
 パールも今回の戦いを分析しつつ、そう呟く。
「俺は団長の偽者退治に参加したのは初めてだが、これまでに他の偽者が出現しているのだろう? やれやれ……次の団長の偽者は、どの種族になるのやら……」
「どこかにシルフィさんの偽物を作る型とか取られていたりしないかな?」
 シルフィリアスの偽物は今回で3回目。真也と璃音にそう言われたシルフィリアスはふてくされる。
「そんな事、あちしが知りたいっすよー。それに、もう偽物にもみんなにも狙われるのは嫌っす!」
 確かにシルフィリアスは敵に狙われただけでなく、他にも色々な目に遭っている。まあ、最後は自分でトリガーを引いたとも言えなくもないのだが……。
「とにかくシルフィ先輩が無事で良かったです」
「そうだな。解決だ」
 そう、パールとリオルが場を締める。
 その後、ルーチェが真也への『お話』があったという話だが、大騒ぎの偽物事件は一先ず解決したのだった。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 6
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