血を残せし影

作者:幾夜緋琉

●血を残せし影
 深夜2時を過ぎた、山梨県は甲府駅前。
 殆ど周りに人通りもなく、街は静けさに包まれている。
 ……そんな表通りの傍ら、甲府城跡の傍ら、舞鶴城公園。
 そこに姿を現わしたのは、体長2m程の、浮遊する怪魚が3体。
 意志もなさそうに、ふわりふわりと浮遊し漂う彼らは青白く発行しており、何処か神秘的な雰囲気も醸し出している。
 そして……その泳ぎ回る軌跡を辿ると、段々と魔方陣の様な形を象る。
 その象られた魔方陣が虚空に浮かび上がると共に、その中心に……2ヶ月ほど前に、この近くで撃破された『罪人エインヘリアル』が産み出される。
 そして彼は。
『ガァハハハハ!!』
 闇の甲府を劈く笑い声を上げたかと想うと、刃鋭く、更に一回り巨大化したゾディアックソードを掲げ、街を見境なく破壊しようと動き始めるのである。

「ケルベロスの皆さん、集まってくれたッスね! それじゃ、説明させて貰うッス!!」
 黒瀬・ダンテは、集まったケルベロスに挨拶すると共に、早速。
「今回山梨県の甲府駅前に行って貰いたいんッス。ここで死神の活動が確認されたんッスよ!」
「今回の死神は、どうやらかなり下級の死神の様で、浮遊する怪魚の様な姿をし、知性などは持たないタイプの様ッス」
「この怪魚型死神、ケルベロスの皆さんが撃破した罪人エインヘリアルを変異強化した上でサルベージし、周辺住民の虐殺を行い、グラビティ・チェインを補給した上でデスバレスへと持ち帰ろうとしている様ッス」
「そこでケルベロスの皆さんには、市民を守り、死神を撃破し、サルベージされた罪人エインヘリアルへ、今度こそ引導を渡してきて欲しい、って訳なんッスよ!」
 更にダンテが。
「ちなみにこのエインヘリアルッスけど、事前に察知出来たッスから、周囲の人達を事前に避難させる事は可能ッス。ただ、余り広い範囲を避難させてしまうと、怪魚たちがそれを察知し、エインヘリアルをサルベージする場所や、その対象が変わってしまう様ッス。そうなると、事件を阻止出来なくなってしまうッスから、戦闘区域外の避難を行う事は出来ないッス」
「又、当然ながらエインヘリアルは、一般人を次々と殺戮する事を目的にしているッスから、ケルベロスの皆さんが敗北したら、かなりの被害が出ることは間違い無いッス。万が一にも負けられない戦いッスよ」
「後、ケルベロスの皆さんが現れ、自分達が劣勢になると、下級死神達は、サルベージされた罪人エインヘリアルを撤退させようとする様ッス。撤退するターンは、下級死神も、サルベージされた罪人エインヘリアルも行動出来ず、ケルベロスの皆さんが一方的に攻撃する事は出来るッスけど、その一刻を逃せば姿を消してしまうッスから注意して欲しいッス!」
「ちなみに攻撃手段ッスけど、エインヘリアルは斬れ味鋭く強化されたゾディアックソードッス。以前よりも攻撃力が高くなり、代わりに防御力は減っている、という様な状況の様ッスね」
「そしてその周りに居る怪魚型死神の攻撃手段は、ただ噛みつくのみで、特にバッドステータスとかも亡い様ッスから、そんなに強敵という訳ではないと想うッスが……3体がうようよいるッスから、邪魔かもしれないッス」
 そして最後にダンテは。
「エインヘリアルを狙ってサルベージしてるッスから、霧島・絶奈(暗き獣・e04612)さんが危惧していたように、エインヘリアルと死神との間になんらかの密約がある可能性もあるかもしれないッスね」
「何にしても、このままエインヘリアルを放置など出来ないッス。どうかケルベロスの皆さん、宜しく頼むッス!!」
 と拳を振り上げるのであった。


参加者
叢雲・蓮(無常迅速・e00144)
シャルロット・フレミス(蒼眼の竜姫・e05104)
西村・正夫(週刊中年凡夫・e05577)
鋼・柳司(雷華戴天・e19340)
ミカ・ミソギ(未祓・e24420)
兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)
蟻塚・ヒアリ(蟻の一穴天下の破れ・e62515)
コレット・クロスハワード(地球人の巫術士・e64233)

■リプレイ

●闇より戻りし
 深夜二時過ぎの、山梨県甲府駅。
 その駅前には殆ど人通りもなく、静けさに包まれている。
 そしてそんな駅前交差点からちょっと行った所にある、舞鶴城公園。
 そこに現れたのは、体長2m程の浮遊する怪魚が3体と……彼らが復活させた『罪人エインヘリアル』。
 以前、ここで討伐した筈の彼が、死神達によって復活させられる……そして、その意志は最早狂気の中にある。
「……死して尚利用されるとは憐れな。そして知能なく死者を操る事しか出来ん奴も同様に哀れか……やるせない戦場だな……」
 と、深いため気を吐く鋼・柳司(雷華戴天・e19340)。
 それに頷き同意するのは蟻塚・ヒアリ(蟻の一穴天下の破れ・e62515)。
「そうだな。死神の企みは相変わらず続くな。そしてまたこの手のエインヘリアルを始末する事になるとはね」
 ……無表情なれど、その辛辣な言葉は饒舌に語る。
 そして、兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)も。
「うん。死神と、さるべーじされた、エインヘリアル。言っても、分からない、だろう、から……すぐに、終わらせる、よ」
 とぽつりぽつりと呟きながらも、その腰に下げた妖刀『月喰み』に手を備える。
 何となく、刀がカタカタと鳴いた様にも見えるが……果たして。
 ともあれ、何にしても罪人エインヘリアルと、死神を倒さねばならない……少なくとも、ここからは撤退させなければ、多くの一般人達が殺戮の憂き目に遭う事は間違い無い。
「まぁ死神は命の尊さが全く無いのよね。今度もきちんと止めて見せるわ」
「そうだね。まぁ幸いというべきなのか、不運と素直に口を出すべきか。いずれにせよ、やる事は変わらぬ訳だが、やりづらいね、どうも」
「全くなのだ。でも、ここに住む人達には罪はないのだよ。だから、絶対に此処で倒すのだ!!」
 シャルロット・フレミス(蒼眼の竜姫・e05104)、ミカ・ミソギ(未祓・e24420)、そして叢雲・蓮(無常迅速・e00144)の三人が頷き合う。
 そして。
「そうだね。まぁ戦う相手も多くてちょっと面倒な感じだけど、しっかりと頑張らないとね!」
「ええ……頑張りましょう」
 と、コレット・クロスハワード(地球人の巫術士・e64233)、西村・正夫(週刊中年凡夫・e05577)らも頷き合い、そしてケルベロス達は……静けさに包まれた、舞鶴城公園へと向かった。

●苦しみは快楽に
 そして、ケルベロス達の目の前に広がる、舞鶴城公園。
 深夜の刻、という事もあり、何処か薄気味悪い雰囲気を感じるも、取りあえず、やるべき事は……周りの一般人達の避難。
 近くにあるのは主にデパートや、公的施設なので、こんな深夜の刻ともなれば、残っているのは……夜間警備の警備員の方々が主立つ。
 とは言え大通りから一本、日本入った所には、店舗兼住宅の影もちらほらと有り、全く以内、という事も無いだろう。
「さて、と……取りあえずは一般人の方々を避難させなくてはなりませんね」
 と正夫に頷くミカとコレット。
「そうだね。余り時間を掛ける訳にも行かなさそうだから、手分けして此処から逃していこうか」
「うん、終わった所にはキープアウトテープを張り巡らせれば目印にもなるかな? いや、逆に戦場を囲む様にして張り巡らせれば、外から入ってくる事は無いのかな?」
「んー……どうだろう。まぁ、何にしても少しずつ、確実に包囲網を築いていこう」
 そしてミカが光の翼を広げ、又シャルロットも翼飛行で空から状況を確認。
 ……人の気配がした所を見つけ次第、蓮と正夫、コレットが赴いて。
「深夜に起こしてごめんなのだよ。でも、ここは危険だから、急いで逃げるのだ!」
 と、務めて安心させる様な笑顔で接しつつ、一人ずつその場から避難させていく。
 一方ヒアリが取り出したるは、拡声器。
「深夜名枠かもしれないが、手っ取り早く逃がすにはこのやり方が一番だ」
 と呟きつつ、拡声器の音量を最大にして。
「敵襲だ。可及的速やかに避難してくれ」
 と、眠りを劈き、起こしていく。
 ……そんなケルベロス達の行動によって、数分の内に……一般人の影は殆ど、其の場から消える。
 そして……自分達を囲う様、舞鶴城公園の周りにキープアウトテープを張り巡らせ……いざ、足を踏み入れる。
 すると、どこから共なく聞こえてきた声。
『ウウ……グゥゥ……』
 獰猛な唸り声……いや、苦しみの呻き声。
 その声の元は、死神によって復活させられた、エインヘリアル。
 更に周りへ浮遊している、3体の怪魚型死神達は、まるで意志もない様に、宙空へふよふよと浮かび続けている。
 ……そんなエインヘリアルと死神達の真っ正面に立ち塞がる十三。
『……グゥァア……!!』
 怒りと共に、殴り掛かってくるエインヘリアル。
 そんなエインヘリアルに対し、冷たい視線で。
「あなた達、の、相手は、じゅーぞー達だ、よ」
 と言い放ち、その腰に下げた怨霊溢れる妖刀『月喰み』を抜いて、構える。
 ……そんな十三の動きを、エインヘリアルは敵対行動と認識した様で。
『……グガァ!!』
 と、その手のゾディアックソードを、全力で叩きつける。
 その一撃を、軽い身のこなしで躱しながら。
「……その首、じゅーぞー、が、もらう、ね?」
 と、殺界形成を纏いつつ、流水斬の一閃をカウンター。
 肩口にその一撃が命中し、元々苦しそうな表情だが、更に苦しげに叫ぶエインヘリアル。
 更に蓮が流れる様に、身を屈め……エインヘリアルではなく、死神に接近。
「さぁ、これでも食らうのだよ!」
 とレガリアスサイクロンの一閃を、死神達に浴びせかける。
 そんなクラッシャー両者の攻撃に続き、ジャマーのシャルロットへ、エインヘリアルを軸に死天剣戟陣を浴びせかけ、対しコレットは。
「紫電招来……雷轟閃!!」
 と『紫電・雷轟閃』の電撃を、死神の陣容に叩きつける。
 そして、対するヒアリが御霊殲滅砲、そして彼女のボクスドラゴン、センチピードがボクスタックル。
 更に柳司のアイスエイジと、正夫のデストロイブレイドで、死神を確実に傷付けていく。
 次の刻となり、死神達の攻撃。
 先行して動く死神型怪魚達は、ふわりと浮遊しながら、ケルベロス達に近づき……噛みつきの一喰い。
 更にエインヘリアルのゾディアックソードは、最早無差別に立ちはだかる者を殺さんと、叩きつけてくる。
 ……そんなエインヘリアルの一撃を、柳司が果敢に立ち塞がる。
 かなり痛い一撃に、腕から吹き出る血潮。
 しかし……。
「そう簡単には抜かせはせんよ」
 と、吐き捨てる。
 そして死神達の攻撃をかいくぐり、ケルベロス達の攻撃。
 シャルロットの御霊殲滅砲で、エインヘリアルにパラライズを付与しつつ、コレットも呪怨斬月を死神に付与し、体力の減り具合を確認。
 ……後、もう一息だと判断した所で。
「蓮クン、十三サン、今だよ! 左側の怪魚!」
 と指示を与え、同時にミカが前衛陣を強化する為に「ブレイブマイン」。
「了解!」
 そして蓮が、ハイジャンプと共に、その指示された死神の元へ頭上から接近……呪怨斬月の一閃で一刀両断にすると、その怪魚は地面へと落下。
 そして、十三は続けて、隣の怪魚に。
「【月喰み】解放……刎ねる……刎ねる……兎が刎ねる……無明の新月、見て刎ねる」
 『朔之月:怪兎・乱魔』の一閃を繰り出し、大ダメージを叩きつけていく。
 更にヒアリの轟竜砲に、センチピードのボクスブレス。
 柳司は死神に対し。
「死を弄ぶものが死に魅入られたとしても、因果応報だ。散れ」吐き捨てながらの旋刃脚に、正夫が短く。
「行きます」
 『切釥』を一閃し、更にもう一体、死神を討ち倒して行く。
 残るはエインヘリアルと死神が一体ずつ。
 ……ただ、エインヘリアル自体はまだまだ血気盛ん……ケルベロスを討ち倒さんと暴れ廻る。
 そんなエインヘリアルと、傍らの死神に確実にダメージを継続して与え続け……経過する事、十分程度。
 死神をギリギリまで追い詰めた上で、一気にエインヘリアルへ総攻撃。
「ぎっちょんぎっちょん」
 と『全てを刈る影』を放つヒアリに、更に。
「光と廻れ、刃と舞え。透き通る音に全てを忘れて」
 『トロメアの宴』でミカが仕掛けし一閃。
 更に、蓮の憑霊弧月、十三のドレインスラッシュが、クラッシャー効果により、死神を仕留める。
 そして……残るは瀕死のエインヘリアル。
 そこに柳司が。
「武人としての手向けだ。存分に戦ってから逝け。雷華戴天流、絶招が一つ……蒼滅衝!!」
 『蒼滅衝』の一閃に、エインヘリアルこそ、完全に崩れ墜ちるのであった。

●闇夜に呼ぶ
 そして……どうにか復活したエインヘリアルを討ち倒したケルベロス。
「ふぅ……終わった様なのだ?」
 と周りをきょろきょろと見渡しながら、ニコッと笑う蓮。
 そして、他の仲間達も汗を拭い、ひとまずは終わった事に安堵。
「さて、と……それじゃ壊した所を治さないといけないかな?」
 とコレットの提案に、蓮が。
「そうなのだ。明るくなったら、お家がお豆腐みたいにズバズバ斬られちゃってたら、嫌だもんね~」
 と言うと正夫、柳司も。
「そうですね。ああ、地道に一つ一つやらないといけないのは中々面倒ですが……ね」
「まぁ、一般人の家にはそこまで影響は無さそうで、そういった意味では幸いだが……この舞鶴城公園はこの辺りの市民にとっては憩いの場だろうしな」
 と頷き合い、ヒールグラビティを使い、一つ一つを回復。
 又、キープアウトテープを回収し、いつもの日常を取り戻していく。
 ……そして、一通り終わった頃には、空はうっすらと明るくなり始めて……電車も走り始める。
「さて、と……それじゃ、大体終わりかな?」
 とミカにこくっ、と十三は頷き、そしてシャルロットが。
「折角ここまで来たんだし、寮の皆の為にお土産でも買って行こうか。こういうのも時には、ね」
「ん、そうだね。甲府と言えば、やっぱりあれかな? 駅の売店に売ってると思う」
 ヒアリもそれに頷き……そしてケルベロス達は夫々の帰路へとつくのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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