鋼鉄のガレオス

作者:天枷由良

●策動
 蝉の声すら聞こえぬ静寂の中。
 赤い翼を持つ死神の女は、草花を愛でるかのように穏やかな仕草で鋼鉄の鮫に触れた。
「……お行きなさい」
 ディープディープブルーファング。
 名を呼び、手を離す。植え付けられた『因子』に違和感でも覚えたのか、全長5メートルにも及ぶ巨鮫は身震いを一つした後、勢いよく彼方へと泳ぎだす。
 そんな姿を幾度も見送って、その先に何があるのかは窺い知れない。
 ただ一つだけ、確実に言えるのは。
 死神の行いが、戯れではないこと。
「グラビティ・チェインを蓄え、ケルベロスに殺され……」
 ぽつり、ぽつりとした呟きを、死神はこう締めくくった。
「――私の研究の糧となるのです」

●夜更けのヘリポートにて
「『死神の因子』を植え付けられたダモクレスが一機、秋田県能代市の山中から市街地へと向かっているわ」
 ケルベロスたちを呼び集めたミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)は、火急の事態であると切り出した後、そう告げる。
「ダモクレスは『ディープディープブルーファング』という名称を与えられた全長5メートルほどの鮫型で、空中を泳ぐように移動しているの。目的は市民の虐殺以外になく、このまま市街地への侵入を許せば――」
 多くの生命が失われることになる。
 言うまでもない未来に、ケルベロスたちも厳しい表情を見せる。

「皆には敵進路上の山中に降下して、その場で敵を迎撃してもらうわ」
 ミィルは簡単な印を書き入れた地図を広げ、駆け足で説明を行っていく。
「ディープディープブルーファングは戦闘能力こそ高い水準であるものの、知性は低く単純で、ケルベロスが立ち塞がっている限り、その撃破を優先させるでしょう」
 武器は機械の触手と、サメ魚雷。どちらも高精度で広範囲に攻撃できるうえ、触手の方には防御魔法陣なども打ち砕く力があるようだが、自己修復機能は搭載していない。此方の強化は難しくとも、敵を弱化させるのには苦労しないはずだ。
「相手は一機、此方は多数。しっかりと連携して、堅実に攻めていきましょう」
 言い含めるように語ってから、ミィルはもう一つ気に留めてほしいことがあると続けた。
「『死神の因子』を植え付けられたデウスエクスといえば、死に際に彼岸花を咲かせ、遺骸が消失――死神に回収されてしまう事例があったのだけれど」
 ディープディープブルーファングは、そういった特性を持ち合わせていないようだ。
 因子が埋め込まれていることに違いはなく、謎は深まるばかりであるが、開花を防ぐための気遣いをせず戦えるのは、むしろ好都合かもしれない。
「事の切っ掛けを作っているらしい女性型の死神や、彼女が別種族であるディープディープブルーファングをなぜ手駒に出来ているのかなど、気になるところは多いけれども。真相究明の足がかりに出来るよう、まずはダモクレスによる虐殺を一つずつ防いでいきましょう」
 ミィルはそう言って説明を終え、すぐさまヘリオンへの搭乗を促した。


参加者
藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)
姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)
佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)
鷹野・慶(蝙蝠・e08354)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)
獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)

■リプレイ


 木々や草花も深い眠りに落ちた頃。
 暗い空から降り立った影は、月の輝きを浴びて魔性を呼び覚ます。
 折れるように少し曲がった角、鏃の如く鋭い先端を備える尾、闇すら掴み取らんとする翼。傍らに羽ばたく小さな従者を従えて、彼方を見やる双眸は金色に煌めく。
 彼の者の名は――。
「ほな、まずは灯りつけて、と……」
 ぱちり。佐々木・照彦(レプリカントの住所不定無職・e08003)の声を合図に、次々と照明器具が働く。
 幾つかの光によって、人ならざる悪しき者かと疑われた影の正体も白いウイングキャット“ユキ”を連れた鷹野・慶(蝙蝠・e08354)だと明らかになった。その表情がやや険しいのは、杖突きの身で草木生い茂る山中に立ったからだろう。
「鮫が山を下りてくるなんてふざけた話だぜ」
「本当に、不思議なこともあるものです」
 いつだって事実は小説よりも奇なり。羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)は慶の呟きに淡々と答えながら、辺りを見回した。
 遠く、街の灯りは僅かばかりで、人々も自然と同じく寝静まっているようだ。
 そしてこれから数時間の後、彼らが健やかな朝を迎えられるかどうかは、ケルベロスの双肩にかかっている。
「死神が何を企んでいようと、人々の虐殺はさせません」
「ええ。グラビティ・チェインの略奪を防げば、死神の狙いも阻めるかもしれません。一つずつ、確実に潰していきましょう」
 翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)の言葉に、フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)が頷く。


 その瞬間、ケルベロスたちは軋むような音と振動を感知した。
「来た!」
 姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)が、身体ごとライトの向きを変えて山頂の方を照らす。
 藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)はおもむろに眼鏡を外し、藤色に灯る瞳で彼方を見やる。
 何かが閃いた。と、感じてすぐ。
 空を泳ぐ鮫は枝葉を触手で薙ぎ払いつつ、その巨体を曝け出した。
「本当に飛んでる!」
「まるでB級映画ね」
 厳しい表情で語る獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)に、無邪気な感想を漏らしたロビネッタも同意を示して銃を取る。
「でも、映画みたいな犠牲者は絶対に出さないよ!」
「当然よ。何のつもりか知らないけど、つまらない脚本ならぶち壊してあげる!」
 また言葉を返した銀子が、怒りと共に噴き出した血で全身を覆った。
 鮮赤は禍々しい紋様と化して全身に刻まれていく。
「その巨体、直ぐに捌いてあげるわ!」
 悪鬼羅刹と見紛う恐ろしげな外見と引き換えに限界以上の力を得た銀子は、二本の片手半剣を構えて、なお哮る。
 しかし彼女が刃を振るうより早く、巨鮫は触手を激しく振り乱す。自然すらも破壊する攻撃は前衛陣を全て巻き込み、罪人を責め立てるように幾度となく打ち付けられた。
「皆さん下がって! ――アメジスト・シールド!」
 猛打を受けながら呼び掛けつつ、フローネが一歩前に出て『菫色のココロ』によるオーラを纏わせた紫水晶の盾を開く。
 広く厚く。己が立つ限り全てを守らんとする意志に庇われ、態勢を立て直す前衛陣に風音が黄金の果実から光を当てれば、幾人かが負った鞭に打たれたような傷は大方消えた。
 反転攻勢。一時の限界を迎えた紫盾が消失すると同時に、まずはロビネッタが早撃ちで仕掛ける。
「中にゾンビ兵とか乗ってませんように!」
 何のことやら。などと思う間もなく弾丸は命中。うねうねと揺れる触手の勢いが微かに弱まる。
 追撃。ルーン文字の刻まれた斧を手に、紺が高々と宙へ舞う。
「ここはあなたの泳ぐ場所でないと、その身にしっかり教え込んであげましょう――!」
 向かってきた触手の間をすり抜けながら刃を振り下ろす。それからすぐ鋼の身体を蹴りつけて飛び退けば、深く傷つけられた巨鮫は追いかけることも出来ず、僅かに沈んだ。
 瞬間、景臣が動く。ロビネッタのように鉛弾を撃ち出すわけでも、紺のように力強く斬りかかるわけでもなく、眠りから叩き起こされた草花をあやして宥めるくらい、細やかに。
 その仕草で起きた僅かな大気の流れは、伝播して巨鮫にまで辿り着く。
 不意に己の身が重くなったのを敵はどう感じたか。恐らく風精の戯れによるものだとは理解できていないだろうが――。
「今や、テレ坊!」
 ともあれ好機を逃さず、照彦が相棒に指示しながら巨鮫との間合いを詰めた。
 テレビウムは下から見上げるようにして閃光を放つ。一方で、照彦はよく見計らって大地を蹴り上げ、摩擦で生じた炎を叩きつける。
「どや!」
 手応えは十分。あとはどの程度の熱を残せたかと見据える照彦の前を、慶が恐鳥の嘴を想わせる戦鎚から撃ち出した砲弾とユキのキャットリングが飛んでいった。
 先に砲弾の直撃。それを受けて、後を追う輪も直撃。
 しかし照彦とテレ坊に負けず劣らずのコンビネーションを見せた慶は、もう一つの厄介な敵――道ならぬ道ゆえの段差やら窪みやら木の根やらを相手に渋い顔を作る。戦闘に支障をきたす程ではないが、それと心の安寧はまた別の話。
「てめえがこんな所に出てくるからだ……!」
 苛立ちを長銃に込めて引き金を引く。敵味方入り乱れる最中、照明があちこちに揺れ動くせいで再び闇の染み入る余地を作り出していた戦場に、一条の光が奔る。
 既に機動力を低下させつつある敵を捉えるのは、スナイパーとして戦場に立つ慶であれば難しくない。光は瞬く間に敵を飲み込み、山頂の側へと押し流していく。
 すぐさま、巨鮫からも反撃の魚雷が無数に撃ち出された。
 それは何処でもいいから当たれと言わんばかりの乱射だったが、巨鮫自体を小型化したような魚雷たちは、それぞれが誰を狙っているか分かるほど針路を明確にして飛んでくる。
 長銃を握ったまま被弾もやむなしと身構えた慶をユキが庇い、まだ仕掛ける瞬間を見定めていた紺は景臣が守った。だが癒し手として動く機会を窺っていた風音と、彼女に付き従うボクスドラゴン・シャティレには盾の守護が及ばず。
「く、っ……!」
 間近で炸裂した魚雷が、一人と一匹の肌を熱と破片で傷つけていく。
「翡翠さん!」
 フローネが声を上げ、歯噛みしながらも溜めた気力を分け与えようと駆け寄った。
 ほんの僅かな隙を突き、盾を広げさせる前に攻勢をかけるとは敵も侮れない。
「すみません……!」
「いえ、もう大丈夫です」
 申し訳無さそうなフローネに短く礼を返して、風音は回復を図っていた小竜へと目配せした後、黒鎖を手にした。
 幸いにも自身が受けた傷は浅く、迅速な治癒のおかげですぐに立ち直ることが出来た。ならば癒し手として、フローネのように盾役を担う者たちをしっかりと支えなければなるまい。
 抉れた土の上に鎖を伸ばし、仲間を守護する魔法陣を描く。それを受けて傷を癒やした景臣が、先ほどとは打って変わって滑るように低く跳び、鋼を鋼とも思わぬ太刀筋で敵の傷痕を広げていく。
「チュン吉、頼むで!」
 続けざま照彦が矢のように撃ち出したのは、ファミリアロッドから変じた雀。
 魔力を存分に籠められた雀は巨鮫の身体に開いた穴へと飛び込み、中を跳ね回って突き抜ける。
 それが相当堪えたのだろう。敵の動きは明らかに大きく鈍り、触手も力なく項垂れてしまった。
「やるないかチュン吉!」
「……よーし!」
 ありったけの弾を喰らわせる絶好の機会だ。
 ロビネッタは狙いを付けると、休みなくトリガーを引く。ともすれば持て余してしまうのではないかと思うくらい大口径の銃から返る反動も気にせず、空にした弾倉へお代わりを飲み込ませて、さらに撃つ。
 5mの巨体とて、鉛弾を雨の如く浴びせられれば目に見える跡が残った。その配置に何某かの意図を感じた者が幾らか居たが、戦いの最中ではアルファベットのRやHだと察することは出来ず。
 そしてユキのひっかき攻撃とテレ坊の凶器攻撃が炸裂した後、のたうつ敵を紺がブラックスライムで包んでしまえば、不格好な文字もどきのことなど思考の彼方。
「これで終わりにしてやるわ!」
 銀子が片手半剣を振りかぶり、猛然と黒塊に襲いかかっていく。


 その刃が下ろされる刹那。
「なっ――」
 しっかりと捕縛していたはずのブラックスライムが裂け、再び姿を現した巨鮫は何本もの触手で銀子を絡め取った。
 最初の乱れ打ちよりは随分と頼りない動きだが、それでも人ひとりを押さえつけ、縛り上げるだけの力はあるらしい。
 四肢を拘束された銀子は剣を掲げた格好のまま、夜更けの山中に宙ぶらりんとなる。
「鮫のくせにっ……魚雷はともかく、何で触手なのよっ……!?」
 思わず悪態をつけば、奴隷を躾けるかのように余った触手が飛んだ。
 二度、三度。しばき上げるという言葉を体現した猛撃は、黒鎖の陣より加護を得ているはずの銀子から容赦なく体力を奪っていく。
「触手ばっかりでジョーズ(顎)は使わないんだね……なんて」
 言ってる場合ではなかった。素早く木々の配置を確かめたロビネッタが、敵に捕らわれた銀子をぐるりと迂回するように跳弾射撃を試みる。
 命中。しかし鮫の拘束は緩まない。
「離しなさい!」
 続けて斧を手にした紺が飛びかかると共に、あくせくと杖を動かして鮫の懐に潜り込んだ慶が戦鎚を思い切り振り上げる。
 下から超重の一撃、上からは強烈な斬撃。精度も高い二人の攻撃は会心の感触を手元へと返す。
 それでも巨鮫は銀子を解放せず、さらに締め付けを強めて――。
「……っ!?」
 どうにか力ずくで逃れられないかと力を振り絞った瞬間、目も眩むほどの輝きが真下から沸き起こり、片腕に絡む触手がぐっと緩んだ。
「こ、ん、のぉぉっ!!」
 渾身の力を振り絞って腕を引き寄せ、銀子は何とか手放さずにいた片手半剣で触手を叩き切る。
 一ヶ所が解れてしまえば、あとは此方のもの。バランスが崩れて地面に落ちていく最中で両足の触手までも斬り捨てた銀子は、着地するなり大きく飛び退いた。
「でかした、テレ坊!」
 照彦が大器晩成撃で仕掛けつつ、相棒を褒めている。どうやら状況を打開する切っ掛けとなったのは、テレビウムの顔面から放たれた光らしい。
 それを理解すると同時に、後方から風音の歌声が聞こえてくる。
 争いで傷つけられた周囲の草花すらも喜ばせるような音色は、瞬く間に銀子の身体から痛みを取り除いていった。
 その間に追い討ちを掛けられることのないようにと、銀子の前に立ちはだかるフローネからも武装化した魔力の一部が流れ、シャティレからの属性インストールも行われ、暴虐の痕跡は僅かに残った肌の赤みだけとなる。
「やられた分はきっちり返させてもらうわよ!!」
 吼える銀子に、テレ坊に抱いた怒りとの狭間で揺れる巨鮫が触手を彷徨わせた。
 が、鮫の主武器は目的を果たす前にぴたりと止まる。
「……」
 酷く冷ややかな沈黙を纏い、景臣が再び風精を呼び寄せていた。
 召喚の触媒となるものを携えた彼の両眼は、じっと、鮫の向こうにいる者を見据えている気がした。


 それが何であるか確かめる暇はなく、敵が触手を振り乱す。
 相手はテレ坊だ。二度受けた閃光が、取るに足らない存在であるはずの小さなサーヴァントを、巨大な機械鮫にとっての最優先目標だと錯覚させていた。
 となれば、同じ隊列で戦う主人の方にも害は及ぶ。
「まあ、そうなるわな!」
 びしばしと襲い来る触手に、照彦がチュン吉を放ちながら喚く。
 すかさずフローネと景臣が間に割り入って、己の身を盾とする。彼らの果敢な献身を支えるべく、風音がすぐに鎖の陣を敷いて、ダメージを最小限に抑える。
「これ以上は絶対に通しません!」
 翠石色をした幅広の刀身にエメラルド・ビームが駆動する剣で触手を裂いて、フローネがそのまま、一片の慈悲もない斬撃を巨鮫へと放てば、景臣もただ通り過ぎるような無駄のない動きで一太刀浴びせて脇を抜ける。
 そこにロビネッタが再度イニシャルのR.Hを刻もうと挑戦。当然のように失敗したものの、大きなダメージを与えて。
「迂闊に現れた報いを受けなさい」
 呟くなり、紺の元から伸びた黒い影が蔦のように巨鮫を絡め取って、残り少ない生命を吸い取っていく。
 その様子を光薄れた陰から見据えて、慶は両眼をより鮮やかに煌めかせた。
 もはや動き回る必要もないと悟ったからか、はたまた機械鮫が果てる未来を一足先に視たか。
「命ず、眇たるものよ転変し敵手を排せ……!」
 真意はさておき、慶は視線を傍らへと落として唱える。
 途端、触手で薙ぎ払われた枝葉が、まるで恨みを晴らそうとするかのように持ち上がった。
 それは奇しくも討つべき相手と同じ姿を成し、牙剥いて喰らいつく。
「さあ、ぶっ飛べっ!!」
 悪鬼羅刹の紋様に秘術を重ねて、大方の理性と引き換えに強大な力を得た銀子が、悶える機械鮫へと飛び乗った。
 そしてひたすらに殴る。殴る殴る殴る殴る殴る――。
 やがて体力的な限界を迎えた銀子が落ちるようにして離れると、待っていたかのように鮫は吹き飛び、跡形もなく消え去った。


 薙ぎ払われた木々や草花を手作業で、或いはヒールを掛けて可能な限りに元へと戻していけば、この場におけるケルベロスの活動にも一区切りつく。
 ようやく肩の力が抜けたか、銀子が表情に安堵を滲ませていた。
 しかし、それも僅かな時間で戦士としてのものに戻る。ひとまず虐殺を防ぐことは出来たが、なぜ巨鮫が放たれたのか、あれを使役した死神の意図は何か、肝心な部分に関しては結局分からず終い。
「不気味ですね」
 景臣は手に付いた土を払って呟き、考え込む。
「因子から花も咲かせず、果たして何を企んでの事なのか……」
「あれ、何個も出とるんやろ? グラビティ・チェイン取る前に潰せたんはええけど、それも織り込み済みっぽいしなー……」
「気になりますね」
 照彦と紺も口々に言って唸る。
「……たぶんだけどね」
 やたら真剣な表情で口を開いたのは、ロビネッタだ。
 視線を集めて息を呑む一同。それをぐるりと見回して、名探偵に憧れる少女はゆっくりと切り出す。
「たぶん、あのサメは……あのサメは、サメ映画好きの人が作ったんじゃないかな」
 どっ、と仲間たち全員が姿勢を崩した。
「それか死神の人がサメ映画好きとか! どう? 当たってそう?」
「あー、当たってんじゃねぇの?」
 スーパー投げやりな返事をして、慶は翼をぐーっと伸ばす。
 小さな欠伸が出た。ドンパチやらかした後で味わう穏やかな空気が、程よい疲れと眠気を催したのかもしれない。
「どうせここで分かることなんてねえんだ、とっとと帰ろうぜ」
「……そうだね」
 銀子が頷き、拳を握りしめた。
 死神の目的や計画が何にしろ、ケルベロスがやることはただ一つ。
「正面から潰す。それしかないよね」
 その時のために、今は身体を休めて英気を養うとしよう。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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