襲来する深く濃い青の牙

■リプレイ

●巨大サメロボット出現！
　まだ夜が明けやらぬ中、埼玉県川越市へと降り立つケルベロス。
　朝早くの出動とあって、メンバーの中にはまだ本調子でない者もちらほら。
「早起きは苦手なんだよ」
　白木蓮の花を髪に咲かせた美青年、月杜・イサギ（蘭奢待・e13792）は顔には出さないものの、ローテンションでかつ機嫌が悪い様子。
　着物姿の葛城・かごめ（幸せの理由・e26055）もまた眠いらしく、ぼんやりした様子でこの場に立っていた。
　そんな中、川越市駅周辺へと巨大なサメの姿をしたロボット『ディープディープブルーファング』が悠然と宙を泳いで現れる。
　死神の因子を受け入れたと思われる巨大ダモクレスは早速、触手を伸ばして暴れ始めていたようだ。
　ケルベロスの中には、そんな敵に目を輝かせる者もいて。
「むむむ、正直あのダモクレス、見た目だけならカッコイイかもしれない」
　ああいう感じのルアーを作ってみたいと、ハリモグラのウェアライダーであるペスカトーレ・カレッティエッラ（ポンコツフィッシング・e62528）は相手の姿を見つめる。
「不謹慎ではあるけど、こういうロボットとの戦いは毎回ちょっとワクワクするんだよね。はぁ、かっこいいなぁ！」
　ライドキャリバー、ディートを連れたヴィットリオ・ファルコニエーリ（残り火の戦場進行・e02033）も、嬉しそうに今回の敵を見上げた。
「ま、デウスエクスならきっちり倒すけどネ！　さー、何を企んでるのか知らないけど、そこまでだぁ！」
　ペスカトーレが叫びかければ、ダモクレスはケルベロスを意識して近づいてくる。
　触手を広げて威嚇してくる巨大な敵を目の当たりにし、イサギもぼんやりとしてもいられず刀に手をかけていた。
「ラッシュ時間になると、近隣が色々面倒だろう。影響が出る前にさっさと片付けてしまおうか」
　まだ周囲が薄暗いこともあって、近辺に人通りは少ない。
　一般人の姿は皆無ではないが、巨大なダモクレスの姿を見てすぐさまこの場を離れていく。
「何のつもりか知らないけれど……。邪魔だし、さっさと消えてもらおうかな？」
　周囲を見回すアビス・ゼリュティオ（輝盾の氷壁・e24467）は仲間から距離を取っていたが、この場から離れようとする一般人を守るべく、仲間が築くダモクレス包囲網へと加わる。
　その包囲網に参加する１人、狼のウェアライダーの白神・楓（魔術管理人・e01132）は、相手を見上げて。
「抵抗も無しに因子を取り込んだのか……。うーん」
「死神はこれを研究と言ってたんだったか。人道に悖る（もとる）っつうのは通じねぇんだろうな」
　唸る楓に、筋肉質な体を持つ大男、鵤・道弘（チョークブレイカー・e45254）が相槌を打つ。
　この状況も死神の掌の上かもしれないと考えれば癪だが、黙って虐殺などごめんだと道弘も怒気をはらみつつ言い放つ。
「壊すしか選択肢がねぇんなら、お望み通りにしてやるよ」
　このダモクレスに死神の因子を植え付け、送り込んできた死神……。
　その狙いは分からないが、今やることはハッキリしていると語る鏑木・郁（傷だらけのヒーロー・e15512）は強い正義感を抱いて。
「被害が出る前に、目の前の敵を倒さないとな」
「そうだね、ゴチャゴチャ考える前にお仕事をしようか」
　郁の呼びかけに応じた楓はまず、相手の弱体化へと動いていくのである。

●暴れ回るディープディープブルーファング
　ケルベロスが包囲している間に、川越市駅周囲には警察隊が出動してくる。
　早朝にもかかわらず、近辺は騒々しくなってきていた。
　その大元の原因となる、サメ型の巨大ダモクレス「ディープディープブルーファング」は狂ったように暴れ、全身から出現させた魚雷をこれでもかとケルベロス達へと向けて発射してくる。
　後方メンバーを狙った射撃だったが、そこは盾役となるメンバーがしっかりとカバーに回っていた。
　ライドキャリバー、ディートを駆るヴィットリオが防御態勢をとる。
　彼は事前に得た敵情報から、魚雷の伴う麻痺が最も警戒すべき対象と考えて対策を取っており、浴びせかける爆炎に耐え切ってみせていた。
「ディープディープ……言いにくいな！　長いし！　ＤＤＢＦ……いや、サメロボでいい？」
　壁を生かして跳び上がったディートが激しくスピンしてダモクレスをひき潰そうとすると、ヴィットリオが続けざまに縛霊手を纏わせた拳で殴り付けていく。
　アビスもボクスドラゴンのコキュートスと共に前線で壁となっていた為、先ほどの魚雷を浴びていた。
　コキュートスが自身の属性を注入することで主の癒しへと当たると、アビスは涼しい顔をして。
「ふーん、その程度？　あんまり大したことないね」
　一旦後方にいるメンバーの付近へとアビスはカラフルな爆発を巻き起こし、仲間の士気を高めていく。
　後方にいた１人、イサギは直接魚雷を食らうことはなかったが、爆風に煽られて態勢を崩しかけてしまう。
「乱暴な目覚ましだね。私を起こすには、それくらいで丁度いい」
　戦いとなったことで、狂剣士としての面を見せるイサギは黒翼を舞わせ、高く飛びすぎぬよう注意しつつ相手へと仕掛ける。
「少し前に死神と闘ったけれど、お前と同じように魚の姿を持っていたよ」
　ただ、その時相手にした死神の図体は今回ほど大きくなかった。
「それに比べれば、どこを狙っても外れる気がしない」
　髪と袖を優雅に翻す彼は瞬きするほどの暇に、目の前の巨大なモノを切り裂いていく。
　直後、道弘も遠方から相手目掛け、ドラゴニックハンマーより発射した轟竜砲を叩き込む。
「相手のヒレを砕けば、それだけで動きを止められるはずだ」
　警察の避難が開始されてはいるが、道弘はできる限りこの場に敵を引きつけようと足止めを意識していた。
　巨大サメロボットの動きがわずかに止まれば、チームの火力となる郁が攻め入る。
「市民を傷つけさせるわけにはいかないな！」
　身振り手振りで攻撃仕掛けるよう仲間に示した郁は竜鎚から砲弾を発射して、相手の足止めを狙う。
　だが、巨大な相手とあって、すぐに目で分かる効果が現れないこともあり、彼はすぐさま次のグラビティを準備していた。
　傷つく前線メンバーには、かごめが癒しに当たる。
　広域に被害が及ぶこともあり、かごめは黒い鎖を地面に這わせて魔法陣を描き、仲間の守護と回復を合わせて行う。
　麻痺を覚える仲間もいた為、彼女はその治療にも動いていたようだ。
「キミのメカとボクのメカ、どっちが強いかナ。試してみようっ！」
　釣り師として、ペスカトーレにとってはこれ以上ない相手。
　意気込む彼はジャマーとして立ち回り、ドラゴニックハンマーの砲弾をルアーに見立てて相手へと撃ち込んでいく。
「よーし、ヒット！　一本釣りぃ！」
　……とはいえ、５ｍ級の巨大サメロボットは激しく抵抗し、簡単にはペスカトーレに釣り上げられてはくれない。
　好機と判断したもう１人のジャマーである楓は、ダモクレスへと人造魔物の失敗作を送り込む。
「ほら、君が抱き締めてあげな」
　楓が呼びかけたそれは、浮遊する首の無い黒い女性の上半身の形をしたモノ。
　冷気を発する魔物は温もりを求め、ダモクレスの体へと張り付いていく。
　体表面の一部を凍らせた敵は激しく暴れて怪光線を発してくるが、それは再度ライドキャリバー、ディートが受け止めることとなる。
「……あのサメロボの背中、飛び乗れるかな？」
　燃え上がるディートがダモクレスに突撃し、ぶつかる直前に跳び上がったヴィットリオは金属で補強した靴「グリッドスコルズ」で強く敵の体を蹴り付けていく。
　ケルベロスの攻撃が繰り返され、少しずつダモクレスも動きを鈍らせてはいる。
　それを確認した道弘は相手の側面部目掛け、ドラゴニックハンマーを叩き込む。
　派手に装甲が破壊されれば、その分内部の機構が確認できる。
　大学では工学を専攻していた道弘は機械にも興味を持っており、できる限りダモクレスの装甲を砕きにかかっていた。

　暁の光が徐々に強くなり、この場で戦うメンバー達を照らしていく。
　その中で暴れるダモクレス「ディープディープブルーファング」のグラビティは、かなりの破壊力を持つ。
　ただ、魚雷以外は広範囲に及ばず、かごめも個別に光の盾を展開させるなどして回復へと当たっていた。
　その最中、寝ぼけたかごめが自身の眠気を取り払おうとヒールグラビティを使いかけたのはご愛嬌である。
　十分、攻撃は通ると判断したペスカトーレは攻撃方法を変えていたが、どうやら考えていたグラビティの用意を忘れていたらしい。
　仲間が氷攻めしていたこともあり、ペスカトーレも合わせてドラゴニックハンマーを叩きつけて相手を凍らせる。
「大時化・スコールなんのその！！」
　さらに、巨大な猫を召喚した彼は、暴れるその猫の攻撃で敵をドロップアウトさせようとしていた。
　だが、ダモクレスも簡単に脱落するまいと、激しく抵抗する。
　大きな体躯にもかかわらず太いメカ触手を器用に操る敵は、的確な狙いでケルベロス達を殴打していく。
　触手の前に飛び出た、アビスの箱竜コキュートスが懸命に抑える後ろ。
「……無駄だよ」
　主のアビスが幾重にも重なる六角形状をした大きな氷の盾を宙へと展開し、自身の箱竜や前線メンバーを癒し続ける。
　直後、敵の攻撃の隙を突いた楓が雷を纏わせた斬霊刀で素早い突きを繰り出し、ダモクレスの装甲を砕いていく。
　気付けば、巨大サメロボットの全身はケルベロスのグラビティによってかなり傷んできている。
　止まることなく暴れてきていたディープディープブルーファングであったが、機能不全の為か目に見えて動きがぎこちなくなっていく。
　自身で、捕縛のグラビティを用意し損ねていたイサギ。
　だが、彼は密かにヴィットリオの縛霊撃を生かし、空の霊力を帯びた日本刀「ゆくし丸」を振るい傷口を切り広げて相手の動きを止めていく。
「もう海には帰れない。鰭（ヒレ）は必要ないだろう？」
　宙を舞うイサギは喰霊刀で相手の胸ヒレを切り裂くと、傷口からは武器に纏わりつく霊体がダモクレスの体を汚染する。
　ダモクレスの最後は近いと察し、体内のグラビティを使う郁が炎を模した巨大な斧を具現化して振り上げた。
「確実に決める……！」
　これだけ大きく、かつ動きを鈍らせた相手。
　完全に敵を捉えた郁はその刃を、相手の横っ腹へと叩き込んだ。
「！！！！！！！！！！」
　これまで以上に、ダモクレスは暴れ狂う。
　全身から火花を散らしたそいつはついに負荷に耐えられなくなったのか、体の中央で爆発を起こして地面へと落下していく。
　ディープディープブルーファングが沈黙したことを確認しに、道弘が歩み寄る。
「何かわかればいいが……」
　彼はその構造を知るべく残骸をチェックしていたが、目新しい情報は得られずじまいだったようだ。
　それを眺めていた楓も死神の因子の鹵獲を目指し、残骸を見回す。
「さっきの爆発で全部吹っ飛んだかな」
　とはいえ、彼女も知っていたとばかりに割り切った態度を見せたのだった。

●コンビニでコーヒーブレイク
　ダモクレスを倒したとはいえ、戦闘の影響は現場のあちらこちらへと残っている。
　楓は花びらのオーラを舞わせて辺りの修復を始めると、ペスカトーレはルアー型のドローンを飛ばして補修活動を進めていた。
　ヴィットリオは白い炎で周囲を包み込んで周囲に生命力を与え、アビスは六角形の大きな氷の盾で破壊箇所を覆って癒しを与えていく。
「駅前なら、叫んでも大丈夫だろ」
　道弘は大きく息を吸い込んで。
「――押忍！！」
　発せされた咆哮弾は破壊された壁に喝を入れ、瞬時に幻想で埋まっていく。
　ヒールグラビティを使うメンバーが多い中、郁は防具の影響で得た怪力を生かしてダモクレスの残骸を撤去していた。
　ワイルドスペースから自己の残霊を召喚したかごめは２人がかりで修復を行い、穴の開いた地面を幻想で塞ぐ。
「これで終わりでしょうか」
　一息ついたかごめが声をかけると、皆、近場のコンビニで一息つこうという話となっていた。
　眠気に耐えかねていた彼女もカフェインをとろうと、仲間に付いていくことにしたのである。

　周囲はすっかり明るくなり、駅周辺には通勤通学の人が散見されるようになる。
　それを目にするケルベロス達は入ったコンビニで、各自飲食物を選ぶ。
　楓はブラックコーヒーと、スイーツにプリンを。ペスカトーレはシャーベット状の飲み物、スムージーを購入していた。
　全員の買い物が済んだところで皆イートインスペースへと集まり、ヴィットリオが話を振る。
「にしても、死神の狙いって何なんだろう」
　今回は事前の話にあった通り、死神の因子を植えつけられたダモクレスが回収されることはなかった。
　この件について、ケルベロス歴半年ちょっとの道弘は活動歴の長い仲間の意見に興味を持っていて。
「死神の因子については、皆の見解を聞きてぇな」
　彼は店で買ったサンドイッチとコーヒーを口にし、合わせて購入したサインペンを握りつつノートを広げる。
「結局、何しに来たんだろうね。あの鮫」
　少し離れた席に座っていたアビスは、回収しないなら因子を植える意味なんてないと思うと話す。
「…………あの鮫型ダモクレス、一体どこの勢力が建造したんでしょうか」
　コーヒーを飲むかごめが少し遅れて、気になったことを発言する。
　死神にダモクレスを建造できるわけはないのだが、かといってダモクレスが死神に戦力提供するメリットも思いつかない、と。
「俺もそれが気になったな」
　郁は早めに販売を開始されていた肉まんをかじり、同意してみせる。
　死神の思惑は勿論のこと、何が目的でこの２勢力が共謀しているのか、彼はこの後調べるつもりとのことだ。
「……うーん、死神とダモクレスの間に協定が結ばれたとかあんのかなぁ」
　楓も推論を語るが、その可能性は高そうだとメンバー達は考える。
「ふむ」
　聞き役となっていた道弘が時折声を上げ、仲間達の気になる点をノートへと整理して書き記していく。
　最後に、家で待つ妹の為のプリンを脇に置き、一緒に買ったコーヒーで眠気を覚ましていたイサギがこんな意味深な疑問を仲間達へ投げかける。
「『死神』は何故、魚の姿を取るのだろうね。海から泳いで来たわけでもなかろうに」
　これにも、何か理由があるのだろうか。
　ケルベロス達はしばし意見を出し合った後、新たな調査や活動の為に店を後にしていくのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年8月23日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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