●
人通りの少ない裏通り。
藤・小梢丸(カレーの人・e02656)は、楽しそうに揚げパンを齧りながら歩いていた。
揚げパンの中身はもちろんカレー。
小梢丸が何より好み、毎日のように食して崇め奉る料理だからだ。
「さて、カレー専門店はどこかな?」
今も、間食にカレーパンを食べながら、夕食に食べるつもりのグリーンカレーがメニューにある専門店を探し歩いているのだから相当である。
しかし。
「あれぇ? こっちのはずなんだけどなぁ」
幾ら歩けど、目当ての専門店に辿り着かない。
「カレーの香りを嗅げば、着くと思ったんだけど」
くんくんと鼻をヒクつかせても、あの郷愁漂うスパイシーな香りは感じられない。
「……ん、この匂いは……?」
それどころか、別の匂いが香ってくる始末。
「……ポークビーンズ」
小梢丸がそう呟いた刹那、
「カレーを喜んで食べる奴など許さーーん!!」
水色の全身タイツと黒いマントに身を包んだビルシャナが、筋骨隆々とした太い翼を振り上げ、殴りかかってきたのだ。
左手にポークビーンズの皿を携えた奴こそが、ポークビーンズ大好きカレー絶許明王F。
そう、ハヤシライス大好きカレー絶許明王Rやビーフストロガノフ大好きカレー絶許明王B、マーボー大好きカレー絶許明王Lに続く、カレー絶許明王最後の1人である。
●
「皆さん、大変であります。藤・小梢丸殿がポークビーンズ大好きカレー絶許明王Fなるビルシャナに襲われると、予知で判明したであります!」
小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)が焦っだ様子で言う。
「急いで連絡を取ろうとしたのでありますが、もしかして既に交戦中なのか、一向に繋がらないであります……」
それだけ、事態は切迫しているという事になる。
「もう一刻の猶予もありません。どうか皆さん、藤殿がご無事なうちに、いち早く救援に向かってくださいませ!」
深々と頭を下げるかけら。
「ポークビーンズ大好きカレー絶許明王Fは、その太く鋭い爪で敵を引っ掻いて攻撃してくるであります」
便宜的に『豚肉引き裂きクロー』と名づけたそれは、頑健性に優れる近距離グラビティ。
敵単体へダメージを与えるのみならず、並々ならぬ破壊力によって、強い威圧感すら齎すという。
「他にも、右手に持った白インゲン豆を投げつけて、敵複数人へ激しい怒りを植えつけるであります」
こちらは『白インゲンスコール』と呼ぶ敏捷に長けたグラビティで、射程を自在にコントロールしてくるそうな。
「また、時折、自作の『トマトたっぷり絶品ポークビーンズ』を食べて、自身の体力回復に努めるようでありますね」
そこまで説明すると、かけらは再び頭を下げて頼み込んだ。
「どうか藤殿をお救いして、ポークビーンズ大好きカレー絶許明王Fを撃破してくださいませ。宜しくお願い致します……!」
参加者 | |
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久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163) |
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550) |
藤・小梢丸(カレーの人・e02656) |
瀬部・燐太郎(ジャックランタン・e23218) |
フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378) |
菊池・アイビス(くろいぬです・e37994) |
天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796) |
九段下・恵弾芽(知らなかった方が良かった・e44590) |
●
裏通り。
「ポークビーンズの普及の妨げになっているカレーは許さん!!」
ポークビーンズ大好きカレー絶許明王Fは、鋭い爪で仇敵を引き裂くべく翼を振り下ろしてきた。
「ついに現れた4人目の四天王。今まで倒してきた奴と比べて……比べて……」
藤・小梢丸(カレーの人・e02656)は、裂かれた腹を抑えて苦しそうに蹲る。
「ていうかポークビーンズというのはどうなのよ。豆と豚しかなかったから惰性で食ってたものをカレーと一緒にするなよ!」
かと思いきや、偏見満載の意見で啖呵を切り、同時に静かに横たわる雄大なインド洋の淵で僕たちは夜明けのカレーを食すを放った。
捕食モードに変形したブラックスライムが、ガバッと大口を開けて明王Fへ喰らいつく。
「くっさ! カレー臭ァッ!!」
「ふはははは、やはりインド洋のほうが強い! ポークビーンズなど目ではない。カレーの完全なる圧勝で終わらせてくれよう」
丸呑みから逃れようとしてもがく明王Fを見下ろし、小梢丸が悪役っぽくせせら笑う。
「少しお腹を空かせておいた方がいいかな?」
何故か残りのカレーパンをもぐもぐ貪り、呟きと矛盾した行動を取るのも小梢丸らしい。
「余所見するとは良い度胸だな!」
通称インド洋からようやく抜け出した明王Fが、憤怒の形相で白インゲン豆を投げつけてくる。
「させるかーーーっ!!」
そこへ、全力疾走してきた相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)が2人の間へ割り込み、小梢丸の代わりにインゲンスコールを受けた。
何せ、ボクシングウェアと膝当てを穿いただけで上半身は半裸という格闘家スタイルをいつ何時も崩さない泰地である。
生の白インゲンがグラビティ特有の高速で泰地の胸板にバラバラと命中する様は、非常に痛そうだ。
——ゴスッ!
だが、泰地は駆けつけた勢いのままに跳び上がり、マッスルレガースを履いた足先から虹の尾流れる急降下蹴りを明王Fの脳天へ浴びせた。
「カレーって色々あるよね日本風インド風、変わり種だと八宝菜カレーとか」
次いで、小梢丸を助けようと現れたのは天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796)。
「しかも美味しいだけじゃなく体も暖まるし、栄養バランスも悪くないよね。何と言っても一番は夏に皆で楽しく海の家で食べるカレーかな」
小梢丸に合わせたのか、はたまた明王への挑発か、蛍は楽しそうにカレーの素晴らしさを語りつつ、小型無人治療機の群れを展開。
小梢丸や泰地の傷を癒すと共に、彼らの守りを固めた。
「明王たちはどうしてこう……自分が至高と思った物以外は全部否定するのかな。視野を狭めるってのは悟りからほど遠いと思うのにね」
フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)は光の翼で飛んでくるなり、相手がビルシャナ——特に絶許明王な為か、至極尤もな意見を述べた。
「一応聞いておくけど何でポークビーンズが良くてカレーは駄目なの? あんまり接点らしい接点はないと思うけど」
とはいえ、小梢丸へ加勢する目的も決して忘れていないフレック。
「……まさか、ただ人気があるから駄目なんて訳の分からない事は……言わないよね?」
「ゲホッ」
言葉に詰まる明王Fをジト目で睨みつつ半透明の『御業』に炎弾を撃たせて、明王を焼き捨てる勢いで燃え上がらせた。
「はいはいカレー絶許カレー絶許」
一方。久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)は絶許明王に食傷気味なのもあって、呆れた風に溜め息をつく。
「え、説得しなくていいの? 叫ばなくていいの? 倒すだけでいいの?」
ガイバーン・テンペスト(洒脱・en0014)から今回は信者を説得しなくていいと改めて聞いて、驚いている様が微笑ましい。
「というかカレーと致命的に相性悪い食べ物とかならいざ知らず、ポークビーンズでわざわざカレーを否定する必要があるのかと」
それでも生来のツッコミ気質がたたってか、息をするようにポークビーンズ教の存在意義へツッコミを入れずにいられない航。
「カレーは豆だろうが海老だろうが割と何でも受け入れるのにな……まぁ明王相手に今更か」
そう呟くと日本刀を閃かせ、彼が好きな月の輪郭の如き緩やかな弧を描いて、明王Fの下腹をかっ捌いた。
「世間は世知辛いが、香辛料の効かない人生も味気ない。カレーは、俺たちに人としての生き方を教えてくれる」
他方、瀬部・燐太郎(ジャックランタン・e23218)は、小梢丸にも負けないカレーへの心酔ぶりを豊かなボキャブラリーで披露。
「カレーをこよなく愛する者として、ポークビーンズ派の謀略、見過ごすわけにはいかない。これは、全てのカレー好きに捧げる戦いだ!」
出来立てのカレー以上に熱く闘志を燃やし、明王Fへ突撃した。
「さあ、ココ一番の頑張りどころだぜ」
仲間を励ます傍ら、燐太郎がグラビティ・ダイスに具現化させるのは、惑星レギオンレイドを照らす『黒太陽』。
「ゴー! ゴー!」
絶望の黒光を照射して明王Fを苦悶させ、その動きを鈍らせた。
「小梢丸ちゃーん助太刀すんど」
菊池・アイビス(くろいぬです・e37994)は、緊張感のない呼びかけと共に縛霊手の祭壇を開放。
「カレー専門店かいね、ええのう。同じ師団のよしみやけ、こいつぶち殺して一緒さしてえな」
景気良く人型の紙兵を後衛陣へ向けて振り撒き、仲間の異常耐性を高めた。
「ポークビーンズポークビーンズ……あれか。そいやあ給食でとったのう。影薄いけ忘れとったわ」
ついでにさらっとポークビーンズをディスって明王Fの神経を逆撫でする辺り、アイビスの踏んだ場数の多さも窺える。
「それにしてもカレー絶許明王っていっぱいいるんですね。もう、これ以上でてこないですよね? ね?」
九段下・恵弾芽(知らなかった方が良かった・e44590)は、誰もが気になっていそうな疑問を小梢丸へ尋ねて、あからさまに目を逸らされていた。
「実は5人目の四天王、肉じゃががいるとかなんとか……しかも、やつはカレーが起源だから油断できない」
それでも、カレーパンを食う合間に独り言めいた返事を貰えたのだが、思わず空耳を疑いたくなる内容だった。
「いやぁ、四人で終わりと思わせておいて、どーせ五人目の四天王が現れるとか、真四天王とか超四天王とか四天王ゴッドとか出てくるんじゃねーのかなー」
「た、確かに」
また、小梢丸と付き合いの長い師団仲間の航が朗らかに笑ってみせたのもあって、ますます5人目の四天王潜伏説が濃厚となり、頷かざるを得ない恵弾芽。
「と、とにかくカレーの人を助けましょう! とりあえず当てないことには始まらないので」
よっこいしょ、と気を取り直して恵弾芽が取り出したるはドラゴニックハンマー。
「ドラゴニックハンマーを持ってきました」
そして、砲撃形態に変じたハンマーから竜砲弾を景気良く乱射。
「轟竜砲ファイヤー!」
絶許明王Fを容赦なく炎に包んで焼き尽くした。
●
戦いは続いた。
「おらっ!」
あえて怒りを煽るべく、明王Fの顔面を足裏で蹴りつけるのは泰地。
足裏を明王の顔面へ押しつけ、ぐりぐり力を込めて痛みのみならず屈辱感をも与えた。
「そういえば泰地さんは四天王退治のときにいつも来てくれてたね……はっ! 駄洒落じゃないよ!」
小梢丸がくだらない事を言いつつカレーを食べていられるのも納得の、泰地の気勢である。
「スリランカに行って、辛い緑のカレーもミルクライスに魚カレーをかけた甘いカレーもどっちも食べたけど、どっちも美味しかったな」
蛍は独立機動砲台の照準を合わせながらも、やはり皆に感化されてか考えるのはカレーの事だ。
撃ち出された時空凍結弾が明王Fの胸を真っ直ぐ貫いて、その刹那、奴に流れる時を凍てつかせた。
(「つくづく思うんだけど……こうしたこだわりは何処から生まれるんだろうな」)
明王Fの弱点やどの属性に強いか見極めようと目を光らせているのはフレック。
(「人によって価値観は確かに違う。あたしだってそれぞれの同輩へ合った料理について悩んだりもしたし」)
すらりと抜き払った魔剣「空亡」に自らのグラビティを共鳴させる傍らも、物思いは尽きない。
(「だとするならこれは悟りではなくて唯の狂信。其処に未来はない」)
だが、時空間『ごと』明王Fの翼を斬り裂いた時、フレックの腹は決まっていた。
「……貴方達は本当にそれでいいの?」
フレックの鋭い問いかけが、ビルシャナたる絶許明王Fの胸に突き刺さる事はない。
けれども、時刻みが明王を物理的に痛めつけたのは確かである。
「無論だ……ポークビーンズが世界の食卓を席巻する日は必ず来る……今も少しずつポークビーンズを愛する同志があちこちで目覚めている筈だ」
爪を剥いて斬りつけてくる際の主張も、半分以上妄想が入っているのではないかと思えるほど弱々しい。
それだけ明王Fが体力を消耗し、表面上は堪えていても痛みで頭が回っていない証拠だろう。
「お前の主張なんぞ知るか!!」
航はある意味誰もが言いたいだろう思いの丈、魂の叫び、偽らざる本音を、エンブレムミーティアからヒントを見出して会得した流星牙と共に、明王Fへ叩きつける。
「いやぁいつか言ってみたかったんだ! 一般人の信者がいる時はまさかこんな事言うわけにもいかないからさ」
紋章の力を借りた神速の突き攻撃も明王Fへ綺麗に命中して、大層気分良く笑う航である。
「成程……貴様は豚と豆で力を増すのだな!」
その傍ら、絶華は絶許明王Fへポークビーンズに代わる至高の逸品を食べさせようと息巻く。
「喜べ! 此処に豆を徹底的に強化及び10000%濃縮させた上、豚肉よりもパワー溢れる漢方を交えた究極のチョコがある!」
そう。それは彼の狂気の産物としか思えない手作りチョコ。
「その素晴らしい肉体を持つ貴様なら! このカカオ豆の申し子であるチョコで圧倒的なパワーを得られるはずだ」
と、無理矢理明王Fの嘴をこじ開けて、『心に込もるバレンタインチョコレート』をねじ込みねじ込みする絶華。
「御代は要らない! 体と心から溢れる圧倒的なパワーで歓喜の叫びをあげるがいい!!!」
「おごごごゲぐギゃがぁァァあァあアぁ!!?」
絶華の自信溢れる気遣いと裏腹に、口内でも胃の中でもグラビティで自律機動するチョコ——否、何よりもその筆舌に尽くしがたいクソ不味さへ苦しむ明王F。
「……歓喜の叫び??」
「いやいやどう考えても断末魔の絶叫だろ!」
思わずフレックと航がツッコむのも無理はなかった。
「……あれ? ……漢方とチョコが足りなかっただろうか」
ひとり首を傾げる絶華もいつも通りの趣だ。
「この状況、例えるなら俺がルウでお前は白米だ。炊きたてホカホカのな……」
グラビティによって空間を歪ませ、攻撃を逸らす球状バリアを裏返して形成するのは燐太郎。
障壁内に充満した『空間のねじれる力』によって明王Fの身体を引き裂き、少なくないダメージを与えた。
ちなみに燐太郎自身はポークビーンズも捨てがたく思っているのだが、相手がデウスエクスたるビルシャナである以上情けをかけまいと思い極めているようだ。
「すまん。ついでに思い出したんやが……給食で唯一おかわりせんかったんもポークビーンズじゃったわ」
アイビスは明王Fの隙を突いて手刀を放つ際に、ニヤリと口角を上げて精神攻撃をも付け加える。
指先に宿った細い帯状の螺旋力が明王へ接触する寸前、針の如く鋭く尖って奴をより鋭利に刺し貫いた。
「お豆に対するこだわりは負けていませんよおおお!」
ゴゴゴゴと地鳴りが聞こえそうなぐらいに力みかえって、精神を極限まで集中させるのは恵弾芽。
「そこは枝豆でしょう!」
彼女にとっての真理を口に出した瞬間、ドカンと明王Fのインゲン豆抱える左腕を触れずして爆発させた。
「豚肉とお豆が入っていたらポークビーンズですか!? ならばなんで枝豆が入っていないんですか!」
ついでに恵弾芽の怒りも爆発したようで、インゲン豆への並々ならぬ対抗心を燃やしている——が、実のところカレーはどうでも良かったりする。
「あ、でもタマネギはいりませーん」
そして、鬱陶しい兄を思い出すせいか、タマネギは嫌な顔をしてしまうぐらい苦手なのだとか。
「う〜ん、この芳しい香り、さすが芳醇」
小梢丸は、使うとカレーが香り高くなるらしい攻性植物——その名も芳醇を、うっとりとした面持ちで絶許明王Fへ嗾ける。
蔓草の繁みの如き『蔓触手形態』に変貌した芳醇が、ポークビーンズ明王の筋肉質な胴回りへにょろにょろと絡みつき、そのまま全力で締め上げる様は凄まじいものがあった。
「ぐふぅっ……!」
小梢丸がカレーの事ばかり考えている間に、とうとう地面へ倒れ臥し、苦しそうに土を爪で掻き毟る明王F。
「おのれ……覚えておけよ……例え私が敗れようとも、必ずや第五、第六のカレー絶許四天王が現れる事を……!」
それが、ポークビーンズ大好きカレー絶許明王Fの最期の言葉であった。
「……」
恵弾芽と航が小梢丸を見やるも、当人は我関せずといった風情でカレー——いつのまにかパンではなく、どこから調達したのか紛れもないカレーライスに変わっている——を食べていた。
●
小梢丸の当初の予定通り、カレー専門店へ辿り着いた一行。
早速、航はお薦めの三色タイカレーとナンのセット、飲み物にラッシーを注文した。
「辛っ!」
最初に食べたグリーンカレーの強烈さには思わず悲鳴をあげるも、
「あ、レッドカレーは同じ辛さでも旨みが感じられるお陰で味わい深いな……イエローカレーは、何というか辛さがマイルドで食べ易いな」
次第に辛味へ舌が慣れてきたのか、三色の食べ比べを楽しんでいた。
「グリーンカレーも慣れるとスパイスの刺激がクセになりそうな感じだな」
「そうね。青唐辛子は辛味だけでなく酸味も魅力的だし」
航へ頷くフレックも、彼と同じ三色タイカレーをライスにかけて食べている。
「カレー専門店のプロフェッショナルの技術の粋……是非とも堪能してみないとねっ」
三色カレーはどれも、ココナッツミルクの風味を損なわず、パクチーやレモングラスなどのスパイスや唐辛子の辛さを重ねて、絶妙なハーモニーを奏でていた。
「このグリーンカレーは青唐辛子を複数ブレンドしているみたいね。プリッキーヌだけじゃ日本人には辛過ぎるから、ハラペーニョを混ぜて辛さを抑えているのかもしれないわ」
料理が趣味のフレックは、三色の中でも一番辛いグリーンカレーの拘りを探ろうと、真剣な表情で食べ進めた。
「カレーの懐は深い。ビーフカレーは言わずもがな、ハヤシカレーも豆カレーもマーボカレーも世の中にはあるからな。それだけカレーの器は広いってことだ」
カレーに詳しい泰地は、カレーがいかにバリエーション豊かで幅広くアレンジ可能かを語りつつ、自分では敢えてハヤシカレーを頼んでいた。
カレーの懐の広さにかかれば、『カレーVSハヤシ論争』をハヤシを取り込み合体する事で収める事ができる——そんな主張のためかもしれない。
現に、レッドカレーとはまた違うトマト由来の深い赤みが美味しそうなカレーデミソースは、カレーの複雑なスパイシーさとハヤシ特有のトマトを始めとした野菜や肉の甘みが合わさって新たな魅力を作り上げていた。
「はい! わたしは豆カレーをいただきます!」
泰地の演説に触発されたのもあってか、恵弾芽は瞳をキラキラさせて、運ばれてきた豆カレーと向かい合う。
豆カレーには、茹でた枝豆は勿論、そら豆、レンズ豆、ひよこ豆、ムング豆と具材は豆のオンパレード。
「ああ、美味しい……これだけのライバルに囲まれながら負けずに存在を主張している枝豆は流石ですね!」
どれも個別に茹でたり煮てからカレー鍋へ投入された豆達の食感は良く、恵弾芽も大絶賛の味と食べ応えであった。
「そうだな。まずはビーフカレーとイエローカレーを下さい」
燐太郎は最初から2杯のカレーを同時に食べ比べるべく注文。
「うん。どっちも旨い旨い……」
どうやら戦闘中倒れそうになるほど空腹へ耐えていたらしく、物凄い勢いで皿を空にしていた。
「タイカレーは水分が多めなんだな。スープカレーと食べ比べしても面白いかもしれない」
健啖家である燐太郎にとって、好き嫌いの激しい偏食家たるポークビーンズ明王は、やはり元より相容れない存在だったようだ。
「ふんふん。みんなのお薦めは、三色カレーに、ハヤシカレー、豆カレー、ビーフカレーか……本当、種類が多くて迷っちゃうな」
蛍は、仲間達が選んだカレーを参考にメニューと睨めっこした結果、
「じゃあ、私はレッドチキンカレーにしてみよっと」
三色の中では甘めの唐辛子が使われていてとっつき易い、レッドカレーに狙いを定めた。
「ワシグリーンカレーすっきなんじゃが、いやー、イエローもレッドも円やかでうまいわ」
アイビスはビール片手に三色カレーを食べて上機嫌。
「恋人連れてもっかいこよー」
と呟いている表情も優しい。
さて、当の小梢丸はというと、
「あ、この端から端まで持ってきてください」
開いたメニューのカレー列を指して、まさかのセレブ注文をしてのけた。
「三色カレーだけで満足すると思ったら大間違いだ―」
小梢丸の胃が心配だが、あくまで本人は幸せそうにポークカレーから食べ始めている。
作者:質種剰 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年10月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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